関連ワード | 権利濫用(権利の濫用) / 契約の成否 / 差止 / 共有 / 使用許諾 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
15年
(ネ)
1327号
商標権侵害差止等請求控訴事件
|
---|---|
控訴人(原告) 株式会社ヘッドラインズ 訴訟代理人弁護士 山中尚 邦,関口博 被控訴人(被告) ミカド観光株式会社 訴訟代理人弁護士 村元博 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/07/17 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
控訴人の求めた裁判
原判決を取り消す。 被控訴人は,原判決別紙目録記載の標章を,被控訴人小岩店の看板,同店舗内のポスター,各パチンコ台上の表示,パチンコのケース,パチンコ玉数計算の計算書(景品引換用レシート),従業員のネームプレート,パンフレット及びカードに付して使用してはならない。 被控訴人は,その所持に係る,原判決別紙目録記載の標章を付した前項記載の,被控訴人小岩店の看板,同店舗内のポスター,各パチンコ台上の表示,パチンコのケース,パチンコ玉数計算の計算書(景品引換用レシート),従業員のネームプレート,パンフレット及びカードを廃棄せよ。 被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成13年6月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
|
事案の概要
本判決においては,原判決と同様の意味において又はこれに準じて,「本件商標」,「訴外ジャック」,「C」,「E」,「B」,「A」,「本件契約」,「東横商事」,「本件使用許諾」,「本件商標権」,「被控訴人小岩店」との略称を用いる。また,エフエム・インターウェーブ株式会社の開設に係る放送局InterFMに関し,会社又は放送局を指すものとしていずれも「インターエフエム」という。 1 本件は,本件商標の商標権者である控訴人が,被控訴人がこれと同一の標章をその経営する被控訴人小岩店の看板に付するなどして使用する行為は本件商標権を侵害する行為に当たると主張して,被控訴人に対し,商標法36条,38条に基づき,上記標章の使用の差止め及び損害賠償を求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が本件控訴を提起したものである。 本件の前提となる事実関係,争点及び当事者の主張は,次の2のとおり訂正等をし,さらに3及び4のとおり当審における控訴人の主張及び被控訴人の主張の各要点を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の訂正等 原判決11頁4行目ないし5行目にかけて「A原告による使用許諾の解除の主張が権利濫用であること」とあるのを,「A控訴人の主張が使用許諾の解除の主張を含むのであれば,その主張は権利濫用であること」と訂正し,同14行目の「本件使用許諾の解除を主張し,あるいは」との記載を削除する。 原判決14頁1行目の「原告が本件使用許諾を」から同2行目の「いうべきである。」までを,「控訴人が被控訴人に対して商標権に基づく権利を行使し,本訴請求をすることは,権利の濫用に当たるというべきである。」と訂正し,同頁4行目の「原告が本件使用許諾の」から同5行目の「権利の濫用に当たる旨の」までを削除し,同頁12行目の「上記の経過に照らし」から同頁14行目の「権利の濫用に当たるものでもない。」までを,「上記の経過に照らせば,被控訴人の権利の濫用の主張は,失当である。」と訂正する。 3 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点) (1) 暫定的な使用期間の許諾か否か(争点1)について (1-1) 原判決の「争点1について」の前段部分(原判決17頁6行目から18頁16行目まで)に対して (a) 原判決は,争点1についての控訴人の主張を直接裏付ける証拠は存在しないと判示するが,フランチャイズシムテムそのものがパチンコ業界では初めてで研究の余地があり,契約書の書式ができていなかったためである。 (b) 原判決は,覚書(甲49)に本件商標に関する具体的条件を定める条項は一切存在していないことを,原告の主張を認めることができない根拠の一つとする。 しかし,FMラジオ放送に関する契約など他にも覚書に触れられていないものもあるので,根拠とはならない。また,原判決は,本件商標の使用に関して協議をした形跡すらないと指摘するが,契約に至らなかった原因としては,業界初のフランチャイズで,コンセプトの研究に手間取ったことがある。また,ミーティングメモ(乙6)にも記載があるように,控訴人側からフランチャイズ展開をすることを説明し,協議がされたことが明らかであり,それ以外にも折に触れて説明がされている。 (c) 原判決は,控訴人が,本件訴訟の提起に至るまで,本件商標の使用に関する具体的条件の協議の申入れをしたことがなく,被控訴人による本件商標の使用に異議を述べたことは一度もないと指摘する。しかし,平成8年12月18日に被控訴人小岩店がオープンしたが,平成9年4月21日には被控訴人から控訴人に対する不当利得返還並びに債務不存在確認請求訴訟が提起されており(東京地裁平成9年(ワ)第8075号),平成10年11月27日にはいったん和解で終息したが,被控訴人は,平成11年12月28日に更にサービス対価返還請求訴訟を提起した(東京地裁平成11年(ワ)第29317号)。このようにフランチャイズシステムとその中核をなす商標の使用に関する条件を話し合うという前提が破綻したのであり,このような紛争がなければ,協議がされていることは明らかであり,「本件使用許諾につき,被控訴人小岩店の開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なもので,その後の使用料の支払いに関する協議が当然に予定されていた」というべきである。 (1-2) 原判決の「争点1について」の後段部分(原判決18頁17行目から21頁3行目まで)に対して 原判決は,上記部分において,@ないしFの事実を指摘し,「本件商標は,当初から被控訴人小岩店において用いることを目的とするロゴとして,被控訴人の選択により採用されたものであって,本件商標の作成及び被控訴人によるその使用は,被控訴人の支払った5000万円の対価の対象に含まれており,被控訴人小岩店の開店後は,被控訴人において何らの制約もなく被控訴人小岩店の営業に関して無償で使用することが,当然の了解事項として控訴人と被控訴人の間で共通に認識されていたものと認めるのが相当である」と判示する。 しかし,この認定は,あまりに形式論理であり,本件の経緯を無視するものであり,経済的意図を考えないものである。前提となった上記@ないしFの認定が証拠評価を誤った不当な認定であることなどを以下に指摘する。 (a) 控訴人会社は,コンサルティング業務を目的とする会社ではなく,フランチャイズ展開のために設立された会社である。このことは,新聞,雑誌等に多数回掲載されていること,これに対し,被控訴人からのクレームがついた事実はないこと,別訴での認定でもフランチャイズ展開のためであることが認められていることなどから明らかである。 (b) 被控訴人の従業員であるAが控訴人に出向したのは,フランチャイザーがフランチャイジーに行う研修のようなものである。 (c) 原判決は,被控訴人代表者Bが自分の権限で本件商標を選んだかのように認定したが,経緯は必ずしも明らかでなく,仮にBに選ばせたとしても,最初のフランチャイジーということで花を持たせる意味で選ばせたものであり,最終決定権者はCである。しかも,Bが選んだのは「PAPIA」の名称のみであり,ロゴのデザインは控訴人会社で行った。なお,選定作業は控訴人会社内で同社の予算で作業を進めたものである。 (d) 原判決は,被控訴人代表者Bが東横狩場店で本件商標を使用することに了承したと判示するが,Bに了承をもらう必要もなければ,Bに了承する権利もない。 本件商標は,フランチャイズの統一ロゴである。控訴人が「PAPIA」をフランチャイズで展開指定予定であったからこそ,同一の商標の必要性があったのであり,これは被控訴人も東横商事も了解済みであった。フランチャイズでない場合には,Bが同じ関東地区で同じ名称を認めるはずはなく,仮に,Bの了解をとったとしても,あえて認めたということは,被控訴人もフランチャイズを前提に店を展開することを前提としていたのにほかならない。原判決は,何のために「PAPIA」を東横商事でも使う必要があったかの根拠について考慮しておらず,不自然で合理性を欠く認定となっている。 (e) 原判決は,平成8年4月26日付けの日経新聞のフランチャイズ記事に被控訴人のAが抗議したと認定する。しかし,控訴人は,平成8年2月23日のミーティングでフランチャイズ構想は説明済みであり,記事はそれを敷衍したものであるが,ミーティングの段階でクレームを述べたとの記録も,また上記記事へのクレームを述べたとの記録も残っていないこと,上記記事以降も5回にわたり控訴人がフランチャイズ方式で展開していくという記事が出ているが,上記クレームが事実であるならば,控訴人はこれらの記事に対してもクレームを述べているはずであること,インターエフエムの放送でも繰り返し,控訴人がフランチャイズ方式で展開している旨アナウンスしているが,被控訴人側からこれについてクレームがされた事実はないこと,Dの証言によっても,フランチャイズの認識は共有していたものと思われることによれば,原判決の認定は,不合理である。 (f) 原判決は,系列化されたパチンコ店舗を拡大しようという控訴人の活動は,被控訴人から控訴人に支払われる報酬を主たる資金源とするものであり,その意味で,被控訴人は事実上出資者に似た立場にいた,と認定する。しかし,上記認定は,控訴人がコンサルタント会社であるとした原判決の認定と矛盾するものであり,実質的に原判決もフランチャイズであることを認めているのであり,論旨は破綻している。原判決は,出資,資金負担,商標権の取得など,フランチャイズシステムを理解しないものであり,また,その論理も飛躍している。 (g) 原判決は,控訴人が被控訴人に秘して本件商標登録出願をしたかのように認定する。しかし,フランチャイズ展開が前提であるので,被控訴人に説明の必要はなかった。何らの説明もしなかったことこそ,フランチャイズ展開を企図していた証左である。被控訴人のミーティングメモ(乙6)からも,フランチャイズの説明を行ったことは明らかである。仮に,被控訴人が「小岩店はフランチャイズ」という考えではないとしても,屋号の統一という話は出ていて,しかも異議は述べられなかった。商標登録にあたって,被控訴人に事前に説明する必要も,秘する必要もない。控訴人は,マスコミを使ってPAPIAをフランチャイズ方式で展開することを公表・宣伝してきたのであり,「秘して」はいない。特に,平成8年5月31日付けの流通サービス新聞(甲53)によれば,控訴人が本件商標権を取得することを公に示しているのであり,実際にその後,同年7月4日に出願したのであるが,この間,控訴人からはこの記事に対するクレームも全くなかった。被控訴人に秘して商標登録出願をしたということはあり得ない。被控訴人は,平成8年10月31日になって,控訴人に何らの連絡もなく,「PAPIA」の商標を自分のものとして登録しようとしたのであり,むしろ,秘したのは被控訴人である。 さらに,原判決は,被控訴人が本件商標を使用し続けているにもかかわらず,控訴人は,本件訴訟提起に至るまで被控訴人に異議を述べたことがなかったし,使用料を請求したり,その協議を申し入れたこともなかったと判示する。しかし,前記のとおり,被控訴人小岩店の開店後約4か月で被控訴人から訴訟が提起され,協議を申し入れたりすることが困難となったものである。 (h) 原判決は,以上指摘したように誤った@ないしFの認定をもとに,頭書のとおり,本件商標作成の目的や5000万円の対価の対象について判示している。 しかし,本件商標を当初から被控訴人小岩店において使用することを目的とするロゴであると認定することは,フランチャイズシステムであることと相容れず,無理がある。記事(甲53)一つをとってみても,上記目的の認定が誤りであることが明らかである。その後の記事も含め,被控訴人に不服があれば,抗議をしたり,「PAPIA」商標を使用しないことができたのに,これをしていないということは,被控訴人もフランチャイズ展開や「PAPIA」を統一ロゴとして行うことを認めていたからにほかならない。また,被控訴人小岩店において用いることを目的とするならば,東横商事狩場店でもこれを使う必要はないはずである。 また,被控訴人の支払った5000万円について原判決の判示するところは,契約書のどの文言に含まれるのか不明確である。被控訴人は,別訴において,錯誤や詐欺を主張して,サービス対価返還請求をしており,5000万円の対価性を否定しているのであり,矛盾している。なお,東横商事にはいったん支払いがされた事実があることから,控訴人は商標に関する権利の行使を留保しているにすぎないので,控訴人の有する権利を否定する根拠とはならない。 原判決は,1年という控訴人の主張が採用することができないことから,無期限無制限の行使ができると判示するが,論理の飛躍である。フランチャイズからする制約が自ずと存在するはずである。 (2) 権利濫用に当たるか否か(争点2)について 控訴人は,フランチャイズシステムの展開のために,統一ロゴとして本件商標を選定し,フランチャイズシステムの中核として展開してきたのである。控訴人のビジネスモデルがパチンコ店のフランチャイズシステムでなのである。本件商標は,フランチャイズシステムを前提であることを基礎付ける証拠がありながら,原判決は,フランチャイズであることを無視しており,自由心証主義を著しく逸脱したものである。 前記のとおり,控訴人は,1年をめどに無償使用を許諾していたのであるから,本件請求は,控訴人が商標登録をし,権限のない被控訴人に対して除去等を求めているのである。フランチャイズシステムにおける商標の重み,フランチャイズシステムのもつ経済社会における重要性を考えれば,控訴人が権利を行使するのは当然であり,権利の濫用には当たらない。 なお,前記のとおり,被控訴人の本件商標の使用に対して控訴人が異議を述べなかったのには,相当の理由があり,このことを理由に権利の濫用になるものではない。 控訴人と被控訴人の比較衡量上も権利の濫用となるものではない。 4 当審における被控訴人の主張の要点 原判決の認定判断は正当であり,控訴人の主張を争う。 本件商標は,本件契約(甲49)におけるサービス提供の合意の履行過程において,当初は,被控訴人小岩店で用いるロゴとして,絞り込まれた候補の中から被控訴人代表者が「PAPIA」の名称を選び,これを受けて控訴人が作業を進め,被控訴人小岩店で用いるロゴは,「PAPIA」の語をデザイン化したロゴである本件商標とすることが決まったのであり,ロゴをフランチャイズの統合商標とするなどということは控訴人の後付けにすぎない。そのゆえに,商標の権利の帰属,利用許諾についての協議もされていないのである。 控訴人がパチンコ店のフランチャイズ展開を企図していたかどうかはおくとしても,控訴人と被控訴人間の合意がフランチャイズ契約の締結でなかったことは明らかであり,控訴人の立論は,その出発点からして理由がない。原判決は,本件紛争を正確に認識して判断している。本件において,フランチャイズを論議することは意味がない。控訴人主張の新聞記事は,パブリシティの一環として控訴人前代表者であるCが掲載を頼んだやらせ記事であり,しかも,証拠(乙6,7)に照らせば,虚偽の内容の記事であることも明らかである。 |
|
当裁判所の判断
1 本件請求の成否については,要するに,被控訴人が本件商標を使用する権限を有するか否かによって決せられるものである。この点につき,被控訴人は,平成8年3月にDを介して控訴人が本件商標の使用を許諾した旨を主張したのに対し,控訴人は,「使用許諾したこと自体は争わない。」と陳述し(原審第5回弁論準備手続調書),この限度で当事者間に争いがない。その上で,控訴人は,「本件使用許諾は,被控訴人小岩店の開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なもので,その後の使用料の支払いに関する協議が当然に予定されていた。」との主張をした(当審でもこの主張を維持している。)。この主張の当否が本件争点1である。 2 当裁判所も,争点1について,本件商標の使用許諾が被控訴人小岩店開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なものであるなどとする控訴人の主張は採用することができないものと判断するが,その理由は,次の3のとおり付加するほか,原審が「第4 当裁判所の判断」中で原判決17頁6行目から18頁16行目までの部分において説示するとおりであるので,これを引用する。 3 争点1についての当裁判所の判断(付加) (1) 控訴人の本件請求は,本件商標の侵害を理由として,使用の差止め及び損害賠償を求めるものであるが,前記のとおり,控訴人が使用を許諾し,被控訴人に使用権限が付与されたとの限度では争いがない。したがって,本件商標を使用する被控訴人の使用権限が消滅した否か,具体的には,「本件商標の使用許諾が被控訴人小岩店の開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なものであるから,(改めて協議の上,合意が成立するなどしない限り)1年間の期限の経過により被控訴人の使用権限が消滅する。」という効果を生じるような合意があったと認められるか否かということが問題である(ちなみに,控訴人も,準備書面2及び3において,「被控訴人に対し,被控訴人小岩店の開店後おおむね1年をめどに,本件商標の使用を許諾し,顧客等の反応をみるなどし,その後,正式に許諾に関する覚書を交わす予定であって,開店後1年を超える標章の使用は許諾の範囲に入っておらず,その後の使用は,無断使用である」旨を主張している。)。 (2) そこで,証拠を検討するに,本件使用許諾において,期限等につき,どのような合意がされたのか,又はどのような前提で許諾がされたのかについて,本件契約に係わる覚書(甲49)に手がかりとなる記載はないし,原審における証人C,同Eの証言においてすら,上記主張を直接的に裏付ける証言がされていないものであるところ,原判決も説示するように(上記引用部分),控訴人の上記主張を認めるに足りる証拠はない。 なお,Cの平成13年12月7日付け陳述書(甲11)及びFの同日付け陳述書(甲12)には,上記主張に直接関係する部分があって,「ミカド観光に対しては最初はサービスで『PAPIA』を使って良いと言うことを前提に使用を認め,1,2年をめどにパピアの周知度が高まったところで,あらためて『PAPIA』の商標の使用に関する条件を決めると言うことになっており,そのようにミカド観光に対しては説明していました。PAPIAの商標の使用料については,当方としては当然商標の使用権の相場で折り合いをつけようと考えていました。」との記載があるので(両陳述書とも同じ記載である。),検討しておく。 まず,上記各陳述書の内容をみると,上記主張では「1年間」というものであるが,陳述書では「1,2年」となっており,「めど」とはいえ両者の間には2倍もの差があり,また,陳述書によれば,期限のみならず,「周知度が高まったところで」というように,未だ周知度が高まっていない場合には期限が到来しないかのような条件も付いている。さらに,陳述書では,「あらためて『PAPIA』の商標の使用に関する条件を決める」,「PAPIAの商標の使用料については,当方としては当然商標の使用権の相場で折り合いをつけようと考えていました」となっているが,「使用料」については,使用開始当初は支払いを求めない前提で使用許諾し,後日,改めて支払うべき具体的金額等の「使用に関する条件」について協議して決めるというものであり,既にした使用許諾を前提とした上で,条件をより具体化するための協議をするものであると解するのが自然である。 以上によれば,仮に,C,Fという本件に最も深く係わった兄弟の上記各陳述書によるとしても,「本件商標の使用許諾が被控訴人小岩店の開店後おおむね1年間をめどとする暫定的なものであるから,(改めて協議の上,合意が成立するなどしない限り)1年間の期限の経過により被控訴人の使用権限が消滅する。」というような効果を生じるような合意があったことを裏付け得るものではない。 ちなみに,上記各陳述書では,「そのようにミカド観光に対しては説明していました。」,「当方としては…考えていました。」とされており,被控訴人と合意が成立したことをいうものではないし,そもそも,証人A証言,被控訴人代表者Bの供述に照らし,「そのようにミカド観光に対しては説明していました。」という陳述自体が採用の限りではない。 以上のとおり,いずれにしても,争点1に関する控訴人の主張は採用することができない。 (3) 控訴人は,フランチャイズシステムであることを強調するが,上記の本件争点との関係は必ずしも明確ではない。仮に,控訴人が主張するように,控訴人をフランチャイザー,被控訴人をフランチャイジーとしてフランチャイズの合意がされていたとしても,本件商標に関する使用許諾の効力が開店後1年間で論理必然的に消滅するものとは解されないし,そのような内容の合意があったものと認めるべきことにもならない。また,仮に,前記陳述書(甲11,12)について判示したような使用料に関する協議が予定されていたとしても,開店後1年間経過後にその使用料の協議自体ができないか,又は使用料の協議が調わなければ,当然に使用許諾の効力が失われると解されるものでもない。結局は,本件使用許諾につき,当事者間でどのような合意がされたかという認定問題に帰するものである。むろんフランチャイズ契約であれば,ロイヤリティーの問題は生じ得るが,それが使用許諾の効力が存続する期限の問題に必然的に直結するものではない。 しかし,念のため,フランチャイズ契約の成否についての当裁判所の判断を示しておくこととする。 証拠(証人C,同E,甲11ないし13,50,51)によれば,控訴人においては,自らがフランチャイザーとなり,被控訴人をフランチャイジーとしてパチンコ店のフランチャイズ契約を結ぶべく,被控訴人に説明するなどしていたことは認められる。しかしながら,証拠(被控訴人代表者B,証人A,同D,乙2-1,2,乙6)によれば,被控訴人としては,あくまで業務委託契約であると考えており,控訴人をフランチャイザー,被控訴人をフランチャイジーとするフランチャイズ契約ではないと考えていたものと認められる。そうすると,控訴人の意図がいかにあれ,結局,控訴人と被控訴人間において,控訴人をフランチャイザー,被控訴人をフランチャイジーとするフランチャイズ契約を締結することについての意思の合致はなく,そのような合意が成立していたことを認めることはできない。 なお,控訴人の主張するように,控訴人は,フランチャイズ契約について被控訴人に説明したこと,インターエフエムとの提携がされたこと,本件商標を東横狩場店でも使用していること,新聞,雑誌などにフランチャイズシステムであることを内容とする記事が掲載され,インターエフエムでも同旨の放送がされたことが認められるとしても,上記証拠によれば,控訴人からの説明に対し,被控訴人は,自らがフランチャイジーとなるとの考えではないことを表明しており(乙6については,証人Aの証言に照らし,虚偽の事実を付加されたり改ざんされたものとは認められず,乙6の「7)」などの記載部分があるからといって,この認定を覆すには足りない。),また,平成8年4月26日付け日経新聞に,被控訴人,東横商事などが控訴人のフランチャイジーである旨の記事が掲載されるや,Aが上記被控訴人の考えをもとに,当時訴外ジャックのスタッフであったGに対し,上記記事について抗議をしたことが認められるのであるから,フランチャイズ契約についての合意が成立していたことを推認することはできない(上記日経新聞のほかにも記事が掲載されたのに対し,被控訴人が逐一抗議をしなかったからといって,上記のように被控訴人の考えを表明していることが認められる以上,フランチャイズ契約についての合意が成立していたことを推認することができるものではない。)。 さらに,C,Fは,ともに,「PAPIAのフランチャイズについては,ある程度軌道に乗った段階で改めて契約を交わし,正式にフランチャイズ契約を締結しようと考えていました。」と陳述している(甲11,12)こと,Cは,「(パチンコ業界の知識は)ほとんど不要です。必要ならば,私どもを雇い入れるところがパチンコ店を業としてやっているところですから,そこのスタッフに聞けばいいことです。」(甲13)と供述しており,当時は,パチンコ業界の知識はないことを暗に認めつつ,しかもパチンコ店に「雇い入れられる」との認識でいたことがうかがわれること(前後の供述の流れをみれば,本件を含む関係について述べており,しかも同様の供述が複数箇所みられることからして言い違いとは考え難い。),Eは,「ソフトの中身を十分固めてからフランチャイズを展開していけば良かったかもしれませんが,なにぶん時間がなく,今もっていることでスタートして,こういった業務提携契約で獲得したソフトをどんどん注入していくというのが我々の役割でした。時間がないためにこういう手法にならざるを得なかったのです。」(甲50)と陳述していること,控訴人は,控訴理由書でも,「控訴人側にもフランチャイズシステムそのものに研究の余地があった」,「フランチャイズのコンセプトに手間をとった」とも主張していることなどに照らせば,控訴人側の者も被控訴人と正規のフランチャイズ契約まで締結したものとは認識していないことは明らかである上,パチンコ店に関するフランチャイズシステムとはいいながら,控訴人は,未だそのコンセプトも確立しないままに被控訴人との折衝などをしていたことが認められるのであって,この点からしても,上記のようなフランチャイズ契約としての合意が成立していたことを認めるのは困難である。 (4) 控訴人は,また,被控訴人が別件訴訟において,本件契約の錯誤や詐欺を主張して5000万円の対価の返還を求めていることと,本件商標につき使用権を主張することは矛盾している旨を主張する。 しかしながら,上記被控訴人の訴訟における態度を考慮するとしても,本件においては,使用許諾がされたことを控訴人が自白しているので,当裁判所はこれに拘束される。そして,その使用許諾について錯誤,詐欺,解除などの主張立証は全くされていない。したがって,控訴人の主張は採用するに由ない。 4 以上の次第であるから,被控訴人は,本件商標につき被控訴人小岩店での使用を許諾されたものであり,この使用許諾の効力が消滅したものとはいえないのであるから,その余の点につき判断するまでもなく(したがって,上記判示した点以外に関する控訴人の控訴理由について判断するまでもなく),本件商標権侵害を理由とする控訴人の請求はいずれも理由がないのであり,控訴人の請求をいずれも棄却すべきものとした原判決は相当である。 5 結論 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |