関連審決 |
無効2023-890038 |
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事件 |
令和
6年
(行ケ)
10075号
審決取消請求事件
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5 原告(無効審判請求人) 株式会社JFIT−Link 被告(同被請求人) 榎酒造株式会社 10 同訴訟代理人弁理士 苫米地正啓 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/11/13 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 15 事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が無効2023−890038号事件について令和6年6月20日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要20 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)(1) 被告その他の酒造会社等は、「貴醸酒」の文字を横書きしてなる商標(本件商標)について、第28類「清酒」を指定商品として昭和51年1月22日商標登録出願をし、昭和55年4月25日に商標法3条1項3号及び同法4条1項16号により拒絶査定を受けたものの、拒絶査定不服審判請求を経て、 25 昭和62年3月30日、同法3条2項の適用が認められ登録審決、同年8月19日設定登録を受けた(登録第1980784号、設定登録時の共有者311名)。 平成6年1月24日までに、他の共有者の持分について被告に移転登録がされ、被告が単独の商標権者となった。 本件商標に係る指定商品については、平成20年4月9日、第33類「清5 酒」とする書換登録がされた。 (2) 原告は、令和5年5月9日、本件商標について無効審判を請求し、特許庁は、同請求を無効2023−890038号事件として審理を行った。無効理由として主張され、判断の対象となったのは、商標法3条1項1号〜3号違反(無効理由1)及び同法4条1項6号違反(無効理由2)であった。 10 特許庁は、令和6年6月20日、「本件審判の請求中、商標法第3条第1項第1号、同項第2号及び同項第3号を理由とする請求は却下する。その余の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は同年7月1日原告に送達された。 (3) 原告は、令和6年7月31日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起15 した。 2 本件審決の理由の要旨(1) 無効理由1(商標法3条1項1号〜3号該当性)について審判請求日である令和5年5月9日は、既に本件商標の設定登録から5年以上が経過しており、当該登録が商標法3条1項1号、2号及び3号に違反20 してされたことを理由とする本件審判の請求は、同法47条1項に規定する期間経過後になされた不適法なもので、その補正をすることができないから、 同法56条1項において準用する特許法135条によりこれを却下する。 (2) 無効理由2(商標法4条1項6号該当性)について「貴醸酒」については、酒造会社の事業に係る特定の清酒を表示する名称25 であって、被告ら酒造会社によって商品「清酒」に使用されてきた商標というべきであり、たとえ、国税庁醸造試験所により開発されたものであったとし2ても、同号にいう「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章」に該当するとはいえない。 また、本件商標の登録審決時において、「貴醸酒」の名称が、当時の「国税5 庁醸造試験所」の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたともいい難い。 そうすると、本件商標は、商標法4条1項6号に該当しない。 3 取消事由(1) 手続違背(取消事由1)10 (2) 商標法4条1項6号該当性の判断の誤り(取消事由2)(3) なお、上記取消事由1、2のほか、原告は、@本件商標は商標法4条1項16号に該当するにもかかわらず、同法3条2項の適用によって商標登録を認めた登録審決は誤りである、A本件商標は同法29条に該当するとの主張もしているところ、これらの主張の取扱いは後述(後記第4の3)する。 15 第3 当事者の主張1 取消事由1(手続違背)について【原告の主張】特許庁の審判手続において、令和6年5月27日に送付された答弁書副本を原告が受領してから同年6月4日に審理終結通知が発送されるまで1週間もな20 く、審判合議体には原告に反論の機会を与えなかった手続違背がある。 【被告の主張】原告の主張は争う。 2 取消事由2(商標法4条1項6号該当性の判断の誤り)について【原告の主張】25 (1) 「貴醸酒」は、新たな醸造方法の開発による醸造技術者の指導育成を行う公益目的の事業であって、その製法に関する特許権者も国税庁長官である。 3開発者の論文(甲13、昭和51年8月15日発行)によれば、「われわれも3年程前から新しいタイプの清酒を開発することを心がけてきた」「清酒を原料にした清酒をつくり、これを貴醸酒とよぶことにした。」とあり、「貴醸酒」の名称は特許製法と不可分の呼称であった。 5 (2) 本件商標についての商標登録出願は、商標法3条1項3号を理由に拒絶査定をされていたから、公共事業として特許庁が認識するほど著名であったというべきである。 甲11(昭和51年6月15日発行)、13の各論文には、「いわゆる貴醸酒」と記載されており、「貴醸酒」が世間に知られていることを示している。 10 なお、甲11には、「貴醸酒という名称は登録商標であり、一般名ではない」とも記載されているが、本件商標はこの時点では未登録で、むしろ上記のとおり拒絶査定を受けているから事実に反するものである。 「貴醸酒」の名称が「国税庁醸造試験所」又は「独立行政法人酒類総合研究所」の業務に係る商品を表示するものとして日本国内で著名であったことを15 客観的に示す証左も見いだせないとした本件審決の認定は誤りである。 【被告の主張】原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断1 取消事由1(手続違背)について20 原告は、特許庁の審判手続において、原告が答弁書副本を受領してから審理終結通知の送付まで1週間もなかったとして、原告に反論の機会を与えなかった手続違背がある旨主張する。しかし、審判合議体には事件の審理が熟したと判断するについて裁量権があるところ、本件の証拠を精査しても、上記の取扱いが原告の防禦権を不当に制限することになるなどの事情は認められず、当該25 裁量権の逸脱があったとは認められない。原告の主張は採用できない。 2 取消事由2(商標法4条1項6号該当性の判断の誤り)について4(1) 証拠(甲3、4、11〜13)及び弁論の全趣旨によれば、現在の独立行政法人酒類総合研究所の前身である国税庁醸造試験所が仕込水の全部あるいは一部に清酒を使用して発酵させることを特徴とした清酒の製法を開発し、開発チームの故 A 博士がこれを「貴醸酒」と名付けたものであること、その5 製法は、昭和49年に特許出願がされ、昭和53年に公告されたが、現在は存続期間が満了していること、昭和51年に、貴醸酒の製造研究と普及を目的に、被告を含む酒造会社等5社が貴醸酒協会を設立し、国税庁醸造試験所を管轄する大蔵省(当時)と実施許諾契約を締結していたこと、特許権の存続期間満了後は技術指導を国税局鑑定官室が行い、貴醸酒協会は商標の管理と加10 盟各社に対して販売のアドバイスを行っていることが認められる。 そうすると、「貴醸酒」が、国税庁醸造試験所において開発された、水の代わりに清酒で仕込んだ製法により醸造された清酒の名称であり、同試験所の故 A 博士によって命名されたものと認めることはできるものの、当該清酒の名称が当然に事業の名称となるものではない。実際に「貴醸酒」として清15 酒を製造販売してきたのは被告を含む貴醸酒協会加盟の酒造会社等であり、 「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行政法人酒類総合研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表示するものとして使用されたとはいえず、まして、そのような表示として本件商標の指定商品の取引者、需要者の間で著名であったことを認めるに足りる証拠はない。 20 (2) 原告は、「貴醸酒」は、新たな醸造方法の開発による醸造技術者の指導育成を行う公益目的の事業であって、製法に関する特許権者も国税庁長官である旨主張するが、貴醸酒を開発したのが国税庁醸造試験所であり、国税庁長官が製法に関する特許権を有していたとしても、直ちに「貴醸酒」がその「事業」を「表示」する標章であったということにはならない。 25 原告は、本件商標についての商標登録出願は、商標法3条1項3号を理由に拒絶されているとか、昭和51年の甲11、13の各論文には、「いわゆる5貴醸酒」と記載されており世間に知られていることを示しているなどと主張するが、いずれも「貴醸酒」の名称が国税庁醸造試験所又はその後身の独立行政法人酒類総合研究所の団体自身やその事業で営利を目的としないものを表示するものとして使用されたことを示すものとはいえず、また、そのような5 表示として「清酒」の取引者、需要者の間で著名であったことを示すものともいえない(「いわゆる」との表現は、その名称を取引者、需要者の中でどの程度の者が認識しているかを示すものではなく、また、その事業主体については何ら示唆するものではない。)。かえって、貴醸酒の命名者を含む共同開発者の論文には、 「貴醸酒という名称は登録商標であり、一般名ではない。 (甲」10 11)、 「貴醸酒という名称は登録商標(貴醸酒協会の会員だけが使用できる)であって、一般名でない」(甲13)との記載があり、国税庁醸造試験所において、「貴醸酒」を同試験所自身やその事業で営利を目的としないものを表示するものとして認識していないことが明らかであり、本件商標の登録の経緯に鑑みても、本件商標を実際に業務に使用し識別力を取得させたのは被告を15 含む酒造会社等であったものというべきである。なお、原告の指摘するとおり、これらの論文は、本件商標が設定登録を受けた昭和62年8月19日より前に発行されたものであるが、そのことは上記認定を左右するものではない。 3 それ以外の原告の主張について20 原告は、@本件商標は商標法4条1項16号に該当するにもかかわらず、同法3条2項の適用によって商標登録を認めた登録審決は誤りである、A本件商標は同法29条に該当するとの主張もしているが、これらは、いずれも本件の無効審判手続において審理・判断されていないから、最高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁の趣旨に鑑み、審決取消訴訟の対象と25 することはできないものというべきである。 なお、上記Aに関していえば、商標法29条は登録が有効であることを前提6に使用の制限を定めるものであって、そもそも同法46条1項の無効審判請求の理由とはならない。 4 結論以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決につい5 て取り消されるべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官10 宮 坂 昌 利裁判官本 吉 弘 行15 裁判官岩 井 直 幸7 |
事実及び理由 | |
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全容
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