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事件 商標権侵害差止等請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/01/26
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
令和5年1月26日判決言渡

令和2年(ネ)第10009号、同年(ネ)第10037号 商標権侵害差止等請

求控訴事件、同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第3428

号)

口頭弁論終結日 令和4年11月28日

判 決



控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)



同訴訟代理人弁護士 牧 野 和 夫

工 藤 英 知




被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

レース クイーン(RQI)インク



同訴訟代理人弁護士 原 田 學 植

主 文

1 控訴人の本件控訴に基づき、原判決主文3項を次のとおり変更する。

(1) 被控訴人は、控訴人に対し、2億1700万円を支払え。

(2) 控訴人の損害賠償請求のうち令和元年11月1日までに生ずべき

損害賠償金の支払を求める部分のその余の請求及び「2ch.net」の

ドメイン名の使用の差止めを求める控訴人の請求をいずれも棄却

する。

2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文2項を取り消し、同項に

係る控訴人の請求を棄却する。




3 訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は、第1、2審を通

じてこれを10分し、その6を被控訴人の負担とし、その余を控訴

人の負担とする。

4 この判決は、1項(1)に限り、仮に執行することができる。

5 被控訴人のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのた

めの付加期間を30日と定める。

事 実 及 び 理 由

用語の略称及び略称の意味は、本判決で定義するもの及び改めるもののほかは、

原判決に従うものとする。

第1 当事者の求めた裁判

1 控訴人の控訴の趣旨

(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

(2) 被控訴人は、その営業に関し、「2ch.net」のドメイン名を使用してはならな

い。

(3) 被控訴人は、控訴人に対し、1億7500万円及び平成29年1月19日か

ら1か月500万円の割合による金員を支払え。

(4) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2 被控訴人の附帯控訴の趣旨

(1) 原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

(2) 上記(1)の部分に係る控訴人の請求を棄却する。

(3) 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人の負担とする。

第2 事案の概要等

1 事案の概要

(1) 控訴人は、かつて「2ちゃんねる」という名称のインターネット上の電子掲

示板(以下「本件電子掲示板」という。)を運営していた者であり、被控訴人は、

少なくとも平成26年2月19日から平成29年9月30日までの間(以下「本件




関与期間」ということがある。)、本件電子掲示板の運営に関与していた外国法人

である。

(2) 本件は、原判決別紙商標目録記載1の商標(原告商標1)及び同記載2の商

標(原告商標2)の商標権者である控訴人が、被控訴人がその運営する電子掲示板

に原判決別紙被告標章目録記載1の「2ちゃんねる」の標章(被告標章1)及び同

記載2の「2ch.net」の標章(被告標章2)を使用することは原告商標1及び2に係

る商標権(以下、併せて「原告商標権」という。)を侵害し、被控訴人が被告標章

1及び2並びに「2ch.net」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」といい、こ

れに係るドメインを「本件ドメイン」という。)を使用することは不正競争防止法

(不競法)2条1項1号、2号及び19号所定の不正競争行為に該当すると主張し

て、被控訴人に対し、次の各請求をする事案である。

ア 商標法36条1項又は不競法3条1項に基づく被告標章1及び2の使用の差

止めの請求(以下「被告標章差止請求」という。)

イ 不競法3条1項に基づく本件ドメイン名の使用の差止めの請求(以下「本件

ドメイン差止請求」という。)

ウ 商標権侵害について民法709条に基づき、不正競争行為について不競法4

条に基づき、損害賠償金1億7500万円(平成26年2月19日から35か月に

わたり1か月当たり500万円の金額)並びに平成29年1月19日から被告標章

1及び2並びに本件ドメイン名の使用終了まで1か月当たり500万円の割合によ

る損害賠償金の支払を求める請求(以下「本件損害賠償請求」という。)

(3) 原審は、概要、次のとおり判断して、本件訴えのうち令和元年11月2日以

降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下した上で、商標法3

6条1項に基づく被告標章差止請求の限度で控訴人の請求を認容し、控訴人のその

余の請求をいずれも棄却した。

ア 本件損害賠償請求のうち将来請求の部分に係る請求権については将来給付の

訴えを提起することができる請求権としての適格を有しないから、本件訴えのうち




原審の口頭弁論終結後に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えは不適

法である。

イ 本件関与期間及びその後における被控訴人の被告標章1及び2の使用は先使

用権に基づくものとして原告商標権を侵害せず、その後平成30年3月までに本件

電子掲示板における被告標章1及び2の表示が削除されて以降の被控訴人による被

告標章1及び2の使用の事実は認められない。また、被控訴人は、本件電子掲示板

に係る役務を自己の役務として提供していたN.T.テクノロジーインク(NTテ

クノロジー社)から本件電子掲示板に係る事業の譲渡等を受けるなどしてその地位

を承継したと認められることに照らすと、平成26年2月19日以降の被控訴人に

よる被告標章1及び2の使用は控訴人との関係で不正競争行為にはならない。

ウ 控訴人は原告商標権を有するところ、平成30年4月以降に被控訴人が被告

標章1及び2を使用した事実を認めるに足りないから、原審の口頭弁論終結時点で

は被控訴人は被告標章1及び2について先使用権を有しておらず、他方で被告標章

1及び2の使用の差止めの必要性がないとはいえない。

(4) 原判決を不服として、控訴人が控訴を、被控訴人が附帯控訴をそれぞれ提起

した。

2 前提事実(括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めること

ができる事実)

(1) 当事者

ア 控訴人は、本件電子掲示板を開設し、運営していた者である。

イ 被控訴人は、フィリピン共和国の法に従って設立された法人である。

(2) 本件電子掲示板

ア 本件電子掲示板は、平成11年頃、本件ドメイン名を使用して開設された。

それ以降、平成29年9月30日まで、本件電子掲示板のトップページには、「2

ちゃんねる掲示板へようこそ」、「2ちゃんねる http//以下省略」などと記載され

ていた。また、本件電子掲示板を構成する各掲示板 「板
( (いた) とも呼ばれる。
」 )




の全ての表題が掲載されたページの冒頭にも「2ちゃんねる http//以下省略」と、

メニューページやスレッド(スレ。同じ話題に関する一連の流れをいう。)が表示

されるページの冒頭部分にも「2ちゃんねる」とそれぞれ記載されていた(甲4、

5、14)。なお、本件電子掲示板のトップページやメニューページ、各スレッド

等は、いずれも基本的に日本語で記載されていた(甲5)。

イ 本件電子掲示板については、平成29年10月1日、名称が「5ちゃんねる」

に、ドメイン名が「https://以下省略」にそれぞれ変更され、「2ちゃんねる」と

いう名称の本件電子掲示板としてのサービスを終了した(甲3)。

ウ 本件電子掲示板は、最盛期においては、提携サイトまで含めると800を超

える多種の掲示板から構成された巨大掲示板サイトであり、基本的には誰でも匿名

で投稿することができた(甲4、乙1、19)。

エ 本件電子掲示板のサーバ(以下、時期及び個数にかかわらず総括して「本件

サーバ」という。)のうち、本件ドメインが置かれたサーバは、本件電子掲示板の

開設後、比較的間もない時期から、アメリカ合衆国の法に従って設立されたNTテ

クノロジー社によって管理されていた(以下、本件サーバのうちNTテクノロジー

社が管理していたサーバを「本件サーバ(NT)」という。)。なお、NTテクノ

ロジー社の設立当時の代表者は、Aである。

(3) 控訴人の商標権(原告商標権)

ア 控訴人は、平成25年1月25日に原告商標1を出願し、同商標は、平成2

8年5月20日に登録された(甲1)。

イ 控訴人は、平成26年3月27日に原告商標2を出願し、同商標は、平成2

8年4月22日に登録された(甲2)。

ウ 本件電子掲示板において提供されていた役務は、原告商標1及び2の指定役

務の一つである「電子掲示板による通信及びこれに関する情報の提供」に含まれる

ものである(甲1、2)。

(4) 本件電子掲示板への被控訴人の関与及び標章の使用




被控訴人は、少なくとも平成26年2月19日から平成29年9月30日まで(本

件関与期間)の間、本件電子掲示板の運営に関与し、前記(2)アのとおり、本件電子

掲示板のトップページ等に、被告標章1及び2を表示させて使用していた(なお、

本件関与期間の前後の本件電子掲示板の運営への被控訴人の関与の態様については、

当事者間に争いがある。)。

(5) NTテクノロジー社によるアクセス拒絶

NTテクノロジー社は、平成26年2月19日、控訴人からの本件サーバ(NT)

に対するアクセスの制限をし、以後、控訴人は本件サーバ(NT)にアクセスする

ことができなくなった。

3 争点及び争点に係る当事者の主張は、次のとおり改め、後記4のとおり当審

における当事者の補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2

事案の概要」の3及び4に記載するとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決4頁9行目の「原告商標1」から同頁10行目末尾までを「原告商標

1及び2と被告標章1及び2の類否並びに被控訴人による被告標章1及び2の使用

の有無(争点1−1)」に、同頁11行目の「被告は」から同頁12行目末尾まで

を「被告は被告標章1及び2について先使用権を有するか(争点1−2)」に、同

頁14行目の「争点1−2」を「争点1−3」にそれぞれ改める。

(2) 原判決4頁23行目の「原告商標1」から「類否」までを「原告商標1及び

2と被告標章1及び2の類否並びに被控訴人による被告標章1及び2の使用の有無」

に、同4頁26行目の「被告が運営する」を「本件関与期間に被控訴人がその運営

に関与していた」に、同5頁2行目の「使用する」を「本件関与期間において使用

していた」に、同5頁6行目の「類似している」を「類似しており、被控訴人はそ

のような被告標章1及び2を本件関与期間はもちろん、それ以降も現在に至るまで

使用している」にそれぞれ改める。

(3) 原判決5頁24行目の「主張は」の次に「、後記争点2−1に係る控訴人の

主張のとおり」を加える。




(4) 原判決7頁14行目の「しかし」の次に「、原審における主張の経過として」

を加え、同7頁15行目及び16行目の各「日付」をいずれも「日付け」に、同7

頁21行目の「運営する本件電子掲示板の名称」を「本件関与期間において本件電

子掲示板の名称として使用し、その後も使用する」に、同7頁22行目の「被告の

使用する」を「、被控訴人が本件関与期間において使用し、その後も使用する」に、

同7頁25行目の「乗っ取った」を「乗っ取り、そのまま本件関与期間において本

件電子掲示板を運営した」にそれぞれ改め、同8頁4行目の「おそれ」の次に「並

びに平成29年10月1日以降の被告標章1及び2の使用」、同8頁6行目の「以

降」の次に「、本件関与期間の末日に至るまで」をそれぞれ加える。

(5) 原判決8頁10行目の「争点3−1」を「争点2−2」に改め、同頁14行

目の「本件ドメイン名を」の次に「本件関与期間において使用し、その後も」を、

同頁21行目の「以降」の次に「、本件関与期間の末日に至るまで」をそれぞれ加

える。

(6) 原判決8頁25行目の「争点3−2」を「争点3」に、同9頁1行目の「本

件電子掲示板の名称は」を「本件電子掲示板については、その名称が」に、同頁1

0行目〜11行目の「本件電子掲示板は」を「本件電子掲示板については、その名

称の変更等がされ、」にそれぞれ改める。

4 当審における当事者の補充主張

(1) 争点1−1(原告商標1及び2と被告標章1及び2の類否並びに被控訴人に

よる被告標章1及び2の使用の有無)について

(控訴人の主張)

ア(ア) 令和4年6月14日時点でも、2ch.net」 Google 検索をすると、2ch.net」
「 で 「

というドメイン名及び「5ちゃんねる」という検索結果が表示され(甲61の1)、

「2ちゃんねる」で Google 検索をすると、「5ch.net」というドメイン名及び「5

ちゃんねる」という検索結果が表示される(甲61の2)。

(イ) 現在は、犬らしき動物が「2」を蹴って「5ch」に変化する動画(甲3)




が映し出されてはいないが、前記(ア)について、検索結果として表示される説明は5

ちゃんねるの広告であり、当該広告を表示すべくドメイン名に標章を用いることは、

電磁的方法によって役務に関する広告を提供し、もってドメイン名に対応する内容

をユーサ?ーの目に入れることによって、サイトへ誘引しているものであるから、ド

メイン名の使用は商標的使用である。被控訴人が被告標章1及び2を使用していな

いならば、前記(ア)のような検索結果は表示されない。

イ 令和4年7月13日時点で、ブラウサ?のアドレスバーに「2ch.net」 「http://


以下省略」と入力すると、「https://以下省略」の5ちゃんねるに自動転送される

のであり、このことからすると、被控訴人は、本件ドメイン名及び被告標章2を使

用しているといえる。

ウ 前記ア及びイによると、5ちゃんねるは、被告標章1及び2の宣伝力・集客

力を利用して事業を行っているといえ、前記ア及びイの事情は、現在も被控訴人が

被告標章1及び2を使用していることをまさに示すものである。

(被控訴人の主張)

ア 全体として、否認し、争う。

イ Google 検索に係る甲61の1及び2についての控訴人の主張は、どのような

技術的理解に基づくものかも不明である。甲61の1及び2における検索結果表示

画面は、Google アルゴリズムの結果として表示されるものであり、被控訴人が広告

を表示すべくドメイン名に標章を用いることによって表示されるものではない。5

ちゃんねるのディスクリプションタグが「2ch」、「2ちゃんねる」等の文字列を含

んでいるわけでもない(乙61)。また、そもそも被控訴人は、5ちゃんねるの運

営者ですらない。

ウ URLの自動転送に係る控訴人の主張について、自動転送は、旧ドメイン

のアクセスを自動で新ドメイン等の別URLに転送させる処理(設定)であり、あ

くまでドメインに係る処理にすぎず、商標権の利用とは関係しない。被控訴人は、

本件ドメインを法的正当性をもって所有しているところである。




(2) 争点1−2(被控訴人は被告標章1及び2について先使用権を有するか)に

ついて

(被控訴人の主張)

ア 次のとおり、本件関与期間の前において、本件電子掲示板の管理運営につい

ての控訴人の貢献等が大きかった旨をいう控訴人の主張は誤りであり、2000年

代半ば以降は正式に被控訴人側(被控訴人に加え、NTテクノロジー社やその関係

者等を包括的にいう。以下同じ。)が本件電子掲示板を管理運営していたもので、

本件電子掲示板のビューア等の機能を有する「●」(呼称は「まる」。)やアダル

ト専用電子掲示板であるPINKちゃんねる(BBSPINK)の開発、本件ドメ

インに係る Whois 情報も、被控訴人が本件電子掲示板の運営に関与して被告標章1

及び2を使用していたことを裏付けている。なお、控訴人の主張するような本件電

子掲示板の乗っ取りなどもなかった。詳細は、次のとおりである。

(ア) 本件電子掲示板の開設に当たっての控訴人の貢献等をいう控訴人の主張につ

いて

a 話題ごとに掲示板を分類していくこと自体は、平成10年時点で電子掲示板

「あめぞう」でも行われており、世界中で行われていた。また、いわゆる「マルチ

スレッドフロート型」仕様も、やはり「あめぞう」や世界中の多くの電子掲示板で

採用されていた。したがって、平成11年当時、それらが独自で創作的であったも

のではない。

b また、電子掲示板全体のうち、どのような話題、どのような「板」にアクセ

スがどの程度集中しているか等の統計が適切に採取されてこそ、管理運営者として、

「板」を分類、分割等してアクセスを分散させ、サーバへの負担を減らす判断を下

すことができるところ、この役割を担っていたのは、本件電子掲示板のいわゆる「静

脈系システム」のうち統計関係システム(通称「STATS」)であって、これは、NT

テクノロジー社の共同経営者であり、株式会社ゼロ(以下「ゼロ社」という。)の

代表者であったB(以下「B」という。)が掲示板管理運営者として統計データを




採取することの重要性を認識していたからこそ作成されたものである。したがって、

控訴人が主張する本件電子掲示板の分類に係る特質は、被控訴人側によって加えら

れたものである。

c 本件電子掲示板の基本的な設計は、しばしば改変されてきた。

本件電子掲示板のいわゆる
「動脈系システム」投稿系プログラムである
( 「bbs.cgi」、

閲覧表示系プログラムである「read.cgi」、初期設定・投稿データ精査系プログラ

ムである「bbs-entry.cgi」及び投稿保存系プログラムである「bbs-main.cgi」)に

係る甲24のプログラムは、全て、平成12年以降、Bを始めとするゼロ社及びN

Tテクノロジー社によって書かれたものである(後記(イ)b)。

この点、本件電子掲示板の基本構造と処理が大幅に変更された一例として、処理

高速化とコスト削減のために、Perl で書かれた read.cgi が、平成12年頃にBに

よってC言語に書き直されたことがある。

また、bbs.cgi を bbs-main.cgi と bbs-entry.cgi に分割することによる機能分化

は、本件電子掲示板の処理速度を上げるため、平成16年頃に、SpeedyCGI 開発を

行う際に被控訴人側がしたものである。そして、被控訴人側は、bbs-entry.cgi に

よってスパム投稿をはじくといった機能を日々改良していたもので、その結果、

revive.cgi は、平成16年頃には既に用を果たさなくなっていた。

これに対し、w-ad.cgi は、広告に係るプログラムであり、本件電子掲示板とは別

のシステム・サービスといえるものである。

d ログが残り続ける大規模な電子掲示板を初めて控訴人が作成・開設したとい

うのは、虚偽である。ログは、削除されなければ延々と残り続けるもので、単にロ

グを残すというだけであれば、それはシステム開発ではなく設定にすぎない。平成

11年当時の本件電子掲示板は、過去ログが残り続けるシステムではなかったとこ

ろ、BやNTテクノロジー社が本件電子掲示板に参画し、「●」のサービスが事業

化されることによって、安定的に、ログが残り続けるシステムが確保されたもので

ある。




控訴人が独自に作成 開設したと主張する本件電子掲示板の基本設計と仕組みは、


次のとおり、取り立てて、本件電子掲示板の特色や本質と呼べるものではない。後

記(控訴人の主張)ア(ア)dの控訴人主張に係る@ないしFについては、まず、@の

ファイルロックを使わない構造について、ファイルロックは、平成11年当時にお

いて、電子掲示板への投稿に一般的に利用される手法ではなく、電子掲示板への投

稿には、ファイルの内容を全く書き換えずに追記される構造が一般的であったもの

で、また、電子掲示板においてファイルではなくデータベースを利用する理由も特

になかった。A及びFのスレッドごとに別のデータファイルにしたことについて、

電子掲示板の規模が大きくなる中で、必然として、トピック単位でデータを別ファ

イルに保存していく手法は、当時としても一般的であった。Bのサーバ間で機能を

独立させることについて、各々のサーバが独立して機能する構造は、単純に、フォ

ーラムのクローンを横に増やして(板名等の設定を少し変えて)それらへのリンク

集を設けるというだけのもので、一番楽に水平展開できる方法であり、システムの

安定性を考えれば当然の設計であった。C及びDの html 化及び仮 html について、

html は、「あめぞう」も実装していた機能であり、また、書込みごとに html を更

新しなければならないためサーバの負荷を際立って軽くするものではなく、それの

みで利用者数の増加に耐えるものではなかった。Eの個人特定用の符号について、

利用者の匿名性を保持しつつ個別にサービスを提供する試みは、「忍法帖」等、本

件電子掲示板の管理運営について、常々模索されていたものである。

この点、本件電子掲示板の特色・本質とは、日々の開発改善・管理運営に関する

作業とユーサ?ーシップに尽きるもので、それを実現させ維持してきたのは、NTテ

クノロジー社及びAを含む被控訴人側であった。

(イ) 本件関与期間までの本件電子掲示板の運営等

a 控訴人の関与について

(a) 控訴人は、本件電子掲示板の開設当初においては、プログラミングを提供し

ていたが、遅くとも平成12年頃以降は、被控訴人側が主導して、本件電子掲示板




の管理に直接関わるソフトウェアのプログラミング等の業務を行ってきたもので、

控訴人は、広告事業やいわゆる削除事業(掲示板に投稿された特定の記事について、

金銭的対価と引換えに、利用者からの削除要請に応じるというもの。)をする関係

でプログラミングに関与していたにすぎない。

この点、平成13年6月時点で既に、「X’’」の略称を用いていた控訴人は、

主に広告に関する作業しかしていなかったことがうかがわれ(甲24の7)、平成

19年3月から平成23年2月までの時期には、いよいよ控訴人の貢献はわずかと

なっていた。控訴人が本件サーバ(NT)にアクセスできなくなった平成26年2

月19日以降、本件電子掲示板が問題なく動き続け、控訴人を必要とすることなく

広告事業も展開し得たことは、控訴人が本件電子掲示板の運営に貢献していなかっ

たことを裏付けている。

控訴人は、本件電子掲示板のシステムの運用や開発・改善のために、大した貢献

をしておらず、管理運営者としての役割も果たしていなかったものである。

(b) ウェブサイトの管理運営権を基礎づけるのは、金員の出捐いかんではなく、

金員の出捐も含めた管理運営の実態であり、控訴人及び東京プラス社(東京プラス

株式会社)からNTテクノロジー社への送金をもって控訴人が本件電子掲示板の管

理運営者であった根拠の一つとする旨の控訴人の主張には理由がない。当該送金は、

控訴人又は東京プラス社がNTテクノロジー社に広告事業収益の分配調整金を支払

っていたことに係るものにすぎず、控訴人が本件電子掲示板の管理運営者であった

ことを示すものではない。

上記に関し、2000年代半ば以降は、被控訴人側が正式に本件電子掲示板の管

理運営者となったもので、控訴人側(控訴人及び東京プラス社)と被控訴人側との

間には、控訴人が本件電子掲示板から広告収益を上げること等が了承されている一

方で、控訴人側から被控訴人側に対して広告や削除等の収益の分配金が一定額支払

われるという内容の「共同事業」が成立していたところである。

(c) 控訴人自身が認めるとおり、パケットモンスター社は、控訴人が租税回避の




ために設立したペーパーカンパニーにすぎない。事業実態のない会社が、本件電子

掲示板の管理会社として掲示されていたとしても、本件電子掲示板についての控訴

人の管理運営権の根拠となるものではない。

(d) 控訴人は、5ちゃんねるには本件電子掲示板に含まれていた幾つかの機能が

含まれていないとし、このことは、本件電子掲示板の管理運営者が控訴人であった

ことを示すものであると主張するが、控訴人が主張する IPv6 を利用し得るか否か

は、電子掲示板のグレードには関係しない。また、検索機能、メール機能、画像機

能、アイコン機能やポイントサービス追加等については、細部の違いはあるが、い

ずれも5ちゃんねるにも存在する。控訴人が指摘する各機能は、基幹機能ではなく、

周辺的なものにすぎない。

b 被控訴人側の関与について

(a) NTテクノロジー社は、平成12年に本件電子掲示板に参画して以降、本件

電子掲示板の根本を支えるプログラミングを開発提供し、本件電子掲示板の管理運

営を行っていた。また、被控訴人は、平成16年頃より、本件電子掲示板の管理に

直接携わるソフトウェアのプログラミング等の業務を担うようになり、本件電子掲

示板を管理運営していた。この点、サーバの管理について、サーバのシステムの管

理を含むものとした点を含め、原判決の認定に誤りはない。

(b) 平成11年、開設当時の本件電子掲示板(巷間多数あった「あめぞう型掲示

板」を模したものであった。)において、Bが一利用者として控訴人や他の利用者

らと交流していたところ、本件サーバが不安定になる事態が頻発していた。

そこで、Bは、平成12年1月頃、控訴人にメールを送り、サーバ環境を整える

べきである、NTテクノロジー社が提供するサーバを使えばいいなどという申入れ

をし、控訴人がこれを受け入れたことで、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)

と本件ドメインを管理し、本件電子掲示板に参画することになった。

平成12年以降、本件電子掲示板の利用者は、飛躍的に増え続け、「板」と呼ば

れる話題カテゴリーの種類もますます増え、サーバの負担も増大し続けたが、控訴




人の開発技術によってはこの困難に対処することができなかったため、NTテクノ

ロジー社の仕事は、本件サーバ(NT)の保守管理にとどまらず、できる限りサー

バに負担をかけず、利用者のニーズに合った使い勝手の良いサイトの設計を考案し、

開発し、実装するというものになった。本件電子掲示板は、平成12年以降の利用

者増大に対応するべく、根本的にその設計を書き換えられるなどしたところ、この

書換え等をしたのも、被控訴人、NTテクノロジー社のB、ゼロ社の面々であった。

被控訴人は、Bらと共に、本件電子掲示板のためにプログラムを書き、コードを提

供して、本件電子掲示板の運営に貢献していたものである。

なお、Bは、NTテクノロジー社の共同経営者であり(なお、NTテクノロジー

社の「NT」は、Bと、Aの当時の妻の名からとられたものである。)、NTテク

ノロジー社のプログラミング部門の責任者として活動していた。また、ゼロ社は、

Bが平成3年に設立して代表を務めていたコンピュータ・テクノロジー事業会社で

あり、NTテクノロジー社について、その出資割合の2%をゼロ社が保有するとの

取決めがされていた。

(c) A又はNTテクノロジー社については、本件電子掲示板の技術管理者である

ことが平成12年の時点で公言されており、2000年代半ばからは管理運営責任

者であることも公言されていた。

(d) 控訴人自身、AによるPINKちゃんねるの運営を認めていることや、平成

26年2月19日以降、被控訴人側が本件電子掲示板の管理運営をしていたことか

らして、Aの日本語運用能力等は、本件電子掲示板の運営に当たって問題となるも

のではなかった。

(e) NTテクノロジー社は、PINKちゃんねるを作り、静脈系のシステムを追

加し、個人を識別していわゆる「荒らし」に対応するための忍法帖を導入し、動脈

系のプログラミングコードを変更し、「●」という本件電子掲示板の基本的、根本

的機能を追加したもので、新機能の追加が本件電子掲示板の管理運営者を裏付ける

という旨の控訴人の主張を前提としても、NTテクノロジー社は本件電子掲示板の




管理運営者であったといえる。

c 控訴人が主張するボランティア(ネット上の有志の技術者)の関与について

(a) Bは、被控訴人の委託を受け、B’」 B’’」 B’’’」 「B’’’’」
「 「
、 「
、 及び

といった略称を用いて、平成26年頃まで、本件電子掲示板に様々なプログラムを

提供していた。Bは、無償で本件電子掲示板に協力したものではない。その他、 、
「d」

「K」、「J」等の略称を用いて関与していた者も、Bや被控訴人の関係者(Bの

サポートとして、ゼロ社の従業員等が入ることがあった。 や、
) ボランティアの人々

であった。

(b) 具体的なシステムの開発・改善は、ほとんど、Bやゼロ社によって行われた。

本件電子掲示板の維持管理に必要なプログラムで、Bが作成したものは無数にある。

本件電子掲示板について、実質上、開発設計を統括していたのはBであった。Bは、

NTテクノロジー社の業務として本件サーバ(NT)の運営管理も行っていたため、

NTテクノロジー社が提供した本件サーバ(NT)の root 権限を持っていた。そし

て、Bは、本件サーバ(NT)に入るためのID及びパスワードを保有し、ゼロ社

の従業員らにも原則として本件サーバ(NT)には入らせることなく、従業員らの

作成したプログラムをチェックし、適切なプログラムを設計に組み込んでいた。例

えば、平成13年8月25日にも、Bは、「C」というプログラマーと思しき匿名

の人物と read.cgi に関するやり取りをし、同人にボランティアとしての助力を依

頼し(乙58)、その後もやり取りを交わした。この点、控訴人の定義によると、

同人も「技術的ボランティア」に該当するはずであるが、控訴人は同人と面識はな

く、連絡先も知らないと思われる。Bは、ボランティアとして開発改善の技術的作

業をしてくれる技術者を指名し、その案を採用し、実装する権限を有していたもの

である。

D(以下「D」という。略称は「d」。)やE(以下「E」という。)、Jは、ゼ

ロ社の従業員として、本件電子掲示板に携わった。

この点、NTテクノロジー社やゼロ社の関係者、すなわち、AやBらプログラマ




ーたちは、控訴人に起用されたボランティアではなかったところである。

(c) フリーのエンジニアであるF(以下「F」という。)も、ゼロ社が起用した

ボランティアであり、被控訴人からの委託を受け、平成16年から平成26年にか

けて、本件電子掲示板の管理に直接携わるソフトウェアのプログラミング等の業務、

特に削除ボランティアが利用する規制に関するプログラムの開発や運用に携わった

ものである。Fは、荒らし行為をする利用者が書込みできないようにするシステム

(Rock54)を開発したところ、同システムを本件電子掲示板の機能として組み込む

ためには bbs.cgi にスクリプトとして記述をする必要があったため、本件サーバ(N

T)上の bbs.cgi へのアクセス権限をNTテクノロジー社から与えられ、Bと協働

して作業した。控訴人からIDやパスワードを割り当ててもらったとの事実はない。

Fを含むボランティアは、自発的に志願して本件電子掲示板に関わっていたもの

で、控訴人の指揮命令に服し得べき者でも、控訴人が採用するなどした者でもない。

d 本件サーバについて

(a) 平成25年当時における本件サーバの構成は、乙55のとおりである。乙5

5は、Fの管理に係るウェブページであり、規制管理システム開発に当たっていた

Fが、作業上の必要性により本件電子掲示板の基幹機能を担うサーバの構成を熟知

していたからこそ作成し得たものである。

(b) 乙55によると、掲示板そのものである「板」の収容、板の一覧表示、規制

管理、Bの開発に係る荒らし対策の「忍法帖」に関係するサーバは、いずれも本件

サーバ(NT)にある maido3.com から管理されており、本件サーバ(NT)上で上

記各機能が果たされていたのであって、本件電子掲示板のサービスの基幹となるプ

ログラムは、全て本件サーバ(NT)上で稼働していた。

そして、NTテクノロジー社は、本件サーバ(NT)全ての root 権限を当然に持

っていた。

(c) これに対し、甲51記載の「掲示板サーバ」(掲示板機能のために用いられ

るサーバをいう。以下同じ。)は、本件サーバ(NT)を除き、初期の頃に本件電




子掲示板において利用されていたサーバであり、継続的安定的な利用はされなかっ

た。初期のサーバ事業者らにおいては、ことあるごとに攻撃対象となる等の事情か

ら特殊な対処が必要となる本件電子掲示板の継続的安定的な提供が困難であり、そ

のため、平成15年頃には掲示板機能の全てを本件サーバ(NT)が担うこととな

ったもので、本件電子掲示板の掲示板サーバの提供は、NTテクノロジー社しか担

うことができないものであった。

また、甲51記載の「メールサーバ」以下のサーバは、いずれも基幹機能を担う

掲示板サーバに比して周辺的な役割を担うものにすぎなかった。

さらに、甲51は、本件サーバの特定を尽くしたものとはいえず、その全体像を

把握し得るものではない。この点、例えば、甲53の4に出てくるサーバとの関連

性も不明である。

(d) 控訴人が提出するAのメールに関する証拠(甲52の1〜8)については、

原メール記録ではなく、訳文(甲53の1〜8)も恣意的であって、証拠としての

価値を有しないというべきである。また、広告事業及び削除事業は控訴人が所掌し、

Aがこれに関与していなかったことを踏まえると、上記証拠は、控訴人の主張を裏

付けるものではない。

e 「●」について

(a) 「●」の機能は、単に過去のテキストの販売(過去ログの閲覧)に尽きるも

のではなく、「●」は、本件電子掲示板の利用に際して、管理者が特別な権限(様々

な規制を解除して掲示板へ投稿する権限、dat 落ちした過去の記事を閲覧する権限

等)を利用者に付与するサービスに係るソフトウェアである。「●」の利用者は、

規制に妨げられることなく本件電子掲示板について閲覧、投稿する権限を、本件電

子掲示板の管理運営者から付与されるもので、「●」は、本件電子掲示板と一体化

したシステム・サービスで、投稿・閲覧という本件電子掲示板の根幹をなす機能に

係るサービスである。

プログラムの構成等からしても、本件電子掲示板本体のプログラムの中で、
「●」




についてのプログラムが記述され、
「●」に関する処理も常に行われていたもので、

「●」は、本件電子掲示板本体のシステムそのものであった。

「●」を本件サーバ上で機能させることができたのは、被控訴人やNTテクノロ

ジー社が本件電子掲示板全体のプログラムを適時把握し、管理していたからであり、

「●」は、本件サーバに直接アクセスし、当該サーバに対して「●」の機能を働か

せるプログラムを対価と引換えに随時提供し得る権限者、すなわち本件電子掲示板

の管理運営者でなければ、提供し得ないものであった。NTテクノロジー社が、●」


を、控訴人の許可を必要とすることなく、管理し、販売していたことは、被控訴人

側が本件電子掲示板を運営していたことを裏付けている。

(b) 「●」は、本件電子掲示板の運営のための資金確保を企図して、NTテクノ

ロジー社が主体となり開発運営されたものである。当初、被控訴人側は、NTテク

ノロジー社の別事業の売上げで本件サーバ(NT)の維持管理を図ろうとしたが、

利用者の増大が爆発的で資金繰りが追い付かなくなったため、平成13年頃、NT

テクノロジー社によって、本件電子掲示板の利用をより楽しくし、より効率化する

ための有料会員サービスである「●」が開発された。

「●」の開発企画協議は、北海道所在のゼロ社と米国所在のNTテクノロジー社

との間で行われ、そこには、AやBが加わっていたもので、「●」の開発は、NT

テクノロジー社とBの主導で行われた。Bの貢献が大きかったことは、NTテクノ

ロジー社が「●」事業を展開していたことやその収益によって本件電子掲示板の事

業を支えていたことと、相反するものではない。

(c) なお、「●」の収益分配に関し、NTテクノロジー社が取得するとされた1

6米ドルは、本件サーバ(NT)の維持管理・システム管理費用の原資でもあった

(それゆえ、平成25年に「●」に係る流出事件によって「●」の収益が絶たれる

ことで、本件サーバ(NT)の維持は危機に瀕した。)。また、収益分配の内容は、

Bの陳述(乙28)のとおりであり、控訴人が8米ドルの分配を受けるという内容

のG(以下「G」という。)の陳述(甲39)は、伝聞でしかなく、信用できない。




f PINKちゃんねるについて

(a) PINKちゃんねるは、平成12年頃にAと控訴人とが協議して開設された、

本件電子掲示板内のアダルト専用電子掲示板であり、本件電子掲示板のトップペー

ジにURLリンクが貼られていた。主にAが主導して管理運営することになってい

たが、主なソースコードは本件電子掲示板と同じものであったため、本件電子掲示

板と連動する形で発展していった。

この点、アダルト用と一般用でサイトを分けるという判断をしたのは、控訴人で

はない。また、2ちゃんねると同じ構造のプログラムであるとはいえ、書き上げた

のは被控訴人側である。

(b) AがPINKちゃんねるのリンクを本件電子掲示板本体に貼ることができた

のは、PINKちゃんねるが本件電子掲示板のアダルトバージョンであることが周

知の事項であり、かつ、A自身が本件電子掲示板を管理運営する会社の代表者であ

ったことによる。なお、PINKちゃんねるについては、違法行為が行われないよ

う利用規約等を設け、投稿規制等がされていた。

g Whois 情報について

(a) 少なくとも平成17年5月以降、本件ドメインに係る Whois 情報において、

NTテクノロジー社(Aを含む。)は、単に技術面に関する連絡先としてだけでな

く、継続して、運営面に関する連絡先や登録サービス提供者として登録されていた

もので、被控訴人は、平成24年5月3日に本件ドメイン名を取得して本件ドメイ

ンの登録者となった。これらは、NTテクノロジー社や被控訴人が本件電子掲示板

の運営に携わっていたことを裏付けている。

この点、控訴人の主張するような名義貸しは、IT・ネット社会や上場取引市場

の本質的な信頼を崩壊させるもので、許容されるものではない。

(b) 世界知的所有権機関(WIPO)において、被控訴人が本件ドメインの正当

な所有者であると公的に認められていることも、被控訴人が本件電子掲示板を管理

運営していたことを裏付けている。WIPOの仲裁裁定手続は、ドメイン名紛争に




際して各当事者に手続保障も与えた上で公権的判断を下すものであり、サイバース

クワッティング(ドメイン名を、不正な目的で登録・使用すること。)の有無も含

めた実質的な審理がされる。

(c) 刑事捜査を受けたことは、本件電子掲示板の管理運営者であることを示すも

のではない。Bも刑事捜査を受けている。なお、捜査過程における供述等について

の控訴人の主張は、その後、控訴人が取締役を務める有限会社未来検索ブラジル(ブ

ラジル社)が提起した国家賠償請求訴訟の訴状における控訴人が既に本件電子掲示

板の管理人を退いていたとの主張(乙21)とも矛盾している。

(ウ) 控訴人が主張する乗っ取りについて

a 平成26年2月19日、Aにおいて、本件サーバ(NT)のパスワードを変

更し、控訴人は本件サーバ(NT)に立ち入れない事態となったものであるが、被

控訴人側においては、本件電子掲示板の管理運営事業において、控訴人が何の役割

も果たしていないことも踏まえ、アクセス権限者を整理したにすぎず、乗っ取りな

どはない。控訴人は、平成16年以降は、本件電子掲示板の管理運営、開発改善に

当たって技術者・開発者として貢献することはなく、管理運営者としての実質はな

く、外面があるだけであった。

b 平成24年頃、日本の捜査機関が、本件電子掲示板上の違法行為をとがめて、

Bや関係者らに対し、多数回の聴取や捜索等の捜査を行うという事態が生じていた

が、控訴人は、管理運営者として意見や意思を表明することもなく、自身が本件電

子掲示板とはもはや関係ない人物であること、本件ドメインについてはA(被控訴

人)、本件サーバやシステムについてはBが管理責任者である旨を、繰り返し、捜

査当局や社会に対して公言し続けていた。

そのような経緯を踏まえ、Aは、サーバ管理権限者としての権限整理を行ったに

すぎない。

c ある時点以降に、被控訴人が、本件電子掲示板の管理運営者として広告事業

を展開して収益を得るようになったとしても、法的にも、倫理的・道徳的にも、何




ら問題はない。

d 上記に関し、A等がかねて資金繰りに窮していたなどといった控訴人の供述

に信用性はない。なお、甲25(NTテクノロジー社と他社との取引関係に関して

第三者によって記載された書面)は、NTテクノロジー社による乗っ取りの有無が

問題となった事例ではなく、本件との関連もない。

イ 本件ドメイン名と被告標章1及び2とは同一又は類似しているところ、被控

訴人は平成24年に本件ドメインについてドメイン管理登録をしており、NTテク

ノロジー社においては、本件ドメインについて平成12年以降技術管理責任者とし

て、平成17年には本件電子掲示板の管理運営者としてドメイン管理登録がされて

いた。このことと、前記アの事実を踏まえると、被控訴人は、被告標章1及び2に

ついて先使用権を有するというべきである。

ウ その上で、先使用権の法的性質は、使用継続権であり、ある時点で使用が継

続されていないことを理由として、その効果が消滅したり、権利が消滅したりする

類のものではない。したがって、被控訴人は、原審口頭弁論終結時においても現在

においても、被告標章1及び2について先使用権を有している。

(控訴人の主張)

ア 本件関与期間より前に本件電子掲示板を運営して被告標章1及び2を使用し

ていたのは控訴人であり、被控訴人やNTテクノロジー社は、本件サーバ(NT)

の管理者にすぎなかった。しかるに、NTテクノロジー社や被控訴人は、平成29

年2月19日、控訴人に無断で本件サーバ(NT)への控訴人のアクセスを制限し

て本件電子掲示板を乗っ取り、同日以後、本件電子掲示板の運営に関与するに至っ

たにすぎない。具体的には、次のとおりである。

(ア) 本件電子掲示板の開設に当たっての控訴人の貢献等

a 本件電子掲示板の開設者、プログラムの作成者は、控訴人である。控訴人は、

平成10年に合資会社東京アクセスを設立して、ウェブサイトの制作、システム開

発等の仕事を始め、システムエンジニアとしての経験や素養により、一人で本件電




子掲示板のシステムを構築し、平成11年5月、これを開設した。

b 本件電子掲示板の創設時、控訴人は、ユーサ?ーに利用しやすいように、独自

に創作的にテーマを分けて、掲示板を分類し、約300個の掲示板とした。初心者

でも、話をしたい話題について、どの掲示板で話すべきなのか理解しやすいように、

また、小さな話題が埋もれてしまわないよう、一つの掲示板で多くの話題を扱いす

ぎないように、適切に分けたりした。このように、控訴人において、ユーサ?ー目線

で、独自に創作的に分類を行ったことが、当時の他の掲示板にはみられない本件電

子掲示板の特質の一つとなり、これが日本最大の掲示板に発展する大きな要因の一

つとなった。現在も、名称を変更するなどしつつ本件電子掲示板を継承する形で運

用されている電子掲示板サービスにおいて、いまだにユーサ?ーインターフェイスは

それが使用されている。

c また、控訴人は、上記bのような分類に従って、プログラムを作成した。本

件電子掲示板のプログラム・システムは、控訴人が作成したものであり、控訴人が

設計・開発・運用を行っていた。そして、基本的な設計は、控訴人が開発したとき

から変わっていない。

この点、本件電子掲示板の稼働に必須のプログラム 「bbs.cgi」 「read.cgi」
( 、 、

「revive.cgi」、「w-ad.cgi」及び「bbs-main.cgi」)は、全て控訴人が製作した

もので、その後、他のボランティアが手を入れたものである。初期設定プログラム

(「bbs-entry.cgi」)も、控訴人が製作した(控訴人は、もともと「bbs.cgi」の

みであったプログラムの負荷を少なく分散するために、「bbs-main.cgi」と「bbs-

entry.cgi」に分割した。)。なお、「bbs-yakin.cgi」は、「●」のサービスであ

り、本件電子掲示板とは別のサービスである。

d 控訴人は、本件電子掲示板の基本設計と仕組み作りを行なったもので、これ

は、現在も、5ちゃんねるのほか、Yahoo!など主要掲示板で使用されている。

本件電子掲示板の開設当時、大規模な掲示板で、ログが残り続けるシステムはな

く、控訴人が、ログが残り続ける大規模な掲示板を初めて作成・開設したのである。




当時、延々とログを残し続けるのは不可能で、当時の LINUX の設定では、一つのフ

ォルダに1万個以上のログファイルが入るとファイル閲覧速度が急激に遅くなり、

利用不能になるため、控訴人による上記の作成・開設がされた。

この点、控訴人が独自に作成・開設した本件電子掲示板の基本設計と仕組み(主

な特色・本質)は、@ファイルロックを使わない構造(ファイルロックを使わずに、

多量のアクセスがあっても、ファイルの内容をまったく書き換えずに、追記すると

いうアルゴリズムで「bbs.cgi」を書き、データベースも使わない構造とした。)、

Aスレッドごとに別のデータファイル(1000個以上のスレッドを全て別ファイ

ルにすることで、システム不全のサーバ再起動時でも、一つのファイルが壊れるだ

けで他のファイルが壊れない構造で、システム設計をした。)、Bサーバ間で機能

を独立させること(各々のサーバが独立して機能するようシステム設計をした。 、


Chtml 化(掲示板のトップページを html としてファイル出力し、ユーサ?ーは実は

静的な html ページを表示しているという構造にして、サーバの負荷を下げて、大量

のアクセスを低コストで可能にした。)、D仮 html(最新の書込み10件分をデサ?

インを含めた形で事前に生成しておき、書込みがあったデータファイルのスレッド

表示分だけを生成して9個の事前に生成したファイルを結合することにより掲示板

のトップページを生成することで、データファイルの読込み数と処理を劇的に減ら

した。)、E個人特定用の符号(名前欄に「#任意の文字列」を入力することで、「別

の文字列」に変換されて表示されるようにし、他人が偽装することを防ぐ仕組みを、

個人認証サーバを使わないで低コストで実現した。)、Fスレッドごとに別のデー

タファイルにしたこと(データファイル[dat]を公開し、スレッドごとに別のデー

タファイルとすることによって、様々なアプリから本件電子掲示板のデータに直接

アクセスすることを可能とした。)である。これらは、控訴人が独自に開発・作成・

開設したもので、現在も変わっていない。

(イ) 本件関与期間に至るまでの本件電子掲示板の運営等

a 控訴人の関与について




(a) 本件関与期間に至るまで、控訴人が、掲示板システムの運営、プログラム・

システムの設計・開発・改善等(具体的には、新たな掲示板や機能の導入、それら

のプログラミング・システムの開発、掲示板が壊れたときに治すスクリプトの作成

や起動など掲示板の維持・改善等の運営、削除するボランティアの任命など)を行

っていた。例えば、本件電子掲示板において、@個人を識別してアイコンを表示す

る機能、A本件電子掲示板内の仮想通貨「モリタポ」、Bbeポイント(利用者が

機能スレッドを立てるのに投稿時の利用者取得ポイントが必要となる仕組み)など

は、基本的、根本的な機能であるが、これら新機能全てについて、プログラムのコ

ーディングをして追加したのは、控訴人であり、本件電子掲示板に新機能を追加で

きたのは、控訴人のみであった。

そもそも、書込みと表示だけでは掲示板の運営は不可能であり、SPAM 投稿や不適

切な発言を削除したり、ユーサ?ーに対して正しい利用法を啓蒙する管理側のスタッ

フを採用して管理したりするシステム等が必要である。そこで、控訴人は、ウェブ

ページが広告・宣伝だけになって見づらくなってしまわないように、ボランティア

で構成される削除チームを指名してかわるがわる担当させたりする管理をしていた。

300人を超えるボランティアスタッフの管理と削除・規制のシステムなしには、

大規模掲示板の運営はできないところ、これは控訴人が行っていたものである(後

記c)。そして、一定の信用のおけるユーサ?ーの投稿が目立つようにする「記者シ

ステム」(迷惑アクセスを防ぐために、運営側が認証したアカウントしかスレッド

を立てることができないシステム)の設計や運用も、控訴人が行っていた。

(b) 控訴人及び控訴人が代表者を務める東京プラス社は、本件電子掲示板の維持

のために、NTテクノロジー社に対し、本件サーバ(NT)のサーバ管理に係る前

払費用として、平成23年から平成26年2月までに、合計85万米ドルの送金を

した。

なお、東京プラス社がNTテクノロジー社を被告として提起した訴えに係る訴訟

(東京地方裁判所平成26年(ワ)第31166号。以下、同訴訟を、異なる審級




を通じて「別件訴訟」という。)において、NTテクノロジー社は、本件電子掲示

板について、東京プラス社とNTテクノロジー社とによる共同事業であったと主張

し、上記送金について、共同事業の分配金であった旨主張したが(甲23)、共同

事業に係る契約の具体的な交渉経緯・成立時期・契約内容などは明らかにしなかっ

た。特に、共同事業であれば収益分配・損失負担の具体的な合意がなければならな

いが、その主張すらなく、立証もなかった。この点、Aは、売上げの報告すら受け

ていなかったことを認めていた(ただし、Aの証言や陳述には、齟齬や矛盾があり、

全体的には信用性を欠く。)。

(c) 平成24年3月2日時点の本件電子掲示板における記載(甲34)からも、

控訴人が本件電子掲示板の管理人であったことが分かる。

また、平成26年1月25日時点において、本件電子掲示板の「2ちゃんねるの

使い方&注意」において、控訴人が所有するペーパーカンパニーである、シンガポ

ール共和国の法に従って設立されたパケットモンスター社が本件電子掲示板を運営

している旨の記載があったこと(甲31)も、控訴人が本件電子掲示板を管理して

いたことを示している。この点、同国で設立された有限責任会社は、会計企業規制

庁(ACRA:Accounting and Corporate Regulatory Authority)への登記が義務付け

られ、その登記情報は、ACRA が提供するオンラインサービス「bizFILE」にて取得

できる Business Profile により確認することができるところ、パケットモンスタ

ー社の Business Profile には、控訴人が全ての株式を保有していることが示され

ている。また、パケットモンスター社が所有する銀行口座の取引明細書(Statement

of Account)の送付先の住所は、控訴人の住所と一致し、かつ、当該送付先の住所

には、会計部(THE ACCOUNTS DEPARTMENT)と付記されており、パケットモンスター

社の企業活動に関わる資金について、全て控訴人が管理していたことが確認できる。

これらの事実から、パケットモンスター社が控訴人の所有に係るものであることが

理解できる。

(d) 電子掲示板において、検索システムは、最も重要な機能の一つであるところ、




本件電子掲示板では検索システムが利用できたのに対し、現在の5ちゃんねるには、

掲示板テキスト(本文)の検索システムがない。これは、本件電子掲示板の検索シ

ステムのサーバが本件サーバ(NT)に含まれず、控訴人が取締役を務めるブラジ

ル社のサーバに含まれるものであったことによるものである。同様に、掲示板機能

について次世代バージョンの IPv6 が利用できないこと、メール機能、画像機能がな

いこと、新規サービスの開発(アイコン機能を追加、ポイントサービス追加)の機

能が使えないことなど、平成26年2月19日の本件サーバ(NT)の乗っ取り後

には、グレードの低い機能しか提供できていない。これらの事情も、本件電子掲示

板の管理運営者が控訴人であったことを示すものといえる。

なお、平成26年2月19日当時、本件電子掲示板は、既に巨大掲示板として動

いており、特段のプログラミングがなくともそのまま動くものであった。また、多

くのボランティアが参加するという特質から、それらボランティアがプログラミン

グすれば、動き続けるものであった。したがって、同日に控訴人の本件サーバ(N

T)へのアクセスが制限されて以降も本件電子掲示板がその名称及びドメイン名を

変えて稼働し続けたことは、本件電子掲示板の管理運営者の判断に影響しない。む

しろ、同日まで、控訴人が本件電子掲示板のプログラムへのアクセス権を有してい

たことは、控訴人が本件電子掲示板の管理運営者であったことを裏付けている。

(e) さらに、控訴人は、本件電子掲示板の対外的な対応をしていた。すなわち、

控訴人は、本件電子掲示板における犯罪に係る投稿について、警察からの削除要請

に対応していた。また、名誉棄損に当たる投稿について、損害賠償請求の被告とな

っていたほか、発信者情報開示・削除要求などの対応も、全て控訴人が行なってい

た。これらの事情も、控訴人が本件電子掲示板の管理運営者であったことを示すも

のである。

b 被控訴人の関与について

(a) 控訴人が被控訴人側に依頼していたのは、サーバのレンタル・ホスティング

であり、被控訴人側は、平成26年2月まで、レンタルサーバ業者として、本件サ




ーバ(NT)の提供とその管理(電源・ネットワークケーブル・ハードウェアの管

理をいい、システムの管理を含まない。)を行っていたにすぎない。控訴人が被控

訴人側に対し、それ以外の業務を委託した事実はない。

なお、控訴人は、当初、被控訴人側による本件サーバ(NT)の提供の対価とし

て、本件電子掲示板に被控訴人らの広告を無料で掲載することを認めた。

(b) 日本語の分からない被控訴人やNTテクノロジー社及びAにおいて、日本語

で運営される本件電子掲示板を運営することなどできなかった。

(c) Aに本件電子掲示板のコンテンツを管理する権限やこれにアクセスする権限

がなかったことは、Aのメール(甲52の1〜8、甲53の1〜8)からも認めら

れる。

c 無報酬で参加するボランティア(ネット上の有志の技術者)の関与について

(a) 本件電子掲示板は、控訴人が中心となり、控訴人や控訴人の指名した無報酬

で参加するボランティアによって、プログラミングされ、運営されていた。すなわ

ち、本件電子掲示板の保守には、大きく、@プログラムの追加・改変の部分と、A

掲示板の設定を変えたり、投稿を削除したりする運営の部分があったところ、両者

ともに、控訴人が中心となって、控訴人及び控訴人が指名した300名超の多数の

ボランティアにより運営がされていた。ボランティアには、プログラムの補修など

技術的なサポートをしてくれた者(以下「技術的ボランティア」という。)と削除

作業をサポートしてくれた者(以下「削除ボランティア」という。)がおり、前者

は数名の少数であったが、後者は300名超おり、何名かの削除リーダーがまとめ

ていた。ボランティアは、全て控訴人が指名した人物であり、平成26年2月19

日の乗っ取りまで、被控訴人の指名したボランティアは一人もいなかった。

(b) 技術的ボランティアは、当人からの手伝いの申し出を受けて、控訴人が直接

に許可したものであった。誰でも自由にソースコードを追加したりできるわけでは

なく、本件電子掲示板への参加を希望して、控訴人が許可した者のみが、本件電子

掲示板のプログラムの機能追加などを行える仕組みとなっていた。技術的ボランテ




ィアは、具体的には、 (ハンドルネームは
G 「G’」 、 (ハンドルネームは
)D 「D’」 、


H(ハンドルネームは「H’」、「H’’」)、I(ハンドルネームは「I’」)、

J(ハンドルネーム)及びB(ハンドルネームは「B’」、「B’’’」など)の

6名であった。技術的ボランティアの関与は、前記(ア)cの本件電子掲示板の特色・

本質を変えることなく、控訴人が作成した基本のプログラムを追加・改変するもの

にすぎず、それにより本件電子掲示板の管理運営者が控訴人から変わるものではな

い。控訴人がプログラムの改変を許可したことだけで、本件電子掲示板の共同事業

をすることを認めたことにはならない。

この点、控訴人は、本件サーバ内のプログラムを全て改変できる権限(root 権限)

を有するとともに、本件電子掲示板のプログラムの一部のみ改変できる本件サーバ

(NT)の管理ユーサ?ーの権限を技術的ボランティアに付与していたもので、本件

電子掲示板のプログラムを統括する立場にあった。そして、本件電子掲示板のプロ

グラムを追加・改変する場合、控訴人が、技術的ボランティアのうち適任と思われ

る者に声をかけてこれを行っていた(例えば、トラブルがあった場合、追加・改変

するプログラムに応じて、控訴人が特定の技術的ボランティアを指名して、「こう

やったらよいんじゃないか」と方針・方向性を指示・指揮し、その方針・方向性に

応じて、技術的ボランティアがプログラムを追加・改変していた。)。

これに対し、技術的ボランティアの役割は、メンテナンスなど補助的なものであ

った。なお、技術的ボランティアは、基本的に他の技術的ボランティアの連絡先す

ら知らず、また基本的に互いに面識がなく、控訴人だけが、技術的ボランティア全

員の連絡先を知り、全ての技術的ボランティアと面識があった。

他方、削除ボランティアについては、控訴人が直接数人のリーダーを指名して、

そのリーダーたちがそれぞれ何人かの削除人を指名していた。そして、控訴人は、

削除ボランティアには、本件サーバにログイン(アクセス)してプログラムを改変

する権限を与えず、規制するプログラムにアクセスして使用するID及びパスワー

ドのみを与えていた。




(c) Bからは、当初、広告を載せる対価としてサーバの提供の話があったが、上

記(a)@に係るプログラミングについては、Bも、控訴人が指名したボランティアの

一人として行っていた。控訴人は、Bからの手伝いの申し出を許容したにすぎない。

すなわち、Bは、控訴人に対し、本件電子掲示板にNTテクノロジー社の広告を

掲載する代わりに、本件電子掲示板のためにサーバをホスティング・レンタルする

という提案をし、控訴人は、これに同意した。他方で、控訴人は、Bについて、本

件電子掲示板のボランティアとして認めたことはあっても、本件電子掲示板への参

画・共同事業を認めたことは一切ない。これはB自身が本件電子掲示板内で自認す

るところである(甲40の1)。この点、Bは、本件サーバ(NT)その他の重要

なサーバ(@2ちゃんねる検索サーバ、A番組表サーバ、Bチャット・サーバ、C

FAQを掲載し、2ちゃんねる wiki サーバに所在していた info.2ch サーバ、D新

規サービス開発用サーバである be.2ch.net、E掲示板のアイコン・ロゴ等画像が入

っていたサーバである img.2ch.net)を含め、本件サーバへアクセスする root 権限

は持っていなかった。

なお、平成12年以降の利用者増大に対応すべく、本件電子掲示板の設計を補正

したのは、複数のボランティアであって、Bではない。Bが本件電子掲示板のプロ

グラムに関与していたとしても、あくまで現状維持すなわち保守のための関与にす

ぎず、Bは、元々あったスクリプトを改変して、名前を変えるなどしただけであっ

た。

Bが運営するゼロ社も、同様に、本件電子掲示板に係る事業には、NTテクノロ

ジー社の代理店としてサーバのレンタルに関わっていたにすぎない。Bを含め、ゼ

ロ社の関係者が本件電子掲示板に係る事業に関わっていたとしても、それはあくま

でボランティアの立場であった。

(d) Fも、控訴人が指名したボランティアの一人(技術的ボランティアではない。)

であった。控訴人からFに対し、迷惑投稿などを規制するツールを提供して、それ

を使って本件サーバがサイバー攻撃を受けたときにプロバイダ規制をかけてもらう




作業(掲示板が荒らされたときにネット上の表記を設定・解除する作業などのスク

リプトの運用作業)をしてもらっていたもので、プログラムを追加・改変をする権

限は持っていなかった(なお、平成26年2月19日の被控訴人側による本件サー

バ(NT)の乗っ取り以降、Fは、被控訴人側から金員を得て本件電子掲示板の規

制作業をしていたのではないかと推測される。)。

(e) Dは、当時、日本レジストリサービスの従業員であり、Bが運営するゼロ社

の従業員ではなかったもので、平成12年頃から平成26年頃まで、あくまでボラ

ンティアとして本件電子掲示板に関与した(甲42)。

(f) なお、Eは、プログラマーではなくデサ?イナーであり、ブラジル社のオフィ

スに来たことはあったが、単に、エンジニアのいる会社を見てプログラムを勉強し

たいということであった。本件電子掲示板のプログラムには、ボランティアとして

も関わっていない。

d 本件サーバについて

(a) 本 件 サ ー バ と し て 、 本 件 電 子 掲 示 板 の サ ー ビ ス 開 始 時 に は 、 無 料 の

virtualave.net が用いられていたが、その後、HYPERMART、tytek.net、xoom.com や

2ch.ohayou.com や aisnet などの無料サーバへ移行した。控訴人は、どのようなサ

ーバでも動かせるように本件電子掲示板のシステムを開発したものである。

本件電子掲示板は、8つのサーバ事業者(PROX、ATLINK、PRO-G、さくらインター

ネット、ライブドア、aisnet.ne.jp、server.ne.jp、KITANET)でも動くようにされ

たが、いずれの時期においても、NTテクノロジー社の独自の技術が必要であった

ことはない。

(b) 本件サーバの分類と会社名、各サーバの種類(機能)、各サーバについて2

ch サーバ管理ユーサ?ーの権限及び root 権限を有する者の概要は、甲51(控訴人

作成のサーバの種類、管理権限の整理に係る書面)記載のとおりである。

この点、掲示板サーバについては、本件サーバ(NT)の利用開始前に、全部で

12個を使用していた。特に特定のカテゴリーや機能によって分けていた訳ではな




く、アクセス数が増えてサーバを増設しなければならなかったために増やしてきた

ものであった。甲51記載の「掲示板サーバ」のうち、本件サーバ(NT)(最後

の「Nttec」と記載されているもの)以外の12のサーバは、控訴人が管理していた

ため、平成26年2月19日の乗っ取り以降は使用されていない。なお、「ライブ

ドア」
(次世代規格の IPv6 でしか書けない掲示板に係るもの。 は前記a(d)の IPv6


が利用できないことに、「さくらインターネット」は同(d)の新規サービスの開発の

機能が使えないことに、それぞれ関連する。

また、甲51記載の「メールサーバ」以下の各サーバも、平成26年2月19日

の乗っ取り以降は使用されていない。

なお、AもBも、本件サーバの root 権限に係るIDやパスワードを知らなかった

ものである(甲52の1〜8、甲53の1〜8)。

(c) これに対し、被控訴人が平成25年当時における本件サーバの構成を示すも

のとして提出する乙55は、そもそも本件サーバ全てを示すものではない。乙55

には、本件電子掲示板のメールサーバ、チャット・サーバ、ログイン情報を管理す

るサーバ、検索エンジンのサーバ、新規機能開発用サーバ、情報公開用の wiki サー

バ(使い方、FAQ、削除時基準などまとめたサーバ)、番組表サーバ、広告管理サー

バ、携帯電話表示用のサーバ(いわゆるガラ携用のサーバ)、URL ジャンプ用のサ

ーバ(本件電子掲示板内の URL へ飛ぶ時にワンステップ置くもので、広告表示とト

ラブル防止を目的とする。)は記載されていない。乙55は、被控訴人が本件サー

バの全体像を把握していなかったことを示すものである。

また、乙55記載のサーバは、全て控訴人がレンタルしていたものにすぎない。

乙 5 5 記 載 の サ ー バ の う ち 、 find.2ch.net 、 p2.2ch.net 、 w3.p2.2ch.net 、

w4.p2.2ch.net 及び w2.p2.2ch.net は、ブラジル社のサーバであり、be.2ch.net は、

さくらインターネット社のサーバであって、いずれも控訴人が管理するサーバであ

った。これに対し、末尾を maido3.com とするサーバ(以下、単に「maido3.com」と

いう。)のほか、m2.2ch.net、sv2ch.bailla6.jp 及び ula.cc のサーバーは、控訴




人が有料で借りていたNTテクノロジー社のサーバであり、控訴人ないし東京プラ

スがサーバレンタル料を支払っていた。

e 「●」について

(a) 「●」は、本件電子掲示板とは別のシステム・サービスであり、掲示板では

なく、書き込むこともできないから、本件電子掲示板の管理運営者が誰かというこ

ととは無関係である。「●」を一切使うことなく本件電子掲示板を利用することが

可能であったもので、「●」は、単なる有料オプションとして提供されていただけ

である。「●」が本件電子掲示板と別システムであったことは、ドメインが別であ

ることや、「●」がクレジットカード個人情報流出により運営できなくなってもそ

れと無関係に本件電子掲示板が運営できたことからも明らかである。

(b) また、「●」は、次のような経緯で作成されたもので、被控訴人はこれに関

与していない。

平成13年8月25日、サーバのホスティングサービスを行っていたBが、転送

量の超過を理由に、本件サーバ(NT)を次々にシャットダウンさせ、本件電子掲

示板の閉鎖の危機(「2チャンネル閉鎖危機(8月危機)」)が生じた。そこで、

控訴人並びに控訴人が指名していたボランティアであるG、B及び日本人数名にお

いて、サーバ費用を確保し、本件電子掲示板を安定的に運用するために、収益を得

るシステムを作る協議をした(この協議には、NTテクノロジー社や被控訴人やA

は、加わっていない。)。その協議の結果、Gがシステム開発、Bの会社がユーサ?

ーサポートをし、クレジットカード決済はNTテクノロジー社の決済システムを使

おうという話になり、「●」の開発が決定された。そして、Gにおいて、過去ログ

が読めるスクリプト(簡易なプログラム)を開発し、控訴人の指名したボランティ

アが規制のツールを開発して、「●」が作成された(この開発にも、NTテクノロ

ジー社や被控訴人やAは、関与していない。)。

しかるに、「●」のサービスが開始されると、決済システムをコントロールでき

るNTテクノロジー社、被控訴人及びAにおいて、「●」の収入を得るようになっ




てしまったものである。なお、平成25年8月、「●」の個人情報漏洩事件が起き

て社会問題となった結果、「●」の運営はできなくなり、Aらの収入は激減したと

思われる。

f PINKちゃんねるについて

(a) NTテクノロジー社、被控訴人及びAは、本件サーバ(NT)を管理してい

たという立場を利用して、本件電子掲示板の外殻掲示板として、本件電子掲示板の

スクリプトを利用したアダルトを内容とする掲示板であるPINKちゃんねるを運

営するに至った。

この点、控訴人は、アダルト系の掲示板を運営する意向を有していなかったので、

AがPINKちゃんねるを運営することを黙認したが、アダルトの要素が多いもの

は年齢制限すべきであることから、アダルト用と一般用でサイトを分けるとの判断

をした。控訴人は、本件電子掲示板内からアダルトの話題をなくすことで、年齢制

限の必要のないサイトにするのを目指して、それを実現したものである。

他方で、控訴人は、AからNTテクノロジー社の経営が厳しいと聞き、助けを求

められたことから、好意で、Aに対し、本件電子掲示板と同じ構造のスクリプト(簡

易なプログラム)を提供し、本件電子掲示板のシステムをそのまま流用することを

認め、デサ?インだけを変更したPINKちゃんねるの運営を任せ、また、本件電子

掲示板上で、ボランティアの募集まで行ってあげた。Aは、PINKちゃんねるか

ら広告収入を得ていたようである。

(b) PINKちゃんねるは、本件電子掲示板とは別システムである。Aは、本件

電子掲示板についてレンタルサーバ(ホスティング)をしていたために、本件電子

掲示板にPINKちゃんねるのリンクを貼ることができたにすぎない(控訴人は、

Aが同リンクを貼ること自体は認めていた。)。

g Whois 情報について

控訴人は、本件ドメイン名の名義について、NTテクノロジー社、パケットモン

スター社又は被控訴人などに変更したことがあるが、これらは、一時的にサーバの




貸与者であるNTテクノロジー社の名義に移転したり、上場企業である株式会社ド

ワンゴの子会社の取締役である控訴人が本件電子掲示板の管理運営者であるのは外

聞が悪かったために、控訴人が所有するペーパーカンパニーの名義に移転したり、

被控訴人の名義を借りるなどしたものにすぎず、本件電子掲示板の管理運営権の譲

渡を伴うものではなかった。

この点、ドメインの所有者とは異なる者の名称や連絡先等を Whois に掲載するこ

とは広く行われており、むしろ、個人情報開示に起因する紛争を未然に防止する必

要性が高まっている近年では、所有者と異なる者が掲載されている場合の方が多い

(現在の名義人も、本件ドメインの所有者ではない。)。

上記に関し、WIPOの仲裁裁定手続は、サイバースクワッティングを対象とし、

ビジネス紛争によるドメイン名の取得は判断の範囲外であるとされ、その裁定でき

る権限の範囲が限定されているのであり(甲47)、当該裁定により被控訴人が本

ドメインの正当な所有者であると公的に認められたものとはいえない。

(ウ) 平成29年2月19日の乗っ取りについて

a NTテクノロジー社と被控訴人は、資金繰りに窮していたことから、平成2

6年2月19日、本件サーバ(NT)に係るID及びパスワードを突然変更し、控

訴人が本件サーバ(NT)にアクセスできないようにして本件電子掲示板を運営で

きないようにするとともに、本件電子掲示板の名称及びドメインを変更してその運

営を自ら開始し、その広告収入を奪取するに至った(この点、甲25は、NTテク

ノロジー社による他の乗っ取りの例である。)。

その後、Aは、控訴人に対し、本件サーバ(NT)へのアクセス再開のために5

万米ドルの支払を要求し、その支払を受けた(甲26の1・2)が、本件サーバ(N

T)のアクセスを回復させることなく、広告費用月額15万米ドルを不法に領得し

続けている。

b 被控訴人やA、NTテクノロジー社は、本件サーバ(NT)を管理している

という立場を利用して、本件電子掲示板のスクリプトを利用したPINKちゃんね




るを運営し、控訴人(東京プラス社)から多額のサーバ費用の支払を受け、「●」

の利益も独占していたところ、そのような状況で、また、他の事業に失敗したこと

もあり、日本で違法ポルノ規制の隙間を見つけた先駆者で遵法精神が全くないAは、

控訴人に対して更に多額の金銭を要求するようになり、支払をしなければ本件サー

バ(NT)を止めると脅迫するようになり、結局、本件電子掲示板本体を乗っ取っ

たものである。

c 百歩譲って、本件関与期間の前において、本件電子掲示板に関し、被控訴人

の主張するような共同事業が認められるとしても、本件電子掲示板からの利益が独

占されてよいはずがない。

d なお、本件電子掲示板について、控訴人は、麻薬密売の書込みを放置したと

いうことで警察の捜査を受けたところ、捜査において、控訴人は本件電子掲示板の

管理権限を持っていると供述した。これに対し、Bは、本件電子掲示板とは関わっ

ていないと供述し、その旨の上申書を提出した。その上で、控訴人が不起訴処分と

なったのに対し、BやAは、被疑者にすらならなかった。これも、本件電子掲示板

の管理運営者が、控訴人であったことを示している。

イ 前記アの事実にもかかわらず、原判決は、電子掲示板の管理運営者又はシス

テムの設計・開発・改善者とサーバの管理者を混同し、又は誤解したものである。

また、本件電子掲示板については事業の乗っ取りがされたもので、事業の承継など

はなかった。したがって、被控訴人の主張する先使用権は認められない。

(3) 争点2−1(被控訴人による被告標章1及び2の使用が不競法2条1項1号

又は2号の不正競争行為に該当するか)について

(控訴人の主張)

前記(2)(控訴人の主張)、特に同ア(ウ)の平成29年2月19日の乗っ取りの事

実からすると、被控訴人による被告標章1及び2の使用は不競法2条1項1号又は

2号の不正競争行為に該当する。

(被控訴人の主張)




前記(2)(被控訴人の主張)のとおり被控訴人に認められる被告標章1及び2の先

使用権は、商標法32条の趣旨から保護される法的権利であるから、被控訴人によ

るそれらの使用が不正競争行為に該当する余地はない。

なお、本件ドメインを有する被控訴人が被告標章2を用いて平成29年9月まで

事業を営んでいたものであるから、「混同」(不競法2条1項1号)は生じない。

また、被控訴人にとって、被告標章1及び2は「他人の著名な商品等表示」(同項

2号)ではない。そして、本件電子掲示板の周知性は、被控訴人側による管理運営

作業とユーサ?ーシップによって獲得されてきたもので、控訴人によって維持・獲得

されたものではない。

(4) 争点2−2(被控訴人による本件ドメイン名の使用が不競法2条1項19号

の不正競争行為に該当するか)について

(控訴人の主張)

前記(1)(控訴人の主張)によると、現在も被控訴人は本件ドメイン名を使用して

いるといえる。そして、前記(2)(控訴人の主張)、特に同ア(ウ)の平成29年2月

19日の乗っ取りの事実からすると、被控訴人による本件ドメイン名の使用は不競

2条1項19号の不正競争行為に該当する。

(被控訴人の主張)

前記(2)(被控訴人の主張)のとおり被控訴人に認められる被告標章1及び2の先

使用権は、商標法32条の趣旨から保護される法的権利であるから、被控訴人によ

るそれらの使用が不正競争行為に該当する余地はない。

なお、従前から技術管理責任者として本件ドメインについて登録されていた被控

訴人側のNTテクノロジー社が平成17年から管理運営責任者として登録され、本

件電子掲示板の管理運営業務をしてきたことについて、ドメイン名不正使用等行為

(不競法2条1項12号)に該当するわけもない。そして、本件電子掲示板の著名

性は、被控訴人側による管理運営作業とユーサ?ーシップによって獲得されてきたも

ので、控訴人によって維持・獲得されたものではない。




(5) 争点3(差止めの必要性)について

(控訴人の主張)

前記(1)、(3)及び(4)の各(控訴人の主張)からすると、被告標章1及び2の使用

並びに本件ドメイン名の使用の差止めの各必要性が認められるべきである。

(被控訴人の主張)

ア 被控訴人が現在においても被告標章1及び2について先使用権を有している

ことは、前記(2)(被控訴人の主張)のとおりである。

イ 被控訴人は、平成29年10月、本件電子掲示板の管理運営権を Loki

Technology,Inc.(以下「Loki 社」ということがある。)に譲渡した。そして、Loki

社は、権利関係に関する無用な紛争を生じさせず、また、利用者に継続的に安全か

つ快適に利用いただけるようにという理由で、本件電子掲示板について、名称等を

変更した(甲3)。これらの経緯に不明な点はない。

ウ したがって、差止めの必要性に関する原判決の判断には、誤りがある。

なお、仮に、前記(1)に関し、URLの自動転送処理が被控訴人による被告標章1

及び2の利用であると評価できるとするならば、被控訴人による被告標章1及び2

の利用は継続していることとなり、原判決の誤りが裏付けられることとなる。

(6) 争点4(損害論)について

(控訴人の主張)

ア 控訴人は、控訴人の損害として、控訴人の逸失利益と、被控訴人が得た利益

の額による損害の推定(商標法38条2項等)を選択的に主張する。

イ(ア) 平成26年2月19日以前、控訴人は、本件電子掲示板の広告収入として、

月額平均623万円の所得を得ていた。

(イ) 上記(ア)からすると、被控訴人が本件電子掲示板を乗っ取った後に得ていた

広告収入も、同額であると推認される。

(被控訴人の主張)

否認し、争う。原告が提出する証拠(甲20の1〜5)や、陳述書(甲56)で




述べられている東京プラス社の売上推移は、本件電子掲示板による広告収益とひも

づけられておらず、広告収入額を示す資料とも、損害額を推定する資料ともなり得

ない。

第3 当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人の本件訴えのうち当審の口頭弁論終結の日の翌日である令和

4年11月29日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分は不適法であるが、

その余の本件損害賠償請求の一部については理由があり、また、控訴人の被告標章

差止請求及び本件ドメイン差止請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、

前記第2の4の当審における当事者の補充主張に対する判断を含め、次のとおりで

ある。

1 訴えの適法性について

次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判

断」(以下、単に「原判決の第3」という。)の1に記載するとおりであるから、

これを引用する。

(1) 原判決10頁5行目の「本件口頭弁論終結後の期間」を「当審における口頭

弁論終結後の令和4年11月29日以降」と改める。

(2) 原判決10頁21行目の「原告は」から同頁23行目の「下らないとする」

までを「控訴人は、逸失利益額又は商標法38条2項若しくは不競法5条2項に基

づくものとしての本件電子掲示板の広告収入額を原告が受けた損害の額であると主

張し、その額は 1 か月当たり500万円を下らないとする」と改める。

(3) 原判決11頁2行目の「後記4(5)、7」を「前記第2の2(2)イ」と改める。

(4) 原判決11頁2〜3行目の「上記損害賠償請求権」を「本件口頭弁論終結の

翌日である令和4年11月29日以降の損害賠償請求権」と改める。

2 認定事実

次のとおり改めるほかは、原判決の第3の2に記載するとおりであるから、これ

を引用する。




(1) 原判決11頁10行目の「掲記の証拠」を「括弧内に掲記する証拠(なお、

当裁判所の認定に反する部分を除く。一部証拠について特に参照すべき頁数を参考

として[ ]内に記載することがあるが、甲22及び乙12の頁数は、速記録部分

(各証拠の3枚目以降)の下部に記載された頁数を示す。)及び弁論の全趣旨」に

改める。

(2) 原判決11頁16行目冒頭から17行目末尾までを次のとおり改める。

「イ 被控訴人は、平成16年(2004年)頃に設立され、平成17年(20

05年)1月27日にフィリピン共和国において会社として登記された法人であり、

その設立に当たってはAが一定額の出資をした(乙12[5、14頁])。」

(3) 原判決11頁21行目の「31日」を「13日」に、同頁22行目の「全株

式」を「全株式(ただし、発行済の普通株式数は1であり、資本の額は1シンガポ

ールドルである。)」に、同頁24行目の「ない(」を「ない。(甲31の1・2、」

にそれぞれ改め、同行目末尾の「。」を削除する。

(4) 原判決12頁1行目末尾の次に改行して次のとおり加える。

「カ ゼロ社は、コンピューターソフトウェアの開発、設計及び製作、コンピュ

ーター周辺機器の設計、製造及び販売等を目的として、平成3年3月29日に設立

された会社である(甲27の6、甲64)。」

(5) 原判決12頁3行目冒頭から同13頁11行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 控訴人は、平成11年5月頃、自らプログラムやレンタルサーバを準備し

た上で、本件電子掲示板を開設した(甲10、21、22[1頁]、38、56[1

頁]、乙10、12[16頁])。

イ(ア) 控訴人は、その後、本件電子掲示板へのアクセス数の増加等を受けて、サ

ーバの数を増やすなどしていたところ、平成12年頃、ゼロ社の当時の代表取締役

であったBから、サーバの安定化のためにNTテクノロジー社のサーバを使えばい

いという旨の申出を受けて、これを了承し、間もなく、本件電子掲示板については、

NTテクノロジー社が提供する本件サーバ(NT)が主要なものとして使用される




ようになった(甲21、22[3〜4・9〜10頁]、38、51、56[1・1

0・16〜17頁]、乙28[2〜3頁]、54、55、57)。なお、BがAと

ともにNTテクノロジー社の設立に関与し、その経営にも関与していたことから、

控訴人は、その頃、Bを通じて、Aとも知り合った(甲22[3〜4・10頁]、

56[1頁]、乙28[2〜3頁]。ただし、BのNTテクノロジー社の設立への

関与は、その妻の名義をもってされたものであることがうかがわれる一方、BがN

Tテクノロジー社の役員や従業員であったことを認めるに足りる証拠はなく、本件

全証拠によってもNTテクノロジー社の経営へのBの関与形態は不明である。)。

(イ) 本件電子掲示板は、平成12年にいわゆる西鉄バスジャック事件の犯人とさ

れる少年が同掲示板に犯行予告を書き込んでいたことなどから社会的に注目を集め

るようになり、平成14年頃には利用者が急激に増加し、それに伴い、データ通信

量やサーバ管理の業務負担も増加していった(甲22[1〜2頁]、乙10、12

[6〜7頁])。

(ウ) 本件電子掲示板については、利用者の増加に伴い、プログラムの修正や追加、

あるいは不要なデータの削除等の作業を控訴人が一人で行うことが事実上不可能と

なっていった一方で、その維持や機能向上等に協力すべく、インターネット上で、

プログラムの修正等の作業や、不要又は不適切な投稿の削除等の作業に参加を申し

出る有志の技術者(ボランティア)が現れ、それらの者の協力を得ながら、巨大な

電子掲示板群として運営されるようになっていった。もっとも、そのようなボラン

ティアの中で、本件電子掲示板のプログラムの修正等に参加する技術的ボランティ

アは、少数であり、B(ハンドルネームは「B’」、「B’’’」など)、G(ハ

ンドルネームは「G’」など)、D(ハンドルネームは「D’」など)、H(ハン

ドルネームは「H’」、「H’’」など)、I(ハンドルネームは「I’」など)

及びJ(ハンドルネーム)の6名がその中心となっていたもので、控訴人は、上記

6名に対して技術的ボランティアとして参加することを、自ら又はBを通じて、明

示的又は黙示的に許諾し、その作業に必要な本件サーバへのアクセス権限は、控訴




人又はBから、他の技術ボランティアに与えられていた。そのようにして、控訴人

は、プログラムの修正等の作業はそれら技術的ボランティアに委ねる一方、自らは

不要なデータの削除作業等を行うようになっていった。なお、平成26年1月25

日当時の本件電子掲示板の「使い方&注意」の「★や◆のついてる名前はなに?」

という項目には、「★はキャップ機能といって、本物にしかつかない証拠です。運

営関係やボランティアさんなど、本物の証明が必要な人だけに発行してます」 「◆


はトリップ(一人でキャップ) 名前欄に
で、 「#好きな文字列」をいれるだけです。 、


「無償で手伝ってくださっている運営ボランティアの皆さんです。」、「運営ボラ

ンティアの方々には、一切の義務と責任はありません。削除をしたことに対する責

任は、管理者にあります。」、「誰がどんな仕事をしているか、おいらと一部の人

しか知りません。」などという記載があり、「運営ボランティア」の項目には、「中

には、掲示板の設定や変更をしたり、スレッドを直したり、いろんなことができる

人もいます」などという記載が、「どうしたらボランティアになれるの?」の項目

には、「削除屋さんや復帰屋さんになりたい人は、運営系の板をたまに読みましょ

う。資格は特に必要ありませんが、すこしだけ2ちゃんねるの仕組みをわかってい

るといいかも」、「削除屋さん・削除人さん・復帰屋さんじゃなくても、活躍して

くれてる人がいっぱいいます」、「直接運営には関わっていなくても、2ちゃんね

る関係のツールやサイトを作ってくれるとか、ボランティアな人は大勢います。そ

ういうボランティアに関することは、管理者までメールをお願いします。」などと

いう記載があった。(甲10、24の1〜23、甲31、36〜39、40の1、

甲41、42、51、56、57、乙25、28、29の1・2、乙30の1・2、

乙31〜34の各1・2、乙36・37の各1・2、乙38の1〜4、乙40、5

4、57、58。なお、上記の技術ボランティア6名のうち、Bのほか、Jもゼロ

社の関係者であったことがうかがわれるが、その他4名が、ゼロ社又はNTテクノ

ロジー社若しくは被控訴人の従業員その他の関係者であったと認めるに足りる証拠

はない。)




ウ NTテクノロジー社は、平成13年に、本件電子掲示板のアダルト版(成人

向けの話題を扱う掲示板)ということができるPINKちゃんねるを開設し、平成

14年頃以降、本件電子掲示板の古いスレッドを閲覧できるといった利点を有する

ビューアソフトとして同年頃に開発された「●」(以下「2ちゃんねるビューア」

ということがある。)の販売及び運営を行うようになり、その売上げを取得するよ

うになった(甲43、乙10、11、12、15、18、43)。

エ(ア) 平成14年当時、本件電子掲示板に広告を掲載することによって生じる広

告料収入等の売上げは東京プラス社が受領していたところ、控訴人とNTテクノロ

ジー社のAは、この頃、東京プラス社が受領した同売上げについて、NTテクノロ

ジー社に対し、少なくとも当面は月額2万米ドルを支払うことを合意した(甲21、

22[4〜5頁]、乙10、12[3・24・31頁]。ただし、上記金員の支払

の趣旨については当事者間に争いがある。)。その後、控訴人又は東京プラス社名

義で、NTテクノロジー社に対し、平成26年2月頃までの間、上記合意を踏まえ

た送金が行われたが、実際の送金額は変動していたもので、平成25年7月10日

から平成26年2月21日までの7か月余りの間に、東京プラス社からNTテクノ

ロジー社に送金された額は33万米ドルに上っていた(甲21、22[6・16頁]、

26の2、甲45の1の1〜3、甲45の2の2、甲45の4の1〜17の各1・

2、乙10、12[20〜22頁])。

(イ) 平成14年頃以降の本件電子掲示板の利用者の増加に伴い、本件サーバ(N

T)の維持管理コストも増加していったが、NTテクノロジー社は、控訴人又は東

京プラス社からの前記(ア)の送金に加え、2ちゃんねるビューアの売上げを月額1

0万ドル程度取得していたことなどから、利益を得ていた(乙11、12[3〜7・

31頁])。

オ 被控訴人は、その設立後間もない頃より、NTテクノロジー社が本件電子掲

示板に関連して行っていた業務をNTテクノロジー社に代わって担うようになり、

これに伴い、NTテクノロジー社は、本件電子掲示板については、本件サーバ(N




T)に係る業務に特化することになった。もっとも、2ちゃんねるビューアの売上

げはNTテクノジー社が取得し、そこから被控訴人に対して一定額の支払がされる

形となっていた。(乙11、12[5〜7・27頁])」

(6) 原判決13頁12行目の「平成16年12月に月刊誌が主催する」を「月刊

誌「Yahoo! Internet Guide」で実施された選考において、平成16年12月に」に、

同頁19〜20行目の「出席した」を「出席し、そのことがネットニュースで報道

された」にそれぞれ改める。

(7) 原判決14頁12行目の「平成21年1月4日」を「平成25年1月16日

及び平成26年1月25日」に、同頁16行目の「乙5」を「甲31、乙5の1」

にそれぞれ改める。

(8) 原判決14頁17行目の「原告は、著書である」を「控訴人が著者となって

いる」に、同頁18行目の「おいて」を「おいては、「“元”「2ちゃんねる」管

理人のXこと、X’です。」」に、同頁24行目の「と記載した(乙9の1、9の

2)。」を「、「モンスター社は、4、5年前に作った会社でして、映画「モンス

ターズ・インク」に登場する「モンスターズ・インク」という会社を実在させたく

て作っただけの会社で、特に何かしようと思って作ったわけではありませんでした。

そこで、モンスターズ社が所有しているドメインの所有権と、僕が持っている2ち

ゃんねるの営業権を、パケットモンスター社にまとめてしまおうと考えたのです。、


「ちょっと前から2ちゃんねるの運営に関して僕のやることがほとんどなかった」、

「記事の削除やIPアドレスの制限、苦情が入ったり殺人予告が行われたときにア

クセスログを提出する、といったものはすでにシステム化されていて、ほとんど関

与していなかったのです。」などと記載されている(乙3)。」にそれぞれ改める。

(9) 原判決14頁25行目冒頭から同15頁7行目末尾までを次のとおり改める。

「サ(ア) 警視庁は、平成23年11月及び平成24年3月、本件電子掲示板にお

いてされた覚せい剤取引の広告を目的とする書込みを削除しなかったことが覚せい

剤売買のほう助に当たるとして、ブラジル社の事務所及び控訴人の自宅等の捜索差




押えを行った(甲15〜17、22[12頁]、乙16、21)。

(イ) また、本件電子掲示板においてイベントの参加者を殺害するなどの予告がさ

れた事件について、警視庁及び大阪府警は、平成24年12月、ブラジル社の事務

所及び控訴人の自宅等の捜索差押えを行った(乙21。なお、後にウイルス感染に

よる遠隔操作によって犯罪予告の書き込み動作がされたことが判明したことがうか

がわれる。)。

(ウ) 前記(ア)に関し、平成24年12月21日付けのスポーツ報知の記事には、同

月20日に警視庁サイバー犯罪対策課が「2ちゃんねる開設者で元管理人の」控訴

人を書類送検したこと、控訴人は「2009年に2ちゃんねるの事業を海外の企業

に譲渡し、管理人を退いたとされる」が、「警視庁は、その後も2ちゃんねるの広

告収入を得るなど同サイトの運営に関与していたと判断した」こと、「削除要請を

受けた書き込みの扱いをめぐり、運営幹部からメールで相談を受けていたことも確

認され、掲示板を実質的に管理する立場にあったとみて捜査していた」ことなどの

ほか、本件電子掲示板について、控訴人が「1999年に開設したインターネット

の掲示板サイト」であり、控訴人が「通称「X’」として管理に当たっていた」こ

となどが記載されていた(甲15)。」

(10) 原判決15頁9行目の「12月の」から同頁11行目の「捜索差押え」まで

を「平成24年3月の警視庁による捜索差押え並びに平成24年12月の警視庁及

び大阪府警による捜索差押え」に改める。

(11) 原判決15頁17行目の「3月」を「6月」に、同頁20行目の「閲覧数が

29億」を「PVが27億(参考値)」にそれぞれ改める。

(12) 原判決16頁2行目の「受けた旨の記事」を「受けた旨や、そうした資金の

流れは警視庁の捜査の過程で把握され、権利の譲渡が無償であったことも判明した

旨、警視庁もパケットモンスター社をペーパーカンパニーとみている旨などを記載

した記事」に改める。

(13) 原判決16頁3行目の「個人情報」を「利用者の個人情報」に、同頁6行目




の「追い込まれた(乙12[19頁])」を「追い込まれ、その頃以降、Aと控訴

人との間で、本件電子掲示板の広告収入から東京プラス社がNTテクノロジー社に

送金する額について交渉がされた。(甲43、乙11、12[11〜13・19・

29〜30頁]、18、43)」に改め、その次に改行して次のとおり加える。

「タ NTテクノロジー社(A)は、平成26年2月19日、控訴人に無断で、

本件サーバ(NT)のパスワード等を変更し、控訴人が本件サーバ(NT)にアク

セスできないようにした。これにより、東京プラス社及び控訴人は、同日以降、本

件電子掲示板の広告収入を取得できなくなり、NTテクノロジー社が広告収入を取

得するようになった。NTテクノロジー社が同年3月頃に得た広告収入は、月額1

5万米ドル程度であった。なお、上記の間に、NTテクノロジー社は、東京プラス

社に対し、同年2月19日付けで、「Internet Services」名目で5万米ドルを請求

し、東京プラス社は、同月21日、NTテクノロジー社に同額を送金した。(甲2

1、22[6〜7頁]、26の1・2、甲45の2の1・2、乙12[11・16・

18〜19・32〜33頁])」

(14) 原判決16頁7行目の「タ」を「チ」に改め、同頁14行目冒頭から18行

目末尾までを削除する。

(15) 原判決16頁19行目の「4月」を「3月ないし4月」に改め、同頁25行

目の「『5ちゃんねる』」の次に「及び」を加える。

(16) 原判決17頁12行目及び15行目並びに同18頁3行目の各「ドル」をい

ずれも「米ドル」に改め、同17頁15行目末尾に「(甲23)」を加え、同18

頁10行目末尾の次に改行して次のとおり加える。

「ト なお、平成23年(2011年)版の「現代用語の基礎知識」では、「2

ちゃんねる/2ちゃん/2ch」の項目について、「2ちゃんねる自体はニワンゴ

の取締役にも名前を連ねるX(X’)が開設し、管理人として公開していたが、2

009年に「PACKET MONSTER INC.」という会社に管理が譲渡された。」と記載され

ている(甲4、乙1)。」




(17) 原判決18頁13行目の「9の2」の次に「、51の1・2」を、同19頁

3行目の「2日」の次に「及び平成24年4月26日」を、同19頁6行目の「2

の2」の次に「、44及び45の各1・2」をそれぞれ加え、同19頁7行目の「3

日」を「3日までに」に、同19頁16行目の「原告は」を「控訴人においては」

にそれぞれ改め、同19頁17行目の「持たないことを」の次に「証明すべきとこ

ろ、これを」を加える。

3 争点1−1(原告商標1及び2と被告標章1及び2の類否並びに被控訴人に

よる被告標章1及び2の使用の有無)について

次のとおり改めるほかは、原判決の第3の3に記載するとおりであるから、これ

を引用する。

(1) 原判決19頁23行目の「原告商標1」から「類否」までを「原告商標1及

び2と被告標章1及び2の類否並びに被控訴人による被告標章1及び2の使用の有

無」に改める。

(2) 原判決20頁12行目冒頭から13行目末尾までを次のとおり改める。

「(3) 被告標章1及び2の使用について

ア 前記第2の2(4)のとおり、被控訴人は、本件関与期間において、被告標章1

及び2を使用していた。

イ これに対し、前記第2の2(2)イのとおり、平成29年10月1日に本件電子

掲示板について名称が変更されるなどして以降、被控訴人が被告標章1及び2を使

用したことを認めるに足りる証拠はない。

この点、控訴人は、@被告標章1及び2を用いた Google 検索の結果(甲61の

1・2)並びにAブラウサ?のアドレスバーに被告標章2を入力すると5ちゃんねる

に自動転送されることを指摘して、それらは被控訴人が被告標章1及び2を使用し

ていることを示すものである旨を主張する。しかし、上記@は Google 検索のシステ

ムに係る事情が関係している可能性がある一方で、これに被控訴人が何らかの関与

をしていることを認めるに足りる証拠は存在せず、上記@をもって被控訴人による




被告標章1及び2の使用と評価することはできず、上記@から被控訴人によって被

告標章1及び2が使用されているという事実を推認することもできず、他に同事実

を認めるべき証拠もない。また、上記Aについても、アドレスバーで使用される検

索エンジンのシステムに係る事情や本件ドメインに係る設定等が関係している可能

性がある一方で、これらに被控訴人が何らかの関与をしていることを認めるに足り

る証拠は存在せず、上記Aをもって被控訴人による被告標章1及び2の使用と評価

することはできず、上記Aから被控訴人によって被告標章1及び2が使用されてい

るという事実を推認することもできず、他に同事実を認めるべき証拠もない。

したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

ウ 以上より、控訴人が被控訴人による被告標章1及び2の使用があると主張す

る期間のうち、本件関与期間に限って、被控訴人は被告標章1及び2を使用してい

たものと認められる。」

4 争点1−2(被控訴人は被告標章1及び2について先使用権を有するか)に

ついて

(1) 「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章の周知性について

次のとおり改めるほかは、原判決の第3の4(3)に記載するとおりであるから、こ

れを引用する。

ア 原判決20頁23行目の「前記認定事実」を「原判決の第3の2を訂正の上

で引用した前記2の認定事実(以下、同認定事実の一部を指す場合、訂正後の項目

名に従って「前記2(1)ア」などという。)」に、同20頁26行目の「前記2(2)

ア、ウ、エ」を「前記2(2)ア・イ(イ)」に、同21頁7行目の「(前記2(2)キ)」

を「ものとみられる(前記2(2)キ参照)」にそれぞれ改める。

イ 原判決21頁8〜9行目の「被告標章1及び2」を「「2ちゃんねる」の標

章及び「2ch.net」の標章(前記第2の2(2))」に、同頁11〜12行目の「閲覧

数が29億」を「PVが27億(参考値)」にそれぞれ改める。

(2) 「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章が被控訴人について「自己の




業務に係る商品又は役務を表示するものとして」(商標法32条1項)周知であっ

たといえるかについて

ア 控訴人が平成11年5月頃に自らプログラムやレンタルサーバを準備した上

で本件電子掲示板を開設したこと(前記2(2)ア)、その後、利用者の増加に伴い、

ボランティアの協力によって本件電子掲示板の維持や機能向上等が図られるように

なり、控訴人は不要なデータの削除作業等を行うようになっていったものの、本件

電子掲示板のプログラムの修正等に参加する技術的ボランティアは、控訴人から、

又は、NTテクノロジー社のサーバの使用を控訴人に申し出て控訴人の了承を得る

などして平成12年頃から本件電子掲示板の運営に関与していたBから、技術的ボ

ランティアとして参加することの許諾を得るなどしていたこと(同(2)イ(ア) (ウ))
・ 、

平成14年頃から平成26年2月に至るまで、本件電子掲示板の広告料収入は控訴

人が代表取締役を務める東京プラス社が取得し、その中から控訴人名義でNTテク

ノロジー社に送金がされるなどしていたこと(同(1)ウ、(2)エ(ア))、平成16年及

び平成17年に控訴人が対外的にも本件電子掲示板の管理人として活動し、平成1

8年5月12日発行の「2ちゃんねる公式ガイド2006」にも控訴人が本件電子

掲示板の生みの親であることなどが記載されていたこと(同(2)カ、キ)のほか、そ

の後も控訴人が平成18年当時本件電子掲示板の管理人であったことに沿う事実が

認められること(同(2)ク〜シ・セ・ト)を考慮すると、前記(1)で原判決の第3の

4(3)を訂正の上で引用して認定したように「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」

の標章が周知性を獲得したというべき平成18年の時点において、その役務の提供

の主体は、控訴人であったというべきである。

イ(ア) 他方で、本件全証拠をもってしても、平成18年の時点及びそれ以降平成

26年3月27日(原告商標2の出願日)までのいずれかの時点において、「2ち

ゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章が、NTテクノロジー社又は被控訴人の業

務に係る役務を表示するものとなったとみるべき事情は認められない。

(イ) この点、NTテクノロジー社については、本件電子掲示板のサーバを提供し




たこと(前記2(2)イ(ア))や、PINKちゃんねるを開設し、2ちゃんねるビュー

アの販売及び運営を行うようになったこと(同(2)ウ)、平成14年頃以降、本件電

子掲示板の広告料の売上げからの送金を受けていたほか、2ちゃんねるビューア「●」

の売上げを取得していたこと(同(2)ウ・エ)、本件ドメイン名について平成17年

5月10日時点でAが運営面に関する連絡先として登録されたりNTテクノロジー

社が登録サービス提供者として登録されたりしていたこと(同(3)イ〜カ)が認めら

れる。

しかし、サーバの提供者が直ちに当該サーバを用いた事業の運営者となるもので

はないことは明らかである。また、PINKちゃんねるは、あくまで本件電子掲示

板とは別個のアダルト版の掲示板として運営されていたことがうかがわれるから

(弁論の全趣旨)、それを開設等したことからNTテクノロジー社が本件電子掲示

板の運営者となったということはできない。2ちゃんねるビューアの販売及び運営

についても、本件電子掲示板の古いスレッドを閲覧できるなどといったその利点か

らして、2ちゃんねるビューアは、掲示板の中核的な機能というべき文書等の掲示、

すなわち、本件電子掲示板における書込みや直近の掲示板の閲覧という機能と比べ

ると補足的な機能に係るものにすぎないといえ、その販売及び運営が直ちに本件電

子掲示板本体の運営者であることを基礎付けるものとはいえない(この点、被控訴

人は、NTテクノロジー社が2ちゃんねるビューアを開発したと主張するが、当該

事実を認めるに足りる証拠もない。)。本件電子掲示板の広告料の売上げからの送

金についても、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)を本件電子掲示板のため

に提供していたことからすると、控訴人が主張するように同提供の対価とみること

もでき、本件電子掲示板の運営者であることを基礎付けない(なお、平成26年2

月の段階でも、NTテクノロジー社は、東京プラス社に対し、
「Internet Services」

名目で金員を請求していたところである(前記2(2)タ)。)。本件ドメイン名の登

録に係る前記事情についても、そもそもドメイン名の登録名義と当該ドメインを用

いた事業の主体が同一であるという経験則が確固として存在するとは解し難いこと




に加え、NTテクノロジー社が本件サーバ(NT)の提供者であったことや、本件

電子掲示板の事業形態等に変動があったことが他の証拠から特段うかがわれない時

期においても本件ドメイン名の登録情報が頻繁に変更され、かつ、それには単に名

義のみの変更であったことがうかがわれる複数の会社が含まれていること(同(1)

エ、同(2)コ・サ(ウ)・セ、同(3)ア〜カ)を踏まえると、NTテクノロジー社が本件

電子掲示板の運営者であったことを裏付けるものとはいえない。

上記に関し、Aの陳述報告書(乙10、11)及び尋問調書の写し(乙12)に

は、NTテクノロジー社が本件電子掲示板のプログラミング等に関与していた旨の

陳述ないし供述の記載があるが、そのような関与をするに至る経緯や具体的な関与

態様について何ら触れるものでなく、上記記載からそのような関与の事実を認める

には足りず、他に当該事実を認めるに足りる証拠はない。

また、被控訴人は、B及びその他のゼロ社の関係者が本件電子掲示板のプログラ

ムの修正等に深く関わっていたことを主張するが、BがNTテクノロジー社の代理

人等として当該修正等を行っていたと認めるに足りる証拠はなく、また、ゼロ社と

NTテクノロジー社を一体的なものとみるべき事情等も認められないから、被控訴

人の上記主張は、NTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営者であったことを根

拠付けるものとはいえない(なお、一般に、ウェブサイトのプログラムの作成や修

正等は、当該ウェブサイトに係る事業の運営者によって行われる場合もあれば、当

該運営者から委託を受けた第三者によって行われる場合等もあるのであって、単に

本件電子掲示板のプログラムの修正等に深く関与したという事実から、本件電子掲

示板の運営者であることが直ちに基礎付けられるものでもない。この点、本件電子

掲示板のボランティアについては、その関与態様のほか、少なくとも平成26年1

月25日当時、ボランティアには一切の義務も責任もない旨が本件電子掲示板に明

記されていたこと(前記2(2)イ(ウ))も考慮すると、ボランティアにおいて、自ら

が控訴人とともに本件電子掲示板の運営者の一人であるとして本件電子掲示板のプ

ログラムの修正等の作業に参加していたものとは解し難く、Bにおいては特に本件




電子掲示板への関与が深かったことがうかがわれることを考慮しても、なお、Bに

ついても他のボランティアと異なるものとは直ちに認め難いところである。)。

付言するに、東京プラス社がNTテクノロジー社を被告として提起した訴訟の控

訴審判決において、NTテクノロジー社が共同事業と称するのも理解できる旨など

が述べられているが(前記2(2)テ)、それは、2ちゃんねるビューアの販売収益等

も含めた評価であって、本件電子掲示板の運営に限らず、より広く本件電子掲示板

及びそれに関連する事業における東京プラス社とNTテクノロジー社の関係性につ

いていうものとみることができ、NTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営者で

あったとは認められないとの前記判断と矛盾するものではない。

(ウ) 被控訴人については、NTテクノロジー社が本件電子掲示板に関連して行っ

ていた業務を引き継いだこと(前記2(2)オ)や、平成24年5月3日までに本件ド

メイン名の登録者となったこと(同(3)カ)、世界知的所有機関の調停仲裁センター

により被控訴人による本件ドメイン名の使用が正当なものと認められたこと(同(3)

キ)が認められるが、前記(イ)のとおりNTテクノロジー社が本件電子掲示板の運営

者であったとは認められない以上、被控訴人が引き継いだ業務(その内容は明確で

はないが、少なくとも本件関与期間の開始時点前日である平成26年2月18日ま

では、PINKちゃんねるに関する業務や、2ちゃんねるビューアに関する業務で

あったとみられる。)をもって、被控訴人が本件電子掲示板の運営者であることを

基礎付けるものとはいえず(なお、Bやゼロ社の作業ないし業務をもって被控訴人

によるものとみるべき事情も見当たらない。)、本件ドメイン名の登録者となった

ことについても、前記(イ)で指摘した点に照らし、被控訴人が本件電子掲示板の運営

者であったことを裏付けるものではない。また、上記調停仲裁センターの判断につ

いても、あくまで当該事件について適用されるべき手続規則に基づく立証責任と当

該事件において提出された証拠に基づく判断であると解され、本件の判断を左右す

るものではない。

(3) まとめ




以上によると、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人が被告標章1

及び2について先使用権を有するものとは認められない。

5 争点1−3(商標法4条1項10号に該当することを理由とする無効の抗弁

の成否)について

(1) 被控訴人は、平成25年1月25日時点では、原告商標1及び2がパケット

モンスター社の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されて

いたと主張する。

(2) しかし、前記4(2)アで認定判断したように、「2ちゃんねる」の標章及び

「2ch.net」の標章が周知性を獲得したというべき平成18年の時点において、その

役務の提供の主体は、控訴人であったというべきところ、控訴人においてその後に

行ったと述べるなどしていた平成21年のパケットモンスター社への本件電子掲示

板の管理運営権の譲渡(前記2(2)ク〜コ、同(3)オ)については、当該譲渡を裏付

ける十分な証拠がなく、むしろ、それが名目的なものであったことをうかがわせる

事情があるのであって(前記2(1)エ、同(2)コ・サ(ウ)・セ)、原告商標1及び2の

各出願日時点で、本件電子掲示板の運営者が専らパケットモンスター社であって控

訴人はもはや運営者ではないと需要者が広く認識していたものとは認められない。

また、証拠(乙9の1・2)によると、被控訴人は、原告商標1及び2について、

それぞれ無効審判請求をし(無効2017−890013号及び無効2017−8

90014号)、その際、無効理由の一つとして、「他人」であるパケットモンス

ター社が平成21年1月以降の本件電子掲示板の役務を提供していたことが周知で

ある旨(商標法4条1項10号)を主張したが、特許庁は、平成29年10月25

日、いずれの請求についても上記主張を排斥して審判請求不成立の審決をしたこと、

これに対して、被控訴人は、それぞれ審決取消の訴えを提起し(知財高裁平成30

年(行ケ)第10028号、同第10029号)、そこでも審決取消事由として上

記と同様の主張をしたが、知財高裁は、平成30年7月19日、いずれの訴えにつ

いても当該主張を排斥して請求棄却の判決をしたことが認められる。したがって、




争点1−3についての被控訴人の主張は、信義誠実の原則の観点からも、認められ

ないというべきである。

(3) 以上によると、原告商標1及び2が商標法4条1項10号に該当するものと

して無効であるとは認められない。

6 争点2−1(被控訴人による被告標章1及び2の使用が不競法2条1項1号

又は2号の不正競争行為に該当するか)について

前記4で指摘した点に加え、平成19年以降の事情(前記2(2)コ・サ・ス・セ・

ト)を考慮すると、本件関与期間に至るまでの間において、「2ちゃんねる」の商

品等表示及び「2ch.net」の商品等表示(これと類似する「2ch」の商品等表示を

含む。以下同じ。)は、控訴人の商品等表示として需要者に著名であったと認めら

れる。

そして、本件関与期間において、被控訴人は、上記商品等表示と同一又は類似の

被告標章1及び2を使用したものである(前記第2の2(4))ところ、平成26年2

月19日にNTテクノロジー社(A)によって控訴人に無断で控訴人の本件サーバ

(NT)へのアクセスが遮断されたこと(前記2(2)タ)、被控訴人は、NTテクノ

ロジー社のために本件電子掲示板に関連するプログラミングなどを行う会社として、

Aも出資して設立された会社であり、NTテクノロジー社と密接な関係にあり(乙

12[5、14頁〕、弁論の全趣旨。被控訴人も、NTテクノロジー社と被控訴人

を併せて「被控訴人側」などと主張している。)、NTテクノロジー社と被控訴人

との間では被控訴人が本件電子掲示板に関連する業務を分担することが合意されて

いたことがうかがわれること(同オ)、同日当時、本件ドメイン名の登録名義も被

控訴人であったとみられること(同(3)カ)からすると、本件関与期間において、被

控訴人は、控訴人に無断で、著名な控訴人の商品等表示が使用された本件電子掲示

板の運営から控訴人を排除して自らがその運営者となり、当該商品等表示と同一又

は類似の被告標章1及び2を使用したもので、被控訴人による上記の被告標章1及

び2の使用は、被控訴人の商品等表示としての、他人である控訴人の著名な商品等




表示の使用であり、また、その使用について、被控訴人には少なくとも過失があっ

たとみるのが相当である。

したがって、本件関与期間における被控訴人による被告標章1及び2の使用は、

不競法2条1項2号の不正競争行為に当たり、控訴人は被控訴人に対して損害賠償

請求をすることができるというべきである。

上記に関し、被控訴人の主張する先使用権が認められないことは、前記4で認定

判断したとおりであって、それにもかかわらず、被控訴人による被告標章1及び2

の使用が上記不正競争行為に当たらないとみるべき事情は認められない。

7 争点2−2(被控訴人による本件ドメイン名の使用が不競法2条1項19号

の不正競争行為に該当するか)について

(1) 控訴人は、@被告標章1及び2を用いた Google 検索の結果(甲61の1・

2)及びAブラウサ?のアドレスバーに被告標章2を入力すると5ちゃんねるに自動

転送されることを指摘して、それらは本件ドメイン名を使用していることを示すも

のである旨を主張する。

しかし、上記@は Google 検索のシステムに係る事情が関係している可能性があ

る一方で、これに被控訴人が何らかの関与をしていることを認めるに足りる証拠は

存在せず、上記@をもって被控訴人による本件ドメイン名の使用と評価することは

できず、上記@から被控訴人によって本件ドメイン名が使用されているという事実

を推認することもできず、他に同事実を認めるべき証拠もない。

また、上記Aについては、アドレスバーで使用される検索エンジンのシステムに

係る事情や本件ドメインに係る設定等による可能性がある(被控訴人もそのこと自

体は認めるものと解される。)一方で、被控訴人が当該設定等を行ったことやそれ

に現在も関与していることを認めるに足りる証拠は存在せず(なお、平成30年時

点の自動転送の状況として控訴人が提出する甲3は、「5ちゃんねる」のウェブサ

イトに係るものであるが、同サイトで本件ドメイン名が使用されていることは認め

られず(なお、乙61参照)、また、同サイトには Loki 社が被控訴人から本件電子




掲示板の管理運営権を譲り受けた旨の記載がある。他方、令和2年2月5日時点の

本件ドメイン名の登録者は、「Anonymize, Inc.」となっている(甲29、弁論の全

趣旨)。)、上記Aの事実から本件関与期間の後における被控訴人による本件ドメ

イン名の使用を認めるには足りない。

(2) したがって、被控訴人が本件ドメイン名を本件関与期間の後も使用している

とは認められない。

(3) なお、本件において、控訴人は、本件損害賠償請求について、商標権侵害を

根拠とする場合も不正競争行為を根拠とする場合も同様の損害の主張をしており、

不正競争行為の態様によって損害の主張を区別していないところ、不競法2条1項

1号又は同項19号の不正競争行為を根拠とする場合の損害額が同項2号の不正競

争行為又は商標権侵害を根拠とする場合の損害額を超えるものとは解されないか

ら、前記3〜6によって、原告商標権の侵害及び同項2号の不正競争行為が認めら

れる以上、争点2−1のその余の部分及び争点2−2のその余の部分については判

断を要しないというべきである。

8 争点3(差止めの必要性)について

被控訴人が被告標章1及び2並びに本件ドメイン名を現在使用していると認めら

れないことは、前記3及び7で判断したとおりであるところ、それにもかかわらず、

被控訴人に対して被告標章1及び2並びに本件ドメイン名の使用の差止めを命じる

べき事情は、本件全証拠をもってしても認められない。

9 争点4(損害論)について

(1) 前記3〜6の認定判断及び前記第2の2(3)の事実によると、控訴人は、被控

訴人に対し、本件関与期間における被控訴人の被告標章1及び2の使用について、

@平成26年2月19日から平成28年4月21日までは不競法2条1項2号の不

正競争行為について不競法4条に基づき、A同月22日から同年5月19日までは

上記不正競争行為について不競法4条に基づくとともに原告商標2に係る原告商標

権の侵害について民法709条に基づき、B同月20日から平成29年9月30日




までは上記不正競争行為について不競法4条に基づくとともに原告商標1及び2に

係る原告商標権の侵害について民法709条に基づき、損害賠償を請求することが

できるというべきである。

この点、本件関与期間における被控訴人による被告標章1及び2の使用の態様に

照らすと、損害額の検討に当たり、上記@〜Bの期間を特に区別する必要はないと

いうべきである。

(2) その上で、損害額について検討するに、NTテクノロジー社(A)が控訴人

に無断で本件サーバ(NT)へ控訴人がアクセスできないようにして控訴人が本件

電子掲示板に係る広告収入を得られなくなった日であり本件関与期間の初日である

平成26年2月19日から間近の同年3月頃、NTテクノロジー社が受領した広告

収入は、月額15万米ドル程度に上った(前記2(2)タ)。

また、平成25年7月10日から平成26年2月17日までの7か月余りの間に、

東京プラス社がNTテクノロジー社に対し、本件電子掲示板の広告収入から送金し

た金額は33万米ドルに上っていた(同エ(ア)。乙19によると、同額は日本円に換

算して3361万2100円(月額にして約480万円)であったことがうかがわ

れる。)。なお、それより前、平成23年5月9日から平成24年10月30日ま

での約1年6か月の間に、東京プラス社がNTテクノロジー社に対し、本件電子掲

示板の広告収入から送金した金額は、少なくとも52万米ドル(日本円に換算する

と4166万1200円(月額にして約231万円))であったことがうかがわれ

る(甲21、22、乙19)。

そして、Aの尋問調書の写し(乙12)には、本件電子掲示板の平成27年の広

告に係る売上げは、大体毎月15万米ドルほどであった旨の供述記載がある(同1

8頁)。

なお、控訴人の課税証明書(甲20の1〜5)によると、年によってかなり変動

があるものの、平成22年から平成25年の収入を合計して月数で除すると、月額

624万0929円となる。また、控訴人は、陳述書(甲56)で、ほとんどが本




件電子掲示板からの広告収入であった旨を述べている。さらに、控訴人の尋問調書

の写し(甲22)には、本件電子掲示板からの収入が月額1000万円くらいであ

った旨の供述記載がある(同3頁)。

(3) 前記(2)で指摘した諸事情を踏まえると、平成26年ないし平成27年当時、

控訴人の本件サーバ(NT)へのアクセスを遮断することによってNTテクノロジ

ー社が得た広告収入は月額15万米ドル程度に上っていたものとみられるところで

ある。そのことと、@本件関与期間の初日である平成26年2月19日から末日で

ある平成29年9月30日までの間に本件電子掲示板の広告収入が大きく変動した

(特に減少した)ことを示すような事情はうかがわれないことや、A東京プラス社

がNTテクノロジー社に対して本件電子掲示板の広告収入の全額を送金していたと

は考え難く、広告収入の額は送金額よりも大きかったとみられることのほか、B平

成26年2月時点において、本件電子掲示板の運営について、控訴人が、NTテク

ノロジー社に控訴人ないし東京プラス社名義で送金していた額以外に多額の経費を

支出していたことがうかがわれる事情も見当たらないこと(なお、前記(2)イ(ウ)の

とおり、本件電子掲示板の維持や機能向上等には、ボランティアが広く関与してい

たところである。)なども考慮すると、前記(2)で指摘した諸事情から、本件関与期

間において被告標章1及び2を使用した本件電子掲示板を運営することができなか

ったことによって控訴人が受けた損害の額は、控訴人が主張する月額500万円を

下らないものと推認することができ、この推認を覆す事情は見当たらない。そして、

上記の損害が専ら本件電子掲示板の広告収入の喪失に係るものであって、「2ちゃ

んねる」及び「2ch.net」の商品等表示並びに原告商標1及び2の使用により本件電

子掲示板を訪問した者の数に応じてその額が定まるものというべきこと(甲5参照)

からすると、当該損害は、被控訴人の不競法2条1項2号の不正競争行為並びに本

件電子掲示板における被告標章1及び2の使用による原告商標権の侵害により生じ

た損害と評価すべきである。

(4) したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件関与期間(平成26年2月1




9日から平成29年9月30日まで)の43か月と12日間について月額500万

円の損害である2億1700万円(500万円×(43か月+12日÷30日))の

損害を請求することができる。

第4 結論

以上によると、控訴人の本件訴えのうち当審の口頭弁論終結日の翌日である令和

4年11月29日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えは不適

法であるから却下すべきであり、その余の本件損害賠償請求につき、2億1700

万円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却す

べきであり、また、控訴人の被告標章差止請求及び本件ドメイン差止請求には理由

がないから棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の被告標章差止請求を認容し、

本件ドメイン差止請求を棄却し、控訴人の本件訴えのうち令和元年11月2日以降

に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下し、その余の本件損害

賠償請求を棄却した原判決は一部失当であって、控訴人の控訴は一部理由があり、

被控訴人の附帯控訴は理由があることから、控訴人の控訴に基づき、原判決主文3

項を上記のとおり変更し(なお、原判決主文1項については、被控訴人がその変更

を求めていない本件において原判決を控訴人の不利益に変更することは許されない

ことから、原判決が令和元年11月2日から令和4年11月28日までに生ずべき

損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下したところについては変更しな

い。)、また、被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文2項を上記のとおり変更

することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

本 多 知 成




裁判官

中 島 朋 宏




裁判官

勝 又 来 未 子