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関連ワード 周知商標 /  周知性 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  損害額 /  権利濫用(権利の濫用) /  国内 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 5927号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 【A】
控訴人 羽田クラフトこと【B】
控訴人 株式会社スプートニク 代表者代表取締役 【A】 三名訴訟代理人弁護士 佐久間 篤夫
同 牧野二郎
被控訴人 株式会社スポーツザウルス 代表者代表取締役 【C】
訴訟代理人弁護士 西尾孝幸
同 宮崎敦彦
同 真貝暁
同 谷原誠
同 岩島秀樹
同 竹内朗
同 岡野由美
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/22
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決を次のとおりに変更する。
1 控訴人らは、被控訴人に対し、それぞれ33万8584円及びこれに対する、控訴人【A】及び同【B】については平成10年9月12日から、控訴人株式会社スプートニクについては平成12年8月19日から、支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じて(第1審については甲・乙事件ともに)、これを50分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人ら 原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
当事者の主張
本件は、別紙商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)について商標権(以下「本件商標権」という。)を有する被控訴人が、@控訴人【A】(以下「控訴人【A】」という。)及び同【B】(以下「控訴人【B】」という。)に対しては、同人らが本件商標に類似する別紙控訴人商標目録(1)及び(2)記載の商標(以下、順に「控訴人商標(1)」、「控訴人商標(2)」という。)の付された釣り竿(以下、順に「控訴人商品(1)」、「控訴人商品(2)」という。)を米国から輸入・販売し、また、米国から輸入した釣り竿(上記両商標の付されていない釣り竿。以下「控訴人商品(3)」といい、控訴人商品(1)〜(3)を「控訴人商品」と総称することがある。)を、控訴人商標(2)を付した広告により販売して、被控訴人の商標権を侵害したとし(甲事件)、A控訴人株式会社スプートニク(以下「控訴人会社」という。)に対しては、同社の代表者である控訴人【A】が同社の職務を行うにつき上記商標権侵害行為を行ったとし(乙事件)、それぞれ損害賠償を求めている事案である。
当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」中の「一 前提となる事実」、「二 争点」及び「三 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。
(当審における控訴人らの主張の要点) 1 権利の濫用 被控訴人が、本件商標について、平成8年2月9日に商標登録出願をし、平成9年10月24日に設定登録を受けていることは、事実である。しかし、たといこの登録が有効であるとしても、被控訴人が、本件商標権に基づいて控訴人らに控訴人商品の輸入・販売等を理由に損害賠償を求めることは、許されない。被控訴人が本件商標権を取得した目的は、米国及び日本における周知商標顧客吸引力を悪用して不当な利益を得るため、その周知商標の主体の新製品あるいはその正統な復刻品を排除することにあったものであり、かつ、控訴人商品は、周知商標の正当な復刻品に該当するものであって、そうである以上、上記請求は本件商標権の濫用となるものというべきだからである。
米国コロラド州所在の釣り具メーカーであったフィリプソン・ロッド・カンパニー(以下「フィリプソン社」という。)の製造していた釣り竿は、遅くとも1970年代に入るまでに米国内で周知著名となっていた。我が国においても、フィリプソン社の製造する上記釣り竿は、昭和49年(1974年)から昭和51年(1976年)までの間、訴外株式会社スミスを通じて輸入・販売され、日本の釣り愛好家の間において人気を博していた。フィリプソン社製の釣り竿は、1974年で製造が中止され、我が国における輸入・販売も途絶えたものの、その後も、その人気が衰えることはなかった。上記フィリプソン社の釣り竿には、商標として「Phillipson」の文字が付されており、この商標の付されたフィリプソン社の釣り竿は、我が国において、「幻のブランド」として、釣り愛好家の間において垂涎の的となっていた。
フィリプソン社は、1972年に米国法人スリーエム社に吸収合併されたとき、
自社が製造した釣り竿の未完成品及び部品を多数在庫として残していた。これら在庫品は、スリーエム社に引き継がれることなく、米国法人ボブズ・タックル社に引き継がれ、その後、更に、米国法人リックス・ロッズ社に引き継がれた。控訴人らは、平成8年(1996年)、リックス・ロッズ社から、上記未完成品及び部品を購入し、これを加工したうえ、フィリプソン社の素材を用いた「復刻品」として、
我が国に輸入し、フィリプソン社の真正品とは異なることを明確にして、販売していたものである。これら「復刻品」は、真正品ではないものの、素材は真正品と同一であるから、いわばフィリプソン社の正統な「復刻品」である。
被控訴人は、釣り竿に付される「Phillipson」の商標が米国内及び日本国内において周知著名となっていたことを熟知し、同商標の顧客吸引力を悪用して、フィリプソン社の釣り竿の単なる複製品にすぎない自社商品を、「Phillipson完全復刻品」と偽って広告宣伝し、販売することで不当な利益を得ようとし、他方で、フィリプソン社の真正品や、例えば控訴人らの製造販売するフィリプソン社の真の「完全復刻品」が日本国内に流入し販売されることにより、被控訴人の上記意図が暴露されることを恐れて、これらフィリプソン社の真正品や真の「完全復刻品」を排除する目的で、本件商標権を取得し、「完全復刻品」を日本国内において流通しようとする控訴人らに対して、損害賠償を求めているのである。
このように、フィリプソン社の釣り竿の単なる複製品でしかないものの販売業者である被控訴人が、フィリプソン社の釣り竿の真の「完全復刻品」の販売業者である控訴人らに対して、前述の目的で取得した本件商標権の侵害を理由に損害賠償を求めることが不当で許されないことは、明らかというべきである。
2 損害額算定の誤り 原判決は、控訴人らが得た利益の額の算定において、乙第7号証に基づき、
控訴人らが平成9年11月号分から平成10年5月号分までの雑誌広告の費用として合計337万円を支出した事実を認定し、広告費用を経費として控除する合理性を認めつつ、「しかしながら、乙第七号証では、羽田クラフトの広告というだけで、広告内容が不明であること、甲第一四号証によると、右の時期の羽田クラフトの広告には、被告商品以外の商品の広告も混在していたことが認められる」(原判決28頁7行〜10行)として、上記広告費用の半額のみを経費として控除しているが、この認定は誤りである。
乙第7号証に掲げられている釣り雑誌である「ROD&REEL」の平成9年(1997年)11月号から平成10年(1998年)12月号までに掲載された羽田クラフトの広告内容は、乙第20号証ないし乙第33号証のとおりである。これらの広告内容を考慮すれば、控訴人らが支出した広告費用のうち、平成9年12月号掲載分から平成10年4月号掲載分まではその全額(合計額275万円)について、平成10年5月号及び6月号掲載分についてはその半額(合計額55万円)について、控訴人らが控訴人商品を販売するために要した経費として控除されるべきであり、結局、経費として控除されるべき広告費用の総額は330万円と認定されるべきである。
当裁判所の判断
当裁判所は、本訴請求は、被控訴人が控訴人らに対してそれぞれ33万8584円及びこれに対する、控訴人【A】及び同【B】については平成10年9月12日から、控訴人会社については平成12年8月19日から、それぞれ支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきものである、と判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「第三 当裁判所の判断」の一、二、
三1、2、3(一)及び(二)のとおりであるから、これを引用する。
1 争点3(損害の発生及び額)のうち、雑誌広告費用の控除とこれに基く損害額の算定の点について 乙第7号証及び乙第20号証ないし乙第26号証によれば、控訴人【A】は、釣り雑誌「ROD&REEL」の平成9年11月号から平成10年5月号までに、控訴人商品(1)ないし同(2)の広告を掲載したこと、上記雑誌の平成9年11月号ないし平成10年4月号の広告は、その全部が控訴人商品の宣伝のためのものであり、
平成10年5月号の広告は、その約半分が控訴人商品の宣伝のためのものであったことが認められる。
上記認定の事実によれば、控訴人【A】は、原判決添付の別紙販売一覧表(一)ないし(三)記載の控訴人商品(1)ないし(3)を販売するに当たっての費用として合計337万円を支出したことが認められる。控訴人商品の販売のためには上記広告が必要であったと認められるから、広告費用を経費として控除するのが相当である。そして、上記認定の事実によれば、控訴人らが支出した広告費用のうち、平成9年11月号ないし平成10年4月号掲載分の全額(合計額282万円)、平成10年5月号掲載分の半額(27万5000円)、合計309万5000円が、控訴人らが控訴人商品を販売するために要した経費として控除されるべきものというべきである。
以上のほかに、控訴人らが本件釣り竿を販売したことによって得た利益を算定するに当たり控除すべき経費が存することを認めるに足りる証拠はない。 控訴人らが本件商標権を侵害して販売した控訴人商品55本の販売金額の合計は594万5200円であり、控訴人らがその販売のために、上記広告費用309万5000円以外に、仕入代金として合計196万2816円、布袋代として合計2万7000円、アルミケース代として22万9800円、税金(除消費税)及び送料として少なくとも14万2000円、通訳費用として15万円を支出したことは、先に引用した原判決の認定するとおりであるから、控訴人らが控訴人商品を販売したことによって得た利益の額は、33万8584円となる。
2 権利の濫用について (1) 被控訴人が、フィリプソン社の釣り竿が獲得していた周知性を、同社(その承継者を含む。)の意思とは無関係に、何らかの形で自己のために利用して利益を得ようとして本件商標権を取得したものであることは、弁論の全趣旨で明らかである。本件商標権がそのようなものである以上、これに基づく請求が権利濫用と認められることも、一般論としては、十分あり得ることというべきである。例えば、
フィリプソン社(その承継者を含む)の釣り竿そのものを同社の意思に基づいて輸入・販売等する者に対して、その中止あるいは損害賠償を求める請求などは、権利濫用に該当することになる可能性が大きいものというべきである。しかし、本件商標権が上記のようなものであるからといって、そのことから直ちに、これに基づく権利の主張は濫用であるということになるわけではなく、また、本件商標の登録に無効事由が存することが明白であるから本件商標権に基づく請求は権利濫用である、ということになるわけのものでもない。登録商標である本件商標に基づく請求である本訴請求を権利濫用であるとするためには、そのような評価を可能にする具体的事情が主張され証明されなければならないことは、当然というべきである。
(2) 控訴人らは、平成8年(1996年)、リックス・ロッズ社から、上記未完成品及び部品を購入し、これを加工してフィリプソン社の素材を用いた「復刻品」として、我が国に輸入し、フィリプソン社の真正品とは異なることを明確にして販売していたものであり、これら「復刻品」は、真正品ではないものの、素材は真正品と同一であるから、いわばフィリプソン社の正統な「復刻品」である旨主張する。
しかしながら、仮に、控訴人商品が、フィリプソン社の在庫品を組み立てたものであったとしても、あくまでもフィリプソン社が残した同社製品の未完成品及び部品を利用しているというにすぎず、完成した釣り具の出所がそのことによってフィリプソン社(なお、同社は1972年には釣り具の製造をやめている。)となるわけではないことは、いうまでもないことである。
(3) そうだとすれば、控訴人商品は、フィリプソン社の真正品でもなければ復刻品でもなく、結局は、フィリプソン社の釣り竿の複製品にすぎないのである。したがって、フィリプソン社の複製品の販売業者である被控訴人が、フィリプソン社製品の「完全復刻品」の名に値するものの販売業者である控訴人らに対して損害賠償を求めることが不当で許されないとする控訴人らの主張は、既に前提において誤っているものである。そして、控訴人らの立場がこのようなものであるにすぎないとすれば、これを重視して本訴請求を権利濫用と評価することは、直ちにはできないものというべきである。
他にも、被控訴人の本訴請求を権利濫用に該当するものと評価することを正当化する具体的事情は、本件全証拠によっても、認めることができない。
3 以上、検討したところによれば、被控訴人の請求は、33万8584円及びこれに対する控訴人【A】及び同【B】については平成10年9月12日から、控訴人会社については平成12年8月19日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。そこで、これと異なる原判決を上記のとおりに変更することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法61条64条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸