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関連審決 不服2000-1525
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  3条1項6号 /  観念(観念類似) /  補正 /  社団法人 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 399号 審決取消請求事件
原告 株式会社東京都民銀行
訴訟代理人弁理士 西良久
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 八木橋 正雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/23
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2000-1525号事件について、平成12年8月29日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成10年8月17日、「SMALL BUSINESS」の欧文字を横書きした構成よりなる商標(以下「本願商標」という。)につき商標登録出願をした(商願平10-70084号)が、平成12年1月7日に拒絶査定を受けたので、同年2月9日、これに対する不服の審判請求をし、同年8月18日付け手続補正書によって、指定役務を商標法施行令別表による第36類「資金の貸付け」と補正した。
特許庁は、同審判請求を不服2000-1525号事件として審理した上、
同年8月29日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月20日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標を構成する「SMALL BUSINESS」の語が「中小企業」を意味する英語であり、これが外来語となった「スモールビジネス」が普通に使用されているから、本願商標をその指定役務に使用した場合に、取引者、需要者は「中小企業(スモールビジネス)向け」に役務を提供していることを端的に表示した文字と理解するにとどまり、自他役務を識別する標識とは認識できないから、本願商標は、商標法3条1項6号に該当し、登録することができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は、外来語としての「スモールビジネス」が「中小企業」を意味する語として普通に用いられているものと誤って判断し(取消事由1)、また、原告による積極的な使用によって、「SMALL BUSINESS」又は「スモールビジネス」の文字からなる商標が、原告の業務に係る「資金の貸付け」を識別する商標として、取引者、需要者に広く認識されていることを看過した(取消事由2)結果、本願商標をその指定役務に使用した場合に、取引者、需要者が自他役務を識別する標識とは認識できないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1 (1) 審決は、「『SMALL BUSINESS』は、『中小企業』を意味する英語であり、
これが外来語となった『スモールビジネス』が普通に使用されていることは、1998年10月20日付日本経済新聞の『インタビュー反転の経営(4)市民バンク代表片岡勝氏-地域起業(新しい会社)』と題する記事・・・また、1987年10月16日付日本経済新聞の『スモールビジネス、小さくても元気不況下で成長維持-61年度1000社日経調査。』と題する記事・・・からも認められる」(審決謄本2頁7行目〜23行目)、「中小企業金融公庫法(昭和28年法律138号)に基づいて設立された中小企業金融公庫(英名:Small Business Finance Corporation)(注、「Busness」とあるのは誤記と認められる。)・・・中小企業総合事業団法(平成11年法律19号)に基づいて設立された中小企業総合事業団・・・法人『商工組合中央金庫』(商工組合中央金庫法に基づく中小企業金融機関)・・・等々中小企業向けの金融機関が存在している」(同2頁24行目〜31行目)、「以上の実情を勘案すると、『SMALL BUSINESS』の文字よりなる本願商標をその指定役務に使用するときは、需要者は、『中小企業(スモールビジネス)向け』に役務を提供していることを端的に表示した文字と理解するに止まり、自他役務を識別する標識とは認識できないとみるのが相当である」(同2頁32行目〜36行目)と判断した。
そして、被告は、上記1998年(平成10年)10月20日付け日本経済新聞記事(乙第6号証)及び1987年(昭和62年)10月16日付け日本経済新聞記事(乙第7号証)のほか、昭和52年9月28日パシフィックマネジメントコンサルタンツ株式会社第1版第2刷発行の「英和・和英 新ビジネス英語大辞典」(乙第5号証)に、「small business」の語に対し「中小企業」との訳語が付されていること等を根拠として、審決の「『SMALL BUSINESS』は、『中小企業』を意味する英語であり、これが外来語となった『スモールビジネス』が普通に使用されている」との認定に誤りがない旨主張するが、以下のとおり、誤りである。
(2) 2000年(平成12年)7月20日株式会社三省堂第7刷発行の「デイリーコンサイスカタカナ語辞典」(甲第17号証)に「スモール-ビジネス[small business]」につき「小企業.小商い.」との説明が、1999年(平成11年)4月10日株式会社小学館第1版第2刷発行の「ポケット プログレッシブ カタカナ語辞典」(甲第18号証)に「スモール・ビジネス」につき「(大企業などに対して)優良中小企業、ベンチャー・ビジネスなどの総称」との解説がそれぞれ掲載されており、また、「スモールビジネス」の用語が、上記1998年(平成10年)10月20日付け日本経済新聞記事(乙第6号証)では「小企業」の意味で、
上記1987年(昭和62年)10月16日付け日本経済新聞記事(乙第7号証)では「中小・ベンチャー企業を合わせたもの」の意味で、さらに、1988年(昭和63年)2月23日付け日経産業新聞記事(乙第8号証)では「(リサイクルショップや総菜宅配ビジネスなどの)小商い」の意味で、1987年(昭和62年)7月30日付け日本経済新聞記事(乙第9号証)では「(ニューサービスを中心とした)ベンチャー企業」の意味で、2000年(平成12年)3月17日付け「ニッキン」(乙第10号証)では「個人経営者」の意味で、それぞれ使用されているように、外来語としての「スモールビジネス」には一義的な意味はなく、小企業、
小商い、優良中小企業、ベンチャービジネスなどを総称する用語として用いられているのであって、一義的に「中小企業」を意味するものでないことは明らかである。
他方、中小企業金融公庫法、中小企業総合事業団法、中小企業基本法等における「中小企業」は、例えば、中小企業基本法(平成11年法律第146号による改正前のもの)においては、@資本の額又は出資の総額が1000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人であって、小売業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むもの、A資本の額又は出資の総額が3000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人であって、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの、B資本の額又は出資の総額が1億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人であって、その他の業種に属する事業を主たる事業として営むものと定められている(同法2条)が、「スモールビジネス」がこのように定義される中小企業を意味するものでないことは明らかである。
したがって、審決が、「『SMALL BUSINESS』は、『中小企業』を意味する英語であり、これが外来語となった『スモールビジネス』が普通に使用されている」と認定したことは誤りであり、この認定を前提として、「『SMALL BUSINESS』の文字よりなる本願商標をその指定役務に使用するときは、需要者は、『中小企業(スモールビジネス)向け』に役務を提供していることを端的に表示した文字と理解するに止まり、自他役務を識別する標識とは認識できないとみるのが相当である」とした判断も誤りであって、本願商標は、資金の貸付けの需要者(融資先)を具体的に表示するものではなく、自他役務識別力を有するものというべきである。
2 取消事由2 (1) 審決は、原告が提出したスモールビジネスローンの紹介記事及び広告(審判、本訴とも甲第1〜第12号証)につき、「『スモールビジネスローン』の文字が多数見い出せるが、『スモールビジネスローン』の文字の意は、『中小企業向けローン』を表すものであって、その構成中『スモールビジネス』の文字部分は、そのローンの種類たる需要者(融資先)を指称する文字部分に止まるものにすぎないものというべきであって、商標としての使用とは認められず、且つ、請求人(注、
原告)の商標である『SMALL BUSINESS』(若しくはその片仮名表記)の欧文字の商標が、本件指定役務について永年に亘り広く使用している事実及びその使用の結果として、それらの役務の取引者需要者により『SMALL BUSINESS』(若しくはその片仮名表記)の商標が、本件請求人の業務に係る役務を識別する商標として知られているものと認めるに足りない」(審決謄本3頁6行目〜16行目)と判断したが、
以下のとおり、誤りである。
(2) 原告は、平成10年11月9日に資金の貸付けに係る役務について「スモールビジネスローン」の商標の使用を開始し、現在に至るまで、ダイレクトメール(甲第41、第42号証)、ラジオコマーシャル(甲第43号証)、セミナー、講演会等の開催(甲第44、第45号証、第46号証の1〜3、第47〜49号証)、新聞及び雑誌の記事、広告等(甲第1〜第13号証、第50号証の1〜11、第51号証の1〜5、第52号証の1〜3、第53号証、第54号証の1、
2、第55号証の1〜5、第56号証の1、2、第57、第58号証、第59号証の1、2、第60〜第69号証)によって積極的にその使用を継続してきた。
資金の貸付けは、一般に取引者、需要者間では「ローン」として認識されているものであるから、「スモールビジネスローン」は、社会通念上、「スモールビジネス」と同一の商標として取引者、需要者に認識されるものである。
他方、原告以外に、「スモールビジネス」又は「SMALL BUSINESS」の商標を資金の貸付けの役務に用いているものは見当たらない。
これらの事情によれば、「スモールビジネス」は、原告の業務に係る資金の貸付けを識別する商標として、資金の貸付けの業務に係る取引者、需要者に十分知られているものというべきであるから、審決が、本件商標の指定役務に係る「取引者需要者により『SMALL BUSINESS』(若しくはその片仮名表記)の商標が、本件請求人(注、原告)の業務に係る役務を識別する商標として知られているものと認めるに足りない」とした判断は誤りである。
被告の反論
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1について 原告は、外来語としての「スモールビジネス」に一義的な意味はなく、小企業、小商い、優良中小企業、ベンチャービジネスなどを総称する用語として用いられており、一義的に「中小企業」を意味するものでないから、「『SMALL BUSINESS』の文字よりなる本願商標をその指定役務に使用するときは、需要者は、
『中小企業(スモールビジネス)向け』に役務を提供していることを端的に表示した文字と理解するに止まり、自他役務を識別する標識とは認識できないとみるのが相当である」とした審決の判断が誤りであると主張する。
しかしながら、1999年(平成11年)1月10日株式会社小学館第2版第7刷発行の「小学館ランダムハウス英和大辞典」(乙第1、第2号証)に掲記されているように、「small(スモール)」の語は「小規模の、個人企業経営の、中小の、零細の」等の企業規模に関する広範な意味を、また「business(ビジネス)」の語は「企業」の意味を有しており、かつ、「ビジネス」は、「ベンチャービジネス」のように、その前に普通名称を付して特定の企業の質、企業形態を表示する語として用いられる。そうすると、「SMALL BUSINESS」の語は、字義どおり解すれば「小企業、小規模ビジネス」の意味となるが、「大企業(BIG BUSINESS)」の反対語としての我が国の需要者の一般の認識からすれば、「中小企業」の意味合いを容易に認識し得るものであり、例えば、昭和52年9月28日パシフィックマネジメントコンサルタンツ株式会社第1版第2刷発行の「英和・和英 新ビジネス英語大辞典」(乙第5号証)には、「small business」の語に対し「中小企業」との訳語が付されている。
他方、「スモールビジネス」の語の使用については、審決が引用した1998年(平成10年)10月20日付け日本経済新聞記事(乙第6号証)及び1987年(昭和62年)10月16日付け日本経済新聞記事(乙第7号証)のほか、新聞及び雑誌の記事、講演会のアナウンス原稿、セミナーの内容紹介等において、
「小企業」又は「中小企業」の意味合いを有する語として用いられており(甲第2、第3号証、第46号証の2、第47、第48号証、第63号証、乙第8〜第11号証)、さらに、「スモールビジネス」に「ローン」結合した「スモールビジネスローン」が、中小企業向けローンを意味する語として用いられている(乙第12〜第14号証)。
これらの事実によれば、「SMALL BUSINESS」又は「スモールビジネス」の語が「中小企業」の意味を有し、本願商標の指定役務との関係において、資金の貸付けの需要者を示すものと容易に認識させるものであることは明らかである。
仮に、「SMALL BUSINESS」又は「スモールビジネス」の語が、「中小企業」の意味のみならず、「ベンチャービジネス」等の意味を含んで用いられることがあるとしても、本願商標の指定役務の取引者、需要者は、その語を個別具体的な融資の対象、条件等を表すものとしてのみ認識するものではないから、その語の厳密な語義まで認識することが必要ではないし、まして、「スモールビジネス」の語の意味する「中小企業」が、中小企業基本法等において定義されたものであることを必要とするものでもない。
したがって、本願商標をその指定役務である資金の貸付けに使用するときは、中小企業向け又は小規模企業向けの意味を容易に認識させるものというべきであるから、本願商標は、自他役務の識別機能を有しないものというべきであり、審決の上記判断に誤りはない。
2 取消事由2について 原告は、平成10年11月9日に資金の貸付けに係る役務について「スモールビジネスローン」の商標の使用を開始し、現在に至るまで積極的にその使用を継続してきたため、「スモールビジネス」は、原告の業務に係る資金の貸付けを識別する商標として、資金の貸付けの業務に係る取引者、需要者に十分知られているものというべきであるから、「取引者需要者により『SMALL BUSINESS』(若しくはその片仮名表記)の商標が、本件請求人(注、原告)の業務に係る役務を識別する商標として知られているものと認めるに足りない」とした審決の判断が誤りである旨主張する。
しかしながら、「スモールビジネスローン」の語は、「スモールビジネスに関連したローン」のような意味合いを有するものであり、仮に、それが一連の文字として原告の商標と認識されるものであったとしても、その場合は、全体が一連不可分の文字からなる商標として認識されるものであって、本願商標とは観念等において顕著な差異があるから、本願商標がその指定役務に係る取引者、需要者に周知であることとは無関係である。
そして、「スモールビジネス」の語が、原告の業務に係る「資金の貸付け」を識別するものとして使用されている例を示す証拠はないから、審決の上記判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1について 1999年(平成11年)1月10日株式会社小学館第2版第7刷発行の「小学館ランダムハウス英和大辞典」(乙第1、第2号証)には、「small」との形容詞につき「<事業・活動などが>(資本・勢力などの)小さい,小規模の,細々とした」との訳語が、また、「business」との名詞につき「企業」との訳語がそれぞれ掲載されており、さらに、昭和52年9月28日パシフィックマネジメントコンサルタンツ株式会社第1版第2刷発行の「英和・和英 新ビジネス英語大辞典」(乙第5号証)には、「small business」につき「中小企業」との訳語が掲載されていることに照らせば、「小規模の企業」ないし「中小企業」との意味を有する「small business」との英熟語が存在することが認められる。
他方、「G-Search」の提供する1998年(平成10年)10月20日付け日本経済新聞の「インタビュー反転の経営(4)」と題する市民バンク代表片岡勝に対するインタビュー記事(乙第6号証)中には、「女性も子育てや介護をしながら、
旅行会社、設計事務所などのスモールビジネスが可能になった。」との記載が、同1987年(昭和62年)10月16日付け日本経済新聞の「スモールビジネス、
小さくても元気不況下で成長維持」と題する記事(乙第7号証)中には、「日本経済新聞社が行った『スモールビジネス千社調査』によると、六十一年度の中小・ベンチャー企業を合わせたスモールビジネス(SB)の経常利益は前年度比八・二%減のマイナスとなったが、売上高は同五・八%増となった。」との記載が、同1988年(昭和63年)2月23日付け日経産業新聞の「総菜宅配・リフォーム、日信販が直営・FC展開」と題する記事(乙第8号証)中には、「日本信販はリサイクルショップ、総菜宅配ビジネスなどの分野に進出する。直営とフランチャイズ方式(FC)で全国展開する。・・・これら直営店、FC店を支援するため、リファインを設けた。スモールビジネス向けの不動産情報サービス、ローン、リースの金融サービスの開発と提供、事業化を目指したアイデアの募集と共同開発などをする。」との記載が、同1987年(昭和62年)7月30日付け日本経済新聞夕刊の「育成に乗り出す金融・産業界―ニューサービスVB、投資・提携に熱」と題する記事(乙第9号証)中には、「銀行、損保や一部大手メーカーがニューサービスを中心としたベンチャー企業(VB)の育成に動き出した。ハイテクはもちろん、
経済のソフト化・サービス化で、健康、教育、レンタルなどハイテク以外の広い分野でもスモールビジネスが活躍するとみているためだ。」との記載が、株式会社日本金融通信社発行の2000年(平成12年)3月17日付け「ニッキン」の「オリコとスルガ銀 『小口融資』で提携」と題する記事(乙第10号証)中には、
「信販大手のオリエントコーポレーション(オリコ)とスルガ銀行が提携、中小企業向け小口金融サービスを強化する。両社のクレジット加盟店・取引先企業のほか、インターネット系ベンチャー企業など『スモールビジネス』(個人経営者)に照準を当てた融資機能付き法人カードを五月に発行する。」との記載が、同1999年(平成11年)9月10日付け「ニッキン」の「アメックス 中小企業向けカード開始」と題する記事(乙第11号証)中には、「アメリカン・エキスプレス・・・は、九月から日本で・・・中核カード事業として新たに『スモールビジネス向けカード』を発行した。・・・新カードは従業員二百人以下の個人企業経営者が主要対象となる。」との記載がそれぞれあり、さらに、2000年(平成12年)7月20日株式会社三省堂第7刷発行の「デイリーコンサイスカタカナ語辞典」(甲第17号証)には、「スモール-ビジネス[small business]」につき「小企業.小商い.」との、また、1999年(平成11年)4月10日株式会社小学館第1版第2刷発行の「ポケット プログレッシブ カタカナ語辞典」(甲第18号証)に「スモール・ビジネス」につき「(大企業などに対して)優良中小企業、
ベンチャー・ビジネスなどの総称」との解説がそれぞれ掲載されている。
そうすると、審決がされた平成12年8月29日当時、上記英熟語の「small business」に由来する外来語として「スモールビジネス」の語が我が国においても一般に用いられていることが認められる。そして、上記認定の各新聞記事等の用法及び辞典類の解説によれば、外来語としての「スモールビジネス」は、中小企業、
小企業、個人企業、ベンチャー企業などを意味するものと認められるが、我が国において、一般に、「中小企業」との言葉が「大企業」に対するものとして、小企業、個人企業などを包含する幅広い意味合いをもって用いられていることは公知の事実であり、さらに、1998年(平成10年)11月11日第1刷発行の「広辞苑(第五版)」には、「ベンチャー・ビジネス」につき「(和製語)創造力・開発力をもとに、新製品・新技術や新しい業態などの新機軸を実施するために創設される中小企業」との解説がされているから、これら中小企業、小企業、個人企業、ベンチャー企業などの意味で用いられる「スモールビジネス」との外来語について、
包括的に「中小企業」の意味を有するものと認めることも誤りであるとはいえない。
したがって、審決が、「『SMALL BUSINESS』は、『中小企業』を意味する英語であり、これが外来語となった『スモールビジネス』が普通に使用されている」(審決謄本2頁7行目〜10行目)と認定したこと、及びこの認定に基づいて「『SMALL BUSINESS』の文字よりなる本願商標をその指定役務に使用するときは、
需要者は、『中小企業(スモールビジネス)向け』に役務を提供していることを端的に表示した文字と理解するに止まり、自他役務を識別する標識とは認識できないとみるのが相当である」(同2頁32行目〜36行目)と判断したことに原告主張の誤りはない。
なお、審決には、「中小企業金融公庫法(昭和28年法律138号)に基づいて設立された中小企業金融公庫(英名:Small Business Finance Corporation)・・・中小企業総合事業団法(平成11年法律19号)に基づいて設立された中小企業総合事業団・・・法人『商工組合中央金庫』(商工組合中央金庫法に基づく中小企業金融機関)・・・等々中小企業向けの金融機関が存在している」(同2頁24行目〜31行目)との記載もあるところ、原告は、「スモールビジネス」が、中小企業基本法等の法律によって定義される中小企業を意味するものでないと主張する。しかしながら、審決の上記記載は、中小企業向けに資金の貸付けの役務を提供する金融機関が既に存在することを認定したものであって、外来語としての「スモールビジネス」が、中小企業基本法等の法律によって定義される中小企業を意味するものと認定したものでないことは明らかであるし、また、外来語としての「スモールビジネス」が、中小企業基本法等の法律によって厳密に定義される中小企業を意味するものでないとしても、上記のとおり、小企業、個人企業、
ベンチャー企業などを幅広く包括した「中小企業」の意味を有するとの認定に消長を来すものではない。したがって、原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2について 原告は、平成10年11月9日に資金の貸付けに係る役務について「スモールビジネスローン」の商標の使用を開始し、ダイレクトメール、ラジオコマーシャル、セミナー、講演会等の開催、新聞及び雑誌の記事、広告等によって積極的にその使用を継続してきたから、「スモールビジネス」は、原告の業務に係る資金の貸付けを識別する商標として、資金の貸付けの業務に係る取引者、需要者に十分知られている旨主張する。
しかしながら、原告の主張によっても、原告がその資金の貸付けに係る役務につき使用を継続してきた商標は「スモールビジネスローン」の文字からなるものであり、「small business」又は「スモールビジネス」の文字からなる商標が、原告の資金の貸付けに係る役務について使用されていたとの主張立証はない。
この点につき、原告は、資金の貸付けは、一般に取引者、需要者間では「ローン」として認識されているものであるから、「スモールビジネスローン」は、社会通念上、「スモールビジネス」と同一の商標として取引者、需要者に認識される旨主張する。しかし、使用に係る商標が「スモールビジネスローン」の文字からなる場合において、例えば、その商標構成上、「ローン」の文字部分が単なる付加的な構成であるというような主張立証もなく、さらに、「スモールビジネス」が「中小企業」を意味する外来語であることは上記のとおりであるのに対し、「スモールビジネスローン」は、後記のとおり、一般に「スモールビジネス(中小企業)を対象としたローン」との意味合いを有するものであって、両者の観念は異なるものであるから、「スモールビジネスローン」の文字からなる商標のうちの「ローン」の文字部分がその使用に係る役務である資金の貸付けを意味するからといって、そのことのみで、「スモールビジネスローン」の文字からなる商標が、「ローン」の文字部分を除外した「スモールビジネス」の文字からなる商標と社会通念上同一の商標として取引者、需要者に認識されるものとは到底認め難く、原告の上記主張は採用することができない。
のみならず、仮に、原告が、その主張のとおり、資金の貸付けに係る役務について「スモールビジネスローン」の商標の使用を積極的に継続してきた事実が存在するとしても、審決がされた時点(平成12年8月29日)において、その使用期間は2年に満たない上、株式会社日本金融通信社発行の2000年(平成12年)6月30日付け「ニッキン」の「勝ち残りの一手」と題する富山銀行の経営施策等を紹介した記事(乙第12号証)中には、「スモールビジネスローン・・・も『実施に向け勉強中』だ」との記載が、同2000年(平成12年)4月28日付け「ニッキン」の「『考動・好奇心・現場直視』で 岡野スルガ銀社長に聞く」と題するスルガ銀行岡野光喜代表取締役のインタビュー記事(乙第13号証)中には、「オリコと提携して法人小口先を対象にしたスモールビジネスローンを開始する」との記載が、同2000年(平成12年)8月25日付け「ニッキン」の「住友商事、三井物産など総合商社 ネットで中小向けスモールローン」と題する記事(乙第14号証)中には、「スモールビジネスローン市場は、都銀、地銀など大手金融機関も積極姿勢を示しており、今後競争はますます激化する。」との記載が、
社団法人金融財政事情研究会発行の「週刊金融財政事情」平成11年5月31日号(甲第2号証)には、「都民銀行のスモールビジネスローン」と題する原告に係る特集記事中に「当の小林支店長(注、原告西新宿センター支店長)・・・の考え方が変わったのは、米国視察後のことだ。スモールビジネスローンの実績をあげているリージョナルバンクや参入計画があるといわれる金融機関など四、五社を訪問。」との記載がそれぞれあって、これらの記載によれば、「スモールビジネスローン」との語が、原告の資金の貸付けに係る役務と関係なく、一般に「スモールビジネス(中小企業)を対象としたローン」との意味合いの語として用いられていることが認められる。そうすると、審決がされた時点において、「スモールビジネスローン」の語自体についても、原告の資金の貸付けに係る役務の識別標識として取引者、需要者に認識されていたものとまで断定することは困難である。
したがって、審決が、「『スモールビジネスローン』の文字の意は、『中小企業向けローン』を表すものであって、その構成中『スモールビジネス』の文字部分は、そのローンの種類たる需要者(融資先)を指称する文字部分に止まるものにすぎないものというべきであって、商標としての使用とは認められず、且つ、請求人(注、原告)の商標である『SMALL BUSINESS』(若しくはその片仮名表記)の欧文字の商標が、本件指定役務について永年に亘り広く使用している事実及びその使用の結果として、それらの役務の取引者需要者により『SMALL BUSINESS』(若しくはその片仮名表記)の商標が、本件請求人の業務に係る役務を識別する商標として知られているものと認めるに足りない」(審決謄本3頁7行目〜16行目)と判断したことに原告主張の誤りはない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利