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関連審決 取消2018-300722
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事件 令和 2年 (行ケ) 10113号 審決取消請求事件
5
原告X
同訴訟代理人弁護士 岩波修 10 被告 ボーストブランズ グループ,エルエルシー
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/01/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が取消2018−300722号事件について令和2年5月12日にした審決を取り消す。
15 2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
20 主文同旨
当事者の主張
1 請求原因 別紙訴状及び原告第一準備書面の各第2に記載のとおり。
当裁判所の判断
25 1 被告は,適式な呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書そ の他の準備書面を提出しないから,請求原因事実を争うことを明らかにしない 1 ものと認め,これを自白したものとみなす。
2 商標法50条1項は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使 用権者又は通常使用権者のいずれもが指定商品等についての登録商標の使用を していないときは,「何人も」その指定商品等に係る商標登録を取り消すこと 5 について審判(以下「不使用取消審判」という。)を請求することができる旨 を定めている。同項は,不使用取消審判の請求人資格について,平成8年法律 第68号による改正前の商標法においては利害関係人に限られると解されてい たのを,「何人も」請求することを明文化したものであると解される。
したがって,不使用取消審判の請求が,専ら被請求人を害することを目的と10 していると認められる場合等の特段の事情がない限り,当該請求が権利の濫用 となることはないというべきである。
以下,これを前提として判断する。
3(1) 前記1により擬制自白が成立した事実によれば, ア 原告及び原告が設立したBoast,Inc.(以下「ボースト社」と15 いい,原告及びボースト社を合わせて「原告ら」という。)は,昭和48 年(1973年)に米国フロリダ州で「BOAST」ブランド(以下「B OASTブランド」という。)の事業を立ち上げ,高級スポーツ衣類を, 主として米国内のスポーツクラブ(ゴルフ,テニス,スカッシュ等),カ ントリークラブ,リゾート施設,スポーツチーム,その他企業に販売して20 きたが,平成22年(2010年)にBranded Boast,LL C(以下「ブランデッドボースト社」という。)に対し,米国内でのBO ASTブランドに係る事業を売却し,これに伴い保有していたBOAST ブランドに係る米国登録商標も同社に譲渡し,他方で,米国を除く日本そ の他のアジアの国におけるBOASTブランドに係る登録商標を引き続25 き保有し,米国を除くこれらの国々でBOASTブランドに係る事業を行 う権利を留保していた, 2 イ その後,原告らとブランデッドボースト社との間で,米国及びその他の 国でのBOASTブランド事業の取扱いに関する紛争が生じたが,平成2 7年(2015年)11月4日,フロリダ州南部地区連邦地方裁判所で, @原告らは,「BOAST」の商号で「BOAST」商標を付した商品を 5 米国外で自由に販売することができることを確認し,Aブランデッドボー スト社は,世界中でボースト社又は原告によるその他の登録により保護さ れる原告らの商号権及び商標権を妨害しない旨を含む合意をした(以下, この合意を「本件和解契約」という。), ウ 被告は,平成29年(2017年)10月3日,ブランデッドボースト10 社より米国内のBOASTブランド事業を買収し,これに伴い同社が保有 する米国のBOASTブランドに係る登録商標の移転を受けた, エ 被告は,平成29年(2017年)12月頃,原告に対し,原告が保有 する本件商標を含む日本及びその他の国のBOASTブランドに係る登 録商標の買取りを打診し,平成30年(2018年)2月15日付けで,15 原告らとの間で,上記商標の買取り交渉を目的として,秘密保持・不使用 契約を締結した上,上記商標の買取りについて協議をしていたが,合意に 至らず,平成30年(2018年)3月以降,協議は中断していた, オ 被告は,平成30年(2018年)9月,特許庁に対し,本件商標を含 む,原告が保有するBOASTブランドに係る日本の4つの登録商標につ20 いて,不使用取消審判請求(以下「本件審判請求」という。)をした, 以上の各事実が認められる。
(2) 上記各事実によれば,被告は,ブランデッドボースト社を買収した後,本 件審判請求に及ぶ直前まで,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む 日本及びその他の国のBOASTブランドに係る登録商標の買取りについて25 協議をしていたが,協議中断の数か月後に本件審判請求に及んだものである。
こうした経緯に加え,被告は,本件審判請求における手続において,原告 3 が,「2017年10月3日,請求人は,ブランドボースト社(当審注:ブ ランデッドボースト社のこと)より,同社の「BOAST」ブランド事業を 買収し,同社が保有する米国「BOAST」登録商標の移転を受けた(乙1)。
したがって,請求人は,被請求人が保有する日本「BOAST」登録商標に 5 干渉しない義務を含む,本件和解契約に基づく義務を履行する責任を負う」, 「また,請求人は,本件和解契約に基づき,日本「BOAST」登録商標に 係る被請求人の権利に対する干渉を行ってはならない義務を負う」旨主張し たのに対して,具体的に弁駁していないことは記録上明らかであり,また, 本訴における原告による同旨の主張についても反論していないことからする10 と,被告は,ブランデッドボースト社から米国内における「BOAST」事 業を買収するに際して,原告らと同社との間では,同社が,世界中でボース ト社又は原告によるその他の登録により保護される原告らの商号権及び商標 権を妨害しない旨の本件和解契約に基づく義務を負担しており,上記買収に より被告も同義務を履行する責任を負うことを認識しながら,これを前提と15 して,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む日本及びその他の国の BOASTブランドに係る登録商標の買取り交渉をしていたものと認められ る。
そうすると,被告は,原告との間で,原告が保有する本件商標を含む日本 及びその他の国のBOASTブランドに係る登録商標の買取り交渉が頓挫す20 るや否や,原告が保有する商標権を妨害してはならない旨の上記義務に反す ることを知りながら,本件商標の取消しを求めて本件審判請求に及んだもの と認めるのが相当である。
したがって,本件審判請求は,金銭的負担をすることなく本件商標を使用 することを企図し,取消審判制度が何人も申し立てることができることに藉25 口して,専ら原告を害する目的でしたものと認められるから,権利の濫用に 当たるものというべきである。
4 4 以上によれば,原告主張の取消事由は理由があるから,これと異なる本件審 決の判断は取り消されるべきである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 菅野雅之