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関連ワード 独占的使用 /  出所表示機能 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  識別機能 /  指定商品 /  損害額 /  逸失利益 /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  専用使用権 /  国内 /  差止 /  並行輸入 /  外国 /  継続 /  利益額 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 5605号 商標権侵害差止等請求控訴事件
平成 14年 (ネ) 5060号 同附帯控訴事件
控訴人(附帯被控訴人) 株式会社コスモビューティー
訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 岩坪哲
同 井上裕史
同 赫高規
補佐人弁理士 三枝英二
同 中川博司
同 山田 威一郎
被控訴人(附帯控訴人) 株式会社ジェー・ピー・シー
訴訟代理人弁護士 渡邊敏
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/19
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決主文第1項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人(附帯被控訴人)は,被控訴人(附帯控訴人)に対し,120万2670円及びこれに対する平成11年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1審共同原告インターナショナル・トイレツリース株式会社と控訴人(附帯被控訴人)との間において生じた分を除き,第1,2審を通じてこれを50分し,その1を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
4 この判決は,第1項の(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 控訴につき (1) 控訴人 原判決中,控訴人(附帯被控訴人,以下単に「控訴人」という。)敗訴部分を取り消す。
被控訴人(附帯控訴人,以下単に「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
(2) 被控訴人 本件控訴を棄却する。
2 附帯控訴につき (1) 被控訴人 原判決中,被控訴人関係部分を次のとおり変更する。
控訴人は,被控訴人に対し,5178万4621円及びこれに対する平成11年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人 (本案前の答弁) 本件附帯控訴を却下する。
(本案の答弁) 主文第2項と同旨
事案の概要
本件は,「迷奇」「MiQi」の文字を円環の中に図案化してなり,指定商品を第3類「化粧品」とする原判決別紙商標権目録記載の登録商標(本件商標)に関し,その商標権者(北京亜美)との間の独占販売契約に基づく独占的通常使用権ないし専用使用権を有していた被控訴人が,控訴人に対し,控訴人の輸入及び販売に係る美容クリームの容器及び外箱には本件商標と同一又は類似の標章が付されていたから,その輸入及び販売行為は,本件商標に係る被控訴人の上記独占的通常使用権及び専用使用権を侵害したと主張して,不法行為による損害賠償の請求をし,控訴人が,真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠くなどと争っている事案である。被控訴人の請求を一部認容した原判決に対し,控訴人が敗訴部分の取消しを求めて控訴し,被控訴人が附帯控訴により請求を拡張している。なお,被控訴人のその余の請求(著作権侵害及び不正競争行為を理由とする損害賠償請求並びに不正競争防止法の規定に基づく謝罪広告掲載請求)は当審における不服の対象外である(括弧内の用語は原判決の用例によるものであり,以下もこれによる。また,年の表記は原則として元号による。)。
1 前提となる事実(証拠等を示した事実を除き,当事者間に争いがない。) (1) 中華人民共和国(以下「中国」という。)法人である北京亜美(ベイジン・ヤ・メイ・コスメティクス・ファクトリー〔北京市亜美日化廠〕)は,昭和62年(1987年),ブランド名を「迷奇」とする美容クリーム(以下「迷奇クリーム」という。)を商品化し,迷奇クリームは平成元年(1989年)12月に共産圏内の発明コンクールである第38回ユーレカ国際発明展で金賞を受賞した(甲3)。北京亜美は,本件商標について,平成5年4月23日,我が国における商標登録出願をし,平成8年11月29日設定登録を受けた。
(2) 被控訴人は平成6年11月から,控訴人は平成7年ころから,それぞれ迷奇クリームを輸入するとともに,日本国内での販売を開始した(甲47,弁論の全趣旨)(ただし,控訴人の輸入及び販売に係る迷奇クリームが真正商品であったかどうかについては争いがある。)。そのころ,迷奇クリームは,シワやシミに効果のある「ミラクルクリーム」として我が国の女性誌等でも取り上げられるようになった(甲5〜9)。
(3) 被控訴人は,平成8年6月21日,北京亜美との間で,下記の条項を含む内容で,日本における迷奇クリームの独占販売契約(以下「本件独占販売契約」という。)を締結した(甲19)。
ア 北京亜美は,被控訴人に対し,日本市場における迷奇クリームの独占販売権を許諾し,被控訴人は唯一の正規販売代理店とする。また,被控訴人は,北京亜美の有する商標権を北京亜美に代わって行使できる(第1項)。
イ 北京亜美は,被控訴人以外のいかなる貿易会社,化粧品会社等に対して,日本市場向け迷奇クリームを直接又は第三者を通して販売してはならない(第3項)。
ウ 契約の期間は1年とし,更新は自動継続を基本とするが,契約更新は契約期間終了3か月前に,北京亜美と被控訴人相互の協議による確認を基本とする(第7項)。
(4) 被控訴人は,平成9年2月19日,北京亜美から,本件商標に係る商標権(以下「本件商標権」という。)について,地域を日本全国とする専用使用権の設定を受け,同年5月12日その旨の設定登録を受けた。
(5) 北京亜美は,平成12年2月5日,被控訴人との間で本件独占販売契約を解約する一方,同年3月6日,控訴人との間で,迷奇クリームの日本国内における独占販売契約を締結した(甲59,乙108,109及び126,枝番号の表記は省略する。以下同じ。)。
(6) 控訴人は,被控訴人が本件商標権について独占的使用権(平成8年11月29日から平成9年5月11日まで)及び専用使用権(平成9年5月12日から平成12年2月5日まで)を有していた間も,様々な購入ルートを通じて,迷奇クリームの輸入及び日本国内での販売を継続しており,その商品の容器及び外箱には,本件商標と同一又は類似の標章が付されていた。
2 争点 本件の争点は,@ 控訴人の輸入及び販売に係る迷奇クリームは,本件商標の商標権者である北京亜美の製造及び販売に係る,いわゆる真正商品か,A 被控訴人の損害額はいくらかの2点である。
争点についての当事者の主張
1 争点@(控訴人商品の真正性)についての控訴人の主張 控訴人が中国からの輸入等によって仕入れた迷奇クリーム(以下「控訴人商品」という。)は,本件商標の商標権者である北京亜美が中国国内において適法に拡布した真正商品であり,その輸入及び販売は,本件商標の出所識別機能を害するものではないから,被控訴人の有していた独占的通常使用権及び専用使用権を違法に侵害するものではない。
(1) 控訴人は,平成9年以降,控訴人商品を,別紙1(乙283から引用)の表に記載のとおり,シノケム山東(中化山東進出口集団公司),上海軽工(上海軽工業品進出口有限公司)及び中国石炭(中国煤炭物資総公司)から合計29万0940個を輸入したほか,直送ルートで45個を入手した(以下,中国企業の名称は,初出のものは括弧内に正式名称を表記し,その余は別紙1,2記載の略称で表記する。)。その購入ルートは,別紙2(当審証人宋海の速記録添付の別紙から引用)のとおりであり,いずれも出所を本件商標の商標権者である北京亜美とするものである。以下,各ルートごとに詳説する。
ア シノケム山東ルート シノケム山東からの輸入に係る控訴人商品は,11万7840個であるところ,まず,上海青松(上海青松物貿有限公司)は,平成9年(1997年)1月15日から同年12月17日までの間に,11万個以上の迷奇クリームをシノケム山東に販売しており(乙158の補助帳簿),シノケム山東が控訴人に販売した時期及び数量と矛盾がない。次に,上海青松は,同年8月20日から同年12月3日までの間に,北京恒鴻宝(北京恒鴻宝商貿責任公司)から約2万個の迷奇クリームを,同年1月2日から同年10月29日までの間に,中華旅游(中華旅游記念品総公司浦東隆華商行)から約7万個の迷奇クリームを,それぞれ購入しており(乙155,157の補助帳簿),上海青松がシノケム山東に販売した時期及び数量と矛盾がない。なお,上記取引に係る中華旅游作成の領収書(乙145)中には,上海青松以外の宛名になっているものもあるが,これはメーカのチェックが厳しかったことから,架空の得意先として有名百貨店等の名称を使用しているにすぎないものである。そして,北京恒鴻宝は,同年4月23日から同年12月9日までの間に,北京亜美から約3万7500個の迷奇クリームを購入している(乙181の領収書)。この数量は,北京恒鴻宝から上海青松に販売された数量に若干及ばないが,本件のような大量の売買について,すべての販売に関する資料を収集するのは困難であり,まして,控訴人と直接の取引関係にない北京恒鴻宝や中華旅游から完全な資料の提供を要求することは不可能であるから,控訴人商品の購入ルートの立証としては上記関係証拠で十分というべきである。さらに,中華旅游において,同年当時,北京亜美との間で迷奇クリームの取引関係があったことは,北京亜美作成の回答書(乙192)や,北京亜美と中華旅游間の売買契約(乙141)等から明らかである。
そうすると,北京亜美→北京恒鴻宝→上海青松→シノケム山東→控訴人という購入ルートをたどったものと,北京亜美→中華旅游→上海青松→シノケム山東→控訴人という購入ルートをたどったものとを含め,シノケム山東ルートでの輸入に係る控訴人商品はすべて真正商品である。
イ 上海軽工ルート 上海軽工からの輸入に係る控訴人商品は,14万9100個であるところ,北京恒鴻宝の上海軽工宛領収書(乙153,190)として,平成10年(1998年)分で3万8000個,平成11年(1999年)分で9万3000個が記載されている上,その代金の支払関係も証拠(乙161,162)上明らかである。その合計数量は上記アの輸入数量に若干及ばないが,販売数量が合致しなければ真正商品であることの立証を認めないとするのが現実にそぐわないことは上記のとおりであるから,上海軽工ルートでの輸入に係る控訴人商品についても,真正商品であることの立証は十分というべきである。
ウ 中国石炭ルート 中国石炭からの輸入に係る控訴人商品は,平成9年(1997年)2月17日の発注に係る2万4000個であるところ,北京亜美作成の回答書(乙192)により,当時,北京亜美と中国石炭の間で迷奇クリームの取引があったことが明らかであるから,上記商品も真正商品というべきである。
エ 直送ルート 控訴人は,上記の輸入ルートとは別に,平成9年6月6日,真正商品である迷奇クリーム45個を入手した。すなわち,当時,迷奇クリームのローションタイプは品薄であったため,上海青松は通常ルートからの購入ができず,そのため,控訴人の発注を受けた上海青松の従業員宋林は,中国屈指の百貨店等である上海友誼有限公司浦東友誼商店等で迷奇クリーム45個を購入の上,控訴人に郵送したものである(乙147,149)。
(2) 平成9年2月以降に日本国内で販売された控訴人商品に,真正商品でない商品は発見されていない。控訴人の販売に係る迷奇クリームのうち,原判決中で真正商品でないと認定されたもの(原判決別紙被告商品目録1〜3記載の「被告商品1〜3」)は,平成8年7月以前に販売されていたものであり,本件とは無関係である。かえって,平成9年2月以降に販売された控訴人商品(同目録4,5記載の「被告商品4,5」)については,真正商品であると認定されている。
(3) 被控訴人の本件商標権に係る専用使用権に基づく請求は,日本国内における被控訴人の独占的輸入権ないし販売権を確保する手段,目的に出たものであり,また,独占禁止法にも違反するから,権利の濫用として許されない。
(4) 下記2(2)オの被控訴人の主張は,時機に後れて提出されたものであるから,却下されるべきである。
2 争点@(控訴人商品の真正性)についての被控訴人の主張 以下のとおり,控訴人商品は真正商品であると認められないから,その輸入及び販売行為は,被控訴人の独占的通常使用権及び専用使用権を違法に侵害するものである。
(1) 真正商品の迷奇クリームは,外箱の正面,背面,右側面,左側面に,ピンク色の花柄が中心に描かれており,正面の横線より上部に,「迷奇」と大きく記載され,その下には「高級神奇美容蜜」と記載されている。外箱の背面は,横線より上部に「MIRACLE」と大きく記載され,その下には「super miracle beauty cream」と記載され,右側面の横線より上部には第38回ユーレカ国際コンクール金賞受賞のメダルが描かれ,左側面の横線より上部にはバーコードが印刷されている。外箱の頭部には,本件商標が記載され,外箱底面には印刷会社が,外箱の内面には本件商標が,全面に点在模様として,それぞれ印刷されている。容器は,円柱状の容器であり,上部がキャップ,下部が容器本体となっている。キャップ部は頭部に本件商標のシールが貼付され,容器本体部には,筒状にラベルが巻装されており,その正面には,「迷奇」と大きく記載され,その下には「高級神奇美容蜜」と記載され,更にその下には,「super miracle beauty cream」と記載されている。
これに対し,控訴人の販売に係る迷奇クリームは,外箱の「迷奇」の文字の大きさや太さ,その他の絵柄,文字,バーコードの配置等が異なっているほか,印刷色が不鮮明のもの,キャップの形状や材質が異なっているもの等が含まれているなど,真正商品の迷奇クリームとは明らかに異なる。
(2) 迷奇クリームの購入ルートに係る控訴人の主張立証は,対応関係の明らかでない取引をつなぎ合わせたものであり,控訴人の輸入及び販売に係る迷奇クリーム(控訴人商品)とは関連性がない。また,控訴人商品の真正性を立証するために控訴人の提出した証拠には,それ自体として,信用性に疑問がある。
ア まず,シノケム山東ルートに関して,控訴人の輸入した数量は11万個以上であるのに,北京亜美から北京恒鴻宝への販売数量(乙131)及び北京亜美から中華旅游への販売数量(乙143)を合計しても4万7000個弱であり,つじつまが合わない。また,北京亜美から北京恒鴻宝への販売(乙131)は,平成9年(1997年)4月23日から同年12月9日までであるところ,シノケム山東から控訴人が輸入したのは同年8月22日から同年12月26日までであるから,シノケム山東ルートに係る輸入と時期的に整合せず,また,北京恒鴻宝から上海青松への販売時期及び数量とも整合しない。なお,北京亜美と北京恒鴻宝間の取引に関する乙151は,平成10年(1998年)3月25日以降のものであるから,シノケム山東ルートでの輸入に係る迷奇クリームの真正性を何ら基礎付けるものではない。さらに,北京亜美から中華旅游への販売数量は2万2800個である(乙143)のに対し,中華旅游から上海青松への販売数量(乙157)は7万2120個であるから,数量が合わない。また,控訴人は,中華旅游の上海青松への販売に係る領収書の宛名が架空の得意先名とされている旨主張するが,その取引規模は,邦貨に換算して2億2000万円にも相当するものであり,そのような架空取引がされたとは考えられない。
イ 次に,上海軽工ルートに関して,北京亜美から北京恒鴻宝への販売は平成9年(1997年)4月23日から同年12月9日までである(乙131)のに,北京恒鴻宝から上海軽工への販売は平成10年(1998年)2月18日から平成11年(1999年)5月7日までであり,取引時期が整合しない上,取引数量も合わない。同様に,北京恒鴻宝から上海軽工への販売時期及び数量は,上海軽工から控訴人が輸入した時期及び数量と整合しない。
ウ また,直送ルートに関して,控訴人の提出する甲147,149は,その商品が真正商品であることを何ら基礎付けるものとはいえない。
さらに,一般に,この種の化粧品の国際取引は,1万個単位のオーダーでなければ採算がとれないのに,控訴人の主張立証に係る中国国内における各取引は,ほとんどが1万個に満たない数量で行われており,このような取引が輸出向けのものとは考えられない。
エ 中華旅游の上海青松宛の領収書である乙145の26は,番号が97-23390003,作成日付が平成9年(1997年)10月29日とされているところ,乙145の27の領収書は,番号が97-23390004で,上記領収書より後の番号であるのに,作成日付は上記領収書より前の同年1月とされており,日付をさかのぼって後付けで作成された可能性が濃厚である。また,乙157,158の帳簿は,通常の会計原則に則って作成されたものとはいえず,それ自体信用できない。さらに,北京亜美の北京恒鴻宝宛の同年9月10日付け領収書である乙181の8によれば,数量2400個,金額4万5600元とされているから,単価は19元となるのに,シノケム山東から控訴人への輸入関係書類である乙216によれば,1カートン(120個)240ドル(米ドル,以下同じ。)とされており,単価は2ドルとなり,これは当時の為替レートで16.6元に相当する。すなわち,北京亜美から単価19元で出荷されたものが単価16.6元で輸入されたことになり,このような逆ざや取引はあり得ない。なお,乙283では,番号2〜9及び11の輸入について,単価が2.95ドルと記載されているが,乙196以下の輸入関係書類には2.95ドルとの記載はないから,乙283の上記記載は誤りである。
オ 迷奇クリームの正規の成分表は甲113添付のA,Gのものであるが,控訴人が大阪府知事に対して輸入許可申請を行った際に提出された成分表(甲38,40)は,上記の真正な成分表と配合が異なり,香港の振堅発展有限公司が北京亜美との合弁を解消した後に作成した成分表(甲113添付のE)と合致するものであり,これは正規の成分ではない。なお,この正規でない成分は,平成12年(2000年)12月4日付けのファクシミリにより北京亜美が被控訴人に通知した変更後の成分(甲113添付のC)と同一であり,迷奇クリームの成分が変更されたことは明らかである。
3 争点A(損害額)についての被控訴人の主張 (1) 控訴人が輸入した控訴人商品は28万1467個を下らないところ,日本国内で販売されたのは,この92%に相当する25万8949個である。そして,控訴人が控訴人商品の販売により得ていた利益の額は,1個当たり199.98円である。このことは,本件控訴人を原告,本件被控訴人を被告とする大阪地裁平成13年(ワ)第8956号事件において,控訴人(同事件原告)が,控訴人商品の販売価格を1個当たり平均550円,利益率を平均36.36%と主張した事実によって基礎付けられる。したがって,本件商標権に係る独占的通常使用権及び専用使用権の侵害により被控訴人の受けた損害の額は,商標法38条2項に基づき,控訴人の受けた上記利益相当額の5178万4621円となる。
(199.98円×25万8949=5178万4621円) (2) 被控訴人は,原審では,商標法38条1項に基づき,平成7年11月から平成11年3月までの控訴人商品の販売個数(14万1542個)に,被控訴人商品1個当たりの販売額(卸値)の平均値(1309円)及び純利益率(20%)を乗じて得られる被控訴人の逸失利益3705万5696円を損害として主張したのに対し,原判決は,同条3項に基づき,被控訴人の登録商標(本件商標)の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額(以下「使用料相当額)として,884万円及びその附帯金員の限度で請求を認容したが,当審における附帯控訴をもって請求を拡張し,控訴人に対し,不法行為による損害賠償として上記5178万4621円及びこれに対する平成11年5月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。なお,被控訴人は,同条1項,3項に基づく上記各損害も選択的に主張しているものと解される。
4 争点A(損害額)についての控訴人の主張 被控訴人の損害に係る主張は争う。
本件附帯控訴は,時機に後れて提出されたものであるから,却下されるべきである。
当裁判所の判断
1 争点@(控訴人商品の真正性)について 1-1 当審において判断の対象となる被控訴人商品の範囲 本件で,本件商標権に係る被控訴人の独占的通常使用権及び専用使用権の侵害の対象とされている控訴人商品は,別紙1の輸入数量一覧表に記載の輸入に係る29万0940個(シノケム山東ルート11万7840個,上海軽工ルート14万9100個,中国石炭ルート2万4000個)及び直送ルートに係る45個の合計29万0985個の迷奇クリームである。被控訴人は,附帯控訴の請求原因として,控訴人商品の輸入数量を28万1467個と主張しているが,これは,控訴人が原審で提出した乙129(輸入数量一覧表)の記載に基づいて原判決が認定した27万4507個に別紙1の番号7,8に係る修正個数6960個を加算したものであること,一方,控訴人は,当審において,乙129の誤記訂正後の乙283(輸入数量一覧表)を提出し,これに基づいて上記3ルートの輸入に係る輸入数量を別紙1のとおり合計29万0940個と主張していることは記録上明らかであるから,このような経緯及び弁論の全趣旨に照らせば,当審において真正性が争われている控訴人商品の範囲を,控訴人主張の上記輸入数量を前提にして判断することは,被控訴人の訴旨に反するものではない。そして,控訴人が,別紙1の輸入数量一覧表記載のとおりの控訴人商品の輸入をしたことは,証拠(乙195〜203,208〜212,215〜269,271〜291)によって優に認めることができる。なお,その余のルートにより輸入された迷奇クリームについては,当審において侵害の対象として争われていないが,これが真正商品と認められることは,原判決12頁16行目から22頁下から2行目までのとおりであるから,これを引用する。
そこで,以下,控訴人商品の輸入された各ルートごとに,当該輸入に係る控訴人商品の中国国内における購入経路をたどり,これが真正商品と認められるかどうかについて検討する。
1-2 輸入ルートごとの検討 (1) シノケム山東ルート ア シノケム山東→控訴人 上記認定に係る別紙1の表のとおり,控訴人は,平成9年8月23日から平成10年2月10日まで(出港日)の間,シノケム山東から,9回にわたり合計11万7840個の迷奇クリームを輸入したことが認められる。
イ 上海青松→シノケム山東 証拠(乙137,139,158〜160,当審証人宋海)によれば,シノケム山東は,平成9年1月15日から平成10年2月23日までの間に,上海青松から,合計11万6280個の迷奇クリームを購入したことが認められる。ただし,シノケム山東が控訴人に対して控訴人商品を輸出した最終回は平成10年2月10日出港分であるから(乙283),上海青松とシノケム山東間の同月23日の取引分(1万2000個,乙158の5)は,上記アの輸入との関連性が認められず,取引時期及び数量に照らして,控訴人商品と結びつくのは,これを除いた10万4280個と認める。
被控訴人は,乙158の帳簿は通常の会計原則に則って作成されたものとはいえず,信用できない旨主張するが,その主張は,同帳簿の表題を「売掛台帳」であるとした誤った訳文を前提とするものであり,採用することができない。
なお,同帳簿の表題は,原文では「帳簿啓用及接交表」であり,これが売掛台帳でないことは,現金取引が含まれているその記載内容に照らして明らかである。
ウ 中華旅游→上海青松 証拠(乙145,157,当審証人宋海)によれば,上海青松は,平成9年1月2日から同年10月29日までの間に,中華旅游から合計7万2120個の迷奇クリームを購入したことが認められ,この取引時期及び数量に照らして,これは控訴人商品と結びつくものと認めて妨げはない。なお,乙145(中華旅游作成の領収書)と乙157(上海青松作成の中華旅游との取引をまとめた補助帳簿)とを照合すると,取引日,取引数量及び取引金額が一致し,両者の対応関係が明白であるにもかかわらず,乙145の領収書の宛先として,ホテルや百貨店等(上海錦江飯店,第一八百伴等)の名称が使用されているものが多く含まれていることが明らかである。しかし,上記事実に当審証人宋海の証言を総合すれば,中華旅游は,当時,北京亜美との関係で,迷奇クリームの上海地区における総販売代理店であったため(下記エの認定参照),その再販売先を制限されており,これを正規の取扱業者でない上海青松に販売する際,領収書の宛名を,実際の販売先とは異なるホテルや百貨店等の名称としていたにすぎないと認められる。しかも,上記領収書の宛名に記載されている上海錦江飯店や第一八百伴等が,真正の迷奇クリームしか取り扱わないと一般に考えられている一流のホテルや百貨店であることは,証拠(甲60,61,当審証人宋海)及び弁論の全趣旨から明らかである。そうすると,乙145の領収書の宛名に上海青松以外の名称が含まれている点は,中華旅游と上海青松間の上記取引の存在を認定する妨げとなるものではない。この点について,被控訴人は,上記取引の規模から考えて,架空取引がされたとは考えられない旨主張するが,控訴人の主張及び当裁判所の上記認定は,架空取引をいうものではなく,実体を伴う売買取引の領収書の宛名を架空名義としたというものであり,上記認定の事情に照らせば,あり得ないこととはいえない。
エ 北京亜美→中華旅游 北京亜美の中華旅游に対する迷奇クリームの販売について,直接的な客観証拠によって裏付けられるのは,乙143(北京市増値税専用領収書)に示されている平成9年6月18日から同年10月23日までの間の計2万2800個の取引だけである。しかし,中華旅游は,平成8年1月1日に北京亜美との間で,中華旅游が迷奇クリームの上海地区における総販売代理店となることを内容とする有効期間1年の契約を締結し(乙141),平成9年に株式合作制の企業として上海谷徳商貿合作公司に移行した上,平成10年1月1日に同様の販売代理店契約を交わしていること(乙178,179),北京亜美は,その作成に係る平成14年5月10日付け回答書(乙192)中で,上海谷徳商貿合作公司とは同日現在まで継続的な取引関係にある旨を述べていること,平成9年中における迷奇クリームの取引の存在が上記乙143によって客観的に裏付けられること等を総合すれば,北京亜美と中華旅游は,平成9年にも,中華旅游を迷奇クリームの上海地区における総代理店とする契約を継続していたことが推認される。他方,このような地位にある中華旅游が,北京亜美から仕入れた迷奇クリームの再販売先が上海青松であることを秘匿するために,わざわざ虚偽の内容の領収書を作成するなどしていたことは上記ウのとおりであるところ,真正商品でない迷奇クリームを販売する際に,このような操作をしなければならない理由は見いだせない。以上の事実を総合すれば,中華旅游が上海青松に販売した上記ウ認定の迷奇クリーム7万2120個は,すべて北京亜美から仕入れた真正商品であったと認めるのが相当である。
オ 北京恒鴻宝→上海青松 証拠(乙133,135,155,156,183,184,当審証人宋海)によれば,上海青松は,平成9年8月20日から平成10年2月15日までの間に,北京恒鴻宝から合計4万5360個の迷奇クリームを購入したことが認められる。ただし,上記イで述べたところと同様,北京恒鴻宝と上海青松間の平成10年2月15日の取引分(1万2000個,乙155の3,なお,同号の訳文中該当欄に「1200瓶」とあるのは「1万2000瓶」の誤記と認める。)は,上記アの輸入との関連性が認められず,控訴人商品と結びつくのは,これを除いた3万3360個と認める。
カ 北京亜美→北京恒鴻宝 証拠(乙131,174,181,182,192,当審証人宋海)によれば,北京恒鴻宝は,平成9年4月23日から同年12月9日までの間に,北京亜美から合計3万7500個の迷奇クリームを購入したことが認められる。この取引時期及び数量に照らして,控訴人商品と結びつくのは,このうち上記オの認定数量と重なる3万3360個の限度と認める。
キ シノケム山東ルートのまとめ 上記認定のとおり,北京亜美から中華旅游を経て上海青松に販売された真正な迷奇クリームは7万2120個,北京亜美から北京恒鴻宝を経て上海青松に販売された真正な迷奇クリームは3万3360個であり,その合計は10万5480個となるが,上海青松からシノケム山東を経て控訴人に輸入された真正な迷奇クリームは10万4280個であるから,シノケム山東ルートで控訴人が輸入した真正な迷奇クリームの数量は,10万4280個と認められる。他方,輸入数量11万7840個(上記ア参照)との差である1万3560個については,これが真正商品であるとの立証がない。
(2) 上海軽工ルート ア 上海軽工→控訴人 上記認定に係る別紙1の表のとおり,控訴人は,平成10年1月23日から平成11年10月11日まで(出港日)の間,上海軽工から,15回にわたり合計14万9100個の迷奇クリームを輸入したことが認められる。
イ 北京恒鴻宝→上海軽工 証拠(乙153,161,162,172,174,190,191,当審証人宋海)によれば,上海軽工は,平成10年2月18日から平成11年9月16日までの間に,北京恒鴻宝から,合計13万1100個の迷奇クリームを購入したことが認められる。なお,この認定数量は,乙153,190の領収書記載の数量の合計であるが,乙153の7〜16と乙190の4〜14は重複していることが明らかであるから,この重複分(3万9000個)を控除したものである。この数量は上記アの数量に及ばないが,取引時期及び数量に照らして,そのすべてが控訴人商品と結びつくものと認める。
ウ 北京亜美→北京恒鴻宝 証拠(乙151,174,185,187,188,189,192,当審証人宋海)によれば,北京恒鴻宝は,平成10年1月23日から平成11年12月16日までの間に,北京亜美から,合計12万7980個の迷奇クリームを購入したことが認められる。ただし,上海軽工が控訴人に対して控訴人商品を輸出した最終回は平成11年10月11日出港分であるから(乙283),北京恒鴻宝と上海軽工間の同年12月16日の取引分(計2670個,乙188の16,17)は,上記アの輸入との関連性が認められず,被控訴人商品と結びつくのは,これを除いた12万5310個と認める。
エ 上海軽工ルートのまとめ 上記認定のとおり,北京亜美から平成10年以降に北京恒鴻宝に販売された真正な迷奇クリームは12万5310個であり,これが上海軽工を経て控訴人に輸入されたものと認められる。他方,輸入数量14万9100個(上記ア参照)との差である2万3790個については,これが真正商品であるとの立証がない。
(3) 中国石炭ルート ア 中国石炭→控訴人 上記認定に係る別紙1の表のとおり,控訴人は,平成9年2月17日(発注日)に,中国石炭から,2万4000個の迷奇クリームを輸入したことが認められる。
イ 北京亜美→中国石炭 北京亜美の中国石炭に対する迷奇クリームの販売について,直接的な客観証拠によって裏付けられるのは,乙163(北京市増値税専用領収書)に示されている平成9年1月15日の3600個の取引だけである。しかし,北京亜美は,その作成に係る上記回答書(乙192)中で,中国石炭との取引は平成9年(1997年)の年初に始まり,翌年以降に中止したことを述べており,その記載内容は,乙163の上記領収書により客観的に裏付けられるものである。そして,中国石炭ルートは,商標権者である北京亜美と直接取引のある正規の取扱業者である中国石炭から,商社や貿易会社等の中間流通業者を介することなく,直接輸入したものであるから,中国国内での複雑な流通過程で真正でない商品が混入する可能性は低いものと考えられる上,上記アの輸入は,2万4000個という1回の輸入としては比較的大量の迷奇クリームを扱った取引であり,この輸入と時期的に完全に整合する北京亜美と中国石炭の間の取引の一部が客観的に証明されていることは上記のとおりである。なお,中国石炭はその後清算されて現存しない(弁論の全趣旨)ため,上記両者間の取引に係る証拠資料が散逸してしまったことがうかがわれる。
以上の事実を総合すれば,北京亜美の中国石炭に対する迷奇クリームの販売について,上記アの認定に係る控訴人商品の全部が,北京亜美から中国石炭を経て控訴人に輸入されたものと認めるのが相当である。
ウ 中国石炭ルートのまとめ 上記認定のとおり,中国石炭ルートに係る迷奇クリーム2万4000個は,北京亜美から中国石炭を経て控訴人に輸入されたものであり,真正商品であると認められる。
(4) 直送ルート 証拠(乙147,149,175,当審証人宋海)によれば,控訴人の依頼を受けた上海青松の従業員宋林が,平成9年6月3日から同月7日までの間に,上海友誼有限公司,上海錦江飯店,第一八百伴ほかのホテル,百貨店等6店において,合計45個の真正な迷奇クリーム(ローションタイプ)を購入し,個人輸入の形で控訴人にこれを直送したことが認められる。なお,上記ホテル等の仕入ルートを具体的に証する証拠はないが,いずれも真正商品しか取り扱わないと一般に考えられている一流の店であり(前記(1)ウ参照),上記の認定を妨げるものではない。
この点の被控訴人の主張は採用することができない。
したがって,直送ルートに係る45個の控訴人商品は真正商品であると認められる。
1-3 争点@に関する当事者のその余の主張について (1) 被控訴人の主張について ア 被控訴人は,控訴人商品の外箱の文字や絵柄の大きさ,配置等及び容器の形状や材質等が,真正商品の迷奇クリームのものと異なっているとして,これを控訴人商品が真正商品でないことの根拠として主張する。しかし,本件で判断の対象となる迷奇クリームは,平成9年以降に日本国内で販売されたものであるところ,この時期に控訴人によって販売された迷奇クリームで,外箱の文字や絵柄の大きさ,配置等及び容器の形状や材質等に照らして,真正商品でないことをうかがわせる現物は,証拠として提出されていない(原判決別紙被告商品目録1ないし5記載の「被告商品1〜5」中,平成9年以降に日本国内で販売されたものは,同4,5だけであるところ,これらが真正商品と認められることは,原判決17頁10行目から21頁6行目までのとおりであるから,これを引用する。)。
このことは,控訴人商品の大部分が真正商品であったとの上記1-2の認定とむしろ符合するものであり,被控訴人の上記主張は理由がない。
イ 被控訴人は,迷奇クリームの購入ルートに係る控訴人の主張立証は,対応関係の明らかでない取引をつなぎ合わせたものであり,控訴人の輸入及び販売に係る迷奇クリーム(控訴人商品)とは関連性がないとし,また,控訴人商品の真正性を立証するために控訴人の提出した証拠の信用性には疑問がある旨主張するので,上記1-2で言及していない点について,順次検討する。
まず,被控訴人は,控訴人の主張する各取引相互間の販売時期及び数量の不一致を指摘し,これらの対応関係は明らかでない旨主張する。確かに,控訴人の主張立証に係る取引中には,出港日との関係から控訴人の輸入した控訴人商品との関連性の認められないものや,各流通経路で販売数量の一致しないものがあることは,上記認定のとおりであるが,当該整合しない取引部分を排斥するのは当然として,大部分の取引については,販売時期及び数量に照らして,各購入経路を関連付けてたどるに足りる整合性が認められるものであるから,これらを含めたすべての取引についてまで,当該取引と控訴人商品との結びつきを否定する根拠となるものではない。
次に,被控訴人は,この種の化粧品の国際取引は1万個単位のオーダーでなければ採算がとれないとして,これに満たない数量で行われている中国国内における各取引が輸出向けのものとは考えられない旨主張する。しかし,中国国内における各取引が当初から輸出を想定して行われていたと解すべき根拠がない以上,被控訴人の上記主張は前提を欠くというべきである。
また,被控訴人は,乙145の27の領収書(番号97-23390004,平成9年(1997年)1月付け)は,乙145の26の領収書(番号97-23390003,同年10月29日付け)の番号及び日付との関係から,日付をさかのぼって後付けで作成された可能性が濃厚である旨主張するが,乙145の27の領収書の日付欄を見ると,「19 年 月 日」の不動文字の「月」欄に記載された手書きの「1」は,顕著に左側に寄っていること,この領収書は複写式のものと考えられること(当審証人宋海参照)等を勘案すると,上記「月」欄の記載は,10月から12月までのいずれかの月の右側の数字が抜けた状態で複写されたにすぎないことがうかがわれるものであり,被控訴人主張の上記理由によってその信用性を否定することはできない。なお,このほかの領収書等を含め,上記1-2の認定証拠とした膨大な書証について,その体裁自体から信用性に疑問を差し挟むようなものは見当たらない。
さらに,被控訴人は,シノケム山東から控訴人への輸入単価は2ドル(16.6元)であるのに,北京亜美から北京恒鴻宝への販売単価は19元であるから,このような逆ざや取引はあり得ない旨主張する。しかし,シノケム山東から控訴人への輸入単価が,別紙1の輸入数量一覧表に記載のとおり,2.95ドルであることは,乙284〜289の外国送金依頼書記載の支払金額(経費を含む。)及び控訴人のシノケム山東からの輸入数量によって客観的に明らかであり,この輸入単価は,当時の為替レート(1ドル8.3元,甲63)によれば24.4元となるから,被控訴人の上記主張は前提を欠くというべきである。なお,輸入書類(乙216,221)上は,その記載の数量及び合計額から,輸入単価が2ドルと理解される内容となっているが,宋海の陳述書(乙290)によれば,これは,シノケム山東の担当者からの依頼に応じて,実際の金額と異なる金額を記載したにすぎないものと認められる。
なお,被控訴人は,迷奇クリームの成分の変更について主張するが,その主張自体によっても,控訴人の輸入許可申請に際して提出された成分表は,北京亜美自身の作成に係る変更後の成分表と一致するというのであるから,控訴人商品が真正商品でないことを何ら基礎付けるものではない。控訴人は,この主張は時機に後れたものとして却下されるべきであると主張するが,採用の限りでない。
(2) 控訴人の主張について 控訴人は,本件のような大量の売買について,すべての販売に関する資料を収集するのは困難であり,まして,控訴人と直接の取引関係にない業者から完全な資料の提供を要求することは不可能であるから,控訴人商品の購入ルートの立証としては,その提出証拠で十分である旨主張する。確かに,特定の取引関係において,当該取引当事者の関係や客観的に認定可能な前後の取引関係に照らし,すべての取引に係る直接的な客観的証拠が網羅されていなくとも,当該取引の存在を推認することが合理的な場合のあることは否定し難いが,本件において,この趣旨は,前記1-2において十分にしんしゃく済みであり,このような合理的な推認ができない場合にまで,立証の困難のみを理由に,証拠に基づかない認定をすることが採証法則上許されないことはいうまでもない。
1-4 争点@のまとめ 以上の認定及び判断によれば,争点@について判断対象となる控訴人が輸入した合計29万0985個の迷奇クリーム(控訴人商品)中,真正商品であると認めることができないのは,平成9年8月23日から平成10年2月10日まで(出港日)の間のシノケム山東ルートに係る取引のうちの1万3560個及び平成10年1月23日から平成11年10月11日まで(出港日)の間の上海軽工ルートに係る取引のうちの2万3790個の合計3万7350個である。そして,上記各取引期間中,被控訴人が,北京亜美の本件商標権について地域を日本全国とする専用使用権を有していたことは,上記第2の1(6)のとおりであるから,本件商標の商標権者の製造及び販売に係るものとはいえない上記商品を輸入した控訴人の行為は,商標法2条3項2号,37条1号に該当し,被控訴人の専用使用権を違法に侵害するものであり,控訴人は不法行為による損害賠償責任を免れないというべきである。なお,控訴人は,被控訴人の本件商標権に係る専用使用権に基づく請求が権利の濫用に当たる旨主張するが,その主張する事実自体,何ら権利濫用を基礎付けるものとはいえず,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,控訴人の主張は採用することができない。
他方,その余の控訴人商品である25万3635個については,真正商品と認められるものであって,その輸入及び販売行為は,商標法の上記規定には該当するが,本件商標の出所表示機能及び品質保証機能を何ら害するものではなく,真正商品の並行輸入として実質的な違法性を欠くから,この部分について不法行為による損害賠償を求める被控訴人の請求は理由がない。
2 争点A(損害額)について (1) 被控訴人は,商標法38条2項の推定規定を適用する前提として,控訴人が控訴人商品の販売により得ていた利益の額は,1個当たり199.98円である旨主張するところ,その根拠とするところは,本件当事者間の別件訴訟(大阪地裁平成13年(ワ)第8956号事件)において控訴人が控訴人商品の利益率を平均36.36%であると主張したというに尽きる。しかし,甲62によれば,上記別件訴訟で上記主張の基礎とされた控訴人の販売する商品は,その販売時期等において,本件における控訴人商品と一致するものでないことが認められるから,上記主張のみを根拠として,控訴人商品の利益額を認定することはできないといわざるを得ず,他に被控訴人主張の,控訴人の得た利益額を認めるに足りる証拠はない。
(2) 被控訴人は,商標法38条1項に基づき,自己の逸失利益3705万5696円を損害として主張するが,これが失当であることは,原判決24頁7行目から19行目までのとおりであるから,これを引用する。
(3) 進んで,商標法38条3項に基づく使用料相当額について判断するに,控訴人が輸入した迷奇クリームのうち日本国内で販売された数量が,輸入数量のおおむね92%であること,控訴人商品の販売価格(卸売価格)が1個当たり平均700円程度であったこと,本件商標の使用料率は控訴人の販売額の5%が相当であることは,原判決25頁19行目から27頁1行目までのとおりであるから,これを引用する。そうすると,上記侵害品である控訴人商品のうち国内販売数量は,輸入数量3万7350個に0.92を乗じた3万4362個と推認され,その使用料相当額は,計算上120万2670円となるから,これをもって被控訴人の損害額と認めるのが相当である。
(700円×3万4362×0.05=120万2670円) 3 結論 以上のとおり,被控訴人の控訴人に対する請求は,不法行為による損害賠償として120万2670円及びこれに対する平成11年5月27日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,認容すべきであるが,その余は失当として棄却を免れない。なお,控訴人は,本件附帯控訴は時機に後れて提出されたものであるから却下されるべきである旨主張するが,その主張する理由によって本件附帯控訴が不適法となるいわれはないから,採用の限りでない。
よって,本件控訴に基づき原判決主文第1項を本判決主文第1項のとおり変更することとし,本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利