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関連審決 不服2000-11003
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 商標性 /  独占的使用 /  識別力 /  包装 /  役務の提供 /  識別機能 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  立体商標 /  立体的形状 /  継続 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 102号 審決取消請求事件
原告 ニチバン株式会社
同訴訟代理人弁理士 木村三朗
同 佐々木 宗治
同 大村昇
同 小林久夫
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 山田正樹
同 林栄二
同 涌井幸一
同 大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
1 特許庁が不服2000-11003号事件について平成15年1月27日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成11年1月28日、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)の別掲のとおりの形状からなり、指定商品を商標法施行規則別表第16類の「粘着テープ」とする立体商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願(商願平11-6179号)をしたが、平成12年6月9日に拒絶査定を受けたので、平成12年7月18日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を不服2000-11003号事件として審理した上、平成15年1月27日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年2月19日、原告に送達された。
2 本件審決の理由 本件審決は、審決書に記載のとおり、本願商標が、商標法3条1項3号に該当するものであって、同法3条2項の要件を具備するものとも認められないから、
登録することはできないとしたものである。
原告主張の審決取消事由の要点
本件審決は、立体商標の登録性についての判断を誤る(取消事由1)とともに、本願商標の認定を誤り、自他商品の識別性の判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(立体商標の登録性) (1) 本件審決は、「商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状・・・は、・・・本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。」(甲1第2頁8〜13行)と判断するが、これは商品等の形状の商標性についての解釈を誤ったものである。
すなわち、立体商標は、商品又は商品の包装の形状よりなるものが主であるが、これを商標として登録し、商標法によって保護することとしたのは、第1に、立体商標に対する保護のニーズが現実に存在するからである。例えば、従前、
立体的形状を平面図形(斜視図や展開図等)として商標登録を得ている事例も少なくなく、また、商品の形状を「商品表示」として不正競争防止法上の保護を求める訴訟も多数存在している。第2に、立体商標について権利を付与するのが、国際的な趨勢となっており、商標制度の国際的な調和を考慮する必要があるからである。
そして、商標法は、商品の形状又は包装の形状は、語、記号、図形などの伝統的商標と同様に、本来、商標たり得るものであり、それらの形状は、商品の出所を表示し、他人の商品から識別する標識として用いる目的でも採用されるものであるとの基本的前提を置いているのである。
本件審決の上記見解は、立体商標について権利を付与する国際的な趨勢及び商標制度の国際的な調和とも反するものである。
(2) また、本件審決は、「商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは・・・商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって、・・・このような商品等の機能又は美感と関わる形状は、多少特異なものであっても、未だ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。」(同2頁14〜22行)と判断しているが、これも誤りである。
すなわち、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されているとき、それらは、商品等の機能又は美感に係るものであっても、自他識別の標識としても機能するものでもあるから、商品等の機能又は美感という一面のみを見て、自他識別の標識としての他の面を見ることなく、上記のように結論づけることは早計にすぎる。しかも、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものであるというが、「普通に用いられる方法」の意味が明瞭でない。
本来、商品等の形状が商標としての識別性を有するか否かについて判断する場合、又はその形状が「普通に用いられる方法」によるものであるか否かについて判断する場合は、個々の事案について個別に行うべきものである。ところが、本件審決は、商品等の形状が商品等の機能、装飾に係るときは、一律に「普通に用いられる方法」での表示であると判断しており、非論理的であるばかりでなく、法の解釈を誤っている。
(3) さらに、本件審決は、「商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。」(同2頁23〜26行)と判断するところ、商品等の形状が、商品等に要求される機能を果たすために必須の形状である場合、その形状を一私人に独占を認めるべきでないことは当然のことと認めるが、全ての商品等の形状が、同種商品について、その商品等の機能を果たすためには、原則的に同様の形状とならざるを得ないという必然性はない。
したがって、本件審決は、この点においても判断の前提を誤っている。
(4) そうすると、本件審決が、上記判断の結論として、「商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、・・・商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けることができない」(同2頁28〜34行)と判断したことも誤りである。
2 取消事由2(本願商標の登録性) (1) 本件審決は、「本願商標は・・・粘着テープ用のディスペンサーそのものを表した立体的形状よりなるもの」(同2頁35〜36行)と認定した上、「取引者、需要者は、粘着テープ用のディスペンサーの形状、すなわち、商品の包装の形状を表示したものと理解する」(同3頁4〜6行)と判断しているが、これは、本願商標の構成を誤認したものである。
ア 粘着テープのディスペンサーは、一般には、テープカッター又はテープディスペンサーと称しており、粘着テープを保持して、使用目的に合わせて適当な長さだけ切断できるよう切断部を設けた器具であって、机上などに置けるよう設計された粘着テープの保持器具のことである。この粘着テープのディスペンサーは、
通常、粘着テープとは別個に販売されるものであって、粘着テープの販売上、そのアイキャッチャーとして粘着テープを識別する標識となり得るものではない。
イ これに対し、本願商標は、両面粘着テープの包装の形状よりなるものである。この粘着テープの包装は、粘着テープを販売する際の商品の重要な構成要素であり、店頭にあって顧客の目を吸引する重要なアイキャッチャーでもある。例えば、本願商標である両面粘着テープの包装の形状は、その特異性により顧客に対するアイキャッチャーとして機能しており、自他商品を識別し顧客を吸引するという商標として機能しているのである。
ウ 以上のとおり、粘着テープのディスペンサーと粘着テープの包装とは、
別異の商品であり、本件審決は、本願商標の認定を誤り、その結果、その識別性の判断を誤ったものである。
(2) 本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状は、原告の両面粘着テープを他から識別する機能を有しているから、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備する。
ア 原告は、昭和41年に両面粘着テープ(商標名「ナイスタック」)を発売して以来、その包装に本願商標の形状を用いており、包装の表面のデザインには多少の変遷はあったが、形状そのものは変化していない。
この原告の両面粘着テープの包装の形状は、原告の創作に係る独自のものであり、当時他に例を見ない斬新なデザインであったので、原告は、実用新案の登録を申請し、第1778700号をもって登録を受けた。この事実によっても、
本願商標が、他社の同種商品の包装の形状とは明瞭に識別することができることが明らかである。
イ 両面粘着テープの業界においては、その包装の形状を含む総体的なデザインを他と異なったものとし、他社製品と識別している。例えば、コクヨ株式会社、ソニーケミカル株式会社(販売はヤマト株式会社)、積水化学工業株式会社、
住友スリーエム株式会社、株式会社共和、不易糊工業株式会社、ビズネット株式会社などの各社は、それぞれ自社製品を他社製品から識別するために独自の工夫をこらし、その形状を、自社製品を表示する標識としても用いている(甲6〜11、検甲2〜7)。
本願商標の形状で構成されている原告の両面粘着テープの包装についてみると、原告以外に上記形状又はこれに類似する形状を両面粘着テープの包装の形状として使用している会社はなく、両面粘着テープの業界において、原告の両面粘着テープは、「ナイスタック」の商標名によると同時に、包装の形状(本願商標)によっても、他社から識別されている。したがって、原告の両面粘着テープの包装の形状は、明らかに自他商品識別の標識として機能している。
ウ 本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状は、昭和41年以来、
継続して広範に原告の両面粘着テープを表示する標識としても使用されてきた結果、商標登録要件としての識別性を取得するに至っている。
ちなみに、本願商標を使用した原告商品の過去10年間における販売数量は、毎年800万個を超えており、両面粘着テープの分野での市場占有率は、圧倒的であって、他社製品を市場で見いだすことは容易でない。このような大量販売の結果、本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状は、原告の両面粘着テープを識別する標識として需要者間に周知されている。
なお、本願商標の指定商品は、「粘着テープ」であり、「粘着テープ」には、テープの片面に粘着剤を塗布したものと、テープの両面に粘着剤を塗布したものとの2種類があり、用途に応じて使い分けされているが、粘着テープとして同一性を有する商品であり、売り場も販売ルートも同一である。本願商標が使用されてきた商品は、両面粘着テープであるが、片面の粘着テープと同一性を有する商品であるから、指定商品が「粘着テープ」である場合に、商標を現に使用する商品が「両面粘着テープ」であっても、商標法3条2項の要件に該当すると柔軟に解釈すべきである。
そして、本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状が、原告の両面粘着テープを識別する標識として需要者間に周知されている事実は、全国の原告代理店、文具店、ユーザーのみならず、業界団体、商工会議所等もこれを証明している(甲30〜34、42、枝番号の書証を含む。以下同じ。)。
本件審決は、これらの証明書について、「『証明願』若しくは『証明書』を表題とする用紙に証明者が署名捺印したものにすぎず、証明者がいかなる根拠により当該文面の内容を証明したものであるかが全く不明であり、客観性を欠く証明書といわざるを得ず、この証拠によっては、本願商標が使用により識別力を有するに至ったものと認めることはできない」(甲1第3頁27〜31行)と判断しているが、明らかに証拠の認定を誤ったものである。
被告の反論の要点
本件審決の認定・判断は正当であり、本件審決に原告主張の違法はない。
1 取消事由1について 本件審決で述べている商標法3条1項3号の考え方は、多くの判決において既に支持されているものであるから、これを誤ったものとする原告の主張は失当である。
2 取消事由2について (1)ア 本件審決が、「粘着テープ用ディスペンサーそのものを表した立体的形状よりなる」としたのは、包装容器における粘着テープのディスペンサーとしての機能を発揮させるための立体的形状よりなるという趣旨である。このような趣旨であることは、本件審決がその後に、「該ディスペンサーの用途、機能から予想し得ない程の特徴がある形状とも認められない」と続け、「すなわち、商品の包装の形状を表示したものであると理解するに止まり、自他商品を識別するための標識とは認識し得ないものといわなければならない。」と説示していることからも明らかである。
そもそも、粘着テープの取引においては、テープを切断するための切刃などを設け、ディスペンサーとしての機能を兼ね備えた包装容器に入れて粘着テープが普通に市販されている実情がある。しかも、本願商標の形状は、上半部が円形の粘着テープの形状に沿って円弧状の面を形成し、円形の粘着テープを保持できる構造となっており、下半部の一方の側面が粘着テープを引き出すために開放されている点、粘着テープ切断用の刃が付いている点、底面が平らで机上に置くこともできる点等が認められるのであって、これらの点は、粘着テープ用のディスペンサーの一般的機能とも合致しているといえるのであるから、本願商標は、粘着テープ用の包装容器がディスペンサーとしての機能を発揮するための形状ということができる。
さらに、原告は、本件に係る審判請求書の請求の理由において、「本願商標の立体的形状は、粘着テープの包装の形状であり、その包装にはディスペンサー機能をも持たせたもの」(乙2)と述べており、本願商標が粘着テープ用のディスペンサー機能を兼ね備えている包装容器の形状であることを認めている。
イ 商取引の場において、顧客が本願商標に接する際には、本願商標の立体的形状のみが単独で顧客の目に触れるというのではなく、本願商標の立体的形状の表面に沿って模様(図形)が一体的に施され、さらに、立体的形状と文字、色彩等が結合した状態で、一体のものとして顧客の目に触れるのである。そして、他にその立体的形状部分を取り立てて強調するような広告の文言があるわけでもないから、単にディスペンサー機能を兼ね備えた包装容器としての用途、機能から派生した商品の包装の形状程度に認識されるにとどまる立体的形状の部分だけが、顧客の注目を集めるアイキャッチャーとして機能するとは考え難い。
(2)ア 本願商標は、上記(1)のとおり、取引者、需要者にとって、容易にディスペンサー機能を兼ね備えた包装容器の形状よりなるものと認識されるから、自他商品の識別力を有しているということはできない。
原告は、本願商標が自他商品の識別力を有している理由として実用新案登録を得ていた旨を主張するが、そもそも、実用新案法においては、実用新案の登録要件に「創作性」を設けてはいるが、「自他商品の識別力」は設けていないから、実用新案登録されたからといって、自他商品の識別力を有しているということはできない。
イ 原告と他社の両面粘着テープの包装容器に表示された文字、図形、模様などをみると、それぞれに異なる文字が顕著に表示され、その他の図形(模様)等も明らかに一目で異なるものと分かるように表示されているといえる。
そうすると、包装容器に表示された文字、図形(模様)などの存在のために、包装容器の全体をみた場合には自他商品を識別し得るとしても、包装容器の形状である立体的形状のみからなる本願商標については、両面粘着テープの包装容器の形状として、取引者、需要者の注目を集めるような際立った特異な形状を有しているとはいえず、商品の包装の形状そのものの範囲を出ないものと認識される程度にすぎないから、両面粘着テープの包装容器の形状のみをもって、原告と他社の商品の出所を識別できるとはいえない。
ウ 出願商標について、商標法3条2項の適用により商標登録が認められるのは、出願商標が使用に係る商標と同一の場合に限られる。このことは、立体商標についても同様である。本件の場合、本願商標がディスペンサーとしての機能を有する粘着テープの包装容器の形状のみからなるのに対し、原告の使用に係る商標は、いずれも該包装容器の形状に沿って図形又は模様が一体的に施され、さらに、
「ナイスタック」等の文字が目立つ態様で顕著に表示されている。したがって、包装容器の形状のみでの使用が行われているわけではなく、商標法3条2項の要件を満たしているとはいえない。
しかも、同項により商標登録を受けることができるのは、商標が特定の商品につき同項所定の要件を充足するに至った場合、その特定の商品を指定商品とするときに限られる。原告の使用に係る商品は、すべて「両面粘着テープ」であるところ、本願の指定商品は、「粘着テープ」であり、使用に係る商品ではない「片面の粘着テープ」をも含むから、本願商標は、この点においても、商標法3条2項の要件を満たしていない。
なお、原告提出の証明書等は、いずれも、証明者がいかなる事実に基づき証明書に記載の事項を証明しているのか、その客観的事実を示す根拠又は判断した過程が何ら明らかにされていない。したがって、これらの証明書等は、客観性に乏しく、到底、高い証拠力を有するなどとはいえないものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(立体商標の登録性)について (1) 原告は、本件審決が、「商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状・・・は、・・・本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。」と判断したことが、商品等の形状の商標性についての解釈を誤ったものであり、立体商標について権利を付与する国際的な趨勢及び国際的な調和にも反すると主張する。
しかしながら、商品等の形状は、本来、当該商品の機能を保持するための一定の制約を受けながらも、その機能をより一層効果的に発揮させるため、あるいは、看者に及ぼす美感をより一層高めるために採択されるものであり、商品の出所を表示したり、自他商品を識別する標識としての役割を担うものではないところ、
当該商品の取引者・需要者も同様の認識を有するものというべきである。したがって、商品等の形状は、商品等の通常の機能又は美感と関わりがなく、これを普通に用いられる方法で表示するものではない特異な形状あるいは装飾的な形状であると認められる場合に限り、自他商品の識別標識となり得るものと解すべきである。また、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するのみであって、通常の機能又は美感とは関わりのない特異な形状あるいは装飾的な形状ではない商品等の形状についてまで、特定人にその独占的使用を認め、更新を続ける限り永続的に保護を及ぼすことは、公益にも反するものといわなければならない。
商標法が、立体商標を保護する一方で、同法3条1項3号が、「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について、商標登録を受けることができないとしたのも、上記の趣旨からでたものと解され、このような考え方が、立体商標について権利を付与する国際的な趨勢等に反するものでないことはいうまでもない。
そうすると、上記と同旨の判断を示す本件審決には誤りがなく、原告の前記主張は、採用することができない。
(2) また、原告は、本件審決が、「商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは・・・商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって、・・・このような商品等の機能又は美感と関わる形状は、多少特異なものであっても、未だ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。」と判断したことも誤りであると主張するが、この審決の判断に誤りがないことも、上記説示に照らして明らかであるから、
原告の上記主張も採用できない。
(3) さらに、原告は、本件審決が、「商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。」と判断したうち、全ての商品等の形状が、同種商品について、その商品等の機能を果たすためには、原則的に同様の形状とならざるを得ないという必然性はないから、この点に関する本件審決の判断が誤りである旨主張する。
しかし、本件審決は、商品等の形状が、前示のとおり、当該商品の機能を保持するための一定の制約を受けることから、「原則的に同様の形状とならざるを得ない」と記述し、その基本的な形状の独占的な使用が許されないと説示したものと認められ、機能をより一層効果的に発揮させるため、あるいは、看者に及ぼす美感をより一層高めるために、その形状の一部を変更することを否定するものとは解することができないから、原告の上記主張は、本件審決を曲解するものであって、
これを採用する余地はない。
(4) したがって、本件審決が、上記各判断の結論として、「商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、・・・商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けることができない」と判断したことにも誤りがない。
2 取消事由2(本願商標の登録性)について (1) 原告は、本件審決が、「本願商標は・・・粘着テープ用のディスペンサーそのものを表した立体的形状よりなるもの」と認定した上、「取引者、需要者は、
粘着テープ用のディスペンサーの形状、すなわち、商品の包装の形状を表示したものと理解する」と判断していることが、本願商標の構成の誤認であると主張する。
そこで、本願商標の形状を検討するに、その立体的形状は、審決書の別掲のとおり、内部に粘着テープを収納するため、上半部が、円形の粘着テープの外周面の形状に沿ってほぼ半円状の円弧面を形成し、その内側は、粘着テープの中空状の芯に応じて半円形の中空構造となっており、収納された粘着テープの回転を容易にするとともに、この中空部分を把持して持ち運ぶことを可能とするものである。
下半部は、ほぼ直方体の形状であり、粘着テープの外周面に沿った一方の側面が、
粘着テープを引き出すために開放されて、底面に粘着テープ切断用の切刃が設けられ、他方の側面は、閉鎖された箱状であり、底面は、長方形の平面をなして机上などに置くことができるものと認められる(乙1、2)。他方、粘着テープ用のディスペンサーとは、粘着テープを保持して、これを必要に応じて切断するための切断刃を設けた切断用の器具であり、机上などに置かれて使用され、テープカッターなどとも呼ばれるものと認められる(甲4、5、弁論の全趣旨)。
したがって、本願商標は、粘着テープ用の包装容器であるが、机上などに置かれ、保持した粘着テープを必要に応じて切刃で切断することが可能であるから、ディスペンサーとしての機能を発揮するための形状を有しているものということができる。
そうすると、本件審決が、「本願商標は・・・粘着テープ用のディスペンサーそのものを表した立体的形状よりなるもの」と認定したことは、本願商標が粘着テープ用のディスペンサーそのものではない以上、不正確であるといわざるを得ないが、これに続く、「該ディスペンサーの上半部に半円形の空洞があることは、
持ち運びの用に供するためであり、また、半円形の円周部は、そこに円形の粘着テープを据え付け、回転して取り易くする機能面の需要に沿ったものであって、該ディスペンサーの用途、機能から予想し得ない程の特徴がある形状とも認められない」との記述は、上記に説示した、本願商標の具体的な形状及びその機能を正しく認定判断したものであり、誤りはないといえる。さらに、本件審決が、本願商標を指定商品に使用した場合、「取引者、需要者は、粘着テープ用のディスペンサーの形状、すなわち、商品の包装の形状を表示したものと理解する」と判断した点ついては、本願商標が、「粘着テープ用のディスペンサーの形状」であるとする点で不正確ではあっても、それとともに、正しく「商品の包装の形状を表示したもの」と判断した上、自他商品の識別機能を検討しているのであるから、その結論において誤りはなく、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 原告は、本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状が、原告の両面粘着テープを他から識別する機能を有しているから、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備すると主張し、その根拠として、昭和41年に両面粘着テープ(商標名「ナイスタック」)を発売して以来、その包装に本願商標の形状を用いて、大量に販売を継続していた旨を主張する。
しかし、本願商標の指定商品は、「粘着テープ」であるところ、「粘着テープ」は、テープの片面に粘着剤を塗布した「片面の粘着テープ」と、テープの両面に粘着剤を塗布した「両面粘着テープ」との2種類に区分される(当事者間に争いがない。)から、仮に、本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状が、一定程度の自他識別機能を有していたとしても、本願商標の指定商品である「粘着テープ」全体においては、原告の商品であることが周知とはいえず、自他識別機能を有するものでないことが明らかであり、本願商標が商標法3条2項の要件を具備するとの原告の主張は、その余の点について検討するまでもなく、採用することができない。
原告は、「片面の粘着テープ」と「両面粘着テープ」とは、売り場も販売ルートも同一であって、「粘着テープ」として同一性を有する商品であるから、指定商品が「粘着テープ」である場合に、商標を現に使用する商品が「両面粘着テープ」であっても、商標法3条2項の要件に該当すると柔軟に解釈すべきであると主張する。
しかしながら、「片面の粘着テープ」と「両面粘着テープ」とは、売り場や販売ルートが同一であるとしも、それぞれが異なる用途を有する別異の商品であって、いずれも需要者に対して大量に販売されていることは、当裁判所にとって顕著な事実であるから、「両面粘着テープ」において周知な形状であるからといって、「片面の粘着テープ」を含めた「粘着テープ」全体の商品分野において周知な形状といえないことは明らかである。したがって、商標法3条2項の要件を充足するものとはいえず、原告の上記主張を採用する余地はない。
なお、原告は、本願商標を構成する両面粘着テープの包装の形状が、原告の両面粘着テープを識別する標識として需要者間に周知されているとして、全国の原告代理店、文具店、ユーザー、業界団体、商工会議所等の作成した多数の証明願・証明書・供述書(甲30〜34、42)を提出するので、念のため検討するところ、これらの証明願等のうち供述書1通(甲42)以外のものは、いずれも、原告作成の定型文面に各作成者が単に署名・記名、押印したものであって、各作成者の独自の知見から事実を証明したものとはいい難い上、その内容についても、両面粘着テープの包装の形状がその形状のみで周知とする根拠等が明らかとされていない。しかも、原告及び他の両面粘着テープ販売各社の両面粘着テープの包装容器を比較すると、原告の包装容器に「ナイスタック」等の文字が際立った態様で表示されているのと同様に、各々の包装容器においても商品名が顕著に表示されており、
包装容器に表示されたその他の図形、模様、色彩等も明らかに相違していると認められる(甲5〜11、検甲1〜7)から、一般の取引者、需要者は、これらの明らかに相違する文字、図形、模様、色彩等により各々の商品を容易に識別し得るものであり、これらを捨象した単なる商品の包装容器の形状によって当該商品の出所を識別しているとは、到底、推認することができない。
したがって、供述書も含めた上記各証拠に基づいて、本願商標を構成する粘着テープの包装の形状が、原告の両面粘着テープを識別する標識として取引者・需要者の間に周知されていると認めることはできない。
3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は認められない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人