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関連審決 審判1999-35727
関連ワード 指定商品 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  存続期間 /  更新登録 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 198号 審決取消請求事件
原告 コンド・ナスト・アジア・パシフィック・インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士 島田義勝
同 水谷安男
被告 株式会社円谷プロダクション
同訴訟代理人弁理士 高田修治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/10/16
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第35727号事件について平成13年12月26日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が,特許庁に対し,被告の登録商標について,商標法4条1項15号に違反して登録されたものであると主張して,同法46条1項1号に基づき,商標登録を無効にする審判を請求したところ,特許庁が,同審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことから,原告が,被告に対し,同審決の取消を求めた事案である。
1 争いのない事実等 (1) 被告は,平成10年4月15日,片仮名文字「ゾンボーグ」を標準文字とする構成から成る商標(以下「本件商標」という)につき,指定商品を商標法施行令別表の第28類「遊戯用器具,ビリヤード用具,囲碁用具,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,マージャン用具,おもちゃ,人形,運動用具,釣り具」として,登録出願を行い,特許庁から,同11年6月18日,その設定登録(商標登録第4285636号)を受けた。
(2) アメリカ合衆国ニューヨーク州所在のザ・コンド・ナスト・パブリケーシヨンズ・インコーポレーテツド(以下「コンドナスト社」という)は,昭和36年10月23日,欧文字「VOGUE」とする構成から成る商標(,以下「引用商標」という)につき,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表の第26類「印刷物,ただし,この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」として,登録出願を行い,特許庁から,同39年10月9日,その設定登録(商標登録第655209号)を受け,その後,同商標は,同50年8月1日,同59年9月17日及び平成6年9月29日の3回存続期間更新登録されている。引用商標に係る商標権については,平成3年8月26日,コンドナスト社から,同社を買収したアメリカ合衆国ニューヨーク州所在のアドバンス・マガジン・パブリツシヤーズ・インコーポレーテツド(以下「アドバンス社」という)に移転し,同9年6月9日,アドバンス社の関連会社である原告に移転した(甲5)。
引用商標は,コンドナスト社によって明治25年アメリカ合衆国ニューヨークで創刊されたファッション雑誌「VOGUE」誌の題号として,世界的に有名であり,わが国においても,流行の被服,靴,鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間において,広く認識されているものであって,周知著名性が高い。
(3) 原告は,特許庁に対し,平成11年12月6日,被告を被請求人として,本件商標がその指定商品に使用された場合,取引者及び需要者において,引用商標との関係で,その商品について,原告又はこれと何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し,商品の出所の混同を生ずるおそれがあるから,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものであると主張して,同法46条1項1号に基づき,本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。
(4) 特許庁は,平成13年12月26日,本件商標について,商標法4条1項15号に違反して登録されたものとはいえないと判断して,上記審判請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という)を行い(出訴期間として90日を附加),同14年1月9日,上記審決の謄本が原告に送達されたことから,原告は,被告に対し,同年4月23日,本件審決の取消を求める本件訴訟を提起した。
2 争点 原告主張の取消事由に関して,本件商標は,商標法4条1項15号に規定されている「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するか否か。
(1) 原告の主張 ア 本件商標は,引用商標の称呼を片仮名表記した「ボーグ」を含むものであるため,引用商標又は「ボーグ」と外観,称呼及び観念において類似する。
イ 「ボーグ」は,本件商標の出願前ないし登録査定時において,引用商標の片仮名表記として,ファッション関連商品の取引者及び需要者の間で周知著名になっていた。
ウ 本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等は,遅くとも昭和60年ころから,ファッション関連商品になっているのであるから,これらは,ファッション雑誌「VOGUE」誌が取り扱っているファッション関連商品との関係で,その用途又は目的において,広く関連性を生じている。
エ 本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等の取引者及び需要者とファッション関連商品の取引者及び需要者は,全ての老若男女を含む一般大衆である点で共通している。
オ 以上によれば,本件商標をその指定商品である「おもちゃ,人形」等に使用した場合,これに接した取引者及び需要者である一般大衆は,ファッション誌「VOGUE」誌を連想し,上記商品が,原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品ではないかと,その出所について誤認混同するおそれがある。
カ しかるに,本件審決は,本件商標のうち「ボーグ」という部分は引用商標とその態様を異にする,引用商標の片仮名表記としての「ヴォーグ」とは異なり,同「ボーグ」は周知著名とは認めがたい,「おもちゃ,人形」等はファッション関連商品に含まれないなどとした上で,本件商標を上記指定商品に使用しても,上記「VOGUE」誌を想起するものとはいえないから,商品の出所について混同を生ずるおそれはないとして,その判断を誤ったものであり,取消を免れない。
(2) 被告の反論 ア 本件商標は,外観上,称呼上,観念上いずれの点からも,不可分一体にのみ認識され,簡易迅速性を重んじる取引の実際においても,その一部分である「ボーグ」だけによって簡略に表記ないし称呼されることはない。
イ 原告は,引用商標の片仮名表記として専ら「ヴォーグ」を用いており,「ボーグ」を用いていないことから,「ボーグ」という片仮名表記が,引用商標又は「ヴォーグ」と同様に,わが国におけるファッション関連商品の取引者及び需要者の間に,広く認識されているとは認められない。
ウ 本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等と引用商標が使用されているファッション雑誌とは全く関連性がない。
また,ファッション関連商品というのは,一般に,流行の被服,靴,鞄及び時計等の服飾品を指称するものであるから,「おもちゃ,人形」等は含まれず,仮に含まれるとしても,その関連性は薄い。
エ しかも,本件商品の指定商品である「おもちゃ,人形」等とファッション雑誌又はファッション関連商品とは,その製造部門,販売・流通部門を異にし,購買・消費者層も相違する。
オ 以上によれば,本件商標が,これに接した取引者及び需要者に対し,引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせることはない。
争点に対する判断
1 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品等が他人の商品又は役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
2 これを本件について見ると,次のとおりである。
(1) 本件商標と引用商標及び「ボーグ」との類似性の程度 ア 証拠(甲8から12,13から52の各(1)(2),53から63,66)及び弁論の全趣旨によれば,「VOGUE」は,流行やファッションを意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるところ,その片仮名表記としては,「ヴォーグ」と「ボーグ」の2通りがあるものの,わが国では,「ヴォ」と「ボ」の発音を明確に区別することが困難であるために,「ボーグ」という片仮名表記が用いられることが多く,ファッション雑誌「VOGUE」誌の片仮名表記としても,新聞や辞書等においては,「ボーグ」が用いられることが多かったことから,「ボーグ」は,本件商標の出願前ないし登録査定時において,わが国における流行の被服,靴,鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間で,ファッション雑誌「VOGUE」誌の片仮名表記として広く認識されていたことが認められる。
この点,本件商標は,「ボーグ」という片仮名部分をその構成の一部に含むところ,「ゾン」という片仮名部分に,顕著な出所表示力があるわけではなく,また,引用商標の連想を阻害する要素があるわけでもないことに照らすと,本件商標においては,「ボーグ」という部分に,取引者及び需要者の注意を引きやすい要素があるというべきである。
したがって,本件商標と引用商標との間には,称呼,観念において類似しているところがあると一応いうことができ,また,本件商標と引用商標の片仮名表記である「ボーグ」との間には,称呼,外観,観念において類似しているところがあると一応いうことができる。
イ しかしながら,本件商標は,その構成の一部に引用商標である「VOGUE」という部分を含むわけではないから,本件商標と引用商標との間には,外観において明確な相違がある。
また,本件商標は,片仮名文字で5字から成る外観及び称呼がごく短い商標であり,同じ書体,大きさの標準文字で等間隔に表されていて外観上まとまりよく一体的に看取し得るばかりでなく,「ゾン」という片仮名部分が独立して何らかの意味を有するものとは看取し難いことに照らすと,簡易迅速性を重んじる取引の実際において,本件商標について,わざわざ「ゾン」という片仮名部分と「ボーグ」という片仮名部分の2つに区分し,「ボーグ」という片仮名部分のみによって簡略に表記ないし称呼される必然性は,乏しいというべきであるから,本件商標と引用商標との間の称呼の類似,本件商標と引用商標の片仮名表記である「ボーグ」との間の称呼及び外観の類似は,いずれも限定的なものというべきである。
さらに,本件商標については,上記のとおり,独立した何らかの意味を有するものとは看取し難い「ゾン」という片仮名部分が,「ボーグ」という片仮名部分に結合しており,しかも,外観上まとまりよく一体的に看取し得るものであるため,全体として,特定の観念を持たない造語との印象も有しているのに対し,引用商標及び引用商標の片仮名表記である「ボーグ」については,「VOGUE」が上記のとおり,流行やファッションを意味するものであるため,流行やファッションという特定の観念を有しているというべきである。しかも,わが国における外来語の片仮名表記においては,当該外来語中の子音が「B」であるか,「V」であるかに応じて,意識的に,「ボ」と「ヴォ」とを使い分けることがあるため(甲8から10,12),「ボーグ」からは,「B」で始まる欧文字列の外来語を片仮名表記したものではないかとの想像が生じうるのみならず,証拠(甲66,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,改造人間等が登場する子供向けテレビ番組等における改造人間等の名付けの方法として,著名な「サイボーグ(CYBORG)」という既成語のイメージを活かして,「ボーグ(BORG)」の文字の前に他の文字を結合させて造語を形成することがしばしば行われているものと認められることに照らすと,本件商標の中の「ボーグ」という片仮名部分は,「サイボーグ」という既成語の中の「ボーグ」という部分に由来するとも観念しうるところである。したがって,本件商標と引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」との間の観念の類似は,限定的なものというべきである。
(2) 引用商標及び「ボーグ」の周知著名性及び独創性の程度 ア 上記争いのない事実等(2)のとおり,引用商標は,コンドナスト社によって明治25年アメリカ合衆国ニューヨークで創刊されたファッション雑誌「VOGUE」誌の題号として,世界的に有名であり,わが国においても,流行の被服,靴,鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間において,広く認識されているものであって,周知著名性が高く,また,上記(1)ア認定のとおり,「ボーグ」は,わが国における流行の被服,靴,鞄及び時計等の服飾品の取引者及び需要者の間で,引用商標の片仮名表記として広く認識されていたものであるから,引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」は,いずれも周知著名性が高いというべきである。
イ しかしながら,上記(1)アのとおり,「VOGUE」は,流行やファッションを意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるから,引用商標の独創性の程度は,造語による商標とは異なり,相当程度低いといわざるを得ない。
(3) 本件商標の指定商品と原告又はその関連会社の業務に係る商品との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等 ア 本件商標の指定商品は,上記争いのない事実等(1)のとおり,「おもちゃ,人形」等であるところ,証拠(甲81〜93の各(1)(2))及び弁論の全趣旨によれば,色や柄の斬新なヨーヨーの流行,携帯電話に付けるキャラクター人形等の普及,着替人形の普及やフィギュア(大人向けのキャラクター人形)の流行等に伴い,おもちゃや人形を所持又は携帯することがファッションの一部と認識される場合が生じるようになっていること,また,テレビ番組に登場する人気キャラクターのコスチュームを再現した子供向けの服飾品がおもちゃ売り場で販売されていることの各事実が認められるから,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等については,ファッションに関連する場合があるというべきである。
これに対し,原告又はその関連会社であるアドバンス社の業務に係る商品は,上記争いのない事実等(2)のとおり,ファッション雑誌「VOGUE」誌であるところ,証拠(甲94)及び弁論の全趣旨によれば,ファッション雑誌「VOGUE」誌は,流行の被服,靴,鞄及び時計等の服飾品に加え,ファッションに関連する雑貨等を取り扱う場合のあることが認められる。
したがって,両者の商品の間には,ファッションという用途又は目的において,関連性が認められる場合があるというべきである。
また,このことから,両者の商品の取引者及び需要者についても,共通する場合があるというべきである。
しかも,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等が日常的に消費される性質の商品であることや,その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると,これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものではないと見なければならない。
イ しかしながら,本件全証拠をもってしても,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等を所持又は携帯することが,一般的に,ファッションの一部であると認識されるようになっているとまでは認められず,また,服飾品がおもちゃ売り場で販売されることが,上記のような子供向けの特殊な服飾品を超えて,一般的な販売形態になっているとまでは認められないことに照らすと,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等とファッション雑誌「VOGUE」誌との間のファッションという用途又は目的における関連性は,相当程度弱いものというべきである。
また,このことから,両者の商品の取引者及び需要者についても,共通性は,相当程度弱いものというべきである。
3 以上によれば,確かに,本件商標と引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」とは,称呼,外観及び観念において類似しているところがあると一応いうことができ,また,引用商標とその片仮名表記である「ボーグ」については,いずれも高い周知著名性を有しているというべきであり,さらに,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等とファッション雑誌「VOGUE」誌との間には,ファッションという用途又は目的において,関連性が認められる場合があるというべきである。しかも,両商品の取引者及び需要者についても,共通する場合があるというべきであり,加えて,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等を購入するに際して払われる需要者の注意力はさほど高いものではないと見なければならない。しかしながら,他方,本件商標と引用商標及びその片仮名表記である「ボーグ」との間の上記類似の程度は,限定的というべきであり,また,引用商標の独創性は,相当程度低いといわざるをえず,さらに,本件商標の指定商品である「おもちゃ,人形」等とファッション雑誌「VOGUE」誌との間のファッションという用途又は目的における関連性の程度は,相当程度弱いというべきであり,しかも,両商品の取引者及び需要者の共通性の程度も,相当程度弱いというべきである。したがって,これらの各事情を総合的に考慮するならば,本件商標が,これに接した取引者及び需要者に対し,引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるということはできないというべきであり,また,その商標登録を認めた場合に,引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果が招来されるということもできないというべきである。
そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号に規定されている「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当しないというべきである。
4 以上によれば,本件商標の商標登録を無効にする審判請求は成り立たないとした本件審決は,結論において相当というべきである。よって,原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 絹川泰毅