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関連審決 無効2004-35108
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  警告 /  無効審判 /  外国 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10361号 審決取消請求事件
原告 株式会社セント・ローラン
訴訟代理人弁護士 浅井正,弁理士 足立勉
被告 ベアー,ユー,エス,エー,インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士 吉武賢次,宮嶋学,弁理士 黒瀬雅志,塩谷信,小泉勝義
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/11/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2004-35108号事件について平成16年11月30日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,被告が,原告を商標権者とする後記登録商標について無効審判請求をしたところ,特許庁は,同商標をその指定商品に使用した場合,これに接した取引者,需要者は当該商品を被告又は被告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤認,混同するおそれがあるとして,同商標登録は商標法4条1項15号の規定に違反し,無効であるとの審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件商標 商標権者:原告(株式会社セント・ローラン) 本件商標:別紙のとおり。
指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」 登録出願日:平成13年2月8日 設定登録日:平成14年1月18日 登録番号:第4536505号 (2) 本件手続 審判請求日:平成16年2月24日(無効2004-35108号) 審決日:平成16年11月30日 審決の結論:「登録第4536505号の登録を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年12月10日(原告に対し) 2 審決の理由の要旨 (1) 被告商標の著名性 審決は,雑誌,新聞における報道記事,紹介記事,広告等において被告が主として使用しているのは,別紙の商標(以下「被告商標」という。)であるとした上で,以下のとおり,被告商標は本件商標の出願当時に著名であったと認定判断した。
「(ア) 請求人の提出した証拠によれば,以下の事実が認められる。
(a) 雑誌「asayan」1996年1月号(審判甲12・本訴甲16)に,「ニューヨークで超話題のストリートブランド『Bear』のダウンジャケット」と記載されて「Bear」ブランド商品が掲載され,別のページには紙面の全面を使用した「Bear」ブランド商品の広告が掲載されている。 (b) 雑誌「asayan」1996年2月号(審判甲12・本訴甲16)に,「N・Y・生まれの本格アウトドアブランド」として「Bear」ブランドのダウンウエア,パーカーなどが掲載され,別のページには紙面の全面を使用した「Bear」ブランド商品の広告が掲載されている。 (c) 雑誌「BOON」1996年2月号(審判甲10・本訴甲14)に,「N・Y・のブラック達は黒のダウンで完全武装! 寒波襲来と共に定番アイテムの流行が,日本来襲!!」として「あまりの人気にメディアも混乱。ブームの秘密はMTVデビューにあり?」,「…ノースフェイス,マーモットなどアウトドア系のビッグブランドと肩を並べるほど,広く認知されたのが,この『Bear』だ。…アメリカの人気音楽番組『MTV』でストリートファッションのマストアイテムとして取り上げられたのが大きな要因。」と記載されて,「Bear」ブランドのダウンジャケットが掲載されている。 (d) 平成8年4月8日発行「繊研新聞」(審判甲28・本訴甲23)に,「ベアーU・S・A社偽物排除へ強硬手段」,「春夏物対日輸出を停止『今日本で売られているのは偽物』」として「ベアー・U・S・Aは一昨年から販売して以来,米国や日本などで人気を集めているカジュアルウエア。」と記載されている。 (e) 平成8年4月25日発行「繊研新聞」(審判甲29・本訴甲24)に,「偽ブランド品摘発/奈良県警」として「…アメリカの『ベアー』など海外人気ブランド…」と記載されている。
(f) 平成9年10月17日発行「繊研新聞」(審判甲24・本訴甲33)に,「この冬,Bearで差をつけろ!!」と記載された「Bear」ブランド商品の広告が紙面の全面を使用して掲載されている。 (g) 平成9年10月22日発行「繊研新聞」(審判甲20・本訴甲20)に,「変わるヒップポップ系ブランド」,「洗練され大人びたデザインに」として,他のメーカーの商品と共に,「グラデーションを使った『ベアーUSA』のダウンジャケット」と記載されて「Bear」ブランドのダウンジャケットが掲載されている。 (h) 平成8年4月11日,同11年9月27日,同11年10月5日,同11年10月13日,同12年9月25日及び同12年10月23日発行の「繊研新聞」(審判甲30ないし35,本訴甲25,35ないし39)に,「Bear U・S・A・からの警告」,「現在日本市場で売られているBear U・S・A・ロゴが付いている商品は全て偽物です。」等と記載された警告広告ともいえる広告が掲載されている。 (i) 雑誌「street Jack」1999年1月号,1998年11月号,1998年12月号及び1999年2月号(審判甲36ないし39,本訴甲40ないし43)に,「偽物の商品が氾濫しております。」,「偽物に注意せよ!」等と記載された「Bear」ブランドの商品の警告広告ともいえる広告が掲載されている。」 「(イ) 上記した事実によれば,平成8年の初めには,請求人が雑誌に広告を掲載した「Bear」ブランドのダウンジャケットが,米国において人気音楽番組「MTV」で取り上げられて人気を得ていることが我が国の雑誌,新聞で紹介されていて,同年4月には,ベアーU・S・Aが米国や日本で人気を集めているカジュアルウエアなどと新聞に記載されている。また,時期を同じくして,既に同ブランドの偽物が出回り,同ブランド商品の対日輸出が停止される旨が報じられており,請求人は,同12年10月にかけて,同ブランドの「偽物が売られている」旨を記載した広告を10回にわたり新聞,雑誌を通じて行っている事実が認められる。 以上によれば,「Bear」ブランドとして主に使用されている被告商標は,本件商標の登録出願の時には,ダウンジャケットなどのカジュアルウエアの商標として取引者,需要者の間に広く認識され,著名性を獲得していたものというべきである。」 (2) 本件商標と被告商標の類似性 審決は,以下の理由により,本件商標と被告商標は類似していると判断した。
「本件商標と被告商標とを対比すると,本件商標は,頭部のみを右に向けた熊の図形と,その右側に「USBEAR」の文字を表し,これらの文字を囲むように熊の図形の輪郭線から延長する線で枠を描いてなるものである。 これに対し,被告商標は,左を向いた熊の図形と,その右側に「Bear」の文字を大きく表し,これらの文字を囲むように熊の図形の輪郭線から延長する線で枠を描き,さらに,その右側に左に90度回転させた「USA」の文字を配してなるものである。 そして,両商標における熊の図形は,共にほぼ輪郭線のみにより描かれているものである。
以上の両商標の構成よりすると,熊の図形の向きが異なり,また,構成文字が,一方が「US」の文字に連続して「BEAR」の文字が表されているのに対し,他方は「Bear」の文字の右側に「USA」の文字が分離して配されているという相違を有するものではあるが,両商標は,熊の図形の描出方法(筆致)において相似た印象を受け,また,文字においては,「US」と「USA」の文字の配置が異なるものの,文字の全部又は一部を囲うように熊の図形の輪郭線から延長する線で枠が描かれているという点においても共通するものであるから,両商標は,外観において相当程度近似しているという印象を受けるものというべきである。 次に,称呼及び観念の点についてみるに,本件商標中の「USBEAR」は,熊の図形との関係よりすると「US」と「BEAR」の両文字よりなると容易に看取されるものである。そして,「US」の文字が「United States」(アメリカ合衆国)の略称であり,「BEAR」の文字が「熊」を意味する英単語であることは,我が国において広く知られているといえるから,本件商標は,その構成文字の全体に相応して「ユーエスベアー」の称呼,及び「アメリカ合衆国の熊」の観念を生ずるものと認められる。 これに対し,被告商標は,熊の図形と「Bear」及び「USA」の両文字よりなるものであって,全体の印象を支配するのは「熊(Bear)」を表したものということができるから,「USAのBear」すなわち「アメリカ合衆国の熊」を表したものと認識されることも少なくないというべきである。そうすると,本件商標(判決注:被告商標の誤り)は,「ベアー」及び「ベアーユーエスエイ」の各称呼のほか,「USAのBear」より派生する「ユーエスエイベアー」の称呼を生ずる余地も多分にあるものといわなければならず,また観念については,「熊」の観念のほか「アメリカ合衆国の熊」の観念をも生ずるものと認められる。 そうすると,両商標は,「ユーエスベアー」と「ユーエスエイベアー」の両称呼を比較した場合には,中間における「エイ」の音の有無の相違を有するに止まる彼此相紛れるおそれがあるものであり,かつ,「アメリカ合衆国の熊」についてみれば,観念を同一にするものである。
以上の両商標における外観,称呼,観念を総合すれば,本件商標は,被告商標と彼此相紛れる程度に近似するものということができる。」 (3) 結論 審決は,以下のとおり,本件商標は,商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであるから,同法46条1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきものであると結論付けた。
「被告商標の著名性,及び,本件商標の指定商品には請求人の使用する商品が含まれており,それ以外の商品もファッション(装身に関する流行)に関連する商品であるということからすれば,本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接した取引者,需要者は,これより直ちに被告商標を連想,想起し,該商品が請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認,混同するおそれがあるものといわなければならない。」
原告の主張の要点
1 取消事由(混同を生ずるおそれの有無の判断の誤り) (1) 審決は,本件商標の登録出願当時,被告商標は著名であったと判断しているが,審決が基礎とした雑誌広告及び新聞記事の量は著名性を認定するには不十分である。また,これらの雑誌は外国雑誌,専門誌などであって,一般によく読まれているものではなく,新聞も日刊紙ではなく,発行部数は少ないと予想される。
(2) 本件商標は,審決のいうように「アメリカ合衆国の熊」の観念が生じるものではなく,文字と図形が一体のものとして看取され,既成の観念は生じない。また,本件商標と同一の文字から構成される商標は多数登録されている(例えば,甲3ないし8)。この事実は,特許庁においても「USBEAR」が一連一体の商標であり,熊の図形も被告商標とは印象が異なると理解されていることを示している。したがって,本件商標と被告商標との類似性の程度は低い。
(3) 本件商標の指定商品である「被服,履物」については,「ベアー」「bear」の文字だけでは識別力がなく,他の文字と結合させた標章として初めて自他商品を識別する機能が生じる。また,「bear」「ベアー」を使用した商標や,熊の図柄の商標は多数あり,取引者,需要者は結合されている他の文字や図形に基づいて注意深く商品を区別する習慣が身に付いている。したがって,本件商標と被告商標程度の文字や図形の相違があれば,混同の生ずるおそれがあるとはいえない。
(4) 被告商標の熊の図はその登録以前から第三者が使用していた著名標章(甲1,2)を盗用したものである。また,審決のいうとおり本件商標中の「USBEAR」の文字部分の呼称,観念がそれぞれ「ユーエスベアー」,「アメリカ合衆国の熊」であり,被告商標と相紛れるおそれがあるのであれば,被告商標は,原告が平成7年に出願した登録商標である「USBEAR」の商標権(甲3)を侵害していることになる。このように,被告商標は,他人の商標権を侵害しているものであるから,商標法4条1項15号を適用して保護すべきではない。
2 結論 以上によれば,審決は,本願商標が商標法4条1項15号に該当すると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
被告の主張の要点
1 取消事由(混同を生ずるおそれの有無の判断の誤り)に対して (1) 平成8年の初めには,被告が雑誌に広告を掲載した「bear」ブランドのダウンジャケットが米国の人気音楽番組「MTV」で取り上げられて人気を得ていることが我が国の雑誌,新聞で紹介されており,同年4月には,ベアーU.S.Aが米国や我が国で人気を集めているカジュアルウェアであるなどと新聞に紹介されている。「bear」ブランドの商品は,製造が間に合わないほど売上げが急増し,そのことに目を付けた悪質業者による偽物商品が大量に市場に出回るようになり,被告は,平成12年10月にかけて,同ブランドの偽物が売られている旨を警告した広告を10回にわたり新聞,雑誌に掲載している。これらの事実によれば,「bear」ブランドとして主として使用されている被告商標は,本件商標の登録出願時には,ダウンジャケットなどのカジュアルウェアの商標として取引者,需要者に広く認識されていたというべきであり,偽物商品が大量に出回るほどに需要者間で人気を博していたことは,被告商標が著名性を獲得していたことを如実に示しているといい得る。
(2) 原告は,本件商標から「アメリカ合衆国の熊」との観念は生じないと主張する。しかしながら,「US」の文字の部分は「United States」の略として広く知られている語であり,アメリカ合衆国を表示する語として日常的に使用されている。したがって,本件商標の「US」の文字部分は,「アメリカ合衆国」を表す意図で出願されたものであり,これに接する取引者,需要者も「アメリカ合衆国」を表すものと容易に理解できるというべきである。
(3) 被告は平成8年よりジャケット,パーカー等の被服に商標登録番号第4345512号に係る商標(商願平7-43991,乙7)を使用しており,原告を商標権者とする「USBEAR」の文字を含む登録商標(甲3ないし8,乙5,6)は,いずれも,上記商標が出願された後に出願されたものである。原告は,主として被服,靴等のファッションに関する商品のブランドライセンスを業としている会社であることから,日本を含む世界各国の著名ブランドには精通していると推測され,被告の著名な商標を知った上で,これにフリーライドする目的をもって本件商標を登録出願し,使用しているものである。被告商標の著名性,本件商標と被告商標との外観,呼称,観念類似性等を併せて総合勘案すれば,本件商標を付した商品に接した取引者,需要者が被告の業務に係る商品と混同するおそれがあることは明らかである。
(4) 原告は,被告商標の熊の図は被告が第三者から盗用したものであると主張するが,何ら根拠のないものである。被告は,被告商標の熊の図を独自にデザインして採択したものである。原告が盗用したという第三者の商標は,半円形の背景から頭部が突き出した右向きの熊の図と,その下に図形と一体的になるようにして書された「SOREL」の文字との組合せからなるのに対し,被告商標は,輪郭線で描いた左向きの熊の図とその右側に書された「Bear」の文字との組合せよりなるものであって,全体の構成が異なる。
2 結論 本願商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の判断には何ら誤りはなく,原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由(混同を生ずるおそれの有無)について (1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
(2) そこで,まず被告商標の著名性について検討する。
ア 証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア) 雑誌「asayan」1996年(平成8年)1月号(甲16)には,「ニューヨークで超話題のストリートブランド『Bear』のダウンジャケット」などと記載され,被告商標と同一の熊の図柄に「Bear」の文字を組み合わせた商標を付した被告商品の広告が掲載されている。 (イ) 雑誌「asayan」1996年(平成8年)2月号(甲16)には,「N・Y・生まれの本格アウトドアブランド」「昨年くらいからN.Y.のブラック達の間で異常に支持され出し,あまりの人気にMTVでも取り上げられるほど。」などと記載され,被告商標と同一の熊の図柄に「Bear」の文字を組み合わせた商標を付したダウンウェア,パーカーなどの広告が掲載されている。
(ウ) 雑誌「BOON」1996年(平成8年)2月号(甲14)には,「あまりの人気にメディアも混乱。ブームの秘密はMTVデビューにあり?」「…ノースフェイス,マーモットなどアウトドア系のビッグブランドと肩を並べるほど,広く認知されたのが,この『Bear』だ。…アメリカの人気音楽番組『MTV』でストリートファッションのマストアイテムとして取り上げられたのが大きな要因。」などと記載され,被告商標と同一の熊の図柄に「Bear」の文字を組み合わせた商標を付したダウンジャケットの広告が掲載されている。 (エ) 1996年(平成8年)4月8日発行「繊研新聞」(甲23)には,「ベアーU・S・A社偽物排除へ強硬手段」「『ベアー・U・S・A』の偽物が日本で大量に出回っている事態に対処するため,真正品の対日輸出を今春夏物の期間中はいったん停止する。」「ベアー・U・S・Aは一昨年から販売して以来,米国や日本などで人気を集めているカジュアルウエア。…昨秋冬商戦では日本でもダウンジャケットやアウターウェアがヒットした。」と記載されている。 (オ) 1996年(平成8年)4月25日発行「繊研新聞」(甲24)にも,「偽ブランド品摘発/奈良県警」として「…アメリカの『ベアー』など海外人気ブランド…」と記載されている。
(カ) 1997年(平成9年)10月17日発行の繊研新聞(甲33),雑誌「COOL」1999年(平成11年)12月号(乙22),雑誌「BOYS RUSH」2000年(平成12年)11月号(乙28)には,被告商標を付したダウンジャケット等の商品の広告が掲載され,雑誌「street Jack」1998年(平成10年)11月号,12月号,1999年(平成11年)1月号,2月号(甲40ないし43)及び雑誌「COOL」1998年(平成10年)11月号,12月号,1999年(平成11年)1月号(乙24ないし26)には,被告商標が表示されるとともに,被告商品の広告が掲載されている。
(キ) 1999年(平成11年)10月5日発行の「繊研新聞」(甲36)には,「BEAR USA社からのお知らせ」として,「類似品,偽物については断固たる法的処置を取ります。発注に際しては真正品である証明として下げ札のついている3Dホログラムシールを必ずご確認ください。」などと記載され,その下に掲載された真正品であることを示すシールには被告商標が付されている。また,2000年(平成12年)9月25日及び同年10月23日発行の「繊研新聞」(甲38,39)には,「BEAR USA社からのお知らせ」として,被告の登録商標を示すものとして被告商標が大きく表示され,「偽物にご注意下さい!!」などの記載がなされている。
イ 上記認定事実によれば,被告商標と同一の熊の図柄に「Bear」の文字を組み合わせた商標を付したダウンジャケットなどの被告商品は,米国の人気音楽番組「MTV」で取り上げられたことなどから,平成8年ころまでには「bear」ブランドとして米国や我が国で広く認知され,人気を得るとともに,我が国では被告商品の偽物や類似品が大量に出回るに至っていたとの事実が認められる。そして,「bear」ブランドの商標の一つである被告商標は,ダウンジャケット等の被告商品に付され,我が国の新聞,雑誌広告等を通じて広く取引者,需要者の目に触れるとともに,被告が偽物,類似品について新聞広告等を通じて消費者に注意喚起をした際には,真正品であることを示す商標として被告商標が表示されているとの事実も認められる。こうした事実によれば,被告商標は,本件商標の登録出願の時には,ダウンジャケットなどのカジュアルウエアの商標として取引者,需要者の間に広く認識され,著名性を獲得していたものというべきである。
これに対し,原告は,審決が基礎とした雑誌広告及び新聞記事の量は著名性を認定するには不十分であり,その雑誌,新聞は一般に広く読まれているものではないと主張する。しかしながら,著名性の認定はその証拠の量によって左右されるものではない。また,繊研新聞がファッションビジネスの情報紙であって,多くの繊維・アパレル業者が目を通していることは,原告自身が広告を掲載していること(乙18)からうかがわれるところであり,また前記認定のとおり被告商標を付した被告商品の広告が掲載された雑誌も多様である。したがって,被告商標が掲載された雑誌広告及び新聞記事が一般に広く読まれているものではないとの原告主張も採用の限りではない。
(3) 次に,本件商標と被告商標の類似性について検討する。
ア 本件商標と被告商標とを対比すると,審決の認定したとおり,本件商標は,頭部のみを右に向けた熊の図形と,その右側に「USBEAR」の文字を表し,これらの文字を囲むように熊の図形の輪郭線から延長する線で枠を描いてなるものであるのに対し,被告商標は,左を向いた熊の図形と,その右側に「Bear」の文字を大きく表し,これらの文字を囲むように熊の図形の輪郭線から延長する線で枠を描き,さらに,その右側の枠外に左に90度回転させた「USA」の文字を配してなるものであり,両商標における熊の図形は,共にほぼ輪郭線のみにより描かれているものと認められる。
両商標の外観を対比すると,両商標は,熊の頭部の向きが異なり,構成文字が,一方が「USBEAR」の文字からなるのに対し,他方は「Bear」の文字の右側に「USA」の文字が分離して配されているという相違を有するものの,両商標は,熊の図形の描出方法(筆致)及びその結果描かれた熊全体の図柄において相似た印象を受け,また,文字においては,文字の全部又は一部を囲うように熊の図形の輪郭線を延長する線で枠が描かれているという点においても共通する。
したがって,両商標は,外観において相当程度近似しているというべきである。
称呼及び観念に関し,本件商標中の「USBEAR」は,熊の図形を考慮すると,「US」と「BEAR」の両文字よりなると容易に看取される。そして,「US」の文字が「United States」(アメリカ合衆国)の略称であり,「BEAR」の文字が「熊」を意味する英単語であることは,我が国において広く知られているといえるから,本件商標は,その構成文字の全体に相応して「ユーエスベアー」の称呼及び「アメリカ合衆国の熊」の観念を生ずるものと認められる。他方,被告商標は,熊の図形と「Bear」及び「USA」の両文字よりなるものであるから,「ベアーユーエスエー」の呼称及び「アメリカ合衆国の熊」の観念をも生ずるものと認められる。そうすると,両商標は,観念を同一にしており,呼称においても「アメリカ合衆国の熊」を想起させる「ユーエス」「ベアー」の音を共通にしているものであって,両商標は,称呼及び観念においても相当程度似ているということができる。
ウ 以上の両商標における外観,称呼,観念を総合すれば,本件商標は,被告商標と相紛れる程度に近似しているというべきである。
エ これに対し,原告は,文字と図形が一体のものとして看取され,既成の観念は生じないと主張するが,本件商標の文字と図形を一体のものとして理解すれば,「アメリカ合衆国の熊」との観念が生じることは明らかである。また,原告は,本件商標と同一の文字から構成される商標は多数登録されている旨指摘するが,類似性の判断は,外観,称呼,観念を総合して個別に行うべきものであり,本件商標と同一の文字から構成される商標が登録されている事実は,本件商標と被告商標の類似性の認定を左右するものではない。
(4) 混同を生ずるおそれの有無 以上のとおりの被告商標の著名性,本件商標と被告商標との類似性の程度に加え,本件商標の指定商品には被告の使用する商品が含まれていることからすれば,本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接した取引者,需要者は,被告商標を連想,想起し,当該商品が被告又は被告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認,混同するおそれがあるというべきである。
これに対し,原告は,「bear」「ベアー」を使用した商標や,熊の図柄の商標は多数あることから,本件商標と被告商標程度の文字や図形の相違があれば,取引者,需要者に混同の生ずるおそれがあるとはいえないと主張する。確かに熊の図柄の商標は多数あり,「bear」「ベアー」の文字を使用することもありふれているといえるが,その点を考慮に入れてもなお,前記判示のとおりの本件商標と被告商標の類似性,とりわけ両商標が熊の図形の描出方法(筆致)や,文字を囲むように熊の図形の輪郭線から延長する線で枠が描かれているという点においても共通し,観念も同一であることに照らすと,取引者,需要者に混同の生ずるおそれがあるものということができる。
また,原告は,被告商標の熊の図はその登録以前から第三者が使用していた著名標章を盗用して周知となったものである,あるいは原告の商標権を侵害するものであるなどと主張するが,混同を生ずるおそれの有無を判断する要素としての周知・著名な他人の表示の存在は客観的に定められるべきものであり,当該他人が周知・著名性を獲得するに至った経緯によって取引者,需要者に混同を生ずるおそれの認定が左右されるものではないというべきであり,また,そもそも本件において被告商標の熊の図がそれ以前から第三者が使用していた著名標章を盗用したものであると認めるに足る的確な証拠もない。また,本件全証拠によるも,被告商標が原告の商標権を侵害しているとの事実は認めることができず,原告主張は理由がない。
2 結論 以上のとおり,原告の主張には理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文