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関連審決 不服2000-9987
関連ワード 包装 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  品質誤認(4条1項16号) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  補正 /  非類似 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 455号 審決取消請求事件
原告 小林製薬株式会社
訴訟代理人弁理士 大島泰甫
同 稗苗秀三
同 後藤誠司
同 阪本英男
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 山下孝子
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/23
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2000-9987号事件について平成14年7月25日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年1月27日,「ティーバック」の片仮名文字を横書きしてなり,第5類,第16類,第21類,第30類,第31類及び第32類に属する願書に記載された商品を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について,商標登録出願(商願平11-6894号)をし,平成12年4月19日付け手続補正書により,指定商品を第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,医療用腕環,失禁用おしめ,人工受精(審決謄本1頁最終段落に「人工授精」とあるのは誤記と認める。以下同じ。)用精液,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,防虫紙」,第21類「袋状の茶こし」,第30類「茶」,第31類「野菜」,第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」と補正したが,同年5月29日に拒絶査定を受けたので,同年7月3日,これに対する不服の審判の請求をした上,平成14年5月27日付け手続補正書により,指定商品を第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,医療用腕環,失禁用おしめ,人工受精用精液,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,防虫紙」,第31類「野菜」,第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」と補正した。
特許庁は,同請求を不服2000-9987号事件として審理した上,同年7月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年8月6日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願商標は,引用商標,すなわち,「テイパック」の片仮名文字を横書きしてなり,第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液」を指定商品とする商標登録第4036463号商標(平成7年7月2 8日登録出願,平成9年8月1日設定登録)とは,その外観及び観念において紛らわしいところがないとしても,称呼上相紛らわしい類似の商標であり,かつ,本願商標の指定商品中には引用商標の指定商品と同一又は類似の商品が含まれているから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,原告に対して審判段階で再度の拒絶理由通知を発し,再度意見書の提出の機会を与えることをしなかった手続上の不備があり(取消事由1),かつ,本願商標と引用商標の類否判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由1(拒絶理由通知の不備) 拒絶査定不服審判における新たな拒絶理由通知は,審査における拒絶の理由を否定する判断が示された後にされるものであって,商標法55条の2第1項にいう「審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」とは,「査定の理由では拒絶できないが審判段階で発見した新たな拒絶の理由によって拒絶しようとする場合」という趣旨であり,このような場合には,同法15条の2の規定に従い,出願人に対して再度の拒絶理由通知を発し,再度意見書の提出の機会を与えなければならないというべきである。なぜならば,査定の理由を維持し得るとして審判請求を不成立とすることができるのに,新たな拒絶理由通知を発し,出願人にこれに対する応答の負担を掛けた上で,一転して,拒絶査定と同じ理由でいきなり不成立審決をすることが可能であるとすれば,審判段階における新たな拒絶理由通知をする意味がなく,この拒絶理由通知に何ら法的拘束力がないとすれば,出願人が一方的に負担を強いられる不合理な結果を生ずるからである。
本件において,原告は,審査段階において,本願商標の出願が同法6条1項の要件を具備せず,かつ,本願商標が引用商標外1の登録商標と同一又は類似であって,その商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであり,同法4条1項11号に該当する旨の平成12年2月28日付け拒絶理由通知を受けたので,同年4月19日付け意見書及び手続補正書を提出したが,同年5月29日,上記拒絶理由通知に係る後者の拒絶理由により拒絶査定を受けた。そこで,原告が,本件拒絶査定不服審判の請求をしたところ,指定商品中「茶」に使用するときは同法3条1項3号に該当し,「小袋入りの茶」以外の「茶」に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり,同法4条1項16号に該当する旨の,査定の理由とは異なる理由による平成14年4月15日付け拒絶理由通知が発せられたのであるから,これにより審査における上記拒絶理由を否定する判断が示されたというべきである。これに対し,原告は,同年5月27日付け手続補正書により,指定商品の「第30類 茶」及び「第21類 袋状の茶こし」を削除する補正をしたが,審決 は,原告に対して再度の拒絶理由通知を発し,再度意見書の提出の機会を与えることなく,本願商標が同法4条1項11号に該当するとした原査定は妥当であるとして本件審判請求を不成立としたものであるから,同法55条の2第1項において準用する同法15条の2の規定に違反した手続上の違法がある。
3 取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り) 審決の認定するとおり,本願商標より「ティーバック」の称呼が生じ,引用商標より「テイパック」の称呼が生ずるが,両者は,互いに聞き間違えるおそれがなく,明らかに聴別可能であるから,称呼非類似である。すなわち,審決は,「ティー」と「テイ」の音感の近似性をいうが,「ティー」は,舌先を上前歯の根元に付けて発音する破擦音「ティ」(ti)に長音「ー」を付することにより,英単語「tea」と同じく滑らかに「ティー」(ti:)と発音されるのに対し,「テイ」は,子音「t」に二重母音「ei」が付帯し,舌先よりやや内端部を上前歯の根元に当てて発音する破裂音「テ」に比較的に明瞭に発音される単母音「イ」を付した音であり,「ティ」(ti)と「テ」(te)において調音の位置,方法を異にする上,長音が付されることによってほぼ一音のごとく滑らかに(ti:)と発音される「ティー」と,比較的明りょうに発音され「イ」が付されることによって二音節に「tei」と発音される「テイ」とは調音方法を異にしており,「ティー」と「テイ」とは明らかに音調,音感を異にし,明りょうに聴別可能である。また,審決は,欧文字の「T」が片仮名表記では「ティー」又は「テイ」と表されるとするが,「T」を片仮名表記する場合,英語のアルファベットでは「ティー」,ドイツ語のアルファベットでは「テー」であり,「テイ」とは表記しない。現在の英語の普及率から見て,欧文字「T」に接した場合は「ティー」と発音し,片仮名表記する場合は「ティー」と記すのが常識である。次に,審決は,両者の音構成中程の「バッ」と「パッ」も清音と半濁音の差であり,ともに撥音を伴っており近似の音であるとするが,「バッ」と「パッ」の比較ではなく,本願商標の後半部「バック」と引用商標の後半部「パック」を比較すべきであり,その場合には,前者は「背。背中。背後」を意味する英文字「back」に通じ,後者は「包装すること。包装したもの」を意味する英文字「pack」に通じ,いずれも親しみのある英単語の表音表記として,明りょうに聴別可能である。加えて,引用商標は,その商標権者である帝国製薬株式会社の頭文字「帝」を表音表記した「テイ」と「包装すること。包装したもの」を意味する「パック」とを結合した造語商標として認識可能であるのに対し,本願商標は,「ティー-バック【T back】脇のくりが大きく,後部がT字形をなす極小化された下着や水着などのパンツ」(広辞苑第5版)に由来する造語商標であり,「ティーバック」という一連の称呼に接した場合において,これを引用商標の「テイパック」と聞き誤るおそれは皆無というべきであり,また,観念及び外観において両者が互いに非類似であることは明白であるから,審決には本願商標と引用商標の類否判断を誤った違法がある。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
2 取消事由1(拒絶理由通知の不備)について 審査における拒絶理由通知は,拒絶査定不服審判においてもその効力を有し(商標法56条1項,特許法158条),また,商標法55条の2第1項の規定に基づき審判段階において査定の理由と異なる新たな拒絶理由通知が発せられたからといって,これにより,審査における拒絶の理由が否定されるとする同法上の規定は存在しないから,本願商標が同法4条1項11号に該当する旨の審査における拒絶理由通知は,審判においてもその効力を有するものである。原告は,当該拒絶理由通知については,審査段階において,意見書を提出する機会を与えられており,審決に原告主張のような手続上の違法はない。
3 取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について 本願商標から生ずる「ティーバック」の称呼と,引用商標から生ずる「テイパック」の称呼は,前半の音構成において「ティー」と「テイ」,後半の音構成において「バッ」と「パッ」にその差異を有する。前半の音構成について対比すると,「ティー」の音は,子音(t)と母音(i)よりなる「ティ」の音に長音が付されていることから,その長音部分は「ティ」の母音(i)を伸ばすように発音され,「ティイ」のように聴取されるのに対し,「テイ」の音における「イ」の音は,前音である破裂音「テ」(te)の音と,後続音である促音を伴う破裂音「パッ」との狭間にあり,かつ,前音「テ」(te)の帯有する 母音(e)と二重母音を構成する関係上,単音としての音の響きは必ずしも明りょうではなく,「イ」の音が,語頭部にあって明確に発音される前音「テ」(te)の母音に吸収するように発音され,その結果として,「テイ」の部分が「テー」と一音節のように聴取される。次に,後半の音構成における「バッ」と「パッ」は,ともに母音(a)を共通にする破裂音の「バ」あるいは「パ」に促音を伴っているものであって,その違いは濁音と半濁音にすぎないことから,全体の音質,音調が近似する。したがって,本願商標から生ずる「ティーバック」の称呼と,引用商標から生ずる「テイパック」の称呼をそれぞれ一連のものとして聞いたときは,その語調,語感が近似したものとなり,互いに聞き誤るおそれがあるというべきである。また,原告は,本願商標が「ティー-バック【T back】脇のくりが大きく,後部がT字形をなす極小化された下着や水着などのパンツ」に由来する造語商標であると主張するが,平成10年2月20日付け京都新聞朝刊(乙4),平成11年4月22日付け朝日新聞埼玉版(乙5),平成12年6月19日付け(乙6),同年12月13日付け(乙7),平成13年3月7日付け(乙8),平成14年3月8日付け(乙9)各日本食糧新聞及びインターネットのホームページ(乙10〜12)には,「ティーバック」の語を「小袋入りの茶」を表す商品として紹介する記事が掲載されており,他方,「テイパック」の語も,平成8年11月18日付け日本食糧新聞(乙13)及びインターネットのホームページ(乙14〜17)において,同様に「小袋入りの茶」を表す商品として紹介する記事が掲載されているとおり,両者は,観念においても類似する。外観上は,いずれも片仮名文字よりなり,「テ」「ッ」「ク」の文字を共通にするものであって,その相違は,「イ」の文字の大小,長音記号の有無,「バ」と「パ」の違いにすぎず,称呼,観念上の紛らわしさをしのぐとはいえない微差にとどまる。したがって,本願商標と引用商標が全体として類似の商標であるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(拒絶理由通知の不備)について 当事者間に争いのない事実及び証拠(甲3〜9)によれば,原告は,平成11年1月27日に本願商標の登録出願をした後,指定商品中「茶こし袋」につき商標法6条1項の要件を具備せず,かつ,本願商標が引用商標外1の登録商標と同一又は類似であって,その商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであり,同法4条1項11号に該当することを理由とする平成12年2月28日付け拒絶理由通知を受けたので,同年4月19日付け意見書及び手続補正書を提出し,指定商品に係る前者の拒絶理由を解消するとともに,後者の拒絶理由について反論したが,本願商標は引用商標と称呼上類似し,指定商品も同一又は類似の商品であるから,商標法4条1項11号に該当するとして,同年5月29日付けで拒絶査定がされたこと,そこで,原告は,同年7月3日,本件拒絶査定不服審判の請求をしたところ,本願商標は,その指定商品中「茶」に使用するときは同法3条1項3号に該当し,「小袋入りの茶」以外の「茶」に使用するときは商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから同法4条1項16号に該当し,また,指定商品中「袋状の茶こし」に使用するときは同法3条1項3号に該当する旨の平成14年4月15日付け拒絶理由通知を受けたので,同年5月27日付け手続補正書を提出し,指定商品の「第30類 茶」及び「第21類 袋状の茶こし」を削除する補正をして,上記の拒絶理由をいずれも解消したこと,しかし,特許庁は,同年7月25日,本願商標は引用商標と称呼上相紛らわしい類似の商標であり,その指定商品中には引用商標の指定商品と同一又は類似の商品が含まれているから,同法4条1項11号に該当するとして,本件審判請求を不成立とする審決をしたことが認められる。
原告は,拒絶査定不服審判における新たな拒絶理由通知は,審査における拒絶の理由を否定する判断が示された後にされるものであって,商標法55条の2第1項にいう「審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」とは,「査定の理由では拒絶できないが審判段階で発見した新たな拒絶の理由によって拒絶しようとする場合」という趣旨であると主張する。しかし,商標法56条1項において準用する特許法158条によれば,審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においてもその効力を有するから,本願商標が引用商標外1の登録商標と同一又は類似であって商標法4条1項11号に該当する旨の審査における拒絶の理由は,審判においてもその効力を有するというべきである。商標法55条の2第1項は,同法15条の2の規定を準用して,拒絶査定不服審判において審判官が原査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,出願人に対し,新たな拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならないことを定めたものであって,更に進んで,原告主張のように,査定の理由と異なる審判での新たな拒絶理由通知が,審査における拒絶の理由を否定する判断が示された後にされるものであるとか,当然に査定の理由を否定する判断をも含む趣旨であることまで規定したものではない。原告は,また,審判段階における新たな拒絶理由通知に法的拘束力を持たせなければ出願人が一方的に負担を強いられる不合理な結果を生ずる旨主張するが,商標登録拒絶査定に対する不服審判では,原査定の当否を判断するために,審査手続の続行として,当該商標登録出願について更に審理を行い,事実の認定及び法令の解釈適用をやり直して,最終的な結論に至るものであるから,その審理の過程において,原査定の理由と異なる拒絶理由につき出願人に意見陳述の機会を与えたからといって,審決が当然に当該拒絶理由に拘束されるわけのものではなく,また,審査段階で出願人に通知して既に意見陳述の機会を与えている拒絶理由について再度審判において同様の機会を与えなければならない法律上の根拠もない。
したがって,原告の取消事由1の主張は,その前提において失当というほかはなく,採用することができない。
2 取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について (1) 本願商標「ティーバック」と引用商標「テイパック」は,いずれも片仮名文字を横書きしてなるものであり,本願商標より「ティーバック」の称呼が生じ,引用商標より「テイパック」の称呼が生ずることは当事者間に争いがない。そこで,両称呼の類否について検討するに,両称呼の前半の音構成は,本願商標が「ティー」であるのに対し,引用商標は「テイ」であるが,前者は,「ティ」の音に長音が付されていることから,「ティイ」のように聴取 され,また,後者の「テイ」の音における「イ」の音は,前音である破裂音「テ」の音と,後続音である促音を伴う破裂音「パッ」との間にあり,かつ,前音「テ」の帯有する母音と二重母音を構成するところから,単音としての音の響きは必ずしも明りょうではなく,「イ」の音が,語頭部にあって明確に発音される前音「テ」の母音に吸収するように発音される結果として,「テイ」の部分が「テー」又は「ティ」と一音節のように聴取されるものと認められる。原告は,「ティー」と「テイ」とは明らかに音調,音感を異にし,明りょうに聴別可能であると主張するが,「ティー」の語義について,昭和51年4月1日小学館発行「日本國語大辞典第十四巻」(乙2)に「(英T,t)《テー》英語のアルファベットの第20字」との記載が,平成5年12月25日三省堂発行「大辞林」(乙1)に「【T・t】英語のアルファベットの第20字。テー」との記載があるとおり,欧文字「T」は「ティー」のほか「テー」と表記されることもあり,また,そのように発音される場合もあることは,「ことばをめぐるひとりごとTとDの発音」に関するインターネット情報(乙3)からもうかがい知られるところである。加えて,本願商品の指定商品中には引用商標の指定商品と同一又は類似の商品が含まれているところ,称呼の類否は,このような同一又は類似の商品の一般的な取引者,需要者の平均的な注意力を基準として,経験則により判断し,その一般的,恒常的な取引の実情も考慮すべきであって,以上のような視点から見ると,原告主張のように,本願商標の前半部分の称呼「ティー」と,引用商標の前半部分の称呼「テイ」とが明りょうに聴別可能であるということは困難である。
次に,後半の音構成における「バック」と「パック」は,末尾の音「ク」が同一であり,ともに母音を共通にするに破裂音の「バ」ないし「パ」に促音を伴っている3音からなり,その違いは濁音と半濁音にすぎないから,全体の音質,音調が近似する。原告は,「バック」は「背。背中。背後」を意味する英文字「back」に通じ,「パック」は「包装すること。包装したもの」を意味する英文字「pack」に通じ,いずれも親しみのある英単語の表音表記として,明りょうに聴別可能であると主張し,「バック」と「パック」が,語義それ自体として,その主張のような意味を有することは,広辞苑第5版(甲12,13)の記載からも明らかであるが,そうであるからといって,これらを上記商品の一般的な取引者,需要者が聴取した場合に,聞き誤るおそれのあることは,否定することができない。
そうすると,本願商標と引用商標をそれぞれ一連に称呼したときは,その全体の語調,語感が近似したものとなり,互いに聞き誤るおそれがあるものというべきである。
(2) 原告は,引用商標は,その商標権者である帝国製薬株式会社の頭文字である「帝」を表音表記した「テイ」と「包装すること。包装したもの」を意味する「パック」とを結合した造語商標として認識可能であるのに対し,本願商標は,「ティー-バック【T back】脇のくりが大きく,後部がT字形をなす極小化された下着や水着などのパンツ」(広辞苑第5版)に由来する造語商標であり,その一連の称呼に接した場合において,これを引用商標の「テイパック」と聞き誤るおそれは皆無であるとも主張する。
しかし,原告主張のように,引用商標が,その商標権者である帝国製薬株式会社の頭文字「帝」を表音表記した「テイ」と「包装すること。包装したもの」を意味する「パック」とを結合した造語商標であることを上記の一般的な取引者,需要者において認識可能であったことを認めるに足りる証拠はない。また,本願商標の構成文字である「ティーバック」の語について,広辞苑第5版(甲18)に上記の記載が,自由国民社発行「現代用語の基礎知識1997」(甲19)には,「ティーバック(T-back)後ろ姿がTの字のように見える露出度の高いパンティー」との記載があり,「Tバック」の語について,平成6年9月10日三省堂発行「コンサイスABC略語辞典」(甲39)には「ピップラインがT字型に切れ込んだショーツ」の記載があるほか,その他の辞典類(甲37,38,40〜44),新聞(甲57〜68),書籍,雑誌(甲45〜56)にも同旨の記載があり,下着メーカー等も,新聞,雑誌,インターネットのホームページ等において,そのような商品の販売宣伝広告(甲20〜23)を展開している。他方において,「ティーバック」の語については,平成9年3月25日小学館発行「例文で読むカタカナ語の辞典第二版」(甲42)には,「紅茶や緑茶の葉を1〜2杯分ずつ薄い紙袋につめたもの」との記載があり,その他の辞典類(甲40),新聞(乙4〜9),インターネットのホームページ(乙10〜12)には,「ティーバック」の語を「小袋入りの茶」を表す商品として紹介する記事が掲載されており,そのような商品の販売宣伝広告(甲24)も広く行われているほか,「テイパック」の語も,日本食糧新聞(乙13)及びインターネットのホームページ(乙14〜17)において,上記「ティーバック」と同様,「小袋入りの茶」を表す商品として紹介する記事が掲載されている。このように,「ティーバック」の語は,全く異なった二様の意味で広く一般的に使用され,認識,理解されているものと認められる上,「テイパック」の語は,「ティーバック」の語の有する二つの語義のうちの一つと全く同じ意味で使われる場合もあるのであるから,本願商標の一連の称呼に接した上記商品の一般的な取引者,需要者において,これを引用商標と聞き誤るおそれがあるというべきであり,そのおそれが皆無であるとする原告の主張は採用することができない。そして,他に,上記(1)認定に係る両者の称呼上の類似性を左右するに足りる証拠はない。
(3) 以上の認定判断に照らせば,本願商標と引用商標は,称呼のみならず,観念においても類似するものと認められ,また,外観上は,いずれも片仮名文字よりなり,前者は長音符を含む6文字,後者は5文字から構成されているところ,全構成文字中,「テ」「ッ」「ク」の3文字を共通にするものであって,外観の相違は「イ」の文字の大小,長音記号の有無,「バ」と「パ」の違いにすぎず,称呼及び観念上の紛らわしさをしのぐものとはいえない。そうすると,以上のような称呼,観念及び外観を総合し,取引の実情も参酌して全体的に考察するときは,両商標が同一又は類似の指定商品に使用された場合に,商品の出所混同を生ずるおそれがあり,本願商標は引用商標に類似する商標というべきであるから,これが商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
したがって,原告の取消事由2の主張は,採用することができない。
3 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男