運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1995-28124
関連ワード 識別機能 /  使用事実 /  指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  類似商標 /  非類似 /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 140号 審決取消請求事件
原告 株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン
訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳
同 古木睦美
被告 東洋エンタープライズ株式会社
訴訟代理人弁護士 伊藤真
同 弁理士 野原利雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成7年審判第28124号事件について平成14年2月28日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,別添審決謄本写し別掲のとおりの構成からなり,指定商品を旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く。),布製身回品(他の類に属するものを除く。),寝具類(寝台を除く。)」とする商標登録第2710099号商標(平成4年2月6日登録出願,平成7年9月29日権利者をA(以下「A」という。)として設定登録,平成8年5月27日権利譲渡に伴い原告に移転登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は,平成7年12月28日,Aを被請求人として,本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,同請求を平成7年審判第28124号事件として審理した(上記商標権移転登録に伴って原告がAから被請求人の地位を承継)上,平成10年4月10日に「登録第2710099号商標の登録を無効とする。」との審決(以下「前審決」という。)をしたが,当庁平成10年(行ケ)第145号審決取消請求事件の判決(平成11年4月14日判決言渡し)により前審決が取り消され,同判決に対する上告受理の申立てに対する最高裁判所の上告不受理決定により,同判決が確定したので,特許庁は,同審判請求につき更に審理した上,平成14年2月28日,「登録第2710099号の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年3月12日,原告に送達された。
2 本件審決の理由 本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標と,「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字を横書きしてなり,指定商品を旧別表第17類「被服,その他本類に属する商品」とする登録第2634277号商標(平成3年11月5日登録出願,平成6年3月31日設定登録,以下「引用商標」という。)とは,称呼において類似する商標であり,かつ,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は同一又は類似のものと認められ,本件商標は,商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるから,同法46条1項1号の規定により,その登録を無効とすべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,本件商標と引用商標の類否の判断を誤った結果(取消事由),本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本件商標と引用商標の類否判断の誤り) (1) 第25類(旧別表第17類)に属する商品を指定商品とする商標においては,インディアンの図形からなる商標及び「INDIAN」の語とインディアンの図形を組み合せてなる商標と「INDIAN」又は「インディアン」の語の前又は後ろに他の語を配した商標が同時に登録されているのであるから,「INDIAN」又は「インディアン」の語の前又は後ろに,これと同一の書体,大きさで,横一列に間隔を置かず一連に又は語間にスペースを置いて一体に他の語を配した商標は,一連一体としてのみ把握され,一連一体の称呼のみ及び観念のみ生ずるから,「INDIAN」「インディアン」又はインディアンの図形からなる商標とは非類似であると取り扱われている。したがって,本件商標中の下段の特徴あるデザインの筆記体で書した「Indian Motocycle Co.,Inc.」の欧文字部分(以下「Motocycleロゴ」という。)からは,「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼のみを生じ,「インディアンモトサイクル」の称呼は生じない。他方,引用商標は,「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字をありふれた同一の活字体,同一の大きさで一連に横一列に配してなるものであるから,上記理由により,「インディアンモーターサイクル」の称呼のみを生ずる。したがって,本件商標は,引用商標と称呼において相違する。
(2) 「インディアンモトサイクル」の称呼と「インディアンモーターサイクル」の称呼とを対比すると,「モト」は短く歯切れの良い音であるから,前者は全体として歯切れの良い語感を生ずるのに対し,「モーター」は「モー」,「ター」と伸ばして発音するため,後者は全体として間延びした語感を生ずる。加えて,「モトサイクル」の語は,広辞苑にも登載されていない,日常生活において使用される言葉ではないから,聴者の注意を強く惹き付けるものである。したがって,仮にMotocycleロゴから「インディアンモトサイクル」の称呼を生ずるとしても,引用商標と称呼において相違する。
(3) 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであり,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記三点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである。
本件商標は,上段の羽根飾りを冠した右向きのインディアンの酋長の図形(以下「本件インディアン図形」という。),同図形中に配した特徴あるデザインの筆記体で書した「Indian」の欧文字(以下「Indianロゴ」という。)及び下段のMotocycleロゴからなり,他方,引用商標は,ありふれた活字体で書した「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字からなる。したがって,両者は外観において全く相違する。
本件商標の本件インディアン図形及びIndianロゴからは,北米原住民であるインディアンの観念を生じ,Motocycleロゴからは何ら特定の観念を生じない。他方,引用商標の「モーターサイクル」の語は,日常生活において普通に使用される語ではなく,「モーター」と「サイクル」からは,「電動機」と「循環」が想起され,「電動機」「循環」では意味不明であるから,何ら特定の観念を生じない。したがって,本件商標と引用商標は,観念において相違する。
また,本件商標から「インディアンモトサイクル」の称呼が生ずるとしても,引用商標の「インディアンモーターサイクル」の称呼とは,11音からなるうちの中間部分において,前者の「ト」の部分が後者では同行音の「タ」となり,さらに後者では長音が2個加わっている点で相違するが,「インディアンモトサイクル」と称呼することさえ冗長であるところ,更に長音2個が加わった「インディアンモーターサイクル」と称呼する場合には著しく冗長となり,これを淀みなく一連に称呼することがかなり難しい音構成であり,両者の語感にかなり相違があるから,仮に両者の称呼が類似するとしても,その類似性は低い。
さらに,本件商標は,原告に係る「インディアン」ブランドの商品に使用する商標として,取引者,需要者に周知である。すなわち,「インディアン」は,1901年(明治34年)設立の米国のオートバイメーカーであるヘンディー・マニュファクチュアリング・カンパニー(1923年〔大正12年〕「インディアン・モトサイクル・カンパニー」に商号変更,以下「インディアン社」という。)が製造販売するオートバイとして,米国はもとよりヨーロッパや我が国においても極めて有名であった。インディアン社の製造販売するオートバイには,本件インディアン図形,Indianロゴ,左向きのインディアンの図形,活字体で書した「INDIAN」の欧文字,筆記体で書した「Indian」の欧文字等が商標として使用され,これらの商標は,インディアン社の製造販売するオートバイを表示するものとして,また,「INDIAN MOTOCYCLE」及び「インディアンモトサイクル」は,インディアン社の略称として,いずれも米国はもとよりヨーロッパや我が国においても周知であった。1953年(昭和28年),インディアン社は操業を停止し,後に解散したが,1990年(平成2年),B(以下「B」という。)が,米国において,「インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク」(以下「新インディアン社」という。)を設立し,インディアン社を復活させ,「インディアン」ブランドのオートバイの復活製造並びに本件インディアン図形及びIndianロゴ等を使用した「インディアン」ブランドのアパレル商品,アクセサリー等の商品化を開始した。Aは,Bから,「インディアン」商標の登録出願,ライセンスを含む我が国における「インディアン」ブランドのビジネス一切についての権利を譲り受け,平成4年2月6日,本件商標の登録出願をした。平成5年6月3日,Aは,原告を設立し,その後,上記商標登録出願により生じた権利を原告に譲渡した。原告は,「インディアン」ブランドを使用した商品の輸入販売及び製造販売を行うとともに,「インディアン」ブランドの広告宣伝に努めた結果,平成6年前半ころには,本件商標を含む,本件インディアン図形,Indianロゴ,左向きのインディアンの図形,活字体で書した「INDIAN」の欧文字,筆記体で書した「Indian」の欧文字等からなる商標は,原告に係る被服等を表示するものとして周知であった。
したがって,本件商標と引用商標が,仮に称呼が類似するとしても,その類似性は低いものであり,外観において相違し,観念の類否は問題とならないところ,本件商標は原告に係る被服等を表示するものとして周知であるから,本件商標をその指定商品について使用した場合,引用商標に係る商品と出所について混同を生ずるおそれはない。
被告の反論
1 本件審決の認定,判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(本件商標と引用商標の類否判断の誤り)について (1) 本件商標は,中央に「Indian」の文字を配した羽根飾りを付けたインディアンの図形からなる上段と欧文字筆記体で「Indian Motocycle Co.,Inc.」と書してなる下段から構成され,両者は明らかに分離して看取され,それぞれが独立した識別標識としての機能を果たすものである。そして,下段の構成文字中の「Co.,Inc.」の文字は,我が国における英語普及度から,「会社,商会」を意味する「Company」の略語である「Co.」の文字と,「法人組織,会社組織」を意味する「Incorporated」の略語である「Inc.」との結合で,全体として「株式会社又はこれに類する組織」を意味する英語であると容易に認識され,実際にも会社の英語表記に多用されている。そうすると,本件商標の下段は,全体として会社名を表したものと認識され,「Co.,Inc.」の文字は,単に組織概要を示した付記的部分にすぎず,また,簡易迅速を尊ぶ実際取引の場では会社名を称呼する際,「Co.,Inc.」の文字部分は省略して称呼されることが多いから,本件商標の要部は「Indian Motocycle」の文字部分である。したがって,本件商標からは,「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字に相応して,「インディアンモトサイクルシーオーインク」「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼が生ずるほか,「インディアンモトサイクル」の称呼をも生ずることは明らかである。インディアンの図形からなる商標及び「INDIAN」の語とインディアンの図形を組み合せてなる商標と「INDIAN」又は「インディアン」の語の前又は後ろに他の語を配した商標が同時に登録されていることは,「Indian」「インディアン」と「Indian Motocycle」「インディアンモトサイクル」又は「Indian Motorcycle」「インディアンモーターサイクル」とが非類似であることの根拠とはなり得ても,本件商標の下段から「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼のみが生じ,「インディアンモトサイクル」の称呼は生じないとする根拠とはなり得ない。
(2) 「インディアンモトサイクル」の称呼と「インディアンモーターサイクル」の称呼とを比較すると,両者は,共に12音(長音を含めれば12音と14音)という比較的冗長な音数からなり,比較的聴取し難い中間部における「モト」と「モーター」の相違でしかない。しかも,「モ」と「モー」の差は,単に長音を伴っているか否かの相違にすぎず,「ト」と「ター」の差は,同じタ行に属する同質音で,長音を伴っているか否かの相違にすぎないから,両称呼をそれぞれ一連に称呼した場合,全体の音感,音調が,近似した相紛らわしいものとなることは明白である。また,「Moto」「モト」の文字を冠した用語は,「Moto Cross」「モトクロス」や「Moto Shop」「モトショップ」等多数あり,「Moto Cycle」「モトサイクル」の語は,「Motor Cycle」「モーターサイクル」の略語であり,「自動二輪車,オートバイ,バイク」を意味する語として広く使用されている。
(3) 商標は,商取引における自他商品の識別標識,出所表示標識としての機能を果たすものであり,取引一般において,テレビ,ラジオ等の多くの広告媒体が存在し,かつ,電話等による隔地者間の音声を利用した取引手段も活用されているから,外観及び観念において相違するところがあっても,称呼において類似する以上,誤認混同を生ずるおそれがないとするに足りる特別な事情のない限り,商取引に混乱を来し,商標が上記機能を果たし得ない結果を招来することは明らかである。
「インディアンモトサイクル」と「インディアンモーターサイクル」の各称呼は,共に冗長な音構成であるから,むしろ類似性がより高いというべきである。
我が国の英語普及度,「インディアン」及び「モーターサイクル」は,我が国において既に片仮名成語(外来語)として認知されている語であることから,一般の需要者は,引用商標の「インディアンモーターサイクル」の語が,「Indian Motorcycle」の日本語表記であることを理解し,「Indian」「インディアン」が「北米原住民」を意味し,「Motorcycle」「モーターサイクル」の語が「自動二輪車,オートバイ,バイク」を意味する語であることは一般の需要者に知られているところであるから,引用商標からは,全体として特定される観念が生じないとしても,結合した各語から,「北米原住民(インディアン),自動二輪車(モーターサイクル,オートバイ,バイク)」の観念を生ずる。他方,上記したところから,「Moto」は「Motor」と同義でその簡略語として使用されることは一般の需要者に知られているところであり,本件商標からも,「北米原住民(インディアン),自動二輪車(モーターサイクル,オートバイ,バイク)」の観念を生ずる。したがって,両商標の類否判断において,上記観念が比較検討されるべきほどではないとしても,両商標は,ある種の観念上の類似性を需要者に与えるものというべきである。
インディアン社と原告とは,法的にも,事実としても一切関係がない。また,新インディアン社は,Bが,詐欺に利用するために設立した会社であり,準備行為を含めて一切の事業活動を行うことなく,設立後間もなく倒産している。したがって,本件商標の登録査定時において,原告が主張する本件商標の周知性の根拠となる使用事実は皆無に等しい。
当裁判所の判断
1 取消事由(本件商標と引用商標の類否判断の誤り)について (1) 本件商標及び引用商標の構成態様について 本件商標は,別添審決謄本写し別掲のとおり,上段の羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔を表した図形(本件インディアン図形),同図形中に配した筆記体で書した「Indian」の欧文字(Indianロゴ)及び下段の筆記体で書した「Indian Motocycle Co.,Inc.」の欧文字(Motocycleロゴ)からなるものである。
他方,引用商標は,「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字を横一列に書してなるものである。
(2) 称呼上の類否について ア 本件商標は,上段の本件インディアン図形とIndianロゴを組み合せた部分と,下段のMotocycleロゴとに明確に分離して見て取ることができることは,その構成自体から明らかである。また,本件商標の構成に照らし,下段のMotocycleロゴの部分は,単なる付記的部分にとどまるとはいえず,また,上段と常に一体に不可分に認識されるべき格別の理由もないから,独立して自他商品識別機能を果たし得るものと認められる。そして,Motocycleロゴ中の「Co.,Inc.」の文字部分は,我が国における英語普及度から,これに接する一般の取引者,需要者は,株式会社等の法人組織を表す「Company Incorporated」の略語として認識し得るものであるから,「Indian Motocycle Co.,Inc.」を全体として把握し,認識し,称呼するとともに,「Co.,Inc.」を除く,「Indian Motocycle」の部分を一まとまりの語句として把握し,認識し,称呼することが十分あり得るものというべきである。そうすると,引用商標から,下段のMotocycleロゴの欧文字に相応して,「インディアンモトサイクルシーオーインク」「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼が生ずるほか,「インディアンモトサイクル」の称呼をも生ずるものと認められる。
証拠(甲29-1〜38)によれば,インディアンの図形からなる商標及び「INDIAN」の語とインディアンの図形を組み合せてなる商標と「INDIAN」又は「インディアン」の語の前又は後ろに他の語を配した商標が同時に登録されていることが認められるが,同事実によっては,「INDIAN」又は「インディアン」の語の前又は後ろに,これと同一の書体,大きさで,横一列に間隔を置かず一連に又は語間にスペースを置いて一体に他の語を配した商標は,一連一体としてのみ把握され,一連一体の称呼のみ生ずるものと認めることはできないから,Motocycleロゴからは,「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼のみを生じ,「インディアンモトサイクル」の称呼は生じないとの原告の主張は採用できない。
イ 他方,引用商標の上記構成からは,構成文字に相応して,「インディアンモーターサイクル」の称呼が生ずることは明らかである。
ウ 本件商標から生ずる「インディアンモトサイクル」の称呼と引用商標から生ずる「インディアンモーターサイクル」の称呼を比較すると,前部の「インディアン」及び後部の「サイクル」は共通であり,その中間において,前者の「モト」が,後者では「モーター」となっている点が相違するにすぎない。そして,相違する称呼のうち,「モ」と「モー」の音は,単に長音を伴っているかどうかで相違するにすぎず,「ト」と「ター」の音も,長音を伴っているかどうかで相違し,「ト」と「タ」は母音において相違するが,いずれもタ行に属する同質音である。
したがって,本件商標と引用商標を,それぞれ,一連に称呼するとき,両者は,全体の音感,音調が近似した紛らわしいものとなることが明らかである。
「モト」の音は「モーター」の音に比較し,短く歯切れの良い音であることは原告主張のとおりであるが,この相違のみから,両商標全体の称呼に格別の差が生ずるものとは認め難い。
したがって,本件商標と引用商標とは,称呼において類似するというべきである。
(3) 類否判断について ア 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであり,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記三点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては,これを類似商標と解することはできない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,同平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)ことは原告主張のとおりである。そして,本件商標と引用商標とは,称呼において類似していることは,上記のとおりであるから,それにもかかわらず,当該指定商品について,商品の出所を誤認混同するおそれがないといえるような外観及び観念における著しい相違,取引の実情等の有無について更に検討する。
観念において,本件商標の構成中,上段の本件インディアン図形とIndianロゴを組み合せた部分から,「北米原住民」を意味する「インディアン」の観念が生ずることは自明である。また,平成元年1月20日小学館発行の「新選国語辞典(第6版)」(乙4),平成3年1月1日朝日新聞社発行の「知恵蔵1991」(乙5),平成4年10月学研発行の「マスコミに強くなるカタカナ新語辞典(第3版)」(乙6),日本二輪車協会のホームページ(乙7),日本自動車工業会のホームページ(乙8),関連企業のホームページ(乙9)及び雑誌掲載の原告紹介記事(甲89,91〜93,96,98,100,102,104,205)によれば,「オートバイで,舗装されていない山道や野原などを走るレース」が「モトクロス」と一般に称され,「moto」「モト」が「motor」「モーター」と同義でその略語として一般に使用されていること,「モーターサイクル」は,英語の「motorcycle」を語源とする,「オートバイ」「自動二輪車」を意味する外来語として一般的に認識,理解されていることが認められ,このような実情にかんがみれば,下段のMotocycleロゴからは,「インディアンのオートバイ(自動二輪車)」及び「『インディアンモトサイクル』という名称のオートバイ(自動二輪車)を扱う会社」の観念を生ずるものというべきである。他方,引用商標について見るに,原告は,引用商標の「モーターサイクル」の語は,日常生活において普通に使用される語ではなく,「モーター」と「サイクル」からは,「電動機」と「循環」が想起され,「電動機」「循環」では意味不明であるから,何ら特定の観念を生じないと主張するが,その構成の前半部分「インディアン」からは「北米原住民」の,後半部分「モーターサイクル」からは「オートバイ」「自動二輪車」の観念が生ずることは上記のとおりであって,引用商標全体としては,これらが結合したものであるか,あるいは後半部分が前半部分によって修飾されている「インディアンのオートバイ(自動二輪車)」の観念が生ずるものというべきである。したがって,本件商標と引用商標は,観念においても,取引者,需要者に類似した印象を与えるものというべきであり,原告主張のように相違するとは到底いえない。
そして,被服関連の企業は,類似する複数の商標を使用している例が少なくなく,一般需要者の多くも,そのことを認識しており,また,個々の商品の出所について正確な知識を基に十分な吟味をすることなく短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないことは,当裁判所に顕著である。そうすると,このような取引の実情を参酌して両商標の類否を全体的に観察すれば,外観において相違することは明らかであるが,その相違は称呼及び観念類似性をしのぐほどの特段の差異を取引者,需要者に印象付けるものとまでは認められず,本件商標を指定商品に使用した場合,その取引者,需要者において商品の出所を誤認混同するおそれがあり,本件商標は引用商標に類似する商標というべきである。
イ なお,原告は,本件商標は,原告に係る「インディアン」ブランドの商品に使用する商標として周知であると主張し,これを立証する証拠として,甲31〜76,79〜214を提出するので,以下検討する。
甲31〜33は,インディアン社及びインディアン社が製造販売するオートバイを紹介したパンフレットないし雑誌記事である。上記各証拠によれば,インディアン社は,1901年(明治34年)に米国において設立されたオートバイメーカーであり,その製造販売するオートバイには,本件商標と同一の構成からなる商標,「INDIAN」の欧文字又は筆記体で書した「Indian」の欧文字からなる商標等が使用されていたこと,同社は1953年(昭和28年)操業を停止したことが認められる。しかし,原告が,インディアン社が使用していた上記各商標について何らかの権利を有し,あるいは同社と緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にあることを認めるに足りる証拠はないから,インディアン社に係る上記事実は,原告に係る本件商標の周知性とは無関係である。
甲34は,「ブルータス」1993年(平成5年)1月1日,15日合併号であり,Bが,1991年(平成3年)1月,再びインディアン社を興すことを紹介した記事が掲載されている。しかし,同記事には,原告に係る商品や本件商標に触れるところはなく,本件商標の周知性を認定する的確な証拠ということはできない。
甲35は,Aの宣誓供述書であり,AがBから日本において「インディアン」商標を独占的に使用する権利を買い取ったこと等が記載されているが,これらの記載は,原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲36は,平成4年商願第10316号,同第10317号,平成5年商願第30601号〜同第30609号,同第30611号及び同第30612号に係る商標登録出願により生じた権利並びに商標登録第2674792号商標及び同第2710099号商標の各商標権についてのAから原告に対する各譲渡証書であるが,これらは原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲37は,新インディアン社の商品カタログ(平成4年)であるが,英語のものであり,我が国において,一般の取引者,需要者を対象に頒布されたものとは認められない。
甲38は,原告の商業登記簿謄本であるが,原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲39,50〜76,79〜118,121〜129,132〜214は,被服関連の雑誌,新聞等であるが,いずれも本件商標の登録査定日である平成7年3月30日(甲3)より後に頒布された刊行物である上,その多くは,原告に係る本件商標の周知性とは無関係であるか,あるいはその関連性が明らかではないものである。
甲40は,平成元年1月15日発行の「広告」1,2月号であり,原告代表者のC執筆に係る「ハリウッドはあこがれのメディア」と題する記事が掲載されているが,同記事は,原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲41は,「CLiQUE」平成6年1月号であり,「スティーブ・マックイーンらが愛した『インディアン・モトサイクル』の関連アイテムが揃う『アーバン・メディスン』が9月にオープンした。特に『インディアン』のシルバーブレスレットは,ライダーズジャケットに次ぐブームの兆し」との記載があるが,同記事は,本件商標の指定商品に関するものとは認められない。
甲42は,「DICTIONARY」平成6年1月号であり,本件インディアン図形が掲載されているが,これがいかなる趣旨で掲載されたものであるか不明である上,その発行部数,頒布先は明らかではない。
甲43は,平成6年6月25日付け「旬刊ファンシー」であり,「『インディアン』が復活・・・マルヨシは5月16〜18日,本社2階展示室で’94秋〜’95春の展示会を行った。・・・今回,新ブランドとして『インディアン』を商品化」との記載があるが,本件商標の記載はなく,その発行部数も明らかではない上,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
甲44は,株式会社マルヨシの商品カタログ,甲45は,同社作成のバッグの仕様書であり,いずれも本件インディアン図形とIndianロゴを組み合せた標章が掲載されているが,その発行部数,頒布先は明らかではない。
甲46,47は,いずれも被告の商標登録願であり,原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲48は,徳間書店発行の「GoodsPress」平成6年11月号増刊であり,本件インディアン図形とIndianロゴを組み合せた標章を付したティーシャツ等の商品の写真とともに「『インディアン』ブランドが,40年の歳月を経て復活した」との記事が掲載され,甲49は,「FieldGearフィールド・ギア」平成6年12月号であり,商品バッグの写真とともに「『インディアン』が40年の沈黙を破ってついに復活」との記事が掲載されているが,これらの商品は,いずれも本件商標が使用されている商品であるとはいえない。
甲119は,ビデオ「ビッグウェンズデー」の容器,甲120は,同ビデオの画面の写真であるが,いずれも原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲130は,「CAN'T BUST'EM」織りラベルであるが,原告に係る本件商標の周知性を立証するものではない。
甲131は,「Indian MOTORCYCLE PHOTOGRARHIC HISTORY」であるが,英語のものであり,我が国において,一般の取引者,需要者を対象としたものとは認められない。
そうすると,原告提出の上記証拠によっては,本件商標の登録査定時(平成7年3月30日)において,その主張するように,本件商標が原告に係る被服等を表示するものとして周知であったとまで認めることはできず,本件商標と引用商標との前示類否判断を左右するものではない。
(4) したがって,本件商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるとする審決の判断に誤りはない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 宮坂昌利