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関連審決 無効2001-35209
関連ワード 指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  品質誤認(4条1項16号) /  補正 /  無効審判 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 486号 審決取消請求事件
原告 大塚食品株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉原省三
同 小松勉
同 三輪拓也
同 竹田吉孝
同訴訟代理人弁理士 中澤直樹
被告 京とうふ藤野株式会社
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/02/03
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2001−35209号事件について平成14年8月20日にした審決のうち,登録第4408496号商標の指定商品中,商標法施行令1条別表第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工品」について,請求を成り立たないとした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
本件は,原告が,特許庁に対し,被告において設定登録を受けた商標権について,商標法4条1項16号に違反して登録されたものであると主張して,同法46条1項に基づき,商標登録の無効審判を請求したところ,特許庁が,同請求はその指定商品全部について成り立たない旨の審決をしたことから,原告が,被告に対し,同審決のうち,一部の指定商品に係る部分について,取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実 (1) 被告の商標権設定登録 被告は,平成11年6月10日,商標の構成を標準文字による「トフィー」の片仮名文字とし,指定商品を商標法施行令1条別表第1第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,かつお節,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,油揚げ,豆腐,食用たんぱく」及び第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,みそ,しょうゆ,すりごま,化学調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,すし,氷,酒かす」(なお,「砂糖,菓子及びパン,ソフトクリーム,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,アイスクリーム用凝固剤」についても,当初,指定商品とされていたが,これらは,特許庁からの出願審査時の拒絶理由通知書を受けて,指定商品から削除補正された。)とする商標(以下「本件商標」という)について,登録出願し,同12年7月7日,特許庁の査定を経て,同年8月11日,商標権の設定登録(商標登録第4408496号)を受けた(甲1から3)。
(2) 原告請求に係る本件商標の商標登録無効審判 原告は,平成13年5月15日,本件商標につき,「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味する語として一般に知られている「taffy (toffee, toffy)」という英単語に通じるところ,上記菓子と本件商標の指定商品とは,流通経路等を共通にするから,その指定商品に本件商標を使用するときは,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあると主張して,商標法46条1項,4条1項16号に基づき,商標登録の無効審判を請求した。
これに対し,被告は,何らの答弁をしなかったが,特許庁は,平成14年8月20日,「トフィー」の片仮名文字につき,「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味する「taffy (toffee, toffy)」という英単語に通じることは認め得るものの,「taffy (toffee, toffy)」は,商品の種類をキャンディーの一種とする嗜好本位の間食品といえる洋菓子であって,原材料を「砂糖・バター・ナッツ類など」とするものであり,本件商標の指定商品とは,原材料,用途,用法を異にし,かつ,取引の系統をも異にしているものであるから,本件商標をその指定商品に使用しても,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと判断することはできないとして,審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という)を行い,本件審決の謄本は,同月30日,原告に送達された(以上につき,甲1,2,弁論の全趣旨)。
2 原告の主張する本件審決の取消事由 「トフィー」という語は,「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味する「taffy (toffee, toffy)」という英単語に通じるのみならず,当該キャラメル風の菓子を意味する普通名称であるので,本件商標をその指定商品である商標法施行令1条別表第1第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工品」のうち,キャラメル風味以外のものに使用すると,当該商品がキャラメル風味を有するものとして,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるにもかかわらず,本件審決は,誤って,商品の品質の誤認を生ずるおそれはないと判断したものである。
なお,被告は,本件訴訟手続においても,争う意思はない旨の上申書を提出し,本件口頭弁論期日に出頭しない。
当裁判所の判断
1 「トフィー」という語は,本件商標登録出願の査定時において,普通名称として,取引者及び消費者一般に理解されるものとなっていたか否か。
(1) 「トフィー」という語の存在 証拠(甲4,5,8の(5),12の(1)から(9),(10)の@からB,(11)から(18),13,14の(2)から(5),15の(2)(3),16の(2)(3),17の(2),18の(2)(3),19の(2))によれば,「taffy (toffee, toffy)」という英単語は,「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味するものであり,わが国では,上記英単語の片仮名表記として,「トフィー」「タフィー」「タフィ」「タッフィー」等が用いられているものと認められるから,「トフィー」という語は,上記キャラメル風の菓子を意味する「taffy (toffee, toffy)」という英単語の片仮名表記ということができる。
(2) 「トフィー」という語の使用状況 ア 本件商標登録出願の査定時(平成12年7月7日)以前について 証拠(甲11,13)及び弁論の全趣旨によれば,わが国における著名な菓子製造販売業者であり,多数の販売店舗を有する不二家は,昭和50年ころ以降,「ゴールデントフィー」という商品名のキャラメル又はキャラメル風の菓子を製造販売していたことが認められ,また,証拠(甲8の(1)(5)(6))によれば,小林彰夫他編集「菓子の事典」(平成12年5月20日発行)392頁には,「キャラメル(caramel)は,19世紀中頃アメリカで生まれ,ヨーロッパに広がった。ヨーロッパでは,トフィー(toffee)とよばれる場合もある。」と記載されていることが認められる。
イ 本件商標登録出願の査定時以降について (ア) 証拠(甲4)によれば,山本候充編「洋菓子・和菓子・デザート 百菓辞典」(6版,平成14年8月10日発行,なお,初版は平成9年8月30日発行)151頁には,「タフィー 英taffy タッフィー,トフィーとも表記する。キャンディーの一種。砂糖・バターなどで作るキャラメル風の菓子。」と記載されていることが認められる。
(イ) また,証拠(甲11,12の(1)から(9),(10)の@からB,(11)から(18))によれば,本件原告訴訟代理人弁護士小松勉が,平成14年11月16日,インターネットショッピングモール「楽天」において,キーワードを「トフィー」として検索したところ,次の各商品の紹介があったことを認めることができる。
a 「ロンドン市内を走るロンドンバスをイメージした缶の中にクリームトフィーを入れました。」等の説明を付した「チャーチルロンドンバスキャンディ3缶セット」 b 「ビッグベンをかたどった缶に,ミルクたっぷりのクリームトフィー」等の説明を付した「チャーチルビッグベントフィー3缶セット」 c 「トフィーでからめたアーモンドをウエハーにのせて焼きました。」等の説明を付した菓房赤い実株式会社製「フロランタンウエハー」 d 「トフィーキャンディーで包んだ,香ばしい大粒で良質なマカデミアナッツをさらにミルクチョコレートで包み,シュガーパウダーをまぶしました。」等の説明を付した「メレマックス マカデミアナッツチョコレート」 e セット内容につき「ドリップコーヒー20袋,アーモンドココア6袋,ココナットフィー8袋,アーモンドラングドシャ7袋,ヘーゼルシナモン9袋」との説明を付した「シャルマン ドリップコーヒー・洋菓子セット」 f 種類につき「1.ダブルファッジ,2.ピーナッツバターチョコレート,3.イングリッシュトフィー,4.ダークチョコチャンクマイルド,5.ホワイトチョコピーカン」との説明を付した「アメリカン・クッキーツリー社クッキー(冷凍発送品)」 g 「セイロン紅茶にスコティッシュトフィー(砂糖菓子)とアーモンドの香りを加えました。白く見える部分がトフィーです。」等の説明を付し,かつ,成分につき「セイロン紅茶(スリランカ),トフィー(英国),天然香料(スイス)」との説明を付したフレーバードティー「ハイランドトフィー」 h 「ブラックチャイナティーにキャラメルトフィーのフレーバーをブレンドした紅茶です。」等の説明を付したフレーバードティー「キャラメルトフィー」 i 「スコットランドの『トフィー』という砂糖菓子が入った女性やお子様に人気のティー♪ 香りも味もほんのり甘くて,とろけそう!!白い粒が入っていますが,それがトフィーです。」との説明を付したフレーバードティー「ハイランド・トフィー」 j フレーバーコーヒーのコーヒー豆「バタートフィー」 k セット内容につき「フレーバーコーヒー(ヘーゼルナッツ,フレンチバニラ,アイリッシュクリーム,ホリデーチェアー,バタートフィー,チョコレートラズベリー」等との説明を付した「12Days(コーヒー詰合せセット)」 l 種類につき「アイリッシュクリーム,バター トフィー」との説明を付した「アイス フレーバーコーヒー」 m 「トフィーの様に甘く」等の説明を付したスコッチウィスキー「ベンリアック 10年 43°」 n 「モルトとトフィーの風味が長く残る。」等の説明を付したスコッチウィスキー「スキャパ カスク No.12083 1980年/16YO キングスバリー オリジナル」 o 「素晴らしいバタートフィーの香りがあり」等の説明を付したスコッチウィスキー「スキャパ カスク No.12093 1980年/16YO キングスバリー オリジナル」 p 「ココナッツ,パッションフルーツ,ナッツのトフィーを感じます。」等の説明を付したスコッチウィスキー「スプリング バンク 21年 46/700」 q 「非常に広がりのある芳香でトフィーやフルーツの香り。」等の説明を付したラム酒「ポートモーラント 1988」 r 「味:トフィーの後,極めて芳醇でふくよか。ウェアハースやトフィーに感じるヴァニラのよう。」等の説明を付したスコッチウィスキー「ゴールデンプロミス マッカラン 1988 700ml」 s 「香り:トフィーのような甘さ。わずかにワックス。」等の説明を付したスコッチウィスキー「ゴールデンプロミス グレンリヴェット 1977 700ml」 t 「トフィーリキュール キャラメル味」との説明を付したリキュール「ドゥーリーズ」 u 「かすかなタフィー香とおだやかなカラメル香のミュンヘンタイプ黒ビール。」等の説明を付した地ビール「金沢ビール 犀川 330ml」 v 「タフィー(キャンディ) コーヒースカッチのような甘いブラウン。」との説明を付したネイルカラー「Toffee 115」 (ウ) さらに,証拠(甲11,13)によれば,本件原告訴訟代理人弁護士小松勉が,平成14年11月16日,インターネット検索サイト「Google」において,キーワードを「トフィー」と「菓子」として検索したところ,約222件が抽出されたが,その中には,上記(イ)記載の各商品の紹介等に加え,「トフィー」の説明として,次の各記載のあったことが認められる。
a 「English Toffee) イギリスの伝統的なキャンディ菓子トフィー」 b 「トフィーとはバター,砂糖から造る欧米でポピュラーなキャンディーのようなお菓子です」 c 「TOFFEE(トフィ)・・・バター・砂糖からつくる,欧米でポピュラーなキャンディのようなお菓子。」 d 「イングリッシュ トフィー English Toffee 軽いキャラメル味のイギリスでは定番の焼き菓子です。」 (エ) 加えて,証拠(甲11,14の(1)から(5),15の(1)から(3),16の(1)から(3),17の(1)(2),18の(1)から(3))によれば,平成14年11月15日,次の各店において,次の各商品が販売されていたことを認めることができる。
a スーパーマーケット紀伊国屋青山店 (a) 「ミルクリッチな味わいのクリーミーチョコにトフィーとアーモンドが入った新食感」等の説明を付したトフィーとアーモンドの入ったミルクチョコレート「HERSHEY'S KISSES EXTRA CREAMY MILK CHOCOLATE WITH TOFFEE & ALMONDS」(日本語の商品名「ハーシー キス トフィー&アーモンドチョコ」) (b) 「ラム酒の味と香りをキャラメルで包みました。」との説明を付したキャンディ「TREBOR RUM TOFFEE」(日本語の商品名「トレボー ラムタフィ」) (c) キャラメル風味のミルクチョコレート「Les Sarments」(日本語の商品名「サルマンチョコ(ミルクタフィー)」) (d) 詰め合わせの内容につき「バタータフィ,コーヒーキャンディ,クリームタフィ,ミルクタフィ,チョコタフィ,キャラメルキャンディ・・・」との説明を付したチョコレート菓子・キャンディ詰合せ「Trefin Casual Mix CHOCOLATE & TOFFEE」(日本語の商品名「トレファン カジュアルミックス(チョコレートタフィ)」) b スーパーマーケット成城石井atreえびす店 (a) 「ミルクから出来たバターキャラメル。」との説明を付したキャンディ「Sweet Trefin」「Golden toffee」(日本語の商品名「トレファン ゴールデンタフィ」) (b) 詰め合わせの内容につき「バタータフィ,コーヒーキャンディ,クリームタフィ,ミルクタフィ,チョコタフィ,キャラメルキャンディ・・・」との説明を付したチョコレート菓子・キャンディ詰合せ「トレファンチョコレートタフィ」 c 雑貨店ソニープラザアトレ恵比寿店 (a) 「ミルクリッチな味わいチョコレートにカリカリキャラメルのトフィーとカリフォルニアアーモンドが入った」等の説明を付したトフィーとアーモンドが入ったミルクチョコレート「HERSHEY'S NUGGETS Extra Creamy Milk Chocolate with Toffee & Almonds」(日本語の商品名「ハーシーナゲットトフィー&アーモンドチョコ」) (b) a(a)と同じもの d コンビニエンスストアampm銀座2丁目店 トフィーとアーモンドの入ったミルクチョコレート「HERSHEY'S NUGGETS」(日本語の商品名「ハーシーナゲット トフィー&アーモンド」) e 酒販店Sanmi (a) トフィーとアーモンドの入ったミルクチョコレート「HERSHEY'S Nuggets CREAMY MILK CHOCOLATE WITH TOFFEE & ALMONDS」(日本語の商品名「ハーシーナゲットクリーミートフィー&アーモンド」) (b) 詰め合わせの内容につき「バタータフィ,コーヒーキャンディ,クリームタフィ,ミルクタフィ,チョコタフィ,キャラメルキャンディ・・・」との説明を付したチョコレート菓子・キャンディ詰合せ「トレファン チョコレートタフィ」 (オ) のみならず,証拠(甲11,19の(1)(2))及び弁論の全趣旨によれば,わが国における著名な菓子製造販売業者であり,全国の百貨店等に多数出店している株式会社メリーチョコレートカムパニーの平成14年11月16日当時の商品カタログには,「プレーンチョコレート,タフィー,ナッツのチョコレートがけなど,チョコレートを使ったお菓子の美味しさを存分にお楽しみいただけます。」との説明を付したチョコレートミックスが掲載されていることを認めることができる。
(3) 以上のとおり,「taffy (toffee, toffy)」という英単語は,欧米では定番となっている「砂糖・バター・ナッツ類などから作るキャラメル風の菓子」を意味するものであり,「トフィー」という語は,この英単語の片仮名表記ということができるところ,本件商標登録出願の査定時以前から,わが国においては,著名な菓子製造販売業者によって,キャラメル又はキャラメル風の菓子で,商品名に「トフィー」という文字部分を含んだ商品が製造販売され,かつ,書籍によって,ヨーロッパでは,キャラメルについて,トフィーと呼ばれることがある旨紹介されていたものである。
そして,本件商標登録出願の査定時以降は,インターネットショッピングモールにおいて,キャラメル又はキャラメル風の菓子で,商品名に「トフィー」等という文字部分を含んだ商品,キャラメル又はキャラメル風の菓子を香料,添加物又は副材料としたウエハー,チョコレート,紅茶,コーヒーで,商品名に「トフィー」等という文字部分を含んだ商品が複数種紹介され,また,キャラメル風味を有するスコッチウィスキー,地ビールについて,「トフィーの様」等と表現されることがあり,さらに,スーパーマーケット,雑貨店,コンビニエンスストア等では,キャラメル又はキャラメル風の菓子で,商品名に「トフィー」等という文字部分を含んだ商品,キャラメル又はキャラメル風の菓子を香料,添加物又は副材料としたチョコレートで,商品名に「トフィー」等という文字部分を含んだ商品が複数種販売されており,しかも,著名な菓子製造販売業者の商品カタログには,「タフィー,ナッツのチョコレートがけ」等の表現部分が存在するなどしていたものである。
このようなわが国における「トフィー」という語の使用状況に加え,その使用状況が,本件商標登録出願の査定前後において,著しく変化したことを窺わせるに足りる証拠の存在しないことを併せ考慮すれば,「トフィー」という語は,本件商標登録出願の査定時において,既に,キャラメル又はキャラメル風の菓子を意味する普通名称として,取引者及び消費者一般に理解されるものとなっていたというべきである。
2 そこで,次に,キャラメル又はキャラメル風の菓子を意味する普通名称というべき「トフィー」という語と同一である本件商標が,その指定商品である商標法施行令1条別表第1第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工品」に使用された場合に,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるか否かを検討する。
(1) 確かに,本件審決が指摘するとおり,キャラメル又はキャラメル風の菓子が嗜好本位の間食品といえる洋菓子であることは,否定しがたいところである。
(2) しかしながら,上記1(2)イ(イ)から(エ)のとおり,キャラメル又はキャラメル風の菓子を香料,添加物又は副材料としたウエハー,チョコレート,クッキー,紅茶,コーヒー,リキュールが,インターネットショッピングモールにおいて複数種紹介されたり,スーパーマーケット等で複数種販売されていることに,証拠(甲9の(1)(2),10の(1)(2))及び弁論の全趣旨によれば,キャラメル風味のフレーバーコーヒーが近時人気となり,大手コーヒーチェーン店スターバックスコーヒーにおいて,遅くとも,平成12年12月20日ころまでには,キャラメルソースをトッピングしたコーヒーが販売されたり,雑誌「日経レストラン」2001年6月号等において,業務用のコーヒー用のキャラメル風味のフレーバーソースやフレーバーシロップの宣伝が掲載されているものと認められることを併せ考慮すれば,キャラメル又はキャラメル風の菓子は,コーヒー,紅茶等を初めとする幅広い種類の飲食品において,香料,添加物又は副材料として利用されているものというべきである。なお,このようなキャラメル又はキャラメル風の菓子の香料,添加物又は副材料としての利用状況が,本件商標登録出願の査定前後において,著しく変化したことを窺わせるに足りる証拠は存在しない。
そして,風味付けされた飲食品において,その風味の素となる香料,添加物又は副材料の名称を商品に表示することが世間一般に行われていることは,上記1(2)に摘示した各商品の紹介からも,明らかなところである。
(3) 上記(2)の各事情に照らせば,本件商標登録出願の査定時において,本件商標の指定商品である商標法施行令1条別表第1第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについて,本件商標が使用されたとすれば,取引者及び需要者は,それらの商品について,あたかも,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されているものであるかのように認識するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるというべきであるし,また,本件商標の指定商品である上記別表第1第30類「香辛料,食品香料(精油のものを除く。)」のうち,キャラメル風味でないものについて,本件商標が使用されたとすれば,取引者及び需要者は,それらの商品について,あたかも,キャラメル風味であるかのように認識するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるというべきである。
(4) ところで,原告は,上記別表第1第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。)」に加え,上記別表第1第29類「豆腐」,第30類「穀物の加工品」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについても,本件商標が使用されたとすれば,取引者及び需要者において,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあると主張する。
ア 第29類「豆腐」について (ア) まず,証拠(甲11,20)によれば,現に,被告において,豆腐を材料として製造した菓子である「焼きおとふのババロア」等を販売していることが認められる。
また,わが国において,近時の健康食品志向等を受けて,豆腐を材料として製造した飲食品として,豆腐アイスクリーム,豆腐ちくわ,豆腐ハンバーグ,豆腐ステーキ,豆腐グラタン等が身近に販売されていること,古くから,豆腐に,柚子等の香りを添加したり,南瓜等を副材料とするなどした「変わり豆腐」が身近に販売されていることは,いずれも当裁判所に顕著な事実である。
これらの各事情に照らすと,従来は,豆腐が材料として用いられることのなかった飲食品について,豆腐が材料として用いられるようになってきているものというべきであるし,また,種々の香料,添加物又は副材料が豆腐に用いられることは,古くから行われてきたことであり,珍しいことではないというべきである。
(イ) そして,風味付けされた飲食品において,その風味の素となる香料,添加物又は副材料の名称を商品に表示することが世間一般に行われていることは,上記(2)後段の判断のとおりである。
(ウ) 上記(ア)(イ)の各事情に照らせば,本件商標の指定商品である第29類「豆腐」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについて,本件商標が使用されたとすれば,取引者及び需要者は,その商品について,あたかも,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されているものであるかのように認識するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあることは,否定し難いところというべきである。
イ 第30類「穀物の加工品」について 商標法施行規則6条別表によれば,第30類「穀物の加工品」には,コーンフレークが含まれるところ,コーンフレークに,種々の香料,添加物又は副材料が利用されていることは,当裁判所に顕著な事実である。
そして,風味付けされた飲食品において,その風味の素となる香料,添加物又は副材料の名称を商品に表示することが世間一般に行われていることは,上記(2)後段の判断のとおりである。
そうであれば,本件商標の指定商品である第30類「穀物の加工品」についても,例えば,コーンフレークにおいて,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについて,本件商標が使用されたとすれば,取引者及び需要者は,その商品についてあたかも,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されているものであるかのように認識するため,商品の品質について,誤認の生ずるおそれがあるというべきである。
3 結論 以上のとおり,本件商標の指定商品である商標法施行令1条別表第1第29類「豆腐」,第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),穀物の加工品」のうち,キャラメル又はキャラメル風の菓子が香料,添加物又は副材料として利用されていないものについて,本件商標が使用されたとすれば,商標法4条1項16号に該当する事由があるというべきであるから,これらの指定商品については,本件商標の登録を無効とすべきものである。したがって,これと結論を異にする本件審決の部分は,違法というべきであり,取消しを免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 絹川泰毅