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関連審決 取消2001-31246
関連ワード 包装 /  指定商品 /  周知商標 /  称呼(称呼類似) /  社団法人 /  正当な理由 /  継続 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 592号 審決取消請求事件
原告 株式会社加美乃素本舗
訴訟代理人弁理士 萼経夫
同 館石光雄
同 村越祐輔
被告ザ プロクターアンド ギャンブル カン パニー
訴訟代理人弁護士 松尾和子
同 外村玲子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が取消2001-31246号事件について平成14年10月17日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
特許庁における手続の経緯等及び審決の理由
以下は,当事者間に争いがなく,かつ,証拠(弁論の全趣旨を含む。)によって認定できる事実である。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,登録第4207634号の商標(「DO-ON」の欧文字と「ドゥオン」の片仮名文字を上下二段に横書きして成り,第3類「せっけん類,香料類,化粧品,かつら装着用接着剤,つけづめ,つけまつ毛,つけまつ毛用接着剤,歯磨き,家庭用帯電防止剤,つや出し剤,つや出し紙」を指定商品として,平成9年8月8日に登録出願され,同10年11月6日に登録された。以下,「本件商標」といい,その登録を「本件登録」という。)の商標権者である。
2 被告は,平成13年11月7日,本件登録を,その指定商品中「せっけん類」に関して,取り消すことについて審判を請求した(以下「本件審判請求」という。その登録は,平成13年12月5日である。)。特許庁は,これを取消2001-31246号事件として審理し,その結果,平成14年10月17日,「登録第4207634号商標の指定商品中「せっけん類」について,その登録は取り消す。」との審決をし,その謄本を,同年10月29日原告に送達した。
(甲第1号証,甲第2号証の1及び2,弁論の全趣旨) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,原告は,本件審判請求の登録前3年以内に,本件商標の指定商品(「せっけん類」)について,本件商標を使用していたことを証明することも,同商標を使用していないことについて正当な理由があることを明らかにすることも,していない,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,原告による本件商標の使用に関する事実認定を誤ったものであり,取り消されるべきである。
1 本件商標を含む標章の使用 (1) 原告は,その商品である「薬用加美乃素シャンプー」(以下「本件商品」という。)の包装(化粧箱)の側面に,「DO-ON HAUT REFRESHER」,「ドゥオン オ リフレッシャー」の標章(以下「本件各標章」ということもある。)を付している。本件商標はこの一部として記載されているものである。
原告による上記行為は,本件各標章についての「商品の包装に標章を付する行為」(商標法2条3項1号)に該当する(甲第3号証の1ないし3,第5号証,第11号証)。
(2) 審決は,原告の商品カタログ(甲第4号証)につき,「どのような時期に,誰に対して,どのような方法で,どの程度配布されたかなど,具体的な取扱いについて何ら証拠の提出がない。」(審決書6頁13行目〜14行目)としている。
通常,年度の記載のあるカタログは,その年度に取引に使用される,と考えるのが,経験則上当然である。配布の証明がないとして,本件商標の使用を否定するのは誤っている。
配布の有無が争点となるのであれば,特許庁が職権によりその探知をすべきである。
(3) 甲第6号証は,販売代理店の証明書であり,これにより,本件各標章につき,「商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示」する行為(商標法2条3項2号)が証明されている。その次の流通過程である小売店から消費者への過程における販売の証明まで要すると解すべきではない。
(4) 本件商品は,製造について許認可を必要とする商品に属する医薬部外品であり,原告は,これについて,承認を受けてその製造を継続している。このことも,本件各標章の使用を裏付ける事実である(甲第7号証,第8号証)。
(5) 審決は,本件商品の販売に関して,「どの時期に,どの程度の数量の使用商品を販売したのかなど,商標の使用の事実を認定するのに必要な具体的な取引状況を示すものは,一切見いだすことができない。」としている。
審決が,現実の販売の伝票類の提出を求めているとすれば,相当ではない。個々の取引の単価,相手,取引量等は,企業秘密に属し,取引先の協力を得ることも容易でない。なお,商品の展示はしたが売れなかった,という商品については,そもそも販売に関する資料を提出することは不可能である。しかし,そのような場合にも,商標の使用が否定されるものではないことは当然である。
原告は,本訴において,返品伝票(甲第9号証及び第10号証)を提出する。これは,本件商品が,平成11年ころ販売されていたことを立証するものである。
(6) 原告は,本訴において,本件各標章の使用の証明として,甲第15号証を追加する。これにより,平成11年10月26日,原告が,「社団法人家庭養護促進協会」に,本件各標章を付した包装箱を用いた本件商品30個を,バザー商品として寄贈した事実を証明する。この寄贈に係る本件商品は,同年10月24日及び同年11月11日,バザーの商品として販売されている。
2 本件商標と実際に使用された標章(本件各標章)との関係 本件各標章,すなわち「DO-ON HAUT REFRESHER」,「ドゥオン オ リフレッシャー」の標章のうち,本件商標と同一の部分は,語頭に位置し,一般的に需要者から強く認識されるものであって,表示の要部に当たるというべきである。これに対し,「HAUT」(「オ」)は「質・評価が高い・高級な」という意味であり,「REFRESHER」(「リフレッシャー」)は「元気を回復させるもの」という意味である。両者とも,商品の品質等を誇示する語として普通に使用されているものである。「オー」,「リフレッシュ」,「REFRESH」は,特許庁の実務でも,識別性がない語とされている(甲第18号証)。
本件各標章は,同時に用いられている「加美乃素」の表示に比して小さいとはいえ,識別標識として十分に機能している(もっとも,商標法50条における使用の有無が問題となる場合,識別標識としての使用に限定しなければならない理由はないというべきである(東京高判平成2年(行ケ)48号・甲第14号証)。)。
したがって,本件各標章は,本件商標と社会通念上同一と認められる商標というべきであり,その使用は,本件商標の使用に該当するというべきである。
被告の主張の要点
1 原告の主張1(本件商標を含む標章の使用)に対して (1) 商品の包装に標章を付する行為は,商標法の規定の文言上,当該標章の「使用」に当たるとしても,当該包装が取引市場において用いられていない場合には,商標の「使用」ということはできないというべきである(東京地判昭和45年(ワ)第2642号)。
原告が,本件審判請求の登録前3年以内に,本件各標章を使用したとの証明はなされていない。
(2) 商品カタログ(甲第4号証),販売証明書(甲第6号証)によっても,本件各標章を付した包装箱を用いた本件商品が販売されたことは証明されていない。
本件各標章が付された包装箱(甲第3号証の1ないし3)と,甲第4号証のカタログに掲載された包装箱とは同じものではない。
販売証明書(甲第6号証)では,どの時期に,どの程度の数量の本件商品が販売されたか明らかにならない。せいぜい,販売できる状態にあったということが立証できる程度である。しかし,本件商品の保管の目的が真実販売であったか否か不明であり,販売のために展示されていたか否かも明らかでない。
(3) 医薬部外品製造承認書(甲第7号証,第8号証の1及び2),返品伝票(甲第9号証及び第10号証)は,本件商品の販売の事実を証明し得るものではあっても,本件商品の販売において,本件各標章が付された包装箱が使用されていたことを証明するものではない。
(4) 甲第15号証の販売証明書に添付された写真に写っている包装箱には,本件各標章は表示されていない。証明者に,本件各標章が包装箱に表示されていたとの事実を証明する意識はない,といわざるを得ない。
2 原告の主張2(本件商標と実際に使用された標章(本件各標章)との関係)に対して (1) 原告は,「HAUT」(「オ」),「REFRESHER」(「リフレッシャー」)の語が,品質を表示するために普通に使用されている,と主張するだけで,そのような事実を全く立証していない。現実にも,そのような事実は存在しない。「HAUT」は,フランス語であり,「REFRESHER」は英語であるから,これらが結合した「HAUT REFRESHER」を,単に商品の品質等を誇示するだけの語として普通に用いられる言葉ということはできない。
「DO-ON HAUT REFRESHER」,「ドゥオン オ リフレッシャー」は,横一列に同じ大きさ,字体で表示され,全体としてまとまりの良い構成となっている。これに接する取引者・需要者は,全体をまとまりのある一体としてとらえるものであって,単に「DO-ON」,「ドゥオン」のみに着目して商品の出所を認識するものではない。また,称呼も,倍以上も長さの異なるものである。
(2) 原告は,商標法50条における「使用」は,識別商標としての使用に限定されない,と主張する。しかし,原告が引用する判決例は,登録商標の基本部分を変更していない周知商標の使用に関する事例であり,本件には当てはまらない。
当裁判所の判断
1 原告が,本件において,商標法50条2項の「使用」に該当する具体的行為として主張しているものは,要するに,本件各標章が付された包装箱,すなわち,その側面に,「DO-ON HAUT REFRESHER」,「ドゥオン オ リフレッシャー」を記載した包装箱の製作及び使用,並びに,そのような包装箱に包装された本件商品の譲渡である。
本件各標章が付された包装箱の存在自体は,甲第3号証の1ないし3,第5号証,第6号証,第16号証により認めることができる。しかし,仮に,本件各標章が,社会通念上本件商標と同一と認められるとしても,そして,上記包装箱が過去のある時点において原告により製作され存在したとしても,それだけで,本件審判請求の登録前3年以内に本件商標の使用があったということができるものではないことは当然である。少なくとも,上記包装箱が,本件商品の流通のためのものとして,本件審判請求の登録前3年以内の間に存在したこと,が認定されなければならない。
2 原告は,平成10年3月1日現在の原告の商品のカタログとして,甲第4号証を提出する。このカタログは,その中に,本件商品が,その包装箱とともに掲載されているから,本件商品がこのころ販売されていたか,少なくとも近々販売され得る状態にあった事実を証明し得るものである。そして,この甲第4号証と,甲第9号証及び第10号証の返品伝票とを併せ考慮すると,平成11年1,2月ころに,本件商品が販売されていたとの事実を認めることができる。
しかし,このカタログに写っている包装箱の正面下部には「水溶性ヒノキチオール・・・」と表示されているのに対し,本件各標章が付されている包装箱の該当箇所には,「ピロクトンオラミン配合」と表示されているから,同カタログ掲載の包装箱が,甲第3号証の1ないし3,第5号証,第6号証及び第16号証の包装箱と同一のものである,と認めることはできない。また,甲第4号証に掲載された,正面下部に「水溶性ヒノキチオール」との表示のある包装箱のいずれかの部分に,本件各標章があったと認めるに足りる証拠もない。そうすると,甲第4号証によって,本件各標章が付された包装箱が本件商品の流通のためのものとして,平成10年3月ころ存在したとの事実を認めることはできない。また,甲第4号証のカタログそのものにも,本件各標章の記載は存在しない。
結局,甲第4号証単独でも,あるいはこれを甲第3号証1ないし3等と組み合せても,本件各標章が付された包装箱が本件商品の流通のためのものとして,本件審判請求の登録前3年以内のいかなる時点にせよ,存在したと認めることはできないのである。
3 甲第7号証及び第8号証は,本件商品に係る医薬部外品製造承認申請書及びその承認書である。甲第9号証及び甲第10号証は,本件商品その他の商品に係る平成11年1,2月当時の返品伝票である。これらの証拠と,甲第4号証を併せ考慮すると,前記のとおり,平成11年1,2月ころ,本件商品が製造され,販売されていたとの事実を認めることができる。しかし,これらの証拠は,いずれも,本件商品の実際の流通段階での包装形態(パッケージング)について,すなわち,本件各標章が付された包装箱が使用されていたか否かについて,何ら証明し得るものではない。これらの証拠によっても,本件各標章が付された包装箱が,そのころ,本件商品を流通させるためのものとして存在した,との事実を認めることはできないのである。
4 甲第5号証は,本件各標章が付された包装箱の製造業者である光印刷株式会社に対する原告の証明願及びこれに対する同社の証明書である。この証明書で,光印刷株式会社は,「別紙添付の写真(判決注・その側面に,本件各標章が付されている包装箱が写っている。)にある商品「薬用加美乃素シャンプー」に使用している包装箱は,弊社(判決注・原告を指す。)が貴社(判決注・光印刷株式会社を指す。)に生産を依頼し,貴社が弊社に対して継続して納入されたこと」及び「当該包装用箱に使用されたデザイン(意匠)及び文字の詳細の表示内容は,別紙写真4枚のとおり相違ないこと」を証明する,としている。しかし,この証明書の文言では,どの時期に,どの程度の数の上記包装箱が生産され,原告に納入されたかが明らかでない。結局,上記包装箱の存在だけを立証し得るものにすぎず,本件審判請求の登録前3年以内のいずれの時点にせよ,上記包装箱が本件商品を流通させるためのものとして存在したことを,証明し得るものではない。
5 甲第6号証は,原告の株式会社パルタックに対する証明願及びこれに対応する同社の証明書であり,同社が,「別紙添付の写真(判決注・本件各標章が付された包装箱が写っているもの)にある商品「薬用加美乃素シャンプー」は,貴社(判決注・株式会社パルタックを指す。)が株式会社加美乃素本舗から仕入れて,少なくとも平成10年4月1日から同年12月末日までの間継続して小売店に販売できる状態にあったこと」を証明する,としているものである。
甲第15号証は,原告の社団法人家庭養護促進協会に対する証明願及びこれに対応する同協会の証明書であり,同協会が,「弊社(判決注・原告を指す。)は,平成11年10月26日に別紙添付写真(判決注・上記包装箱も写っているもの。ただし,本件各標章が記載されているべき側面は写っていない。)にある商品「薬用加美乃素シャンプー」(200ml)30個を貴協会にバザー商品として寄贈させて頂いたこと,そして同商品は,平成11年10月24日開催の「こうべ健康福祉フェアー」及び平成11年11月11日開催の「神戸市手をつなぐ親の会バザー(合同福祉バザー)」において販売されたこと」を証明する,としているものである。
上記証明願の各文言は,本件商品の流通,あるいは寄贈の有無についての証明を求めるものであって,端的に,本件商品の包装に,特定の種類の包装箱が用いられていたこと,ひいては,それに本件各標章が付されていたことの証明を求めるものではない。
加えて,甲第6号証及び甲第15号証の添付写真に写っている包装箱において,標章として最も目立つものは,正面に,金色で縦方向に引かれた太線1本と細線3本,その直下に3段にわたって記載された「薬用」,「加美乃素」,「シャンプー」の文字である。甲第6号証添付写真に写っている包装箱の側面に着目しても,そこに記載されている標章のうち,その上部にある「加美乃素」,「シャンプー」,「薬用」,「KAMINOMOTO」,「MEDICATED」,「SHAMPOO」は,いずれも相当程度大きい文字で表示され,また,「加美乃素」は特徴ある字体で,かつ緑地に白文字,「シャンプー」,「SHAMPOO」及び「KAMINOMOTO」は,緑地に白文字で,「薬用」及び「MEDICATED」は,緑地の中の部分的な赤地の上の黒文字で表示されるなど,相当程度目立つものであるのに対し,上記各標章の直下にある本件各標章は,緑地の上に直接黒字で表示されているものであり,しかも,その文字は,前記の「加美乃素」等6種の表示の文字に比べると,かなり小さいだけではなく,「〈指定成分〉」の記載に比べても小さく,決して目立つものではない。
以上の事実に照らすと,甲第6号証及び第15号証において,各証明者は,証明願の文言に記載された「薬用加美乃素シャンプー」との商品名称,添付写真に写った包装箱の正面及び側面の目立つ標章に専ら着目して,証明対象物品が本件商品であることを認識し,その流通ないし寄贈の事実について証明する意図を有していたにとどまり,その流通または寄贈の対象となった本件商品の包装箱に本件各標章が用いられていたことまで証明する意図があったわけではない,と考えることが十分可能である。
そうすると,甲第6号証,第15号証により,特定の包装箱(正面下部に「ピロクトンオラミン配合」と表示され,側面に本件各標章があるもの)が,本件商品の包装に用いられていたとの事実を認めることはできない。
6 原告が提出する証拠は,結局,本件商品が製造され,平成11年ころ販売されていたこと,本件各標章が付された包装箱が,不明なある時点で製造され,原告に納入されたこと,の各事実を,個別に証明するものにすぎない。本件全証拠によっても,これらを組み合せて,本件審判請求の登録前3年以内のいずれの時点であるにせよ,本件各標章が付された包装箱が,本件商品を流通させるためのものとして存在した,との事実を認めることはできない。
付言する。原告が,甲第4号証のような内容の商品カタログを現に作成し,提出していることからすれば,本件審判請求の登録前3年以内の間に作成された原告の商品を掲載した商品カタログも存在していると考えるのが自然であり,かつ,原告の主張が真実だとすると,本件商品が,甲第3号証の2,3に示されているような包装箱とともにそれに掲載されることも十分あり得るというべきである。甲第4号証を提出した原告が,甲第4号証の作成時点(平成10年3月ころ)より後の時点に作成された商品カタログを提出することに,格別な困難が伴うとも考えにくい。あるいは,原告の主張によれば,甲第4号証のカタログに掲載されている,正面下部に「水溶性ヒノキチオール」の表示のある包装箱の側面には,本件各標章が付されているはずであるから,その写真を提出する方法もあり得,これもさして困難なものとは考えられない。ところが,原告は,本訴の口頭弁論終結に至るまで,そのような,提出が容易で,原告の立証に効果的と思われる証拠を提出していない。このことは,原告の主張の信憑性を疑わしめる事情となるものというべきである。
7 結論 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張の取消事由には理由がないことが明らかであり,その他,審決には取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久