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関連ワード 商品商標 /  指定商品 /  周知性 /  著名商標 /  不正目的(不正の目的) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  契約の解除 /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  国内 /  信義則 /  存続期間 /  マドリッド /  登録異議申立 /  外国 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 175号 商標登録取消決定取消請求事件
平成 13年 (行ケ) 176号 商標登録取消決定取消請求事件
原告 株式会社ノバオーシマ
訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎、大貫裕仁、弁理士 小林ゆか
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 佐藤久美枝、茂木静代、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2000-90508号及び同90509号事件についてそれぞれ平成13年3月13日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、次の二つの登録商標の商標権者である。
@ 登録第4358283号商標 平成11年(1999年)6月16日に登録出願、「ZANOTTA」の欧文字と「ザノッタ」の片仮名文字とを二段に左横書きしてなり、第20類に属する家具、
つい立て、ベンチ等、商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成12年(2000年)2月4日に設定登録。
A 登録第4358284号商標 平成11年(1999年)6月16日に登録出願、「SACCO」の欧文字と「サッコ」の片仮名文字とを二段に左横書きしてなり、第20類に属する家具、つい立て、ベンチ等、商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成12年(2000年)2月4日に設定登録。
上記各商標について登録異議の申立て(登録異議申立人・ザノッタ ソシエタ ペル アチオニ)があり、@の商標については異議2000-90508号事件として、Aの商標については異議2000-90509号事件として審理されたが、
平成13年(2001年)3月13日、各商標の商標登録を取り消すとの決定がそれぞれあり、その謄本は同年4月2日原告に送達された。
2 登録第4358283号商標(本件@商標)に関する決定(異議2000-90508号)の理由の要点 (1) 登録異議申立人の異議理由 (1)-1 商標法第4条第1項第15号について 本件@商標は、欧文字の「ZANOTTA」とこれに相応する仮名文字「ザノッタ」から構成されたものであり、必然的に「ザノッタ」の称呼が生ずる。また、以下で述べる引用「ZANOTTA」商標の著名性により、本件@商標からは著名商標「ZANOTTA」(引用「ZANOTTA」商標)及びその製品の観念が生ずる。したがって、本件@商標は引用「ZANOTTA」商標と「ザノッタ」の称呼及び観念を共通する類似の商標である。
登録異議申立人であるザノッタ ソシエタ ペル アチオニは、1954年に革(布)製家具及びそれらの装飾品の製造・販売を主として設立された会社で、アチル カスチジリオーニ、アレッサンドロ メンデイーニ、パオロ デガネロ等の家具分野における著名デザイナーを擁し、今日まで事業を継続している(異議甲第3号証の1、異議甲第6号証の5)。
登録異議申立人の商号かつ商品商標でもある引用「ZANOTTA」商標の、イタリア国における著名性は、1969年から1999年までの年次販売実績かつ宣伝広告の事実からその疑いの余地はないといえる(異議甲第4号証及び異議甲第5号証の1ないし11)。また、日本においても、登録異議申立人の商標が付された商品がNTTアーバンネットビル、住友海上火災ビル、TEP1Aビル、東京のビアホール(BEER HALL BY CIRANO)、新潟日航ホテルあるいは草月会館(1984年 東京)に納品されている(異議甲第3号証の1ないし2)。
さらに、登録異議申立人が頒布した1992年、93年、94年、98年、99年、2000年版商品カタログの掲載内容を見ても、引用「ZANOTTA」商標のイタリア国における周知性は揺るぎないものといえる(異議甲第6号証の1ないし7)。よって「ZANOTTA/ザノッタ」の文字からなる本件@商標が、その指定商品に使用された場合には、本件指定商品の分野の需要者が、登録異議申立人の業務に係る商品と出所を混同するおそれがあることは明らかである。しかるがゆえに、本件@商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(1)-2 商標法第4条第1項第19号について 本件@商標は、登録異議申立人の商品を表示するものとして日本国内及び外国において需要者の間に広く認識されている引用「ZANOTTA」商標と類似の商標である。特筆すべき事実として、本件@商標の商標権者(原告)が20年近く登録異議申立人の輸入販売代理店であったことであり、本件@商標の出願(1999年6月16日)は登録異議申立人との間で結ばれていた契約が解除された1999年春直後にされたもので、登録異議申立人の許諾得ずして行われた出願・登録は、本件@商標の商標権者(原告)の契約解除に対する報復措置とも取れる。このようなことから、本件@商標の商標権者(原告)の行為は、著名商標である引用「ZANOTTA」商標の顧客吸引力ただ乗りし不正に利益を得る目的でされたものと考えるのが自然といえる(異議甲第5号証の9、異議甲第6号証の5、異議甲第7号証の1ないし3)。
よって、本件@商標は商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
(2) 通知した取消理由 「登録異議申立人の提出に係る異議甲各号証によれば、「zanotta」の文字によりなる商標は、登録異議申立人が永年にわたってイタリア、日本で布製家具に使用してきた結果、本件登録出願時には登録異議申立人の業務に係る商品の商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められるものである。
一方、登録異議申立人の提出に係る異議甲第7号証1ないし3のインボイスによれば、商標の商標権者(原告)と登録異議申立人との間には、1999年に当事者間の契約が解除されるまで、製造販売業者と輸入販売代理店として商品の取引があったことがうかがえる。そうとすれば、登録異議申立人の業務に係る商品を表彰するものとして取引者・需要者間に周知著名な「zanotta」と同じ綴り字を有する本件@商標を、商標権者(原告)が登録異議申立人に断りなくその指定商品に使用することは、不正の目的をもって使用するものといわなければならない。
したがって、本件@商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。」旨の取消理由を通知した。
(3) 商標権者(原告)の意見 本件@商標が商標法第4条第1項第19号に該当すると判断されるためには、まず、本件@商標の出願時及び査定時において、本件@商標が「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間で広く認識されている商標と同一又は類似する商標」であることが必要である。しかしながら、登録異議申立人が提出した異議甲第3号証の1ないし2、異議甲第4号証及び異議甲第5号証の1ないし11、異議甲第6号証により、本件@商標の出願時及び査定時において本件@商標が登録異議申立人によってイタリア国において布製家具に使用されていることは立証されているものの、本件@商標の出願時及び査定時においてイタリア国において本件@商標が布製家具について周知性を獲得していることまでは十分に立証されていない。すなわち、審査基準の解説によれば、商標の「使用状況に関する事実の把握は、いわば量的に当該商標の使用の事実を認定し、
それによって間接的ではあるが当該商標の需要者への浸透度を量り(推定し)、その大小ないしは広狭により当該商標の周知を認定」すべきであるから(異議乙第1号証)、本件@商標の出願時及び査定時において、本件@商標が布製家具についてイタリア国で周知であると立証するためには、イタリア国における布製家具の全販売総数のうちのどの程度の割合を本件@商標を使用した布製家具が占めているのか、あるいはイタリア国における本件@商標を使用した広告宣伝の頻度を示すことにより需要者に対する浸透度がどれくらいであるのかということを少なくとも示す必要がある。しかしながら、登録異議申立人からは異議甲第4号証により1969年〜1999年までの年次販売実績は示されているものの、その割合が全体でどの程度を占めるものであるか示されていない。また、異議甲第5号証の1ないし11により登録異議申立人の商品が掲載された雑誌広告等が示されているものの、そこに示されている程度の広告宣伝の頻度では需要者に対する浸透度はそれほど高いものとはいえないし、またどのような種類の雑誌に広告が掲載されたのかが分からないためどのような需要者に周知であるのかも不明である。
したがって、本件@商標が登録異議申立人の業務に係る商品を表示するものとして、イタリア国において広く認識されていたものと認定した取消理由通知は、誤りである。また、登録異議申立人は提出した異議甲第3号証の1ないし2により、本件@商標が付された商品が住友海上火災ビル等に納品されていることを理由として、本件@商標の出願時及び査定時において、本件@商標が登録異議申立人の業務に係る商品を表示するものとして周知であったことを主張するが、異議乙第2号証の1及び2に示すような住友海上火災ビル、TEPIAビル、CYRANOビル、
大手町ファーストスクエアビル、アーバンネット大手町ビル、阪神競馬場レストラン、ホテル日航川崎、ランドマークプラザを始めとする各種の有名なビル、レストラン、ホテル等へ納品や静岡県民プラザ、イノテック本社ビル内装工事等の各プロジェクトへ納品したのは登録異議申立人ではなく本件@商標の商標権者である原告である。その証拠として、本件@商標の商標権者(原告)が、本件@商標を付した商品を各種ビルへ納品した際に発行した請求書、見積書、納品リストの写しの一部を異議乙第3号証の1ないし3に示す。また、異議乙第5号証の1ないし28に示すように、本件@商標の出願前に発行された雑誌に掲載されている多くの「ザノッタ」商品の写真提供者は本件@商標の商標権者である原告であり、登録異議申立人ではない。本件@商標の商標権者である原告は、登録異議申立人が異議申立理由で述べているように現在までの約20年にわたり登録異議申立人の輸入販売代理店として、登録異議申立人から商品の供給を継続的に受ける継続的供給契約に基づき、当時は日本において全く無名であった「ザノッタ」商品の宣伝広告及び販売を一手に引き受け、有名なビルへの「ザノッタ」商品の納品(異議乙第2号証の1)、各プロジェクトへの「ザノッタ」商品の納品(異議乙第2号証の2)、日本語版ザノッタ商品カタログ及びプライスリストの制作(異議乙第4号証の1ないし3)、雑誌等への「ザノッタ」商品の広告掲載(異議乙第5号証1ないし28)等、本件@商標の知名度アップのための様々な努力を行ってきた。すなわち、永年、我が国において本件@商標を布製家具に対し使用をしてきたのは登録異議申立人ではなく本件@商標の商標権者であり、本件@商標査定時に我が国において「ザノッタ」商品を取り扱う業者といえば他の業者はおらず、本件@商標の商標権者のみであった。そして、本件@商標の出願前から、本件@商標の商標権者(原告)は異議乙第5号証の3に示すような「室内」等のインテリアの専門雑誌のみならず、異議乙第5号証の6及び異議乙第5号証の25に示すような「MODERN LIVING」、「BRUTUS」等の一般的な雑誌にも「ザノッタ」商品の広告を掲載しており、幅広い需要者に対して浸透度を図っているといえる。なお、本件@商標を使用した雑誌広告は異議乙第5号証の1ないし28に示されたものに限らず、これら以外にも頻繁に掲載されている。したがって、本件出願時及び査定時において、本件@商標は、本件@商標の商標権者(原告)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内において周知であったというべきであり、本件@商標が登録異議申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本において広く知られていたと認定した取消理由通知は、誤りである。
次に、本件@商標が商標法第4条第1項第19号に該当すると判断されるためには、本件@商標の出願時及び査定時において、本件@商標が「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」であることが必要である。登録異議申立人は、異議申立理由において本件@商標の出願が登録異議申立人との間において結ばれていた商品の継続的供給契約が解除された1999年春直後にされたものであると主張する。そして、その証拠として異議甲第7号証の1ないし3のインボイスを提出し、異議甲第7号証の3のインボイスの日付である1999年5月17日以降は登録異議申立人と本件@商標の商標権者(原告)との間に一切商取引が存在しないかのごとく主張し、それ以降のインボイスを提出していない。しかしながら、実際は、異議乙第6号証の1ないし3のインボイスが示すように、1999年5月17日以降も登録異議申立人と本件@商標の商標権者(原告)との間には商取引が存在し、本件@商標の商標権者(原告)は、本件出願日(1999年6月16日)以降も登録異議申立人から継続的に商品の供給を受けている。すなわち、本件出願日(1999年6月16日)には、本件継続的供給契約は解除されていなかったのである。したがって、本件出願時において登録異議申立人と本件@商標の商標権者(原告)との間の継続的供給契約は解除されていたとの登録異議申立人の主張は、誤りである。
登録異議申立人の主張のとおり1999年の春に契約の解除がなされていたのならば、異議乙第6号証の1ないし3のインボイスは存在しないはずである。また、本件査定時においても、本件継続的供給契約は終了していない。すなわち、本件のような継続的供給契約関係の下では、仮に一方的解約を許容する約定がある場合でも、信義則上著しい事情の変更や取引関係を継続し難いはなはだしい不信行為の存在等やむを得ない事由がない限り、一方的解約・解除は許されない(東京地裁平成5年9月27日判決(異議乙第7号証の1)及び東京高裁平成6年9月14日判決(異議乙第7号証の2))。これは、供給契約が「継続的」であるがゆえに寄せられる両当事者の期待を一方的な意思表示により否定することを制限する趣旨に基づく契約理論である。本件においては、そもそも一方的解約・解除を許容する約定は存在ず、また、上記のようなやむを得ない事由も認められない。登録異議申立人は、本件継続的供給契約を解約・解除できるような立場になかったのであり、現在もその状態に変更はない。本件@商標の商標権者(原告)は、登録異議申立人からの解約・解除の意思表示の存在そのものを否定するものであるが、上記のようなやむを得ない事情が存在しない以上、仮にその趣旨の意思表示が存在したとしても、かかる意思表示はその法的効果を発生させるものではなく、本件継続的供給契約は有効に存在しているのである。このように、本件継続的供給契約が終了していることを示す事実が認められない一方で、前記のとおり、登録異議申立人から本件@商標の商標権者(原告)に対しては継続的に商品の供給がなされており、さらに、異議乙第8号証に示すように、本件@商標の出願日以後も本件@商標の商標権者(原告)は登録異議申立人から商品の取引に関するFAXを受領しており、異議乙第5号証の27及び28に示すように、本件@商標の出願日以後も本件@商標の商標権者(原告)は雑誌に「ザノッタ」商品の宣伝広告を行うべく写真提供を行っている、というような継続的供給契約の存在を示す事実が認められるのである。
したがって、本件@商標の出願時及び査定時において、登録異議申立人と本件@商標の商標権者(原告)との間の継続的供給契約は終了しておらず、契約解除を行ったとする登録異議申立人の主張は、誤りである。また、登録異議申立人は、登録異議申立人の許諾を得ずして行われた本件@商標の出願及び登録は、登録異議申立人が契約を解除したことに対する報復措置であるから、本件@商標の商標権者(原告)の行為は、引用「ZANOTTA」商標の顧客吸引力ただ乗りし、不正に利益を得る目的でされたものであると主張する。しかしながら、前記のとおり、登録異議申立人と本件@商標の商標権者(原告)との間の契約は解除されておらず、契約が解除されたとする主張がそもそも誤っている。しかも、本件@商標の商標権者(原告)が本件@商標を出願し、登録した理由は報復措置などではなく、登録異議申立人との継続的供給契約の下で、本件@商標の商標権者(原告)が日本において「ザノッタ」商品を第三者の商標権を侵害することなく適法に販売するための当然の措置である。すなわち、本件@商標の商標権者(原告)は、本件@商標の出願日時(1999年6月16日)及び登録時(2000年2月4日)には、異議乙第9号証に示すように「アウレリオザノッタ」の文字よりなる本件@商標と類似する登録2220630号商標の登録を有していた。
上記商標の「Aurelio Zanotta/アウレリオザノッタ」とは、異議乙第10号証に示すように、登録異議申立人の社長の名前である。この商標登録を有していたがゆえに、本件出願前から、本件@商標の商標権者(原告)は登録異議申立人より供給された商品を第三者の商標権を侵害することなく適法に販売等することが可能であった。しかしながら、実際に日本で使用している商標は「Aurelio Zanotta/アウレリオザノッタ」ではなく、「ZANOTTA」や「ザノッタ」であったため、本件@商標を改めて出願したものである。したがって、本件出願時においては本件@商標と類似する上記の商標の登録を既に本件@商標の商標権者(原告)が有していたものであり、本件出願によって初めてザノッタ商標について権利を取得したものではない。なお、本件出願後には、本件@商標の商標権者(原告)は自己が日本において宣伝や販売を行っているイタリア家具を第三者の商標権を侵害することなく適法に販売等する目的のため、それらの家具のメーカーの名前である「Tisettanta/ティッセタンタ」や「HALIFAX」という商標を出願しており(異議乙第11号証)、上記のような目的をもって出願を行ったのは、本件@商標に限られたものではない。したがって、本件@商標の商標権者(原告)の出願が、契約を解除したことに対する報復措置であるから引用「ZANOTTA」商標の顧客吸引力ただ乗りし、不正に利益を得る目的でされたものであるとする登録異議申立人の主張は荒唐無稽であり、そのような主張に基づき本件@商標が不正の目的をもって使用するものであると認定した取消理由通知は、誤りである。
以上より、本件出願時及び査定時において、本件@商標は「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」ではないのは明らかである。そして、特筆すべきことは登録異議申立人と本件@商標の商標権者(原告)との間の継続的供給契約が正式に解約又は解除された時には、本件@商標の商標権者(原告)は、本件@商標の登録を登録異議申立人に移転する意思を有していることである。このことから将来においても本件@商標の商標権者(原告)が本件@商標の登録を盾に登録異議申立人に継続的供給契約を強制的に継続することを要求するものではなく、本件@商標は「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」には該当しない。
(4) 決定の判断 よって判断するに、登録異議申立人提出の異議甲第3号証の1ないし7号証により、登録異議申立人の「ザノッタ ソシエタ ペル アチオニ」は、1954年にイタリアにおいて「革製椅子、革製クッション」等、主に革製家具を製造・販売する会社として設立されたこと及び同社が永年にわたり「zanotta」の文字よりなる商標を「革製椅子、革製クッション」のみならず多くの家具に使用してきた結果、本件@商標の登録出願・登録時に、該文字よりなる商標は、イタリアのみならず我が国の取引者、需要者間に、上記会社の業務に係る商品を表示するものとして、広く認識されていたことをうかがい知ることができる。
ところで、我が国には、輸入総代理店である商標権者(原告)を通じて登録異議申立人の「zanotta」の文字よりなる商標が付された商品が輸入され、NTTアーバンネットビル、住友海上火災ビル、TEP1Aビル、新潟日航ホテル、草月会館(東京)等に納品されているが、商標権者(原告)が国内で「zanotta」の商標が付されている商品を販売するに当たっては、その宣伝広告の雑誌に、
該商品が「ザノッタ社」(イタリア)製の商品であることを明記していることが認められる(異議乙第5号証の4、5、10、11)。
一方、イタリアの製造販売側の当事者である登録異議申立人は、本件@商標の商標権者(原告)との日本における輸入販売代理店契約を解除した旨の主張をしているものであるから、本件@商標登録出願は登録異議申立人の許諾を得ずして行われているものと判断するのが相当である。
そして、上記異議甲各号証、異議乙第5号証及び本件@商標の登録出願が、両者の契約が解除された1999年5月17日直後の6月16日である等の事情を総合勘案すれば、かつて輸入販売代理店の地位にあった商標権者(原告)がイタリアにおいて登録異議申立人の業務に係る商品を表示するものとして著名な登録異議申立人の商標「zanotta」と類似する本件@商標を、登録異議申立人の承諾なしに取得することは、不正に利益を得る目的をもって使用するものといい得るものである。
したがって、本件@商標は、商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものであるから、商標法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものとする。
3 登録第4358284号商標(本件A商標)に関する決定(異議2000-90509号)の理由の要点 (1) 登録異議申立人の異議理由 (1)-1 商標法第4条第1項第15号について 本件A商標は、欧文字の「SACCO」とこれに相応する仮名文字「サッコ」から構成されたものであり、必然的に「サッコ」の称呼が生ずる。また、以下で述べる「SACCO」商標(引用「SACCO」商標)の著名性により、本件A商標からは著名商標「SACCO」及びその製品の観念が生ずる。したがって、本件A商標は引用「SACCO」商標と「サッコ」の称呼及び観念を共通する類似の商標である。登録異議申立人であるザノッタ ソシエタ ペル アチオニは、1954年に革(布)製家具及びそれらの装飾品の製造・販売を主として設立された会社で、
アチル カスチジリオーニ、アレッサンドロ メンデイーニ、パオロ デガネロ等の家具分野における著名デザイナーを擁し、今日まで順調な事業を展開し1999年度は450万米ドルの販売実績を誇る(異議甲第2号証及び同第6号証)。
登録異議申立人の商標である「SACCO」の国内外における著名性は、1948年イタリアで開催された家具類に関するトリエンナーレ展での金賞受賞を始めとして1951年、1968年、1970年、1971年、1973年、1979年、1981年の受賞実績や、1972年のニューヨークを皮切りに、1984年の東京の草月会館、1985年スペインのマドリッド、カナダのモントリーオール、1986年のニューヨーク、1988年のドイツのデュッセルドルフ、1988年のデンマークのコペンハーゲン、1989年のブラジルのサンパウロ、同年名古屋で開催された「1989年世界家具展」、1990年の東京・汐留駅、1991年のスペインのバルセロナ、1992年の東京での「Fujita Vante Museum」、同じく「小田急グランドギャラリー」、「The museum of Modem Art」富山 Marugame Genichiro、
また、広島での「Inokuma Museum of Contemporary Art」等の事実でもって確認できる(異議甲第3号証)。 よって、「SACCO/サッコ」の文字からなる本件A商標が、その指定商品に使用(特に、クッション類)された場合には、本件指定商品の分野の需要者が、登録異議申立人の業務に係る商品と出所を混同するおそれがあることは明らかである。しかるがゆえに、本件A商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(1)-2 商標法第4条第1項第19号について 本件A商標は、登録異議申立人の商品を表示するものとして日本国内及び外国において需要者の間に広く認識されている引用「SACCO」商標と類似の商標である。特筆すべき事実として、本件A商標の商標権者(原告)が20年近く登録異議申立人の輸入販売代理店であったことであり、本件A商標の出願(1999年6月16日)は登録異議申立人との間で結ばれていた契約が解除された1999年春直後にされたもので、登録異議申立人の許諾を得ずして行われた出願・登録は、本件A商標の商標権者(原告)の契約解除に対す報復措置とも取れる。なお、本件A商標を使用した商品(クッション類)が登録異議申立人の商標であることを証するインボイスを添付する。
このようなことから、本件A商標の商標権者(原告)の行為は、著名商標である引用「SACCO」商標の顧客吸引力ただ乗りし不正に利益を得る目的でされたものと考えるのが自然といえる(異議甲第2号証ないし5号証)。
よって、本件A商標は商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
(2) 通知した取消理由「登録異議申立人の提出に係る異議甲3号証等によれば、「SACCO」の文字によりなる商標は、登録異議申立人が永年にわたってイタリア、日本、アメリカ等で商品「クッション」に使用してきた結果、本件登録出願時には登録異議申立人の業務に係る商品の商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められるものである。
一方、登録異議申立人の提出に係る異議甲第5号証1ないし3のインボイスによれば、商標権者(原告)と登録異議申立人との間には、1999年に当事者間の契約が解除されるまで、製造販売業者と輸入販売代理店として商品の取引があったことがうかがえる。そうとすれば、登録異議申立人の業務に係る商品を表彰するものとして取引者・需要者間に周知著名な「SACCO」と同じ綴り字を有する本件A商標を、商標権者(原告)が登録異議申立人に断りなくその指定商品に使用することは、不正の目的をもって使用するものといわなければならない。したがって、本件A商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。」旨の取消理由を商標権者(原告)に通知した。
(3) 商標権者(原告)の意見 本件A商標が商標法第4条第1項第19号に該当すると判断されるためには、まず、本件A商標の出願時及び査定時において、本件A商標が「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似する商標」であることが必要である。しかしながら、登録異議申立人が提出した異議甲第3号証及び異議甲第4号証により、本件A商標の出願時及び査定時において本件A商標が登録異議申立人によってイタリア国においてクッションに使用されていることは立証されているものの、本件A商標の出願時及び査定時においてイタリア国において本件A商標がクッションについて周知性を獲得していることまでは十分に立証されていない。すなわち、審査基準の解説によれば、商標の「使用状況に関する事実の把握は、いわば量的に当該商標の使用の事実を認定し、それによって間接的ではあるが当該商標の需要者への浸透度を量り(推定し)、その大小ないしは広狭により当該商標の周知を認定」すべきであるから(異議乙第1号証)、本件A商標の出願時及び査定時において、本件A商標がクッションについてイタリア国で周知であると立証するためには、イタリア国におけるクッションの全販売総数のうちのどの程度の割合を本件A商標を使用したクッションが占めているのか、あるいはイタリア国における本件A商標を使用した広告宣伝の頻度を示すことにより需要者に対する浸透度がどれくらいであるのかということを少なくとも示す必要がある。しかしながら、登録異議申立人からは異議甲第6号証により1969年、1999年までの年次販売実績は示されているものの、その割合が全体でどの程度を占めるものであるか示されていない。また、この販売実績がイタリア国におけるクッションの前販売総数のうちのどの程度の割合を占めるものであるか示されていない。さらに、登録異議申立人からは、異議甲第3号証を示して本件A商標が国内のみならず外国においても著名性があることを主張するが、異議甲第3号証の受賞実績のリストだけではカタログ記載のどの商品について受賞したのか全く不明である。また、異議甲第4号証により、登録異議申立人の商品が記載されたイタリア国発行の雑誌に記載された広告が1つ示されているものの、この雑誌広告のみでは需要者に対する浸透度は全く高いものとはいえないし、どのような種類の雑誌に広告が掲載されたのかが分からないためどのような需要者に周知であるのかも不明である。したがって、本件A商標が登録異議申立人の業務に係る商品を表示するものとしてイタリア国において広く認識されていたものと認定した取消理由通知は、誤りである。
また、登録異議申立人は提出した異議甲第3号証により、本件A商標が国内において著名性の高いものであることを主張するが、異議乙第3号証の1ないし6に示すように、本件A商標の出願前に発行された雑誌に掲載されている数多くの「サッコ」商品の写真提供者は本件A商標の商標権者(原告)である原告であり、登録異議申立人ではない。本件A商標の商標権者(原告)である原告は、登録異議申立人が異議申立理由で述べているように現在までの約20年にわたり登録異議申立人の輸入販売代理店として登録異議申立人から商品の供給を継続的に受ける継続的供給契約に基づき、当時は日本において全く無名であった「サッコ」商品の宣伝広告及び販売を一手に引き受け、日本語版サッコ商品カタログ及びプライスリストの制作(異議乙第2号証の1及び2)、雑誌等への「サッコ」商品の広告掲載(異議乙第3号証1ないし6)等、本件A商標の知名度アップのための様々な努力を行ってきた。すなわち、永年、我が国において本件A商標をクッションに対し使用をしてきたのは登録異議申立人ではなく本件A商標の商標権者(原告)であり、本件A商標の出願時及び査定時に我が国において「サッコ」商品を取り扱う業者といえば他の業者はおらず、本件A商標の商標権者(原告)のみであった。そして、本件A商標の出願前から、本件A商標の商標権者(原告)は異議乙第3号証の3に示すような「室内」等のインテリアの専門雑誌のみならず、異議乙第3号証の6に示すような「BRUTUS」等の一般的な雑誌にも「サッコ」商品の広告を掲載しており、幅広い需要者に対して浸透度を図っているといえる。なお、本件A商標を使用した雑誌広告は異議乙第3号証1ないし6に示されたものに限らず、これら以外にも頻繁に掲載されている。したがって、本件出願時及び査定時において、
本件A商標は、本件A商標の商標権者(原告)の業務に係る商品を表示するものとして日本国内において周知であったというべきであり、本件A商標が登録異議申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本において広く知られていたと認定した取消理由通知は、誤りである。
次に、本件A商標が商標法第4条第1項第19号に該当すると判断されるためには、本件A商標の出願時及び査定時において、本件A商標が「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」であることが必要である。登録異議申立人は、異議申立理由において本件A商標の出願が登録異議申立人との間において結ばれていた商品の継続的供給契約が解除された1999年春直後にされたものであると主張する。そして、その証拠として異議甲第5号証の1ないし3のインボイスを提出し、異議甲第5号証の3のインボイスの日付である1999年5月17日以降は登録異議申立人と本件A商標の商標権者(原告)との間に一切商取引が存在しないかのごとく主張し、それ以降のインボイスを提出していない。しかしながら、実際は、異議乙第4号証の1ないし3のインボイスが示すように、1999年5月17日以降も登録異議申立人と本件A商標の商標権者(原告)との間には商取引が存在し、本件A商標の商標権者(原告)は、本件出願日(1999年6月16日)以降も登録異議申立人から継続的に商品の供給を受けている。すなわち、本件出願日(1999年6月16日)には、本件継続的供給契約は解除されていなかったのである。したがって、本件出願時において登録異議申立人と本件A商標の商標権者(原告)との間の継続的供給契約は解除されていたとの登録異議申立人の主張は、誤りである。
登録異議申立人の主張のとおり1999年の春に契約の解除がなされていたのならば、異議乙第4号証の1ないし3のインボイスは存在しないはずである。また、
本件査定時においても、本件継続的供給契約は終了していない。すなわち、本件のような継続的供給契約関係の下では、仮に一方的解約を許容する約定がある場合でも、信義則上著しい事情の変更や取引関係を継続し難いはなはだしい不信行為の存在等やむを得ない事由がない限り、一方的解約・解除は許されない(東京地裁平成5年9月27日判決(異議乙第5号証の1)及び東京高裁平成6年9月14日判決(異議乙第5号証の2)。これは、供給契約が「継続的」であるがゆえに寄せられる両当事者の期待を一方的な意思表示により否定することを制限する趣旨に基づく契約理論である。本件においては、そもそも一方的解約・解除を許容する約定は存在せず、また、上記のようなやむを得ない事由も認められない。登録異議申立人は、本件継続的供給契約を解約・解除できるような立場になかったのでありその状態に変更はない。本件A商標の商標権者(原告)は、登録異議申立人からの解約・解除の意思表示の存在そのものを否定するものであるが、上記のようなやむを得ない事情が存在しない以上、仮にその趣旨の意思表示が存在したとしても、かかる意思表示はその法的効果を発生させるものではなく、本件継続的供給契約は有効に存在しているのである。このように、本件継続的供給契約が終了していることを示す事実が認められない一方で、前記のとおり、登録異議申立人から本件A商標の商標権者(原告)に対しては継続的に商品の供給がなされており、さらに、異議乙第6号証に示すように、本件A商標の出願日以後も本件A商標の商標権者(原告)は登録異議申立人から商品の取引に関するFAXを受領している、というような継続的供給契約の存在を示す事実が認められるのである。したがって、本件出願時及び査定時において、登録異議申立人と本件A商標の商標権者(原告)との間の継続的供給契約は終了しておらず、契約解除を行ったとする登録異議申立人の主張は、誤りである。また、登録異議申立人は、登録異議申立人の許諾を得ずして行われた本件A商標の出願及び登録は、登録異議申立人が契約を解除したことに対する報復措置であるから、本件A商標権者(原告)の行為は、引用「SACCO」商標の顧客吸引力ただ乗りし、不正に利益を得る目的でなされたものであると主張している。しかしながら、前記のとおり、登録異議申立人と本件A商標の商標権者(原告)との間の契約は解除されておらず、契約が解除されたとする主張がそもそも誤っている。しかも、本件A商標の商標権者(原告)が本件A商標を出願し、登録した理由は報復措置などではなく、登録異議申立人との継続的供給契約の下で、本件A商標の商標権者(原告)が日本において「サッコ」商品を第三者の商標権を侵害することなく適法に販売するための当然の措置である。
なお、本件出願後には、本件A商標の商標権者(原告)は自己が日本において宣伝や販売を行っているイタリア家具を第三者の商標権を侵害することなく適法に販売等する目的のため、それらの家具のメーカーの名前である「Tisettanta/ティッセタンタ」や「HALIFAX」という商標を出願しており(異議乙第7号証)、上記のような目的をもって出願を行ったのは、本件A商標に限られたものではない。したがって、本件A商標の商標権者(原告)の出願が、契約を解除したことに対する報復措置であるから引用「SACCO」商標の顧客吸引力ただ乗りし、不正に利益を得る目的でされたものであるとする登録異議申立人の主張は荒唐無稽であり、そのような主張に基づき本件A商標が不正の目的をもって使用するものであると認定した取消理由通知は、誤りである。
以上より、本件出願時及び査定時において、本件A商標は「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」ではないのは明らかである。そして、特筆すべきことは登録異議申立人と本件A商標の商標権者(原告)との間の継続的供給契約が正式に解約又は解除された時には、本件A商標の商標権者(原告)は、本件A商標の登録を登録異議申立人に移転する意思を有していることである。このことから将来においても本件A商標の商標権者(原告)が本件A商標の登録を盾に登録異議申立人に継続的供給契約を強制的に継続することを要求するものではなく、本件A商標は「不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するもの」には該当しない。
(4) 決定の判断 登録異議申立人提出の異議甲第3号証の1ないし7号証によれば、登録異議申立人は、1954年にイタリアにおいて「革製椅子、革製クッション」等、主に革製家具を製造・販売する会社として設立されたものであるが、近年、イタリア国内の家具の展示会において金賞を受賞していることをうかがい知ることができる。また、登録異議申立人の家具の年次別販売実績(異議甲第6号証)、商標権者(原告)の提出しているインボイス(異議乙第5号証)等を見るに、登録異議申立人の業務に係る商標「SACCO」は、本件A商標の出願・登録時に、上記会社の業務に係る商品を表示するものとして、イタリアのみならず我が国の取引者、需要者間にも広く認識されていたものであることが推認される。
ところで、我が国には、輸入総代理店である商標権者(原告)を通じて登録異議申立人の「SACCO」の商標が付された「クッション」が輸入されているが、商標権者(原告)が「SACCO」なる商品を我が国で販売するに当たっては、雑誌の宣伝広告に、該商品が「ザノッタ」(社)(イタリア)の商品である旨の記載をしているところである(商標権者(原告)提出の異議乙第3号証の1ないし5号証の雑誌の広告)。
一方、イタリアの製造販売側の当事者である登録異議申立人が、本件A商標権者(原告)との日本における輸入販売代理店契約を解除した旨を主張している以上、
本件A商標登録出願は、登録異議申立人の許諾を得ずして行われているものと判断するのが相当である。そして、上記異議甲各号証、異議乙第5号証及び本件A商標の登録出願が両者の代理店契約の解除された1999年5月17日直後の6月16日であった等の事情を総合勘案すれば、かつて輸入販売代理店の地位にあった商標権者(原告)が、イタリアにおいて登録異議申立人の業務に係る商品「クッション」を表示するものとして著名な登録異議申立人の商標「SACCO」と類似する本件A商標を、本人(登録異議申立人)の承諾なしに取得することは、不正に利益を得る目的をもって使用するものといい得るものである。
したがって、本件A商標は、商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものであるから、商標法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものとする。
原告主張の決定取消事由(両事件共通)
1 取消事由1(引用「ZANOTTA」商標及び「SACCO」商標の周知、
著名性の認定、判断の誤り) (1) 登録異議申立人が、本件@、A商標の出願時及び査定時において、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が登録異議申立人の業務に係る商品についてイタリアで周知であると認めるためには、登録異議申立人が提出した甲第5号証のように1969年〜1999年までの年次販売実績の数字をただ単に羅列したのみでは不十分であり、少なくとも各年度の販売実績の数字がその業界全体の何%を占めるものであるかが示されなければならない。
1999年度のイタリアの寝室及び居室家具業界における現代家具の売上高全体では8兆4千億リラであり、前記登録異議申立人の売上高はイタリア家具業界全体の売上高のわずか0.2%にしかすぎない。しかも列挙された主要な企業32社のうちの第20位という下位に位置する。一方、最もシェアの高いモルテーニ社とポリフォーム社はそれぞれ942億リラと896億リラの売上高があり、登録異議申立人の売上高の約6倍である。日本でもよく知られているカッシーナ社では495億リラの売上高であり、これは登録異議申立人の売上高の約3倍である。また、日本ではアルフレックスジャパンが販売代理店であるB&B社の売上高は574億リラで、これも登録異議申立人の売上高の約3.7倍である。このように、イタリアにおける他の家具メーカーの売上高と登録異議申立人の売上高を比較するといかに登録異議申立人の売上高が低いかが分かる。
(2) 決定においては、登録異議申立人の社史(甲第4号証の1)、登録異議申立人の商品カタログ(甲第4号証の2)、登録異議申立人が頒布したチラシ(甲第6号証の1)、登録異議申立人の商品が紹介された雑誌の一部抜粋(甲第6号証の2等)、登録異議申立人の商品が掲載された新聞広告(甲第6号証の4等)、登録異議申立人の商品が掲載された雑誌広告(甲第6号証の6等)、登録異議申立人の商品カタログ(甲第7号証の1)等の登録異議申立人が提出した証拠に基づきイタリアにおける引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標の周知・著名性が認定されたが、登録異議申立人の社史、登録異議申立人の商品カタログ、登録異議申立人が頒布したチラシ及び登録異議申立人の商品カタログからは登録異議申立人がこれらの商品を販売している事実は看取されるものの、これらのチラシやカタログがいったいどのくらいの取引者・需要者に頒布されたのか不明であり、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標の需要者への浸透度が分からない。例えば、これらのチラシやカタログが、ほんの数百部数、頒布されたにすぎないのであれば、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が周知であることを認定する証拠とすることはできないはずである。また、登録異議申立人の商品が紹介された雑誌の一部抜粋、登録異議申立人の商品が掲載された新聞広告、登録異議申立人の商品が掲載された雑誌広告もすべて合わせても10回分しか提出されておらず、これだけで、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標がイタリアにおいて周知・著名であるとは到底いえないはずである。したがって、登録異議申立人が提出した上記証拠によりイタリアにおいて引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が登録異議申立人の業務に係る商品について周知・著名であると認定したのは、誤りである。
また、登録異議申立人及び原告が提出した証拠等により日本において引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が登録異議申立人の業務に係る商品について周知・著名であると認定することもできない。すなわち、甲第18号証の1〜29に示すように、本件@、A商標の出願前に発行された雑誌に掲載されている数多くの「ザノッタ」商品の写真提供者は原告であり、登録異議申立人ではない。原告は、現在までの約20年にわたり登録異議申立人の輸入販売代理店として登録異議申立人から商品の供給を継続的に受ける継続的供給契約に基づき、当時は日本において無名であった「ザノッタ」商品の宣伝広告及び販売を一手に引き受けた。そして、有名なビルへの「ザノッタ」商品の納品(甲第15号証の1)、各プロジェクトへの「ザノッタ」商品の納品(甲第15号証の2)、日本語版ザノッタ商品カタログ(甲第17号証の1)及びプライスリストの制作(甲第17号証の2)、雑誌等への「ザノッタ」商品の広告掲載(甲第18号証の1〜29)等本件@、A商標の知名度アップのための様々な努力を行い、広く知られるまでには至らないにしてもイタリア家具の取引者及び需要者の間には、登録異議申立人の商品を取り扱う業者として原告の名前は相当程度知られることとなっていた。すなわち、永年、我が国において本件@、A商標を布製家具に対し使用をしてきたのは登録異議申立人ではなく原告であり、本件@、A商標の出願時及び査定時に我が国において「ザノッタ」商品を取り扱う業者といえば他の業者はおらず、原告のみであった。そして、本件@、A商標の出願前から、原告は甲第18号証の3に示すような「室内」等のインテリアの専門雑誌のみならず、甲第18号証の7及び26に示すような「MODERN LIVING」、「BRUTUS」等の一般的な雑誌にも「ザノッタ」商品の広告を掲載しており、「ザノッタ」商品を輸入し、販売する原告として幅広い需要者に対して浸透度を図っているといえる。なお、本件@、A商標を使用した雑誌広告は甲第18号証1ないし29に示されたものに限らず、これら以外にも頻繁に掲載されている。
さらに、甲第19号証の1ないし2は、原告が入手した株式会社矢野経済研究所が発行する「家具産業白書2001〜進む環境対応と変わる家具小売市場〜」から抜粋した日本の家具インテリア関連卸の売上高ランキング(上位100社)、税引後利益高ランキング(上位50社)、売上高税引後利益率ランキング(上位50社)、従業員1人当たり利益高ランキング(上位50社)及び家具卸売業(年商20億円以上)のリストであるが、登録異議申立人の商品を取り扱っていた唯一の輸入販売代理店である原告がランキング入りをしていないことからも、登録異議申立人の商品は日本においてそれほど販売数は多くないということが看取される。
2 取消事由2(商標法第4条第1項第19号における「不正の目的」の認定、判断の誤り) (1) 決定は、イタリアの製造販売側の当事者である登録異議申立人が原告との日本における輸入販売代理店契約を解除した旨を主張しているものであるから、本件@、A商標登録出願は登録異議申立人の許諾を得ずして行われているものと判断するのが相当であるとし、本件@、A商標の登録出願が両者の契約が解除された1999年5月17日直後の6月16日であると認定し、著名な引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標と類似する本件@、A商標を登録異議申立人の承諾なしに取得することは、不正に利益を得る目的をもって使用するものといい得るものであるとする。
しかしながら、実際は、甲第20号証の1ないし3の登録異議申立人が発行したインボイスが示すように、1999年5月17日以降である1999年6月7日(甲第20号証の1)、1999年7月19日(甲第20号証の2)及び1999年9月27日(甲第20号証の3)においても登録異議申立人と原告との間には商取引が存在し、原告は、本件出願日(1999年6月16日)以降も登録異議申立人から継続的に商品の供給を受けていた。すなわち、登録異議申立人が主張するような継続的供給契約の解除は存在せず、本件出願日(1999年6月16日)においては、本件継続的供給契約は解除されていなかったのである。したがって、本件出願時において登録異議申立人と原告との間の継続的供給契約は解除されていたとの登録異議申立人の主張は誤りである。登録異議申立人は、自己のビジネスに都合の良いように原告との間において結ばれている商品の継続的供給契約の解除が存在したかのごとく意図的に本件@、A商標の登録出願日である1999年6月16日より前の19997年7月14日付のインボイス(甲第8号証の1)、1998年11月23日(甲第8号証の2)及び1999年5月17日付のインボイス(甲第8号証の3)のみを提出し、それ以降のインボイスの存在をことさら伏せてこの日以降は登録異議申立人と原告との間には一切の商取引が存在しないかのごとく主張したものである。そこで、原告は登録異議申立人が主張するような継続的供給契約の解除が存在しないことを異議申立手続において立証すべく、甲第20号証の1ないし3のインボイスの写しを異議意見書において提出したが、決定においては原告が提出した甲第20号証の1ないし3のインボイスの写しについて考慮されず登録異議申立人の主張のみを鵜呑みにして本件@、A商標の登録出願前に原告と登録異議申立人との間では継続的供給契約は解除されていたと決めつけてしまったものである。しかも、
登録異議申立人からは本件継続的供給契約が解除されていたことを示す証拠は提出されていない。
(2) 本件査定時においても、本件継続的供給契約は終了していない。すなわち、
本件のような継続的供給契約関係の下では、仮に一方的解約を許容する約定がある場合でも、信義則上著しい事情の変更や取引関係を継続し難いはなはだしい不信行為の存在等やむを得ない事由がない限り、一方的解約・解除は許されない。これは、供給契約が「継続的」であるがゆえに寄せられる両当事者の期待を一方的な意思表示により否定することを制限する趣旨に基づく契約理論である。本件においては、そもそも一方的解約・解除を許容する約定は存在せず、また、上記のようなやむを得ない事由も認められない。登録異議申立人は、本件継続的供給契約を解約・解除できるような立場になかったのであり、現在もその状態に変更はない。原告は、登録異議申立人からの解約・解除の意思表示の存在そのものを否定するものであるが、上記のようなやむを得ない事情が存在しない以上、仮にその趣旨の意思表示が存在したとしても、かかる意思表示はその法的効果を発生させるものではなく、本件継続的供給契約は有効に存在しているのである。本件においては、かかる「やむを得ない事情」は存在しない。このように、本件継続的供給契約が終了していることを示す事実が認められない一方で、前記のとおり、登録異議申立人から原告に対しては継続的に商品の供給がなされており、さらに、甲第22号証に示すように、本件@、A商標の出願日以後も原告は登録異議申立人から商品の取引に関するFAXを受領しおり、甲第18号証の28及び29に示すように、本件@、A商標の出願日以後も、原告は雑誌にザノッタ社商品の宣伝広告を行うべく写真提供を行っている、というような継続的供給契約の存在を示す事実が認められるのである。したがって、本件出願時及び査定時において、登録異議申立人と原告との間の継続的供給契約は終了しておらず、自己の一方的な都合のみにより契約の解除を行ったとする登録異議申立人の主張を鵜呑みにして契約の解除を認定したのは、誤りである。
(3) 原告は、本件@、A商標の出願日時(平成11年(1999年)6月16日)及び登録時(平成12年(2000年)2月4日)には、甲第23号証に示すように、本件@商標と類似する下記の商標の登録を有していた。
登録第2220630号 商標:「Aurelio Zanotta/アウレリオザノッタ」 区分:第20類 指定商品:家具その他本類に属する商品 出願日:昭和62年9月17日 登録日:平成2年4月23日 上記商標の「AurelioZanotta/アウレリオザノック」とは、甲第24号証に示すように、登録異議申立人の社長の名前である。この商標登録を有していたがゆえに、
原告は、本件@商標の出願前から第三者の商標権を侵害することなく、甲第18号証の1から甲第18号証の29に示すように登録異議申立人の商品の宣伝広告を行い、登録異議申立人より供給された商品を適法に販売等することが可能であった。しかしながら、実際に日本で使用している商標は「Aurelio Zanotta/アウレリオザノック」ではなく、「ZANOTTA」や「ザノッタ」であったため、前記商標権の存続期間が満了する2000年4月23日以前に本件@商標を改めて出願したものである。したがって、原告は、本件@商標と類似する上記の商標の登録を、既に本件出願時において有していたものであり、本件出願によって初めて、「ZANOTTA」や「ザノッタ」商標について権利を取得したものではない。
(4) なお、商標法第4条第1項第19号は、「(前各号に掲げるものを除く。)」と規定していて、仮に決定がしたように引用「ZANOTTA」商標及び「SACCO」商標の周知・著名性を肯定するのならば、本件@、A商標は引用「ZANOTTA」ないし「SACCO」商標に類似する商標であるから、同第10号の適用の可否をまず判断すべきである。決定は、この点について一切言及せず同19号を適用しているが、これは誤りである。
決定取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(引用「ZANOTTA」商標及び「SACCO」商標の表示の周知・著名性)に対して 引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が本件@、A商標の登録出願時及び査定時において、登録異議申立人の業務に係る商品「家具」を表示するためのものとして、イタリア国及び日本国内において周知・著名性を獲得していたものであることは、以下の事実より明らかである。
(1) 登録異議申立人は、1954年にイタリア国ミラノに設立され、今日に至るまで継続して家具の製造販売の事業を行ってきており、登録異議申立人の製品カタログ等も少なくとも1992年から継続して発行されている。原告主張のように、
1999年度は、イタリア家具業界の主要企業32社のうち20位に位置するとしても、1987年ないし1991年にはその売上高が700万米ドルないしそれ以上に達していた時期があった。甲第17号証の1(Printed in Italy・・1990)には、「世界的に有名なアッキーレ・カスティリオーニ、アレッサンドロ・メンディーニ、・・・パオリーニ&テオドーロ(有名なサッコをデザイン)・・・などがデザインした名作を生み出しています。・・・Zanottaの製品はその優れたデザイン性により、ニューヨーク近代美術館、・・・ミュンヘン工芸美術館などの永久保存品に選定されています。また、有名なイタリアのデザイン賞であるコンパッソドーロ賞を、1968年にロバート・メギの“グーショ”、1979年に・・・この他にもZanottaの製品は、世界的な賞を数々受賞しています。」との記載があり、甲第17号証の1が原告作成の日本語版であるならば、当然のこととして本国イタリア国のカタログが存在することが明らかであること、我が国においても、甲第17号証のカタログを始め、甲第18号証における商品の宣伝広告に当たっては、「著名なデザイナーの家具を作り続けているザノッタ社」(甲第18号証の1)、「ノバオーシマの中心的メーカーといえるザノッタ社」(甲第18号証の7)、「ザノッタ社製」、「イタリアのzanotta社製」(甲第18号証の11)、「イタリアのザノッタ社の新作家具が到着した。」(甲第18号証の12)等々、「イタリアのザノッタ社製(若しくはzanotta社製)」等の表示を前面に出して紹介しているものが圧倒的に多いこと、
また、商品の取引に当たっても、その書類に「ザノッタ社」、「Zanotta社(イタリア取寄)」、「zanotta社」(甲第16号証の1ないし4)等の記載がある。
(2) 昭和53年(1978年)には、デザインのおもしろさ等で椅子「SACCO」がZANOTTA(ザノッタ)の取扱いに係る商品として紹介された(乙第3号証及び乙第4号証)のを始め、甲第17号証のカタログや甲第18号証における商品の宣伝広告に当たっても、「ポリスチロールの細粒子(ペレット)をスキンフレックスカバーに入れた椅子。座る力が加わると、・・・自在に形が決まる。」(甲第18号証の4)、「・・・1968年に発表されると「ポップ時代最大の革命的な傑作」と激賞された。アート界へもセンセーションを巻き起こした一脚です。」(甲第18号証の13)、「サッコ誕生30年 記念の新作登場」(甲第18号証の20)、「イタリア・ZANOTTA社の定番のイス・SACCOに新色が登場」(甲第18号証の24)など紹介文とともに、ZANOTTA(ザノッタ)の表示が使用されている。
のみならず、上記甲第15号証の1ないし4、甲第16号証の1ないし3に示された登録異議申立人の家具が我が国において数多く取引された基礎となったともいうべく、1976年(昭和51年)には既に、登録異議申立人の取扱いに係る商品が我が国において紹介されている(乙第2号証ないし乙第4号証)。
(3) ところで、商品「家具」は、そのデザイン、色調、価格等により、需要者の商品の選択が大きく左右される性質のものであり、しかも、食料品や日用品などと異なり、比較的高価な商品が多いといえるから、家具業者のカタログ、あるいは業界雑誌、ファッション雑誌等の情報により、様々な取扱業者の商品を比較し、需要者の好みや予算などにあった商品を選ぶ場合が一般的である。
そして、需要者は、これらの情報により、デザインが優れた商品、高級感がある商品、あるいは色彩やデザインが奇抜な商品など、実際に自己が購入を希望しないような商品でも、需要者の目を引く商品が存在し、その製品の製造会社や商標を記憶する場合も少なくないことは、この種商品の取引の実際に照らし明らかである。
また、家具の取引業者にあっては、国内製品にとどまらず、海外の製品について注意を向けることは格別なこととは考えられず、むしろ伝統あるヨーロッパの家具には高い関心が集まるであろうことは想像に難くないところである。
(4) 上記家具の取引の実情を考慮すれば、実際の売上高が少ないことのみをもって、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が、本件@、A商標の登録出願時及び査定時において、登録異議申立人の取扱いに係る家具を表示するためのものとして、イタリア国及び日本国内において、周知・著名でなかったということはできず、むしろ長年にわたる宣伝広告が行われていることや美術館の永久保存品に選定されたこと、種々の賞を受賞したことが紹介されていること等を考えれば、
「ZANOTTA(若しくはzanotta)」の表示は、イタリア国及び日本国内の家具の取引業者、需要者の間において、本件@、A商標の登録出願前より周知・著名であったというべきである。
(5) 原告は、「登録異議申立人製品を国内で宣伝広告したのは原告であり、イタリア家具の取引者、需要者の間には、登録異議申立人の商品を取り扱う業者として原告の名前は相当程度知られることとなっていた。」旨主張する。
しかしながら、登録異議申立人製品を我が国で紹介するに際しては、「ザノッタ社製」、「イタリアのzanotta社製」などの記載があるところからすると、
原告の表示があったとしても、これらを見る取引者、需要者は、登録異議申立人が製造した家具を原告が国内販売しているものと容易に理解するというべきである。
また、乙第5号証の1及び2によれば、一般の消費者が広く目にする新聞紙上において、「ザノッタ社」の表示のみで家具が紹介されている。
2 取消事由2(不正の目的)に対して (1) 登録異議申立人は、原告をもって単に日本の顧客の一人にすぎないと考えていたため、登録異議申立人と原告との間で「代理店契約」という性格の文書を取り交わしたことがなく、したがって、「契約解除」に関する文書も存在しないが、登録異議申立人は、1999年1月6日にドイツのケルン市で開催された見本市において、原告に対し、商取引の中止を伝えたこと、登録異議申立人は、原告に対し、
1999年7月12日付の書面で今後の日本における新しい取引業者が独占的販売権を要求した旨を通知したこと、右通知に対し、原告は、1999年7月13日付の書面で「登録異議申立人の日本における新しい取引業者が、登録異議申立人の期待どおりであればよい。」旨の回答及び今後における商品の注文についての質問を登録異議申立人に送り、登録異議申立人は、「9月の初めに新しい取引業者と話し合うが、(登録異議申立人との取引については)非常に難しい。」旨回答している(乙第6号証の1ないし3)。
原告と登録異議申立人との間に締結された輸入販売代理店契約は、文書が取り交わされたものではないところからすると、これが原告のいう「継続的供給契約」であったとはにわかには首肯し難いところであり、また、原告は、右輸入販売代理店契約が終了したことを了解していたことは明らかである。
そして、1999年1月から同年7月にかけて、登録異議申立人と原告との間に上記のような文書等のやりとりがあったということは、その時点において登録異議申立人は、原告が本件@、A商標を登録出願したことについて知らなかったものと推測されるのである。
また、甲第20号証の1ないし3の取引が、代理店契約の終了前に登録異議申立人が原告より注文を受けたものとの登録異議申立人の主張は、一方で、本件@、A商標の出願及び登録の事実を知らずにした取引ということもできる。さらに、甲第22号証は、取引書類ではなく、確認書にすぎない。
(2) 以上のとおり、原告は、1999年1月から同年7月にかけての登録異議申立人の口頭での申入れや文書のやりとりで、登録異議申立人との代理店契約が終了することを理解していたことは明らかである。そして、本件において重要な点は、
登録異議申立人と原告との間の輸入販売代理店契約が終了しているにせよ、あるいはいまだ継続しているにせよ、他人である登録異議申立人が使用権原を有する商標を、輸入販売代理店である原告が、商標登録出願して登録することについて、登録異議申立人に承諾を得ていないで、先回りして商標登録出願して登録した事実であり、この事実の存在により、登録異議申立人から本件@、A商標の登録異議の申立てがなされたことである。原告のこのような行為が商取引上の信義則に反することはいうまでもなく、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」に該当するものであることは明らかである。
(3) 原告は、「本件@、A商標は、商標法第4条第1項第10号の適否について判断すべきところ、同第19号を適用したものであるから、決定は法適用の誤りがある。」旨主張する。
しかしながら、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標は、イタリア国及び日本国内の家具の取引者、需要者に広く認識されている商標である。そして、
原告は、他人である登録異議申立人の周知、著名な引用「ZANOTTA」ないし「SACCO」商標と極めて類似する本件@、A商標を、登録異議申立人の承諾を得ず無断で登録したものであり、本件@、A商標の原告による登録は、取引上の信義則に反する「不正の目的」があるというべきであるから、本件@、A商標は商標法第4条第1項第19号に違反して登録された商標である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用「ZANOTTA」商標及び「SACCO」商標の表示の周知・著名性)について (1) 登録異議申立人は、1954年からイタリア国ミラノを拠点に営業を開始し、今日に至るまで継続して家具の製造販売の事業を行い、ヨーロッパを中心に家具のカタログを発行してきたが(甲第17号証の1、乙第1号証の1、2、第7号証)、我が国においても、昭和53年(1978年)に大阪の国立国際美術館で開催された「イスのかたち」展の際に発行されたカタログにも、異議申立人であるZANOTTA(ザノッタ)社製造の椅子「SACCO」がデザインのおもしろさ、
独特のデザインのものとして紹介されていること(乙第3、第4号証)が認められる。また、平成5年(1993年)12月1日及び平成6年(1994年)3月30日の日本経済新聞の夕刊(乙第5号証の1、2)には、「ザノッタ社」製の椅子が独特のデザインを有するものとして紹介されていることが認められる。
甲第17号証の1、2のカタログ(登録異議申立人製家具のカタログ)や甲第18号証の1〜29(1995年から1999年にかけてザノッタ社の家具を紹介した「CASA」、「室内」、「家庭画報」などの各種雑誌記事)における商品の宣伝広告に当たっても、「ポリスチロールの細粒子(ペレット)をスキンフレックスカバーに入れた椅子。座る力が加わると、・・・自在に形が決まる。」(甲第18号証の4)、「・・・1968年に発表されると「ポップ時代最大の革命的な傑作」と激賞された。アート界へもセンセーションを巻き起こした一脚です。」「ザノッタのメインはソファ、テーブル、イス。」(甲第18号証の13)、「サッコ誕生30年 記念の新作登場」(甲第18号証の20)、「イタリア・ZANOTTA社の定番のイス・SACCOに新色が登場」「同じくZANOTTA社の円形のキャスター付きワゴンは、小回りの利く小型、」(甲第18号証の24)など紹介文とともに、「ZANOTTA」、「ザノッタ」あるいは「SACCO」、「サッコ」の表示が使用されていることが認められる。
原告は、1999年度において、登録異議申立人はイタリア家具業界の主要企業32社のうち売上高のわずか0.2%にすぎず20位に位置すると主張する。この事実を的確に認めるべき証拠はないが、1987年ないし1991年には登録異議申立人の売上高は700万米ドルないしそれ以上に達していた時期があり、その後も1999年までの間、440万米ドルを下回ることはなかったこと(甲第5号証)、また、甲第17号証の1は登録異議申立人が原告を通じて日本市場向けに作成した会社案内を兼ねる商品カタログ(1990年にイタリアで印刷)であると認められるが、そこには、「世界的に有名なアッキーレ・カスティリオーニ、アレッサンドロ・メンディーニ、・・・パオリーニ&テオドーロ(有名なサッコをデザイン)・・・などがデザインした名作を生み出しています。・・・Zanottaの製品はその優れたデザイン性により、ニューヨーク近代美術館、・・・ミュンヘン工芸美術館などの永久保存品に選定されています。また、有名なイタリアのデザイン賞であるコンパッソドーロ賞を、1968年にロバート・メギの“グーショ”、1979年に・・・この他にもZanottaの製品は、世界的な賞を数々受賞しています。」との記載があり、原告も、登録異議申立人が世界的に注目されている家具メーカーであることを自認していること、前記甲第18号証の1〜29においては、「著名なデザイナーの家具を作り続けているザノッタ社」、「ノバオーシマの中心的メーカーといえるザノッタ社」、「ザノッタ社製」、「イタリアのzanotta社製」、「イタリアのザノッタ社の新作家具が到着した。」などと記載して、他の記事記載と合わせて「イタリアのザノッタ社製(若しくはzanotta社製)」の家具を特徴的なデザインのものとして紹介していることが認められる。
(2) ところで、家具という商品は、比較的高価な商品であって、そのデザイン、
色調、価格等に大きな選択肢があり、とりわけ外国会社のデザインに係るものはこの傾向が顕著である。需要者は、家具業者や輸入業者のカタログ、あるいは業界雑誌、ファッション雑誌等の幅広い情報源から、様々な取扱業者の商品を比較し、好みや予算などに合致する商品を選ぶことが多いのは当裁判所に顕著な事実である。
需要者は、多くの情報から、デザイン、高級感などを総合して購入を決定し、その中で、奇抜な色彩やデザインの商品にも目を配り、実際に購入を希望しないまでもメーカーや製造国などを記憶にとどめる者も少なくないことは、家具の上記商品の傾向からしておのずと明らかである。そして、上記選択肢の中には当然海外製品も含まれ、卓抜なデザインのものがあると漠然とであっても知られているイタリア製の家具にも関心が向けられるであろうことは推測に難くない。
このような家具の取引の実情にかんがみれば、原告主張のように、登録異議申立人の売上高がイタリア家具業界において主要な地位を占めるものでないとしても、
引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が、本件@、A商標の登録出願時及び査定時において、登録異議申立人が製造、販売する家具を表示するものとして、イタリア国及び日本国内において、周知・著名なものであったとすることの妨げとなるものではない。前記認定のように、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標が登録異議申立人の製造、販売商品を表すものとして宣伝広告が行われていることや美術館の永久保存品に選定されたこと、種々の賞を受賞したことが紹介されていることなどにもかんがみると、「ZANOTTA(若しくはzanotta)」及び「SACCO」の表示は、本件@、A商標の登録出願前から、イタリア国において周知・著名であったものであり、日本国内の家具の取引業者、需要者の間においても周知・著名であったというべきである。
(3) 前記甲第18号証の1〜29の雑誌記事などには、「ZANOTTA(若しくはzanotta)」や「SACCO」商品は原告が取り扱っている旨の記載があるが、同時に、ほとんどの記事において「ザノッタ社製」、「イタリアのzanotta社製」などの記載もあることが認められ、このことからすると、これらを見る取引者、需要者は、登録異議申立人が製造した家具を原告が国内販売していると理解するものと認めることができる。また、平成5年(1993年)12月1日及び平成6年(1994年)3月30日の日本経済新聞の夕刊(乙第5号証の1、2)にも、「ザノッタ社」製の椅子が独特のデザインを有するものとして紹介されていることは前認定のとおりであるが、それは、「ザノッタ社」の表示のみによる家具の紹介記事である。
したがって、遅くとも平成11年(1999年)より前には、「ZANOTTA(若しくはzanotta)」及び「SACCO」の表示は、イタリア国の家具製造販売会社である登録異議申立人の商品表示としてイタリア国ないし我が国の取引者、
需要者に知られていたというべきである。
(4) 以上説示したところによれば、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標は、本件@、A商標の登録出願時及び査定時において、登録異議申立人の業務に係る商品「家具」を表示するためのものとして、イタリア国及び日本国内において周知・著名性を獲得していたものということができる。
2 取消事由2(不正の目的)について (1) 原告は、登録異議申立人との間に継続的供給契約が存在しており、本件@、
A商標登録出願(1999年6月16日)当時、この継続的供給契約は解除されておらず、存続していたと主張する。なるほど、原告代表者の陳述書(甲第26号証)には、原告代表者と登録異議申立人の副社長夫妻とが友人として付き合い始め、1984年(昭和59年)から、原告が登録異議申立人の日本における独占的な販売会社となったとの陳述記載部分があり、1985年から原告が登録異議申立人の商品を取り扱ってきており、年間取扱額(購入額)は3000万円〜5000万円を推移してきた事実も甲第26号証から認めることができるが、取引期間の長さないし取引額をもって、解除・解約が制限されるべき継続的供給契約が締結されたものと認めることはできない。甲第35〜第38号証は、原告が作成した登録異議申立人の商品の価格リストであるが、これらも、その体裁から登録異議申立人の商品を我が国で販売するために原告が作成したものと認められ、これをもってしても、上記の意味における継続的供給契約が締結されたことを認めるに足りない。継続的供給契約が締結されたことについての基本的な契約書は書証として提出されていないことにもかんがみると、本件において、解除・解約が制限される程度の継続的供給契約が原告と登録異議申立人との間に成立していたものと認めることはできない(甲第64号証は、登録異議申立人からAあての1984年3月1日付レターヘッドであり、登録異議申立人は、Aを日本の総代理店として任命する旨と、それに伴う諸条件が記載されている。しかし、これはAに対するものであり、
これをもって、直ちに原告と登録異議申立人との間に、解除・解約が制限されるべき継続的供給契約が成立したものと認めることはできない。)。
(2) 登録異議申立人は、かねてより原告の販売実績の向上方を求めていたが改善されなかったため、1999年1月6日にドイツのケルン市で開催された見本市において、原告に対し、商取引の中止を伝えたこと、登録異議申立人は、原告に対し、1999年7月12日付の書面で今後の日本における新しい取引業者が独占的販売権を要求した旨を通知したこと、右通知に対し、原告は、1999年7月13日付の書面で「登録異議申立人の日本における新しい取引業者が、登録異議申立人の期待どおりであればよい。」旨の回答及び今後における商品の注文についての質問を登録異議申立人に送り、登録異議申立人は、「9月の初めに新しい取引業者と話し合うが、(登録異議申立人との取引については)非常に難しい。」旨回答していることが認められる(乙第6号証の1ないし3)。
上記説示のところに従えば、この登録異議申立人の原告に対する通知は、継続的供給契約を解除するという意味を有するものではなく、原告との間で行われてきた取引を将来的に取りやめるとの解約の意向を示したものということができるが、そもそも、登録異議申立人が日本などにおいて家具に使用してきた商標の文字を含む本件@、A商標を、原告が日本において商標登録するについて、登録異議申立人から承諾を得た事実は認められないのであり、上記のように、原告が、1999年1月に登録異議申立人から取引を将来的に取りやめたいとの意向を受け、その約半年後である平成11年(1999年)6月16日に本件@、A商標の登録出願を行ったという経緯からすれば、原告は、登録出願時に既に、登録異議申立人から商品の供給を受ける見込みがないものと理解し、これらの登録出願をするにつき登録異議申立人の承諾を得られていないことを認識していたものと認めることができる。
以上のような事実関係の下においては、本件@、A商標の登録出願行為は、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」をもってするものというべきである。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(3) 原告は、本件については、本件@、A商標の商標法第4条第1項第10号の該当性についてまず判断すべきところ、これについて決定は判断していない旨主張する。しかし、引用「ZANOTTA」及び「SACCO」商標は、イタリア国において周知・著名性があることを基礎として、我が国においても周知・著名性を得ていることは前記認定事実から明らかである。すなわち、同商標の日本における周知・著名の程度が必ずしも高いものではないとしても、イタリア国において周知・著名であり、家具という商品に関する前記(2)に示した性質にかんがみて、日本においても周知・著名なものとなっているという関係にある。このような事実関係からすると、本件@、A商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に該当するというよりは、同19号に該当するものというべきであり、これを適用した審決の判断に誤りはない。
なお、原告は、昭和62年登録出願の登録第2220630号の「Aurelio Zanotta/アウレリオザノッタ」商標を従前から有していたことをもって、本件@商標が商標法第4条第1項第19号に該当しないことの裏付け事実として主張するが、前記(1)に説示したところによれば、原告が上記の商標の登録を得ていたことをもってしても、同条項第19号該当性に関する前記判断を覆すものではない。
結論
以上のとおりであって、原告主張の決定取消事由は、両事件ともについて理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年1月17日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実