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関連ワード 識別力 /  包装 /  指定商品 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  中用件(33条) /  外観(外観類似) /  過失の推定 /  無効審判 /  登録異議申立 /  継続 /  ハウスマーク / 
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事件 平成 14年 (ネ) 4552号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人 株式会社ネットワーク
訴訟代理人弁護士 山上芳和
同 藤井圭子
補佐人弁理士 齋藤晴男
被控訴人 株式会社サラブランド
訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同 鷹見雅和
補佐人弁理士 福田武通
同 福田賢三
同 福田伸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/13
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決中,控訴人敗訴の部分を,本判決主文第2項に反する限度で取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金4894万2899円及び内金4222万2442円に対する平成13年9月2日から,内金672万0457円に対する平成13年11月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員支払え。
3 控訴人のその余の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じこれを3分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決中,控訴人敗訴の部分を次の(2)に反する限度で取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,金1億4823万4873円及びこれに対する平成13年9月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 控訴人の控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事案の概要
控訴人(1審原告)は,被控訴人(1審被告)に対し,別紙第3目録記載の標章(以下,原判決と同様に「被告標章1」という。)及び別紙第4目録記載の標章(以下,原判決と同様に「被告標章2」といい,被告標章1とまとめて,「被告各標章」という。)を使用して被服等を生産し販売する被控訴人の行為が,控訴人が有する商標権を侵害し,また,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして,商標権及び不正競争防止法に基づいて,商標の使用行為の中止及び商品等の廃棄並びに損害賠償を請求した。
原判決は,商標使用行為の中止及び商品等の廃棄の請求はすべて認容し,損害賠償請求は,一部のみを認容した。控訴人は,損害賠償請求中の原判決において棄却された部分の一部について,これを不服として,控訴した。
当事者の主張
当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」欄の2記載のとおりであるから,これを引用する。
1 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 控訴人は,次の商標権1ないし3を有している(以下,原判決と同様に,商標権1ないし3をまとめて「原告各商標権」といい,その登録商標を「原告商標1ないし3」といい,これらをまとめて「原告各商標」という。)。
(ア) 商標権1 出願日 平成10年11月25日 登録番号 第4327531号 登録日 平成11年10月22日 指定商品 第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。) 商標 別紙第1目録記載のとおり (イ) 商標権2 出願日 平成9年2月20日 登録番号 第4195215号 登録日 平成10年10月9日 指定商品 第25類 被服(「和服」を除く。),ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。) 商標 別紙第2目録記載のとおり (ウ) 商標権3 出願日 平成9年2月20日 登録番号 第4302662号 登録日 平成11年8月6日 指定商品 第18類 皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ 商標 別紙第2目録記載のとおり (2) 被控訴人は,平成12年3月1日から平成13年11月28日までの間,業として,被告各標章をワンポイントマークとして付した被服等及び被告各標章をワンポイントマークとしては付していない被服等を,生産し販売していた。 2 控訴人の当審における主張の要点 (1) 被控訴人の侵害行為について 原判決は,原告各商標権を侵害する被控訴人の行為を,被控訴人が被告各標章をワンポイントマークとしてその被服等の商品に付した場合に限定して認定し,これを前提として,被告各標章を使用した被控訴人の商品の売上額を8億0400万4801円と認定している。
しかし,被控訴人が被告各標章をワンポイントマークとしてその商品に付していない場合でも,その商品に関する被控訴人による被告各標章の使用行為が商標法2条3項各号が規定する標章の使用行為に該当すれば,被控訴人の行為が,控訴人の原告各商標権を侵害する行為に当たることになるのは,当然である。
被控訴人は,被控訴人が取り扱うすべての商品を掲載した商品カタログの裏表紙に被告標章1を使用しており,これは,被控訴人が販売するすべての商品の広告ないしは取引書類について被告標章1を付して頒布する行為に該当する。また,被控訴人は,被控訴人が取り扱うすべての商品に,被告標章1又は2を付したタグを付して,その商品を被控訴人が経営するSarahbrand Shop店(以下「直営店」という。)において一般消費者に販売したり,その他の販売店に卸売りしたりしており,これは,被控訴人が取り扱うすべての商品に被告標章1又は2を付する行為に該当し,また,被告標章1又は2を付した商品を販売する行為にも該当する。
被控訴人は,直営店で販売する商品の包装用袋に被告標章1又は2を付しており,これは,被控訴人が経営する直営店で販売するすべての商品について,その包装に被告標章1又は2を使用する行為に該当する。また,被控訴人は,その直営店の雑誌広告及び新聞広告並びにそのショーウインドーや入口マットに,被告標章1を使用しており,これは,被控訴人が経営する直営店で販売するすべての商品について,商品の広告に被告標章1を付する行為に該当する。
以上のとおり,被控訴人は,被告標章1又は2をワンポイントマークとして商品に付している場合だけでなく,被告商標1又は2をワンポイントマークとして商品に付していない場合でも,その商品について被告標章1又は2を使用しているものであり,結局,被控訴人は,その直営店で販売するすべての商品及び他の販売店に卸売りしているすべての商品について,被告標章1又は2を使用しているのである。
(2) 損害の額について (ア) 被控訴人は,被告標章1又は2を使用した商品(ワンポイントマークとして商品に付した場合と,付していない場合の両方を含む。)を,平成12年3月1日から平成12年7月末までの間に7億6247万2573円,平成12年8月1日から平成13年7月末までの間に18億7292万2000円,平成13年8月1日から平成13年11月28日までの間に6億1575万5178円,販売しており,その合計額は32億5114万9751円である。被控訴人の直営店での売上げと他の販売店への卸売りの売上げとの比率は,45対55であるので,上記売上総額の内,直営店での売上総額は14億6301万7388円となり,卸売りの売上総額は17億8813万2363円となる。
原告各商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額(以下「使用料相当額」という。)は,売上額(小売価格)の3・5%である。卸売りの場合は,小売価格は卸売り価格の2倍であるから,控訴人が原告各商標の使用に対し,被控訴人から受けるべき金銭の額は,1億7637万4873円(14億6301万7388円×0.035+17億8813万2363円×2×0.035)となる。原判決は,上記売上げのうち,被控訴人が被告標章1又は2をワンポイントマークとして付した商品の売上げ合計金8億0400万4801円のみについて,使用料率3.5%を乗じた損害金2814万円(1万円未満切り捨て)の支払を命じ,控訴人は,平成14年8月9日,被控訴人から原判決が命じた上記損害金2814万円及びこれに対する遅延損害金131万8339円の支払を受け,これを受領しているので,控訴審においては,その差額の1億4823万4873円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年9月2日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。
(イ) 被控訴人は,被告各標章がワンポイントマークとして使用されていない場合には,原告各商標権の使用料相当額は,被控訴人の売上額又は卸売り額の1%が相当であると主張する。しかし,被告各標章がワンポイントマークとして商品に使用されていない場合でも,被控訴人の商品のタグ,広告,包装においては,「Sarah」と「brand」との語の間に被告各標章を付したものが常に使用されており,被告各標章は,被控訴人の中心的な商標として使用されているのであるから,その使用料相当額は,上記のとおり,売上額(小売額)の3.5%とするのが相当である。
(3) 権利の濫用について 被控訴人が主張する先願の各登録商標と原告各商標とは類似していない。
原告各商標権には,これを無効とすべき理由はない。
3 被控訴人の当審における反論の要点 (1) 被控訴人の侵害行為について 被告各標章が有する識別力は,被告各標章をワンポイントマークとして付した商品についてのみ生じている。したがって,被控訴人が被告各標章をワンポイントマークとして付していない商品を販売したとしても,控訴人が有する原告各商標権を侵害するものではない。原判決が,原告各商標権を侵害した商品売上額として認定したところに誤りはない。
(2) 損害の額について 仮に,被控訴人が被告各標章をワンポイントマークとして付していない商品を販売等する行為が原告各商標権を侵害するとしても,原告各商標の使用に対し受けるべき金銭の額は,被告各標章がワンポイントマークとして使用されていないものについては,被控訴人が有する他の登録商標である犬の足跡の標章,犬の後ろ姿の標章又はこれらの標章が組み合わされたものがワンポイントマーク等として使用されており,被告各標章は,Sarahbrandとともに小さくタグ等に使用されているだけであるから,この場合の被告各商標の使用料率は,ワンポイントマークとして被告各標章が使用された場合の使用料率である3.5%の3分の1以下の1%とするのが相当である。被告各標章がワンポイントマークとして使用された被服の売上げを除いた売上げは,全体の売上げの約75.27%に当たる24億4714万4950円であるから(別紙商標使用割合参照),その1%は,2447万1449円である。
(3) 無過失の抗弁について 被控訴人は,被控訴人が有していた商標権(商標登録第4364496号の商標権(以下「被控訴人商標権1」という。)及び商標登録第4468206号の商標権(以下「被控訴人商標権2」という。))に基づき,被告標章1又は2を使用していたものであり,被控訴人商標権1の登録異議の申立てに基づく取消決定が確定したころに,その使用をいずれも中止したのであるから,被控訴人が被告標章1又は2を使用したことについては過失はない,というべきである。
(4) 中用権について 商標法33条は,無効審判により登録商標が無効とされた場合のみならず,登録異議の申立てによる取消決定により,商標登録が取り消された場合にも,類推適用されるべきである。
被控訴人は,平成12年3月3日に,被控訴人商標権1の商標登録を受けた後,平成13年3月15日に登録異議の申立てに基づく取消決定がなされる前に,同商標権に係る登録商標(被告標章1)を被服等に使用していた。被告標章1は,被控訴人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものである。
(5) 権利の濫用について 被控訴人は,平成14年12月13日,原告各商標権について無効審判を請求した。原告各商標は,その先願である登録第3371000号の商標(以下「引用商標1」という。),先願である登録第4259240号の商標(以下「引用商標2」という),先願である登録第4325264号の商標(以下「引用商標3」という)及び先願である登録第4469235号の商標(以下「引用商標4」という。)と,外観において明らかに類似している。原告各商標権については,無効理由があることが明らかであるから,控訴人の本件損害賠償請求権の行使は,権利の濫用である。
当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の損害賠償請求につき,原判決が認容した部分のほか,原判決が棄却した部分中の一部にも理由があり,その余は理由がない,と判断する。その理由は,次のとおりである。ただし,原判決の「第3 争点に対する判断」の欄の1ないし3の判断は,本判決においても引用する。
1 被控訴人の侵害行為について (1) 商標法2条3項は,次のとおり,規定している。
「この法律で標章について「使用」とは,次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為 二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し・・・する行為 (中略) 八 商品・・・に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し・・・する行為」 この規定と商標法2条1項1号とによれば,業として商品を生産し,譲渡する者が,その商品について標章を上記のように用いることが,商標の使用に該当することは明らかである。
これを本件についてみてみると,次のとおりである。
被控訴人は,平成12年3月から平成13年11月28日までの間,被告各標章をワンポイントマークとして付した商品のみならず,被控訴人が有する登録商標である犬の足跡の標章,犬の後ろ姿の標章その他の標章をワンポイントマークあるいは図柄として付した商品を,生産し,販売していた(甲第39,第57号証,乙第3,第4,第58号証)。被控訴人は,この間,被控訴人が取り扱う全商品を掲載した商品カタログの裏表紙に,「Sarah」と「brand」の文字の間に被告標章1を付し,これを被控訴人の中心的な商標(いわゆるハウスマーク)として用い,雑誌や新聞における,商品と被控訴人の直営店の宣伝広告にも被告標章1を同様に用いている(甲第39,第41,第50,第55号証,乙第14ないし第18,第20,第33,第34,第43号証)。この被控訴人の行為は,被控訴人が生産し販売するすべての商品について,その広告ないしは取引書類について被告標章1を付して頒布する行為に該当し,被控訴人が生産し販売するすべての商品に,被告標章1を使用する行為であるということができる。
被控訴人は,前記期間において,被控訴人の取扱いに係るすべての商品に,「Sarah」と「brand」の文字の間に被告標章1又は2を付した標章を付したタグを用いており,また,同タグを付した商品を被控訴人の直営店において一般消費者に販売したり,その他の販売店に卸売りしたりしている(甲第59号証,弁論の全趣旨)。この被控訴人の行為は,被控訴人のすべての商品に被告標章1又は2を付する行為であり,また,被告標章1又は2を付した商品を譲渡する行為にも該当し,結局,被控訴人が生産し販売するすべての商品に,被告各標章を使用しているものということができる。
被控訴人は,前記期間において,その直営店で販売する商品の包装用袋に「Sarah」と「brand」の文字の間に被告各標章を配した標章を付している(甲第60号証,弁論の全趣旨)。これは,被控訴人が経営する直営店で販売するすべての商品について,その包装に被告標章1又は2を使用する行為に該当する。また,被控訴人は,前記期間において,その直営店の雑誌広告及び新聞広告並びにそのショーウインドーや入口マットに,被告標章1を付している(甲第58号証,弁論の全趣旨)。この被控訴人の行為は,被控訴人が経営する直営店で販売するすべての商品について,商品の広告に被告標章1を付する行為に該当する。
以上によれば,被控訴人は,前記期間において,ワンポイントマークとして被告標章1又は2を付した商品を生産し,これを販売しただけでなく,被告標章1又は2をワンポイントマークとして商品に付していない場合でも,被控訴人が生産し販売するすべての被服等の商品について,被告標章1又は2を商標として使用してきたものと認められる。
(2) 損害の額について 被控訴人の被告各標章を使用したすべての商品の売上額は,@平成12年3月1日から平成12年7月末までが7億6247万2573円,A平成12年8月1日から平成13年7月末までが18億7292万2000円,B平成13年8月1日から平成13年11月28日までが6億1575万5178円である(甲第61号証。同号証中の被控訴人の損益計算書記載の該当年度の売上額に基づき,@については日割り計算により算出し,Bについては,該当年度の売上額の資料がないので,もっとも近接したAの売上げ額を基準として日割り計算に基づき算出したものである。)。被控訴人が,平成12年3月から平成13年11月28日までの間に,被告各標章をワンポイントマークとして付して販売した商品の売上げは,原判決が認定したとおり,8億0400万4801円であり(全体の売上額の約24.73%に当たる。),被告各標章を使用してはいるものの,これをワンポイントマークとして付してはいない商品の売上げは,24億4714万4950円である(全体の売上額の約75.27%(正確には75.270139%であり,後記の計算にはこの数字を用いている。)に当たる。)。
原告各標章の使用料相当額は,被告各標章をワンポイントマークとして付した商品については,売上額の3.5%であると原判決が判断しており,当事者もこれを特に争わないので,これを前提として,被告各標章をワンポイントマークとして付していない商品についての使用料相当額を判断する。被告各標章をワンポイントマークとして付していない商品については,被告各標章以外の,被控訴人が有する登録商標である犬の足跡の標章,犬の後ろ姿の標章等をワンポイントマークとして使用し,あるいは,これらの標章を組み合わせた商標を使用していることが多く,被告各標章は,その商品のタグ,宣伝広告物等に,「Sarah」と「brand」の文字の間に付されて,被控訴人のハウスマークとして使用されていることは上記認定のとおりである。このような場合,原告各商標に類似する被告各標章の使用料相当額は,その他の登録商標の顧客吸引力も商品の販売に貢献していることを考慮すれば,被告各標章をワンポイントマークとして使用した場合に比べ,その額を減ずるのが相当である。しかし,被告各標章が,被控訴人のハウスマークとして,その宣伝広告において中心的商標として使用されてきたものであることも考慮する必要がある。これらを総合すれば,その使用料相当額は,被控訴人の売上額の2%と認めるのが相当である。なお,控訴人は,被告各標章の使用料相当額を小売金額に対する一定割合であるとして,被控訴人が卸売りしている場合には,それを2倍した小売金額に所定の割合を掛けて使用料相当額を算出すべきである,と主張する。しかし,使用料相当額の算出方法を,そのような方法にのみ限定して考慮する必要はないというべきである。本件においては,上記の事情を考慮して,被控訴人の売上額(小売り額及び卸売り額を合計したもの)の2%と認定する。
被控訴人が,平成12年3月から平成13年11月28日までの間に,被告各標章をワンポイントマークとして付していない商品を,24億4714万4950円販売していることは上記のとおりであるから,その使用料相当額は,これに2%を乗じた4894万2899円と認めるのが相当である。
控訴人は,全損害について,訴状送達の日の翌日である平成13年9月2日からその遅延損害金の支払を求めている。しかし,平成13年9月3日以降の継続的不法行為については,平成13年9月2日の時点では不法行為が未だ生じておらず,損害賠償義務が発生していないのであるから,これについて平成13年9月2日からの遅延損害金を請求することができないことは明らかである。被控訴人が,平成13年9月3日から平成13年11月28日までの間になした侵害行為については,その損害賠償債務に関する遅延損害金支払義務が平成13年9月2日から生じていると解することができないことは当然である。平成13年9月3日から平成13年11月28日までの期間の継続的不法行為により生じる損害賠償債務に関する遅延損害金の起算日については,平成13年9月2日以降の各日毎に生じると解することも可能であるとはいえ,繁雑を避ける実務上の慣行からすれば,その間の全不法行為が終了した日である平成13年11月28日から生じるものと解すべきである。
なお,平成13年8月1日から平成13年9月2日までと,平成13年9月3日から平成13年11月28日までの期間の被控訴人の売上げは,前記認定の売上げを基準にして日割り計算により推認するのが相当であるから,平成13年8月1日から平成13年9月2日までの売上げは1億6933万2674円,平成13年9月3日から平成13年11月28日までの間の売上げは4億4642万2504円(合計6億1575万5178円)と認められ,その売上げに75.270139%を乗じ,これにさらに2%を乗じた金額が,被告各標章をワンポイントマークとして使用していない商品についての,各期間における使用料相当額であり,それぞれ,254万9139円及び672万0457円となる。平成12年3月1日から平成12年7月末,及び,平成12年8月1日から平成13年7月末までの期間の前記各売上げである7億6247万2573円及び18億7292万2000円にそれぞれ75.270139%を乗じ,これにさらに2%を乗じた金額に,平成13年8月1日から平成13年9月2日までの期間の前記使用料相当額(254万9139円)を合計した金額が,内金4222万2442円である。
(3) 無過失の抗弁について 被控訴人は,平成12年3月3日に被控訴人商標権1の設定登録を受けた。しかし,同商標権については,法定期間内(商標掲載公報発行の日から2月以内)に登録異議の申立てがなされ,平成13年3月15日には,その商標登録を取り消すとの決定がなされた(甲第51号証)。被控訴人は,この決定を不服として東京高等裁判所に同決定の取消しの訴えを提起したものの,同裁判所は,平成13年10月24日,被控訴人の請求を棄却した(甲第53号証)。なお,被控訴人は,平成13年4月20日に,被控訴人商標権2の設定登録を受けたものの,同商標権については,平成13年11月7日に無効審判が請求され,平成14年9月3日には,これを無効とする審決がなされている(甲第54,第64号証)。
被控訴人は,被控訴人が有していた被控訴人商標権1及び被控訴人商標権2に基づき,被告各標章を使用したものであり,被控訴人商標権1の登録異議の申立てに基づく取消決定が確定したころに,その使用をいずれも中止したのであるから,被控訴人が被告各標章を使用したことについては過失はない,と主張する。
しかし,商標法39条は,特許法103条過失の推定規定を商標権侵害に準用しており,他人の商標権を侵害した者は,その侵害行為について過失があったことが推定されている。業として商品を生産し,販売する者が,その商品に商標を使用する場合には,他人の商標権を侵害することがないように,事前に専門家に調査,検討を依頼するなどして,これを慎重に検討すべきであることなどは,上記の過失の推定を打ち破るためには,最低限,必要とされる基本的な事柄である(その上で,どのような場合に過失の推定が打ち破られることになるかは,個別の事例毎に判断されることになろう。)。そして,被控訴人のように,その使用する商標について商標登録を得ることができた場合においても,商標権については,その商標登録後に,登録異議申立てによりその登録が取り消されたり,無効審判請求により無効とされることがあることは,あらかじめ商標法が予定しているところであるから,商標登録を受けているとしても,上記の他人の商標との抵触のおそれについての調査検討義務が不要になるわけではないことは当然である。
本件においては,被控訴人がこのような調査検討義務を果たしたとの主張も証拠もないのであるから,被控訴人の無過失の主張は理由がないことが明らかである。
(4) 中用権について 商標法33条は,無効審判の請求の登録前の使用により周知となった商標について,無効とされた場合に中用権を認めた規定である。被控訴人は,登録異議の申し立てによる取消決定があった場合にも,この規定の類推適用がある旨主張する。しかし,無効審判の請求については,一部の無効理由について商標権の設定登録の日から5年を経過した後に請求することができない,との制限があるとはいえ,そのほかは,特に期間的制限がなく,請求できるものであるのに対し(商標法46条,47条),登録異議申立ては,商標掲載公報発行の日から2月以内という短期間に限り,申し立てることができるものであるから(同43条の2),無効審判請求の場合において長年にわたる努力により信用を蓄積してきた企業について中用権を認めることを正当化するような事情は,登録異議申立ての制度において認めることはできない。したがって,商標法33条の規定を,登録異議申立てがなされた場合に類推適用することはできない。なお,被控訴人商標権2については,前記のとおり,無効審判の申立がなされ,最近に至り,これを無効とする審決がなされたものの,被控訴人から中用権は主張されていない(仮に,主張されていたとしても,被告標章2については,無効審判請求の登録前に,被控訴人が無効理由が存在することを知らないでその登録商標の使用をしたことを認めるに足りる証拠はない。また,被控訴人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されたものと認めるに足りる証拠もない。)。
(5) 権利の濫用について 被控訴人は,原告各商標権については,無効理由があることが明らかであるから,控訴人の本訴請求は,権利の濫用である,と主張する。
(ア) 原告各商標とその先願である引用商標1との外観類似について 両者は,いずれも左向きで立った姿勢を保ち,黒塗りで描かれている犬の図形である点で共通する。しかし,原告各商標の犬は,いずれも胴体に対して頭がかなり小さく,胴体も脚も細く全体的にスマートな大型犬という印象を与えるのが特徴であるのに対し,引用商標1は,胴体に対して頭が大きく,首も胴体も足も太いどっしりとした大型犬という印象を与えるのが特徴的であり,少なくとも,両者は外観上類似することが明らかであるとまではいうことができない。(乙第60,第61号証) (イ) 原告各商標とその先願である登録第4259240号の商標(以下「引用商標2」という)及び登録第4469235号の商標(以下「引用商標4」という。)との外観類似について 両者は,いずれも左向きで立った姿勢を保ち,黒塗りで描かれている犬の図形である点で共通する。しかし,原告各商標の犬は,いずれも胴体に対して頭がかなり小さく,胴体も脚も細く全体的にスマートな大型犬という印象を与えるのが特徴であるのに対し,引用商標2及び引用商標4は,原告各商標の犬と比べ,胴体に対し頭も大きく,首も太く,原告各商標の犬のようなスマートな大型犬という印象を与えるものではなく,少なくとも,両者は外観上類似することが明らかであるとまではいうことができない。(乙第60ないし第62号証) (ウ) 原告各商標とその先願である登録第4325264号の商標(以下「引用商標3」という)との外観類似について 両者は,いずれも左向きで立った姿勢を保ち,黒く描かれている犬の図形である点で共通する。しかし,原告各商標の犬は,いずれも,黒塗りで,胴体に対して頭がかなり小さく,胴体も脚も細く全体的にスマートな大型犬という印象を与えるのが特徴であるのに対し,引用商標3は,上部に「LOVE LABRA」との文字が大きく記載され,また,犬の図形も黒塗りではなく,黒の点でぼかして描かれており,少なくとも,両者は外観上類似することが明らかであるとまではいうことができない。(乙第60,第61号証) 2 結論 以上によれば,控訴人の損害賠償請求は,原判決が棄却した部分についても,本判決主文第2項に記載した限度では理由があり,その余は理由がないことが明らかである。そこで,原判決中,控訴人の損害賠償請求を棄却した部分を,本判決主文第2項に反する限度で,取り消し,同限度で控訴人の請求を認容し,その余の控訴は棄却することとし,訴訟費用の負担については,民事訴訟法67条2項,61条,64条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸