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関連審決 審判1999-17263
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  先願主義 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  狭義の混同 /  4条1項15号 /  著名商標 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  結合商標 /  専用使用権 /  取引の実情 /  国内 /  補正 /  使用許諾 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 308号 審決取消請求事件
原告 上野衣料株式会社
訴訟代理人弁護士 田倉整
同 伊藤昌毅
同 弁理士 田村公總
同 山内淳三
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 中島容伸
同 宮川久成
被告補助参加人 ザ ポロ/ローレンカンパニー リミテ ッド パートナーシップ
訴訟代理人弁護士 松尾眞
同 兼松 由理子
同 上村 真一郎
同 岩波修
同 西山哲宏
同 弁理士 曾我道照
同 黒岩徹夫
同 岡田稔
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第17263号事件について平成12年7月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成5年6月18日、別添審決謄本別掲のとおり、「Polo Club」の欧文字を手書き風に書してなり、指定商品を商標法施行令別表の区分による第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽、和服、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、足袋、足袋カバー、手袋、布製幼児用おしめ、ネクタイ、ネッカチーフ、
マフラー、耳覆い、ずきん、すげがさ、ナイトキャップ、ヘルメット、帽子、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、靴類(『靴合わせくぎ、靴くぎ、
靴の引き手、靴びょう、靴保護金具』を除く。)、げた、草履類、運動用特殊衣類、運動用特殊靴(『乗馬靴』を除く。)、乗馬靴」(ただし、平成12年4月18日付け補正書をもって、「ガーター」以下は削除)とする商標(以下「本願商標」という。)につき、商標登録出願(商願平5-60987号)をしたが、平成11年9月24日に拒絶査定を受けたので、同年10月22日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第17263号事件として審理した上、
平成12年7月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月21日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、「Polo」の文字とともに「by RALPH LAUREN」の文字及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形の各商標(以下「引用商標」という。)は、ラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたところ、本願商標をその指定商品について使用する場合に、これに接する取引者、需要者は、本願商標中の「Polo」の文字に注目して、引用商標を連想し、その商品がラルフ・ローレン又は同人と組織的、経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのようにその出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項15号に該当し、商標登録を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は、ラルフ・ローレンに係る引用商標の著名性の認定を誤る(取消事由1)とともに、本願商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれについての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用商標の著名性の認定の誤り) (1) 審決は、「我が国においては、本願商標の出願時には既にラルフ・ローレンのデザインに係る商品を表示するものとして引用商標が取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められ、その状態は現在においても継続しているというのが相当である」(審決謄本3頁10行目〜13行目)と認定するが、誤りである。
(2) まず、審決の上記認定の根拠とされている証拠のほとんどすべてが昭和50年代のものであり、その当時の事実を摘示することによって現在における引用商標の周知性、著名性を認定するものであるから、客観的根拠を欠くというべきである。
(3) また、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、それ自体としては、以下のとおり、一般的に用いられている用語にすぎず、商標としての出所識別力には乏しいというべきである。
ア 「POLO」の文字からなる商標は、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による第43類(以下「旧第43類」などと表記する。)「砂糖、菓子、その他本類に属する商品」とする商標登録第509040号商標(昭和32年10月18日設定登録、現商標権者・ソシエテ デ プロデュイ ネッスル エス アー)〔甲第1041号証の1、2〕、指定商品を旧第12類「自動車、自動車の部品および附属品(自動車のタイヤ、チューブを除く)」とする商標登録第600030号の2商標(昭和37年10月29日設定登録、現商標権者・フォルクスワーゲン アクチエンゲゼルシャフト)〔甲1040号証の1、
2〕のように、ラルフ・ローレンに係る「Polo」商標が我が国において使用されるようになったという昭和52年以前から、様々な分野で商標登録がされ、現実に使用されていた。
イ 衣料品の分野において、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、
「ポロシャツ」を示す普通名称として広く使用されているものにすぎず、このことは、多くの衣料品のカタログ(甲第26号証等)の記載からも明らかである。
ウ また、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、我が国でもよく知られているポロ競技を示す一般的な用語にすぎない。
(4) さらに、原告は、別紙「ポロクラブ関連商標」1〜5記載の商標(以下「ポロクラブ関連商標」といい、個別には、その番号に対応して「ポロクラブ関連商標1」などと表記する。)の商標権を有しているところ、その登録出願当初から当該商標を背広等に使用し今日に至っている。加えて、ポロ・ビーシーエス株式会社は、「POLO」の文字からなり、指定商品を旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く)、布製身回品(他の類に属するものを除く)、寝具類(寝台を除く)」とする商標登録第2721189号商標(昭和56年4月6日登録出願、平成9年5月2日設定登録)〔甲第1024、第1025号証〕を有し、13社に及ぶライセンシーによる多種の商品が大量に販売されている。
これに対し、引用商標は、「Polo by RALPH LAUREN」と図形との結合商標であって、その略称としての「Polo」がラルフ・ローレンないし被告補助参加人(以下単に「補助参加人」という。)に係る出所標識として著名になっているとはいえない。
2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り) (1) 審決は、「引用商標が著名であることに照らせば、本願商標に接する需要者、取引者は、その構成中の『Polo』の文字に注目し、引用商標を連想、想起するというのが相当である。してみれば、本願商標をその指定商品に使用する場合に、
これに接する取引者、需要者は・・・ラルフ・ローレン又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのようにその出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない」(審決謄本3頁18行目〜25行目)と判断するが、誤りである。
(2) 以下に述べるとおり、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」は、我が国の代表的な著名ブランドと認識されており、その著名性はラルフ・ローレンの引用商標をしのぐものである。
ア ポロクラブ関連商標を付した商品の売上は、平成元年100億円、平成2年150億円、平成3年220億円、平成4年280億円と推移し、その間の累積売上高は750億円に達し、その売上規模は有力デザイナーズブランドと肩を並べるものとされていた。さらに、原告は、その前後を通じて、「Polo Club」、「ポロクラブ」について、テレビ、新聞、看板、イベント等各種の媒体を用いて宣伝を行っており、その累計の広告宣伝費は18億円を超えており、現在、ポロクラブ関連商標を付した商品の合計売上高は、年間300億円程度、累計の売上高は3000億円を超える。
イ このような宣伝広告及び販売実績を通じて、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」の知名率等は、各種の調査において極めて高い数字が示されている。
すなわち、平成6年11月1日ボイス情報株式会社発行の「’95ライセンスブランド&キャラクター名鑑」(甲第802号証)では、「ポロクラブ」の総合知名率ランキングを17位(78.6%)としており、平成8年6月24日同社発行の「’96ブランド&キャラクター調査」(甲第863号証)では、「ポロクラブ」の売上高ランキングを23位(280億円)、総合知名率ランキングを16位(80.6%)としており、平成8年10月28日株式会社矢野経済研究所発行の「1996年版ライセンスブランド全調査」(甲第862号証)では、「ポロクラブ」の売上高ランキングを19位(176.5億円)としており、平成10年4月30日ボイス情報株式会社発行の「’98ブランド&キャラクター調査」(甲第1022号証)では、「ポロクラブ」の知名率ランキングを10位(69.8%)としている。
ウ また、特許庁は、平成4〜5年ころ、「RODEO POLO CLUB/ロデオポロクラブ」等の商標登録出願に対して、ポロクラブ関連商標の周知性を根拠とする拒絶査定を行っており、その理由として、「本願商標を構成する『POLO CLUB』の文字は、東京都千代田区<以下略>に所在する『上野衣料株式会社』が商品『被服』に使用してこの種業界で周知になっている商標と認められる」などと記載している(甲第1033〜第1036号証)。
エ 以上の事実関係からして、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、
「ポロクラブ」は、遅くとも平成4年ないし平成5年3月ころまでには著名性を確立し、その著名性が現在に至るまで継続していることは明らかである。
(3) 本願商標「Polo Club 」は、書体上の相違があるほか、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」と社会通念上同一性のある構成であり、指定商品もポロクラブ関連商標と大部分を共通にするものであるから、本願商標に接した取引者、需要者は、上記のとおり著名なポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」を直ちに想起するのが自然である。著名な「Polo Club」の存在にもかかわらず、審決の判断するように、取引者、需要者が本願商標中の「Polo」の部分のみに着目してラルフ・ローレンに係る引用商標を想起するなどということはあり得ない。このことは、著名商標が併存する場合に相互に商品の出所混同のおそれが生じないとする東京高裁平成3年10月24日判決(判例時報1428号131頁)及びこれを維持した最高裁平成4年7月17日第二小法廷判決にも示されているとおりである。
(4) さらに、ポロクラブ関連商標1は昭和46年に登録出願され、昭和49年に設定登録されているところ、これは、ラルフ・ローレンに係る引用商標が我が国で使用されるようになったという昭和52年ころに先行する。このような先行商標と同一又は類似する商標と、これに後れて使用されるようになった商標との関係での商標法4条1項15号の適用に際しては、商標法の先願主義との整合性から、先行する商標の優位性が認められてしかるべきであり、具体的には、同号該当性の判断においては、後れて使用されるようになった商標の著名性を厳格に認定し、混同可能性についても狭義の混同可能性に限定するなど、厳格な解釈が行われるべきである。
なお、ポロ・ビーシーエス株式会社が、「POLO」の文字からなり、指定商品を被服等とする商標登録第2721189号商標を有していることは前述のとおりであるところ、補助参加人は、ポロ・ビーシーエス株式会社の前主である公冠販売株式会社から同商標の使用許諾を受けている。これは、補助参加人が、「POLO」の商標が補助参加人に帰属するものでないことを自認していたことを示すものである。
被告及び補助参加人の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(引用商標の著名性の認定の誤り)について (1) アメリカ合衆国在住のデザイナーであるラルフ・ローレンは、1967年(昭和42年)に幅広ネクタイをデザインして注目され、1970年(昭和45年)と1973年(昭和48年)には服飾業界で最も名誉とされる「コティ賞」を受賞し、さらに1974年(昭和49年)、映画「華麗なるギャッツビー」の主演俳優ロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したことから同国を代表するデザイナーとしての地位を確立した。このころから、ラルフ・ローレンの名前は我が国の服飾業界においても広く知られるようになり、そのデザインに係る一群の商品には、引用商標が使用され、これらは「ポロ」、「Polo」又は「POLO」の略称で呼ばれるようになった。
すなわち、引用商標は、我が国において、遅くとも、本願商標の登録出願(平成5年6月18日)前までには、ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等を表示するものとして、「ポロ」、「Polo」又は「POLO」の略称で、取引者、需要者の間に広く認識されるに至り、その認識の度合いは現在においても継続しているものであり、これと同旨をいう審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、「POLO」の文字からなる商標は、様々な分野で商標登録がされ、
現実に使用されていた旨主張するが、それらの商標がファッション関連商品において周知又は著名となっている事実はない。また、原告は、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、衣料品の分野においては「ポロシャツ」を示す普通名称であり、一般的にも我が国でもよく知られているポロ競技を示す用語である旨主張するが、本願商標の指定商品中、ポロシャツ以外のものについては、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」がポロシャツを認識させることはあり得ないし、また、ポロ競技は我が国では愛好者の極めて少ないなじみの薄いスポーツにすぎず、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」がポロ競技を示す一般的な用語であるとはいえない。
2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について (1) 引用商標がラルフ・ローレンのデザインに係る被服等を表示するものとして、「ポロ」、「Polo」又は「POLO」の略称で、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたことは上記のとおりであり、「Polo」の文字が含まれる本願商標をその指定商品に使用するときは、これに接した取引者、需要者が「Polo」の文字部分に着目し、引用商標を連想、想起し、商品の出所を混同するおそれが生ずることは明らかである。
現に、株式会社博報堂による平成11年5月の「『ポロ』ブランド調査」(乙第21号証)によれば、引用商標とは無関係の「Polo」の文字を含む商標を、
多くの者が、引用商標との兄弟ブランド、ファミリーブランドであると誤認している結果が示されているほか、本件と同様に「Polo」の文字を含む様々な商標に関して、引用商標の著名性を認定した上で、商品の出所混同のおそれを肯定する裁判例が多数に上っている。
(2) 原告は、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」の著名性について主張するが、以下に述べるとおり、本願商標についての商品の出所混同のおそれを否定する根拠となるものではない。
ア 本件全証拠によっても、「Polo Club」の著名性の立証があるとはいえない。すなわち、原告がその著名性を立証するために提出した証拠の大部分は、「POLOCLUB」又は「Polo Club」の文字とポロプレーヤー図形との結合商標であるポロクラブ関連商標4及び5、特に同5を使用したものである。そして、この商標中のポロプレーヤー図形は、ラルフ・ローレンに係るものとして著名な引用商標中のポロプレーヤー図形と構成の軌を一にするものである上、ポロクラブ関連商標5が使用されるようになったのは、引用商標がラルフ・ローレンに係るものとして著名性を有するに至った以後のことであるから、その使用は、ポロクラブ関連商標がラルフ・ローレンと何らかの関連性があるとの印象を強めることはあっても、原告独自の商標としての著名性を基礎付けるものとはいえない。
なお、本件補助参加人を原告、本件原告を被告とし、ポロクラブ関連商標1〜4につき商標法53条1項に基づく商標登録取消しの成否が争われた4件の審決取消請求事件(当庁平成10年(行ケ)第108号、第111〜第113号)において、東京高裁平成11年12月21日判決は、ポロクラブ関連商標1〜4と類似する同5の使用は、著名なラルフ・ローレンに係るポロプレーヤー図形の商標を連想させ、商品の出所について混同を生じさせるものであるとの判断を示し、これらの判決は、いずれも平成13年11月13日上告不受理決定により確定した。
イ 原告は、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」の知名率等をその著名性の根拠として主張するが、「Polo Club」、「ポロクラブ」が、
取引者、需要者において、引用商標とは全く関係がないブランドとして認識されているという独自の著名性を立証しない限り、審決の判断の誤りを導くことはできないというべきところ、原告の上記主張に係る立証は、「Polo Club」、「ポロクラブ」と引用商標とが全く関係のない、すなわち出所混同を生ずるおそれのないブランドとして知られていたことまでを示すものとはいえない。
ウ 原告は、著名商標の併存の場合には商品の出所混同のおそれは生じない旨主張するが、著名商標が併存する場合であっても、両商標間で、一方の著名性が他方を上回っているときや、その著名性の確立時期が前後するときには、両者の間で商品の出所混同のおそれは生じ得るというべきである。そうすると、仮に、ポロクラブ関連商標の著名性が認められるとしても、本件は、まさに上記のような出所混同のおそれの生ずる場合に該当する事例である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用商標の著名性の認定の誤り)について (1) 昭和53年7月20日株式会社講談社発行の「男の一流品大図鑑」(乙第22号証)には、引用商標を掲げた「ラルフローレン」ブランドの紹介として、「一九七四年の映画『華麗なるギャツビー』・・・で主演したロバート・レッドフォードの衣装デザインを担当したのが、ポロ社の創業者であり、アメリカのファッションデザイン界の旗手ラルフ・ローレンである」、「三〇歳になるかならぬかで一流デザイナーの仲間いりをはたし、わずか一〇年で、ポロ・ブランドを、しかもファッションデザイン後進国アメリカのブランドを、世界に通用させた」との記載が、
昭和58年9月28日サンケイマーケティング発行の「舶来ブランド事典『’84ザ・ブランド』」(乙第1号証)には、引用商標を掲げた「ポロ」ブランドの紹介として、「今や名実ともにニューヨークのトップデザイナーの代表格として君臨するラルフ・ローレンの商標。ニュートラディショナル・デザイナーの第一人者として高い評価を受け、世界中にファンが多い」、「マークの由来 ヨーロッパ上流階級のスポーツのポロ競技をデザイン化して使っている。彼のファッションイメージとぴったり一致するため彼のトレードマークとして使用しているもの」との記載が、
昭和55年4月15日株式会社洋品界発行の「月刊『アパレルファッション店』別冊1980年版『海外ファッション・ブランド総覧』」(乙第2号証)には、「ポロ・バイ・ラルフローレン」について、「若々しさと格調が微妙な調和を見せるメンズ・ウェア『ポロ』ブランドの創立者。栄誉あるファッション賞“コティ賞”をはじめ彼の得た賞は数知れず、その実力をレディス・ウェアにも発揮。新しい伝統をテーマに一貫しておとなの感覚が目立つ。アメリカ・ファッション界の颯爽とした担い手」との紹介のほか、「〈販路〉西武百貨店、全国展開〈導入企業〉西武百貨店〈発売開始〉五十一年(注、紳士靴につき「五十二年」)」等の記載があることが認められる。
そして、これと同趣旨の記載は、昭和54年から昭和60年までの間に発行された雑誌である、@昭和54年5月20日株式会社講談社発行の「世界の一流品大図鑑’79年版」(乙第7号証)、A昭和55年11月15日株式会社講談社第2刷発行の「世界の一流品大図鑑’80年版」(乙第8号証)、B昭和55年12月婦人画報社発行の「MENS’CLUB1980年12月号」(乙第9号証)、C昭和57年1月10日株式会社アパレルファッション発行の「月刊アパレルファッション2月号別冊海外ファッション・ブランド総覧」(乙第3号証)、D昭和59年9月25日ボイス情報株式会社発行の「ライセンス・ビジネスの多角的戦略’85」(乙第4号証)及びE昭和60年5月25日株式会社講談社発行の「流行ブランド図鑑」(乙第10号証)等にも認められるところである。
なお、これらに掲げられている引用商標は、いくつかのバリエーションがあるが、おおむね別紙「引用商標」に掲記の構成態様のものである。
(2) また、平成6年11月1日ボイス情報株式会社発行の「’95ライセンスブランド&キャラクター名鑑」(甲第5号証)によれば、「ポロ・ラルフローレン」の需要者における総合知名度が、昭和61年54.2%、昭和63年63.6%、平成2年67.8%、平成3年79.8%、平成6年81.8%(ランキング13位)と、平成6年の総合所有率が47.2%(ランキング2位)とされていることが、
平成8年6月24日同社発行の「ライセンスブランド&キャラクター名鑑別冊’96ブランド&キャラクター調査」(甲第6号証)によれば、平成8年においても、「ポロ・ラルフローレン」の需要者における総合知名度は81.6%(ランキング15位)、総合所有率62.2%(ランキング1位)とされていることが認められる。
(3) さらに、引用商標を模倣したいわゆる偽物ブランド商品に関して、平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊(乙第26号証)には、「昨年二月ごろから、米国の『ザ・ローレン・カンパニー』社の・・・『Polo』の商標と、乗馬の人がポロ競技をしているマークをつけたポロシャツ・・・を売っていた疑い」との記事が、平成4年9月23日付け読売新聞東京版朝刊(乙第13号証)には、「今年は五月に、アメリカの人気ブランド『ポロ』(本社・ニューヨーク)のロゴ『ポロ・バイ・ラルフ・ローレン』に酷似したマークのTシャツを販売していた大阪の業者が・・・」との記事が、平成5年10月13日付け読売新聞大阪版朝刊(乙第14号証)には、
「ポロ球技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠を販売・・・」との記事が、平成11年6月8日付け朝日新聞夕刊(乙第15号証)には、「米国ブランド『ポロ』などのマークが入った偽物セーターやポロシャツ約三万六千枚を販売目的で所持し、商標権を侵害した」との記事が掲載されていることが認められる。
(4) 以上の認定事実を総合すれば、引用商標は、アメリカのファッションデザイナーとして世界的に著名なラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品に付されるものとして、我が国においては、昭和51〜52年ころから使用されるようになったこと、そのブランドは、我が国の取引者、需要者の間で、「Polo by RALPH LAUREN(ポロ・バイ・ラルフローレン)」、あるいは単に「Polo(ポロ)」の略称で、ポロプレーヤー図形とともに、広く知られるようになり、遅くとも昭和50年代後半までには、強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する著名な商標となり、その著名性は、本願商標の商標登録出願時(平成5年6月18日)以後、審決時(平成12年7月3日)を経て、その後に至るまで継続していたことが認められる。
(5) 原告は、引用商標の著名性を否定する根拠として、「POLO」の文字からなる商標が、様々な分野で商標登録がされ、現実に使用されていたこと、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉は、衣料品の分野においてはポロシャツを示す普通名称として、また、一般的にもポロ競技を示す用語として用いられていることを主張する。確かに、「Polo」、「POLO」又は「ポロ」の言葉が、スポーツ競技の一つであるポロ競技を示す普通名詞であることは、当裁判所に顕著であり、引用商標中に用いられている「Polo」の文字も、ポロ競技に由来するものであることは、文字部分とともに使用されているポロプレーヤー図形や前掲乙第1号証の記載から明らかであるから、このような本来的に普通名詞に由来する「Polo」の文字の性格からして、その有する商品の出所表示機能がある程度減殺されていることは否めない。しかし、このことを考慮に入れても、上記(1)〜(3)の認定事実からすれば、なお引用商標が単に「Polo(ポロ)」とも略称されるものとして、取引者、需要者の間で広く認識されていたことを優に認定することができるというべきであるし、さらに、引用商標中に用いられているポロプレーヤー図形が、それ自体としても、ラルフ・ローレンに係る出所識別標識として取引者、需要者に広く認識されていたことも明らかである。そうすると、引用商標については、「Polo(ポロ)」の略称及びポロプレーヤー図形をそれぞれ単独に見ても、著名性を認められるばかりでなく、「Polo」の文字部分とポロプレーヤーの図形部分とが結合することによって、更に強い自他商品識別力顧客吸引力を発揮する著名性を有するものと認めることができる。
また、原告は、原告がポロクラブ関連商標を有し、使用していること及びポロ・ビーシーエス株式会社が被服等を指定商品とする「POLO」の登録商標を有し、その商品が販売されていることを主張するが、まず、ポロクラブ関連商標の存在及びその使用が、引用商標の著名性の成立及び継続を何ら阻害するものでないことは、下記2の認定判断から明らかであるし、ポロ・ビーシーエス株式会社の「POLO」商標については、甲第29、第30号証の各1〜3、甲第31号証、検甲第1号証の1〜3等によっても、引用商標の著名性の成立及び継続を阻害するような周知、著名性を有するものであることを認めるに足りない。
(6) 以上によれば、引用商標の著名性を認めた審決の認定に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(商品の出所混同のおそれの判断の誤り)について (1) 原告は、本願商標に係る商品の出所混同のおそれを否定する根拠として、
ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」の著名性を主張するところ、この点に関して、以下の事実が認められる。
ア 平成5年4月株式会社矢野経済研究所発行の「マンスリー ブランド マーケット レポート1993年5月号」(甲第641号証)には、連載企画「有力ブランド分析」の「ポロクラブ(Polo Club)」の紹介として、「ポロクラブは1971年に上野衣料でスタートを切った同社のオリジナルブランドであるが・・・1989年2月には、(株)ポロクラブジャパンが設立され、上野衣料より専用使用権を引き、ライセンス展開も活発化し始めたのである。現在は、ライセンシーも13社で構成され、小売ベースで280億円の販売高を誇っている。ポロクラブは、
アメリカントラッドを一貫して追求した商品と言え、価格もミディアムベターの設定となっている。・・・『ポロクラブ』と言う言葉の響きにトラディショナルな感覚をストレートに消費者に訴えられることができたことが、同ブランドの成功の要因と言えるのではないだろうか」、「ポロクラブは、広告活動を活発に行っているのも大きな特徴である。ブランド広告と商品広告の大きく2つの広告をそれぞれの媒体の中で上手く使い分けているのである。年間を通じて広告を出しているものは、新聞では、日経流通新聞、繊研新聞、メンズデイリーで、単発で日本経済新聞といった状況である。雑誌は、メンズクラブ、ファインボーイ、ナンバー、レイ、
GQに年間を通じて広告を出している」、「市場の低迷にもかかわらず、現在も順調に伸びているブランドと言える。小売ベースで280億円という売上規模は、ライセンスブランドの中にあっても、有力デザイナーズブランドと肩を並べる規模である」との記載のほか、「『ポロ・クラブ』ブランドの年商推移(小売ベース)」として、平成元年100億円、平成2年150億円、平成3年220億円、平成4年280億円との数字を示すグラフが、「店舗展開状況」(平成5年3月現在)として、「〈百貨店〉伊勢丹、丸井、他〈専門店〉三峰、銀座山形屋、ダイム、他〈量販店〉ニチイ、ダイエー、忠実屋、イトーヨーカ堂、東武ストア、西友、他」との表が掲載されていることが認められる。また、平成3年9月6日日之出出版株式会社発行の「グラン・マガザン」(甲第566号証)には、「イギリスの伝統的なスポーツ“ポロ”をイメージしたワンポイントマークが象徴的な『ポロクラブ』。トラディショナルファッションの中ではメンズを中心に人気の高いブランドですね。この『ポロクラブ』にこの秋、レディスが誕生します」と記載されていること、平成5年3月日本経済新聞社発行の「’92ファッション・ブランドアンケート」(甲第2号証の1)には、平成4年8月に日本経済新聞に掲載したアンケート企画に応募のあった葉書を集計した結果、メンズカジュアル部門で、「『Polo Club』が知名率(69.3%)、一流評価率(20.7%)、所有率(29.2%)、購買意向率(11.4%)全てにおいてトップ」とされて、日経流通新聞及び日経金融新聞の同様のアンケート結果並びに翌年及び翌々年の同様のアンケート結果(甲第2号証の2、3、甲第3、第4号証の各1〜3)においてもおおむねこれと同様の結果が示されていること、平成10年ボイス情報株式会社発行の「ライセンスブランド&キャラクター名鑑別冊’98ブランド&キャラクター調査」(甲第7号証、なお、甲第5、第6、第802、第863、第1022号証も同旨)には、
「ポロ・クラブ」の総合知名率が、平成6年78.6%(「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」81.8%)、平成8年80.6%(同81.6%)、平成10年69.8%(同56.7%)、「ポロ・クラブ」の総合所有率が、平成6年20.6%(「ポロ・バイ・ラルフ・ローレン」47.2%)、平成8年31.4%(同62.2%)、平成10年25.7%(同31.4%)と推移していることが示されていること、平成10年AIPPI・JAPAN発行の「日本有名商標集」(甲第12号証)には、ポロクラブ関連商標2、4及び5が掲載されていることが認められ、甲第53号証の写真及び弁論の全趣旨によれば、平成5年4月ころ、ポロクラブ関連商標5を付したいわゆる偽物商品が販売されていた事実が確認されたことが認められる。
イ また、原告又はポロクラブ関連商標の専用使用権者である株式会社ポロクラブジャパンは、平成元年以降、審決当時に至るまで、ポロクラブ関連商標に係るブランド及び同商標を付した商品の宣伝広告を活発に行っており、株式会社婦人画報社発行の「メンズ・クラブ」(甲第36、第37、第516〜第521、第553〜第558、第613〜第620、第692〜第703、第768〜第779、第833〜第844、第901〜第912、第982〜第993、第1062〜第1064号証)及び「婦人画報」(甲第34、第35、第857〜第860、
第924〜第928、第1006〜第1014、第1065〜第1067号証)、
日之出出版株式会社発行の「ファインボーイズ」(甲第522〜第524、第559〜第561、第621〜第629、第704〜第713、第780〜第788号証)及び「グラン・マガザン」(甲第565〜第568、第636〜第640号証)、株式会社主婦の友社発行の「レイ」(甲第562〜第564、第630〜第635、第714〜第720、第789〜第795、第845〜第850、第913〜第917、第994〜第999号証)及び「わたしの赤ちゃん」(甲第861、第929〜第931、第1015〜第1017号証)、株式会社文藝春秋発行の「ナンバー」(甲第38〜第40、第721〜第724、第796〜第801、
第851〜第855、第918〜第923、第1000〜第1005、第1058〜第1061号証)、中央公論社発行の「ジーキュージャパン」(甲第725〜第729号証)、日本経済新聞社発行の日本経済新聞、日経流通新聞及び日経金融新聞(甲第526〜第530、第572〜第583、第647〜第656、第732〜第744、第803〜第816、第865〜第882、第933〜第952、第1047、第1048号証)、繊研新聞社発行の繊研新聞(甲第41〜甲第43、
第531〜第540、第584〜第600、第658〜第674、第746〜第761、第817〜第826、第884〜第899、第969〜第981、第1050〜第1057号証)、株式会社繊維経済新聞社発行の「メンズデイリー」(甲第541〜第552、第601〜第612、第677〜第691、第762〜第767、第827〜第832、第1049号証)、朝日新聞社発行の「アサヒイブニングニュース」(甲第953〜第968号証)等に継続して広告を掲載するなどしているほか、甲第501〜第511号証の証明書及び甲第512〜第514号証の写真によれば、その間、ポロクラブ関連商標に係るブランドについて、活発なテレビコマーシャル放送や駅ホーム等への広告看板の設置等を行っていたことが認められる。
(2) 以上の認定事実だけを見る限り、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」の周知性又は著名性を認定できるかのごとくであるが、被告及び補助参加人は、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」が、取引者、需要者において、引用商標とは全く関係がないブランドとして認識されているという独自の著名性を有するとはいえない旨主張するので、以下、この観点から更に検討する。
ア まず、引用商標に係る「Polo」及びポロプレーヤー図形の著名性の獲得時期との先後関係を見るに、上記(1)の認定事実によれば、ポロクラブ関連商標を付した商品は、平成元年に株式会社ポロクラブジャパン等を通じてライセンス展開をするようになって以降、その活発な宣伝広告活動等を通じて、急激に販売実績を拡大し、平成4〜5年ころには、売上高を見る限り、有力デザイナーズブランドに並ぶとされる規模に達したことが認められるが、昭和63年以前において、ポロクラブ関連商標又はこれを付した商品について、販売実績、宣伝広告の状況、取引者、
需要者における認識の度合い等を具体的に示す的確な証拠はない。
そうすると、ポロクラブ関連商標は、その少なくとも一部は、商標登録出願日及び設定登録日において、引用商標の我が国での使用開始時期(昭和51〜52年)及び著名性の獲得時期(遅くとも昭和50年代後半)に先行するものの、
現実に活発な宣伝広告を行い、販売実績を拡大したのは、これに後れる平成元年以降であるということになる。そして、ポロクラブ関連商標中、「Polo Club」又は「POLOCLUB」の文字とポロプレーヤーの図形とを結合した商標であるポロクラブ関連商標4及び5に関しては、その設定登録日はもとより、商標登録出願日(上記関連商標4につき昭和62年10月27日、同5につき平成2年10月8日)においても、引用商標の著名性の獲得時期に後れるものである。
イ また、原告又は株式会社ポロクラブジャパンが、ポロクラブ関連商標又はこれを付した商品の宣伝広告を活発に行っていたことは、上記(1)イのとおりであるが、その広告等の内容を逐一見ると、その大部分において使用されているのは、「Polo Club」の文字とポロプレーヤー図形とを結合したポロクラブ関連商標5であることが認められ、文字商標のみが使用されている広告は、ポロクラブ関連商標2に係る前掲甲第678、第679、第682〜第685、第687、第761、第817号証など、ごくわずかでしかない。また、雑誌や業界新聞等に取り上げられた「ポロクラブ」に関する記事中で、同ブランドの代表的な商標として掲げられているのは、いずれもポロクラブ関連商標5であることが認められ(前掲甲第2〜第4号証の各1〜3、甲第526、第527、第680、第686、第688、第762、第802、第869〜872号証等)、ポロクラブ関連商標中、そのブランドを代表する定番というべき商標がポロクラブ関連商標5であると目されていたことは明らかである。
そして、上記のとおり大部分の広告等で使用され、代表的な商標と目されていたポロクラブ関連商標5中に用いられているポロプレーヤーの図形と、引用商標中に用いられているポロプレーヤーの図形とを比較すると、マレットを振り上げたポロプレーヤーを、疾走する馬とともに正面側やや斜め方向から描いたものとして基本的な構成態様が共通しており、人馬の向き、ポロプレーヤーの姿勢、マレットの角度等においてわずかな差異は認められるものの、上記各図形を全体として見た場合に、両者は酷似しているというほかない。さらに、ポロクラブ関連商標5を、文字部分を含めて全体として見ても、中央に大きく上記ポロプレーヤー図形が最も目立つ態様で表示され、その左右に配されている「Polo」と「Club」のうち、「Polo」の部分は、ラルフ・ローレンに係る著名な「Polo」と同一である。他方、引用商標において、「Polo(ポロ)」の文字部分とポロプレーヤーの図形部分とが結合することによって強力な自他商品識別力顧客吸引力を発揮する著名性を有することは前示のとおりであるところ、ポロクラブ関連商標5は、「Polo」の文字とポロプレーヤー図形とを結合するという特徴においても、引用商標と酷似しているというべきである。
加えて、引用商標に係るブランドも、ポロクラブ関連商標に係るブランドも、単にファッション関連商品を取り扱うという点で共通するにとどまらず、いずれもメンズを主力として、いわゆるトラディショナルファッションを志向するものであって、そのような商品性をアピールするために、英国上流階級のスポーツであるポロ競技のイメージを前面に押し出しているという営業戦略においても軌を一にすることは、上記の認定事実から明らかである。
ウ 次に、原告又は株式会社ポロクラブジャパンによる上記の各広告等において、ポロクラブ関連商標に係る商品の出所である原告又はその使用権者を示す記載は、全くないか、あっても、ごく小さな文字で「POLO CLUB JAPAN CO.,LTD.」などと付記されている程度のものが多数である。なお、「○○ジャパン」というライセンシーの名称は、一般に海外ブランドを我が国でライセンス展開する場合に、いわゆる国内マスターライセンシーに多用されるものである(甲第569、第862号証等)上、「JAPAN」は地名を、「CO.,LTD.」は法人の種別を表示するものであって、商品識別力を有しない記述的部分であるから、上記の表示についても、ラルフ・ローレンに係る「Polo」ブランドとは異なる国内ブランドであることを積極的に示すものとはいい難い。また、平成12年以降の広告等の中には、「ポロクラブは、上野衣料株式会社の登録商標です」との記載が見られる(甲第34〜第44、
第1047〜第1067号証等)ものの、それ以前の広告等にこのような記載はなく、せいぜい取引者を読者とすると考えられる繊研新聞等において、「この商標はポロクラブ製品のトレードマークです」という表示がされているものが若干存在する(甲第745、第749、第750、第823〜826、第889、第898号証等)程度である上、それとても、ポロクラブ関連商標を本格的にライセンス展開するようになった当初のものではなく、平成6年以降に見られるにすぎない。
エ さらに、「Polo Club」、「ポロクラブ」の高い知名率が示されたという前記(1)アの各種の調査についても、その前提として調査対象者に示されたのは、ポロクラブ関連商標5であることがうかがわれること(前掲甲第2〜第4号証の各1〜3、甲第802号証参照)からすると、その図形部分と酷似する著名なラルフ・ローレンに係るポロプレーヤー図形との誤認混同が疑われるものであって、引用商標とは別個のブランドとして、「Polo Club」、「ポロクラブ」が一般需要者に認識されていたと即断することはできないものというべきである。
この点について、被告及び補助参加人の援用する「『ポロ』ブランド調査」(乙第21号証)を見ると、同調査は、補助参加人の依頼により株式会社博報堂が平成11年4月に首都圏の10〜40歳代の「ファッションに興味・関心のある」男女計280名を対象に実施した調査の結果であるところ、これによれば、ポロクラブ関連商標5について、「見たことがある」者が75.0%、「見たことがあるような気がする」者が19.6%、以上合計94.6%との結果が得られたにもかかわらず、これと「ポロ・ラルフローレン」ブランド(引用商標の図形部分を提示)との関連性について、「兄弟ブランド・ファミリーブランドだと思う」者が68.2%に達し、両者が無関係であることを以前から知っていた者は23.6%にとどまること、両者の商品を購入したことがある者(サンプル数82)に限って見ても、両者が無関係であることを初めて知った者が86.6%を占めることが示されている。また、両者が関連のないブランドであることを明かした上での印象の変化は、「ポロ・ラルフローレン」の印象が変わった者が18.2%、「ポロ・クラブ」の印象が変わった者が23.9%という結果が示されており、その印象の変化の内容(自由回答)については、前者については一流、高級ブランドというイメージが強くなったなどの肯定的な内容が多いのに対し、後者については「ポロ・ラルフローレン」の真似をしているなどの否定的な内容が多いことが認められる。なお、株式会社博報堂が、マーケティング調査等の経験豊富な我が国を代表する広告代理店の一つであることは当裁判所に顕著であり、同号証の記載内容に照らして、
特に誘導的な質問等が行われたことをうかがわせる事情も見当たらない。
(3) 上記(1)、(2)の認定判断を総合すると、まず、ラルフ・ローレンに係る引用商標及びそのブランドが、我が国においては、昭和51〜52年ころから使用されるようになり、「Polo by RALPH LAUREN(ポロ・バイ・ラルフローレン)」、あるいは単に「Polo(ポロ)」の略称で、ポロプレーヤー図形とともに、取引者、需要者の間で広く知られるようになり、遅くとも昭和50年代後半までには強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する著名な商標となったこと、その後、原告又はその専用使用権者である株式会社ポロクラブジャパンにおいて、ポロクラブ関連商標、とりわけ「Polo Club」の文字とポロプレーヤーの図形の結合商標であって、引用商標と図形部分の酷似するポロクラブ関連商標5を使用して、平成元年以降、活発な宣伝広告を行う中で、その販売実績を急速に拡大したこと、その間、原告又は株式会社ポロクラブジャパンは、主としてトラディショナルファッションを志向して、ポロ競技のイメージを前面に出すという、ラルフ・ローレンに係る引用商標のブランドと同様の営業戦略を展開する一方、ポロクラブ関連商標5に係る商品の出所表示を必ずしも十分明確にしない態様での宣伝広告を続けたこと、その結果、ポロクラブ関連商標5は、それ自体としては、一般需要者の間でも高い知名度を示すに至ったが、その多くは、ラルフ・ローレンに係る引用商標のブランドの「兄弟ブランド・ファミリーブランド」であると誤認していたこと、すなわち、ポロクラブ関連商標5を付した商品は、引用商標を付した商品と同一の営業主体の業務に係る商品、又はその親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤認していたこと、以上の事実を認めることができる。
そうすると、ポロクラブ関連商標に係る「Polo Club」、「ポロクラブ」のブランドに関する一般需要者の認識の相当部分は、ポロクラブ関連商標5と引用商標との誤認、混同を通じて形成されてきたものと推認するのが相当であり、このことを考慮すれば、ポロクラブ関連商標5を中心とするポロクラブ関連商標が、ラルフ・ローレンに係る引用商標とは無関係の原告又はそのライセンシーに係る商品の出所を表示する標識として、少なくとも一般需要者間に広く知られるに至ったと認めることはできないといわざるを得ない。
なお、原告又は株式会社ポロクラブジャパンにおいて、平成12年以降、
「ポロクラブは、上野衣料株式会社の登録商標です」との表示を積極的に行うようになったことは前示のとおりであるが、本件において、商品の出所混同のおそれの判断の基準時は、本願商標の商標登録出願時(平成5年6月18日)及び審決時(平成12年7月3日)であるところ、その期間内に行われた上記広告はわずかであり、しかも、その表示態様も目立たないものにすぎないから、前記認定判断を左右するものとはいえない。
(4) 以上の認定判断を前提に、本願商標に係る商品の出所混同のおそれの有無について判断する。
ア 本願商標は「Polo Club」との手書き風の欧文字からなり、指定商品はポロクラブ関連商標のそれを包含するものであるところ、「Polo Club」がラルフ・ローレンに係る「Polo」商標とは無関係の原告又はそのライセンシーに係る商品の出所識別標識として周知又は著名であるといえないことは上記のとおりである。そうすると、「Polo Club」が著名であることを前提として、本願商標について商品の出所混同のおそれの生じないことをいう原告の主張は、その前提を欠くものとして採用することができない。
他方、引用商標が、ラルフ・ローレンのデザインに係るファッション関連商品に付されるものとして、遅くとも昭和50年代後半までには、「Polo(ポロ)」とも略称され強い自他商品識別力及び顧客吸引力を発揮する著名な商標となり、その著名性が、本願商標の商標登録出願時はもとより、審決時を経て、その後に至るまで継続していたことは前示のとおりである。
そして、ファッションに興味や関心のある者を対象とする調査において、ポロクラブ関連商標5と引用商標の図形部分に係る「ポロ・ラルフローレン」ブランドとが無関係であることを知らずに、それぞれの商品を購入している者が相当数に上っているとの上記調査結果からもうかがわれるように、ファッション関連の企業は複数のブランドを展開している例が少なくなく、一般需要者の多くも、そのことを認識しており、また、個々の商品の出所について正確な知識をもとに十分な吟味をすることなく短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないことは、当裁判所に顕著である。
そうすると、本願商標をファッション関連商品であるその指定商品に使用した場合、上記の取引の実情に照らすと、取引者、需要者において、著名な引用商標の略称である「Polo」の文字部分に着目し、引用商標を想起して、その商品がラルフ・ローレンに係る引用商標のブランドと同一の営業主体の業務に係る商品、
又はその親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されその出所について混同を生ずるおそれがあるというべきであり(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)、このことは、
本願商標の登録出願時においても、審決時においても異なるところはない。
イ 原告は、先行商標と同一又は類似する商標と、これに後れて使用されるようになった商標との関係での商標法4条1項15号の適用に際しては、商標法の先願主義との整合性から、先行する商標の優位性が認められ、後れて使用されるようになった商標の著名性を厳格に認定し、混同可能性についても狭義の混同可能性に限定すべきである旨主張する。しかし、先行商標が後れて使用されるようになった商標に比肩すべき著名性を獲得していれば格別、本件において、ポロクラブ関連商標のうち、引用商標の我が国での使用開始時期及び著名性の獲得時期に先立って出願及び登録がされたものについてそのような著名性を認めることができないことは前示のとおりであるし、商標法の先願主義(8条)があるからといって、著名性を欠く先行商標と同一又は類似する商標に優位性を認め、著名な後行商標との関係で出所混同のおそれを狭義の混同可能性に限定すべき根拠を見いだすことはできないから、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、補助参加人において、ポロ・ビーシーエス株式会社の前主である公冠販売株式会社から「POLO」商標の使用許諾を受けているから、補助参加人が、「POLO」の商標が補助参加人に帰属するものでないことを自認していた旨主張するが、引用商標が補助参加人の業務に係る商品を表示するものとして著名であった以上、補助参加人が何らかの事情で上記使用許諾を受けたとしても、本願商標に係る商品の出所混同のおそれの有無に関する上記判断を何ら左右するものとはいえない。
ウ したがって、上記アと同旨をいう審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利