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関連審決 異議1998-90654
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ19774商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成20ワ3023商標権侵害排除請求事件 判例 商標
平成17ワ25426損害賠償請求事件 判例 商標
平成12ネ5059商標権侵害差止等請求控訴事件 判例 商標
平成18ネ2387不正競争行為差止等請求控訴事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  著名な略称 /  損害額 /  権利濫用(権利の濫用) /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  差止 /  登録異議申立 /  先使用権 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 11675号 商標権侵害差止等請求事件
平成 12年 (ワ) 1229号 商標使用妨害禁止請求事件
甲事件原告兼乙事件被告 A甲事件原告 株式会社コトブキゴルフ
両名訴訟代理人弁護士 高初輔甲事件被告 ワールドブランズ株式会社 乙事件原告 アダムスゴルフインク
両名訴訟代理人弁護士 田中徹
同 竹之下 義弘
同 大塚一郎甲事件被告訴訟代理人 瀬戸川 真紀乙事件原告訴訟代理人 平野高志
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/02/07
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 甲事件原告A及び同株式会社コトブキゴルフの請求を,いずれも棄却する。
2 乙事件被告Aが,同事件原告アダムスゴルフインクに対して,同アダムスゴルフインクの製造,販売に係るADAMS の標章を付したゴルフクラブの輸入,販売又は販売のための展示につき,別紙商標目録記載の商標権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は,甲事件については同事件原告A及び同株式会社コトブキゴルフの,乙事件については同事件被告Aの各負担とする。
事実及び理由
請求
1 甲事件 (1) 甲事件被告ワールドブランズ株式会社(以下,単に「ワールドブランズ」という。)は,別紙標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)を付したゴルフクラブを輸入し,販売し又は販売のために展示し並びにその容器,包装紙及び広告に本件標章を使用してはならない。
(2) ワールドブランズは,その占有する本件標章を付したゴルフクラブを廃棄せよ。
(3) ワールドブランズは,甲事件原告株式会社コトブキゴルフ(以下,単に「コトブキゴルフ」という。)に対し,1億2059万円及びこれに対する平成11年12月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) ワールドブランズは,甲事件原告兼乙事件被告A(以下,単に「A」という。)に対し,1812万円及びこれに対する平成11年12月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 乙事件 主文第2項と同じ。
事案の概要
Aは,別紙商標目録記載の商標権(以下,「本件商標権」といい,その商標を「本件登録商標」という。)の商標権者であり,ワールドブランズは本件標章を付したゴルフクラブを輸入・販売等している会社である。
甲事件は,本件商標権を有するAがワールドブランズに対し,本件商標権に基づき,本件標章を付したゴルフクラブの輸入・販売の差止め等を求めるとともに,A及び本件商標権の元の商標権者であるコトブキゴルフがそれぞれワールドブランズに対し,本件商標権の侵害を理由とする損害賠償の支払を求めている事件である。
これに対して,乙事件は,本件標章を付したゴルフクラブを我が国に輸出しているアメリカ合衆国(以下「米国」という。)法人である乙事件原告アダムスゴルフインク(以下「アダムスゴルフ」という。)が,Aに対し,本件標章を付したゴルフクラブの輸入・販売等につき,本件商標権に基づく差止請求権の不存在確認を求めている事件である。
1 前提となる事実(証拠等により認定した事実については,末尾にその証拠等を掲げた。) (1) コトブキゴルフは,平成8年3月12日,本件登録商標につき,商品及び役務の区分を第28類,指定商品を運動用具として商標登録出願をし,同9年11月21日,設定登録を受けた。
コトブキゴルフの代表取締役であるAは,平成11年3月1日,コトブキゴルフから本件商標権を譲り受けた。
(2) コトブキゴルフは,平成9年11月ころから本件登録商標を付したゴルフクラブを販売していた。Aは,同11年3月ころから,本件登録商標の使用を有限会社アダムスに許諾し,同社は本件登録商標を付したゴルフクラブを製造して,コトブキゴルフがこれを販売している。
(3) ワールドブランズは,ゴルフクラブの輸入・販売を業とする会社である。
アダムスゴルフは,ゴルフクラブの製造・販売を主たる業とする米国法人であり,米国等において本件標章を付したゴルフクラブを製造・販売している(弁論の全趣旨)。
ワールドブランズは,アダムスゴルフから本件標章の付されたゴルフクラブを輸入し,我が国において販売している(乙2)。ゴルフクラブは,本件商標権の指定商品に含まれる。
(4) 本件登録商標のうちのADAMS の部分(英字部分)と本件標章は,その外観が類似し,「アダムス」という称呼が同一である。
(5) コトブキゴルフは,別表1,同2記載の各商標につき,我が国において商標登録出願をし,その一部については設定登録がされている。
2 本件の争点 (1) Aによる差止請求権及び損害賠償請求権の行使並びにコトブキゴルフによる損害賠償請求権の行使は,権利の濫用に当たるか。(争点1) (2) アダムスゴルフは,本件商標権の登録出願前から本件標章を付したゴルフクラブを我が国に輸出したことにより,先使用権(商標法32条1項)を有するか。(争点2) (3) 本件標章は,アダムスゴルフの「著名な略称普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項1号)に当たるか。(争点3) (4) A及びコトブキゴルフに生じた損害の額(争点4)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(A及びコトブキゴルフによる権利行使の権利濫用該当性)について 【ワールドブランズ及びアダムスゴルフの主張】 (1) 米国におけるアダムスゴルフの著名性 アダムスゴルフは,1987年(昭和62年)ころから米国においてADAMS の標章を付したゴルフクラブを製造・販売していたが,当初は必ずしも有名なブランドではなかった。しかし,アダムスゴルフの代表者であるBが1995年(平成7年)に「Tight Lies」(タイトライズ)という新製品を開発してからは,業界やゴルファーの注目を浴びるようになり,1996年(平成8年)1月26日から同月29日にかけてフロリダ州で開催されたアメリカプロゴルフ協会(以下「PGA」という。)の見本市に出品したタイトライズの新製品が人気を博したことで,ADAMS は一挙に有名なブランドとなり,アダムスゴルフも有名なゴルフクラブメーカーとなった。
(2) コトブキゴルフによる本件商標権の登録出願 コトブキゴルフは,従前から,外国においてゴルフ用品製造業者又は販売業者を示すものとして使用されている商標を我が国で無断で登録出願することを再三にわたり行ってきた。コトブキゴルフは,米国法人であるアクシネットジャパンインクとの間で「KING Cobra」の商標をめぐり係争中であるが,同事件の一審の東京地裁判決(当庁平成9年(ワ)第5505号事件・判例タイムズ1006号244頁)は,コトブキゴルフの前身である会社が無断で前記商標の登録出願をしたなどの事実関係の下では,コトブキゴルフの商標権に基づく権利行使は権利濫用に当たるとして,その差止め及び損害賠償の請求を棄却した。
Aは,2年間の米国留学の経験を有し,米国のゴルフ業界の事情に明るい者であるが,前記1996年(平成8年)1月開催のPGAの見本市を視察している。
コトブキゴルフによる我が国での本件商標権の登録出願は前記のとおり平成8年3月12日のことであり,アダムスゴルフ及びADAMS の名称がPGAの見本市の成功により著名になった直後である。そして,A及びコトブキゴルフには,アダムス又ADAMS の名称について商標登録をするべき何らの合理的な理由は存しない。
(3) まとめ 以上によれば,コトブキゴルフが本件商標権の商標登録出願をした理由は,アダムスゴルフの米国ゴルフ業界における成功に着目して我が国において登録出願を行ったこと以外には考えられない。
このような事情の下では,コトブキゴルフ及びその代表者であり,これを支配しているAが,ワールドブランズ及びアダムスゴルフによるゴルフクラブへの本件標章の使用に対して,本件商標権に基づく請求権を行使することは,権利の濫用に当たり許されない。
【A及びコトブキゴルフの主張】 (1) 本件商標権の商標登録出願に至る経緯 アダムス及びADAMS の標章は,C(以下「C」という。)が考案したものであり,Cは,昭和60年9月ころから,同人が設計・製造したゴルフクラブにこれを付して我が国において販売していた。Cは,平成2年4月有限会社アダムスを設立し,同年8月ころからコトブキゴルフとの間で,コトブキゴルフの発注に対してアダムス及びADAMS の標章を付したゴルフクラブを販売するという形で取引を開始した。
その後,有限会社アダムスの経営が苦しくなったため,Aは平成7年6月有限会社アダムスに対し,営業資金として200万円の融資をした。そのころ,CとAの間でアダムス及びADAMS の標章を商標登録出願することで話が進み,ひとつには上記債権の担保の趣旨で,ひとつにはコトブキゴルフが有限会社アダムスからアダムス及びADAMS の標章の付されたゴルフクラブを購入し,販売することを自己の業務として今後も継続するという趣旨で,Cの了解のもとコトブキゴルフの名義で本件登録商標を商標登録出願したものである。
(2) 本件登録商標の宣伝広告の実績 有限会社アダムス及びコトブキゴルフは,新聞,雑誌紙上で本件登録商標の付されたゴルフクラブの宣伝広告を行い,その販売を継続して行ってきた。
有限会社アダムスが広告を掲載した新聞等と掲載日は,次のとおりである。
昭和62年12月16日 日刊スポーツ 昭和63年2月24日 日刊スポーツ 昭和63年3月20日 サンケイスポーツ 平成元年8月 月刊ゴルフ用品界 平成2年12月18日 日刊ゲンダイ 平成3年10月 月刊ゴルフ用品界 平成5年5月1日 ゴルフ産業新聞 平成8年6月 月刊ゴルフ用品界 平成8年8月22日号 ALBA 平成8年9月22日号 週刊アサヒゴルフ コトブキゴルフが広告を掲載した新聞と掲載日は,次のとおりである。
平成10年5月7日 スポーツニッポン 平成10年6月1日 スポーツニッポン (3) まとめ 以上によれば,コトブキゴルフによる本件登録商標の商標登録出願には合理的な根拠が存在し,商標登録出願に至る経緯についても何ら不自然な点はない。
したがって,コトブキゴルフ及び同社から本件商標権を譲り受けたAによるワールドブランズ及びアダムスゴルフに対する権利行使は,権利の濫用に当たらない。
2 争点2(先使用権の有無)について 【ワールドブランズ及びアダムスゴルフの主張】 株式会社クリエイトプロダクト(以下「クリエイト社」という。)は,本件登録商標の商標登録出願の前である平成7年11月と12月に,アダムスゴルフから本件標章の付されたゴルフクラブを各3万4500ドル及び4万5000ドル分輸入して,我が国において販売を開始した。クリエイト社は,この他に少なくとも同年12月15日付け及び同月30日付けで,アダムスゴルフから本件標章の付されたゴルフクラブを各4万4000ドル及び2万2000ドル分輸入している。このことは,アダムスゴルフとしては,輸入代理店であるクリエイト社を通じて日本国内の店舗においてゴルフクラブを販売するについて本件標章を使用したことになる。
そして,本件標章の付されたアダムスゴルフ製造のゴルフクラブは,米国で著名になるに従い,我が国においても需要者であるゴルフ製品関係者に広く知られるようになった。このことは,雑誌「ゴルフ用品界」の平成7年12月号におけるアダムスゴルフのゴルフクラブに関する記事,平成8年3月1日発行の「ゴルフ用品総合カタログ」におけるアダムスゴルフのゴルフクラブの広告及び同誌の論説に掲載されたゴルフクラブの写真等により知ることができる。
以上によれば,アダムスゴルフは,本件標章につき先使用権(商標法32条1項)を有しているというべきであり,アダムスゴルフから本件標章の付されているゴルフクラブを輸入しているワールドブランズも,アダムスゴルフの先使用権を援用して,甲事件原告らの権利行使を拒むことができる。
【A及びコトブキゴルフの主張】 先使用権が認められるためには,商標登録出願の際,先使用権を主張する者が用いていた商標がその者の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることを要する。しかし,本件においては,証拠上認められるゴルフクラブの輸入数量はせいぜい1000本にとどまり,1000万人以上あるゴルフ人口から考えて,本件標章が需要者の間に広く認識されていたとは到底認めることはできない。
なお,米国法人のアダムス・ゴルフ・アイピー・リミテッドによる本件商標権の商標登録異議申立てに対して,特許庁は,本件登録商標の商標登録出願時に,本件標章がゴルフクラブに使用する商標として取引者,需要者の間において広く認識されていたものとは認められないという理由で,本件登録商標の設定登録を維持する旨の決定をしている。
以上によれば,ワールドブランズ及びアダムスゴルフには先使用権は認められない。
3 争点3(自己の著名な略称の使用への該当性)について 【ワールドブランズ及びアダムスゴルフの主張】 アダムスゴルフは,前記2のとおり,その製造に係るゴルフクラブにアダムス又ADAMS の名称を付して我が国に輸出した。このアダムス又はADAMS の名称といえば,アダムスあるいはAdamsの名称を含むゴルフクラブのメーカーを指すことは,関係地域,業界,需要者間に一般に知られていたものであるから,このような意味における略称を普通に用いられる方法で表示した本件標章の使用については,本件商標権の効力は及ばないものというべきである(商標法26条1項1号)。
【A及びコトブキゴルフの主張】 アダムス又はADAMS の名称がアダムスゴルフの著名な略称であることは,否認する。
商標法26条1項1号著名な略称を「普通に用いられる方法」で表示することを要件としているのは,使用者の名称という情報を需要者に開示するために必要最小限に止まることを要求する趣旨であると解されるところ,ワールドブランズは,顧客を誘引するための広告に大々的にADAMS の名称を用いているのであるから,「普通に用いられる方法」で表示しているものとはいえない。
4 争点4(甲事件原告らに生じた損害)について 【A及びコトブキゴルフの主張】 ワールドブランズは本件標章の付されたゴルフクラブを輸入・販売して本件商標権を侵害したが,これによるワールドブランズの売上げは,平成9年12月から同11年4月までで約7億5000万円と推定される。そして,通常,ゴルフ製品の販売業者が得る販売利益は売上げの約20%であるところ,ワールドブランズが本件標章の付されたゴルフクラブを販売することにより得る利益もほぼこれと同じである。
したがって,上記の期間におけるワールドブランズの利益は合計で少なくとも1億3400万円と推定されるが,このうちコトブキゴルフが本件登録商標の商標権者であった期間(平成11年2月末日まで)は15か月であるから,1億3400万円のうちの1億1823万5000円がコトブキゴルフに帰属する損害の額であり,その余の1576万5000円がAに帰属する損害の額である。
そして,甲事件原告らは,ワールドブランズによる本件商標権の侵害行為により,本訴を提起するため原告訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかったものであるが,その弁護士費用のうち着手金の471万円については,既に発生している損害で,かつ内部的な負担割合は2分の1であるから,甲事件原告らは各自235万5000円の損害を被ったことになる。
よって,上記の損害額を合計して,コトブキゴルフについては1億2059万円,Aについては1812万円及びそれぞれについて不法行為の後である平成11年12月14日(甲事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【ワールドブランズの主張】 A及びコトブキゴルフの主張は,否認し,争う。
当裁判所の判断
1 本件登録商標と本件標章の類否について 本件登録商標は,上下2段の横書き文字列よりなる商標であって,上段に英字で「ADAMS」,下段にカタカナで「アダムス」と記載したものである。
本件標章は,横書き1列の文字列からなる標章であって,黒字に白抜きの英字で「ADAMS」と記載したものである。
本件登録商標のうちの「ADAMS 」の部分(英字部分)と本件標章とを対比すると,その外観が類似し,「アダムス」という称呼が同一であることは,当事者間に争いがなく,また,両者は人名等である「アダムス」という観念を生じる点でも同一である。
そして,上記のとおり,本件登録商標は,英字「ADAMS」とこれにカタカナ表記した「アダムス」を上下2段に併記したというものであるから,そこからは「アダムス」という称呼及び「アダムス」という観念を生ずる。したがって,本件標章は,本件登録商標と類似するものである。
2 争点1(甲事件原告らによる権利行使の権利濫用該当性)について (1) 当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲4の1〜13,乙3〜5,6の1,2,12の1,2,14,18の1,2,19の1,2,20の1,2,21の1,2,証人C,当事者本人兼代表者A)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。
ア 米国法人であるアダムスゴルフは現在の代表者であるBが1987年(昭和62年)に創業した会社であり,当初は注文を受けてゴルフクラブを設計・製造していた。その後,アダムスゴルフは,ADAMS の標章を付したゴルフクラブを製造・販売するようになったが,ゴルフ業界においてそれほど注目を浴びることはなかった。
イ Bは,1995年(平成7年),フェアウェイウッドの設計に関して,従来のヘッドの形状を逆にするというユニークな構想に係る製品を開発し,「Tight Lies」(タイトなライ用のクラブという意味。以下「タイトライズ製品」という。)と名付けた。従来,ウッドクラブの上部輪郭の長さは,その下部輪郭の長さより長いのが常識であったが,タイトライズ製品はこれを逆にすることにより,重心を低くし,平均的なゴルファーの最大の課題の1つであるボールの打ち上げを容易にした点に特徴がある。
ウ アダムスゴルフは,1996年(平成8年)1月26日から同月29日にかけてフロリダ州オーランドにて開催されたPGA国際ゴルフショー(以下「PGA展示会」という。)にブースを設けて,タイトライズ製品を出品した。
タイトライズ製品は,1996年のPGA展示会で話題を集めたいくかのゴルフクラブの中の1つであり,アーノルド・パーマーやリー・トレビノといった著名なプロゴルファーもこのクラブを使用していた。なお,タイトライズ製品は,米国において,インターナショナル・ネットワーク・オブ・ゴルフという団体の1996年度におけるBreakthrough Product(革命的製品)という賞を受賞している。
エ PGA展示会は,100から200という規模のブランドが出品される世界的にみても大きな規模の展示会であり,ゴルフ用品の販売等の業者のみが入場できる資格を有する。
コトブキゴルフは,我が国のゴルフ用品の小売業においては最大手の会社である。Aは2年間の米国留学の経験を有し,従前から2,3年に一度の割合でPGA展示会を視察していた者であるが,1996年のPGA展示会を視察し,タイトライズ製品が話題を呼んでいることを知った。 Aは,上記展示会において20年来の知り合いである米国法人コブラゴルフ・インコーポレイテッドの創始者のDと会い,一緒にアダムスゴルフのブースを含むいくつかのブースを視察した。その際,Aは,Dに対し,「タイトライズ製品は,将来重要なゴルフクラブになるかもしれない。」という趣旨の感想を述べた。
オ コトブキゴルフは,平成8年3月12日,本件登録商標の商標登録出願をしたが,その際にアダムスゴルフの許諾を得ることはなかった。なお,アダムスゴルフは,米国においてADAMS の名称自体については商標登録をしていないが,ADAMS の文字の左側に三角形の図形を付したロゴについては,1996年(平成8年)3月20日から使用しているという事実に基づき商標登録をしている。
カ コトブキゴルフは,外国において外国のゴルフ用品製造業者又は販売業者を出所として表示するものとして使用されている商標を,我が国において無断で商標登録出願することを行っており,今までに商標登録出願している主なものは,別表1,同2記載のとおりである(ただし,同社の代表者であるA及び同人の父であるEらの名義による登録出願を含む。)。
そのうちの一例として,ZEVOの商標は,1996年1月のPGA展示会にその商標を付したゴルフクラブ等が出品されていたものであるが,同じ年の9月30日に我が国において商標登録出願がされている。
(2) 上記認定の事実によれば,ADAMS の名称が米国において注目されるようになったのは1996年(平成8年)1月のPGA展示会からであるところ,Aはその展示会を視察していること,しかも,AはADAMS の標章の付されたタイトライズ製品に注目し,将来重要なブランドになるとの認識を示していたこと,コトブキゴルフは上記展示会終了後間もない平成8年3月12日にアダムスゴルフに無断で本件商標権の商標登録出願をしていること,コトブキゴルフは,従前から,外国においてゴルフ用品製造業者又は販売業者を示すものとして使用されている商標を我が国で無断で登録出願することを繰り返していたこと,が認められる。
以上によれば,コトブキゴルフには,アダムス又ADAMS の名称について商標登録をするべき合理的な理由は存在せず,むしろタイトライズ製品が米国のゴルフ業界において成功したことに着目し,ADAMS の名称が将来我が国において人気が出ることを期待して商標登録出願を行ったものと認められる。
そうすると,アダムスゴルフが自己の製造販売するゴルフクラブにADAMSの標章を付してこれを輸入,販売等する行為,及び,ワールドブランズが本件標章の付されたアダムスゴルフ製造販売に係るゴルフクラブを輸入,販売等する行為に対して,コトブキゴルフ及び同社から本件商標権を譲り受けた同社の代表者であるAが,本件商標権に基づく差止請求権・損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用に当たるというべきである。
(3) この点について,A及びコトブキゴルフは,本件商標権に基づく権利行使が権利濫用に当たることを争い,本件登録商標につきコトブキゴルフ名義で商標登録出願したのは,@ Aの有限会社アダムスに対する200万円の貸金債権の担保の趣旨と,A 有限会社アダムスからアダムス又はADAMS の標章の付されたゴルフクラブを購入・販売することによる自己使用の趣旨であった旨主張する。そして,これを裏付ける証拠として,@については証人Cの証言及び本人兼代表者Aの供述が,Aについてはコトブキゴルフによる宣伝広告の実績を示す新聞記事(甲4の12,同13)がある。
そこで検討するに,コトブキゴルフは,本訴に先立つ本件登録商標の商標登録に対する異議申立事件(平成10年異議第90654号)においては,本件登録商標の登録出願の経緯につき,「Aが有限会社アダムスの代表者であるCに対し,アダムス及びADAMS の標章を商標登録しなければ第三者が先に商標登録を経由した場合には,商標権侵害となるおそれがある旨のアドバイスをしたところ,Cはこれに恩義を感じてコトブキゴルフの名義で商標登録出願することを許可した。」旨主張していたことが認められ(乙11の3),本訴における上記の主張とは食い違いがみられる。
そして,200万円の貸金債権の担保という点については,上記証言及び供述以外にこれを裏付ける客観的な証拠が存在しないし,コトブキゴルフと有限会社アダムスの取引の実態からみても不自然である。すなわち,本件商標権の商標登録出願がされたころのコトブキゴルフと有限会社アダムスとの間のゴルフ用品の仕入額は,平成7年には52万5000円,同8年93万9000円,同9年86万1336円,同10年64万5000円であり(乙11の3〔前記登録異議申立事件において証拠として提出された仕入伝票〕により認められる。),このような少額の年間仕入額からみて,コトブキゴルフが有限会社アダムスからゴルフクラブを購入してこれを販売する便宜だけのために,アダムス及びADAMS の標章につきわざわざ商標登録出願をすることは考えにくい。しかも,AとCのどちらが本件登録商標の商標登録出願を申し出たかという点について,AはCが申し出たと供述しているのに対し,Cはコトブキゴルフの側が申し出たと証言しており,両者は食い違っている。
さらに,コトブキゴルフによるアダムス及びADAMS の標章の付されたゴルフクラブの宣伝広告は,本件登録商標の出願後はもとより,設定登録がされた後においても行われた形跡がなく,平成10年5月7日になって初めて行われたこと,コトブキゴルフによる本件登録商標の付されたゴルフクラブの広告は,平成10年5月と6月に3回集中的に行われていること(甲4の12,13,弁論の全趣旨),その時期は前記登録異議申立事件において,コトブキゴルフから代理人弁理士の選任届が提出された直後に当たること(乙11の2),上記の広告をみると,他のゴルフ用品は有名なブランドのものであるのに,その中に有名とはいえない有限会社アダムス製造のADAMS の標章の付されたゴルフクラブが含まれていることが認められるから,上記の宣伝広告は,コトブキゴルフがその販売に係る製品を宣伝するというよりも,むしろ,本件登録商標についての前記登録異議申立事件の手続を自己に有利に進行させることのみを目的としてなされたことが強く推認される。
以上の認定事実によれば,A及びコトブキゴルフの主張は,いずれも採用することができない。
3 以上のとおりであるから,A及びコトブキゴルフの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がなく,他方,Aに対し,ADAMSの標章の付されたゴルフクラブの販売等につき,本件商標権に基づく差止請求権の不存在確認を求めるアダムスゴルフの請求は,理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一