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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 15年 (ワ) 16505号 商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件
平成 16年 (ワ) 10154号 商標権侵害差止等請求事件
本訴原告・反訴被告 株式会社ヴァリーエントランス
同訴訟代理人弁護士 松尾和子
同 田中伸一郎
同 高石秀樹
同補佐人弁理士 東谷幸浩
本訴被告・反訴原告 株式会社ジーエイチスリールーマニア
同訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 井奈波朋子
同 足立佳丈
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/10/11
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 反訴被告(本訴原告)は,別紙標章目録記載の各標章を包装若しくは容器に付した化粧品を販売し,引き渡し,販売若しくは引渡しのために展示し,輸入し,化粧品に関する説明書,パンフレットその他の広告に前記各標章を付して展示若しくは頒布し,又は化粧品に関する情報に前記各標章を付してインターネット・ホームページで提供してはならない。
2 反訴被告(本訴原告)は,別紙標章目録記載の各標章を付した化粧品,包装,容器,説明書,パンフレットその他の広告を廃棄し,前記各標章を記載したインターネット・ホームページから前記各標章を付した化粧品に関する情報を削除せよ。
3 反訴被告(本訴原告)は,反訴原告(本訴被告)に対し,金1118万9980円及びこれに対する平成16年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 本訴原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
5 反訴原告(本訴被告)のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを10分し,その3を本訴被告(反訴原告)の負担とし,その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。
7 本判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 本訴事件 (1) 本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)が輸入販売する別紙商品目録記載の商品を含む化粧品につき別紙標章目録記載の各標章を使用する行為が別紙商標権目録1ないし4記載の各商標権を侵害する旨を告知し,又は流布してはならない。
(2) 本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)に対し,金3000万円及びこれに対する平成15年8月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴事件 (1) 主文第1,2項と同旨 (2) 反訴被告(本訴原告)は,反訴原告(本訴被告)に対し,金3172万4684円及びこれに対する平成16年5月28日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 反訴被告(本訴原告)は,反訴原告(本訴被告)に対し,別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を,同目録記載の要領で,同目録記載の新聞に掲載せよ。
事案の概要
1 争いのない事実等 次の各事実は当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により,容易に認めることができる(以下,特に断らない限り,書証は枝番を含む。)。
(1) 当事者等 ア 本訴原告(反訴被告。以下「原告」という。)は,昭和59年9月27日に設立された,化粧品の輸出入及び販売並びに化粧品の製造販売の促進の企画等を目的とする株式会社であり,平成14年12月16日に旧商号「ヴァリー・エントランス・プロダクション株式会社」から「日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社」に商号変更し,さらに,平成17年4月11日,現商号商号変更した(甲244,弁論の全趣旨)。
イ 本訴被告(反訴原告。以下「被告」という。)は,昭和54年2月16日に設立された,旅行業,化粧品及び日用雑貨品の輸出入並びに販売等を目的とする株式会社である。
(2) 被告の商標権 ア 被告は,別紙商標権目録記載の各商標権(以下,同目録中の番号に従って「本件商標権1」などといい,これらの各商標権に係る登録商標を番号に従って「本件商標1」などという。また,本件商標権1ないし4を総称して「本件各商標権」といい,本件商標1ないし4を総称して「本件各商標」という。)を有している(甲1,4,248,249)。
イ なお,本件商標1を構成する「GEROVITAL H3」は,ルーマニアの国立老人医学研究所(INSTITUTUL NATIONAL DE GERONTOLOGIE SI GERIATRIE,National Institute of Gerontology and Geriatrics)所長を務めた医学博士アナ・アスラン(Ana Aslan)が開発した老化予防・治療薬の名称であり,その後これを使用した化粧品の名称にも使用されている。
ルーマニアにおいては,1992年2月21日以降,「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」と図形からなる商標(別紙ジェロヴィタール商標目録記載1のとおり)を,ルーマニア法人ジェロヴィタールコスメティックス エス エー(Gerovital cosmetics S.A.。以下「ジェロヴィタール社」という。1998年3月1日の商号変更前の商号を「ミラージュ エス エー」(MIRAJ S.A.)といい,以下「ミラージュ社」ということもある。)及びルーマニア法人ファーマク エス エー(FARMEC S.A.。以下「ファーマク社」という。)の2社が商品ないしサービスを分割して,それぞれ商標権を有している(甲11,15,83,乙14ないし16,25,弁論の全趣旨。なお,以下,別紙ジェロヴィタール商標目録記載の各商標と同一又は類似のものを含め,「Gerovital H3」に関する商標を,「ジェロヴィタール商標」と総称する。)。
(3) 原告の標章使用行為 ア 原告は,平成15年2月から,別紙標章目録記載の各標章(以下「原告標章」という。)を包装又は容器に付した化粧品(以下「原告商品」という。)をジェロヴィタール社から輸入し,引き渡し,販売しているほか,インターネット・ホームページ,パンフレット,説明書,広告に原告標章を付してこれらを展示,頒布しており,もってこれらの標章を使用している。
イ 原告商品は,クレンジングミルク,トニックローション,ナイトクリーム,リンクルクリーム,デイクリーム,アイクリーム,ヘアローション,セルライトクリームであり,前記輸入開始以来,原告が輸入した数量は,別表1(譲渡数量計算表)の「輸入数量」欄記載のとおりである(甲84,240,乙57ないし60,弁論の全趣旨)。
ウ 原告標章(別紙標章目録記載1-1ないし6-4の各標章)は,本件商標1ないし3とそれぞれ類似し,同目録記載6-1ないし6-4の各標章は,本件商標4とそれぞれ類似する。
(4) 原告と被告の競争関係 ア 被告は,遅くとも昭和60年4月15日,化粧品の輸入販売業につき薬事法に基づく許可を受け,そのころから現在に至るまで,ルーマニアから「GEROVITAL H3」を使用した化粧品(以下「ジェロヴィタール化粧品」ということがある。)を輸入し,販売している(乙6ないし10,32)。被告は当初,ルーマニア国立輸出入公団(CHIMICA)と輸入契約を締結し,CHIMICAを通じて,ミラージュ社(現在のジェロヴィタール社)及びファーマク社の製造したジェロヴィタール化粧品(フェイスクリーム及びヘアーローション等)を輸入していたが(なお,被告は,CHIMICAから,日本における唯一の代理店と認められていた。乙11,12),その後,上記2社から直接輸入するようになり(乙8,32),平成9年以降は,すべてファーマク社が製造したジェロヴィタール化粧品に統一して輸入するようになった(乙7,32)。
イ 原告は,平成15年6月25日,ジェロヴィタール社との間で化粧品の独占販売代理店契約を締結し(甲14,弁論の全趣旨),同社から原告商品を輸入している。なお,上記契約は,ジェロヴィタール社とジャパン ジーオーティーメイク株式会社(以下「GOT」という。)が平成14年10月3日締結した独占販売代理店契約の当事者を変更したものである。
(5) 被告の告知・流布行為 ア 被告は,原告商品を広告した共同PR株式会社や原告商品を紹介しようとした株式会社テレビ東京等に対し,原告が被告の商標権を侵害しており,東京地方裁判所に対して告訴中である旨を告知した。
イ 被告は,そのホームページ中に,原告が商標権侵害行為を行っており,東京地方裁判所において商標権侵害で告訴中であるなどと掲載した。
(6) 関連事件等 ア 被告は,平成15年4月16日,東京地方裁判所に対し,GOTを相手方として,本件各商標権等に基づく差止めの仮処分命令を申し立てたが(当庁平成15年(ヨ)第22040号事件),同年10月27日,同事件は和解により終了した。
また,被告は,同年11月17日,東京地方裁判所に対し,原告を相手方として,本件各商標権等に基づく仮処分命令を申し立てたが(当庁平成15年(ヨ)第22082号事件),平成16年6月1日,同申立てを取り下げた(弁論の全趣旨)。
イ ジェロヴィタール社は,平成15年7月11日,被告を相手方として,東京地方裁判所に対し,本件各商標権の移転登録手続等を求める訴えを提起し,他方,被告は,平成16年5月13日,ジェロヴィタール社に対し,不当訴訟による損害賠償等を求める反訴を提起した(当庁平成15年(ワ)第15971号,平成16年(ワ)第10153号事件)。
ウ ジェロヴィタール社は,平成15年7月22日,特許庁に対し,本件各商標権について無効審判請求を行い,特許庁は,平成16年4月26日及び同年6月30日,いずれも審判請求は成り立たない旨の審決をした(乙55,56,73,74)。ジェロヴィタール社は,上記各審決の取消しを求める訴えを提起したが,知的財産高等裁判所は,平成17年6月30日,同社の請求をいずれも棄却した(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10323号,10324号,10336号,10337号事件。乙140ないし143)。
エ 函館,東京,横浜,名古屋,大阪,神戸,門司,長崎及び沖縄地区の各税関長は,平成16年9月24日,被告からされた本件商標権1を侵害する化粧品(クリーム類,ローション類,乳液類)の輸入差止めの申立てを受理し,その効力は同日から平成18年9月23日までの間とされた(乙107,108)。
2 事案の概要 本訴事件は,原告が,被告に対し,前記1(5)記載の被告の行為が不正競争防止法2条1項14号に該当すると主張して,同法3条に基づく原告標章使用行為が本件各商標権を侵害する旨の告知又は流布の差止め及び同法4条に基づく損害賠償を請求する事案である。
反訴事件は,被告が,原告に対し,@ 前記1(3)記載の原告の行為が本件各商標権を侵害すると主張して,商標法36条に基づく原告標章の使用の差止め及び廃棄等,同法39条の準用する特許法106条に基づく謝罪広告並びに民法709条に基づく損害賠償を請求するとともに,A 原告の本訴提起が不当訴訟であると主張して,民法709条に基づく損害賠償を請求する事案である。
3 本件の争点 (1) 商標権侵害の成否 ア 本件各商標登録に無効理由が存在し,商標権の行使が権利濫用として許されないか否か (ア) 商標法4条1項7号該当性 (イ) 商標法4条1項10号該当性 (ウ) 商標法4条1項19号該当性(本件商標3及び4について) イ 仮に本件各商標登録に無効理由が存在しないとしても,被告の原告に対する本件商標権行使が権利濫用に当たるか否か (ア) 世界的に周知著名な商標と要部を同一にする本件各商標について正当な権利者から許諾を受けることなく,虚偽の事実を主張して自己名義で取得した本件各商標権を行使することが権利濫用に当たるか否か (イ) ルーマニアないし国家機関と関係があることを標榜し,かつてはミラージュ社の商品を輸入していた被告が,原告が同社の後身たるジェロヴィタール社から真正な商品を輸入する行為を差し止めることが権利濫用に当たるか否か (ウ) 原告商品こそがジェロヴィタール商標を付して販売できる商品であることを熟知しながら,その輸入販売の差止めを求めることが権利濫用に当たるか否か (2) 不正競争防止法2条1項14号に基づく請求について(原告の本訴請求) ア 被告の告知・流布行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に当たるか否か イ 損害の有無及び額 (3) 商標権侵害に基づく請求について(被告の反訴請求@) ア 謝罪広告の必要性 イ 損害の有無及び額 (4) 不当訴訟に基づく請求について(被告の反訴請求A) ア 本訴の提起が違法で,被告に対する不法行為となるか否か イ 損害の有無及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(ア)(商標法4条1項7号該当性)について 〔原告の主張〕 (1) ジェロヴィタール商標の周知・著名性について 本件商標1ないし3の要部は「ジェロビタール」又は「GEROVITAL」であり,アナ・アスラン博士が命名した老化予防・治療薬の名称である「GEROVITAL H3」と同一である。また,本件商標4は同博士の名称から成る。
当該老化予防・治療薬「GEROVITAL H3」は,1957年,既にルーマニア厚生省から使用,販売を認可され,これに関する学会発表や論文発表も多数となり,世界的に注目され,アナ・アスラン博士は我が国においても1977年に講演し,1978年には再来日して世界老人医学会議に出席している。
ルーマニアのルーマニア老人研究所におけるジェロヴィタール老化治療は,世界の著名人も受けており,薬品と同成分の「GEROVITAL H3」化粧品は,1970年代に製品化され,ヨーロッパ諸国を始めとする世界各国に輸出され,同治療・医薬品,同化粧品やアナ・アスラン博士の氏名は著名となっていた。
(2) 被告による本件各商標の冒認出願と被告の意図について ア 被告は,本件商標1が公告された昭和57年8月19日,ルーマニアの国家機関が,本件商標1に対し,商標法4条1項10号,15号及び16号を根拠に登録異議申立てを行ったのに対し,ジェロヴィタール商標の周知・著名性を否定し,かつ,正当な国家機関であるCHIMICAから商標登録出願につき同意を得ている旨の虚偽の答弁を行って,本件商標権1の登録を受けた。
当時のルーマニアの商標の権利者であったCIMCCLが被告の商標登録に対して異議を申し立てた事実は,被告が勝手に本件商標権1の登録を受けたことを示すものである。また,CIMCCLが特許庁の決定に対して不服申立てをしなかったのは,必要な費用がどれだけなのか予測できなかったことによる。
なお,CHIMICAは,専ら外国貿易を担当する国家機関にすぎず,我が国において被告が商標権を取得することを許諾する権限を有しないし,被告に対し,被告又は被告代表者A(以下「A」という。)の名義で商標登録をすることに同意した事実はない。なお,一介の輸入業者にすぎない被告に対し,権限のない機関が,国の財産ともいうべき商標の登録を,無償かつ無条件で,正式な文書もなく許諾することはあり得ない。
アナ・アスラン博士も,化粧品販売に関与する権限を有しておらず,同人から我が国内での販売を相談されたとしても,商標取得の許諾の裏付けとはなり得ない。
ルーマニアの関係者ないしミラージュ社は,我が国の商標法に対する知識不足から,WIPOで商標を登録した以上は,我が国にもその商標権の効力が及ぶものと誤解していたにすぎない。
その上,被告は本件商標権1を被告名義で取得したことをCHIMICAに通知していない。
イ 本件商標2は,「ジェロビタール/GEROVITAL」のみから成り,本件商標1の連合商標として昭和56年10月8日に出願され,昭和62年4月30日に登録された。
連合商標制度という独特な制度の存在をルーマニアの関係者が知らないにもかかわらず,被告が本件商標権2の取得についてルーマニア当局にもCHIMICAにも通知した事実はない。
また,本件商標権2の取得は被告の商標権者としての地位を強固にするだけのものにほかならない。
ウ 本件商標3の要部が「ジェロビタール」に存することは明らかであるが,これは平成9年5月2日に出願され,平成10年11月27日に登録された。
別紙ジェロヴィタール商標目録記載1の商標権はミラージュ社とファーマク社に分割移転されているが,ミラージュ社は被告が本件商標3を出願し,取得したことを一切知らされていない。被告は専ら自己の市場における立場を有利にするために,他人の有名な商標を自己名義で取得したものであって,本件商標権3が商標法4条1項7号に該当することは明白である。
エ 本件商標4は,平成14年4月12日に出願され,平成15年4月4日に登録された。
被告は,遅くとも,アナ・アスラン博士の名声を,同博士が来日した昭和52年には熟知していたが,ルーマニア国立老人医学研究所も,ミラージュ社ないしジェロヴィタール社も,本件商標権4の取得について一切通知を受けなかった。
その上,平成14年4月という時期は,ジェロヴィタール社が我が国に対する商品の販売を本格的に行おうとしていた時期と一致する。
オ 以上のとおり,ジェロヴィタール商標が,老化予防・治療薬及びその効果的な施術法並びに化粧品についてのルーマニアを始めとする世界各国において著名であることを十分知悉していたにもかかわらず,被告は商標権を保有するルーマニア国家機関の承諾を得ることなく,しかも虚偽の主張をして,ジェロヴィタール商標の下で自己のみが化粧品を独占的に輸入,販売することを確保するため,本件各商標の登録出願及び商標権の取得をしたものであり,他方,ルーマニアのために登録出願等をしたことを推認させる証拠も合理性も何ら存しない。
(3) このように,被告の行為は,外国著名商標の冒認行為にほかならず,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとる。
したがって,本件各商標登録は,商標法4条1項7号に当たる。
〔被告の主張〕 (1) 被告設立当時にはジェロヴィタール商標,アナ・アスラン博士の名称が周知性を有していなかったこと 被告設立当時には,共産主義国であったルーマニア,同国のアナ・アスラン博士,ジェロヴィタールに関する情報は極めて乏しかった。
アナ・アスラン博士が昭和52年に来日して講演,著名人などとの面会,日本市場へのジェロヴィタール治療の売り込みを行ったが,誰もジェロヴィタール治療,ジェロヴィタール化粧品を取り扱おうとする者がいなかった。そこで,ルーマニア側は当時ジャーナリストであったAに商品化の話を持ちかけるしかなかった。この経緯は,当時ジェロヴィタール商標に周知著名性がなかったことを示すものである。
被告が,ジェロヴィタール治療ツアー,ジェロヴィタール化粧品の輸入,宣伝広告を行ったり,その結果,かかるツアーや化粧品が雑誌で取り上げられたことによって初めて,アナ・アスラン,ジェロヴィタールの表示が需要家の間で認識されるようになったのである。
他方,ミラージュ社は日本国内で何ら営業活動を行っておらず,ジェロヴィタール化粧品は,ミラージュ社の商品としてではなく,被告の商品として周知性を獲得した。すなわち,被告は,昭和60年以来20年間にわたり,ジェロヴィタール化粧品を輸入し,その売上高は直近8年間の多いときで年間1億9000万円,少ないときで年間5000万円と多額であった。被告は,輸入開始後,販売代理店を募集し,昭和63年ころにルーマニア大使館の協力の下で作成したルーマニア旅行のパンフレットでも22社の販売代理店を掲載しており,現在では100社の販売代理店を傘下に収めている。被告は,昭和54年以降,販売代理店,一般消費者向けにパンフレットやカタログを作成し,頒布しているほか,各国際見本市等で宣伝活動を行い,新聞や一般女性誌等に広告を掲載し,昭和55年に関連書籍の「GH3の奇跡」を,同60年に「神秘のジェロビタール治療」をそれぞれ出版し,また週刊誌等に関係記事を掲載してもらったり,ルーマニア旅行の企画とタイアップしてジェロヴィタール化粧品を販売したり,販売代理店においてインターネットで一般消費者に販売するなどした。
CIMCCLの商標登録異議申立てにおいても,ジェロヴィタール商標の周知著名性は特許庁によって否定されている。
仮に,現在ジェロヴィタール商標が周知著名性を獲得しているとしても,ファーマク社及びミラージュ社双方の商品を示すものとしてこれを獲得しているのであって,後者の商品のみを示すものとしてこれを獲得しているのではない。むしろ,ファーマク社の商品の売上げはミラージュ社の商品の売上げを上回るから,ジェロヴィタール商標は,ファーマク社の商品を示すものとして周知著名性を獲得したとはいえても,ミラージュ社の商品を示すものとして周知著名性を獲得したということはできない。
また,ジェロヴィタール治療薬の認可,アナ・アスラン博士の業績,ジェロヴィタール治療の実績等は,ジェロヴィタール商標の周知著名性とは無関係である。
(2) 取得目的がジェロヴィタール化粧品の営業展開のためであったこと(取得目的の正当性) 被告の本件各商標権の取得は,ジェロヴィタール化粧品を輸入,販売する営業を展開するに当たって,ジェロヴィタールの名称を安定して使用し得る地位を確保するためであり,公序良俗違反又は権利濫用に該当するものではない。
(3) CHIMICAから承認を得たこと 被告代表者Aは,昭和52年,世界老人医学会議に出席するために来日したアナ・アスラン博士と取材を通じて知り合い,その後,同人から直接,ジェロヴィタールH3による治療から開発した化粧品を我が国で販売できないかとの相談を受けた。そこで,AはCHIMICAの担当者等と協議を行い,ルーマニアの国立老人医学研究所などを視察して,まずツアーパック商品を販売することに決め,同国のカルパチ国立旅行事務所(OFICIUL NATIONAL DE TURISM CARPATI-BUCURESTI。以下「カルパチ」という。)との間で,ツアー取引契約を締結した。
そして,AがCHIMICAの担当者に対し,我が国で商標登録する必要があることなどを指摘したところ,同担当者は,Aに対し,CHIMICA側で我が国の商標を取得する意思はなく,日本側で処理して欲しい旨を伝えた。
被告のジェロヴィタール化粧品の輸入は,CHIMICAから成分の開示を受けるなど,ルーマニア政府の承認,支援の下に行われたことは明らかであるから,本件商標1の出願はCHIMICAの承認を得てされたものである。
(4) ファーマク社の同意があること 被告は,現在,ファーマク社からジェロヴィタール化粧品の我が国への輸入販売及び我が国における本件各商標権の取得について同意を得ている。
(5) 承認の存在を裏付ける事実 被告は,CHIMICAに対し,本件各商標を付して販売した化粧品の売上げから商品代金を支払っており,CHIMICAは継続的に多大な利益を上げていた一方,被告の本件各商標登録に対して何ら抗議することはなかった。
また,被告は,昭和60年当時,ヘアローションについてはミラージュ社が製造していると聞いていたが,被告は,平成2年に同社の担当者の来日に際して身元保証をしたり,平成3年に同社との間でフェイスマスク及びヘアローションに関する輸入契約を締結した。ミラージュ社は,被告が本件各商標を付して化粧品を販売することから利益を上げていたのである。
以上のとおり,CHIMICA及びミラージュ社は,被告の商標登録について承認を与えていたものということができる。
ミラージュ社の後身であるジェロヴィタール社や原告が,今更本件各商標権の効力を争うことは,信義則に反する。
2 争点(1)ア(イ)(商標法4条1項10号該当性)について 〔原告の主張〕 (1) 本件商標1及び2について 本件商標1及び2の出願当時,これらの商標は,我が国においても,少なくとも化粧品を取り扱う者の間では広く知られていた。なお,外国における周知・著名性は,我が国における当該商標の周知性の認定においても,当然考慮されるべきである。
ただし,本件商標1及び2は,登録後5年を経過し,無効審判請求の除斥期間を経過しているが,被告は,ルーマニアの真の権利者に無断で,勝手に,ジェロヴィタール化粧品を我が国で独占的に販売する意図で,登録出願をし,登録を受けたものであり,不正競争の目的をもって本件商標1及び2の登録出願,商標権取得を行ったことは明白である。そうすると,上記除斥期間の適用を受けない。
したがって,本件商標1及び2は,被告が出願当時において他人の商標として我が国において既に周知であったものを,不正競争の目的をもって登録出願し,商標権を取得したから,商標法4条1項10号に当たる。
(2) 本件商標3及び4について 本件商標3の要部である「ジェロビタール/gerovital」及び本件商標4の「アナ・アスラン」は,我が国においてルーマニアの老化予防・治療並びにそれから展開した化粧品について周知であった。なお,被告は,ファーマク社及びミラージュ社のジェロヴィタール化粧品が,ルーマニアの国家プロジェクトとして,アナ・アスラン博士が開発した,ルーマニアが誇る老化予防用薬であると大々的に宣伝して,同化粧品を我が国に輸入販売したり,老化予防ツアーを企画したにすぎず,被告独自の商品が存在するわけでもないし,被告のみがツアーを行ったわけでもない。
したがって,本件商標3及び4は,出願の当時において,他人の商標として我が国において周知であった商標であるから,商標法4条1項10号に当たる。
〔被告の主張〕 (1) 前記1〔被告の主張〕(1)のとおり,被告設立当時でも,本件各商標権の登録当時でも,ジェロヴィタール商標,アナ・アスラン博士の名称は我が国において周知性を有していなかった。
仮に,ジェロヴィタール商標が周知著名性を獲得しているとしても,ファーマク社及びミラージュ社双方の商品を示すものとしてこれを獲得しているか,ファーマク社の商品を示すものとして周知著名性を獲得したものであって,ミラージュ社の商品のみを示すものとしてこれを獲得しているのではない。
(2) 取得目的がジェロヴィタール化粧品の営業展開のためであったこと(取得目的の正当性) 前記1〔被告の主張〕(2)のとおり,被告の本件各商標権の取得は,ジェロヴィタール化粧品を輸入,販売する営業を展開するに当たって,ジェロヴィタールの名称を安定して使用し得る地位を確保するためである。
(3) 除斥期間の経過 本件商標権1及び2については,登録時から5年を経過したから,無効を主張できない。また,被告の商標登録に不正競争の目的はない。
3 争点(1)ア(ウ)(商標法4条1項19号該当性)について 〔原告の主張〕 ジェロヴィタール商標は,ルーマニア及び諸外国において,ミラージュ社ないしジェロヴィタール社のものとして広く知られた商標であるが,被告は本件商標3及び4を使用してルーマニアから輸入し,かつルーマニアの商品であることを標榜して使用し,自己の取り扱うジェロヴィタール化粧品の市場を独占する不正の目的をもって登録出願し,登録を受けた。
したがって,本件商標3及び4は,商標法4条1項19号にいう「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて,不正の目的をもつて使用するもの」に当たることは明らかである。
〔被告の主張〕 (1) 前記1〔被告の主張〕(1)のとおり周知性はない。
(2) 被告には不正の目的はない。本件各商標権は,取引上の必要から取得した。
4 争点(1)イ(無効理由が存在しないとしても本件商標権行使が権利濫用に当たるか否か)について 〔原告の主張〕 (1) 争点(1)イ(ア)(世界的に周知著名な商標と要部を同一にする本件商標について正当な権利者から許諾を受けることなく,虚偽の事実を主張して自己名義で取得した本件商標権を行使することが権利濫用に当たるか否か)について 被告は,ジェロヴィタール商標がルーマニアの誇るミラージュ社が有するものとして,ルーマニア及び近隣ヨーロッパ諸国を始め世界的に周知,著名であることを熟知していたにもかかわらず,これと要部を同一にする本件各商標権を,正当な権利者から許諾を得ることなく,かつ虚偽の事実を主張して,勝手に自己名義で取得した。
なお,先願主義の下でも,商標は本来使用されるべきであり,かつ,使用により商標の機能を実現していくから,商標が既に使用されている場合には,商標を使用して,これにグッドウィルを結晶させた者を保護することを基本とすべきであり,この者に商標権を取得させるのが筋である。
すなわち,当該商標の下で商品を製造,販売等し,当該商品等の品質を保証できる立場にある者が商標の真の権利者であり,当該商標を無権限で自己名義によって取得する者があるなら,その者は商標権を冒認し,侵奪し又は横領する者であって,かかる真の権利者との関係では本人による商標登録の意思が欠如している者である。
また,ルーマニアの生産源と無関係な者であっても生産源の許諾を得ることなく「GEROVITAL」,「Ana Aslan」の文字を含む商標を自由に登録できるとすれば,商標の基本的機能である出所表示機能,品質保証機能が損なわれるし,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護するという商標法の目的を達し得ない。
そうすると,瑕疵のない商標権(あるいは権利行使が権利濫用と目されることのない商標権)を取得するためには,真の権利者の登録の許諾ないし承諾が必要である。
よって,被告は,世界的に周知著名な商標と要部を同一にする本件各商標を正当な権利者から許諾を受けることなく,虚偽の事実を主張して自己名義で取得した本件各商標権を行使するもので,権利濫用に当たる。
(2) 争点(1)イ(イ)(ルーマニアないし国家機関と関係があることを標榜し,かつてはミラージュ社の商品を輸入していた被告が,原告が同社の後身たるジェロヴィタール社から真正な商品を輸入する行為を差し止めることが権利濫用に当たるか否か)について 被告は,ジェロヴィタール商標を使用したサービス及び商品を提供する営業活動において,ジェロヴィタールがルーマニアの誇る著名な商標であり,またルーマニアの誇る著名な商品であること,被告はルーマニアと特殊な関係を有していることを強調してきた。
また,被告はそのような商品として,原告の輸入元であるミラージュ社の商品を過去において我が国で輸入,販売してきた。
そして,ジェロヴィタール社(ミラージュ社の後身)の商品が,その成分上真正な商品であるところ,被告がジェロヴィタールの真正な商品を製造するジェロヴィタール社から同商品を輸入,販売する原告に対し,上記輸入,販売行為を差し止め,同社の営業活動を妨害するような商標権行使をするのは,権利濫用に当たる。
(3) 争点(1)イ(ウ)(原告商品こそがジェロヴィタール商標を付して販売できる商品であることを熟知しながら,その輸入販売の差止めを求めることが権利濫用に当たるか否か)について アナ・アスラン博士の老化予防治療では,プロカイン,塩酸プロカイン(ノボカイン)及びその派生物質を含む薬剤を用いることが,基礎化粧品では同化学物質を成分に含むことがそれぞれ必要不可欠である。ルーマニアにおいてファーマク社に分割譲渡された商標の指定商品はノボカインを含む化粧品類に限定されており,その後ノボカインを化粧品に使用することが世界的に禁止されたので,ファーマク社はジェロヴィタール商標を正式には使用することができない。
しかるに,被告のジェロヴィタール化粧品には,同化学物質が成分に含まれておらず,ジェロヴィタール商標を付した商品の本質に反するもので,真正商品とは言い難い。
原告商品こそがジェロヴィタール商標を付して販売することができる商品であることを熟知しながら,被告が原告の輸入行為等を阻止するのは,権利濫用に当たる。
〔被告の主張〕 (1) 争点(1)イ(ア)(世界的に周知著名な商標と要部を同一にする本件商標について正当な権利者から許諾を受けることなく,虚偽の事実を主張して自己名義で取得した本件商標権を行使することが権利濫用に当たるか否か)について ア 商標の出願及び登録につき,第三者の承諾は要件とされていないし,商標権独立の原則の下では,先願主義をとる我が国では最初に出願した者が権利者であって,それ以外の真の権利者なるものは存在しない。
イ ジェロヴィタール商標は前記1〔被告の主張〕(1)のとおり,周知著名性を有しない。
(2) 争点(1)イ(イ)(ルーマニアないし国家機関と関係があることを標榜し,かつてはミラージュ社の商品を輸入していた被告が,原告が同社の後身たるジェロヴィタール社から真正な商品を輸入する行為を差し止めることが権利濫用に当たるか否か)について ア 被告が取引を開始したのは,ルーマニア側からの要望によるものである。
被告は,ルーマニアとの取引の促進及びルーマニアとの交流のために努力し,ルーマニア大使館を始めとするルーマニア側は,被告の活動を全面的にバックアップしていた。他方,被告もルーマニアを支援していたのであり,両者の間には強い信頼関係があった。被告がルーマニアからバックアップを受けていたことは事実であって,これを前提にして営業活動を行うことをもって権利濫用ということはできない。
もっとも,現在では,被告は,ルーマニアと特別な関係があることを標榜して取引を行っていない。
イ 被告が過去にミラージュ社の商品を取り扱っていたことから,被告の原告に対する輸入,販売行為の差止めが権利濫用になることはない。
ミラージュ社は,被告と7年間にわたって取引し,その間被告が本件各商標権を保有することを容認していた。
ウ 化粧品の成分は,商標権の有効性や,商標権行使が権利濫用に当たるか否かという問題とは無関係である。
エ 被告が告知した事実は真実であり,商標権の正当な行使である。
オ 商標権は出所表示機能及び品質保証機能を有するが,被告は,ミラージュ社の商品の品質が不良で,再三の改善申入れ,具体的提案を行ったにもかかわらず事態が改善しなかったため,同社との取引を打ち切ったものである。ジェロヴィタール社の商品には,被告の品質管理が及び得ない状況にあるから,被告が本件各商標権の品質保証を確保すべく,同社の商品を輸入,販売する原告の行為を差し止めることは,権利の濫用に当たらない。
カ ジェロヴィタール社は,本件各商標と同一又は類似の商標を用いずに商品を我が国に輸出,販売することが可能なのであって,本件各商標権の存在が原告の営業活動を不当に妨害することはない。たとえかつての輸入元からの輸入行為であったとしても,それを差し止めることは正当な権利行使である。
(3) 争点(1)イ(ウ)(原告商品こそがジェロヴィタール商標を付して販売できる商品であることを熟知しながら,その輸入販売の差止めを求めることが権利濫用に当たるか否か)について ア 原告が輸入,販売する商品こそがジェロヴィタール商標を付して販売できる真の商品であることも,被告がかかる事実を認識していたこともない。
イ ファーマク社の成分に関する主張の当否の問題は,ルーマニアにおいて解決すべき問題であって,本件訴訟とは無関係である。
商品の成分は,商標権の有効性の問題とも,商標権行使が権利濫用に当たるか否かの問題とも関係がない。
ウ ジェロヴィタール社は,1999年,ファーマク社に対し,ルーマニアにおける商標権侵害を止めなければ刑事告訴する旨の通告書を送付した。ファーマク社はその後も従前同様ジェロヴィタール商品を生産していたのに,ジェロヴィタール社からは刑事告訴されなかった。
ところが,我が国における訴訟手続において,裁判所がルーマニアにおける刑事告発の様子を問い合わせたところ,ジェロヴィタール社はファーマク社に対して刑事告訴を行った。
ジェロヴィタール社のファーマク社に対する商標権侵害を理由とする刑事告訴には,実体法上の理由も,手続法上の理由もない。
ルーマニア商標法においては,商標権侵害は親告罪とされ,告訴期間は被害者が加害者を知ってから2か月間であるところ,ジェロヴィタール社がファーマク社に通告書を送付してから告訴期間が徒過していることは明らかである。
ジェロヴィタール社の刑事告訴は,ファーマク社が商標権侵害行為を行っているかのような印象を我が国の裁判所に与え,これにより本件訴訟を有利に進行させようとするための演出にすぎない。
5 争点(2)ア(被告の告知・流布行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に当たるか否か)について 〔原告の主張〕 (1) 被告の告知行為 ア 被告は,平成15年5月21日,原告商品を紹介したBに対し,商標権侵害の事実を通知し,法的措置をとることがある旨を通告した。
イ 被告は,株式会社小学館に対し,同社が発行する雑誌「美的」平成15年7月号中の記事では「ルーマニア国営ブランド”GEROVITAL”の化粧品」とのみ記載され,被告の商標権侵害とは評価し得ないのに,平成15年5月30日付けの通知書で,ジェロヴィタールH3の標章が付された化粧品に関する記事が雑誌に掲載されたことを指摘し,同雑誌を回収する等の措置が講じられない場合には法的措置をとる可能性がある旨を通告した。
ウ 被告は,平成15年6月24日,共同PR株式会社に対し,GOTに対して商標権侵害を理由に訴訟を提起中である旨を通知し,また共同PR株式会社が原告商品を広告する場合には被告に対する商標権侵害となり,同社に対する訴訟提起をすることがある旨を通告した。
エ 被告は,平成15年6月26日,株式会社テレビ東京に対し,原告が被告の商標権を侵害しており,東京地方裁判所に対して告訴中である旨を通告した。
(2) 被告の流布行為 被告は,そのホームページ中に,原告は「勝手にジェロヴィタールH3と称して輸入販売し,(中略)自分達が総代理店だ,正規代理店だと言っています。
当社の商品を扱いたいからと来て資料,製品その他を受け取り,その後商標権侵害行為を行っています。東京地方裁判所民事47部において平成15年4月16日付にて現在商標侵害で告訴中です。」,「こうした消費者を欺く行為が(中略)当社の信用を失墜させ,長年に渡ってお力添えを下さったルーマニアの諸関係者に対しても多大のご迷惑をかけることは明らかです。」旨を掲載した。
(3) 被告は,原告商品を譲渡し,引き渡し,又はそのために展示する者や,関係者一般(これには,原告商品を単に使用して美容技術を施す小規模な美容院などの広い範囲の者が含まれる。)に対して,前記(1)(2)のとおり通知書を送付し,またホームページに広告するなどして,原告及びその関係者が本件各商標権を侵害し,これを継続すると差止請求,損害賠償請求等の訴訟を提起する可能性があることを執拗に通告している。これにより,被告は,被通告者を萎縮させ,原告商品の取扱いを継続すると訴訟を提起すると圧力をかけて,原告商品の取扱い,宣伝を阻止し,原告の営業を妨害している。
原告は,本件各商標権を実質的に侵害していないのであるから,被告の通告行為は虚偽の事実の告知に,かかる通告内容をホームページに掲載することは虚偽の事実の流布に,それぞれ該当する。商標権の侵害の有無について判断能力,判断手段を欠く者にまで広く差止請求,損害賠償請求の訴訟の可能性を表明することは,「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」に当たり,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為である。
〔被告の主張〕 被告は本件各商標権の権利者であって,権利を侵害する者に対して差止請求,損害賠償請求の予告をすることは何ら非難に値せず,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為ではない。
6 争点(2)イ(不正競争行為による損害の有無及び額)について 〔原告の主張〕 原告は,その商品を販売すべく種々努力してきたが,原告が通告行為を行ったため,原告標章を使用した商品の販売,広告が予定どおりできなかった。
すなわち,原告商品の月間売上高は,平成15年11月には1576万円に達していたが,被告が警告書を送付するたびに取引先を失い,平成15年12月から平成16年5月には月間売上高が400万円前後に激減した。被告の営業妨害行為がなければ,原告は少なくとも1500万円の月間売上高を確保できたから,平成15年12月から平成16年5月の間だけをとってみても,原告の経済的逸失利益は約6500万円を下らない。
そこで,その一部3000万円について賠償を求める。
〔被告の主張〕 争う。
7 争点(3)ア(謝罪広告の必要性)について 〔被告の主張〕 原告は被告を商標権者と認識し,一時は被告を経由して商品を販売することを企図していたにもかかわらず,被告の許諾を得ることなく原告商品を輸入,販売しており,極めて悪質である。のみならず,原告は,かかる輸入,販売に当たって大々的に記者会見を行い,ルーマニア政府をして,在日大使館宛に被告の営業活動を妨害する文書を送付させたり,被告の商品が真正商品でないかのような虚偽の事実を記載した文書を頒布したり,輸入元のファーマク社がジェロヴィタール化粧品を製造できないなどと虚偽の事実を公表したりして,被告の業務上の信用を著しく害している。
被告の業務上の信用を回復するためには,侵害行為の差止めのみでは不十分であり,原告による謝罪広告が必要である。
〔原告の主張〕 争う。
原告商品の輸入,販売行為は被告の本件各商標権を侵害しないが,原告の記者会見は,原告が真の権利者から真正商品を輸入,販売することを発表したものにすぎない。
ルーマニア政府が在日大使館に送付した文書は同政府の公式見解で,事実を記載したものにすぎず,被告の営業活動を妨害するものではない。また,ファーマク社がジェロヴィタールブランドの化粧品を製造できないことは事実であって,被告の業務上の信用を損なうものではない。
8 争点(3)イ(商標権侵害による損害の有無及び額)について 〔被告の主張〕 (1) 商標法38条1項に基づく損害 ア 商標法38条1項の適用について (ア) 市場代替性の問題は,市場機会の損失の有無の問題であって,当該侵害行為がなければ商標権者が自己の商品を販売できたか否かを需要者の視点から判断すれば足りるものである。
真正商品と侵害商品とが市場において全く同一物であることはあり得ないのであって,商品の性能,効能,販売方法,販売活動,広告活動,価格等を考慮する必要はない。これらの些末な要素を考慮するときは,商標法38条1項の規定は無意味になる。
(イ) 被告が輸入販売しているジェロヴィタール化粧品(以下「被告商品」という。)と原告商品とは,次のとおり,市場における代替性がある。なお,被告商品と原告商品とでは,美容室ピュアノアにおいて現実に混同を来した。
a 被告商品も原告商品も基礎化粧品である。
b 被告商品と原告商品とでは,市場及び需要者が,一般の化粧品消費者,美容室,エステティックサロンなどであり,市場において競合するものである。なお,被告は,美容院や大手百貨店向けに特別な仕様を施しているわけではない。
c 被告商品にはジェロヴィタール商標が付されているほか,被告の名称が記載されており,原告商品には上記商標と類似の標章が付されている。
d 我が国の市場におけるルーマニア製の化粧品は,被告商品と原告商品のみである。
e 被告商品も原告商品も,老化防止を目的とする商品であって,その品質,種類に決定的な差異はない。
(ウ) よって,被告は,商標法38条1項に基づく損害を主張する。
イ 被告の限界利益 被告の平成15年度(平成14年11月1日ないし平成15年10月31日)及び同16年度(平成15年11月1日ないし平成16年10月31日)における化粧品に関する変動経費の合計額は,別表2(販売費及び一般管理費計算表)の各「化粧品変動経費合計額」欄記載のとおり,平成15年度は2143万7802円,同16年度は2960万6248円である。
よって,これらの期間における限界利益率は,別表3(限界利益率計算表)の各「限界利益率」欄記載のとおり,平成15年度は55.01パーセント,同16年度は41.26パーセントとなる。したがって,平成15年度と同16年度を通じて算出した被告商品に関する平均限界利益率は48.14パーセントとなる(小数点第3位以下四捨五入)。
被告商品の譲渡価格は,譲渡数量に応じて変動するので,被告商品ごとの売上高合計を譲渡数量で除して計算すると,被告商品の譲渡単価は,別表4(譲渡単価計算表)の「譲渡単価」欄記載のとおりであり,被告商品の種別に応じた商品1個当たりの限界利益額は,別表5(限界利益額計算表)の「1個当たり限界利益額・被告主張」欄記載のとおりとなる。
原告商品の譲渡数量を,対応する被告商品の種類及び容量に応じ,被告商品1個分の容量当たりの数量に引き直して算出すると,別表1(譲渡数量計算表)の「被告商品1個分の容量当たりの原告の譲渡数量」欄記載のとおりとなる。
ウ 被告の損害 前記イの計算結果を用いてセルライトクリーム以外の化粧品につき,原告の輸入,販売行為によって被告が受けた損害を算出すると,別表6(損害額計算表)の(1)記載の「合計・被告の主張」欄のとおり,合計2199万0641円となる。
セルライトクリームについては,被告商品にはこれに厳密に対応するものがないが,同商品につき被告が原告にライセンスを行ったと仮定した場合,ロイヤリティ率相当割合は10パーセントを下らない。そうすると,原告のセルライトクリームの輸入,販売によって生じた被告の損害は,譲渡単価である1万7500円に譲渡数量である500個及び上記割合を乗じたロイヤリティ相当額87万5000円を下らない。
したがって,原告商品の輸入,販売行為によって被告に生じた損害は,これらの合計額である2286万5641円を下らない。
被告は,このうち2172万4684円を請求する。
(2) 弁護士費用 そして,被告は,原告の商標権侵害行為に対応するために弁護士に訴訟追行を委任せざるを得なかったが,この弁護士費用相当額は500万円を下らない。
(3) 原告の主張に対する反論 ア 商標法38条1項の適用について (ア) プロカインを含む化粧品を我が国に輸入することはできないから,プロカインを含まないことを理由に市場代替性を否定することはできない。原告のいうプロカイン誘導体は,輸入禁止成分であるか,有効性のない成分である。
(イ) 被告商品と原告商品との価格差は市場や需要者を異にするほどの決定的なものではないし,両者の間では利益率が異なるにすぎない。
(ウ) 真正商品と侵害商品とで販売系列が異なるのは当然であり,具体的な販売代理店や購入者まで同一である必要はない。なお,被告の販売代理店は原告の主張する2社のみではない。
イ 限界利益の算定について (ア) 設備費,人件費 被告は20年以上にわたって営業活動を行っており,新規参入者である原告のような抜本的な設備投資,人員拡充は不要である。被告の従業員の員数は役員を含めて6名程度にすぎず,人件費はすべて固定費である。
(イ) 広告宣伝費 新規事業を立ち上げる際に多額の初期投資を要するのは当然である。
被告は20年以上にわたって営業活動を行っており,新規参入者である原告のような多額の広告宣伝費の出費は必要でない。
原告が行う広告宣伝行為や商品説明行為等は被告の商標権を侵害する行為にすぎない。
ウ 商標法38条1項ただし書の適用はない。
〔原告の主張〕 (1) 商標法38条1項の適用がないこと 商標法38条1項所定の「商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた」に当たるか否かは,商標権者が侵害品と同一の商品を販売しているか否か,販売の態様はどのようなものであるか,当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して決すべきである。
そうすると,次のとおり,市場において補完関係がないから,商標法38条1項の適用はない。
ア ジェロヴィタール商標は,ルーマニアでアナ・アスラン博士が開発した老化予防薬,化粧品として需要者の間で認識されており,被告の業務上の信用は化体されていない。
イ 被告が販売する化粧品は,原告が販売する化粧品とは,重要な有効成分であるプロカイン誘導体を含有するか否かの点において相違する。
老化予防,治療薬であるジェロヴィタール治療薬,治療方法においては,プロカインが薬効として不可欠な基本的物質であり,ジェロヴィタール治療薬,治療法から発展したジェロヴィタール化粧品においてもプロカインないしその誘導体が不可欠な有効成分である。化粧品においては,プロカインの使用は禁止されているので,原告商品にはその誘導体が含有されている。
これに対して,被告商品は,プロカインはもちろん,その誘導体も含有していないから,原告商品と有効成分が異なり,両者は市場において競合していない。
なお,被告のナリシングクリームに使用されている商標は「gerovital plant」であり,同商品はアナ・アスラン博士が開発した商品とは無関係である。被告のナリシングクリームは原告のナイトクリーム及びリンクルクリームとは,性質,目的,機能を異にし,両者は対応しない。
そうすると,市場における競合を前提とする商標法38条1項の適用はない。
ウ 原告商品と被告商品とでは,クレンジングミルクでは価格差が小さいが,対応関係のない原告のトニックローションと被告のフェイスローションとでは価格差が大きい。
原告商品と被告商品とでは,容器外観のデザイン,材質など,購買意欲を刺激する要素が大きく異なる。
エ 原告商品は,パル興商株式会社等の卸代理店を経由して系列下の美容院に対して販売されるほか,大手百貨店,化粧品店あるいは通信販売において一般の消費者に対し販売される。また,原告は,契約社員を通じて化粧品の品質,機能,成分,使用方法,由縁,歴史などに関する各種情報を販売先に提供して,化粧品の販売に至るまでの指導を行っている。
他方,被告は,代理店の系列下にある美容院に対して販売され,原告とは販売先が異なる。そして,被告は系列下の有限会社ジェロビタール及び有限会社ジェロビタールジャパンの2つの卸代理店に化粧品を販売するに止まっており,それ以上の営業活動を行っていない。
そうすると,原告商品と被告商品とでは,対象とする市場,需要者,営業活動の範囲が異なり,市場における補完関係がない。
オ 原告の多大な費用を投じた宣伝広告により,被告の売上げは増加したはずで,原告の販売行為に基づく被告の売上減は存しない。
(2) 仮に,商標法38条1項が適用されるとしても,被告の主張は根拠を欠く。
ア 限界利益について (ア) 人件費について 被告は旅行,GH3カプセル,GH 3プロポリス,化粧品を販売しているが,旅行及びGH3プロポリスについては利益が生じていない。GH 3カプセルも総売上高の3パーセントを占めるにすぎない副次的な商品である。したがって,被告の売上げのほとんどは化粧品の販売によるものであって,被告の人的,物的な投資はそのほぼすべてが化粧品の販売のためにされたものである。
原告が行っているのは高級化粧品の販売であって,単に製造,輸入された商品を右から左に流すのではなく,専門の営業担当者を雇用し,この営業担当者を統括する人材を配置するなど,人的な販売体制を確保することが必要不可欠である。
そうすると,給与手当,退職金,法定福利費,福利厚生費,雑給,業務委託費等の人件費はいずれも被告が化粧品を販売するために必要不可欠な人的投資であって,変動経費に当たる。
(イ) 租税公課,修繕費,減価償却費,顧問料,リース料についても,これらが固定費であることは明らかでなく,変動経費として売上高から控除すべきである。
(ウ) 広告宣伝費が変動経費に当たることは当然である。
被告が2年間に費やした広告宣伝費は188万円で,従前の売上げを維持できる程度のものにすぎない。この程度の出費では,原告販売分まで高級化粧品の売上げを伸ばすことは不可能である。被告が原告販売分まで売上げを伸ばすためには,原告が出費した広告宣伝費1441万円と同程度の広告宣伝費を支出する必要があった。
したがって,限界利益の計算においても,この程度の広告宣伝費の支出が必要であったことを考慮すべきである。
(エ) 以上によれば,被告の限界利益率はたかだか10パーセント程度である。
イ 売上高等について 有限会社ジェロビタール及び有限会社ジェロビタールジャパンに対する被告商品の卸価格は定価の30パーセントであったところ,被告の主張する売上高に従うとこれらの卸代理店に対する卸価格は定価の約35.38パーセントにも上るから,被告の主張する売上高,譲渡数量は信用できない。
(3) 商標法38条1項ただし書について 仮に,商標法38条1項が適用されるとしても,次の理由で,本件では同項ただし書にいう「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を商標権者(中略)が販売することができないとする事情」が認められるべきであり,当該事情に相当する数量に応じた額を控除すべきである。
ア 原告は,美容院,美容室,百貨店,化粧品店等に訓練した契約社員を派遣し,原告商品の歴史,成分等の仕様の説明,使用方法の指導等を個別具体的に実施している。原告商品のような高級化粧品では,種々の異なる用途,性質を有する商品を消費者において適切に使用してもらうため,原告が支出したのと同程度の人件費を支出することが必要である。
また,原告は,その化粧品の容器を消費者の購入意欲を刺激するものにしている。
また,原告商品のような高級化粧品においては,原告が現に支出した広告宣伝費1441万円と同程度の多額の広告宣伝費を支出することが必要である。
このように,原告商品の販売には,人件費,広告宣伝費その他の費用を支出し,追加の労力をかけることが必要となる。
イ 原告商品と被告商品とでは,その成分,性能,効用,価格が異なる。
ウ 原告商品の販売先,販売方法と被告商品のそれとは異なるから,両者間では対象とする市場,需要者が相違する。
9 争点(4)ア(不当訴訟の成否)について 〔被告の主張〕 原告は,ジェロヴィタール社からの化粧品の輸入を開始する前,被告の本件各商標権を認識していたから,原告標章を使用して化粧品を輸入,販売することが被告の本件各商標権の侵害であることを認識していた。
このように,原告は,従前のミラージュ社と被告との間の取引,被告の営業活動,本件各商標権や本訴提起に法律的理由があるか否かを慎重に検討すれば,本訴提起を回避し得た。にもかかわらず,事実上又は法律上の根拠を欠くことを認識しつつ本訴を提起したものであって,本訴は不当訴訟であり不法行為に該当する。
なお,GOTが被告から仮処分の申立てを受けたとしても,原告は仮処分の債務者となっておらず,効力が及ぶものではないから,裁判制度の趣旨,目的に照らして著しく相当性を欠く法律的,事実的基礎を欠く本訴提起が適法となるものではない。
〔原告の主張〕 原告は権利濫用の主張の根拠を十分に特定しており,主張も書証等の裏付けに基づいて行われている。
10 争点(4)イ(不当訴訟による損害の有無及び額)について 〔被告の主張〕 原告の本訴提起により,被告は訴訟追行に時間を費やさざるを得なかったが,これに要した作業時間の対価,交通費その他の費用,業務に従事できなかったことによる逸失利益,訴え提起による傘下の代理店その他の取引先に対する営業上の信用の低下,応訴のための弁護士費用等を勘案すると,被告が本訴提起により被った損害は,500万円を下らない。
〔原告の主張〕 争う。
当裁判所の判断
1 前記争いのない事実等及び証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1) GEROVITAL H3に関する商品の開発 ア 「GEROVITAL H3」医薬品の誕生 アナ・アスラン博士は,1897年にルーマニアのブライラで生まれ,同国の国立ブカレスト医科薬科大学を卒業後,1924年には医学博士号を,1961年には理学博士号をそれぞれ取得し,老人医学,内科学,心臓学を専攻しており,1974年にルーマニアの国立アカデミー会員となったが,1988年5月19日に死亡した。
アナ・アスラン博士は,1946年,フリーアミノグループを有するアミノ安息香酸塩の一種であるプロカインの迷走神経に対する作用について研究発表し,その後に同剤が関節炎などに有効であることの知見を得て,1951年から臨床実験を開始し,1952年には老化予防・治療プログラムを確立し,同年に設立された同国の国立老人医学研究所の所長に就任し,1956年にはスイスの国際会議で研究成果を発表した。アナ・アスラン博士は,この研究の結果,開発した老化予防・治療薬に「GEROVITAL H3」と名付け,1957年にルーマニア厚生省から認可を取得した。なお,1979年当時,同薬はノルウェー等の多数の国々で認可を受けるに至っていた。
なお,同薬の名称のうち「GERO」はラテン語で「老いる」を,「VITAL」は「生命(力),活力」をそれぞれ意味し,両者で「老いに活力を与える」ことを意味しており,また「H3」はビタミン類似の種々の効果を暗示しているものである(甲11,16,40,41,98,103,189,乙3,50,弁論の全趣旨)。
イ 「GEROVITAL H3」を使用した化粧品 アナ・アスラン博士は,「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品を開発し,1960年代後半ころから,マクロース社(MACUL ROSU,後のジェロヴィタール社)が製造を開始した。なお,Aがルーマニアを訪問した1978年ころには,ミラージュ社(現在のジェロヴィタール社)とファーマク社がジェロヴィタール化粧品を製造していた。
「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品は,当初はルーマニア国内で販売されていたが,1968年ころからは,オランダ,ユーゴスラビア,イギリス,スイス,イタリア及びリベリア等に輸出されるようになった(甲137,乙32,弁論の全趣旨)。
(2) ルーマニアにおける商標権 ア 1966年当時は,ルーマニアは共産主義・社会主義下にあって,すべての商標権は同国の国家機関が所有していた。別紙ジェロヴィタール商標目録記載1の商標については,当初は,同国の国家機関であるミニステラル インダストリエ アリメンタル(Ministerul Industrier Alimentare)の下にあるディレクティア ジェネララ デ アプロヴィジオナレ シ デスファセレ(Directia Generala De Aprovizionale Si Defacere。食品産業省供給販売局)が商標権者であった。その後,同国の医薬品,化粧品及び塗料中央工業省であるセントララ インダストリアラ ド メディカメンテ,コスメティセ,コロランティ シ ラクーリ(Centrala Industriala Medicamente, Cosmetice, Coloranti si Lacuri。以下「CIMCCL」という。)に上記商標権が移転された(甲31,乙13,14,弁論の全趣旨)。
イ その後,上記商標権は,ルーマニアの商事会社イメコ エス エー(IMECO S.A.)に移転され,同社は,1992年2月21日,同商標権につき,ミラージュ社(現在のジェロヴィタール社)及びファーマク社に対して,次のとおり両社が提供する商品又はサービスをグループ分けして,それぞれ100万ルーマニアレイの対価で分割譲渡し,その後ルーマニアの国家発明商標局においてその旨の登録がされた(甲83,乙14ないし16,25,26)。
(ア) ミラージュ社が提供する商品又はサービス(第3類) メークアップ除去乳液,トニックローション,油肌用デイクリーム,乾燥肌用デイクリーム,ナイトクリーム,マッサージクリーム,乾燥防止アイクリーム,フェイスマスク,ハンドクリーム,ヘアローション,ボディエマルジョン(乳液),硫黄及びタールシャンプー,抗蜂巣炎クリーム,ヘアコンディショナー,すべて処方にノボカイン又はノボカインの加水分解誘導体を含む製品 (イ) ファーマク社が提供する商品又はサービス(第3類) 処方にノボカインを含む油性クリーム,ハーフ油性クリーム,ボディエマルジョン(乳液) (3) 各国におけるジェロヴィタール商標の登録状況 ジェロヴィタール商標は,各国で,以下のとおり登録されている。
ア 次の国等では,ジェロヴィタール社とファーマク社が,ジェロヴィタール商標について,ともに権利を有している。
(ア) 世界知的財産所有機関(OMPI(WIPO))(甲15,19,乙45) 登録年月日 1966年8月18日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載2のとおり 指定商品 頭髪用ローション及び化粧品(第3類) 1992年8月17日,イメコ エス エーからの分割譲渡により,ミラージュ社が「第3類 頭髪用ローション,美容クリーム及び体用乳液」を指定商品とし,ファーマク社が「第3類 ノボカインベースの化粧品」を指定商品とする登録がされた。
(イ) ギリシャ共和国(乙47の1) ジェロヴィタール社は,ファーマク社とともに,「GEROVITAL H3 Prof. Dr. Aslan and device」の商標につき登録を受けている。
イ ジェロヴィタール社は,次の国等で,ジェロヴィタール商標の登録を受けている。
(ア) 欧州共同体商標庁(甲20) 登録年月日 2001年1月5日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載3のとおり 指定商品・役務 第3類 クレンジングミルク,トニックローション,オイリー肌用保湿デイクリーム,乾燥肌用保湿デイクリーム,ナリッシングナイトクリーム,マッサージクリーム,スージングアイクリーム,ビューティーマスク,ハンドクリーム,ヘアローション,ボディミルク,抗セルライトクリーム,イオウ及びタールベースのシャンプー,ヘアバルサム,バスジェル,しわ防止クリーム,組織化された塩化水素プロカインまたは塩化水素プロカインの加水分解物から生じる副生物を含むこれら全ての製品及び第42類 特別な施術者により施される美容室サービス;コスメトロジー研究サービス (イ) カナダ(甲21) 出願年月日 1994年10月19日 商標 「GEROVITAL H3」及び図形 (ウ) 大韓民国(甲22) 登録年月日 1995年11月23日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載4のとおり 分類 第12類 指定商品 オイリー肌用クレンジングミルク及びその他の29商品 (エ) アメリカ合衆国(甲23) 登録年月日 1997年1月14日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載5のとおり 国際分類 第3類 指定商品 クレンジングミルク,トニックローション,オイリー肌用デイクリーム,乾燥肌用デイクリーム,ナイトクリーム,マッサージクリーム,保湿アイクリーム,フェイスマスク,ハンドクリーム,ヘアローション,ボディミルク,イオウ及びタールシャンプー,抗セルライトクリーム,ヘアコンディショナー (オ) レバノン共和国(甲24) 出願年月日 1993年5月13日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載6のとおり 指定商品 石鹸,香料,精油,化粧品,シャンプー及びバルサム(第3類) (カ) オーストラリア連邦(登録時の権利者はCIMCCLであり,その後ミラージュ社へ譲渡された。甲25) 登録年月日 1982年6月15日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載2のとおり 指定商品 化粧品及び初老の人々に使用されるヘアローション及び第3類に属する商品 (キ) スウェーデン王国(甲26) 登録年月日 1996年8月16日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載6のとおり 指定商品 国際分類3類 化粧品 (ク) 南アフリカ共和国(甲27) 登録年月日 1994年8月30日 商標 「GEROVITAL H-3」 指定商品 第3類 油肌用クレンジングミルク,乾燥肌用クレンジングミルク,油肌用トニックローション,乾燥肌用トニックローション,油肌用乾燥防止デイクリーム,乾燥肌用乾燥防止デイクリーム等 (ケ) エクアドル共和国(甲29) 登録年月日 1995年1月20日 商標 「GEROVITAL H3 Prof. Dr. A. Aslan」 指定商品 国際分類3類 化粧品 (コ) フィンランド共和国(甲30) 登録年月日 1994年5月20日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載6のとおり 指定商品 国際分類3類 ウ ファーマク社は,次の各国でジェロヴィタール商標の登録を受けている。
(ア) デンマーク王国(乙47の3) 登録年月日 1996年9月6日 商標 「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」及び図形 指定商品 分類3類 フェイスクリーム,モイスチャークリーム,ボディーローション,フェイスローション (イ) レバノン共和国(乙47の4) 出願年月日 1999年6月1日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載7のとおり 指定商品 化粧品(第3類) (ウ) ヨルダン・ハシェミット王国(乙47の6) 出願年月日 2000年7月23日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載2のとおり 区分 第3類 指定商品 化粧品,すなわちフェイス及びボディークリーム,グリーシー・クリーム,ハーフ・グリーシー・クリーム,ボディー・エマルジョン,ボディー・ローション,クレンジング・ミルク,フェイス・ローション,モイスチャリング・クリーム,コンター・アイ・クリーム,フェイス・マスク,ハンド・クリーム並びにアナ・アスラン博士オリジナル製剤処方のヘア・ローション製品 (エ) パレスチナ国家機関(乙47の7) 出願年月日 2000年8月21日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載2のとおり 指定商品 第3類 (オ) アラブ首長国連邦(乙47の8) 登録年月日 2001年8月5日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載2のとおり 指定商品 第3類 化粧品,すなわちフェイス及びボディークリーム,グリーシークリーム,ハーフ・グリーシークリーム,ボディー・エマルジョン,ボディー・ローション,クレンジング・ミルク,フェイス・ローション,モイスチャリング・クリーム,コンター・アイ・クリーム,フェイス・マスク,ハンド・クリーム並びにアナ・アスラン博士オリジナル製剤処方のヘア・ローション製品 エ このように,ジェロヴィタール社及びファーマク社は,各国において,その一方又は双方が指定商品を分割するなどしてジェロヴィタール商標を商標登録しているが,商標権を有する者がその国において販売を行っていた(乙30,弁論の全趣旨)。
(4) 我が国におけるジェロビタール商標の登録状況 ア 我が国における先行商標 ルーマニアのファブリカ・ド・メディカメンテ 「フィオラ」は,我が国において,次の商標権(以下「CIMCCL商標権」という。)を有していた(甲33の1及び2)。
登録番号 第0596564号 出願日 昭和35年5月27日 登録日 昭和37年9月11日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載8のとおり 商品の区分 旧第1類 指定商品 プロカイン酸,その他の化学品の滋養強壮剤,老年障害,その他脳動脈及び抹消動脈硬化症,高齢パーキンソン症,脳痙れん,後遺半身不随続発症,神経痛,神経炎,変性リユーマチス,狭心症,心筋梗塞症の続発症,動脈炎,アクロチアノーゼ,皮膚栄養不良,高齢ケラトシス,白斑,乾癬,湿疹,たい蘚フラナス,硬皮症栄養潰瘍,毛及び爪の栄養不良,胃及び十二脂腸潰瘍,気管支喘息等の栄養障害又は精神的若しくは肉体的虚弱に対する治療及び防止用薬剤,その他の薬剤及び医療補助品 昭和43年3月1日にファブリカ・ド・メディカメンテ 「フィオラ」と合併したCIMCCLは,CIMCCL商標権を承継し,昭和47年5月22日,同商標権について更新登録の出願をしたが,一旦は特許庁から登録を拒絶する旨の査定がされた。そして,昭和51年6月14日,同商標権につきCIMCCLを権利者とする登録がされた後,同年10月7日,更新登録をすべき旨の査定がされて,昭和52年1月18日,同商標権について更新登録がされた。
しかし,CIMCCL商標権は,昭和57年9月11日に存続期間が満了したことにより,同年12月10日,その登録を抹消された(甲33の1及び3)。
イ 被告の関連する商標登録 被告は,本件商標1と同一の称呼を生じる次の2つの商標につき,次の商標権を有している(甲2の1及び2,甲3の1及び2)。
(ア)登録番号 第1713041号 出願年月日 昭和54年5月25日 出願番号 商願昭54-39409 登録年月日 昭和59年9月26日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載9のとおり 商品の区分 旧第29類 指定商品 茶,コーヒー,ココア,清涼飲料,果実飲料,氷 (イ) 登録番号 第1950211号 出願年月日 昭和54年5月25日 出願番号 商願昭54-39410 登録年月日 昭和62年4月30日 商標 別紙ジェロヴィタール商標目録記載9のとおり 商品の区分 旧第32類 指定商品 食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品(他の類に属するものを除く) (5) 本件商標登録に至る経緯 ア 被告の出願経緯 (ア) 被告代表者とアナ・アスラン博士との出会い等 a アナ・アスラン博士は,昭和52年に講演のために来日し,翌53年にも東京で開催された国際老年学会に出席するために来日した。被告代表者Aは,これらの際,報道カメラマンとして,アナ・アスラン博士に密着取材し,同博士と面識を持った(甲41,乙32,75,125)。
b Aは,昭和53年,ルーマニア観光省の招待を受けてルーマニアに赴き,当時アナ・アスラン博士が所長を務めていたルーマニア国立老人医学研究所などを視察した。そして,Aは,その際に視察したジェロヴィタールH3治療に興味を持ち,同年12月5日,ルーマニアのカルパチとの間で,ルーマニアのブカレスト所在のフローラホテルでジェロヴィタール治療薬等を用いて治療を行うパックツアーに関する契約を締結した(乙4,32,125)。
c Aは,昭和54年2月16日に被告を設立したが,被告の商号は,「Gerovital」の頭文字「G」と「H3」を片仮名で表記したものに「ルーマニア」を加えた「ジーエイチスリールーマニア」とされ,これは,ルーマニア観光省の関係者が命名したものであった。
被告は,同年3月から上記パックツアーを開始した(乙32,125)。
(イ) 被告のジェロヴィタール化粧品の輸入販売 a Aは,上記(ア)bのルーマニア国立老人医学研究所視察の際,アナ・アスラン博士から,ジェロヴィタール化粧品を日本に輸出できないかとの相談を受け,ルーマニア国立輸出入公団I.C.E. CHIMIMPORTEXPORT S.R.(以下「CHIMIMPORTEXPORT」という。)とジェロヴィタール化粧品の輸出について交渉し,その後,我が国の当時の厚生省の認可化粧品原料基準の原料成分のみで構成した化粧品を我が国に輸入することを合意した。
被告は,昭和55年5月10日,CHIMIMPORTEXPORTとの間で,CHIMIMPORTEXPORTが被告に対し輸入承認及び登録のために必要なドライ・デイ・クリーム等の成分処方及び分析方法に関する書類を引き渡すこと,被告は,厳重に秘密を保ち,日本での製品の承認を取得するために必要な試験を実施する目的及び販売の目的のみにこれらを使用することなどを内容とする秘密保持契約を締結した。
なお,このころ,Aは,CHIMIMPORTEXPORTの担当者から,ルーマニア側では我が国における商標権を取得する意思がなく,日本側で商標登録をして欲しい旨を告げられた(乙32,54,125)。
b 被告は,遅くとも昭和60年4月15日,薬事法22条に基づく化粧品輸入販売業の許可を受け,この許可は,その後も数次にわたって更新された。
許可品目は,フェイスクリーム,ヘアローションであり,その後フェイスマスクなどが順次追加された。
なお,被告は,遅くとも平成元年7月10日,医薬部外品の輸入販売業の許可を得,その後もこの許可の更新を受けている(乙6ないし10)。
c 被告は,昭和60年ころ,CHIMIMPORTEXPORTの後身であるルーマニア国立輸出入公団CHIMICAと輸入契約を締結して,ジェロヴィタール化粧品の輸入,販売を開始し,以後現在に至るまで同化粧品の輸入,販売を継続している(乙19,32)。なお,被告が昭和60年11月ころ及び61年ころにCHIMICAと交わした我が国向けのヘアローション及びフェイスクリームの輸入契約書では,被告がこれらの化粧品について唯一の販売代理店である旨が記されており,CHIMICAはこれらの日本向け化粧品につき被告を唯一の販売代理店であるとみなしていた(乙11,12)。
d 被告は,当初,CHIMICAを通じて,ミラージュ社(現在のジェロヴィタール社)のヘアーローション及びファーマク社のフェイスクリームを輸入し,後にミラージュ社のフェイスマスクを追加して輸入していたが,平成4年ころ以降はミラージュ社及びファーマク社から直接輸入するようになった。
さらに,被告は,ミラージュ社に対し,内容物の変質を避けるため,フェイスマスクについて容器をチューブ状のものに変更するよう申し入れたが,同社がこれに応じなかったり,ヘアローションの蓋の密閉度が悪く,輸送中の破損事故がたびたび発生し,被告が提供した部材を用いて解決したことがあったところ,このような状況の下で,平成9年ころにファーマク社から新しいジェロヴィタール化粧品の売り込みがあった際,ミラージュ社にフェイスマスクの容器の改良や化粧品の容器のデザインの変更に協力を求めたが,同社の協力が得られなかった。そのため,被告は,以後,ファーマク社からの輸入に絞ることにしたが,その後は製品の品質,クレーム処理,成分管理等の対応がスムーズかつ迅速になされるようになった。その後,被告は,ファーマク社から,他の種類の化粧品も輸入するようになった(乙7,8,10,32,125)。
イ 本件商標1の出願について (ア) 被告の本件商標1の登録出願及びこれに対する異議申立て 被告は,ジェロヴィタール化粧品の輸入をするに当たり,昭和54年に本件商標1につき,商標登録出願をした(商願昭54-21645)。
これに対し,CIMCCLは,昭和57年8月21日,特許庁に対し,同商標につき,登録異議を申し立てた。CIMCCLは,同年11月26日提出した商標登録異議申立理由補充書において,CIMCCLが前記(4)ア記載のCIMCCL商標権を有していることを援用した上,「GEROVITAL H3」は細胞活性剤として世界的に著名な薬品名であり,同社が有する上記登録商標と同一であるところ,登録を許すときは,商品の品質に関し,かかる世界的に著名な細胞活性剤を含有するかのような誤認を生じ,同社の世界的に著名な細胞活性剤と被告の商品とで出所の混同を生ずるおそれがあるなどと主張し,また商標法4条1項10号,15号,16号に違反すると主張した。
これに対し,被告は,本件商標1の登録出願時においてもなお著名であることを立証したものとは認められないと反論するとともに,事情として,@ 数年前にCHIMIMPORTEXPORTと化粧品(Gerovital Cosmetics)の輸入販売に関する代理店契約を結んだこと,A 出願人が,直接日本国内で,この化粧品についてGEROVITAL-H3の商標を用いて商標登録出願を受けるに必要なすべての参考資料の送付を受けることについて,CHIMIMPORTEXPORTとの間で同意書を取りかわしたこと,B 出願人においても本件出願の事実を先方に通知し,相互了解の下に行動していることを主張し(甲34の2),特許庁に対し,CHIMIMPORTEXPORTとの間の上記Aの同意書「秘密保管のための合意書」及びジェロヴィタールクリームの成分分析書の各写しを提出した。
特許庁は,昭和58年10月7日,CIMCCL商標が本件商標1の登録出願前から取引者,需要者の間に広く認識されているとは認め難く,商品の出所について混同を生じさせるおそれはないなどとして,CIMCCLの前記異議申立てには理由がないとの決定をした。
CIMCCLは,上記決定に対して不服申立てをせず,本件商標1が別紙商標権目録記載1のとおり登録された(甲34の1ないし3,弁論の全趣旨)。
(イ) なお,CIMCCLは,前記(ア)と同様に,昭和57年2月ころに前記(4)イ(ア)の商標について,同年10月ころに同(イ)の商標について,登録異議申立てをしたが,同様の理由で,申立てに理由がないとの決定がされ,特許庁の決定に対して不服申立てをせず,上記各商標は登録された(甲220,222,弁論の全趣旨)。
(ウ) ミラージュ社は,平成元年当時,被告が本件商標1及び2の登録を受けたことを知っていた(乙77の1)。
ウ 本件商標権4について 被告が,平成14年,本件商標4について出願し,別紙商標権目録記載4のとおり登録されたところ,シンガポール法人のシー・エス・ルイス(ピーティーイー)リミテッド(以下「CSLL」という。)は,特許庁に対し,登録異議の申立てをした。同社は,異議の理由として,@ CSLLが管理するシリーズ物語に登場する世界的に著名なキャラクターの名称を権利者に無断で登録することは公正な競業秩序を乱し,国際信義に反するもので商標法4条1項7号に該当すること,A CSLLの著名商標「ASLAN」(以下「CSLL商標」という。)を包含する商標を被告が採択,出願する行為に不正の目的があることは明らかであり,同項19号に該当すること,B CSLL商標は世界的に周知・著名であるところ,CSLL等の業務に係る商品等と本件商標4に係る業務に係る商品とが混同を生ずるおそれがあり,同項15号に該当することを主張した。
しかし,特許庁は,平成16年4月6日付で,CSLL商標が本件商標4の登録出願時に取引者,需要者の間に広く認識されていたものとする十分な証拠はないなどとして,上記@ないしBの主張を排斥し,登録を維持する旨の決定をした(乙53)。
(6) 原告の輸入販売行為 ア 原告とジェロヴィタール社との間の独占代理店契約 (ア) 原告の元代表取締役であったC(以下「C」という。)は,平成14年2月4日,顧問弁護士であるD弁護士から当時のルーマニア交流協会幹事長でありGOTの監査役であったE(以下「E」という。)を紹介され,Eからジェロヴィタール社の化粧品を我が国に輸入する事業を持ち掛けられた。Cは,その後,GOTの当時の代表取締役Fと面会したが,同人からも上記事業を勧められた。
他方,Eは,同年3月ころ,Aに対し,ジェロヴィタール化粧品の輸入の件について相談したが,Aは,被告が我が国における商標権を保有していることなどを説明し,逆に,被告商品を購入するよう勧誘した。
Cは,同年5月31日,Eらの説得に応じて,GOTの代表取締役に就任し,他方,Eは,同日,GOTの監査役を辞任した。
Eは,同年6月ころ,Aに対し,ジェロヴィタール社とCらが契約交渉を進めているが,被告の商標権が障害になって契約交渉が進行しない旨連絡した。Eは,同年6月11日,被告に対し,ジェロヴィタール社が被告を我が国における独占的輸入業者に指定すること,被告がGOTに対してジェロヴィタール社の商品を独占的に引き渡すこと,ジェロヴィタール社が原告を我が国における総代理店に指定し,GOTがジェロヴィタール商標を使用できることなどを内容とするジェロヴィタール社と被告及びGOTとの間の契約書の文案をファクシミリで送付し,契約締結を促した。しかし,Aは,Eに対し,上記契約締結を拒否し,被告から商品を仕入れて欲しい旨申し入れた。
被告は,Eからパンフレット等の送付を依頼されたので,E及び原告に対し,被告のパンフレット,被告商品一式を送付した。
被告は,同年7月31日,原告(当時の商号は株式会社ヴァリー・エントランス・プロダクション)の当時の取締役G(現在の代表取締役)から,被告商品等約33万円相当の注文を受けた。
原告と被告とは,その後,原告を被告の販売代理店とする契約の締結につき交渉していたが,同年9月27日ころ,契約締結を延期した(乙63,66ないし72,125)。
(イ) ジェロヴィタール社は,平成14年10月3日,GOT(当時の代表者はC)との間で,同月から3年間,ジェロヴィタール社が製造する化粧品をGOTに対し排他的に供給し,GOTが日本国内で独占的に同化粧品を販売する旨の独占販売代理店契約を締結した。上記契約においては,GOTが,ジェロヴィタール社が保有する「GEROVITAL H3 Prof.Dr.A.Aslan」の商標を日本国内で使用する権利を有すること,ジェロヴィタール社の商標権を侵害すると考えられる事実等が発覚した場合には,GOTは阻止又は対抗する措置をとること(第2章の3.)などが定められていた(甲14の1,弁論の全趣旨)。
(ウ) ジェロヴィタール社は,平成15年6月25日,原告との間で,上記(イ)の独占販売代理店契約の当事者をGOTから原告に変更する旨の独占販売代理店契約修正契約を締結した。この修正契約においては,ジェロヴィタール社が,指定商品を化粧品とする「GEROVITAL H3 Prof.Dr.A.Aslan」の商標を我が国で登録できるよう,原告が最善を尽くす旨(第2条)などが定められていた(甲14の2)。
(エ) ジェロヴィタール社は,平成15年5月6日,化粧品の関係先に対し,ジェロヴィタール社又はルーマニアにおける商標権の被承継人の承諾なしに我が国で商標権を取得した日本法人によって,我が国におけるジェロヴィタール社の商標使用が排除されてきており,ジェロヴィタール社は同法人の不法行為に対して徹底して争うことを決めた旨を通知するとともに,同年6月26日の記者会見の際に商標権問題について言及する予定である旨を通知した(乙65)。
原告は,このころ,ファーマク社の商標権は,プロカイン(ノボカイン)が原料として使用されることが指定商品の条件となっているが,プロカインは世界中で化粧品への使用が禁止されているから,ファーマク社はGEROVITALブランドの化粧品を製造できないことなどを表明した(乙64)。
イ 原告の商標登録出願等 (ア) 平成14年10月28日,GOTの当時の監査役であり原告の当時の取締役であったHは,別紙標章目録記載1-1の標章につき,指定商品(指定役務)の区分を第3類とし,指定商品(指定役務)を「家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,塗料用剥離剤,靴クリーム,靴墨,つや出し剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,つけづめ,つけまつ毛」とする商標登録出願をした(商願2002-095840。乙62の3,乙66の2,弁論の全趣旨)。
(イ) 原告は,その後,上記出願に基づく権利をHから承継し,特許庁に対し,平成15年5月14日にその旨を届け出た。しかし,同年7月23日付けで,上記商標が本件商標1,2及び4等の商標と同一又は類似であって,その商標に係る指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)について使用されるものであるから,商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた(乙62の1及び2,弁論の全趣旨)。
ウ 原告商品の輸入販売等 原告は,平成15年2月,ジェロヴィタール社から原告標章を付した化粧品(クレンジングミルク,トニックローション,ナイトクリーム,リンクルクリーム,デイクリーム,アイクリーム)を輸入し,国内での販売を開始し,さらに平成15年6月26日,「『ジェロヴィタール コスメティックス』 日本での本格展開に関する記者発表会」を行い,本格的にその販売を開始した。その後,原告は,ジェロヴィタール社から原告標章を付したヘアローション及びセルライトクリームも輸入し,国内で販売した(甲84,227,240,乙57ないし60)。
原告が輸入した原告商品の個数は,別表1(譲渡数量計算表)の「輸入数量」欄記載のとおりであり,譲渡した原告商品の個数は,同表の「譲渡数量」欄記載のとおりである。
(7) 被告の対応 ア 仮処分命令申立て 前記第2の1(6)アのとおり,被告は,平成15年4月16日,東京地方裁判所に対し,GOTを相手方として,本件各商標権等に基づく差止めの仮処分命令を申し立てたが(当庁平成15年(ヨ)第22040号事件),同年10月27日,同事件は和解により終了した。
また,被告は,同年11月17日,東京地方裁判所に対し,原告を相手方として,本件各商標権等に基づく仮処分命令を申し立てたが(当庁平成15年(ヨ)第22082号事件),平成16年6月1日,同申立てを取り下げた。
イ 告知・流布行為 (ア) 被告は,平成15年6月24日,内容証明郵便により,当時原告の広告を担当していた共同PR株式会社に対し,GOTと本件商標権1及び2の侵害に関して法的紛争中であること,相手方も原告及びGOTの行為が被告の商標権を侵害しないように十分に注意して欲しいこと,相手方が慎重な対応をせず,被告の商標権が侵害されたときは,相手方に対して差止請求及び損害賠償請求の法的措置をとる可能性があること等を通告し,本件商標1及び2に係る商標公報及び商標登録原簿の各写しを送付した(甲46)。
(イ) 株式会社テレビ東京が,平成15年6月26日,原告の新商品発表会を取材する予定であったところ,被告は,同社に対し,同日,ファクシミリにより,東京地方裁判所において原告との間で本件商標権1等について仮処分事件が係属していること,原告及びGOTが商標権侵害をしているので十分に注意し,慎重な対応をするよう通告した(甲47)。
(ウ) 株式会社小学館が,雑誌「美的」2003年7月号に原告商品を使用するエステサロン「ヴァルモン青山」の紹介記事を掲載したところ,被告は,同社に対し,平成15年6月2日,内容証明郵便により,同紹介記事の写真にあるクリーム・パック類に被告の商標が化粧品の標章として被告の許諾なく使用されていること,直ちに同雑誌を回収するなど商標権侵害を回復する措置をとってほしいこと,同社が何らの措置もとらない場合には悪質な権利侵害として然るべき法的措置をとる予定があることを通告した。
また,被告の担当者は,同紹介記事を作成した記者及び同紹介記事に氏名が掲載されていたエステサロンのエステティシャンBにも電話をかけて注意喚起をした(甲48ないし50)。
(エ) 株式会社フジテレビジョンが,平成15年11月18日,テレビ番組「こたえてちょーだい」のカタログショッピング「ディノス」で原告商品を取り上げたところ,被告は,同日,同社の制作担当者に対し,ファクシミリにより,原告商品が本件商標権1及び2を侵害する件について原告と被告との間で法的紛争中であること,同社もかかる商標権侵害を引き起こさないように十分に注意してほしいこと,同社が慎重な対応をせず,被告の商標権が侵害されるときは,差止め,損害賠償請求等の法的措置を講ずる可能性があることを通告し,さらに同年12月6日,同社の代表取締役に対し,内容証明郵便で同趣旨の内容の通知書を送付した(甲59,乙37,40,41)。
なお,被告は,株式会社フジサンケイリビングサービス ディノスハートフルコールセンターにも,同様の通告書を同年11月18日にファクシミリで送るとともに,同月19日に内容証明郵便で送付した(甲60,乙37,41)。
その結果,フジテレビ系列の放送で原告商品が取り上げることが中止され,また原告商品が通信販売カタログ「ディノス」には掲載されなくなった(甲84)。
(オ) 株式会社エフエム東京が放送番組「Iシュープリーム」,「Jのビューティフル」中の「テレマルシェ」で原告の販売する化粧品を取り上げたところ,被告は,平成15年11月18日ころ,同社に対し,原告との間では,原告が本件商標権1及び2を侵害する件について法的紛争中であること,同社においても商標権侵害にならないよう十分に注意されたいこと,同社が慎重な対応をせず被告の商標権の侵害となる場合には,差止め,損害賠償請求等の法的措置を講ずる可能性がある旨の通告書を送付した(甲61,乙37,38)。
その結果,株式会社エフエム東京は,同年12月25日に予定していた原告商品に関する放送を中止した(甲84)。
(カ) 株式会社アシェット婦人画報社が「ヴァンサンカン」2003年12月号に原告商品の商品写真を掲載したところ,被告は,平成15年11月25日,同社に対し,内容証明郵便により,原告との間では,原告が本件商標権1及び2を侵害する件について法的紛争中であること,同社においても商標権侵害にならないよう十分に注意されたいこと,同社が慎重な対応をせず被告の商標権の侵害となる場合には,差止め,損害賠償請求等の法的措置を講ずる可能性があることを通告した(乙37,39)。
(キ) 株式会社西武百貨店及び株式会社そごうが広告宣伝誌「COSME cosmetics magazine」にクリスマスコスメティックフェスティバルの広告として原告商品を掲載したところ,被告は,平成15年11月28日,両社に対し,内容証明郵便により,これは被告の商標「ジェロビタールH3」の広告的使用であること,化粧品に本件商標1及び2を使用する件については原告と被告との間で法的紛争中であること,原告らが「ジェロビタールH3」標章を使用する行為は被告の商標権の侵害であること,同広告宣伝誌の配布を中止してほしいこと,両社が慎重な対応をしない場合には,原告に対して差止め,損害賠償請求等の法的措置を講ずる可能性があることを通告した(甲58,乙37,42)。
その結果,両社は,専用広告,チラシ,ビラなどに原告商品を掲載することを取りやめた(甲84)。
(ク) 株式会社マガジンハウスが「クロワッサン croissant 特大号12/10」に原告商品の商品写真等や原告代表者のコメントを含む記事を掲載したところ,被告は,平成15年12月6日,同社に対し,内容証明郵便により,原告との間では,原告が本件商標権1及び2を侵害する件について法的紛争中であること,同社においても商標権侵害にならないよう十分に注意されたいこと,同社が慎重な対応をせず被告の商標権の侵害となる場合には,差止め,損害賠償請求等の法的措置を講ずる可能性があることを通告した(乙37,43)。
(ケ) 被告は,平成15年12月11日ころ,原告商品を取り扱う株式会社Dual及び株式会社ルーチェに対し,内容証明郵便により,原告との間では,原告が本件商標権1,2を侵害する件について法的紛争中であること,同社らにおいても商標権侵害にならないよう十分に注意されたいこと,同社らが慎重な対応をせず被告の商標権の侵害となる場合には,差止め,損害賠償請求等の法的措置を講ずる可能性があることをそれぞれ通告した(甲62,63)。
また,被告は,平成16年1月中旬ころ,原告商品を取り扱うサンスーシ石川台店など十数店に対しても,同様の内容の通告書をファクシミリで送信した(甲65ないし77)。
さらに,被告は,同年2月10日ころ,原告商品をホームページ上で取り上げて販売する業者であるビューティーパラダイス,レンヌジャパン,REGALO COSMETICOに対しても,同様の内容の通告書を内容証明郵便で送付した(甲78ないし80)。
(コ) 被告は,平成15年11月19日(直近の最終更新日)ないし同16年2月6日当時,自らが運営するホームページ中に,次の内容のページを設けた(甲64の1ないし7)。
a 「ジェロビタール製品ご愛用の皆々様へ急告」と題するページ 被告の商標権「ジェロビタール」,「ジェロビタールH3」を冠し,ジェロヴィタール化粧品として販売されているものがあるが,真正商品ではなく別物であるので注意してほしいこと,フジテレビの番組「めざましテレビ」等で取り上げられているパッケージの化粧品が被告の販売する真正商品であること b 「ジェロビタール製品御愛用の皆々様へ急告!」と題するページ 被告が20年以上も前から「ジェロビタール」,「ジェロビタールH3」商標を有し,旅行の手配や化粧品の販売を行ってきたことを知りながら,ジェロヴィタールH3化粧品と称して勝手に化粧品を輸入,販売し,被告の商標権を侵害するなどしている者がいるが,この者との間では,東京地方裁判所民事47部で訴訟が係属中であること,顧客においては類似品に注意してほしいことなど ウ 税関における輸入差止め 被告は,平成16年9月10日,函館,東京,横浜,名古屋,大阪,神戸,門司,長崎,沖縄地区の各税関長に対し,本件商標権1に基づいて化粧品(クリーム類,ローション類,乳液類)の輸入の差止めを申し立てた(整理番号1000-1199)。
函館などの各税関長は,同月24日,被告に対し,被告の同申立てを受理した旨を通知し,同日から平成18年9月23日までの間,本件商標権1を侵害する化粧品の輸入が差し止められることとなった(乙107,108)。
(8) ジェロヴィタール治療等に関する記事等 ア 新聞 (ア) 昭和54年4月10日発行の「朝日新聞」(乙48(92,93頁)) 「新商法『長寿ツアー』」,「費用96万円安いもの?」,「蓬莱山≠ヘバルカンにあり」との見出しの下に,被告が催したルーマニアにおけるジェロヴィタールH3治療ツアーの概要や参加者との対談を内容とする記事が掲載されており,企画者・連絡先として被告が記載されている。
(イ) 昭和54年8月13日発行の「日本経済新聞」(乙48(91頁)) 「東欧ひとまち」,「不老長寿を売る」,「金持ち老人夢を求めて」との見出しの下に,旅行代理店が考え出した「ジェロビタール(老いの活力)」を使った長寿ツアーの費用が2週間の滞在で96万円であること,これまでに20人の日本人がやってきたことをルーマニア厚生省の担当者が打ち明けたこと,同年8月にはさらに40人が同ツアーに参加することなどを記載した記事が掲載されている。
(ウ) 昭和54年8月15日発行の「報知新聞」(乙48(95頁)) 「長寿ツアー 高齢化の先取り 秘薬を求めて・・・ ルーマニアへ・・・」,「信じる者は救われる?車イスもいらなくなる?」,「その名ジェロビタールH3」,「効能なんとなんと,神経痛から胃かいようまで」との見出しの下に,被告が1月から3回企画した長寿ツアーに100人の志願者が集まったことなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事中には,被告代表者が長寿ツアーを企画した旨が記載されている。
(エ) 昭和54年9月2日,15日,30日,10月14日,11月25日及び12月9日発行の「日中友好新聞」(乙48(96ないし98頁)) 「長寿薬ジェロビタールと漢方 ルーマニア訪問記」との表題のコラムが6回にわたり掲載されている。
(オ) 昭和54年10月5日発行の「夕刊フジ」(乙48(94頁)) 「マイヘルス まいらいふ」,「ルーマニアへ若返り<cアー」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がサラリーマン向けの正月プランを企画していることなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事には,問合せ先として被告のサービスセンターの名称及び電話番号が記載されている。
(カ) 昭和55年2月21日発行の「毎日新聞」(乙48(108頁)) 「不老長寿?への療養コース」,「ルーマニア自慢の薬≠投与」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,ルーマニアに療養コースがあり,日本からのツアーに加わると約100万円かかること,日本からのツアーはいくつかの旅行社が扱っているが,医学的な問題については,被告が教えてくれることなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事には,問合せ先として被告のサービスセンターの名称及び電話番号が記載されている。
(キ) 昭和55年3月7日発行の「読売新聞」(乙48(95頁)) 「特派員の目」,「ブカレストから」,「豪華施設に泊まり老化に万能秘薬」との見出しの下に,ジェロヴィタール治療の概要を紹介する記事が掲載されている。
(ク) 昭和63年6月22日発行の「日本経済新聞」(甲209) 「美しさと若さ求めて女性版101<cアー」との見出しの下に,被告がルーマニアのブカレストへの治療ツアーを年4回企画していることなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事には,ツアーを企画した者が被告である旨が記載されている。
イ 雑誌 (ア) 読売新聞社発行の「週刊読売」昭和51年10月30日号(甲192) 「ルーマニアが元祖の『不老長寿薬』に300万円投ずる政財界人の期待ぶり」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が老化防止の薬であるGH3を発見したこと,ルーマニアでは同薬剤が国の重要な財政源となっており,世界各国からアナ・アスラン博士の下に治療を受けに来る患者が病院に門前市をなし,申込みから1年7か月経たないと治療が受けられないほど繁盛していること,精神病理学者で自殺学の権威であるアメリカ合衆国のK博士の話によると,世界の有名人たちが治療を受けており,3年間で36人の患者に臨床実験をしたところ,結果が良好であったこと,他方で慶応大学医学部L教授がGH3の老化防止効果の医学的証明は困難であると述べていること,ジャパンライフメディカルセンターが同年12月からマニラで実行を計画している「GH3ツアー」の費用が300万円であること,K博士が来日中に会った政財界のお歴々の多くがこの「GH3ツアー」に参加することを決めたことなどを内容とする記事が掲載されている。
(イ) 新潮社発行の「週刊新潮」昭和52年4月14日号(甲191) 「『老化防止薬GH3』の効果-ルーマニアで二十七年前に生れて-」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が同月1日に来日したこと,東京等の各地の大学等を訪問する等したこと,アナ・アスラン博士がその27年前に老化防止薬「ジェロビタール」(GH3)を発見したこと,我が国では専門学者が「外国の文献はあっても,独自のデータはまったくない」と発言する状況にあることや薬剤の使用法などを内容とする記事が掲載されている。
(ウ) 光文社発行の「女性自身」昭和52年4月28日号(甲190) 「これが謎の若がえり新薬『GH3』です!」,「アスラン博士(ルーマニア,80才)が来日,発表。はたして本当にきくのだろうか?」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が不老長寿の薬であるGH3を発見したこと,最も近くではマニラ滞在3週間の「若返りツアー」などが企画され,芸能人,財界人,政治家など,参加希望者が殺到しており,費用が300万円であることなどを内容とする記事が掲載されている。
(エ) 新潮社発行の「週刊新潮」昭和52年7月7日号(甲211) 「マニラ『不老長寿の旅』-例のGH3を求めた二十三人-」との見出しの下に,GH3を開発したアナ・アスラン博士が昭和52年4月に来日したこと,「日本では学者が,『臨床例もないので,許可どころか,評価もできない』段階にある。」こと,マニラでのGH3による老化防止の治療が総額300万円であることなどを内容とする記事が掲載されている。
(オ) 朝日新聞社発行の「週刊朝日」昭和52年9月30日号(甲193) 「300万円若返りの秘薬(ジェロビタールH3)<cアー モテモテの幻惑商法」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が老化防止の薬であるGH3を発見したこと,ジャパン・ライフ・メディカルセンターが「二十一日間老化防止と若返りの旅」を募集しており,その費用が300万円であること,同ツアーでは美しいマニラ湾を眼下にする一流ホテルで治療を受けるが,カジノ見物などが折り込まれており,また医師や美人の看護婦が終始付き添うことなどを内容とする記事が掲載されている。
(カ) 東洋経済新報社発行の「週刊東洋経済」昭和53年7月22日号,昭和54年1月13日号(初春特大号),同年12月8日号,同月15日号,昭和55年1月12日号,同月19日号(甲194,216の1ないし5,乙48(39ないし50頁)) 「ルーマニアの長寿薬(1)『ジェロビタールH3,アスラビタール』について」,「ルーマニアの長寿薬(3)『長寿旅行』はいかが?」,「ルーマニア訪問記(T),(U)」,「ジェロビタールと漢方(1),(2)」との表題のコラムが掲載されている。
(キ) 徳間書店発行の「週刊アサヒ芸能」昭和54年2月15日号(甲207,乙48(51,52頁)) 「五十数ヵ国では認可されているという妙薬?」,「ウソかマコトか96万円で買えるという不老長寿薬の中身」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,ドゴールなども愛用したと伝えられていること,被告が企画して昭和54年3月からの募集を計画している若返りツアーの料金が96万円であることなどを内容とする記事が掲載されている。
(ク) 「Mr.DANDY ミスター・ダンディ」昭和54年3月号(甲210,乙48(15ないし19頁)) 「ドゴール・毛沢東もこれによって延命した!! ルーマニアの秘薬 GH3とは何か」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,ルーマニアではGH3を使用した予防療法が145の老人医療センターで行われていること,被告がルーマニアでの治療を100万円で募集していることなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事中には,治療ツアーを実施している者が被告である旨の記載がある。
(ケ) 中央マーケティング研究所発行の「健康産業情報」昭和54年5月1日号(乙48(35ないし38頁)) 「☆ルーマニア特集☆ GH3療法のツアー サンコーパックが代理業務を開始」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,Aがジェロヴィタール治療の日本における普及と集客を目的として被告を設立し,その募集により,昭和54年3月15日に12名,4月27日に13名がツアーに出発したことや,ジェロヴィタール治療の概要,泥から抽出された薬ペル・アマールをもとにGH3化粧品が開発されたことなどを内容とする記事が掲載されている。
(コ) 講談社発行の「週刊現代」昭和54年7月5日号(甲195,乙48(59ないし62頁)) 「クロスオーバー 健康最前線@ 世界中で話題のルーマニア『長寿医療(ジェロビタール治療)』を受けた日本人のその後」,「七十代が五十代に若返り」,「不眠症,肩こり,肥満も克服」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3療法を発明したこと,GH 3療法はドゴールなどの有名人に愛用された世界中に評判の「長寿医療」であること,被告が催したルーマニアでの治療ツアーの参加者がGH3治療によって効果を上げたことなどを内容とする記事が掲載されている。
(サ) 毎日新聞社発行の「サンデー毎日」昭和54年10月7日号(甲200,乙48(63ないし66頁)) 「シリーズ世界健康の旅 ルーマニア」,「ややっ! 不老長寿治療」,「『毛沢東』も治療を受けた?」,「命の洗濯≠ェ何よりの薬!」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,過去に治療を施した45歳ないし60歳の患者4万人に癌の兆候がないとアナ・アスラン博士が説明していたこと,被告がルーマニア政府とタイアップし,観光を兼ねたツアーとして治療を売り出し,3月からは日本交通公社が加わって「長寿と若がえりの旅」を商品化したことなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事中には,被告の企画したツアーの実施状況について説明する部分があり,ツアーに関する問い合わせ先として,被告のサービスセンターの名称及び電話番号が記載されている部分がある。
(シ) 「月刊せんば」昭和54年11月1日号,昭和55年1月1日号(乙48(20ないし22,30ないし32頁)) 「ルーマニアGH3【ジェロビタール】治療を探る」との表題の下に,ジェロヴィタール治療の概要を紹介する記事がそれぞれ掲載されている。
(ス) 「月刊海外旅行情報」昭和55年1月1日号(乙48(33,34頁)) 「にわかに話題を集めるルーマニアへの『長寿と若返りの旅』」との表題の下に,被告が企画するジェロヴィタールH3治療ツアーを紹介する記事が掲載されている。なお,この記事中には,治療ツアーの関する問い合わせ先として,被告のサービスセンターの名称及び電話番号が記載されている。
(セ) 読売新聞社発行の「週刊読売」昭和55年2月10日号(乙48(67ないし69頁)) 「KANE 金」,「話題の海外健康<cアー 医療効果めぐる期待と実情」との見出しの下に,当時話題となっていた健康ツアーの先鞭を付けたものとして,日本交通公社が売り出し価格96万円で企画したルーマニアのブカレストに滞在してGH3療法を受けるツアーが取り上げられている。
(ソ) 「週刊サンケイ」昭和55年6月26日号(乙48(76ないし78頁)) 「Mも試してきたルーマニア産『不老長寿薬』の効き目」との見出しの下に,タレントMによるGH3治療の体験を取材した記事が掲載されており,この記事中に,被告が治療ツアーを販売していることが記載されている。
(タ) 「わたしの健康」昭和55年10月号(乙48(2ないし14頁)) 「★ルーマニア治療ツアー同行取材」,「現代の不老長寿薬ジェロビタールH3に奇跡を見た!!」,「年来の心臓病が治る,白い髪が黒くなる,老人性シミが消える・・・・・・」との表題の下に,ジェロヴィタールH3治療のツアーの同行記が掲載され,また,「老化をストップする薬ジェロビタールH3の秘密」,「ルーマニアの若返り治療 その驚くべき効果を探る」との表題の下に,GH3治療の創始者であるアナ・アスラン博士との対談,ジェロヴィタールH3治療の実例や参加者の体験談,ルーマニアでジェロヴィタールH3の化粧品がよく使用されていることなどが掲載されている。なお,同記事中には,治療ツアー及び化粧品に関する問い合わせ先として,被告のサービスセンターの名称,所在地,電話番号が掲載されている。
(チ) 日本医事新報社発行の「日本醫事新報」昭和55年12月27日号(甲110) 「『老年病』『老化予防医学』研究を探る14日間の旅」と題されたルーマニアでのGH3治療などを体験するツアーの広告が掲載されている。
(ツ) 光文社発行の「女性自身」昭和56年3月12日号(甲196,乙48(70ないし72頁)) 「ルーマニア同行取材 10才若返るという驚異の医学ツアー」,「30年来の人体実験の成果か,シワが消え,白髪が治るという,世界中の有名人も体験したGH3とは・・・・・・」との見出しの下に,GH 3治療の創始者であるアナ・アスラン博士との対談を内容とする記事が掲載されている。
(テ) 徳間書店発行の「週刊アサヒ芸能」昭和57年2月4日(乙48(53ないし58頁)) 「GH3治療ならびにルーマニア医療ツアーについて」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,日本からのGH 3治療のツアーは,過去4年間に17回組まれて,200人以上の人が参加していることなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事中には,問い合わせ先として,被告の名称,事務所の所在地,電話番号が記載されている。
(ト) 読売新聞社発行の「週刊読売」昭和57年2月21日号(甲208,乙48(73ないし75頁)) 「老化防止医学の先進国ルーマニア報告 驚異の延命薬『ジェロビタール』を求めて欧米,日本から信奉者が訪れていた」,「記憶力低下,ストレス解消に」,「あの方も若者みたいな兆候が」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,国立クリニックホテル・フローラの宿泊者は全て治療客で,ジェロヴィタールの卓効を聞いて世界各地からはるばるやってきていることなどを内容とする記事が掲載されている。なお,この記事中には,ジェロヴィタール医薬品の入手に関する問い合わせ先として,被告の名称,電話番号が記載されている。
(ナ) 「健康時代」昭和58年1月1日号(乙48(23ないし29頁)) 「ふしぎ不思議ドキュメント」,「ルーマニアで発見!世界の有名人が続々と治療に!」,「不老長寿の薬がほんとうにあった!?」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,高齢化時代の海外旅行として注目されているのが「ジェロビタールH3療法」を兼ねたルーマニアへの長寿,健康の旅で,一切の経費が96万円であることなどを内容とする記事が掲載されている。
なお,同記事中には,治療ツアー及び化粧品に関する問い合わせ先として,被告の名称,事務所所在地,電話番号が掲載されている。
(ニ) 新潮社発行の「週刊新潮」昭和63年7月7日号(甲197) 「美容と若返り≠うたい文句にした女性の海外治療ツアーが人気を集めている。」,「美容・老化防止薬『ジェロビタール』の輸入代理店『レッツ・ジェロビタール』が年四回企画しているもの。」とのコラムが掲載されている。
(ヌ) 小学館発行の「DIMEダイム」平成元年5月18日号(甲199) 「ちょっと髪の毛が気になる恒くんの情報 臭くないから安心なんだ,アレよりも ルーマニアの101<Wェロビタール」との見出しの下に,養毛剤を紹介する記事が掲載されている。
(ネ) 読売新聞社発行の「週刊読売」平成元年6月11日号(甲198) 「中国の『101』がなんだ! ルーマニアの『ジェロビタールH3』を知っているか!?」との見出しの下に,頭髪剤を紹介するコラムが掲載されている。
(ノ) 毎日新聞社発行の「サンデー毎日」平成元年9月10日号(甲206)に,「ルーマニアに新しい伝説 現代医学と不老長寿=vとの見出しの記事が掲載され,これに続く同月24日号,10月1日号,11月19日号,12月10日号及び同月17日号など(甲201ないし205,乙3)に「ルーマニアへ 不老長寿の旅」が15回にわたって連載され,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,日本人がルーマニアに不老長寿を求めて旅立つようになってから11年目で,渡航者は延べ約1800人になったことや,筆者のGH3治療体験記などを内容とする記事が掲載されている。
国内におけるその他の刊行物 (ア) ルーマニア観光省発行の「ルーマニア ヴァケーション 日本語特集号」(1977年,甲87) アナ・アスラン博士のインタビュー記事や,ジェロヴィタール治療,医薬品に関する記載,ジェロヴィタール化粧品についての記載があるものの,商品の出所として,ミラージュ社の名称もファーマク社の名称も記載されていない。
(イ) 日本化学会発行の「化学と工業」昭和54年3月1日号(甲189) 「老化予防薬としての塩酸プロカイン製剤-ジェロビタールH3について-」との題名のアナ・アスラン博士の論文が掲載されている。
(ウ) ルーマニア観光省発行の「絶えず驚異の眼を見張せる国、ルーマニア」と題するパンフレット(平成4年ないし同5年ころ,甲90) ジェロヴィタール治療に言及する部分があるのみで,ジェロヴィタール化粧品については言及されていない。
(エ) 日本貿易振興会(ジェトロ)発行のルーマニア展に関するリーフレット(平成8年,甲109) ジェロヴィタール化粧品が掲げられており,販売元としてミラージュ社が記載されている。
外国における記事・広告等 (ア) ヘラルドニュース発行の新聞「ヘラルドニュース」1991年3月5日号(甲100) ジェロヴィタール治療に関する記載があるのみである。
(イ) 米国等におけるジェロヴィタール化粧品の販売会社のホームページ(1996年以降,甲171,173) ジェロヴィタール化粧品の広告等が掲載されている。
(ウ) OMNIA PRESS発行の「Ordinea」1997年5月23日ないし29日号(甲164) ミラージュ社のゼネラル・マネージャーであるNのインタビュー記事が掲載されている。
(エ) 新聞「Romanian ECONOMIC DAILY」1999年11月30日号(甲141) ジェロヴィタール社の理事会会長Nに対するインタビュー記事が掲載されており,ジェロヴィタール社の発展の経緯が掲載されている。
(オ) アレクサンドラ・リリ・ハルダルパ発行のギリシャの新聞「パノラマ」ネオファリロ地区版1999年11・12月号(甲167) ジェロヴィタール化粧品の広告が掲載されている。
(カ) Romanian Economic Press発行のギリシャのニュース媒体「EL・RO BUSINESS NEWS 2000 Millennium」(2000年,甲161) ジェロヴィタール化粧品であるモイスチャライジング・デイ・クリームの広告が掲載されている。
(キ) アレクサンドラ・リリ・ハルダルパ発行のギリシャの新聞「パノラマ」ネオファリロ地区版2000年7月号(甲170) ジェロヴィタール化粧品の広告が掲載されている。
(ク) ジェロヴィタール医薬品の販売会社のホームページ(2000年以降,甲172,174ないし185) ジェロヴィタール医薬品ないし治療の紹介に関する記事,広告,アナ・アスラン博士の業績及び薬効等に関する記事が掲載されている。
(ケ) インディペンデント発行の新聞「インディペンデント」2002年2月25日号(甲101) ルーマニア国内におけるジェロヴィタール社とファーマク社のジェロヴィタール化粧品,商標を巡る争いについての記事が掲載されており,ファーマク社は偽物のジェロヴィタール化粧品を製造しているとの指摘がある。
(9) 本件商標登録の無効審判請求及び審決取消訴訟 ア ジェロヴィタール社は,平成15年7月22日,特許庁に対し,本件各商標権につき,これらの商標権の登録が商標法4条1項7号,10号,15号,19号に反してされた旨を主張して,商標登録の無効審判請求を行った(無効2003-35301号ないし同35304号事件)。
(ア) 特許庁は,平成16年4月26日,本件商標権1につき,次の理由により,ジェロヴィタール社の審判請求は成り立たない旨の審決をした(無効2003-35301号。乙55)。
a 商標法4条1項10号について 本件商標1と同名の薬品・化粧品は,ルーマニアのアナ・アスラン博士により開発された老化予防・治療(いわゆる不老長寿)の効果があるとされる成分を含み,社会主義体制下にあったルーマニアは,これを利用した治療を同国を訪問する外国人に行って外貨を得ており,また被告とルーマニアの国家機関CHIMICAとは昭和60年ないし61年ころ,この商標と同名の化粧品をルーマニアから輸入する契約をしたが,この契約もルーマニアの外貨獲得のための一環であったと考えられる。
商標権の取得などで被告がルーマニアに不利益となる行動をとれば,CHIMICAは,この化粧品輸入契約を解除して本件商標権者に代わる者を選定できることが容易な立場にあったとみられ,この化粧品輸入契約に関連して,被告がCHIMICAひいてはルーマニアにとって不利益な商標権の取得をすることは考え難い。
被告が我が国で商標登録した主たる意図は,同商標が登録出願,商標登録された当時,社会主義体制下にあったルーマニアから,同商標と同名の化粧品を我が国に輸入して販売開始するにあたり,それが他人の我が国での商標登録により妨げらないようにするためであったと認められ,他に,本件商標権者が,不正競争の目的で本件商標の商標登録を受けたもの,又は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって本件商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はない。
したがって,同号違反を理由とする無効主張は採用できない。
b 商標法4条1項7号について 被告が,不正競争の目的で本件商標1の登録を受けたもの,又は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって同商標の使用をするものと認めるに足りる証拠はなく,また,同商標の登録後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとするまでの事実は認められない。
したがって,同号違反を理由とする無効主張は採用できない。
c 商標法4条1項19号について 前記aのとおり,本件商標1は,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的)をもって使用するものと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,同号違反を理由とする無効主張は採用できない。
d 商標法4条1項15号について 平成8年法律第68号附則8条2項により,同法の施行(平成9年4月1日)の際現に存する商標権についての同号を理由とする商標登録の無効審判請求をなし得る期間については,なお従前の例による。本件商標1には,平成8年法による改正前の5年間の除斥期間の適用があるから,同号に該当することを根拠とするジェロヴィタール社の請求は不適法であって,補正ができないから却下すべきである。
(イ) 特許庁は,平成16年4月26日,本件商標権2についても,本件商標権1と同様に,商標法4条1項7号,10号,15号,19号の登録の無効理由があるとのジェロヴィタール社の主張を採用せず,同社の審判請求は成り立たない旨の審決をした(無効2003-35302号事件,乙56)。
(ウ) 特許庁は,平成16年6月30日,本件商標権3に関しても,次の理由により,ジェロヴィタール社の審判請求は成り立たない旨の審決をした(無効2003-35303号事件,乙73)。
a ジェロヴィタール商標の周知性又は著名性について 「Gerovital」商標,「Gerovital H3」商標,別紙ジェロヴィタール商標目録記載2及び3の商標が,ジェロヴィタール社の商品として取り扱われたのは,平成14年10月3日のGOTとの契約以降であり,本件商標3の登録出願の日である平成9年5月2日以前にいずれも広く認識され又は著名となっていたということはできない。
また,上記各商標と同一又は類似の商標が,本件商標3の登録出願前に,我が国でアナ・アスラン博士又はルーマニア政府の取扱いに係るものとして,広く認識され又は著名になっていたということはできない。
b 不正の目的について 被告はルーマニア政府ないし同国の観光会社と,日本からの観光客を招く事業において関係を持っており,ルーマニア大使館・政府による感謝状,表彰状を受けたこと,被告代表者がルーマニア要人の日本への入国に際して保証人となったこと等からすれば,被告はルーマニアと全く無関係ではなく,被告が本件商標3を登録出願し,登録を受けた一連の行為において,ルーマニアとの国際信義を損なう行為があったとはいえない。
また,「Gerovital」商標,「Gerovital H3」商標,別紙ジェロヴィタール商標目録記載2及び3の商標等は,現在,ルーマニア政府の権利に係る商標ではなく,同国のミラージュ社とファーマク社の両商標権者の権利として分割されている。被告はその一方の権利者であるファーマク社と取引をしてきており,ジェロヴィタール社が提出する政府機関等の証明書によっても被告に不正の目的があったとはいえない。
被告が本件商標3を登録出願し,商標登録を受けたという一連の行為において不正の目的があったとすることはできない。
ルーマニアにおける商標権者2社の一方であるファーマク社は,被告による商標登録の事実を知っているが,同社が異議を唱えている事実は認められず,ファーマク社との関係においても不正の目的があったとすることはできない。
同商標の登録出願の日である平成9年5月2日の時点で,被告がジェロヴィタール社による日本進出を予想していたとは認められず,被告がジェロヴィタール社による日本進出を予想し,これを妨害する目的で商標登録出願したとまではいえない。
このほか,被告の先行する登録商標(本件商標権1)の取得行為に不正の目的があったとも認め得る証拠はないし,仮にそうでなくても,被告の本件商標権3の取得に至る一連の行為等に照らせば,商標権者による本件商標3の登録出願及び登録取得行為に不正の目的があったとすることはできない。
c 商標法4条1項10号について 前記aのとおり,「Gerovital」商標等が,本件商標3の登録出願の日である平成9年5月2日以前にいずれも広く認識されていたということはできない。
よって,本件商標3は,同号に該当しない。
d 商標法4条1項15号について 本件商標3が登録出願された当時,「Gerovital」商標,「Gerovital H3」商標,別紙ジェロヴィタール商標目録記載2及び3の商標又はこれらの商標と同一ないし類似の商標が,我が国でアナ・アスラン博士若しくはルーマニア政府の取扱いに係る商品に係る商標として著名になっていたということはできない。
よって,指定商品に使用しても他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとすべき理由があるとはいえず,同号にも該当しない。
e 商標法4条1項7号について 前記bのとおり,本件商標3は不正の目的をもって使用するものではなく,また,同商標の商標登録の前後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとの事実は認められない。したがって,同号に該当しない。
f 商標法4条1項19号について 「Gerovital」商標,「Gerovital H3」商標,別紙ジェロヴィタール商標目録記載2及び3の商標は,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえず,また,本件商標3を不正の目的をもって使用するものとはいえないから,同号に該当しない。
g 登録出願につきジェロヴィタール社の承諾を得ていないことについて 周知・著名性が獲得されていない「Gerovital」商標,「Gerovital H3」商標,別紙ジェロヴィタール商標目録記載2及び3の商標と類似する本件商標3の我が国での登録をジェロヴィタール社が許諾していないということのみをもって,先願登録主義をとる我が国の商標法の制定の趣旨の下で,被告による商標登録が国際信義にもとるなどということはできず,このことはファーマク社との関係においても同様である。
h プロカイン(ノボカイン)を含有しないことについて 商標登録出願ないし登録商標の指定商品の範囲は,我が国の商標法に基づいて出願人が指定するものであり,ルーマニアにおける商標権分割譲渡契約の内容により,本件商標権3の指定商品の範囲が限定されるものではない。被告の取り扱う商品が,我が国の法令に照らして輸入を禁止されることがあったとしても,これによって本件商標権3に無効理由が存することになるわけではない。
(エ) 特許庁は,平成16年6月30日,本件商標権4に関しても,ジェロヴィタール社の審判請求は成り立たない旨の審決をした(無効2003-35304号事件,乙74)。
a アナ・アスラン商標の周知性又は著名性について 「アナ・アスラン」商標,「Ana Aslan」商標,別紙ジェロヴィタール商標目録記載2及び3の商標がジェロヴィタール社の商品として取り扱われたのはGOTとの契約の日である平成14年10月3日以降のことであって,本件商標4の登録出願の日である平成14年4月12日以前に,いずれも広く認識され又は著名となっていたということはできない。またこれらの各商標又はこれらと同一若しくは類似の商標が同日以前にアナ・アスラン博士若しくはルーマニア政府の取扱いに係る商品に係る商標として広く認識され若しくは著名になっていたということはできない。
b 不正の目的について 前記(ウ)b同様,本件商標4の登録出願及び登録を得た行為に不正の目的があったとはいえない。
c 商標法4条1項10号,15号について 前記aのとおり,本件商標4の登録出願の日である平成14年4月12日以前に「アナ・アスラン」商標等が広く認識され又は著名になっていたということはできないこと等から,同項10号,15号の登録の無効理由があるとのジェロヴィタール社の主張は採用できない。
d 商標法4条1項7号について 前記bのとおり,本件商標4を不正の目的をもって使用をするものでなく,また,同商標の商標登録の前後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとの事実は認められない。したがって,同号に該当しない。
e 商標法4条1項8号について 同号にいう「他人」は現存する他人に限られるところ,アナ・アスラン博士は登録出願時に既に死亡しており,同号の適用はない。
f 商標法4条1項19号について 「アナ・アスラン」商標等は,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえず,また,本件商標4を不正の目的をもって使用をするものとはいえないから,同号に該当しない。
g 登録出願につきジェロヴィタール社の承諾を得ていないことについて 前記(ウ)g同様,本件商標4の我が国での登録をジェロヴィタール社が許諾していないということのみをもって,先願登録主義をとる我が国の商標法の制定の趣旨の下で,被告による商標登録が国際信義にもとるなどということはできず,このことはファーマク社との関係においても同様である。
h プロカインを含有しないことについて 前記(ウ)h同様,被告の取り扱う商品が,我が国の法令に照らして輸入を禁止されることがあったとしても,これによって本件商標4に無効理由が存することになるわけではない。
イ ジェロヴィタール社は,前記ア(ア)ないし(エ)の各審決の取消しを求める訴えを提起した。
(ア) 知的財産高等裁判所は,平成17年6月30日,前記ア(ア)の本件商標権1に係る審決の取消訴訟(平成17年(行ケ)10323号)につき,概ね次のとおりの理由でジェロヴィタール社の請求を棄却した。なお,ジェロヴィタール社は,本件商標権1に関しては,商標法4条1項15号に関する取消事由の主張をしなかった(乙140)。
a 商標法4条1項10号について Aが昭和53年に,ルーマニア観光省の招待を受けて,ルーマニアを訪れた際,アナ・アスラン博士から日本におけるジェロヴィタール化粧品の販売を打診されて,ルーマニアの国家機関であるCHIMICA(当時はCHIMIMPORTEXPORT。)と交渉し,Aの設立した被告が,その後まもなく,CHIMICAから成分処方及び分析方法の開示を受けてジェロヴィタール化粧品の輸入販売業等の許可を申請するとともに,昭和54年に本件商標1について商標登録出願したものであることなどの事情にかんがみると,被告による本件商標1の商標登録出願は,CHIMICAひいてはルーマニアの意向に沿うものであったと認められる。
また,「GEROVITAL H3」の医薬品及び化粧品を管理しているルーマニアのCIMCCLが被告の商標登録出願に対し商標登録異議の申立て(昭和57年8月21日)をしていた事実についても,CIMCCLが商標の更新登録の出願をせず,登録異議の申立ての直後にその存続期間を終了させてしまっていることなどからすると,CIMCCLが組織体としていかなる意思決定をし,かつこれを維持していたかについては,少なからず疑問があり,前記の被告による商標登録出願がルーマニアの意向に沿うとの認定を覆すには足りない。
被告が商標登録を受けたことを奇貨として,CHIMICAに対し,代理店契約の締結を求めたり,輸入契約の内容を被告に有利に変更するよう求めたりした形跡はなく,また,被告はミラージュ社及びファーマク社のジェロヴィタール化粧品を輸入し,これを販売してきた。
そうすると,被告は,第三者が不正な目的で本件商標1あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロヴィタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものと認めるのが相当である。被告が不正競争の目的で本件商標1について商標登録を受けたと認めることはできない。
b 商標法4条1項7号について 商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られる。
本件商標それ自体には公序良俗違反がないところ,前記aのとおり,被告は,第三者が不正な目的で本件商標1あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロヴィタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて商標登録出願をし,その登録を受けたものである。
商標の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるとは認められず,また他に本件商標1が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めるに足りる証拠はない。
なお,被告による仮処分命令申立てや通告書の送付行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているとは認められず,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていると認めることはできない。
また,@ 「GEROVITAL H3」に係る記事は,昭和51年10月30日発行の「週刊読売」に初めて掲載されて以降,昭和52年から昭和55年までの間に断続的に掲載されたものの,その後はほとんど掲載されなくなり,平成2年以降はこれを掲載した新聞,雑誌等がないこと,A 新聞,雑誌等に掲載されたもののほとんどが長寿薬等の専ら興味本位の内容で構成されていて,これらが強く読者の注意を惹いてしまい,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品としての「GEROVITAL H3」それ自体について格別の印象を与えるようなものではないことにかんがみると,「GEROVITAL H3」が,本件商標1の登録出願日(昭和54年3月26日)及び登録査定日(昭和58年10月7日)の当時において,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品を表すものとして,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,その間ある程度の状況の変化があったにせよ,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。
そして,被告は,前記aのとおり,第三者が不正な目的で本件商標1あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロヴィタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものであり,専ら自己の利益を追求しようとして登録出願をしたものではなく,被告のかかる行為が,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるとはいえない。
c 商標法4条1項19号について 前記a,bのとおり,被告が不正の目的をもって本件商標1を使用するとはいえない。
(イ) 知的財産高等裁判所は,平成17年6月30日,前記ア(イ)の本件商標権2に係る審決の取消訴訟(平成17年(行ケ)第10324号)についても,前記(ア)と同様の理由でジェロヴィタール社の請求を棄却した。なお,ジェロヴィタール社は,本件商標権2に関しては,商標法4条1項15号に関する取消事由の主張をしなかった(乙141)。
(ウ) 知的財産高等裁判所は,平成17年6月30日,前記ア(ウ)の本件商標権3に係る審決の取消訴訟(平成17年(行ケ)第10337号)につき,概ね次のとおりの理由でジェロヴィタール社の請求を棄却した(乙143)。
a 商標法4条1項10号について 「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」が,本件商標3の登録出願日(平成9年5月2日)及び登録査定日(平成10年8月19日)の当時において,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品を表すものとして,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。
よって,本件商標3は同号に該当しない。
b 商標法4条1項15号について 前記aのとおり,アナ・アスラン博士の氏名,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標3の登録出願日及び登録査定日の当時,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
同商標をその指定商品に使用したとしても,アナ・アスラン博士の発明した商品又はアナ・アスラン博士に関係のある商品と混同を生ずるおそれがあるとは認め難いから,同商標は同号に該当しない。
c 商標法4条1項7号について 前記(ア)bと同様に,本件商標3の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるとは認められない。
なお,被告による仮処分命令申立てや通告書の送付行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているとは認められず,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていると認めることはできないし,「GEROVITAL H3」等が,本件商標3の登録出願日及び登録査定日の当時において,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。被告は,専ら自己の利益を追求しようとして登録出願をしたものではなく,被告の行為が国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるとはいえない。
d 商標法4条1項19号について 前記aないしcのとおり,被告が不正の目的をもって本件商標3を使用をするものであるとは認めることができない。
(エ) 知的財産高等裁判所は,平成17年6月30日,前記ア(エ)の本件商標権4に係る審決の取消訴訟(平成17年(行ケ)第10336号)についても,概ね次のとおりの理由でジェロヴィタール社の請求を棄却した(乙142)。
a 商標法4条1項10号について 「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」が,本件商標4の登録出願日(平成14年4月12日)及び登録査定日(平成15年2月3日)の当時において,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品ないしその開発者を表すものとして,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。よって,本件商標4は,同号に該当しない。
b 商標法4条1項15号について 「Gerovital H3」及び開発者アナ・アスラン博士の氏名は,本件商標4の登録出願日及び登録査定日の当時において,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたとは認められず,本件商標4を指定商品に使用してもアナ・アスラン博士が発明した商品又はアナ・アスラン博士に関係のある商品と混同を生ずるおそれがあるとは認められない。よって,本件商標4は,同号に該当しない。
c 商標法4条1項7号について 本件商標4の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるとは認められない。
なお,被告による仮処分命令申立てや通告書の送付行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているとは認められず,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていると認めることはできないし,「GEROVITAL H3」及びアナ・アスラン博士の氏名が,本件商標4の登録出願日及び登録査定日の当時において,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。被告は,専ら自己の利益を追求しようとして登録出願をしたものではなく,被告の行為が国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるとはいえない。
よって,本件商標4の登録は同号に該当しない。
d 商標法4条1項8号について 同号にいう「他人」は,生存ないし現存するものに限られるところ,アナ・アスラン博士は,本件商標4の登録出願時以前の昭和63年5月19日に死亡しているから,同商標は,同号にいう「他人の氏名(中略)を含む商標」に当たらない。
e 商標法4条1項19号について 前記a,bのとおり,被告が不正の目的をもって本件商標4を使用をするものであると認めることができない。 2 商標権侵害の成否 前記第2の1(3)ウのとおり,別紙標章目録記載1-1ないし6-4の各標章は,本件商標1ないし3とそれぞれ類似し,同目録記載6-1ないし6-4の各標章は,本件商標4とそれぞれ類似する。そして,原告標章を付した商品が化粧品であり,本件各商標権の指定商品と同一である。
したがって,原告商品の輸入販売行為は,本件各商標と類似する標章を使用するものであって,本件各商標権を侵害するものとみなされる(商標法37条1号)。
3 争点(1)ア(無効理由の存在を理由とする権利濫用)について (1) 争点(1)ア(ア)(商標法4条1項7号該当性)について ア 商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨規定している。
同号は,社会の秩序や道徳的秩序を考慮して不登録事由としたものである。そして,商標の構成自体が公序良俗に反する場合のほか,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くところがあり,当該商標登録を認めることが商標法の予定する法秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合や,指定商品について当該商標を使用することが他の法律によって禁止され,又は社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合には,同号に該当するものとして当該商標登録は無効とされるべきである。
イ 本件商標1及び2について 前記1(5)認定の事実,とりわけ,@ 被告代表者Aが医薬品である「GEROVITAL H3」を開発したアナ・アスラン博士と出会い,被告によるジェロヴィタールH3治療を目的とするパックツアーが昭和54年3月から開始され,また,Aは,ルーマニア観光省の招待に基づく昭和53年のルーマニア訪問の際,アナ・アスラン博士から我が国でのジェロヴィタール化粧品の販売を打診されて,ルーマニアの国家機関CHIMIMPORTEXPORTと交渉,契約し,その後にルーマニア観光省の関係者により「株式会社ジーエイチスリールーマニア」と命名されてAが設立した被告が,ジェロヴィタール化粧品の輸入販売を行うことになったこと,A 被告は,昭和55年5月23日,CHIMIMPORTEXPORTとの間で,CHIMIMPORTEXPORTが被告に対し輸入承認及び登録のために必要なジェロヴィタール化粧品の成分処方及び分析方法に関する書類を引き渡すこと,被告は,厳重に秘密を保ち,日本での製品の承認を取得するために必要な試験を実施する目的及び販売の目的のみに使用することなどを内容とする秘密保持契約を締結し,これに基づきCHIMIMPORTEXPORTから成分処方及び分析方法の開示を受けてジェロヴィタール化粧品の輸入販売業等の許可を申請し,薬事法22条に基づく化粧品輸入販売業の許可を受けたこと,B 被告は,昭和54年に本件商標1について,昭和56年に本件商標2についてそれぞれ商標登録出願したものであること,C 被告は,昭和60年ころ,CHIMIMPORTEXPORTの後身であるCHIMICAと輸入契約を締結してジェロヴィタール化粧品の輸入,販売を開始したが,当時CHIMICAは,被告がこれらの化粧品について唯一の販売代理店であるとみなしていたこと,D 被告は,当初,CHIMICAを通じて,ミラージュ社(現在のジェロヴィタール社)及びファーマク社のジェロヴィタール化粧品を輸入していたが,その後上記2社から直接輸入するようになり,平成9年以降は,ファーマク社からの輸入に統一したこと,以上の事実を総合すれば,被告は,第三者が不正な目的で本件商標1及び2又はこれらと類似する商標につき商標登録を受けることにより,ルーマニアからのジェロヴィタール化粧品の輸入や我が国における同化粧品の販売に支障を来すことがないよう,本件商標1及び2につき登録出願をしたものと推認することができる。
そして,前記1(9)のとおり,ジェロヴィタール社の商標法4条1項7号該当を理由とする無効主張は,特許庁でも知的財産高等裁判所でも認められないと判断されたことにも照らし,本件商標1及び2の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くところがあるということはできない。その他,本件商標1及び2を指定商品に使用することが社会公共の利益に反するなどという事情もない。
ウ 本件商標3及び4について また,その後に出願された本件商標3及び4についても,本件商標1及び2と同様であり,前記1(9)のとおり,ジェロヴィタール社の商標法4条1項7号該当を理由とする無効主張は,特許庁でも知的財産高等裁判所でも認められないと判断されたことにも照らし,本件商標3及び4の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くところがあるということはできない。その他,本件商標3及び4を指定商品に使用することが社会公共の利益に反するなどという事情もない。
エ 原告の主張について (ア) 原告は,「GEROVITAL H3」,「GEROVITAL」及び開発者アナ・アスラン博士の氏名が,本件各商標権の登録出願当時に既に世界的に著名であった旨を主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(1))。
しかし,後記(2)のとおり,本件各商標権の登録出願日及び登録査定日のいずれにおいても,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロヴィタール」が,我が国の取引者及び需用者の間で,老化予防の治療薬及びその効果のある化粧品を表すものとして,広く認識されていたとはいえないし,またこれらのいずれの時点においても,アナ・アスラン博士の氏名が,「GEROVITAL H3」の開発者として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたとはいえない。また,後記4(2)のとおり,世界的にみても,これが周知著名であったということはできない。
そうすると,「GEROVITAL H3」等が本件各商標権の登録出願当時に我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたことを前提とする原告の前記主張は,採用できない。
(イ) また,原告は,被告が真の権利者であるルーマニアの国家機関の承諾を得ることなく本件商標登録出願を行ったもので,冒認出願である旨を主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(2))。
しかし,商標登録出願に他人の許諾ないし承諾が必要な場合は法定されており(商標法4条1項8号かっこ書参照),その余については同項各号で禁じられるほかは出願人の商標選択の自由があり,他人の許諾ないし承諾を要しないと解すべきである。
また,前記1(2)認定のとおり,ルーマニアにおいては,現在ジェロヴィタール社とファーマク社が指定商品を分割してともに商標権を有しており,同(3)認定のとおり,世界各国における商標権取得の状況を見ても,ジェロヴィタール社のみが正当な権利者であると断定することはできないことからすれば,少なくともファーマク社が本件商標登録出願に異議を唱えていない状況の下においては,ジェロヴィタール社のみが真の権利者であることを前提として,ジェロヴィタール社から承諾を得る必要があるとする原告の前記主張は,採用できない。
なお,前記1(5)認定のとおり,被告はルーマニアの国家機関の1つであるCHIMIMPORTEXPORTの担当者の要請を受けて本件商標1及び2の登録出願を行ったもので,ミラージュ社自身も,平成元年当時,被告が本件商標1及び2の登録を受けたことを知りながら異議を唱えなかったことに照らしても,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) 原告は,被告が特許庁に対して虚偽の主張をして本件各商標権の登録を受けた旨を主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(2))。
a 前記1(5)イ(ア)認定の登録異議申立てに対する被告の主張のうち,@ CHIMIMPORTEXPORTとの輸入契約の締結,A 輸入承認及び登録のため必要な書類を引き渡す旨の契約の締結があったことは,前記1(5)ア(イ)認定のとおりであり,これらの点については虚偽の主張とはいえない。
なお,「秘密保管のための合意書」(甲52)は,確かにCHIMIMPORTEXPORTが被告の商標登録出願に同意したことを直接証明するものではないが,前記のとおり,被告による本件商標の商標登録出願は,CHIMIMPORTEXPORTひいてはルーマニア側の意向に沿うものであったということができるのであり,上記合意書の存在はこのように意向に沿うことを推認させる事実でもあるから,被告が同書面を特許庁に提出したとしても,これをもって虚偽の主張をしたということにはならず,格別に非難されるべきものではない。
また,仮に当時CHIMIMPORTEXPORTが商標権の所有,維持,管理とは無関係であったとしても,共産主義体制下にあったルーマニアにおいて,どの国家機関において商標権を管理するのか,その実態は外部から理解が容易ではないから,被告がCHIMIMPORTEXPORTから商標登録の許諾を得た旨を述べたとしても,そのことをもって登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くところがあるということはできない。
b 他方,CHIMICAを承継したロームファルマ キム エス エー(ROMFARMACHIM S.A.。以下「ロームファルマ」という。)の担当者O及びP作成の回答書(甲51の2)中には,ジェロヴィタール社のQ宛て照会(甲51の1)に対し,Aが,ロームファルマ側から,日本において個人名義又はAの会社名義で「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標につき登録を受けることの合意や授権を受けていないこと,Aが,ロームファルマ側から,日本市場において「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標の下で商品を排他的に販売する合意を受けていないことの記載があり,この記載は原告の上記主張に沿うものである。
しかし,この照会及び回答は,簡単な質問とこれに対する結論のみを示す回答などから構成される書面にすぎず,これを裏付ける従来の経緯についての説明や資料の添付のないものである。また,前記1(5)のとおり,被告は,CHIMICAを通じてジェロヴィタール化粧品を輸入するに当たり,CHIMICAから,我が国向けの化粧品については我が国における唯一の代理店と認められていたことは明らかであるところ,ロームファルマの担当者の上記回答内容はこれと齟齬するものである。そうすると,甲51の2の上記記載部分は,上記認定事実に反するものであって,これらをにわかに信用することはできない。
(エ) 原告は,ルーマニアの当時の商標権者であったCIMCCLは被告の商標登録に対して異議を申し立てており,被告が勝手に本件各商標を取得したことを裏付けている旨を主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(2))。
しかし,CIMCCLは,異議申立てにおいて,自らがCIMCCL商標権を有していることを援用していながら,更新登録の出願をせず,商標登録異議の申立ての直後である昭和57年9月11日にその存続期間を終了させてしまっていること,被告がCHIMICAからジェロヴィタール化粧品を輸入することにつき,CIMCCLが直接又はCHIMICAを通じて異議を述べるなどした形跡がないことに照らすと,CIMCCLないしルーマニアの国家機関が真に本件商標1の商標登録に異議があったといえるか否か疑問があり,CIMCCLの商標登録異議の申立ての一事をもって,前記認定を覆すことはできない。
なお,この点に関し,原告は,CIMCCLが一旦は登録異議を申し立てておきながら,必要な費用を予測できなかったために,特許庁の審決に対して不服申立てをしなかったとか,WIPOへの商標登録によって保護されると考えたなどと弁解するが,不服申立てをしなかった理由としては極めて不合理かつ不十分であって,到底信用できない。
オ 以上のとおり,本件各商標権の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くところがあるとか,当該商標登録を認めることが商標法の予定する法秩序に反するものとして到底容認し得ないといった事情があるということはできない。
そして,他に本件各商標権の登録が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めるに足りる証拠はない。
よって,商標法4条1項7号該当を理由とする無効の主張は,理由がない。
(2) 争点(1)ア(イ)(商標法4条1項10号該当性)について ア 商標法4条1項10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務に使用をするもの」は,商標登録を受けることができない旨規定している。
同号は,登録主義を原則とする我が国の商標制度の下において,未登録周知商標との出所の混同を防止し,その結果として先使用者の使用の事実を保護するため,周知商標と同一又は類似の商標であって,使用商品と同一又は類似の商品に使用するものを不登録事由と定めたものである。
そして,同号に違反して登録すべきではなかったといえるか否かは,登録査定時に加えて出願時を基準として判断すべきである(同法4条3項,最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁参照)。すなわち,商標法4条1項10号所定の不登録事由については,出願時及び登録査定時のいずれにも該当する場合に限り,登録が阻却されるべきである。出願時には広く知られていなかった他人の商標が登録査定時までに周知となって,登録査定時に同号に該当するようになった場合に,同号該当を理由として商標登録を認められなくなるのは出願者に酷であるからである。
イ 本件商標1及び2について (ア) 本件商標1及び2は,その登録の日から5年以上が経過しているから,これらの各商標の登録が商標法4条1項10号に反し無効審判請求により無効とされるためには,被告の登録出願が不正競争の目的をもってされたことが必要である(同法47条)。しかしながら,原告は,同号違反を商標法39条の準用する特許法104条の3に基づくのではなく,権利濫用の抗弁としてこれを主張するものである。商標登録に無効理由が存在し,それが本来登録されるべきでないものであったのにもかかわらず,過誤により登録された場合には,仮に無効審判請求により無効とされることがなくても,そのような無効理由が存在することが明らかな商標権に基づく請求は,衡平に反し,権利の濫用として許されない(最高裁平成10年(オ)第364号同12年4月11日第三小法廷判決・民集第54巻4号1368頁参照)。よって,商標権の設定の登録の日から5年を経過した本件商標1及び2についても,不正競争の目的で商標登録を受けたか否かにかかわらず,商標法4条1項10号違反の無効理由の存否について判断することとする。
(イ) 前記1(8)認定のとおり,「GEROVITAL H3」に関係する記事は,「週刊読売」昭和51年10月30日号に初めて掲載されて以来,昭和52年から昭和55年までの間,アナ・アスラン博士の来日やジェロヴィタールH3治療を目的とするパックツアーを取り上げて,断続的に掲載されたものの,その後はほとんど掲載されなくなり,平成2年以降は新聞,雑誌等でかかる記事が掲載されることがなくなった。しかも,上記の新聞,雑誌等に掲載された各記事の多くは,老化予防の化粧品について直接取り上げるものではなく,その内容は,長寿薬の存在やこれによる不老長寿の効果を大げさに取り上げたり,逆に疑問を投げかけたり,あるいは治療ツアーの費用の高額さやツアーの内容を面白おかしく伝えるなど,専ら興味本位の内容で構成されているにとどまり,ツアーの問い合わせ先として被告の名称や電話番号等が記載されているが,「GEROVITAL H3」については,いずれかの者の出所を表示する態様で記載されてはいないものということができる。そして,このような興味本位の内容の記事では,読み物ないし大仰な宣伝として読者の注意をひくだけのものにとどまり,老化予防,治療薬ないしその効果のある化粧品としての「GEROVITAL H3」自体やこれを開発したアナ・アスラン博士が,当時取引者ないし需要者に周知となっていることを裏付けるものとはいえない。
よって,本件商標1及び2の登録出願時及び登録査定時において,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロヴィタール」が,特定の者の出所を示す老化予防の治療薬及びその効果のある化粧品として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたということはできない。
ウ 本件商標権3及び4について 前記1(8)認定の事実によれば,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロヴィタール」は,本件商標3の登録出願日(平成9年5月2日)当時においても,登録査定日(平成10年8月19日)当時においても,特定の者の出所を示す老化予防の治療薬及びその効果のある化粧品として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたとは認められない。
また,同様に,アナ・アスラン博士の氏名が,本件商標4の登録出願日(平成14年4月12日)当時においても,登録査定日(平成15年2月3日)当時においても,「GEROVITAL H3」の開発者として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたということはできない。
結局,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロヴィタール」,アナ・アスラン博士の氏名は,本件商標3及び4の各登録出願時及び登録査定時においても,特定の者の出所を示す老化予防の治療薬及びその効果のある化粧品ないしその開発者として,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されていたということはできない。
そして,前記1(9)のとおり,ジェロヴィタール社の商標法4条1項10号該当を理由とする無効主張は,特許庁でも知的財産高等裁判所でも認められないと判断されたことにも照らし,本件商標3及び4が同号に違反して登録されたものとはいえない。
エ よって,商標法4条1項10号該当を理由とする無効の主張は,理由がない。
(3) 争点(1)ア(ウ)(商標法4条1項19号該当性)について ア 商標法4条1項19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて,不正の目的(中略)をもつて使用するもの」は商標登録を受けることができない旨規定している。
同号は,国内外で周知又は著名の商標と同一又は類似の商標を不正の目的で使用するものを不登録事由と定めたものである。同号にいう「不正の目的」とは,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の取引上の信義則に反するような目的をいうものと解すべきである。
イ 前記(1)認定のとおり,被告が本件商標3及び4の登録出願をし,その登録を受けたのは,第三者が不正な目的で同一又は類似する商標につき商標登録を受けることにより,ルーマニアからのジェロヴィタール化粧品の輸入や我が国における同化粧品の販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて行ったものであり,このような目的を超えて,ルーマニア本国の商標権者等をも排除して自己の利益のために市場の独占を図る目的であったとはいい難い。
したがって,被告の本件商標3及び4の出願が不正の利益を得る目的でされたとか,他人に損害を加える目的でされたとか,取引上の信義則に反するような目的でされたなどということはできず,不正の目的があったとはいえない。
そして,前記1(9)のとおり,ジェロヴィタール社の商標法4条1項19号該当を理由とする無効主張は,特許庁でも知的財産高等裁判所でも認められないと判断されたことにも照らし,本件商標3及び4が同号に違反して登録されたものとはいえない。
ウ よって,原告の商標法4条1項19号該当を理由とする無効の主張は,理由がない。
(4) 小括 以上のとおり,本件各商標登録に無効理由が存在することを理由とする権利濫用の主張は,いずれも採用することができない。
4 争点(1)イ(無効理由が存在しないとしても本件商標権行使が権利濫用に当たるか否か)について (1) 仮に,商標登録に商標法46条1項所定の無効理由が存在しない場合であっても,登録商標の取得経過や取得意図,商標権行使の態様等によっては,商標権の行使が,客観的に公正な競争秩序を乱すものとして権利の濫用に当たり,許されない場合があると解すべきである(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。
(2) 原告は,まず,世界的に周知著名な商標と要部を同一にする本件各商標について正当な権利者から許諾を受けることなく,虚偽の事実を主張して自己名義で取得した本件各商標権を行使することが権利濫用に当たる旨主張する(前記第3の4〔原告の主張〕(1))。
ア そもそも,前記3(2)イ,ウのとおり,本件各商標の出願時及び登録査定時において,ジェロヴィタール商標は,特定の者の出所を示すものとして,我が国において周知であったとはいい難い。
イ 原告は,ジェロヴィタール商標がジェロヴィタール社であることを示すものとして世界的にも周知著名である旨主張し,多数の証拠を提出する。
しかしながら,前記1(8)エ認定の記事等によっても,ジェロヴィタール商標の世界的な周知著名性を認めるに足りない。
ジェロヴィタール商標ないし化粧品が世界的に周知著名であることを立証するために原告が提出した書証の多くは,アナ・アスラン博士の業績等を紹介するものにとどまるか,ジェロヴィタール治療やジェロヴィタール医薬品などを説明するもの等にとどまるのであって(甲32,86,88,92,93,98,102ないし108,138,186,187など),ジェロヴィタール化粧品の出所が何人であるかを示すもの,とりわけそれがジェロヴィタール社(ミラージュ社)であることを示すものであるとはいえない。なお,ミラージュ社等のパンフレット等(甲89,91,143ないし160,162,163,166,168)は,専ら宣伝用に頒布することを目的とする性質のものであって,これらがどの範囲で,どれだけの数量頒布されたのかが不明である以上,これらから直ちに周知著名性を肯定することはできない。
また,ルーマニア厚生省及び国立老人医学研究所発行の「Romanian Journal of Gerontology and Geriatrics」(1982年ないし1987年,甲94ないし97)には,Gerovital H3のヘアローション及びフェイスクリーム(コールドクリーム)の広告が掲載されているが,商品の出所として,同1982年No.3第3号,No.4第3号及び1985年No.3第3号ではCHIMIMPORTEXPORTが,1987年No.4第8号ではCHIMICAが記載されている。また,ルーマニアのANA HOTEL(アナ・ホテル)の案内冊子(甲169の1ないし4)には,アナ・ホテルの健康スパでアナ・アスラン博士の考案した治療を受けられる旨が記載されているほか,2004年6月29日付の同ホテルの記者発表用資料(甲169の5)には,ジェロヴィタール化粧品がジェロヴィタール社及びファーマク社で製造される旨などが記載されている。しかし,これらをもっても,ジェロヴィタール化粧品がジェロヴィタール社(ミラージュ社)のみを表示するものとして,周知著名であったとはいえない。
そうすると,ジェロヴィタール化粧品ないしジェロヴィタール商標が,世界的に,その出所がジェロヴィタール社(ミラージュ社)であるものとして周知著名性を獲得していると認めるに足りないといわざるを得ない。
ミラージュ社による1974年8月,9月と1四半期の輸出状況に関する書面(甲99)によれば,ジェロヴィタールトニックローション及びクレンジングミルクを各1万個輸出したなどの記載があり,また1972年におけるミラージュ社のジェロヴィタール化粧品の輸出状況に関する書面等(甲111,122,123,125ないし135),1980年におけるCHIMIMPORTEXPORTのジェロヴィタール化粧品のフランス向け輸出状況に関する書面等(甲112ないし121,124),ミラージュ社のファイル「EXPORT1972」(甲136)及び化粧品会社「Macul Rosuの歴史」と題するファイル(1971年4月14日,甲137)によれば,CHIMIMPORTEXPORTないしCHIMICA及びミラージュ社は,一定数のジェロヴィタール化粧品を各国に輸出していることがうかがわれる。他方,ファーマク社のゼネラルマネージャーのAに対する手紙,Aの同ゼネラルマネージャーに対する質問書及びこれに対する同ゼネラルマネージャー等の回答書(乙19,44)によれば,ファーマク社は2004年時点で,ルーマニア国内の洗浄乳液,アフターシェイブ,フェイスクリーム,脱毛剤の分野において首位を占めており,ボディクリーム,ハンドクリームの分野においてもColgate-Palmolivc社,Betersdorf社に次いで第3位のシェアを占めていること,ファーマク社は2003年ないし2004年ころの時点で,ルーマニア国内及び海外の市場においてジェロヴィタール化粧品につきほとんどのシェアを占めていること(2003年時点で輸出量の過半。2004年時点でファーマク社の調査によれば85パーセント。)が認められる。
そうすると,上記のようなミラージュ社の輸出規模をもって,ジェロヴィタール化粧品ないしジェロヴィタール商標が,ミラージュ社ないしジェロヴィタール社を表示するものとして,直ちに世界的な周知著名性を獲得しているとは認め難い。
結局,ジェロヴィタール商標がミラージュ社ないしジェロヴィタール社を示すものとして世界的に周知著名であるとまではいうことができない。
ウ 原告は,正当な権利者から許諾を受けずに取得した商標権を行使することは権利濫用に当たると主張し,その前提として,正当な権利者であるCIMCCLから許諾を得るべきであったところ,被告はCIMCCLの許諾を得ず,虚偽の主張をして商標権を取得した旨主張する。
(ア) 本件商標1及び2の出願当時,仮にルーマニアの国家機関であるCIMCCLがルーマニアにおける正当な権利者であったとしても,被告は,本件商標登録出願に当たり,同じくルーマニアの国家機関であるCHIMIMPORTEXPORTの意向を受け,その協力を得ていたことは,前記1(5)のとおりである。そして,同じくルーマニアの国家機関であるCIMCCLは,後に登録異議の申立てをしたが,CIMCCL商標権を援用しながら,更新登録の出願をしないまま,商標登録異議の申立ての直後にその存続期間を終了させてしまっていること,被告がCHIMIMPORTEXPORTないしCHIMICAからジェロヴィタール化粧品を輸入することにつき,CIMCCLが直接又はCHIMIMPORTEXPORTないしCHIMICAを通じて異議を述べるなどした形跡がないことに照らすと,当時のCIMCCLが真に被告の本件商標1の登録出願に異議を有していたか不明というほかはない。そして,CIMCCLが特許庁の決定に対し不服申立てをしなかったことに照らし,結局はそれ以上異議を述べないことにしたものと推認せざるを得ない。
そうすると,CIMCCLから商標権取得について許諾を得る必要まではなかったというべきである。
(イ) なお,原告は,被告が虚偽の事実を主張して本件商標権1及び2を取得した旨主張する。前記3(1)エ(ウ)aに述べたのと同様に,「秘密保管のための合意書」(甲52)は,確かにCHIMIMPORTEXPORTが被告の商標登録出願に同意したことを証明するものではないが,前記(ア)のとおり,被告による本件商標1及び2の商標登録出願は,CHIMIMPORTEXPORTひいてはルーマニア側の意向に沿うものであったということができるのであり,上記合意書の存在はこのように意向に沿うことを推認させる事実でもあるから,被告が同書面を特許庁に提出したとしても,虚偽の主張をしたということにはならず,格別に非難されるべきものではない。
仮に,当時CHIMIMPORTEXPORTが商標権の所有,維持,管理とは無関係であったとしても,共産主義体制下にあったルーマニアにおいて,どの国家機関において商標権を管理するのか,その実態は外部から理解が容易ではないから,被告がCHIMICAから商標登録の許諾を得た旨を述べたとしても,そのことをもって出願の目的が不正であるとか,商標権の行使が権利濫用に当たるとはいい難い。
(ウ) 本件商標権1及び2に基づく差止め及び損害賠償等の請求が権利の濫用といえない以上,仮に本件商標権3及び4に基づく請求が権利の濫用として許されないとしても,結論に影響しないが,念のため本件商標権3及び4についても判断する。
ルーマニアにおける「Gerovital Plant」に係る商標権は,ファーマク社のみに帰属し,ジェロヴィタール社には帰属していない(乙30,44)。また,アナ・アスラン博士の氏名をジェロヴィタール社のみが独占して使用できる根拠もない。そして,本件商標3及び4の出願当時には,ルーマニアにおけるジェロヴィタール商標に係る権利が指定商品ごとに分割され,かつ,被告はその一方であるファーマク社からジェロヴィタール化粧品を輸入していたものである。したがって,少なくともファーマク社は本件商標3及び4の出願に異議はなかったと解される。他方,ジェロヴィタール社が被告の本件商標権3及び4の取得に異議を述べ始めたのは,前記1(6)ア(イ)のとおり,同社がGOTとの独占販売代理店契約を締結した平成14年10月3日以降のことであって,本件商標3及び4の登録出願後のことであったものである。
したがって,本件商標3及び4の登録出願について,ルーマニアにおける権利者の意向に反したものであるとか,不正な利益を上げるためのものであったということはできない。
(エ) そして,被告が本件各商標権の登録出願をし,その登録を受けたのは,第三者が不正な目的で同一又は類似する商標につき商標登録を受けることにより,ルーマニアからのジェロヴィタール化粧品の輸入や我が国における同化粧品の販売に支障を来すことがないよう,CHIMICA又はファーマク社ひいてはルーマニア側の意向を受けて行ったことは,前記3(1)判示のとおりである。
したがって,商標登録出願過程ないし商標登録異議の申立ての審査における被告の行為をもって,権利濫用を基礎付けるものと評価することはできない。
(3) 原告は,次に,ルーマニアないし国家機関と特殊な関係があることを標榜していた被告がかつての輸入元からの真正な商品の輸入行為を差し止めることが権利濫用に当たる旨主張する(前記第3の4〔原告の主張〕(2))。
ア 前記1(5)認定のとおり,被告は,当初CHIMICAからミラージュ社(現在のジェロヴィタール社)及びファーマク社が製造したジェロヴィタール化粧品を輸入し,平成4年ころから平成9年ころまでは上記2社から直接輸入し,平成9年ころ以降はファーマク社のみから輸入するようになったものである。
また,前記1(2)認定のとおり,ルーマニアにおいても,ジェロヴィタール商標は,ミラージュ社とファーマク社の双方に分割して譲渡されており,かつ分割後の各商標権に係る指定商品は,一応は区分がされているものの,クリーム類等である点において共通するところが多く,一般の取引者及び需要者において両者の化粧品を厳格に峻別していたとはいい難いものである。また,前記1(3)認定のとおり,世界各国における商標登録の状況を見ても,ミラージュ社ないしジェロヴィタール社のみが正当な権利者であるというわけではない。
そうすると,仮に,被告が輸入していた化粧品の種類が,本来ルーマニアにおいてはミラージュ社の商標権の指定商品の区分に属すべきものが多かったとしても,ジェロヴィタール化粧品が表す出所がミラージュ社のみであったとはいえない。
のみならず,前記3(2)判示のとおり,「GEROVITAL H3」等は,我が国の取引者及び需要者の間において,そもそも特定の者の出所を表すものとして周知性を有していない。
イ また,被告による商標権行使の態様をみると,前記1(7)認定のとおり,被告の原告商品を取り扱い又は広告した者等に対する通告は,相当広範囲かつ入念なもので,厳しいものであるが,その内容は,原告の行為が商標権侵害に当たり,原告との間で訴訟等が係属中であることを述べた上,通告された相手方に商標権侵害とならないよう注意喚起するものである。そして,被告は,GOTに対して仮処分を申請し,原告に対して仮処分及び本訴を提起したほかは,他の取引先に対し,本件各商標権に基づく権利行使をしていない。
原告の原告標章使用行為が,本件各商標権と商品が同一で,商標が類似であるものに使用されている上,商標登録に無効理由が存在しないことからすると,被告によるこれらの告知行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているとまではいえない。
したがって,被告の権利行使の態様をもって,商標権行使が権利濫用を基礎付けるものと評価することはできない。
ウ 原告の輸入元がルーマニアにおける権利者の一人であるジェロヴィタール社であり,被告自身,かつて同社の前身であるミラージュ社からジェロヴィタール化粧品を輸入していた関係にあったとしても,被告からジェロヴィタール社そのものに対する権利行使に信義則上許されない場合があることは格別,これと別法人の原告に対して権利行使することが直ちに権利の濫用に当たるとまでは言い難い。
すなわち,まず前記3判示のとおり,被告の本件各商標登録に原告主張の無効理由はなく,その権利取得過程に違法性があるわけではない。そして,前記1(5)アによれば,被告はルーマニアの国家機関の一つであるCHIMICAから唯一の販売代理店とみなされてジェロヴィタール化粧品の輸入を開始して20年以上になるところ,被告がミラージュ社からの輸入を打ち切ったのには一応の合理性が認められる。
そして,被告は20年にわたってジェロヴィタール化粧品の輸入を継続している以上,自ら本件各商標を使用し続ける必要性がある。また,前記1(3)のとおり,ルーマニアにおいてジェロヴィタール社とファーマク社が競争関係にあり,各国においてそれぞれ商標権を取得した者がその国における販売を行っているという関係にある(乙30)。そして,前記1(6)のとおり,GOT側は,当初ジェロヴィタール社から被告に輸入されたジェロヴィタール商品を独占的に販売する取引形態を持ち掛けてすらいたものである。他方,ルーマニアにおいて,ジェロヴィタール社は2003年ころにファーマク社を不正競争を理由に刑事告訴し,逆にファーマク社は2005年5月ころにジェロヴィタール社を不正競争及び偽造を理由に刑事告訴するなど,現在ジェロヴィタール社とファーマク社はジェロヴィタール商標を巡って係争中である(甲101,241,242,乙128)。
これらの諸事情に照らすと,被告が,我が国において,ジェロヴィタール商標を付した化粧品を被告以外の者が輸入,販売する行為に対して商標権を行使して差止め等を請求したとしても,それが社会的にみて相当でないとか,信義則や商業秩序に反するなどとまではいうことができず,この点をもって,権利濫用を基礎付けるものと評価することはできない。
(4) 原告は,さらに,原告商品こそがジェロヴィタール商標を付して販売できる商品であることを熟知しながら,その輸入販売の差止めを請求することが権利濫用に当たる旨主張する(前記第3の4〔原告の主張〕(3))。
前記1(2)のとおり,ルーマニアにおけるファーマク社の商標権の指定商品の構成はプロカイン(ノボカイン)の含有が要素となる化粧品であるが,弁論の全趣旨によれば,我が国のみならず他の国においてもプロカインを含有する化粧品については製造販売の認可がなされないことが認められる。他方,我が国において,本件各商標権の指定商品においては,いずれもプロカインの含有が要素となっていない。
そうすると,被告がかかる禁止成分を含まない化粧品を輸入,販売しているからといって,ルーマニアにおける商標権に関する問題が生じることがあることは格別,このことをもって,我が国における商標権について,権利濫用を基礎付けるものと評価することはできない。
(5) 小括 前記(2)ないし(4)のとおり,原告の権利濫用の主張はいずれも採用できない。また,これらの事情を総合して検討しても,被告の原告に対する商標権行使が権利濫用に当たり許されないとまではいえない。
5 争点(2)(不正競争防止法2条1項14号に基づく請求)について 被告が告知・流布した内容は,前記1(7)イのとおりであるところ,原告の行為が商標権侵害に当たる旨の告知が虚偽といえないことは上記2ないし4判示のとおりであり,また原告との間で紛争があり,訴訟等が係属中であることも虚偽の事実ということはできない。
そうすると,被告の行為が虚偽の事実の告知,流布に当たるということはできないから,原告の不正競争防止法2条1項14号に基づく主張は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。なお,被告によるこれらの告知・流布行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているということもできない。
6 争点(3)(商標権侵害に基づく請求)について (1) 差止め及び廃棄請求について 前記2のとおり,原告商品の輸入販売等の行為は本件各商標権を侵害するものとみなされるものであり,前記3,4のとおり,被告の権利行使が権利濫用に当たるとはいえないから,商標法36条により,当該行為の差止め及び廃棄請求は理由がある。
(2) 謝罪広告請求について 被告は,原告が大々的に記者会見を行ったり,ルーマニア大使館宛に被告の営業活動を妨害する文書を送付させるなどしたから,自らが被った業務上の信用を回復するためには謝罪広告が必要であると主張するが,かかる事情によっても侵害行為の差止めや損害賠償のみでは填補できない業務上の信用の低下があったとはいい難い。
よって,原告による謝罪広告の掲載が必要であるとはいえない。
(3) 損害賠償請求について ア 過失の有無 原告は,商標権侵害行為につき過失があったものと推定される(商標法39条により準用される特許法103条)。そして,かかる過失の推定を覆すに足りる原告の反証はないから,原告は,商標権侵害により被告が被った損害を賠償すべきである。
イ 商標法38条1項の適用の可否について (ア) 商標法38条1項は,侵害者の譲渡した商品の数量に,商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた商品の単位当たり利益の額を乗じて得た額を,商標権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において,商標権者の受けた損害の額とすることができる旨規定している。この規定の趣旨は,商標権を侵害する商品が販売されることによって商標権者の商品の販売が減少するという関係,すなわち侵害商標を付した商品が販売されていなければ需要が商標権者の商品に向けられたであろうという市場における代替関係を認め得る事情が存在する場合であっても,商標権を侵害する商品の販売によって減少した商標権者の販売数量を立証することが実際には困難であることに鑑み,その立証の困難を救済することにあると解される。このような規定の趣旨からすれば,同項による損害の算定し,「その侵害行為がなければ商標権者が自己の商品を販売することができた」というためには,侵害行為を組成した商品と商標権者の商品との間において,市場における代替関係が存在することが前提となるというべきである。
ところで,商標権は,商標それ自体に当然に商品価値が存在するのではなく,商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付くことによって初めて一定の価値が生ずるものであり,この点を抜きにして侵害行為を組成した商品と商標権者の商品との間に当然に代替関係が成立するということはできない。また,侵害行為を組成した商品と商標権者の商品とでは,商品自体の性能や効用及び販売の態様等が異なる場合もあり得るところ,そのような場合にも,侵害行為を組成した商品が販売されていなければ,需要が商標権者の商品に向けられ,商標権者の商品が購入されたという関係が当然に成り立つということはできない。
そうすると,商標法38条1項所定の「商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた」か否かについては,商標権者が侵害行為を組成した商品と同一の商品を販売しているか否か,販売している場合,その販売の態様はどのようなものであったか,当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して判断すべきである。
(イ) 本件についてこれを見るに,被告は,20年にわたりジェロヴィタール化粧品を輸入販売して,ルーマニアにおける輸出元とともに営業上の信用を築き上げたものであるところ,原告商品及び被告商品は,いずれも老化防止を目的とするアンチエージングを謳ったルーマニア製の基礎化粧品であり,商品としての範疇が同一である(乙50,57ないし60,104の1ないし13)。そして,原告商品と被告商品は,いずれも市場及び需要者が,一般の化粧品消費者,美容室,エステティックサロンなどであって,市場において競合する(乙64,86,弁論の全趣旨)。また,被告の取引先であった美容室ピュアノアや美容室ヘアワークスよしろうが被告商品から原告商品に切り替えたり,消費者が原告商品を被告商品と混同して問い合わせをしてきたこと(乙136,137)などの事実によれば,現実に市場における競合が生じたものということができる。
よって,原告商品と被告商品との間において,対応する商品のないセルライトクリームを除き,代替関係が存在するということができる。
(ウ) 原告は,被告商品と原告商品とでは,@ 重要な有効成分であるプロカイン誘導体を含有するか否かの点において相違する,A トニックローションでは価格差が大きい,B 容器外観のデザイン,材質など,購買意欲を刺激する要素が大きく異なる,C 販売先が異なるから,対象とする市場,需要者,営業活動の範囲が異なるなどと主張する(前記第3の8〔原告の主張〕(1))。
a しかしながら,プロカイン(ノボカイン)は我が国では化粧品に使用できず,これを含有する化粧品を我が国に輸入することはできないから,被告商品についてもこのような禁止成分は含まれていないと推認され(弁論の全趣旨),かかる成分を含有しないことを理由に市場代替性を否定することはできない。
b 原告商品の平成16年4月当時の小売価格と同年の被告商品の小売価格は,@ 原告のクレンジングミルクが100ml入りのもので8500円(税抜き価格。以下この項において同じ。),150ml入りのもので1万円であるのに対して被告のクレンジングミルク(200ml入り)が6000円(100ml当たり3000円,150ml当たり4500円),A 原告のトニックローションが100ml入りのもので7500円,150ml入りのもので9000円であるのに対して被告のフェイスローション(200ml入り)が1万円(100ml当たり5000円,150ml当たり7500円),B 原告のナリシング ナイトクリーム(50ml入り)が1万8000円,リンクルクリーム(30ml入り)が2万5000円であるのに対して被告のプラント ナリシングクリーム(50ml入り)が1万円(30ml当たり約6000円),C 原告のモイスチャーライジング デイクリーム(50ml入り)が1万8000円であるのに対して被告のフェイスクリーム(50ml入り)が1万5000円,D 原告のアイ スージング クリーム(30ml入り)が2万3000円であるのに対して被告のアイクリーム(15ml入り)が8800円(30ml当たり1万7600円),E 原告のヘアローション(容量不明。ジェロヴィタール社とGOTとの間の排他的供給契約書(甲14)の別表では200ml入りとされている。)が1万2000円であるのに対して被告のヘアローション(200ml入り)が1万5000円である(甲14の1,240の3,乙57ないし60,129)。
このように,原告商品は同容量の被告商品と比較すると,ヘアローションは原告商品の方が被告商品よりやや低い価格が付されているが,リンクルクリームを除く原告商品は,被告商品の1.2倍ないし約2.8倍の価格が付されている。原告商品と被告商品が属する商品の範疇にかんがみると,この程度の価格差は,市場を異にするほど大きなものではないということができる。
c 原告商品及び被告商品の容器外観は,いずれも通常の化粧品のそれを大きく逸脱するほどのものではないから(乙50,57ないし60,104の1ないし13),両者の容器外観の違いは市場代替性に影響を与えるほどのものではない。
d 前記のとおり,原告商品も被告商品も老化防止を目的とするアンチエージングを謳ったルーマニア製の基礎化粧品であり,同様の市場,需要者を相手に販売するものである。そうすると,原告商品と被告商品の価格差や販売ルートの差も市場代替性を否定するほど大きなものではない。
e 以上によれば,本件においては,原告の主張する上記事情は,商標法38条1項の適用を否定すべき事情ということはできない。よって,原告商品が販売されていなければ,商標権者である被告が被告商品を販売することができたというべきであり,商標法38条1項を適用すべきである。
(エ) 他方,以下の事情は,同項ただし書所定の「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を商標権者(中略)が販売することができないとする事情」として考慮すべき事情に当たるものと解される。
すなわち,原告は,合計約1440万円の広告宣伝費を投じ(被告が平成15年及び同16年に支出した広告宣伝費約188万円の約7.7倍),記者発表を行って商品を大々的に売り出し,原告商品がテレビや雑誌に取り上げられたものであり,フジテレビで放映された平成15年11月の月間売上げが最も多く(同年10月の月間売上げの3倍強),集中的に広告宣伝費を投じて営業活動を行った同年5月ないし7月は,直前の同年4月の月間売上げの約1.8倍ないし約2.8倍の月間売上げを上げている(甲84,240)。
このように,原告が多大な広告宣伝費を費やして原告商品を販売したもので,売上げが広告宣伝に伴って伸びていることによれば,原告商品の譲渡には原告の広告宣伝等の営業努力に起因する部分が大きいと考えられる。よって,被告商品1個分の容量当たりの原告商品の譲渡数量の2分の1に相当する数量については,被告が「販売することができないとする事情」があるものというべきである。
(オ) よって,以下,対応する被告商品のないセルライトクリームを除く商品については,商標法38条1項に基づき,セルライトクリームに関しては同条3項に基づき,損害額を算定する。
ウ 譲渡数量 前記1(6)ウのとおり,原告が平成15年2月15日から平成16年5月6日までにジェロヴィタール社から輸入し譲渡した,原告標章を付した化粧品(セルライトクリームを除く。)の個数は,別表1(別紙譲渡数量計算表)の該当欄記載のとおりである(なお,原告が輸入した化粧品の数量から,在庫の数量を減じた数量をもって,譲渡数量とした。)。
原告商品と被告商品の1個当たりの容量が異なるから,原告商品の譲渡数量を,対応する被告商品の種類及び容量に応じ,被告商品1個分の容量当たりの数量に引き直して算出すると,同別表の「被告商品1個分の容量当たりの原告の譲渡数量」欄記載のとおりとなり,セルライトクリーム以外の原告商品について,ここから商標法38条1項ただし書にいう「販売することができないとする事情」である2分の1の数量を控除すると,同別表の「当裁判所の判断」欄記載のとおりとなる。
エ 単位数量当たりの利益の額 (ア) 被告の平成15年度(平成14年11月1日ないし平成15年10月31日)及び同16年度(平成15年11月1日ないし平成16年10月31日)における化粧品に関する変動経費は,別表2(販売費及び一般管理費計算表)の「化粧品」欄記載のとおりであり,その合計額は,同別表の各「化粧品変動経費合計額」欄記載のとおりである(乙130,132ないし134)。よって,これらの期間における限界利益は,化粧品売上高から化粧品仕入高及び変動経費合計額を減じた額となるから,その限界利益率は,別表3(限界利益率計算表)の各「限界利益率」欄記載のとおり,平成15年度は55.01パーセント,同16年度は41.26パーセント(小数点第3位以下四捨五入。以下同じ。)となる。
上記期間は2年間と極めて短期間である上,平成15年度の限界利益率と同16年度の限界利益率とは大きく異なるから,損害額の算定に関しては,控え目に,小さい方の率である41.26パーセントを採用する。
(イ) 被告商品の譲渡単価は,別表4(譲渡単価計算表)の「譲渡単価」欄記載のとおりであり(弁論の全趣旨),被告商品の種別に応じた商品1個当たりの限界利益額は,これにそれぞれ41.26パーセントを乗じた,別表5(限界利益額計算表)の「1個当たり限界利益額・当裁判所の判断」欄記載のとおりとなる。
(ウ) 原告は,自己の事業は高級化粧品の販売であり,専門の営業担当者を雇用するなど人的な販売体制を確保することが必要不可欠で,給与手当等の人件費は被告が化粧品を販売するために必要不可欠な人的投資であるから,変動経費に当たり,変動経費として売上高から控除することが必要である旨を主張する。しかし,売上げを伸ばすために従業員等を増やしたり,教育・訓練を施すために余分な出費が通常必要であるのは高級化粧品の販売に限られないところ,人件費の伸びが直ちに対象となる商品の売上げにつながるとはいえず,むしろ売上げの増減にかかわらず人件費の支出が必要であるのが通常である。被告において,人件費の増加が売上げの増加と比例するような特別な関係を見出すことはできないから,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,租税公課,修繕費,減価償却費,顧問料,リース料についても,変動経費として売上高から控除すべきである旨を主張する。しかし,これらはいずれも売上げの増減と関係なく発生し得る性質のものであるというべきであるから,限界利益額の算出に当たって売上げから控除すべき費目とはいえない。
さらに,原告は,化粧品を売り出すために高額の広告宣伝費が必要であったから,相当な広告宣伝費を変動経費として売上げから控除すべきである旨を主張する。しかし,原告において多額の広告宣伝費の支出が必要であったのは,原告が新規に化粧品市場に参入する業者としてブランドイメージの早期確立が必要であったためにすぎないものと推認でき,かかる原告の主張を採用することはできない。
損害額 (ア) セルライトクリーム以外について 前記エの1個当たり限界利益額に前記ウの原告の譲渡数量を乗じると,別表6(損害額計算表)の(1)の「1種類当たり利益額・当裁判所の判断」欄記載のとおりとなり,合計942万7480円である。
(イ) セルライトクリームについて セルライトクリームについては,被告商品にはこれに厳密に対応するものがないので,商標法38条3項により,同商品への本件商標使用につき被告が原告から受けるべき金銭の額を計算することとする。
有限会社カレントの運営する楽天市場の通信販売のホームページ「RICH cosmetic department store」では,原告のセルライトクリームが,定価2万5000円,リッチ価格1万8900円で販売されているから(乙127),原告のセルライトクリームの譲渡単価は,被告の主張する1万7500円を下らないものと認められる(弁論の全趣旨)。
また,被告商品の性格,市場の状況その他本件に現れた事情を総合勘案すると,被告が受けるべき金銭の相当割合は,上記譲渡代金の3パーセントとみるのが相当である。
そうすると,原告のセルライトクリームの輸入,販売によって生じた被告の損害は,別表6(損害額計算表)の(2)のとおり,この譲渡単価に譲渡数量(前記1(6)ウのとおり,500個と認める。)及びかかる割合を乗じた26万2500円となる。
(ウ) 結局,原告商品の輸入,販売行為によって被告に生じた損害は,上記(ア)(イ)の合計額である968万9980円となる。
カ 弁護士費用等 原告による商標権侵害行為と相当因果関係のある,原告が負担すべき被告の弁護士費用等の訴訟追行に必要な費用の相当額は,本件訴訟の事案の性格,知的財産権訴訟であることによる難易度,ルーマニア語による書証の提出等の訴訟に現れた一切の諸事情を総合勘案すると,150万円をもって相当というべきである。
損害額の合計 以上によれば,原告の商標権侵害による損害額は,上記オ及びカの合計1118万9980円である。
7 争点(4)(不当訴訟に基づく請求)について (1) 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者が主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解される(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。
商標権者が提訴者の行為につき商標権侵害である旨の告知・流布をしたことに対し,自己の行為が商標権侵害に当たらないとの見解に立って,商標権者の告知・流布行為が不正競争防止法2条1項14号に該当すると主張して差止め及び損害賠償請求の訴えを提起した場合に,商標権者の告知・流布行為が同号所定の不正競争行為に当たらないと判断されて,上記請求が棄却されたときであっても,その一事をもって訴えの提起が商標権者に対する違法な行為であるということはできない。
なぜなら,訴えを提起する際に,提訴者において,自己が主張しようとする権利の事実的,法律的基礎につき,高度の調査,検討を要するものととすると,裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり,提訴者の裁判を受ける権利を害することになるからである。
とりわけ,本件において被告の告知・流布行為が不正競争行為に当たるか否かの判断において重要なのは,被告の本件各商標権に無効理由が存在するか否かであるところ,当該商標権に無効理由が存在するか否かは,極めて専門的な事項である。
そうすると,当該訴えに事実的,法律的根拠が全くなく,原告において被告の行為が不正競争行為に当たらないことが明らかであることを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず,あえて訴えを提起した場合でない限り,訴えの提起が違法な行為に当たるとはいえないものと解される。
(2) 被告は,原告がジェロヴィタール社からの化粧品の輸入を開始する前に,被告の本件各商標権を認識していたから,被告の商標権を侵害することを認識しながら,本訴を提起したもので,被告に対する不法行為に当たるなどと主張する。
しかし,前記1(6)認定のとおり,原告は,ルーマニアにおける商標権者の1人であるジェロヴィタール社との間の我が国において「GEROVITAL H3 Prof. Dr. A. Aslan」を使用する権利を有することを内容とする契約上の地位を譲り受け,また原告はジェロヴィタール社との間で我が国で「GEROVITAL H3 Prof. Dr. A. Aslan」を商標登録できるよう最善の努力を尽くす旨を合意したものである。
そして,原告が本訴を提起したのは,前記1(7)認定のとおり,被告がGOTに対する仮処分命令を申し立てたため,GOTから契約上の地位を承継した原告にとって,その対抗上必要であったからであると推認できる。また,前記1(5)の登録異議申立ての理由と本訴の請求原因とはその構成が異なり,前者が成り立たないからといって後者の理由が当然に成り立たないという関係には立たず,前者を調査すれば本訴提起に理由がないことを容易に知り得たとはいい難い。そして,被告が税関に対して輸入差止めを申し立て,これが認められたからといって,遡って本訴提起に理由のないことが明らかになり,これが違法になるわけでもない。
(3) そうすると,裁判を受ける権利の重要性にもかんがみると,原告による本訴提起に事実的,法律的根拠が全くなく,原告がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて本訴を提起したなど,本訴提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまではいい難い。
結局,原告の本訴提起が被告に対する不法行為を構成するということはできない。
8 結論 以上のとおり,原告商品の輸入販売等の行為は被告の商標権を侵害する行為であるから,被告の原告に対する商標権に基づく差止め及び廃棄請求は理由がある。また,被告の原告に対する商標権侵害に基づく損害賠償請求は主文掲記の金額の限度で理由があり,その余は理由がない。被告の原告に対する謝罪広告の掲載請求及び不当訴訟を理由とする損害賠償請求は理由がない。
他方,被告の告知・流布行為が不正競争行為に当たるとはいえないから,原告の被告に対する本訴請求は理由がない。
以上の次第で,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)標章目録1-11-21-32-12-23-13-23-34-14-24-356-16-26-36-4(別紙)商品目録1乾燥肌用保湿日中用クリーム(モイスチャライジングデイクリーム・ドライスキン用)2乾燥肌用夜用栄養クリーム(ナリッシングナイトクリーム・ドライスキン用)3目もと用クリーム(リンクルディファイングクリーム)4目用沈静化クリーム(アイスージングクリーム)5乾燥肌用強壮化粧水(トニックローション・ドライスキン用)6乾燥肌用洗顔乳液(クレンジングミルク・ドライスキン用)(別紙)商標権目録1登録番号第1669925号出願番号昭和54-021645商標登録年月日昭和59年3月22日出願年月日昭和54年3月26日類別旧第4類指定商品化粧品,その他本類に属する商品権利者株式会社ジーエイチスリールーマニア2登録番号第1950727号出願番号昭和56-084197商標登録年月日昭和62年4月30日出願年月日昭和56年10月8日類別旧第4類指定商品せっけん類(薬剤に属するものを除く),歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く),香料類権利者株式会社ジーエイチスリールーマニア3登録番号商標第4214319号商標登録年月日平成10年11月27日出願年月日平成9年5月2日類別第3類指定商品せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き権利者株式会社ジーエイチスリールーマニア4登録番号商標第4658466号商標登録年月日平成15年4月4日出願年月日平成14年4月12日類別第3類指定商品家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,つけまつげ用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,塗料用剥離剤,靴クリーム,靴墨,つや出し剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,つけづめ,つけまつ毛権利者株式会社ジーエイチスリールーマニア(別紙)謝罪広告目録謝罪広告当社は,ルーマニア法人ジェロヴィタールコスメティクスエスエーとともに,貴社の登録商標「ジェロビタールH3」,「アナアスラン」と呼称が同一である「ジェロビタールH3」,「アナアスラン」等を付した化粧品の販売,輸入をしておりましたが,右各標章はいずれも貴社の商標権を侵害するものであり,当社商品が貴社商品であるかのような印象を一般消費者に与え貴社の営業上の利益を害する行為を行いました。今後は,このような商標権侵害行為を決して行わないことを誓約し,ここに謹んで陳謝の意を表します。
(所在地省略)株式会社ヴァリーエントランス代表者代表取締役G株式会社ジーエイチスリールーマニア御中掲載条件読売新聞,朝日新聞の各紙全国版社会面広告欄に各1回ずつ大きさ5センチメートル×2段ぬき見出し及び反訴原告名は倍活字(別紙)ジェロヴィタール商標目録123456789(別表1)譲渡数量計算表商品名容量(ml)輸入数量(個)在庫数量(個)譲渡数量(個)対応する被告商品の容量(ml)被告商品1個分の容量当たりの原告の譲渡数量(個)クレンジングミルク1001,500361,464200732クレンジングミルク1503002298200224トニックローション1001,860271,833200917トニックローション15060052548200411ナイトクリーム503,741353,706503,706リンクルクリーム302,624382,586501,552デイクリーム501,934791,855501,855アイクリーム301,400261,374152,748ヘアローション不明60044556200556セルライトクリーム不明5000500なし(注1)被告商品のマスクに対応する原告商品はない。
(注2)ジェロヴィタール社とGOTとの間の排他的供給契約書(甲14)の別表では,ヘアローションの容量は200mlとなっている。
(別表2)販売費及び一般管理費計算表(平成14年11月1日ないし平成15年10月31日)費用内訳費目合計額(円)固定費(円)化粧品(円)旅行(円)給与手当20,216,80020,216,80000退職金481,000481,00000法定福利費2,171,3102,171,31000福利厚生費218,206218,20600雑給120,000120,00000広告宣伝費824,0460824,0460荷造運賃360,3300360,3300販売促進費62,642062,6420業務委託料4,095,59604,095,5960水道光熱費107,423107,42300消耗品費2,294,83002,294,8300地代家賃1,207,4701,207,47000保険料527,5580477,78849,770修繕費655,072655,07200租税公課743,900743,90000原価償却費1,438,8251,438,82500接待交通費1,353,02801,353,0280旅費交通費6,556,75306,263,243293,510通信費1,738,30601,738,3060顧問料1,997,5271,997,52700会議費272,237272,23700図書費93,06393,06300リース料392,964392,96400雑費4,066,13003,967,99398,137小計51,995,01630,115,79721,437,802441,417化粧品変動経費合計額(円)21,437,802販売費及び一般管理費計算表(平成15年11月1日ないし平成16年10月31日)費用内訳費目合計額(円)固定費(円)化粧品(円)旅行(円)給与手当21,385,80021,385,80000退職金0000法定福利費1,935,9931,935,99300福利厚生費259,697259,69700雑給0000広告宣伝費1,060,76301,060,7630荷造運賃408,2910408,2910販売促進費567,7380567,7380業務委託料15,584,023015,584,0230水道光熱費128,600128,60000消耗品費1,884,57301,884,5730地代家賃1,317,2401,317,24000保険料636,2350611,45524,780修繕費198,932198,93200租税公課982,200982,20000原価償却費970,302970,30200接待交通費1,335,36701,335,3670旅費交通費5,130,29705,019,797110,500通信費1,578,55201,578,5520顧問料2,477,7612,477,76100会議費215,559215,55900図書費93,62593,62500リース料344,862344,86200雑費1,651,51601,555,68995,827小計60,147,92630,310,57129,606,248231,107化粧品変動経費合計額(円)29,606,248(別表3)限界利益率計算表(1)平成14年11月1日ないし平成15年10月31日総売上高90,717,000総仕入高24,349,741(化粧品売上高)78,270,655(化粧品仕入高)13,774,994化粧品売上総利益64,495,661変動経費額21,437,802限界利益率55.01%(2)平成15年11月1日ないし平成16年10月31日総売上高83,407,552総仕入高25,406,881(化粧品売上高)66,946,908(化粧品仕入高)9,716,773化粧品売上総利益57,230,135変動経費額29,606,248限界利益率41.26%(別表4)譲渡単価計算表商品名譲渡数量(個)売上高(円)譲渡単価(円)クレンジングミルク2,2364,345,6001,943フェイスローション7,29725,731,8553,526プラントナリシングクリーム1,4474,730,9403,269フェイスクリーム12,73676,077,4855,973アイクリーム3,2769,390,1802,866フェイスマスク2,1688,133,3403,752リジェネレイティングマスク1,5034,045,9202,692ヘアローション2,36912,762,4105,387合計33,032145,217,730(別表5)限界利益額計算表商品名容量(ml)譲渡単価(円)1個当たり限界利益額被告の主張(円)当裁判所の判断(円)クレンジングミルク2001,943935802フェイスローション2003,5261,6971,455プラントナリシングクリーム503,2691,5741,349フェイスクリーム505,9732,8752,464アイクリーム152,8661,3801,183フェイスマスク3,7521,8061,548リジェネレイティングマスク2,6921,2961,111ヘアローション2005,3872,5932,223(別表6)損害額計算表(1)商品名容量(ml)原告の譲渡数量(個)1個当たり限界利益額(円)1種類当たり利益額(円)被告主張当裁判所の判断被告主張当裁判所の断クレンジングミルク100366935802684,420293,53クレンジングミルク150112935802209,44089,82トニックローション1004591,6971,4551,556,149667,84トニックローション1502061,6971,455697,467299,73ナイトクリーム501,8531,5741,3495,833,2442,499,69リンクルクリーム307761,5741,3492,442,8481,046,82デイクリーム509282,8752,4645,333,1252,286,59アイクリーム301,3741,3801,1833,792,2401,625,44ヘアローション2782,5932,2231,441,708617,99合計21,990,6419,427,48(2)商品名譲渡数量(個)譲渡単価(円)ロイヤリティ相当額(3%,単位円)1種類当たり利益額(円)セルライトクリーム50017,500525262,500損害額総合計(円)9,689,980
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 中島基至
裁判官 田邉実