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関連審決 不服2021-4776
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事件 令和 3年 (行ケ) 10148号 審決取消請求事件
5
原告 株式会社エレファント
同訴訟代理人弁護士 成川弘樹
同訴訟代理人弁理士 大崎絵美 10 同訴訟復代理人弁護士 藪木健吾
被告特許庁長官
同 指定代理人石塚利恵
同 佐藤松江 15 同山田啓之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/04/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
20 第1 請求 特許庁が不服2021-4776号事件について令和3年10月18日にし た審決を取り消す。
第2 事案の概要 1 特許庁における手続等25 原告は、令和2年7月2日、別紙1の1の商標について、指定商品を第3 類、第5類として、商標登録出願(商願2020-081925号(以下「本 1 願」という。 )をした。
) 原告は、同年8月21日付けの拒絶理由通知を受けて、同年9月18日付 けの手続補正書により指定商品を別紙1の2のとおり補正した(以下、手続 補正後の商標を「本願商標」という。)が、令和3年1月18日付けで拒絶査 5 定を受けたため、同年4月13日、拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は、前記請求を不服2021-4776号事件として審理し、令和 3年10月28日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本 件審決」という。)をし、その謄本は、同年11月2日、原告に送達された。
原告は、令和3年11月29日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提10 起した。
2 本件審決の要旨 本件審決の要旨は、本願商標は、商標法4条1項11号に該当するものであ るから、商標登録を受けることができないというものであり、その理由は、以 下のとおりである。
15 本願商標は、別紙1の1のとおり、下段部分に「nico」の欧文字(「o」の 文字の内側には、目と口と思しき図形を配し、該文字の上側にはサボテンと 思しき図形を配した態様にデザイン化されてなる。)が、大きく、水色の手書 き風の太字で横書きされ、上段部分に「natural baby soap」の欧文字が小さ く(高さは「nico」の文字の7分の1ほどである。 、水色の手書き風の細字 )20 で「nico」よりもやや狭い幅の範囲内で、上側に円弧状に湾曲する形で配置 された構成からなるものである。
そして、本願商標の上段部分の「natural baby soap」の文字は、「無添加 の赤ちゃん用石けん」程の意味合いを看取させる語であるところ、本願の指 定商品中、第3類「せっけん類」及び第5類「医療用せっけん」との関係に25 おいては、商品の用途及び品質を表したものと認識されるから、該文字は自 他商品の識別標識として機能しないもの、又はその機能が極めて弱いものと 2 いえる。他方で、本願商標の下段部分の「nico」の文字は、一般的な辞書類 に載録されておらず、特定の意味合いを想起させる語として知られているも のとは認められないところ、本願の指定商品との関係においては、例えば、
商品の品質を表すなど、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないと 5 みるべき事情は見いだせない。
したがって、本願商標の下段部分の「nico」の文字が太字で大きく表され、
視覚的に強い印象を与えることも相まって、商品の出所識別標識として、取 引者及び需要者に対し強く支配的な印象を与えるといえるから、該文字を要 部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標の類比判断をすることは10 許される。
そして、本願商標は、その構成中の要部である「nico」の文字に相応して 「ニコ」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
引用商標は、別紙2の1のとおり、
「NICO」の欧文字と「ニコ」の片仮名 とを上下二段に表してなるところ、下段の片仮名は上段の欧文字の読みを示15 すために付加表記したものと理解されるものである。そして、
「NICO」及び 「ニコ」の文字は、一般的な辞書類に載録されておらず、特定の意味合いを 想起させる語として知られているものとは認められないことからすれば、特 定の観念を生じさせないものとして看取、把握されるものとみるのが相当で ある。
20 そうすると、引用商標は、その構成全体に相応して、
「ニコ」の称呼を生じ、
特定の観念を生じないものである。
ア 本願商標と引用商標の類否について検討すると、本願商標の要部である 「nico」の欧文字と引用商標の「NICO」の欧文字とは、
「o」の文字のデザ イン化の有無や大文字と小文字の差異はあるものの、つづりを同じくする25 ものであり、また、引用商標の片仮名部分は欧文字の読みを示すために付 加表記したものであるから、看者に対して強い印象を与えるものではなく、
3 両者は外観において近似した印象を与える。
また、両者は称呼において「ニコ」の称呼を共通にし、観念において比 較することができない。
そうすると、本願商標と引用商標は、観念において比較できないものの、
5 外観において近似した印象を与え、称呼を共通にするものであるから、こ れらを総合勘案すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標であると いえる。
イ 本願の指定商品中の第3類「せっけん類、化粧品、香料、薫料、洗濯用 洗剤、香料用及び香水用油」は、引用商標の指定商品である第3類「愛玩10 動物用シャンプー、その他のせっけん類、愛玩用動物用化粧品、その他の 化粧品、エッセンシャルオイル、芳香水、ペット用芳香剤、その他の香料 類」と同一又は類似する。
以上によれば、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、その 指定商品も引用商標と同一又は類似の商品について使用するものであるから、
15 商標法4条1項11号に該当する。
3 取消事由 本願商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り 第3 当事者の主張 1 原告の主張20 本願商標の要部について 本願商標は、
「nico」の欧文字を水色の手書き風の字体で表現し(以下、こ の部分を「下段文字部分」という。 、
) 「o」を顔の輪郭に見立ててその内側に 目及び口の図形を水色で配し、 の上側にサボテンの図形を水色で配し 「o」 (以 下、この部分を「イラスト部分」といい、下段文字部分と総称して「下段部25 )「nico」の上部に「natural baby soap」の欧文字を小さく水色 分」という。、
の手書き風の字体で円弧状に配置した(以下、この部分を「上段部分」とい 4 う。)構成からなるものである。
本願商標の上段部分は、
「無添加の赤ちゃん用石けん」程の意味合いを看取 させるものであって、本願商標の指定商品との関係で自他商品識別機能が弱 い。他方で、本願商標の下段部分は、上段部分と比較して太字で表されてお 5 り、かつ、極めて特徴的なイラスト部分が欧文字「o」と一体不可分に配され ているが、以下のとおり、本願商標の要部は、本願商標の下段部分の全体で ある。
ア 本願商標の下段部分は、下段文字部分とイラスト部分からなるものであ り、下段文字部分とイラスト部分は、いずれも同色かつ同様の手書き風で10 表されており、視覚的にまとまりよく一体的な印象を強く与えるものであ る。また、本願商標の下段文字部分である「nico」という欧文字は、一般 的な辞書に載録されておらず、当該文字単体では明確に特定の観念を生じ ないものであることは否定することができないが、そこから生じる称呼 「ニコ」と、笑顔のイラストから生じる観念とは「にこにこ笑う」等の共15 通した印象を与え得るものであり、看者は、下段文字部分とイラスト部分 とに一定の繋がりを見出すことができる。
そうすると、本願商標は、その下段部分全体として「にこにこ笑う」等 の観念上の印象を与えるものであり、下段文字部分とイラスト部分は分離 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合20 しているといえる。
イ 本願商標の下段文字部分「nico」はありふれた一般的な語とまでは断じ ることができないとしても、必ずしも識別力が強いとまではいえない。す なわち、本願商標の指定商品について「石けん類、化粧品、香料、薫料、
洗濯用剤、香料用及び香水用油」に限っただけでも、本願商標及び引用商25 標の商標権者が製造及び販売しているものを含め、「nico」ないし「ニコ」 という文字を含む商品が多数存在しており、商品名中「nico」という文字 5 のみをもって必ずしも取引者及び需要者の注意を惹くものではない。また、
本願商標の指定商品に限らず、
「nico」の文字列又は「ニコ」の称呼を含む 商標を検索すると、出願商標又は登録商標は合計30件あり、
「nico」ない し「ニコ」の名称がつけられた商品名、サービス名は多数存在する。この 5 ように、
「nico」ないし「ニコ」という文字は、造語といえども、ことさら 独創的とまではいえない語であり、取引者及び需要者に対して強い印象を 与えるものではない。
他方で、本願商標のイラスト部分は、手書きで創作されたものであり、
独自性を有するものであり、特に、サボテンのイラストを髪の毛として表10 現することは一般的ではない。本願商標のイラスト部分において用いられ ているウチワサボテンは、円筒形又は小判型の茎節をいくつも連ねた特殊 な形状をしており、本願商標のイラスト部分においても1つの茎節から2 つの小さな茎節が連なり、小さい茎節のそれぞれから更に小さい2つの茎 節が連なっている特殊な形状が表現されており、当該形状は、サボテンを15 模したものか否かにかかわらず、髪型の形状として採用することも一般的 ではなく、極めて特異なものである。
加えて、顔のイラストのみからなる商標が多数登録されており、顔のイ ラストは単独でも一定の出所識別機能を有するものであるから、本願商標 のイラスト部分は、取引者及び需要者の注意を強く引き付けるものである20 し、また、観念を生じさせない下段文字部分と比較して、観念が生じるイ ラスト部分は、出所識別標識として直感的に強い支配的な印象を与え得る。
ウ 以上によれば、本願商標は、下段部分の構成部分である下段文字部分と イラスト部分が、それらを分離して観察することが取引上不自然であると 思われるほど密接不可分に結合しており、本願商標の下段文字部分のみが25 取引者及び需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を 与えるものではなく、本願商標の下段文字部分以外の部分から出所識別標 6 識としての称呼観念を生じ得るものであるから、本願商標の下段文字部 分を要部として抽出して引用商標との類否判断することは許されず、下段 部分全体が本願商標の要部として引用商標との類否判断をすべきである。
引用商標について 5 引用商標は、
「NICO」の欧文字と「ニコ」の片仮名とを同じ文字サイズで 黒色のゴシック体様で上下二段に表され、
「ニコ」は「NICO」の読みに対応 しているところ、
「NICO」及び「ニコ」の文字は、一般的な辞書に載録され ておらず、特定の意味合いを想起させる語として知られているものではない から、特定の観念を生じさせない。
10 そうすると、引用商標は、その構成全体に相応して「ニコ」の称呼を生じ、
特定の観念を生じさせない。
本願商標と引用商標との類否について ア 称呼について 本願商標の下段部分からは、下段文字部分の「nico」に相応して「ニコ」15 の称呼が生じるから、本願商標と引用商標の称呼は共通する。
外観について 本願商標の下段部分は、極めて特徴的なデザインのイラストを有する顕 著な特徴を備えたものであるのに対し、引用商標の「NICO」の欧文字は、
大きく目を惹く特徴を備えているとはいえないから、両者は外観において20 著しく異なる。
また、本願商標の下段部分は、@全体的に手書き風の字体が用いられ、
A笑顔のイラストが含まれており、B「n」「i」「c」の文字の端部が丸み 、 、
を帯びていて、かつ、
「n」「i」「c」「o」の全てが丸みを帯びた形となっ 、 、 、
ているため、全体として丸み、柔らかさ、ナチュラル感、素朴感、親近感25 等の印象を与えるものであるのに対し、引用商標は、@全体的にゴシック 体様の機械的な字体が用いられ、A「N」 「I」 「C」 「ニ」「コ」の文字 、 、 、 、
7 の端部は角ばっており、B「N」「I」「ニ」「コ」は直線で構成されてい 、 、 、
るため、商標全体として直線的、機械的、硬さ、距離感等の印象を与える ものであり、本願商標と真逆の印象を与えるものである。
このような外観上の差異は、離隔的観察のもとでも称呼における類似性 5 をしのぐほどの差異を取引者及び需要者に印象付けるものである。
観念について 本願商標のイラスト部分は、「笑顔」 「ほほ笑み」等の観念を生じさせ、

また、下段文字部分の「ニコ」の称呼と相まって下段部分全体として、取 引者及び需要者に対し、
「にこにこ笑った顔」といった観念上の印象を与え10 るものである。これに対し、引用商標は、特定の観念を生じさせないもの であるから、本願商標と引用商標は、取引者及び需要者に対し、異なる観 念を与えるものであって、観念において非類似である。
取引の実情について 本願商標を付した原告の商品は、平成29年5月に販売が開始され、令15 和3年12月末日まで111万8048個が販売されており、原告が当該 商品について問い合わせを受けた件数は合計17万3317件に上ると ころ、現在までに本願商標と引用商標その他第三者の商標と混同したよう な内容の問い合わせ等は一切受けていない。このことは、本願商標に接し た取引者及び需要者は、本願商標と引用商標の称呼が共通していても、外20 観及び観念の相違から誤認混同を生じていないことを示すものである。
小括 以上によれば、本願商標と引用商標は称呼が共通するものの、外観及び観 念において異なるものであり、称呼の共通性が外観及び観念の相違を凌駕す るほどのものではないことから、両商標は、商品の出所の誤認又は混同を生25 じさせるものとはいえないものであり、非類似の商標である。
したがって、本願商標は、商標法4条1項11号に該当しないから、これ 8 と異なる本件審決の判断は誤りであり、取り消されるべきである。
2 被告の主張 本願商標の要部について ア 本願商標の上段部分と下段部分とは、書体や文字の大きさ、商標全体に 5 占める面積の割合が異なるほか、その態様も円弧状と横書きで異なってお り、重なり合うことなく配置されていることから、視覚上、明確に分離し て看取されるものであり、これらを分離して観察することが取引上不自然 であると思われるほど、不可分に結合しているものとはいえない。
また、本願商標の構成において、大きく顕著に表されている図案化され10 た「nico」の文字からなる下段部分は、外観上強く印象付ける特徴を備え る一方で、上段部分は、細字で小さく表され、付記的印象を与えることに 加え、本願商標の指定商品に含まれる第3類「せっけん類」との関係では 自他商品の識別標識としての機能がないか、又は極めて弱く、出所識別標 識としての独立した称呼観念を生じないものである。
15 そうすると、本願商標は、図案化された「nico」の文字からなる下段部 分が取引者及び需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な 印象を与え、その他の構成部分からは出所識別標識としての独立した称呼 及び観念が生じないものであるから、本願商標より下段部分を要部として 抽出し、これと引用商標とを対比して類比判断すべきものである。
20 イ 原告は、前記第3の1 のとおり、本願商標の構成中、下段部分が要部 であることを前提としつつも、本願商標の下段文字部分以外のイラスト部 分から出所識別機能としての観念が生じ得るから、本願商標から下段文字 部分だけを取り出して類比判断することは許されない旨主張する。
しかし、本件審決は、本願商標のイラスト部分を捨象することなく、こ25 れを含めた下段部分を要部として抽出して類比判断をしており、原告の主 張はその前提を欠いている。
9 これを措くとしても、本願商標のイラスト部分のうち、サボテンの図形 は、一見してサボテンを表したものと理解できるような構成態様ではなく、
顔のような図形にしても、
「笑顔」「ほほ笑み」「にこにこ笑う」といった 、 、
具体的なものを表したものと理解できるような態様ではない。そして、欧 5 文字の「o」は、単純化した顔を表すような構成態様に図案化され、一般的 に使用されている実情があることからすると、本願商標の構成中のイラス ト部分から出所識別標識としての具体的な観念が取引上自然に想起され るとは考え難く、本願商標の下段部分は、
「nico」の文字を図案化したもの と認識されるべきである。
10 なお、原告は、前記1 イのとおり、
「nico」ないし「ニコ」を含む商品 が多数存在し、登録商標等には合計30件存在していることを挙げて、
「nico」ないし「ニコ」という文字は、造語といえどもことさら独創的な ものとはいえず、取引者及び需要者に対して強い印象を与えるものではな い旨主張するが、原告が提出した証拠によれば、本願商標の指定商品の分15 野において「nico」又は「ニコ」の文字が使用されているのは2件のみで あり、その他の分野を入れても30件程度であるから、当該文字が出所識 別標識としての機能がない、あるいは弱いといったことはいえない。
引用商標について 引用商標は、
「NICO」の欧文字及び「ニコ」の片仮名を上下二段に横書き20 してなり、上段の欧文字を下段の片仮名よりもやや大きく表してなるもので あって、その書体は、欧文字及び片仮名ともにゴシック体が使用されている が、その構成からして、下段に横書きされた片仮名の「ニコ」は、上段に横 書きされた欧文字「NICO」の読みを示したものと理解される。
したがって、引用商標は、その構成に照応して「ニコ」の称呼が生じ、特25 定の観念を生じさせない。
本願商標と引用商標の類否について 10 ア 本願商標の要部である下段部分と引用商標とを比較すると、両者は、外 観において、片仮名部分の有無、「o」の欧文字の図案化の有無や、小文字 であるか大文字であるか等の違いはあるものの、片仮名部分は欧文字部分 の読みを表したものであるにすぎず、
「o」の欧文字部分の図案化の程度は、
5 一般に用いられている程度のものにとどまる一方で、
「nico」 「NICO」 及び の文字のつづりそのものは同一であるから、両者を時間と場所を異にして 離隔的に観察した場合、外観上、近似した印象を与える相紛らわしいもの である。また、本願商標の下段部分と引用商標は、
「ニコ」という同一の称 呼を生じるものであり、ともに特定の観念を生じさせるものではない。
10 以上を前提にして、本願商標及び引用商標の外観観念称呼等によっ て取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察 すると、本願商標と引用商標は、同一又は類似の商品に使用された場合に は、当該商品の出所を誤認混同するおそれがあるというべきである。そし て、本願商標の指定商品中に含まれる第3類「せっけん類」は、引用商標15 の指定商品に含まれる第3類「愛玩動物用シャンプー、その他のせっけん 類」と同一である。
したがって、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、引用商標と 同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法4条1項1 1号に該当する。
20 イ なお、原告は、前記1 エのとおり、本願商標を付した原告商品につい て、本願商標と引用商標その他第三者の商標と混同したような内容の問い 合わせ等は一切ないことを「取引の実情」として挙げるが、商標の類否判 断に当たり考慮することのできる取引の実情は、当該商標が現在使用され ている商品についてのみの特殊的、限定的な取引の実情を指すものではな25 く、その指定商品全般についての一般的、恒常的な取引の実情を指すもの であるところ、原告の上記主張は、本願商標の個別的な取引の実情にとど 11 まるものであって、失当である。
小括 以上によれば、本願商標は、商標法4条1項11号に該当するものである から、本件審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
5 第4 当裁判所の判断 1 本願商標の要部について 本願商標は、別紙1の1のとおり、@上段には「natural baby soap」の文 字が、水色の手書き風の書体で、下段部分の文字より小さく、また、下段部 分よりも幅が狭く、上側に湾曲する形で配され、A下段には、Doodle Pen の10 特徴を備えた書体で、上段の欧文字よりも目立つ大きさで「nico」の欧文字 が水色で横書きに表され、「nico」の「o」の上部には「サボテン」のような 図形が配され、「o」の内側には、横並びに2つの点とその下に両端上がりの 弧線が配されて顔を表すように図案化された、結合商標である。
ところで、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の15 出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、そ れ以外の部分から出所識別標識としての称呼観念が生じないと認められる 場合等には、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商 標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するの が相当である。そして、本件においては、要部が本件商標の下段部分である20 ことについては、当事者間に争いがなく、本願商標が、全体の構成からみる と、上段部分と下段部分とを分離して観察することが取引上不自然とはいえ ず、上段部分は下段部分と比して全体の大きさは小さく、出所識別標識とし て特定の称呼観念を生じさせないものであること等に照らしても、本件商 標の要部は下段部分であるとするのが相当である25 次に、本件商標の要部である下段部分について検討する。
前記 のとおり、本件商標の要部である下段部分は、
「nico」の欧文字が横 12 書きに表され、「nico」の「o」の上部には「サボテン」のような図形が配さ れ、「o」の内側には、横並びに2つの点とその下に両端上がりの弧線が配さ れて顔を表すように図案化されているところ、店舗名や商品名等に含まれる 欧文字の「o」の内側に横並びに2つの点とその下に両端上がりの弧線を配し 5 て顔を表すように図案化したり(乙3ないし8、10、11、14)「o」の 、
文字上部にイラストを配して図案化する(乙9ないし14)ことは慣用され ていることが認められる。そうすると、本願商標の下段部分に接した取引者 及び需要者は、末尾の欧文字は一般的に慣用されているものと同様に図案化 されたものと理解し、認識するものということができる。そして、この下段10 部分からは「nico」の欧文字に相応して「ニコ」の称呼を生じるものである が、
「nico」の欧文字は辞書等に載録されているものでなく、特定の観念を生 じさせるものではない。
これに対し、原告は、前記第3の1 のとおり、欧文字の称呼「ニコ」と イラスト部分が「にこにこ笑う」との共通の印象を与えるものであり、 nico」 「15 ないし「ニコ」の欧文字は、これを含む商品が多数存在し、登録商標等が合 計30件あることから、必ずしも取引者及び需要者に強い印象を与えるもの ではないのに対し、イラスト部分は、独自性を有するものであり、イラスト 部分からは観念が生じ、出所識別標識として強い支配的な印象を与えること を前提とした類否判断をすべきである旨主張する。
20 しかし、
「nico」ないし「ニコ」の欧文字は、原告が提出する証拠によれば、
本願商標の指定商品と同一又は類似する商品では2件しか使用されておらず (甲9、10) 少なくとも本願商標の指定商品と同一又は類似する分野にお 、
いて、
「nico」ないし「ニコ」が出所識別標識としての機能が弱いとまではい えない。また、前記 のとおり、欧文字の「o」の内側に横並びに2つの点と25 その下に両端上がりの弧線を配して顔を表すように図案化したり、「o」の文 字上部にイラストを配して図案化することは慣用されているところ、本願商 13 標の下段部分の「o」の部分も一般的に慣用されている態様と同様であるし、
また、サボテンのようなイラストも特定の観念を生じさせるような特異なも のとはいえず、その大きさや態様において強い印象を与えるものとはいい難 い。そうすると、特に商標の細部にまで注意を払うことがない一般消費者が、
5 取引に際して、下段部分のうちイラスト部分にことさら着目し、それにより 特異な観念が生じ、出所識別標識として強い支配的な印象を受けるものとは 認め難いから、原告の主張は理由がない。
2 引用商標について 引用商標は、別紙2の1のとおりであり、
「NICO」の欧文字と「ニコ」の片10 仮名を、黒色のゴシック体で上下二段に配し、下段の片仮名は上段の欧文字よ りもやや小さくして表す結合商標であるところ、下段の「ニコ」は「NICO」の 読みに対応するものであるが、上段部分と下段部分は一定の間隔をもって配置 されており、欧文字と片仮名と言語が異なるから、上段部分と下段部分とを分 離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合している15 ものではなく、また、上段部分の「NICO」又は下段の「ニコ」が取引者、需要 者に対し商品又は役務の出所識別機能として強く支配的な印象を与えるもの でもないから、「NICO」を要部として抽出することが許される。
そして、
「NICO」は「ニコ」の称呼が生じるものであるが、辞書等に載録さ れている語ではなく、特定の観念を生じさせない。
20 3 本願商標と引用商標の類否について 本願商標の要部である下段部分と引用商標の要部である「NICO」を対比 すると、外観において、「o」の図案化の有無、書体、小文字と大文字といっ た点で差異があるが、「nico」と「NICO」のつづりは同一であり、時と場所 を異にした離隔的観察のもとでは外観上相紛らわしいものといえる。また、
25 本願商標の下段部分と引用商標の「NICO」の称呼は同一であるが、観念にお いて比較することができない。
14 このように、本願商標の要部である下段部分と引用商標の要部である 「NICO」は、観念において比較することができないものの、外観において類 似し、称呼は同一であるから、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品 に使用された場合には、当該商品の出所を誤認混同するおそれがあるという 5 べきである(本願商標の需要者に商標の細部にまで注意を払うことがない一 般消費者が含まれることからすれば、なおさら誤認混同のおそれは高いとい うべきである。なお、仮に、引用商標のうち「NICO」を要部として抽出しな いで全体として本願商標の要部である下段部分と比較したとしても、結論は 変わらない。 。
)10 そして、本願商標の指定商品に含まれる第3類「石けん類」と引用商標の 指定商品に含まれる第3類「愛玩動物用シャンプー、その他の石けん類」と は少なくとも類似する商品であるといえる。
そうすると、本願商標は、引用商標と類似する商標であって、引用商標と 類似する商品について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該15 当するものというべきである。
これに対し、原告は、前記第3の1 イのとおり、本願商標の下段部分は 特徴的なイラスト部分があるが、引用商標の欧文字はこうした特徴的なもの を備えておらず、また、本願商標と引用商標の字体、イラスト、文字の与え る印象を挙げて、本願商標と引用商標は、外観において、離隔的観察のもと20 でも称呼における類似性をしのぐほどの差異を取引者及び需要者に与える旨 主張する。
しかし、原告が指摘するイラスト部分は、欧文字の「o」を顔等の図案化す るものとしてこれまで慣用されてきたものと大きく異なるものではなく、イ ラスト部分が強い支配的印象を与えるものではないことは繰り返し説示して25 きたとおりであり、また、本願商標と引用商標の字体、イラスト、文字の与 える外観上の差異については、離隔的観察のもとでは、取引者及び需要者に 15 大きく異なる印象を与えるものであるとまではいえない。
また、原告は、前記第3の1 ウのとおり、本願商標の下段部分全体から、
「にこにこ笑った」印象を与えるものであるのに対し、引用商標は特定の観 念を生じさせない旨主張するが、前記1 において判示したところに照らせ 5 ば、その前提を誤るものというべきである。
さらに、原告は、前記第3の1 エのとおり、本願商標を付した原告の商 品について、現在までに本願商標と引用商標その他の第三者の商標と混同し たような内容の問い合わせがないことを「取引の実情」として挙げて、称呼 が共通していても、外観及び観念の相違から誤認混同が生じていない旨主張10 するが、商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、そ の指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであつて、該商 標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すも のではない(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小 法廷判決参照)ところ、原告の上記主張は、本願商標が現在使用されている15 商品についての取引の実情をいうものであるから、当を得ない。
4 結論 以上によれば、本願商標は、商標法4条1項11号に該当するものであるか ら、これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく、原告の請求は棄却されるべき である。
20 よって、主文のとおり判決する。
追加
16 裁判官中村恭5裁判官岡山忠広17 別紙1152第3類「せっけん類、化粧品、香料、薫料、歯磨き、家庭用帯電防止剤、家庭用脱脂剤、さび除去剤、染み抜きベンジン、洗濯用柔軟剤、洗濯用漂白剤、かつら装着用接着剤、洗濯用でん粉のり、洗濯用ふのり、つけまつ毛用接着剤、口臭用消臭剤、動物用防臭剤、塗料用剥離剤、靴クリーム、靴墨、つや出し剤、研磨紙、研磨布、研磨用砂、人造軽石、つや出し紙、化粧用接着剤、洗濯用剤、洗濯10用青み付け剤、革用クリーム、革用ワックス、裁縫用ワックス、香料用及び香水用油、靴の縫糸用ろう」第5類「医療用せっけん、薬剤、医療用試験紙、歯科用材料、おむつ、おむつカバー、はえ取り紙、乳幼児用粉乳、サプリメント、栄養補助食品、食餌療法用飲料、食餌療法用食品、乳幼児用飲料、乳幼児用食品、栄養補助用飼料添加物(薬15剤に属するものを除く。、ばんそうこう除去用溶剤、医薬用酵素、医療用酵素、
)獣医科用酵素、乳酸発酵用酵素(医薬用のもの)、医療用又は獣医科用の培養微生物、移植組織(生組織)、ペット用おむつ、食物繊維」18 別紙2(引用商標(登録第5228837号)12第3類「愛玩動物用シャンプー、その他のせっけん類、愛玩動物用化粧品、そ5の他の化粧品、エッセンシャルオイル、芳香水、ペット用芳香剤、その他の香料類」19
裁判長裁判官 25菅野雅之