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事件 平成 10年 (ワ) 11740号 商標権侵害差止等請求事件
原告 有限会社黒雲製作所
訴訟代理人弁護士 市東譲吉
被告a
訴訟代理人弁護士 土門宏
補佐人弁理士 牛木理一
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/09/28
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙標章目録1及び2記載の標章を付したギター,この部品及び付属品を輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 被告は,その広告,パンフレット,定価表,手紙及び小冊子に別紙標章目録1ないし5記載の標章を使用してはならない。
3 被告は,その営業所及び倉庫に存する別紙標章目録1又は2記載の標章を付したギター,その部品及び付属品並びに別紙標章目録1ないし5記載の標章を付した広告,パンフレット,定価表,手紙及び小冊子を廃棄せよ。
4 被告は,そのウェブページに,別紙標章目録1ないし5記載の標章を使用してはならない。
5 被告は,そのウェブページのURL及びeメールアドレスに,別紙標章目録3記載の標章を使用してはならない。
6 被告は,原告に対し,金1億4900万円及びこれに対する平成10年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1)ア 原告は,次の商標権(以下,「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
登録番号 第1419427号 出願日 昭和47年6月22日 登録日 昭和55年5月30日 指定商品及び商品の区分 第24類 楽器,その他本類に属する商品 登録商標 別紙登録商標目録記載のとおり イ 本件商標権は,昭和47年6月22日,Aによって出願された。本件商標登録出願により生じた権利(以下「本件商標登録出願権」という。)は,昭和52年6月16日,bから黒沢商事株式会社に移転し,さらに,昭和52年9月28日,黒沢商事株式会社から原告に移転した。そして,昭和55年5月30日に,本件商標権は登録された。
(2) 被告は,フィルモア楽器という屋号を用い,各種ギター並びにこれらの部品及び付属品の輸入,販売業を営む者であるが,以下の3種類のギター,その部品及び付属品を輸入し,販売し,販売のために展示している(乙1,23,25ないし28,66ないし77,乙100の1ないし6,乙107の1ないし11,乙108の1,2,弁論の全趣旨)。
ア セミー・モズレーがアメリカ合衆国において設立したモズライト社(以下「モズライト社」という。)によって1960年代までに製造されたエレキギター(以下,「被告商品A」という。) イ セミー・モズレーがモズライト社倒産後に製造したエレキギター又は同人がモズライト社倒産後にアメリカ合衆国において設立したユニファイド・サウンド・アソシエーション・インコーポレーテッド(以下,「ユニファイド社」という。)が製造したエレキギター(以下,「被告商品B」という。) ウ アメリカ合衆国のスガイ・ミュージカル・インストルメント・インコーポレーテッド(以下,「スガイ社」という。)が製造しているエレキギター(以下,「被告商品C」といい,被告商品A及びBと併せて「被告商品」という。) 2 本件は,本件商標権を有している原告が,被告に対し,「被告は,別紙標章目録1ないし5の標章(以下「被告標章1」などという。)を付したエレキギター等の輸入販売等をしているところ,これらの標章は,いずれも本件商標と同一又は類似しているから,この輸入販売等は,本件商標権の侵害である。」と主張して,この輸入販売等の差止め並びにこの侵害による損害の賠償及び不当利得の返還を求める事案である。
争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点 (1) 別紙標章目録記載の各標章が本件商標と類似しているか (2) 被告の行為 (3) 原告の本件商標権に基づく請求が権利濫用に当たるか(1)(本件商標の商標登録に無効事由又は取消し事由が存在することが明らかであるか) (4) 原告の本件商標権に基づく請求が権利濫用に当たるか(2)(ベンチャーズーモズライト・インク(以下,「ベンチャーズーモズライト社」という。)が有していた商標権との関係で同請求が権利濫用に当たるか) (5) 本件商標権に基づく被告商品A及びB等についての請求の可否 (6) 先使用による通常使用権の有無 (7) 損害の発生及び額等 2 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) 被告標章1は,本件商標と同一である。
被告標章2の標章は,「Mマーク mosrite」の部分が本件商標と同一で,かつ,「of California」の部分は,Californiaがアメリカ合衆国の州名にすぎないことからすると,本件商標に類似する。
被告標章3は,「mosrite」を横書きしてなるもの,被告標章4は,カタカナ文字であるモズライトを横書きしてなるもの,被告標章5は,「MOSRITE」を横書きしてなるものであるが,本件商標から生ずる称呼と,これらの標章の称呼は同一であるから,これらの商標はいずれも本件商標に類似する。
(被告の主張) 被告標章2は,発祥産地を表す「of California」を,明確に標章の一部として表示しているから,需用者が自他商品の出所を混同するほどに本件商標と類似しているとはいえない。
(2) 争点(2)について (原告の主張) 被告は,被告標章1及び2を付したギター,この部品及び付属品を輸入し,販売し,又は販売のために展示している。
被告は,その広告,パンフレット,定価表,手紙及び小冊子に被告標章1ないし5記載の標章を使用している。
被告は,そのウェブページに,被告標章1ないし5を使用している。
被告は,そのウェブページのURL及びeメールアドレスに,被告標章3を使用している。
(被告の主張) 被告が被告標章2を使用していることは認めるが,その余の標章の使用については否認する。
(3) 争点(3)について (被告の主張) ア 商標法4条1項10号該当性について 本件商標は,セミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター(以下,「モズライト・ギター」という。)の標章として,本件商標登録の出願時及び登録時のいずれにおいても,わが国の需用者間に周知著名なものとなっていた被告標章2と類似するから,商標法4条1項10号の事由が存する。
不正競争の目的で登録を受けた商標にあっては,同号について,除斥期間の適用がないところ,原告は,モズライト・ギターの人気に便乗して利益を得ようとしたものであって,このことは,本件商標を使用した原告のエレキギターが,モズライト・ギターとの間で実際に混同を生じていることからも明らかであるから,原告には,不正競争の目的があったというべきである。
イ 商標法4条1項16号該当性について モズライト・ギターは,わが国の需用者間に周知著名なものとなっていたから,本件商標は,モズライト・ギターと誤認を生じるおそれがあるものである。したがって,商標法4条1項16号の事由が存する。
ウ 商標法4条1項19号該当性について 本件商標は,モズライト・ギターの標章として需要者の間に広く認識されている表示と類似するから,本件商標は,他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と類似のものであって,原告は,これを不正の目的をもって使用しているから,商標法4条1項19号の事由が存する。
エ 商標法51条該当性について 原告は,その製造販売するエレキギターに,本件商標に「of California」を付した標章を使用することにより,故意に,被告がアメリカ合衆国から輸入販売しているエレキギターと混同させているから,商標法51条の事由が存する。
オ 商標法50条該当性について 原告は,本件商標に「of California」を付した標章を使用しているが,本件商標については,過去10年以上使用していないから,商標法50条の事由が存する。
(原告の主張) ア 商標法4条1項10号該当性について 本件商標登録の出願時や登録時に,被告標章2がセミー・モズレー又は同人が設立した会社の商品を表示するものとしてわが国の需用者間に周知になっていたという事実は存在しない。
また,商標権者に不正競争の目的がない場合には,5年の除斥期間の経過により,同号に該当することを理由とする無効審判請求はできないところ,本件商標の登録前に,ベンチャーズーモズライト社は,日本で有していた「MOSRITE」等の商標権の更新をしないことによりこれらの商標権を放棄したこと,ベンチャーズーモズライト社は本件商標の登録時に倒産してすでに存在しておらず,「競争」自体がなかったことからすると,本件商標登録時に,原告には不正競争の目的がなかった。
同号は,私益を保護する規定であるから,セミー・モズレー又は同人が設立した会社と関係のない被告が,同号に該当することを主張することはできない。
イ 商標法4条1項16号該当性について 一定の商標が,その指定商品について,その商品の品質が現実に有するものと異なるものであるかのように世人をして誤認させるおそれがあるような場合に,同号に該当するが,本件商標には,そのようなおそれはない。また,本件商標の登録時に,セミー・モズレー又は同人が設立した会社のエレキギターが周知著名であったという事実はない。
ウ 商標法4条1項19号該当性について 被告の主張を争う。
エ 商標法51条該当性について 原告の製造販売にかかるエレキギターやパンフレットを見て,被告がアメリカ合衆国から輸入販売しているエレキギターと誤信する者は皆無である。また,原告には,「故意」はない。
(4) 争点(4)について (被告の主張) ア 本件商標登録の出願の際,ベンチャーズーモズライト社が日本において「MOSRITE」等の商標を登録していたが,本件商標の出願人は,出願の際,上記商標を知っていたか又は知りうべきであった。しかるところ,原告は,このような出願人によって出願された本件商標登録出願権を,大金を支払って買い取ることで承継し,商標登録したものであるから,このような原告による本件商標権の行使は権利濫用に当たる。
イ 原告は,昭和44年以降,「mosrite」の標章を付したエレキギターを製造販売していたところ,これは,ベンチャーズーモズライト社が当時有していた「MOSRITE」の商標権を侵害する行為であるから,このように自ら商標権を侵害していた原告が,被告に対し,本件商標権侵害に基づく請求をすることは,権利濫用に当たる。
(原告の主張) ベンチャーズーモズライト社は,わが国において,「MOSRITE」等の商標の更新登録手続をせず,これらの商標は,昭和52年3月20日,期間満了により消滅したため,本件商標は,昭和55年5月30日に登録となったものであり,原告の本件商標の登録過程に何ら問題はない。
(5) 争点(5)について (被告の主張) ア 被告は,セミー・モズレーから,同人がわが国で有する,本件商標権に対抗できる地位を与えられ,その地位に伴う権限の行使として被告商品A及びBを輸入販売していたところ,これらの商品の輸入販売は,真正製品の並行輸入と同視できるから,本件商標権の侵害に当たらない。
イ 原告は,被告に対し,平成8年ころ,原告が販売したモズライト・ギターの複製品の販売を許諾していたから,その時期の被告による被告商品の輸入販売について,原告は損害賠償請求権を放棄したものというべきである。
ウ 原告は,被告がセミー・モズレーと協力して,被告商品A及びBを輸入販売していたことを知りながら本件商標権に基づく権利行使をしなかった。また,セミー・モズレーの死後も,6年以上にわたり,被告の被告商品A及びBの輸入販売に対し,本件商標権に基づく権利行使をしなかった。したがって,これらの商品の輸入販売についての本件商標権に基づく請求権は,権利失効の原則により消滅した。
(原告の主張) 被告商品A及びBは,本件商標権との関係では,いわゆる真正品の関係ではないが,仮に真正品であったとしても,真正商品を基礎としてこれに加工や改変を加えた商品を販売する行為は,出所表示機能及び品質保証機能等の自他商品識別機能を害するものであり,商標権侵害に当たるところ,被告商品A及びBは,被告が,モズライト・ギターに,多額の費用をかけて塗装のやり直し,部品の交換等の修繕を行って,新品と同様に使用可能にしたうえで,新たに包装をし直し,保証書等を挿入したものであるから,このような商品の販売は,本件商標権の侵害行為を構成する。
(6) 争点(6)について (被告の主張) セミー・モズレー及びモズライト社は,本件商標登録の出願前から,わが国において,被告標章2を使用してきたから,同社らが製造したエレキギターを販売する被告は,被告商品A及びBの輸入販売について,同社らの有する先使用の抗弁をもって,原告に対抗することができる。
(原告の主張) 被告が被告商品の輸入販売を開始したのは,本件商標登録の出願以降である。
また,ベンチャーズーモズライト社は昭和44年2月に倒産し,わが国におけるそのライセンシーであるファーストマン楽器製造株式会社(以下「ファーストマン社」という。)も昭和44年7月に倒産したから,わが国において,同社らが,被告標章2を継続して商品に使用していた事実はあり得ない。
(7) 争点(7)について (原告の主張) ア 被告は,被告商品の販売により,少なくとも本件商標の使用料相当額の不当利得を得たものであるが,本件商標の使用料の額は売上額の10パーセントとするのが相当である。
被告による被告商品の昭和63年6月1日から平成7年1月7日までの売上額は,合計で1億9615万3840円であるから,これに10パーセントを乗じると,1960万円(10万円未満は切捨て)となる。
よって,原告は,被告に対し,上記不当利得の返還を請求する。
イ 商標法38条2項にいう「利益」とは,被告による被告商品の売上額からその販売のための変動経費のみを控除した額と考えられるところ,被告が下記のとおり主張する各経費のうち,変動経費に当たるのは,仕入額,修繕費及び荷造り運賃のみである。
被告による平成7年1月8日から平成12年3月31日までの被告商品の売上額から,同期間の仕入額,修繕費及び荷造り運賃を差し引いた利益額は,合計で1億2641万3777円となる。このうち10万円未満を切り捨てると,1億2640万円となる。
よって,原告は,被告に対し,上記金額の損害賠償を請求する。
ウ 本件商標権侵害行為と相当因果関係にあり,原告が負担する弁護士費用の額は,509万6000円であるところ,原告は,被告に対し,そのうち損害賠償として300万円の支払を求める。
(被告の主張) ア 原告は,被告による被告商品の広告等に便乗して商品を販売していたのであって,これにより,むしろ,原告の売上げは増加していた。したがって,原告の売上げが減少したとしても,それは被告の行為によるものではない。
イ 被告は,セミー・モズレー及びユニファイド社と協力して,被告商品A及びBを輸入販売等してきたが,原告は同人らに商標権侵害を主張できない立場にあったし,また,被告に対しても何ら法的措置を講じなかったから,被告は,被告商品A及びBの輸入販売を適法と信じていた。
このように,被告には,本件商標権侵害につき故意がないところ,被告には,現存する利益がない。
ウ わが国のエレキギターの需要者は,被告商品A及びBと原告の製造しているエレキギターが異なるものとよく認識していたから,被告が被告商品A及びBを販売したことで,原告に何ら損害は生じていない。 エ 不当利得返還請求権についても3年間の消滅時効の規定が適用されるから,被告はこの時効を援用する。したがって,平成7年1月7日以前の不当利得返還請求権は,時効により消滅した。
オ 被告が被告商品を販売するのに要した経費としては,仕入額,修繕費,荷造り運賃,広告費,給料賃金,モズライトファンクラブ維持費,旅費交通費,地代家賃,車輌関係費,通信費,EMS国際郵便料金,消耗品費,接待交際費,水道光熱費,支払利息,事業税,損害保険料があり,これらを被告商品の売上げから差し引くと,利益はマイナスとなるから,被告には被告商品の販売によって利益は生じていない。
カ 本件は,被告に制裁を科さなければならないような悪質な違反行為の事案ではないから,弁護士費用を請求することはできない。
当裁判所の判断
1 争点(3)について (1) 本件商標登録に商標法4条1項10号が定める事由が存するかどうかについて,まず判断する。
(2) 前記第2の1の事実に証拠(甲6の1,2,甲14の1,甲31,乙1ないし3,乙4の1ないし4,乙8,14,15,23,28,66ないし77,85,86,乙100の1ないし6,乙101の1ないし5,乙102,103)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
セミー・モズレーは,昭和28年ころから,アメリカ合衆国において,エレキギターの製造を始めた。その後,セミー・モズレーは,モズライト社を設立し,被告標章2が付されたエレキギターの製造販売をするようになった。「モズライト」とは,セミー・モズレーと,同人の初期の後援者であるレイ・ボートライトの名前を合体したものである。
わが国では,昭和40年ころから,ベンチャーズーモズライト社を通じて被告標章2が付されたモズライト・ギターが輸入販売されるようになった。ベンチャーズーモズライト社は,昭和40年5月8日,「MOSRITE」,「VENTURE-MOSRITE」等の商標をわが国で出願し,これらの商標は昭和42年3月20日に商標登録された。ファーストマン社は,このころから,モズライト社から許諾を得て,「アベンジャーモデル」という「MOSRITE」の標章を付したエレキギターの製造販売をしていたが,原告は,その生産に,下請けとして関与していた。
人気ロックグループであるザ・ベンチャーズが昭和40年に来日してモズライト・ギターを使用したこと,寺内タケシ,加山雄三といった人気ミュージシャンがモズライト・ギターを演奏に使用したことなどから,遅くとも,本件商標登録の出願時には,被告標章2は,モズライト・ギターの標章として,エレキギターを取り扱う業者やエレキギターの愛好家の間では,よく知られるようになっていた。
モズライト社は,昭和44年に倒産した。また,ファーストマン社も,同年7月に倒産した。モズライト社は,再建されたが,昭和48年に再び倒産した。
原告は,上記のとおり,ファーストマン社の下請けをしていたが,昭和43年ころから,モズライト・ギターの複製品である本件商標を付したエレキギターを製造販売するようになった。原告は,その後,被告標章2を付したモズライト・ギターの複製品を製造販売するようになり,現在に至るまで,その製造販売を継続している。
Aは,昭和47年6月22日,本件商標登録の出願をした。ベンチャーズーモズライト社がわが国で有していた「MOSRITE」等の商標は,昭和52年3月20日に,期間満了により消滅し,昭和54年9月10日にその登録が抹消された。
本件商標登録出願権は,昭和52年6月16日に,Aから黒沢商事株式会社に移転したが,同社からこの権利を買い取るよう求められた原告は,これを400万円で買い取り,本件商標登録出願権は,同年9月28日に,黒沢商事株式会社から原告に移転した。本件商標権は,昭和55年5月30日に登録された。
セミー・モズレーは,上記2度目の倒産後しばらくして,エレキギターの製造を再開し,一時中断した期間はあったものの,継続的にエレキギターの製造販売を続けた。セミー・モズレーは,被告標章2を付したモズライト・ギターを製作し,それらは,モズライト・ギターの人気が高かったわが国にも輸出,販売された。
被告は,昭和51年5月に,フィルモア楽器店を開店し,モズライト・ギターの販売を開始した。
セミー・モズレーが,平成4年,ユニファイド社を設立したことから,被告は,同年5月30日,同社にモズライト・ギターの40周年記念モデルの製造を依頼し,被告標章2が付された同モデルを輸入販売した。
同年8月,セミー・モズレーが死亡し,ユニファイド社も,平成6年に倒産したため,被告は,平成8年11月から,スガイ社が製造したエレキギター(被告商品C)を輸入し,販売している。
加山雄三や寺内タケシは,モズライト・ギターを使用して演奏活動を続けており,また,日本には,モズライト・ギターの愛好者が多数存在する。モズライト・ギターの中古品は,市場において高い価格で取引されている。被告標章2は,現在に至るまで,モズライト・ギターの標章として,エレキギターを取り扱う業者やエレキギターの愛好家の間で,よく知られている。
(3) 上記(2)で認定した事実によると,被告標章2は,本件商標登録の出願時には,モズライト・ギター(セミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター)を表示するものとして,需用者の間に広く認識されており,そのことは,本件商標の登録時においても変わらなかったものと認められる。
本件商標は,外周上に小さな突起のある黒塗りの円形内に,白抜きで欧文字の「M」を表示した図形を配し,その右に「mosrite」の欧文字を横書きにしてなるものである。これに対し,被告標章2は,外周上に小さな突起のある黒塗りの円形内に,白抜きで欧文字の「M」を表示した図形を配し,その右に「mosrite」を横書きにした部分が,本件商標とほぼ同一である。被告標章2では,この下に欧文字の筆記体で,「of California」と表記されているが,「of California」の部分は,「Mマーク mosrite」の下に小さく,欧文字の筆記体で,付加的に記載されているにすぎないし,また,「of California」の部分は,「カリフォルニア州の」といった観念が生じるから,この部分が特段出所識別機能を有するとはいい難い。これらのことからすると,本件商標は,被告標章2に類似するものと認められる。
被告標章2は,楽器であるエレキギターに使用されているところ,本件商標の指定商品は,楽器その他第24類に属する商品である。
以上述べたところからすると,本件商標登録には,商標法4条1項10号が定める事由が存することが明らかであるというべきである。
(4) 商標法47条は,同法4条1項10号に違反してされた商標登録であっても,商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標登録の無効審判請求をすることができないと規定するところ,本件商標登録の日である昭和55年5月30日から5年以上経過していることから,本件商標登録が不正競争の目的で受けたものかどうかについて検討する。
ア 証拠(甲5,9ないし11,乙5の1,乙6ないし8,乙10の2,乙12の1,2,乙13,50ないし52,58,59,97)及び弁論の全趣旨によると,原告による本件商標等の使用について次の事実が認められる。
原告は,その製造販売にかかるモズライト・ギターの複製品に,本件商標を付して販売し,広告にも本件商標を付してきた。
原告は,その製造販売にかかるモズライト・ギターの複製品を,製造元日本モズライト有限会社という名称で,原告の名前を出さないで販売していた。また,原告のパンフレットには,「今,蘇るエレキのロールスロイス」といった表示をしていたが,この表示は,エレキギターの愛好家等には,モズライト・ギターが「蘇った」という意味に理解されるものである。
原告は,遅くとも平成元年ころには,その製造販売にかかるモズライト・ギターの複製品に,被告標章2を付すようになり,広告にも,これを用いるようになった。そして,このころには,原告は,その製造販売にかかるモズライト・ギターの複製品を,製造元ジャパンモズライト有限会社という名称で販売していた。原告のパンフレットには,「今蘇るエレキのロールスロイス」という表示があるほか,「若大将やベンチャーズが持っていたあこがれのギター。まだ学生であるお父さんたちにはとうてい手のとどくものではありませんでした。心地よいサウンド,王者の名にふさわしい風格,やはり素晴らしいものは輝きを失うことはありません。近年,懐かしいサーフィンサウンドが再び脚光を浴び,あの当時の感動を知らない若者たちが再びモズライトギターに注目しました。でも今やモズライトは手の届かないものではありません。モズライトは,当時のポリシーをそのままに現在も日本人職人の手によって生き続けているのです。当時研究を繰り返しながら開発を続けていったヴィブラートユニットやブリッジ等,現代の日本の最高テクノロジーによってさらに磨きをかけていったのです。」と記載されている。また,保証書には,製造元有限会社日本モズライトと記載されていて,原告の名称は記載されていない。
なお,ジャパンモズライト有限会社,日本モズライト有限会社という名称の会社は実在せず,有限会社日本モズライトという名称の会社は,実在したが,平成8年6月1日に解散した。
原告が製造販売しているモズライト・ギターの複製品を,モズライト・ギターと誤認して購入した者がいる。
イ 上記(3)認定のとおり,本件商標登録の出願時には,被告標章2は,モズライト・ギター(セミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキギター)を表示するものとして,需用者の間に広く認識されていたのであり,上記(2)認定のとおりベンチャーズーモズライト社が「MOSRITE」等について商標権を有していたのであるから,被告標章2と類似する本件商標を出願したbには,不正競争の目的があったものと認められる。その後,上記(2)認定のとおりベンチャーズーモズライト社が有していた商標権は,期間満了により消滅したが,上記(3)認定のとおり,被告標章2が,モズライト・ギターを表示するものとして,需用者の間に広く認識されていたことには変わりがなく,また,上記(2)認定の事実によると,モズライト社は昭和44年及び昭和48年に倒産したものの,セミー・モズレーは,倒産後もエレキギターの製造を続けており,被告標章2が付されたセミー・モズレー製造にかかるエレキギターがわが国に輸入されていたものと認められる。さらに,上記ア認定の事実によると,原告は,その製造したエレキギターを販売するに当たり,被告標章2と類似する本件商標又は被告標章2を用いていること,原告は,「モズライト」を含む架空の会社名のみを表示して,原告名を表示していないこと,原告は,その製造販売にかかるエレキギターは,モズライト・ギターが「蘇った」もので,「当時のポリシーをそのままに」製造されており,「当時研究を繰り返しながら開発を続けていった」技術がさらに磨きをかけられたものである旨の説明を行っていること,以上の事実が認められ,これらの事実からすると,原告が,その製造販売にかかるエレキギターを,それがモズライト・ギターの単なる複製品ではなく,セミー・モズレー又は同人が設立した会社と何らかの関係があるとの誤認を生じさせる方法で販売してきたものと認められる。そうすると,本件商標の登録時に,原告には,不正競争の目的があったことが明らかであるというべきである。
ウ 以上のとおり,原告は,本件商標登録を不正競争の目的で受けたことが明らかであるから,現在でも無効審判請求をすることが可能である。
(5) 原告は,商標法4条1項10号は,私益を保護する規定であるから,セミー・モズレー又は同人が設立した会社と関係のない被告が,同号に該当することを主張することはできないとも主張するが,同号は,商品の出所の混同を防止する趣旨も含んでいるから,被告が,セミー・モズレー又は同人が設立した会社と関係がないからといって,同号に該当することを主張することができないということにはならない。
(6) 以上のとおり,本件商標登録には,無効理由が存在していることが明らかであるところ,このような商標権に基づく請求は,権利の濫用というべきである。
2 以上の次第で,原告の本訴請求は,いずれも理由がないので,棄却する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 岡口基一
裁判官 男澤聡子