運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2002-20300
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  3条1項6号 /  周知性 /  品質誤認(4条1項16号) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  補正 /  遡及効 /  ドメイン /  同一の商品 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 17年 (行ケ) 10123号 審決取消請求事件

原告 株式会社東芝 代表者代表執行役
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 河野哲
同 石川義雄
同 小出俊實
同 松見厚子
同 幡茂良
同 美甘徹也
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 中束 としえ
同 佐藤正雄
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/10/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-20300号事件について平成16年11月2日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,後記商標の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,同庁が審判請求は成り立たないとの審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
なお,原告は,本件訴訟係属中の平成17年1月28日に後記本願に関して分割出願し,それに合わせて本願の指定商品補正された。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成13年7月26日,「@」の記号と「Digital」の欧文字を「@Digital」と一連に表してなる商標(以下「本願商標」という。)について,第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,磁心,抵抗線,電極」を指定商品として,商標登録出願(以下「本願」という。)をした。
特許庁は,平成14年9月18日に本願について拒絶査定をしたため,原告は,平成14年10月17日付けで拒絶査定に対する審判請求をした。そこで特許庁は,これを不服2002-20300号事件として審理した上,平成16年11月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成16年11月12日原告に送達された。
原告は,平成16年12月10日に本件訴訟を提起し,その提起後の平成17年1月28日,本願の指定商品の一部を指定商品(下記Aのとおり)とする新たな商標登録出願(分割出願)を行うとともに,本願の指定商品を残余の下記Bに減縮する補正(甲22。以下「本件補正」という。)をした。
記 ・A(分割出願に係る指定商品) 「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品(但し,デジタル対応の温度補償用集積回路その他のデジタル対応の半導体素子,デジタル対応電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。)を除く。),電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,磁心,抵抗線,電極」 ・B(本願の残余の指定商品) 「デジタル対応の温度補償用集積回路その他のデジタル対応の半導体素子,デジタル対応電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。)」 (2) 審決の内容 平成16年11月2日になされた審決の内容は,別紙審決写し記載のとおりである。
その理由の要旨は,本願商標は,その指定商品中「デジタル型(方式)の商品」について使用しても,格別顕著なところはなく,これに接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないし,また,上記以外の商品に使用するときは,商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法3条1項6号,4条1項16号に該当する等としたものである。
(3) 審決の取消事由 しかしながら,本件審決には,以下のとおり,その認定判断に誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願商標の自他商品識別力についての判断の誤り) (ア) 審決は,『本願商標は,・・・「@Digital」と普通に用いられる態様をもって表してなるところ,・・・「@」記号は,インターネットのメールアドレスに用いる記号や,物品の単価を表すときに用いる記号として,また「Digital」の文字は,「計数型。数や量の表示を数字を用いて表す方式」等の意味を有し,計数型の商品であるデジタル型(方式)の意を表すものとして,いずれも一般に広く知られ使用されているものであ』り(2頁4行〜11行),『本願商標のかかる構成においては,該記号と欧文字を結合したことにより,それぞれの有する意味合いを越えて新たな熟語的な観念が生ずるものともいえず,かつ,「Digital」の文字は,指定商品中「デジタル型(方式)の商品」においては,商品の品質を表すものとして普通に使用されているものであって,これに「@」記号を付したとしても,「デジタル型(方式)」を認識する以上に自他商品の識別標識としての機能を有するとまではいえない』(2頁12行〜18行)としている。
(イ) しかし,複数の語の結合からなる商標の自他商品識別力の判断においては,その構成各部がそれぞれの持つ意味や用法に従い日常多用されている状況にあったとしても,これをもって全体としての商標の顕著性が否定されるべきでものではなく,顕著性が否定されるのは,構成各部の組合せによっても商品の品質,内容等を表示する語としての意味から出ない場合等である。
そして,本願商標は「@Digital」として構成されたものであり,その構成中の前半の「@」は電子メールのアドレスを表す際に用いる記号であり,商品の品質,内容等を表すものではない。また,後半の「Digital」は,本来は「数や量の表示を数字を用いて表す方式」の意味であるが,最近のデジタル方式を採用した家電の急速な人気の高まりの結果,今日では一般に商品機能を表す専門用語としての使用というよりも,デジタルに関連した商品群を象徴し,これらの商品によって創造された一種のデジタル文化を象徴する用語として「デジタル情報」,「デジタル革命」,「デジタル景気」,「デジタル戦争」,「デジタルホーム」,「デジタルリビング」等のように新聞,マスコミ等で用いられ,一般大衆の日常生活においても一大ブームとなっている(甲3等)。
本願商標は,このようにポピュラーとなった一種の流行語同士を面白く組み合わせた造語であって,最近のデジタルブームに乗り,斬新で目新しさをアピールすべく構成された商標とみるのが自然であり,全体としては,構成各部のそれぞれの語の持つ意味とは別個の効果を発揮している。また,本願商標に接した者が,これを「アットデジタル」と一連に称呼することに何ら躊躇すべき事情はない。
(ウ) さらに,登録先例をみると,「DIGITAL」(「A」の文字のみが若干図案化されている。甲4),「110°DIGITAL」(甲5),「E110°DIGITAL」(甲6)等が商標登録されている。これらの商標にあっては圧倒的主要部を占めるのは「DIGITAL」の文字部分であり,これ以外の要素である,ややデザイン化した「A」の文字,「110°」,「E110°」等は,極めて平凡で,独立した識別力があるものとはいえない。上記登録先例に照らしても,「@」と「Digital」とを結合した本願商標は,新規で特異な構成であり,充分顕著性を有するというべきである。本願商標は,「μ[mju:] Digital」の登録先例(甲9)と構成上の特徴を共通にするものである。また,「現金自動預け払い機」(Automatic Teller Machine)を意味するものとして一般に広く知られている「ATM」と「@」との結合からなる「@ATM」(甲10)等も商標登録されている。
(エ) したがって,審決が,一般人が全体を一つとして容易に認識し得る本願商標を一体として観察せず,「@」と「Digital」の構成部分に分離し,各構成部分を別個に評価して,本願商標に自他商品の識別標識としての機能を有しないと判断したのは誤りである。
イ 取消事由2(本願商標の周知性についての判断の誤り) 原告は,平成14年ころから,原告の製造販売に係る「温度補償用IC」について本願商標の使用を開始した。原告は,平成15年1月発行の製品カタログ(甲2の1),平成16年6月掲載のホームページ(甲2の2),平成17年2月発行の製品カタログ(甲2の3)において,本願商標の右肩に「TM」の文字を付して「温度補償用IC」に使用している。
そして,「温度補償用IC」は,アナログ-デジタル変換方式において他社製品と異なる原告独自の方式を採用した点に特徴があり,本願商標は,原告独自の方式を採用した「温度補償用IC」の名称(商標)として知られており,既に一定の周知性も獲得している。
したがって,審決が「本願商標は,・・・格別顕著なところはなく,これに接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものというべきであり」(2頁19行〜22行)と判断したのは誤りである。
ウ 取消事由3(分割出願に伴う補正による指定商品の判断の誤り) 前記のとおり原告は,本件審決後の平成17年1月28日に本願に関する分割出願に伴う本願の補正を行い,本願の指定商品は前記(1)末尾のBのとおりとなった。
そして,本件補正の効果は,本願の出願時にさかのぼって生じ,指定商品は減縮されたから,補正後の指定商品との関係において審決の当否が審理されるべきである。そして,本件商標が商標法3条1項6号,4条1項16号に該当するとした本件審決の判断が誤りであることは,取消事由1,2において述べたとおりである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)及び(2)の事実はいずれも認めるが,同(3)は争う。
3 被告の反論 (1) 取消事由1に対し ア 本願商標は,「@」の記号と「Digital」の欧文字とを組み合わせ,「@Digital」と表してなり,この一連の構成からなる語は辞書に掲載されていないが,その構成中前半の「@」は単価や電子メールアドレスでのユーザー名とドメイン名を区切る記号として使用され,後半の「Digital」の欧文字はデジタル(型)の意味を有する平易な英語として親しまれ使用されている。実際の商品やサービス(役務)の取引においても,「@」がインターネット上の自社の取り扱う商品又はサービスの名称中に「@+商品(サービス)の内容を表す語」等のように普通に使用され,また,「Digital」の欧文字もデジタル方式を採用した商品を表す語として,「デジタルテレビ(digital television)」等のように普通に使用されている。
そして,本願商標は,構成する「@」の記号と「Digital」の欧文字が,記号と文字という表現を異にする構成から視覚的に明確に分離され,全体として何ら熟語的意味合いを有しない上に,それぞれの構成部が前述のとおり一般に広く知られ使用されているから,本願商標に接した一般の需要者に「@」の記号と「Digital」の欧文字にそれぞれ着目した観察と認識が生ずるのは当然である。
そうすると,「Digital」の欧文字に「@」を付しても,「@」は単価や電子メールアドレス,さらに,インターネット上の自社の商品・サービスの名称中に普通に使用されている記号であることから,これに接する需要者は「当該商品がデジタル型(方式)である」と理解する以上に,格別顕著なものがあるとは認識せず,せいぜい「インターネット上で取引されるデジタル型(方式)の商品」程度の意味合いを認識するにとどまるというべきである。
したがって,本願商標をその指定商品中の「デジタル型(方式)の商品」に使用しても,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないというべきであるから,本願商標は自他商品の識別標識としての機能を有しない。
イ これに対し原告は,本願商標はポピュラーとなった一種の流行語同士を面白く組み合わせた造語であり,その組合せに特異性を有し,顕著性を有する旨主張するが,商標が自他商品の識別標識として機能を有するか否かは,商標から生ずる意味(あるいは意味合い)とその商標が使用される商品との関係において,一般の需要者にその商標により自他商品の識別標識として認識させるか否かを基準にして判断すべきものであり,造語であるからといって全ての商標が直ちに上記機能を有するものではない。
また,ある商標が商品に使用されたとき,その商品の品質等を表示する語や,特別顕著なところがない商標にあっては,特別の事情がない限り一般の需要者によってその商標により自他商品の識別標識として認識させるものではないが,本願商標には,上記特別の事情は存しない。
さらに,原告主張の登録先例は,いずれも本願商標とは構成を異にするものであり,本件には適さないし,そもそも商標が自他商品の識別標識として機能を有するか否かの判断は,当該商標登録出願の査定時又は審決時において,その商標が使用される商品の取引の実情等を考慮し,個別具体的に判断されるものであるから,過去に登録された事例の判断に拘束されることはない。
(2) 取消事由2に対し 原告は,本願商標が原告製品「温度補償用IC」の名称(商標)として知られており,既に一定の周知性も獲得している旨主張するが,原告提出の甲号各証によっても,一般の需要者間に識別力(周知性)を獲得していることを証するものはなく,本願商標は,審決時における本願の指定商品について,使用により識別力(周知性)を獲得しているものとはいえない。
(3) 取消事由3に対し 審決取消訴訟係属中における商標登録出願の分割(商標法10条1項)に伴う原出願の補正は,同法68条の40第1項による制約を受け,単に出願の分割による新出願の体裁を整えるために必要な限度で許容されるものであって,出願の分割の時点で原出願の指定商品等の一部を除外して残余の商品に指定商品等を減縮し,分割された新出願が上記分割の前提要件を充足したものとして取り扱われるべきものとする効果を有するにとどまり,この補正によっては,上記訴訟係属中に上記指定商品等の減縮の効果を原出願の時点に遡及させ,原出願の指定商品等を減縮された指定商品等とする法的効果は生じないというべきである。
そして,商標登録出願を拒絶すべき旨の審決は,内容的に不可分1個の処分であって,それが商標登録出願の分割により一部失効し,又は変更されることもない以上,当該審決の取消訴訟の審理の対象が分割前の原出願に対する拒絶理由の認定判断の違法であることは分割出願に伴う補正によって変わることはないから,本件審決の判断の適否は,本件補正前の指定商品との関係で審理されるべきである。
そして,本件補正前の指定商品との関係で審理された本件審決が適法であることは前述したとおりである。
なお,仮に原告主張に立ったとしても,本願に残存する指定商品につき商標法3条1項6号及び4条1項16号の事由があることは明らかであるから,遡及効の有無が審決取消事由の有無の判断に影響を及ぼすものではない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯), (2)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張の審決の取消事由(請求原因(3))について,以下,順次判断する。
2 取消事由1(本願商標の自他商品識別力についての判断の誤り)について 原告は,本願商標「@Digital」は,「@」と「Digital」というポピュラーとなった一種の流行語同士を面白く組み合わせた造語であって,最近のデジタルブームに乗り,斬新で目新しさをアピールすべく構成された商標とみるべきであり,全体としては,構成各部のそれぞれの語の持つ意味とは別個の効果を発揮しているから,審決が,本願商標を一体として観察せず,「@」と「Digital」の構成部分に分離し,各構成部分を別個に評価して,本願商標に自他商品の識別標識としての機能を有しないと判断したのは誤りであるなどと主張する。
(1) そこで検討するに,本願商標が「@」の記号と「Digital」の欧文字を「@Digital」と一連に表してなる商標であること,「@」は電子メールを表す際に用いる記号として使用され,また,「Digital」は本来は「数や量の表示を数字を用いて表す方式」の意味を有するが,最近では,デジタルに関連した商品群を象徴し,これらの商品によって創造された一種のデジタル文化を象徴する用語として「デジタル情報」,「デジタル革命」,「デジタル景気」,「デジタル戦争」,「デジタルホーム」,「デジタルリビング」等のように新聞,マスコミ等で用いられており(甲3等),「@」と「Digital」がそれぞれ広く一般に使用されていることは,当事者間に争いがない。
また,証拠(乙1ないし7(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,@「@」について,「記号の事典【セレクト版】第3版(株式会社三省堂1996年9月10日発行)」(乙1)に,「単位当たり」の意味を有する商用記号として記載され,「超図解パソコン用語事典2002年版(株式会社エクスメディア2001年9月28日発行」(乙2)に,「[アットマーク,アットサイン]」,「元は単価を表す記号だが,インターネットでは,電子メールアドレスでユーザー名とドメイン名を区切る記号として使用される。」と記載されていること,A「ランダムハウス英和大辞典第2版(株式会社小学館1999年1月10日発行」(乙3)に,見出し語「digital」の訳文として,「4 デジタル(型)の,計数型の」,「8 デジタル録音[録画]の,デジタル式の」などと記載されていること,B「広辞苑第五版(株式会社岩波書店1998年2月2日発行)」(乙4)に,「デジタル[digital]」は「ある量またはデータを,有限桁の数字列(例えば二進数)として表現すること」と記載されていること,C「コンサイスカタカナ語辞典第2版(株式会社三省堂2002年11月1日発行)」(乙7)に,「デジタル[digital(指の)] 数量を1,2,3と数値を用いて表示する方式.ディジタルとも」と記載され,見出し語として「デジタル電話(digital telephone)」,「デジタルオーディオ(digital audio)」,「デジタルカメラ(digital camera)」,「デジタルテレビ(digital television)」,「デジタルビデオカメラ(digital video camera)」及びその意味の記載があること,D各種商品やサービスを販売・提供するホームページにおいて,「@」に自社の名称,取り扱う商品又はサービスの内容を表す語を付加して使用されている例が相当数掲載されていること(乙5の1ないし7,6の1ないし44)が認められる。
(2) 以上の認定事実を総合すると,本願商標は,「@」の記号と「Digital」の欧文字を組み合わせた造語であって,全体としては熟語的意味合いを有しないこと(なお,「@Digital」の見出し語が辞書,事典等に記載されていることの立証はない。),本願商標の構成中前半の「@」は,単価や電子メールアドレスでユーザー名とドメイン名を区切る記号として使用され,更にインターネット上で自社の名称,取扱商品又はサービスの内容を表す語を付加して普通に使用され,その構成中後半の「Digital」の欧文字は,「デジタル」と片仮名で表記され,本来は「数や量の表示を数字を用いて表す方式」の意味を有するが,最近では,デジタル電話,デジタルカメラ,デジタルテレビなどのように「当該商品がデジタル型(方式)である」ことを示す語として,あるいはデジタルに関連した商品群を象徴し,これらの商品によって創造された一種のデジタル文化を象徴する用語として普通に使用され,それぞれが広く一般に知られていることが認められる。
そうすると,「Digital」の欧文字に「@」の記号を付した本願商標に接した需要者は,「@」には格別な意味があるものとは考えずに,当該商品がデジタル型(方式)であると理解するか,インターネット上で取引されるデジタル型(方式)の商品の意味合いを認識するにとどまるものと認められる。
したがって,本願商標をその指定商品中の「デジタル型(方式)の商品」に使用しても,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないというべきであるから,本願商標は自他商品の識別標識としての機能を有しないというべきである。
なお,原告主張の登録先例(甲5,6,9,10等)は,いずれも本願商標とは構成を異にするものであり,上記認定を左右するものではない。
(3) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本願商標の周知性についての判断の誤り)について 原告は,平成14年ころから,原告の製造販売に係る「温度補償用IC」について本願商標の使用を開始し,平成15年1月発行の製品カタログ,平成16年6月掲載のホームページ,平成17年2月発行の製品カタログにおいて,本願商標の右肩に「TM」の文字を付して「温度補償用IC」に使用しており,本願商標は,アナログ-デジタル変換方式において原告独自の方式を採用した「温度補償用IC」の名称(商標)として知られ,既に一定の周知性も獲得しているから,審決が本願商標は,格別顕著なところはなく,これに接する取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないと判断したのは誤りである旨主張する。
(1) 証拠(甲2の1ないし3)によれば,@「製品カタログ 標準ロジックIC総合ガイド C2MOS,Bi-CMOS,L-MOSシリーズ BCJ0008A(2003年1月原告発行)」(甲2の1)に,「5 各種製品紹介」の項において,「L-MOS,Mini-MOSラインアップ」の「小型パッケージシリーズ349品種」の表中の「シリーズ名」欄に「@DigitalTM」(16頁),「Mini-MOSファミリー概要」中に「@DigitalTM」(18頁),「TC7MTXxxFKシリーズ(@DigitalTM)」(24頁)の記載があること,A「東芝半導体 製品カタログ 汎用ロジックIC総合ガイド(2004年2月原告発行)」(甲2の3)に,「5 各種製品紹介」の項において,「L-MOS,Mini-MOS製品ラインアップ」の「小型パッケージシリーズ372品種」の表中の「シリーズ名」欄に「デジタル温度補償用IC(@DigitalTM)」(15頁),「Mini-MOSファミリー概要」中に「デジタル温度補償用IC(@DigitalTM)」(17頁)の記載があること,B原告のホームページにおいて,「@DigitalTM シリーズ 〜温度補償用IC〜 2003年6月」として,TC7MTX01FK等の商品紹介の記事が掲載され,その記事中に「@Digital」の記載があること(甲2の2)が認められる。
(2) 上記(1)の@ないしBの事実によれば,原告が主張するように本願商標に「TM」を付した「@DigitalTM」が原告の製品カタログに使用され,また,原告のホームページの製品紹介において本願商標及び「@DigitalTM」が使用されていたことが認められるものの,その使用態様,頻度等に照らすと,本願商標が原告製品「温度補償用IC」の名称として一般の需要者に周知著名となっていたとまで認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
4 取消事由3(分割出願に伴う補正による指定商品の判断の誤り)について 原告は,本件訴訟提起後の平成17年1月28日付けで,商標法10条1項に基づいて本願の指定商品の一部と同一の商品指定商品とする新たな商標登録出願(分割出願)を行うとともに,本願の指定商品を残余の「デジタル対応の温度補償用集積回路その他のデジタル対応の半導体素子,デジタル対応電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。)」(請求原因(1)の下記B)に減縮することを内容とする本件補正をし,本件補正による指定商品の減縮の効果は,本願の出願時にさかのぼって生ずるから,補正後の指定商品との関係において審決の当否が審理されるべきである等と主張する。
ところで,商標法10条は,「商標登録出願の分割」について,新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが,新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと,商標法施行規則22条4項は,商標法10条1項により新たな商標登録出願をしようとする場合においては,新たな商標登録出願と同時に,もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると,もとの商標登録出願については,その願書を補正することによって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解されるから,商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて新たな商標登録出願(分割出願)がされ,もとの商標登録出願について補正がされたときには,その補正の効果がもとの商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはないと解するのが相当である(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・裁判所時報1391号(平成17年8月1日号)14頁参照)。そうすると,本件補正による指定商品の減縮の効果は,本願の出願時にさかのぼって生ずることはないから,原告の上記主張は採用することができない。そして,本願の出願時の指定商品を前提とした本件審決に取消事由がないことは前記2,3で説示したとおりである(さらに付言すれば,仮に原告主張のように,本件補正による指定商品の減縮の効果が本願の出願時にさかのぼって生ずるとした場合でも,補正された後の指定商品は,前述したように「デジタル対応の温度補償用集積回路その他のデジタル対応の半導体素子,デジタル対応電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。)」であるから,「デジタル型(方式)の商品」に使用したときに本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の結論がなお一層当てはまるということができる。)。
したがって,原告主張の取消事由3も理由がない。
5 結論 以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 長谷川浩二