運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2001-35329
関連ワード 役務商標 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  著名な略称 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  4条1項15号 /  著名商標 /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  防護標章 /  無効審判 /  社団法人 /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 457号 審決取消請求事件
原告 日本電通株式会社
同訴訟代理人弁護士 中本和洋
同 倉橋忍
同 鷹野俊司
同 三木剛
同 豊島 ひろ江
同 柏木秀介
同 冨宅恵
同 木山智之
同 田中健治
被告 株式会社電通
同訴訟代理人弁護士 内藤篤
同訴訟代理人弁理士 萼経夫
同 舘石光雄
同 村越祐輔
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2001-35329号事件について平成14年7月26日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,「日本電通株式会社」の標準文字を横書きして成り,商標法施行令(以下「法施行令」という。)1条別表の「商品及び役務の区分」第9類の「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,ファクシミリ,電話機,電気通信機械器具,電子応用機械器具,電気材料,電話機械器具」,第37類の「電気通信工事及びその監理,電気工事,土木・建築工事及びその監理,内装仕上工事・管工事及びその監理,電気通信機械器具の修理又は保守,民生用電気機械器具の修理又は保守,電話機・ファクシミリその他の通信機器の修理又は保守,土木機械器具・建築機械器具の修理又は保守,土木機械器具・建築機械器具の貸与,土地・建築物の測量用機械器具の修理又は保守,配電用又は制御用の機械器具の修理又は保守,事務用機械器具の修理又は保守」,第38類の「電話機,ファクシミリその他の通信機器の貸与」及び第42類の「電気通信工事の設計,電気工事の設計,土木・建築工事の設計,内装仕上工事・管工事の設計,土地・建築物の測量,電子計算機の貸与,電子計算機を使用することにより機能するシステムの設計若しくは保守,電子計算機・汎用アプリケーション・インターネットの使用及び操作方法に関する質問に対する助言,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電気に関する試験・研究,土木に関する試験・研究,建築に関する試験・研究,電気通信機械器具・電話機・電気機械器具・電子応用機械器具又はその他機械器具に関する試験・研究」を指定役務又は指定商品(以下「指定役務等」という。)とする商標(平成11年6月23日登録出願。
平成13年3月9日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2) 被告は,平成13年7月26日,原告を被請求人として,本件商標の登録を無効とすることを求めて特許庁に審判を請求した。
(3) 特許庁は,被告の請求を無効2001-35329号事件として審理を行った上,平成14年7月26日,「登録第4458166号の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年8月7日にその謄本を原告に送達した。
2 本件審決の理由の要点 本件審決の理由は,要するに,@「電通」の略称は,本件商標の登録出願前に,被告の業務を表示するものとして,取引者及び需要者間に広く認識され,全国的に著名となっていたものであり,このような取引の実情の下においては,「電通」の略称は,被告及び被告の業務を想起させる機能を持つに至り,現在に至っているということができる,A本件商標の構成中,「株式会社」が法人の種類を表し,「日本」の文字が我が国の国名を表すことはいうまでもなく,「電通」の文字は,被告の著名な略称である「電通」と外観,称呼において同一と認められることに加え,被告は,極めて多岐にわたる商品又は役務(以下「役務等」という。)を事業目的に掲げており,現に,多くの関連会社を有し,関連会社の事業の中には,本件商標の指定役務等と密接な関連を有する役務等も存在していること,近時における企業経営の多角化の傾向をも併せ勘案すれば,原告が本件商標をその指定役務等に使用するときは,取引者及び需要者をして,当該役務等が被告又は被告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務等であるかのように,その役務等の出所について混同を生ずるおそれがある,Bしたがって,本件商標の登録は商標法4条1項15号(以下「本号」という。)に違反して登録されたものであり,同法46条1項の規定により無効とすべきである,というものである。
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 原告について 原告は,昭和22年10月に設立された会社であり,主として電気通信工事,土木,建築工事の請負等の事業を営んでいる。原告が設立された当時の商号は「日本電興株式会社」であったが,昭和27年に「日本電通建設株式会社」へと商号を変更した。原告は,設立以来,順調に発展を遂げ,昭和58年3月には,大阪証券取引所第2部に上場を果たした。その後,原告は,平成11年10月,現商号(日本電通株式会社)に商号を変更し,現在に至っている。原告は,「日本電通建設株式会社」の時代から,自社内及び顧客との取引の中で「日本電通建設株式会社」を表す通称(略称名称)として,「日本電通」ないし「日電通」という略称を使用してきており,顧客の間でもそのことは周知となっていたものであり,上記商号の変更はこのような略称の使用の実態を商号に反映すべく行われたものである。
(2) 本件商標の登録が本号に違反するものであるとした本件審決の認定判断は,以下に述べる理由により誤りである。
ア 本号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務等と他人の業務に係る役務等との間の関連性の程度並びに取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである。
称呼,外観及び観念類似性 (ア) 商号商標において称呼,外観及び観念類似性を判断する場合,法人格を示す「株式会社」の部分が省略されることがあるとしても,「株式会社」を除く略称部分は不可分一体のものとして自他の役務等の識別標識として捉えられるのが通常であり,「日本生命保険相互会社」や「日本鋼管株式会社」などの国名を表す「日本」の文字を前部分に付ける商号商標の場合でも,法人格を示す「相互会社」や「株式会社」を省略することは行われるが,「日本」の文字を単に国名表示とみて,その余の部分を分離抽出して認識,観念されることはなく,「日本」の文字とその余の部分とを一体不可分のものとして認識,観念されるものである。さらに,電気通信又は電子通信の事業分野においては,「電通」の語は,「電気通信」,「電子通信」などの略語として取引者及び需要者の間に定着しており,「電通」という語だけでは商号として会社を特定する機能を果たすことができないから,かかる事業分野に属する会社の「電通」との語を含む商号商標から,あえて「電通」の文字のみを分離することは全く意味をなさない。したがって,「日本電通株式会社」という本件商標については,株式会社を除く略称部分である「日本電通」を一体不可分のものとして認識・把握して,上記称呼,外観及び観念類似性を判断すべきである。
(イ) 本件商標は,「ニッポンデンツウ カブシキカイシャ」,「ニホンデンツウカブシキカイシャ」の称呼が生ずるほか,法人格を示す「株式会社」の部分が省略され,「ニッポンデンツウ」,「ニホンデンツウ」の称呼を生ずるものであり,「デンツウ」という称呼は生じない。これに対し,被告の商号等はその著名な略称が「電通」であることから,「デンツウ」の称呼を生ずるものである。
さらに,外観においても,本件商標中,株式会社を除いた略称は不可分一体であり,全体で一連のものと認識・把握されるものである。
したがって,本件商標の称呼,外観は被告の略称である「電通」のそれらとは類似性の程度が低いと認められるべきである。
(ウ) 「電通」という語は,本件商標の指定役務等である法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第9類,第37類,第38類,第42類の役務等に関する事業分野においては,「電気通信」あるいは「電子通信」の業務分野名の省略語として取引者及び需要者に定着しているから,「電通」との語はこれらの業種名の略称として観念されるものであり,本件商標をその指定役務等について使用したとしても,広告業の事業分野で周知著名となっている被告の略称である「電通」の観念を生ずることはない。
ウ 被告の「電通」という略称の独創性及び周知著名性 (ア) 被告の商号のうち「電通」の語は,もともと「電報通信」という業種を省略したものであり,独創性に乏しく,元来,商標としての強い自他識別,出所表示機能はなかったものであり,被告が,「電通」との略称を用いて広告業を行ってきたため,上記略称は広告業の事業分野において周知著名性を獲得するに至ったにすぎない。被告の「電通」という略称の周知著名性が認められるのは広告業の事業分野に限られており,被告の定款の目的欄に記載のその他の事業,被告又はその関連企業が行っているその他の業務等においては,被告の「電通」という略称に周知著名性は認められず,特に,本件商標の指定役務等である施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第9類,第37類,第38類,第42類の役務等について,その周知著名性は認められない。
したがって,電気通信,電子通信の事業分野において「電通」の語を使用した場合,これから被告の略称である「電通」が想起されることはなく,直截に,電気通信又は電子通信が想起されるというべきである。
(イ) 上記のとおり,被告の「電通」という略称に独創性はなく,その略称は広告業においてのみ周知著名性を有するにすぎない。他方,原告は,前記(1)記載のとおり,電気通信等の事業分野において60年近くの実績を担っており,かつ,本件商標の登録以前から,取引者及び需要者には「日本電通」との略称で周知されたきた会社であり,平成11年10月に商号を変更した後も被告の略称である「電通」との間で具体的な混乱が生じたという例はない。
したがって,本件商標をその指定役務等について使用した場合,被告の業務に係る役務等との間に役務等の出所について混同を生じることはないというべきである。
エ 本件商標の指定役務等と被告又はその関連業者の業務に係る役務等との関連性及び両役務等の取引者及び需要者の共通性 (ア) 無効審判請求事件において,審判の対象となる登録商標に係る指定役 務等が2以上ある場合に,その商標の登録が無効か否かは,各指定役務等ごとに判断されるべきであり,したがって,本号にいう「混同が生ずるおそれがあるか」どうかも,前記アの基準に従い,各指定役務等ごとに具体的に検討されなければならない。
(イ) 本件商標の指定役務等は,いずれも原告の主たる事業である電気通信工事,電気工事,土木,建築工事の設計,施工,管理,請負等の事業に関連する役務等であり,それらは,電気通信,電子通信等に関連する業界において「電通」の語を商号の一部に含ませている会社が取り扱う事業分野,業種である通信設備工事,電気工事,通信機械器具,電気通信業,電話工事,携帯電話・自動車電話サービス等において通常提供されている役務等である。また,原告の主要な取引先は,官公庁,NTT及びその関連会社,日本アイ・ビー・エム株式会社,公団,大学等である。
他方,被告及びその関連会社は,広告業を主たる事業として行っているものであり,被告及びその関連会社が,「イベントのパビリオンの建築工事,内装工事,ディスプレイの展示及び装飾,電飾看板等の各種電子装置の企画・制作,施工,映像ソフト・音声ソフトの企画・制作・施工」,「電子技術,インターネット,移動体通信等の通信を利用した各種通信システム等の設計・開発・運用」及び「コンピュータによる情報処理システム,データーシステム,ネットワークシステム等の情報技術の調査・研究・開発」等,その主張する業務を行っているとしても,これらの業務は,広告業に付随する関連業務として行われているものである。
そして,これらの広告業に付随する関連業務は,原告の主たる業務であり,本件商標の指定役務等である法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第37類の「電気通信工事及びその監理,電気工事,土木・建築工事及びその監理」等,第42類の「電気通信工事の設計,電気工事の設計,土木・建築工事の設計,・・・電気通信機械器具・電話機・電気機械器具・電子応用機械器具又はその他機械器具に関する試験・研究」等とは全く関連性がなく,両者の業務の種別・態様はかけ離れている。また,本件商標の指定役務等である,法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第9類の「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,ファクシミリ,電話機」等,第38類の「電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」等は,原告の主たる業務に関連する業務として指定されているものであり,被告の広告業に付随する関連業務との関連性は著しく希薄である。
以上のように,本件商標の指定役務等と被告の業務に係る役務等との関連性は全くないか,著しく希薄であり,したがって,両役務等の取引者及び需要者にも共通性がない。
(ウ) 前記アに述べたとおり,本号にいう「混同を生ずるおそれ」があるかどうかは,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として判断すべきところ,本件商標の指定役務等と被告の業務に係る役務等との関連性は全くないか,著しく希薄であり,したがって,両役務等の取引者及び需要者にも共通性がないのであって,本件商標の指定役務等に接する取引者及び需要者が,その普通の注意を払えば,被告の著名な略称である「電通」を連想・想起し,当該指定役務等が被告又は被告と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,役務等の出所について混同を生じることはない。殊に,本件商標の指定役務等に係る取引者及び需要者は,上記のとおり,官公庁,NTT及びその関連会社,日本IBM,公団,大学等であり,その普通の注意力は高いと認められるから,原告の「日本電通」との略称に含まれる「電通」の文字部分は,被告の略称である「電通」でなく,「電気通信」又は「電子通信」などの略語であると容易に認識することができるはずであり,上記のような混同が生じるとは考えられない。
オ その他の取引の実状等 上述したとおり,本件商標の指定役務等が属する電気通信,電子通信などに関連する業界においては,「電通」の語は,これらの事業分野,業種を想起させるものとして広く用いられて定着しているものであり,同業界においては,多くの会社が,上記業種を想起させる略語として「電通」の語をその商号の一部に含めているのであり,原告も,これらの会社と同じく,「電通」の語をその商号商標の一部に含ませることによって自らの手掛ける事業分野,業種を示そうとしているにすぎない。
これらの取引の実状からすれば,本件商標を指定役務等に使用したとしても,その役務等の出所について広義の混同が生じることはないというべきである。これと異なる見解に立てば,理論上,「電通」との文字を含む商標を登録することは不可能になるし,また,「電通」の文字を含む商標は商号商標であっても認められないのであるから,事実上,商号に「電通」の文字を含ませることも困難になる。このような結果をもたらす見解が,上記の業界における「電通」の語の使用実態を看過するものであり,公益に反することは明らかというべきである。
カ(ア) 上記イないしオの各観点からすれば,本件商標をその指定役務等につ いて使用した場合,被告の業務に係る役務等との間で出所の混同を生ずるおそれはないというべきである。
(イ) 仮に,本件商標の指定役務等の一部について,上記役務等の出所の混同を生じるおそれがあるとしても,本件商標の指定役務等の全部について混同が生じるおそれがあるとはおよそ考えられない。
2 原告の主張に対する被告の反論 本件商標の登録が本号に違反するものであるとした本件審決の認定判断に誤りはなく,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がない。
(1) 本号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該役務等が上記の他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務等であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解すべきである。すなわち,本号にいう「混同を生ずるおそれ」とは,いわゆる「広義の混同」を生ずるおそれを含むものである。そして,上記のように解した上で,本号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,原告の主張(2)ア記載の基準により判断すべきである。
(2) 称呼,外観及び観念類似性 ア 本件商標のうち法人格を示す部分を除く「日本電通」の標章は「日本」と「電通」に分離可能であり,その要部は「電通」の文字部分であり,したがって,本件商標は,被告の略称である「電通」と称呼,外観上類似している。
イ 被告の略称である「電通」の語は,広辞苑等の辞書に掲載されていない被告によって造語された「意味のない商標」であり,無意味商標(造語商標)として認識されるべきである。
原告は,「電通」なる語が,「電気通信」や「電子通信」の略称として定着していると主張する。しかし,「電通」という語が,「電気通信」,「電子通信」の略称として全く存在しないわけではないが,そのような略称として定着しているとはいえない。「日本電通」なる文字を含む商標は,「日本電気」や「日本銀行」といった文字を含む商標とは厳密に区別されるべきである。何故なら,「電気」や「銀行」のように質,内容,効能等の企業の内容を示す品質表示用語とは異なり,「電通」の語は周知著名性を有する被告の略称であり,企業の内容を示す品質表示用語とはいえないからである。
(3) 被告の「電通」の略称の独創性及び周知著名性 ア 被告は,明治34年から現在に至るまで,会社の事業組織,営業活動を拡大し続け,その傘下に5つの地域法人,多数の関連会社を擁し,昭和48年には売上高で世界第1位の広告会社となり,その事業の範囲は広く日本全国に及んでいる。被告は,遅くとも本社ビル,自社の出版物,広告懸賞論文等の募集等に自社を表すものとして「電通」の名称を使用し始めた昭和25年ころから本件商標の登録出願がされた平成11年まで,約49年間にわたり「電通」及び「DENTSU」の名称を使用して事業を営んでおり,最近では,「広告」の分野のみならず,文化的な映画の企画制作にも携わり,「企画・制作 株式会社電通」の表示とともに,広く世人の注目を集め,広告分野以外の名声も得るに至っている。そのため,被告の略称の「電通」は,被告の業務を表示するものとして,本件商標の登録出願前に,取引者及び需要者間に広く認識され,全国的に著名となっている。
イ 「電通」という標章が広告事業という特定の事業分野で圧倒的な著名性を獲得していることは,上記のとおりであり,そうである以上,「電通」の文字をその構成に含む本件商標がその指定役務等に使用された場合に,広義の混同が生じるのは必然的なことである。しかも,被告の略称である「電通」の周知著名性は単に広告業のみならず,前述のとおり,娯楽産業や権利ビジネスなどにおいても波及しており,「電通」の語は一般市民や消費者の間においても,そのような事業分野も手掛ける企業の略称として認識されている。また,原告が主要な取引先として掲げる官公庁やNTTや日本IBM等は被告にとっても大口の取引先であって,それらの取引先において,「電通」という略称は原告ではなく,被告の社名として認知されているのである。
(4) 本件商標の指定役務等と被告又はその関連業者の業務に係る役務等との関連性及び両役務等の取引者及び需要者の共通性 ア 原告は,本件商標の指定役務等は広告業と異なる法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第9類「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具等」などであり,被告の業務に係る役務等との関連性がないとか,被告ないしその関連会社が建築工事や電子通信システムの設計などを行っているとする根拠はない旨,被告やその関連会社が営む建設業やITソリューション事業等は広告業に付随する関連業務にすぎないなどと主張する。
しかしながら,広告業というものは全業種に横断的にサービスを提供する事業であって,一定規模の企業であれば,多かれ少なかれその提供する役務等を利用するものであり,その意味で,広告業に係る役務等は,本件商標の指定役務等である測定機器類,電気工事,通信機器の貸与,電気工事の設計等に関連性を有するというべきである。また,被告は,建築工事を実際に請け負い,施工しており,建設業の免許も有しており,被告の関連会社(具体的には株式会社電通国際情報サービス等)は,ITソリューション事業,すなわち「電子計算機・汎用アプリケーション・インターネットの使用及び操作方法に関する質問に対する助言」を提供する事業を行っている。さらに,被告やその関連会社が行う建設業及びITソリューション事業は,サービスの対価が明示され,独立した取引として対価の支払いが行われているものであり,その売上は,平成12年当時,建設業関係で年間100億円以上,ITソリューション事業関係で年間約260億円に上っており,このような事実からすれば,上記事業を広告業に付随する関連業務にすぎないとし,これが本件商標の指定役務等と関連性がないというのは相当でない。
イ 原告がその主要な取引先として挙げている官公庁,NTT,日本IBM,日本電気等は,被告にとっても大口の取引先であり,両者の取引者及び需要者には共通性がある。また,被告の関連会社は,広告業以外のITソリューション事業の分野において,日本IBM等との取引が存在し,この面でも原告の取引者及び需要者と共通性がある。
ウ 原告は,その取引先である官公庁,NTT,日本IBM,日本電気等の注意力は高いから,それらの取引先が「日本電通」という原告の略称から被告の「電通」という略称を想起することはないと主張するが,現実に原告との取引に日常的にかかわっている従業員であればともかく,これらの会社の宣伝部の従業員であれば,間違いなく両者の略称について混同を生ずるであろうし,一般従業員にあっても,被告の略称である「電通」の周知著名性の程度からして,「日本電通」の略称を被告の略称である「電通」と誤認する可能性は高いといえる。結局,原告の取引先が大企業であるとか,消費者向けの商品を取り扱う企業でないからといって,その取引者の注意力が高いとは一概にいえないというべきである。
(5) その他の取引の実状等 本号の「混同を生ずるおそれ」の有無の判断に当たっては,以上述べた事情のほか,例えば,昭和24年の行政改革により電気通信省が発足した際,その略称に「電通」の名称が使用されたため,当時の被告の代表者が電気通信大臣に「電通」の略称を使用しないように要望し,その使用を事実上中止させたなど,被告が,その略称である「電通」の名称を保全するために相当の努力を払ってきたこと,原告は,著名商標保護の気運が高まりを見せる中で,平成11年10月,これまで長年にわたり使用してきた「日本電通建設株式会社」の商号を変更するに当たり,殊更に被告の著名な略称である「電通」と称呼及び外観を同じくする「電通」の文字を含み,「株式会社電通」に近似する現商号(日本電通株式会社)に変更するという選択を行ったことなどの諸事情が考慮されなければならない。
当裁判所の判断
1 原告は,本件商標の登録が本号に違反するものであるとした本件審決の認定判断は誤りである旨主張する。
ところで,本号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り及び当該表示の希釈化を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるから,本号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務等に使用したときに,当該役務等が他人の業務に係る役務等であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該役務等が上記の他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による役務提供事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務等であると誤信されるおそれ,すなわち,広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,この場合,本号にいう「混同を生ずるおそれ」があるかどうかは,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務等と他人の業務に係る役務等との性質,用途又は目的における関連性の程度並びに役務等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該商標の指定役務等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである。
そこで,上記の観点から,本件商標の登録が本号に違反するものであるか否かについて,以下検討する。
2(1) 被告の商標の周知著名性について ア 証拠(甲25ないし28,乙2ないし5の各(1),(2),8ないし20,23,24,25の(1)ないし(7),32の(1),(2),33の(1)ないし(4),34の(1),(2))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告の創立者であるAは,明治34年に日本広告株式会社及び電報通 信社を創立した。明治39年に電報通信社を改組して被告の前身である株式会社日本電報通信社が設立され,翌年,同社は日本広告株式会社を合併し,通信業務と広告業務を併営することとなった。同社は,昭和11年に通信部門の営業を社団法人同盟通信社(現共同通信社,時事通信社)に委譲し,同通信社の広告部を吸収の上,その後は広告業を専業として行うようになり,昭和30年に商号を現商号(株式会社電通)と変更して現在に至っている。
被告は,通信業務と広告業務を併営していた時代に,積極的な営業活動を展開し,売上高日本第1位を達成し,広告業を専業として行うようになってからも売上高日本第1位の座を維持してきた。
(イ) 被告は,明治34年から現在に至るまで,会社の事業組織,営業活動を拡大し続け,昭和48年には売上高で世界第1位の広告会社となり,現在,その傘下に5つの地域法人,多数の関連会社を擁し,その事業の範囲は広く日本全国に及んでいる。
すなわち,被告は,平成7年に全国の支社を分離して,株式会社電通東日本,株式会社電通西日本,株式会社電通九州,株式会社電通北海道,株式会社電通東北の5つの地域法人を設立し,各地域に密着した営業体制をとり,新聞,雑誌,テレビ,ラジオ等の多様な広告媒体を駆使して,広告業務を営んでおり,上記各地域法人はそれぞれ主要都市に支社をおくほか,多数の営業所を設置して営業活動を行っている。また,平成13年9月現在において,被告は,上記5つの地域法人に加え,株式会社電通沖縄,株式会社アド電通東京,株式会社アド電通大阪,株式会社アド電通(名古屋),株式会社アド電通(北海道)等,社名に「電通」の文字が入る会社約23社ほか多数の関連会社を擁している。そして,被告及び各関連会社は,それぞれ独自に広告業を営み,あるいは,広告業に関連する「イベントのパビリオンの建築工事,内装工事,ディスプレイの展示及び装飾,電飾看板等の各種電子装置の企画,制作,施工,映像ソフト・音声ソフトの企画,制作,施工」,「電子技術,インターネット,移動体通信等の通信手段を利用した各種情報通信システム,データシステム,ネットワークシステム等の情報技術の調査・研究・開発」等の業務を行っている。
ちなみに,被告の資本金は,平成11年度現在で549億2960万円であり,その平成11年度の売上高は,約1兆3480億円に上っている。
(ウ) 被告は,大正6年ころには自社の略称として「電通」の名称を使用するようになったが,遅くとも昭和25年ころから本社ビル,自社の出版物,広告懸賞論文等の募集等に自社を表すものとして「電通」の名称を使用し始め,前記のとおり昭和30年には商号を現商号に変更し,その後現在に至るまで「電通」及び「DENTSU」の名称を使用して事業を営んでおり,最近では,「広告」の分野のみならず,文化的な映画の企画制作にも携わり,「企画・制作 株式会社電通」の表示とともに,広く世人の注目を集め,広告分野以外でも名声を得るに至っている。
被告は,昭和8年11月7日,「電通」の文字を横書きにしてなる商標につき,指定商品を「図画,写真及印刷物類」として商標登録の出願をし,昭和9年7月16日に設定登録された。その後,平成4年4月1日から役務商標登録制度が施行されたのに伴い,被告は,商号商標「株式会社電通」(縦書き)について,指定役務等を法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第35類「雑誌による広告の代理,新聞による広告の代理,テレビジョンによる広告の代理,ラジオによる広告の代理,車両の内外における広告の代理,アドバルーンによる広告,看板による広告,はり紙による広告,街頭及び店頭における広告物の配布,商品の実演による広告,郵便による広告物の配布,広告文の作成,ショーウィンドーの装飾,市場調査」として出願し,使用特例の商標として設定登録(第3043883号。
平成4年9月25日出願,平成7年5月31日登録。)を受け,また,その後にも,指定役務等を同別表の「商品及び役務の区分」第37類「建築一式工事」,第41類「映画・園芸・演劇又は音楽の演奏の興業の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作」を指定役務等として,使用特例の商標として設定登録(それぞれ第3101341号(平成4年9月30日出願,平成7年11月30日登録),第3189539号)を受けている。このように登録された商号商標は,会社案内,会社概要,封筒,便箋,取引書類(見積・請求書等の書類」,映画の鑑賞チケットなどに使用されるとともに,その社員約5800名(平成13年9月現在)が日常使用する名刺にも表示されている。
(エ) なお,被告は,その登録商標「株式会社電通」が被告の業務に係る指定役務を表示するものとして需要者間に広く認識されており,上記登録商標に係る指定役務及びこれに類似する役務以外の役務について他人が上記登録商標を使用することによりその役務と自己の業務に係る指定役務とが混同するおそれがあるとして,そのおそれがあると考えられる各役務等について防護標章の登録を特許庁に申請し,これが認められて,上記登録第3043883号商標の防護標章登録第3号(「株式会社電通」の文字を横書きしてなり,法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第37類「建築一式工事」等を指定役務として,平成4年9月25日に登録出願され,平成9年3月10日に設定登録されたもの),同防標章登録第2号(「株式会社電通」の文字を横書きしてなり,法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第38類「移動体電話による通信」等を指定役務として,平成4年9月25日に登録出願され,平成9年1月29日に設定登録されたもの),同防護標章登録第8号(「株式会社電通」の文字を横書きしてなり,法施行令1条別表の「商品及び役務の区分」第42類「宿泊施設の提供」等を指定役務として,平成4年9月25日に登録出願され,平成10年3月27日に設定登録されたもの)の各登録がされている。
イ 上記ア認定の事実によれば,「電通」は被告の略称であるところ,それは,本件商標の登録出願前に,被告及びその関連会社の広告業務等の業務を表示するものとして,被告の提供する役務等に接する取引者及び需要者のみならず,広く一般に認識され,全国的に著名となっていたものと認めることができる。
原告は,被告の商号のうち「電通」の語は,もともと「電報通信」という業種を省略したものであり,独創性に乏しく,元来,商標としての強い自他識別,出所表示機能はなかったものであり,被告が「電通」との略称を用いて広告業を行ってきたため,上記略称は広告業において周知著名性を獲得するに至ったにすぎず,その他の業種においては,その周知著名性は認められない旨主張するところ,確かに,被告の略称である「電通」の語の由来は原告主張のとおりであると認められ,純然たる造語と違い,その語の独創性の程度は高いものとはいえないし,被告の主たる業務が広告業であることは否定できない。
しかしながら,被告の略称である「電通」の周知著名性は極めて高いこと,また,全業種に横断的にサービスを提供するという広告業の性格,被告の事業の規模は格段に大きく,その関連会社の数も多数に上っているところ,近時大企業においては経営の多角化を図る傾向が強いこと等を考慮すれば,本号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無の判断に当たって,被告の略称である「電通」の独創性が低いこと,被告の主たる業務が広告業であることを重視するのは相当でない。
(2) 称呼,外観,観念上の類似性について 本件商標は,その外観上,「日本電通株式会社」の標準文字を横書きにしてなるものであり,法人格を示す「株式会社」,我が国を意味する「日本」,「電通」の各部分で構成されているものとみることができ,そのうち「電通」は「デンツウ」の称呼が生ずるものであり,被告の略称である「電通」と称呼,外観が同一である。
原告は,電気通信又は電子通信の事業分野においては,「電通」の語は,「電気通信」,「電子通信」などの略語として取引者及び需要者の間に定着しており,本件商標を構成する「電通」の文字は原告の業種を示すものとして機能するにすぎず,それだけで会社を特定する機能を果たすことができないのであるから,称呼,外観,観念上の類似性を判断するには,本件商標の構成中「日本電通」の文字部分は不可分一体のものとして判断されるべきである旨主張する。
そこで,検討するに,確かに,「電通」という文字から「電気通信」,「電子通信」等の業務の略語としての観念が生じ得ることは否定できない。また,例えば「日本銀行」や「日本電気」のように,商号商標の著名な略称が我が国を意味する「日本」の文字とその業種等を示す「銀行」,「電気」のような普通名詞とで構成されている場合,当該普通名詞だけでは会社を特定するに足りないから,当該商標の普通名詞のみを「日本」の文字から分離して称呼,観念するのは不自然である。しかしながら,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認められない商標は,必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部の構成部分だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生ずることは経験則の示すところである。本件の場合,前記認定のとおり,「電通」の文字が被告の略称として周知著名性の程度が高いことから,本件商標の「日本電通」の部分のうち,「電通」の文字が特に取引者及び需要者の注意を引くものと予想され,したがって,上記部分は「日本」と「電通」の各文字に分離して称呼,観念され得るものと考えられるし,「日本銀行」等の例とは異なり,そのように称呼,観念しても不自然とはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
(3) 広告業というものは全業種に横断的にサービスを提供する業種であって,一定規模の企業であれば,多かれ少なかれ利用する役務等であり,その意味では,本件商標の指定役務等に関連性を有する役務等というべきである。また,証拠(甲61ないし64,乙23,35の(4),(5),37の(1)ないし(12),38の(1)ないし(4),45の(1),(2))及び弁論の全趣旨によれば,被告及びその関連会社の一部は,建設業の免許を有し,広告事業に関連して,建築工事を実際に請け負い,施工しており,被告の関連会社である株式会社電通国際情報サービスは,ITソリューション事業等,すなわち「電子計算機・汎用アプリケーション・インターネットの使用及び操作方法に関する質問に対する助言」を提供する事業等を行っていること,被告やその関連会社が営む建設業及びITソリューション事業等は,広告業とは別に独立した取引として対価の支払いが行われるものであり,その売上は,平成12年当時,いずれも相当規模に上っている(建設業関係で年間約88億円,ITソリューション事業関係で年間約260億円)ことが認められる。
(4)ア 上記のとおり,被告の略称である「電通」は被告の業務を表示するものとして周知著名性の程度が極めて高いところ,本件商標は,被告の著名な略称である「電通」をその構成部分に含む商標であり,その構成部分がその余の部分から分離して認識され得るものであり,被告の略称である「電通」と称呼,外観,観念上類似していると認められる。加えて,被告の略称である「電通」の周知著名性が高いのは主として広告業界においてではあるものの,広告業は全業種に横断的にサービスを提供する業種であって,その意味において,本件商標の指定役務等と関連を有するし,また,被告及びその関連会社が展開している事業の中には,本件商標の指定役務等と密接な関連を有する役務等が含まれていること,近時においては企業経営の多角化傾向が顕著であること,殊に,被告の事業の規模が格段に大きく,その関連会社の数も多数に上っていることからすれば,広告業以外の事業分野で提供される役務等についても,本件商標に接した取引者及び需要者が,被告ないしその関連会社の業務と何らかの関係があるものと考えるのはむしろ自然なことと考えられる。しかして,これらの事情を総合的に勘案すれば,本件商標をその指定役務等に使用するときには,これに接した取引者及び需要者に対し,被告の略称である「電通」を想起させて,その役務等が被告の業務に係る役務等であるかのように,その出所につき誤認を生じさせるおそれがあり,本件商標の登録を維持した場合には,被告の略称である「電通」の有する自他識別機能希釈化,ひいては被告の業務上の信用の低下という結果を招来しかねないと考えられる。
そうすると,本件商標は,法施行令1条別表の「商品及び役務」の区分」第37類及び第42類はもちろん,同第9類及び第38類を含めて,その指定役務等全体を通じて,本号にいう「混同を生ずるおそれのある商標」に該当すると判断するのが相当である。
イ 原告は,@本号にいう「混同を生ずるおそれ」があるかどうかは,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として判断すべきところ,本件商標の指定役務等と被告の業務に係る役務等との関連性は全くないか,著しく希薄であり,両役務等の取引者及び需要者にも共通性がないから,本件商標の指定役務等に接する取引者及び需要者において混同を生じるおそれはない旨,また,A本件商標の指定役務等に係る取引者及び需要者は,上記のとおり,官公庁,NTT及びその関連会社,日本IBM,公団,大学等であり,その普通の注意力は高いと認められること,しかも,原告は,前記第3の1(1)記載のとおり,電気通信等の事業分野において60年近くの実績を担っており,かつ,本件商標の登録以前から,取引者及び需要者には「日本電通」との略称で周知されたきた会社であり,平成11年10月に商号を変更した後も被告の略称である「電通」との間で具体的な混乱が生じたという例はないことから,上記のような混同が生じるおそれはない旨主張する。
しかしながら,原告の上記@の主張が理由のないことは上記アで説示したところから明らかである。次に上記Aについてであるが,証拠(甲3,4の(1)ないし(4),5ないし7,10ないし18)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,昭和22年10月に創立されて以来,電気通信工事の請負等の事業分野で50年余りにわたりそれなりの実績を上げてきたこと,昭和27年に商号を「日本電興株式会社」から「日本電通建設株式会社」に変更し,昭和58年には大阪証券取引所第2部に上場を果たしたこと,原告の主要な取引先は,官公庁,NTT,日本IBM,日本電気等であること,原告が,日本電通建設株式会社の時代から,社内において自社のことを「日本電通」と称することがあったことが認められ,また,上記時代に発行された社団法人電信電話工事協会近畿支部発行「近畿電信電話建設事業史」,近畿通信建設株式会社発行の「近畿通信建設二十年史」に,原告のことが「日本電通」との略称で記載されていることが認められるが,これらの事実のみから,原告がその取引者及び需要者の間で「日本電通」の略称で知られていたことを認めることはできず,他にこの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また,証拠(乙35の(1)ないし(5))及び弁論の全趣旨によれば,原告の主要な取引先である官公庁,NTT,日本IBM,日本電気等は,被告にとっても広告業の大口の取引先であり,また,被告は,広告業以外のITソリューション事業の分野においても,日本IBM等との取引が存在し,両者の取引者及び需要者には共通性があることが認められる。したがって,これらの取引先が大企業であり,また,一般消費者向けの商品を取り扱っていないとしても,現実に原告との取引に日常的にかかわっている従業員であればともかく,上記取引先の宣伝部の従業員が本件商標の指定役務等を被告の業務に係る役務等と誤認する可能性は高いと考えられるし,また,被告の略称である「電通」の周知著名性が高いことからすると,上記取引先の一般従業員にあっても,上記誤認を生ずる可能性は相当程度あるものと考えられる。
原告の上記主張は採用できない。
ウ 原告は,本件商標の指定役務等が属する電気通信,電子通信などに関連する業界においては,「電通」の語は,これらの事業分野,業種を想起させるものとして広く用いられて定着しているものであり,上記業界においては,多くの会社が,上記業種を想起させる略語として「電通」の語をその商号の一部に含めているという取引の実情からすれば,本件商標を指定役務等に使用した場合には,その役務等の出所について広義の混同が生じるとした本件審決の判断は,上記業界における「電通」の語の使用実態を看過するものであって,公益に反する旨主張する。
確かに,電気通信,電子通信などに関連する業界において,「電通」の語がこれらの事業分野の略称と称呼,観念されることがあり得ることは否定できず,また,上記業界において,多くの会社が,「電通」の文字をその商号の一部に含ませて使用している実情があることも原告主張のとりである(甲23の(1)ないし(5),24の(1)ないし(6),43,44,67の(1)ないし(6),68ないし70の各(1)ないし(4),71の(1)ないし(5),72の(1)ないし(3))。しかし,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生じ得ることは既に説示したとおりであり,上記アの判断が電気通信,電子通信などに関連する業界における「電通」の語の使用実態を看過するものであるというのは当を得ないものである。また,それらの商号に含まれる「電通」の文字が,被告の略称である「電通」を想起させるものとして,広義の混同を生じるものであるかどうかは,各商標ごとにその文字等の構成を分析して判断されるべきものであるから,本件商標を指定役務等に使用した場合には,その役務等の出所について広義の混同が生じるとの本件審決の結論が是認された場合には,「電通」の文字を含む商標の登録が一般的に許されなくなるとか,電通の文字を含む商標は商号商標であっても一般的に認められなくなるなどいうことはできない。
原告の上記主張は採用できない。
3 以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 橋本英史