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関連審決 無効2000-35081
関連ワード 指定役務 /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項10号 /  4条1項15号 /  4条1項19号 /  著名商標 /  不正目的(不正の目的) /  先使用(32条) /  取引の実情 /  共有 /  無効審判 /  商号 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 475号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 松川雅典
訴訟代理人弁理士 今村元
被告 株式会社アサヒフーズ
訴訟代理人弁護士 永井弘二
訴訟代理人弁理士 小林良平
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35081号事件について平成14年8月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,「神戸ラーメン第一旭」の文字を横書きして成り,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第42類の「飲食物の提供」を指定役務とする登録第4136821号商標(平成7年11月20日登録出願(以下「本件出願」という。)。平成10年2月20日登録査定。平成10年4月17日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,本件商標の登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,これを無効2000-35081号事件として審理し,その結果,平成14年8月9日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月21日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,@本件商標の商標法4条1項10号,15号該当性については,請求人(原告)が使用する「第一旭」の商標(以下「引用商標」という。)は,請求人(原告)のみの標章として需要者に広く知られて周知著名になっていたとはいい難いから,本件商標をその指定役務に使用しても,請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれのある商標ということはできない,とし,A同19号該当性については,引用商標が,請求人(原告)の標章として周知著名であるということができないことなどからすれば,被告が本件商標を不正の目的をもって使用するものとは認められない,というべきであるとして,請求人(原告)の主張する無効理由をいずれも排斥するものである。
原告の主張の要点
審決は,引用商標(「第一旭」)が,原告の業務に係る役務を表示するものとして,本件出願前から広く認識されていることを,誤って否定し,そのため,本件商標の商標法4条1項10号,15号該当性のいずれについても,その判断を誤り(取消事由1)また,本件商標の同法条項19号該当性についても判断を誤った(取消事由2)。これらの誤りは,それぞれ,結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法4条1項10号及び15号該当性についての判断の誤り) 審決は,本件出願当時,「第一旭」の店名は,原告だけでなく,他の者も使用しており,原告のみの出所表示とは認められない,とした上で,これを理由として,商標法4条1項10号及び15号の適用を否定した。しかし,この判断は誤りである。
(1) 「第一旭」は,本件出願当時,既に,原告の出所表示として周知著名となっていたことが明らかである。
ア 雑誌記事などの資料(甲第6ないし第30号証)では,「第一旭」の店名をすべて原告の店舗として紹介している。原告の店舗は,平成3年発行の雑誌(甲第9号証)では,日本全国著名100軒のラーメン店の中に選ばれている。本件出願後間もない平成6年4月に発行された雑誌(甲第11号証)には,全国著名101軒のラーメン店の一つに選ばれ,同誌の表紙には原告のラーメン店「第一旭たかばし本店」が掲載されている。
これらの資料中には,原告以外の者の「第一旭」の店舗を紹介しているものは一つもない。需要者の間では,「第一旭」は,原告を示すものとして広く知られている。
イ 甲第32ないし第34号証は,いずれも,原告の店名が本件出願以前から有名であることを知っている原告の材料納入業者,料飲組合関係者,マスコミ関係者,原告店舗の顧客等の作成した証明書である。
審決は,これらの証明書は,印字された定型文用紙に依頼し署名押印されたものであることを根拠に,これらの証明書をもって,「第一旭」が請求人(原告)の標章として周知著名であると断定することはできない,とした。
しかし,定型文であっても,署名押印した者はその内容に納得して署名押印したものであり,合計600名にも及ぶ者が署名押印したものであるから,原告の店名の周知著名性を示す一資料として参酌すべきである。
ウ 新横浜ラーメン博物館は,その開館以来,現在に至るまで,累計1200万人もの入場者数を有しており,一日平均4000人が訪れる新横浜の名所となっている。同館の日本の著名ラーメン店のデータベース中の原告のラーメン店「第一旭たかばし本店」の出力データ(甲第5号証)中には,本件出願前である平成5年5月29日付けのメニューも含まれている。このことからも,原告のラーメン店「第一旭たかばし本店」が本件出願前から全国的に著名であることがわかる。
エ テレビ番組案内(甲第31号証)の平成10年8月から全20回放映された,ラーメン店の女性店員が主人公のテレビドラマを紹介する記事において,「第一旭が技術指導!」と紹介されている。
オ 原告の店舗は,多数のテレビ番組において紹介されている(甲第35,第36号証)。
(2) 審決は,周知標章を使用している者が無効審判請求人(原告)以外にも存在している場合には,商標法4条1項10号及び15号の適用が否定される,との立場に立つものである。
しかし,仮に,本件出願当時,引用商標が原告の出所を示すものとしてだけでなく,他の者の出所を示すものとしても周知であったとしても,そのことは商標法4条1項10号及び15号の適用を否定する理由にはならないというべきである。
実質的にみても,仮に本件商標の登録の有効性を認めると,極めて不合理な結果となる。
被告は,「第一旭」という名称を使用するラーメン店に対し,本件商標に類似するとして使用中止などを請求する可能性がある。この場合,原告を始めとする本件出願前から「第一旭」の名称を使用していたラーメン店であっても,商標法32条に規定する先使用の抗弁を主張できないことになりかねない。同条項は,「現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは,」先使用の抗弁を有する旨規定しており,しかも,審決の理由によれば,本件出願前から「第一旭」の標章を使用していた原告を含む複数のラーメン店についても,その標章が自己の店舗を示すものとして需要者間に周知な商標であるとはいえないことになってしまうからである。本件商標登録が認められると,被告のみが「第一旭」の名称を独占することができる,という結果になりかねず,このような結論は極めて不合理である。
2 取消事由2(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り) 審決は,「「第一旭」が請求人(判決注・原告)の標章として周知著名だと断定できないことは1.のとおりであり,その他前記した実情を勘案すれば,その主張は,被請求人(判決注・被告)が不正の目的をもって使用するものとする理由には当たらないものと判断するのが相当である。」(審決書8頁14行〜17行)とした。しかし,この判断は誤りである。
審決がいう「その他前記した事情」とは,審決の認定した事実のうち,@原告と店舗賃貸人との間の賃貸借契約において,「第一旭」の商号を他で使用しないという条項が設けられていること,AC(前記賃貸人)が「第一旭」の商号登記をしていること,B被告代表者であるBの長兄Dは鳥取県米子市でラーメン店「第一旭」を経営し,次兄Eは愛知県一宮市でラーメン店「第一旭」を経営しており,いずれも父親であるF(I)の許諾を得て「第一旭」商標を店名として使用していること,のことであると思われる。
しかし,@については,審決は,そもそも賃貸借契約書の日付を本件出願後である平成9年とすべきところを本件出願前である平成元年と誤って認定している。これは結論を左右する重大な誤りである。また,同契約書中の上記条項は,当初の契約書にはなく,契約更新の際に,賃貸人から何の説明もなく,原告も気付かないままに,初めて挿入された条項にすぎない。このような条項をもって,被告の「不正の目的」を否定する根拠とすることはできない。Aの商号登記は,原告に無断でなされたものであり,原告は最近までこの商号登記の事実を知らなかった。Bについては,原告は,「被告」に不正の目的があると主張しているのである。被告代表者の兄弟が他の地方で「第一旭」の名称を付してラーメン店を経営しているか否かは,被告の不正の目的の有無の判断とは何ら関係のない事実である。
被告の反論の要点
原告の主張はすべて争う。審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき誤りはない。
1 取消事由1(商標法4条1項10号及び15号該当性についての判断の誤り)について (1) 原告が周知性の根拠として挙げる雑誌記事,テレビ番組等は,いずれも原告の主張する店舗が,数多くあるラーメン店・飲食店の一つとして紹介されているものにすぎない。
原告が提出した証明書は,定型文に署名のみがなされたものにすぎず,同一筆跡,同一印鑑が使用されたものも多数存在することから,およそ周知性認定の根拠となるようなものではない。
引用商標が商標法4条1項10号の要件としての周知性を有しないことは明らかである。商標法4条1項15号が前提とする著名性を有しないことも明らかである。
(2) 原告は,審決が周知商標の複数使用について判断した,と主張する。
しかし,審決は,引用商標について,原告のみを示す標章としては周知性を有するに至っていない,と判断したにすぎず,周知商標の複数使用を問題にしたものではない。
(3) 商標法4条1項10号及び15号が禁止しているのは,「他人の業務」についての周知・著名商標の設定登録である。ところが,原告が自己のものと主張する店舗は,もともとF(もとの姓は「I」である。昭和44年にHと結婚したことにより,H姓を名乗るようになった。)が始めたものであること,原告はもともとその使用人であった者であり店舗建物の賃借人にすぎないこと,原告の主張する店舗についての商標は,Fの相続人である被告代表者に帰属すること,からすれば,引用商標は,被告からみて,「他人の業務」についての商標とはいえないことが明らかである。審決の認定判断は,このことをも述べるものというべきである。
2 取消事由2(商標法4条1項19号該当性についての判断の誤り)について 「第一旭」の商標についての権利は,もともとFのものであり,平成元年に同人が死亡した後は,その相続人である被告代表者ら兄弟の共有財産となっているものである。被告代表者は,自らが代表を務める会社の名義で,自らが正当な権利を有する商標について登録出願をし,登録を得たものであるから,不正の目的を有しないことが明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項10号及び15号該当性についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用商標(第一旭)は,原告の商標として周知である,と主張し,その根拠として原告の店舗を紹介した雑誌の記事や放映されたテレビ番組等を挙げる。
ア 原告が挙げる雑誌記事(甲第6ないし第30号証)は,いずれも原告の店舗を紹介したものであり,そのほとんどが,原告の店舗を,味が良く人気の高いラーメン屋として紹介している。これらの雑誌記事中には,「一歩店内に足を踏み入れると,人がいっぱい,いつも満員」(甲第7号証),「ラーメンは一日千杯から千500杯出る。」(甲第9号証),「京都で名高いウルトラ繁盛店」(甲第11号証),「京都のラーメン戦争はすべてここから始まった。「タカバシ行こか?」といえば京都駅東をかすめるように走る高架上にあるラーメン屋「新福菜館」か「第一旭」に行くということを意味する。この2軒はピッタリと隣接し,どちらも昼時になるとすごい列,そう,何をかくそうこここそが京都の行列のできるラーメン屋の発祥なのだ。・・・正統派醤油ラーメンにおいては,「新福菜館」「第一旭」が親玉的存在。京都のラーメン喰いの間では,もはや聖地的存在となっている。」(甲第16号証。1997年発行),「第一旭という名前も京都ではおなじみ。」(甲第19号証。1998年発行),といった記載がある。
しかしながら,これらの雑誌記事のうち,原告の店舗の名称を単なる「第一旭」と紹介しているのは,甲第8,第16,第18号証の雑誌だけであり,その他の雑誌記事は,原告の店舗の名称を「第一旭本店」(甲第6,第7,第9,第10,第12,第15,第19号証),「本家第一旭」(甲第11,第22号証,第27ないし第29号証),「第一旭たかばし本店」(甲第13,第17,第20,第21,第25号証),「本家第一旭本店」(甲第14,第23,第24),「本家第一旭たかばし本店」(甲第30号証)と紹介している。これらの雑誌記事の多くは,多くの店を紹介する飲食店のガイドブック(手引き,案内書)としての性格を有するものであり,そこでは,原告の店舗は,雑誌中に紹介された多くの飲食店のうちの一つとして紹介されている。
これらの雑誌の中には,「いま「第一旭」は,関西一帯で百店を超えるフランチャイズを展開しているが,「この店とは味つけが違う」。」(甲第11号証。1994年発行),「各地で100店を超えるチェーン店の中の本店」(甲第12号証。1995年発行),「全国にチェーン展開しているが,この「たかばし本店」の味だけは,決してマニュアル化することのできないこの店だけのオリジナル。」(甲第13号証。1995年発行),「他に同じ「第一旭」という屋号でフランチャイズ店を開いている店もあるが,こちらの本店も7つの支店を持つ。互いは別組織で看板も微妙にちがう。」(甲第14号証。1996年発行),「関西在住のラーメン好きなら,この「第一旭」という屋号を知らないはずはない。しかし,その正統の味を愛する者にとって,「第一旭」といえば迷わずここ“たかばし”の本店なのである。昭和28年に「旭食堂」として開業。31年からラーメン専門店となり,やがて分家やフランチャイズ店も増えていった。同じ屋号でも,系統によってタイプや味が異なり混乱を招くが,直営である「本家」とりわけ「たかばし本店」では,あくまで昔ながらのつくり方と味にこだわり続けている。」(甲第20号証。1998年発行)との記載がある。
証拠(甲第35,第36号証)及び弁論の全趣旨によれば,原告の店舗を紹介した次のテレビ番組が放映されたことが認められる。
(ア) 平成3年ころ放映された「ワイドユー」のワイドショーの1コーナーである「みんな大好き ラーメンの味クイズ」の中において,クイズの題材とされた3軒のラーメン店の一つとして原告の店舗が取り上げられている。同番組において,原告の店舗名は,「第一旭本店」と紹介され,その名称(「第一旭本店」)が書かれた看板が写し出され,「観光バスが止まるほど有名なお店」と紹介されており,原告も出演している(甲第35号証)。
(イ) 平成3年ころ放映された「甘辛アベニュー」で,「京都ラーメンマップ」というテーマで9軒のラーメン店が紹介され,その中で最初に,チェーン展開でがんばっているお店として,原告の店舗が「第一旭本店」の名称で紹介され,その名称(「第一旭本店」)が書かれた看板が写し出された。同番組の中で,原告の弟であるGは「株式会社第一旭 代表取締役」として紹介され,原告の店舗は全国で100店舗,京都一円で40店舗のチェーン展開を繰り広げている店舗の第一号店として紹介されている(甲第36号証)。
(ウ) 平成10年ころ放映された「どーんとうまいもん 通」という番組中の「京都ラーメン大賞」という特集の中で紹介された7店舗のラーメン店の一つとして,原告の店舗が紹介された。同番組では,「本家 第一旭」と書かれた原告の店舗の看板が写し出され,隣接する店舗と比較して,「人気を二分するライバル店」と紹介されている(甲第35号証)。
(エ) 平成9年ころ放映された「大阪ほんわかテレビ」の中の1コーナーである「今から食べたいラーメン特集」の中で,「京都ラーメン戦争」と題して,原告の店舗と隣接する別のラーメン店とが,「ガイドブックに必ず載る有名店」,「京都ラーメン戦争の原点」などとして紹介され,原告の店舗の「本家 第一旭」と書かれた看板が写し出された(甲第35号証)。
(オ) 平成11年に放映された「ラーメン大図鑑」において紹介された多くのラーメン店の一つとして原告の店舗が紹介され,原告の店舗は,「本家第一旭たかばし本店」として紹介されている。
イ 証拠(甲第46,第49号証,乙第10,第13,第15,第16,第19号証)及び弁論の全趣旨によれば,原告の弟であるGは,本件出願前において,株式会社第一旭を設立して(昭和48年設立),代表取締役となり,京都府内において,「第一旭」の大久保東店,大久保西店,小倉店を開店し,さらに,「元祖第一旭」の名称を用いたラーメン店のフランチャイズチェーン店の展開を始め,最盛期には100店舗を超える規模にまで発展したこと,その後,平成3年ころ,株式会社第一旭は倒産し,Gは,株式会社第一旭の代表取締役を退任し,一部の店舗を除き,他の者にフランチャイズチェーン店の経営を委ねたこと,が認められる。
証拠(乙第4号証)及び弁論の全趣旨によれば,被告代表者は,昭和46年に神戸でラーメン店「第一旭」を開店し,昭和59年に被告を設立して,「神戸ラーメン第一旭」の名称でラーメン店チェーンを展開し,現在に至っていること,被告代表者の兄であるDは鳥取県米子市で,同じく兄であるEは,愛知県一宮市で,いずれも「第一旭」の店名でラーメン店を経営していることが認められる。
ウ 上に認定した諸事実によれば,本件出願当時ないし本件商標についての登録査定当時,「第一旭」を含む店名を用いてラーメン店を経営する者が多数おり,このことは,上記雑誌にも記載されているとおり,一般に広く認識されていた,ということができる。上記各雑誌の記事において原告を単に「第一旭」と呼ぶものはほとんどなく,大部分の記事は,「第一旭」に「本家」,「本店」,「たかばし本店」の語のいずれかを付した名称によって,原告を紹介している。これらの事情に照らすと,単なる「第一旭」を,原告にせよ,その他の者にせよ,特定の出所を表示するものとして広く知られるに至っていたものと認めることはできないということができる。「第一旭」の語を用いていても,これに,他の語が加えられている商標同士(例えば,「本家第一旭たかばし本店」と「神戸ラーメン第一旭」)は,それぞれ,出所を異にすると認識されているのが取引の実情であったと認めることができる。
引用商標である「第一旭」が特定の出所を表示するものとして周知の商標であったと認めることはできない。
(2) 原告は,その主張の根拠の一つとして,原告の店名が本件出願以前から有名であることを知っている旨が記載された,原告の店舗の顧客等の作成した587通の証明書(甲第32ないし第34号証)を挙げる。しかしながら,これらの証明書は,定型文言で結論のみが書かれているものに署名押印されているものにすぎず,上記(1)で説示したところに照らすと,この証明書を引用商標が周知であることの有力な根拠として重視することはできない。
その他原告がその主張の根拠の一つとして挙げる資料(甲第5,第31号証)も上記(1)で説示したところに照らすと,原告の主張を根拠付ける有力な資料として重視することはできず,他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
(3) 原告は,本件商標の登録を認めると,被告に「第一旭」の名称の独占を許すことになりかねず,不当な結果を招く,と主張する。
しかしながら,(1)で説示したように,「第一旭」の語を用いていても,これに,他の語が加えられている商標同士(例えば,「本家第一旭たかばし本店」と「神戸ラーメン第一旭」)は,それぞれ,出所を異にすると認識されているのが取引の実情であったことに照らすと,「第一旭」の商標に,原告のように「本家第一旭」,「第一旭本店」など,他の語を組み合わせて使用することによって,容易に本件商標との併存を図ることができる場合が多いと考えられる。
このように考えるならば,本件商標の登録を認めることによって,被告に「第一旭」の名称の独占を許すという不当な事態を招く,とまではいえない,というべきである。
(4) 原告の主張はいずれも採用することができず,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について 引用商標が周知の商標であると認められないことは,1で説示したとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2に理由がないことは,明らかである(不正の目的についての審決の判断は,結論を導く上では不要のものである。)。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久