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関連審決 審判1999-2810
関連ワード 指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項10号 /  4条1項15号 /  結合商標 /  手続違背 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  使用許諾 /  登録異議申立 /  継続 /  非類似 /  同業者 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 6号 審決取消請求事件
原告 株式会社八木商店代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 宮崎伊章
同 深井敏和
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 平成11年審判第2810号事件について特許庁が平成11年11月24日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙審決書の理由(写し)の別紙に表示される構成より成り、指定商品を第24類「織物(畳べり地を除く。)、布製身の回り品、かや、敷き布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、テーブル掛け、どん帳、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」とする商標(以下「本願商標」という。)について、平成5年1月28日、商標登録出願をしたが、平成11年1月22日(発送日)に拒絶査定を受けたので、同年2月22日、拒絶査定に対する不服の審判の請求をした。特許庁は、これを平成11年審判第2810号事件として審理した結果、同年11月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年12月9日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。
原告主張の審決取消事由の要点
本件の審判においては、審判官の合議体(以下「審判体」という。)は、職権で証拠調べをして、その結果によって事実を認定し、それに基づき判断して結論を導き出しながら、審理の過程で、上記証拠調べの結果を請求人(原告)に通知せず、それにつき意見を申し立てる機会も与えず(取消事由1)、また、拒絶査定と異なる新たな拒絶理由により商標法4条1項15号該当性の判断をしながら、新たな拒絶理由を請求人(原告)に通知せず、これにつき意見書を提出する機会も与えず(取消事由2)、さらに、混同のおそれの点について、本願商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、「POLO」の文字部分及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形部分に強く印象付けられ、その商品が【E】又はその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように誤解され、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとの誤った判断をし(取消事由3)、その結果、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するとの誤った結論に至ったものであって、上記手続違背ないし判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、取り消されるべきである。
1 取消事由1(職権証拠調べの結果を通知すべき義務等の違反) (1) 審判体は、次の証拠につき、職権で証拠調べをして、これらの証拠から、審決書掲記の各事実を認定し、これらの事実を総合して、「「Polo」(ポロ)の標章は、【E】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、本願商標の登録出願前には既に、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その認識の度合いは現在においても継続しているというのが相当である。」(審決書5頁13行〜18行)と認定し、これに基づき、本願商標が商標法4条1項15号に該当するという結論を導いた。
@ 昭和53年7月20日株式会社講談社発行「男の一流品大図鑑」(乙第1号証。以下「本件刊行物1」という。) A 昭和58年9月28日サンケイマーケティング発行「舶来ブランド事典 '84 THE BRAND」(乙第2号証。以下「本件刊行物2」という。) B 昭和55年4月15日株式会社洋品界発行「月刊『アパレルファッション店』別冊 1980年版 『海外ファッション・ブランド総覧』」(乙第3号証。
以下「本件刊行物3」という。) C 昭和57年1月10日株式会社アパレルファッション発行「月刊アパレルファッション2月号別冊 海外ファッション・ブランド総覧」(乙第4号証。以下「本件刊行物4」という。) D 昭和63年10月29日付け日経流通新聞の記事(乙第5号証。以下「本件刊行物5」という。) E 昭和55年1月20日株式会社講談社発行「男の一流品大図鑑'81」(乙第6号証。以下「本件刊行物6」という。) F 昭和55年11月15日同社発行「世界の一流品大図鑑'80年版」(乙第7号証。以下「本件刊行物7」という。) G 昭和56年6月20日同社発行「世界の一流品大図鑑'81年版」(乙第8号証。以下「本件刊行物8」という。) H 昭和53年9月20日株式会社チャネラー発行「別冊チャネラーファッション・ブランド年鑑'80年版」(乙第9号証。以下「本件刊行物9」という。) I 昭和60年5月25日株式会社講談社発行「FASHION SHOPPING BIBLE'85 流行ブランド図鑑」(乙第10号証。以下「本件刊行物10」という。) J 1989年5月19日付け朝日新聞(乙第11号証の1。以下「本件刊行物11」という。) K 1992年9月23日付け読売新聞(東京版、朝刊)(乙第11号証の2。
以下「本件刊行物12」という。) L 1993年10月13日付け読売新聞(大阪版、朝刊)(乙第11号証の3。以下「本件刊行物13」という。) M 1999年9月9日付け日本経済新聞(乙第11号証の4。以下「本件刊行物14」という。) (2) 商標法56条1項で準用する特許法150条5項は、「審判長は、第1項又は第2項の規定により職権で証拠調又は証拠保全をしたときは、その結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。」と定めている。ところが、原告は、審査段階においても審判段階においても、上記証拠調べの結果の通知を全く受けておらず、したがってまた、これにつき意見を申し立てる機会も与えられていない。
上記証拠調の結果は、審決の結論に重大な影響を与えるものであるから、上記手続の瑕疵は重大であり、審決は違法として取り消されなければならない。
(3) 被告は、原告は、【E】の「Polo」(ポロ)標章の著名性について十分に知っていたものであり、審決は、その顕著な事実を具体的に記載したにすぎないものであるとし、職権証拠調べの結果により上記顕著な事実が認定され、これに基づき判断がなされたとしても、原告は、当然に、その結果ないしその程度のことを予期し対応することが可能であったから、不意打ちには当たらず、職権証拠調べの結果を通知しなかったことを重大な瑕疵とすることはできない旨主張する。
しかし、被告の主張は、「POLO」(ポロ)=【E】の「POLO」、という予断ないし先入観念に基づくものであり、誤っている。原告は、審判の段階において、「POLO」、「Polo」、「ポロ」のみから成る標章が、それ自体で、
【E】のデザインした商品に係るものとして著名であるとは全く認めておらず、むしろ、逆に、そうではないことを明確に主張していたものである。それにもかかわらず、原告は、審判段階において、「POLO」、「Polo」、「ポロ」のみから成る標章の著名性の有無に関し、職権でなされた証拠調べの結果につき明確に反論する機会も、意見を申し立てる機会も実質的に奪われたまま、これにより不利な事実を認定されたのである。
仮に「POLO」、「Polo」、「ポロ」を用いた標章が【E】のデザインした商品に係るものとして著名であるとしても、それらは、すべて、「POLO by Ralph Lauren」、「ポロ・ラルフ・ローレン」などとして、
「【E】」と関連付けた形のものにすぎず、このような状況の下で、「POLO」、「Polo」、「ポロ」を単独で用いた標章が、【E】の「POLO」を想起させることはあり得ない。
2 取消事由2(新たな拒絶理由を通知する義務等の違反) 審査の段階で原告が通知された拒絶の理由は、「本願の出願時には既に著名となっている商標「ポロプレーヤーの図形(例えば、登録第2691725号商標)」とその構成の軌を一にする図形を含むものであるから、」(平成10年9月22日付け拒絶理由通知書、甲第3号証)というものであり、原告が受けた拒絶査定の内容は、「この商標登録出願は、平成10年9月22日付けで通知した理由によって、拒絶をすべきものと認める。なお、出願人は、意見書において種々述べているが、さきの認定を覆すにたりない。」というものである。
ところが、審決においては、「両図形は、いずれも前を向いて前足を上げた馬にポロプレイヤーが乗り、マレットを振り上げているという基本的構成を一にするものであるから、本願商標が【E】の著名標章と同一綴り文字よりなる「Polo」の文字を有していることを考慮すると、本願商標を付した商品に接する取引者、需要者がその構成中の図形部分を【E】の使用に係る「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」と理解することは、容易に窺い知れるところである。」(審決書6頁5行〜12行)ことが拒絶理由とされている。要するに、審査段階においては、ポロプレーヤーの図形が著名であると認定し、この認定を前提に、本願商標が商標法4条1項15号に該当すると判断しているのに対し、審決においては、本願商標が「【E】のデザインに係る紳士服、婦人服等の被服及び眼鏡製品について使用され、我が国においても取引者、需要者に広く認識されている標章と同一綴り文字よりなる「POLO」の文字を有しているばかりでなく、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーがマレットを振り上げている図形をも有してなるものである。」(審決書5頁20行〜末行)として、本願商標を構成する図形部分をも本願商標中に含まれている「Polo」の文字と関係付けることによって、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとの結論を導いているものである。これは、拒絶査定時の判断の理由とは異なる理由であるから、「新たな拒絶理由」となる。
また、審決は、「前を向いて前足を上げた馬にポロプレーヤーが乗り、マレットを振り上げているという基本的構成を一にする」(審決書6頁5行〜7行)ことを拒絶理由としており、これは、拒絶理由通知における「本願の出願時には既に著名となっている商標「ポロプレーヤーの図形(例えば、登録第2691725号商標)」とその構成の軌を一にする図形を含む」という拒絶査定の基礎となった理由と明らかに相違している。したがって、これもまた「新たな拒絶理由」となる。
そうである以上、審判体は、審決をするに当たって、商標法55条の2第1項の準用する商標法15条の2に規定する拒絶理由を通知して、出願人に意見書を提出する機会を与えなければならなかった。
ところが、審判体は、上記通知をせず、意見書提出の機会も与えなかったから、
審決の手続には、重大な瑕疵があり、審決は違法として取り消されなければならない。
3 取消事由3(混同のおそれの判断の誤り) 審決は、本願商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、「POLO」の文字部分及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形部分に強く印象付けられ、その商品が【E】又はその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると判断したが、この判断は誤りである。
(1) まず、仮に「POLO」、「Polo」、「ポロ」の文字が【E】又はその関連会社に係るものとして著名であったと認められるとしても、本願商標における文字部分は「POLO」ではなく、「POLO LEAGUE」なのであるから、
本願商標において、「POLO」の文字の有する意味は、それが「POLO」単独でではなく、「POLO LEAGUE」という結合商標の一部として用いられていることを十分念頭においたうえで、それでもなお「POLO」の文字部分が強く印象付けられるか、について具体的に認定する必要がある。しかし、審決はこれをしていない。
(2) 本願商標に含まれる「POLO LEAGUE」の文字は、書体が同一、大きさも同じで外観上もまとまりよく一体的に表示されていることから、文字どおり「ポロリーグ」と一連に称呼されることになる。これが、しかるべきわけもなく、
「ポロ」と「リーグ」の二つに分離されて別々に称呼されるようなことはない。
「POLO LEAGUE」は、「ポロ競技リーグ戦」、「ポロ競技連盟」等の特定の観念を持つ用語であるから、ポロ競技自体は、その競技内容までは詳細に日本国内において知られていないスポーツであるとしても、スポーツの「リーグ戦」を意味する「LEAGUE」に「POLO」が結合することによって、「POLO」、「ポロ」という用語については馴染みの薄い日本国内の需要者・取引者も、
ポロ競技自体の具体的な競技内容は分からずとも、少なくとも「ポロ競技」というスポーツの「リーグ戦」であるとの認識を得ることになるのである。
本願商標に含まれる「POLO LEAGUE」の文字に係る商標が、旧17類、旧21類ならびに旧22類の商品群において、【E】からの登録異議申立てを受けたにもかかわらず適法に登録されていたという事実がある。そして、この事実に基づき、原告は、適法に「POLO LEAGUE」「ポロリーグ」を長年使用してきたものであり、その間に、【E】の「POLO」(ポロ)を含む結合商標はもちろんのこと、その他の多数の登録済みの「POLO」(ポロ)を含む結合商標との関係で、その付された商品について出所の混同が生じたことは全くなかった。
以上によれば、仮に「POLO」(ポロ)を構成要素の一部として含む標章が著名であるとしても、殊更、本願商標の「POLO LEAGUE」から「POLO」だけを取り出してこれを比較の対象とすることに合理性はない。これをあえてした審決の判断は誤りである。
また、本願商標の「POLO LEAGUE」の文字と結合した「ポロプレーヤーの図形」は、取引者・需要者の間で、馬に乗ったポロ競技中のプレーヤーの代表的な姿態を描いたものであると認識されるだけであって、これが【E】の「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」を連想させることはないのである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(職権証拠調べの結果を通知すべき義務等の違反)について 審判における証拠調の手続上の瑕疵が審決取消事由となるのは、その瑕疵が、審判の適正及び出願人、特許権者、その他の利害関係人の権利保障の観点から見て重大な瑕疵である場合に限られると解すべきである。
「POLO」ないし「Polo」の文字と「by RALPH LAUREN」の文字とから成る標章、「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」から成る標章又はこれらを組み合せた標章であって、【E】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用されるものは、そのように使用される標章として、我が国の取引者・需要者の間に広く認識され、その認識の度合いは現在においても継続しているものであり、このことは、顕著な事実というべきである。そして、原告においても、服飾関連分野の業務に携る者としての知見、自らが有する登録商標に関する登録異議申立事件における本件以前の経験などを通じて、この事実を十分に知っていたものである。審決は、このような顕著な事実を具体的に記載したにすぎない。
そうだとすれば、職権証拠調べの結果により上記顕著な事実が認定され、これに基づき判断がなされたとしても、原告は、当然にその程度のことを予期し対応することが可能であったから、不意打ちには当たらず、職権証拠調の結果を通知しなかったことを重大な瑕疵とすることはできないというべきである。
2 取消事由2(新たな拒絶理由の通知等の義務違反)について 審決は、拒絶査定に挙げられたのと同一の商標を挙げ、これを根拠に、商標法4条1項15号該当性という同一の理由によって、「本件審判の請求は、成り立たない。」との結論に至ったのであるから、本件は、商標法55条の2第1項で規定するところの、「第44条第1項の審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」には該当しない。
3 取消事由3(混同のおそれの判断の誤り)について 我が国においては、スポーツ用語としての「ポロ」の語は、一般に馴染みが薄いものであり、たとい、「カヌーポロ」、「ウォーターポロ」等の競技会が行われ、あるいはこれら競技の組織(連盟)が存在し、その少数の愛好家に、「POLO LEAGUE」という言葉が「ポロ競技会」、ないし「ポロ連盟」といった観念を想起させる場合があるとしても、我が国の一般世人の大多数にとっては、「POLO LEAGUE」の語は、明確に上記観念を想起させるようなものではない。
これに対して、ファッション関連商品である本願指定商品の分野においては、
【E】のデザインに係る被服等に使用される「POLO」、「Polo」、「ポロ」を用いた標章は、「POLO」、「Polo」と総称されて、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されているものである。
以上のような実情によれば、本願商標をその指定商品について使用した場合は、
これに接するこの種商品分野の取引者・需要者は、その構成中の「POLO LEAGUE」の文字部分を一体不可分の語として観念するというより、むしろ「POLO」の文字部分及び図形部分に強く印象付けられ、その商品が【E】、もしくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(職権証拠調べの結果通知等の義務違反)について (1) 商標法56条において準用する特許法150条1項は、「審判に関しては、
当事者若しくは参加人の申立により又は職権で、証拠調をすることができる。」と、同条5項は、「審判長は、第1項又は第2項の規定により職権で証拠調又は証拠保全をしたときは、その結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならない。」と規定しているから、審判体(審判官の合議体)は、審判手続において、職権で証拠調べをすることができるものの、その場合、必ず、審判長を通じてその結果を当事者等に通知して意見を申し立てる機会を与えなければならない。
弁論の全趣旨によれば、審判体は、本件の審判手続において、本件刊行物1ないし14について職権により証拠調べをしながら、審判長は、その結果を当事者である原告に通知して意見を申し立てる機会を与えることをしていないことが認められる。
審決が、「POLO」ないし「Polo」の文字と「by RALPH LAUREN」の文字とから成る標章、「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」から成る標章及びこれらを組み合せた標章であって、【E】のデザインに係る被服等に使用されるもの(以下、これらを総称して「ラルフ・ローレン標章」という。)の周知性その他の事実を認定し、この認定を根拠に、本願商標が商標法4条1項15号(審決は、引用商標の周知性自体を要件とする同法4条1項10号は問題にしていない。なお、15号括弧書き参照)に該当するとの結論を導いたものであることは、審決の理由自体で明らかである。
そうすると、本件の審判手続には瑕疵があり、その瑕疵は、審判の結果である審決の結論に一般的にみて影響を及ぼすものであったものというべきである。このような場合には、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認めさせる特別の事情がない限り、審決取消事由となるものと解すべきである(最高裁判所第1小法廷昭和51年5月6日判決判例時報819号35頁参照)。
(2) そこで、次に、上記特別の事情の有無について検討する。
(イ) 乙第12号証(審判請求理由及び証拠補充書)によれば、原告は、審判手続において、平成11年8月27日付けで、「衣料品をはじめ洋品雑貨の業界に於いて、単なる「POLO」はもちろんのこと、「POLO ポロ」の文字を含む結合商標が、何れもが非類似の商標として多数別個に登録に至っている事実があり、
その登録に基づき「POLO ポロ」の文字を含む結合商標が、競合する多数の同業者間で並存して大々的に使用されている事実が存在する。そしてポロプレイヤー図形もまた単なるアイキャッチャーとしていずれもが非類似として多数登録され、
その登録に基づき競合する多数の同業者間で併存して大々的に使用されている事実がある。【E】の「POLO」の使用以前をみても、被服の分野では上野衣料社の「PoloClub ポロクラブ」の登録が存在し(昭和46年出願・第8号証及び第70号証参照)、その登録に基づき上野衣料社は「PoloClub ポロクラブ」を継続して使用しているという事実がある(第127号証乃至第129号証参照)。かつまた公冠販売社名義の「POLO」の登録商標(昭和47年出願・第10号証参照)が存在し、その登録に基づき公冠販売社は「POLO」を実際に継続して使用しているという事実により(第130号及び第131号証参照)、
【E】の「POLO」は、公冠販売社の使用許諾のもと「POLO」の結合商標の使用をせざるをえなかったという重大な前提がある。この前提のもと【E】の「POLO」は、「POLO ポロ」単独での使用の事実は見出せず、それはたえず「POLO」と少なくとも「RALPH LAUREN」の文字との組み合わせ、
すなわち「ポロプレイヤー図形」の左右に「POLO」と「RALPH LAUREN」の文字を不可分一体的に書した態様か、あるいは「POLO」の文字を長方形の枠で囲み、その下に「by Ralph Lauren」の文字を配した態様で使用されてきたという事実がある(第148号証乃至第150号証参照)。またかかる態様での使用しかできなかったという事実に鑑み、ザ ポロ/ローレン カンパニーの名義において各商品群に於いて「POLO BY RALPH LAUREN」・・・というように「POLO ポロ」の文字を含んだ結合商標の登録を得ざるをえなかったという事情も存する。このような事情を主たる出発点として、
次に詳述するように「POLO ポロ」の文字を含む多数の結合商標が、御庁において併存して登録され、その登録に基づき「POLO ポロ」を含む数多くの結合商標を付した商品が実際長期間にわたり取引市場に於て併存して使用されてきたことから、取引者、需要者に於ては、「POLO ポロ」の文字を含むこれらの結合商標は、例えば「PoloClub ポロクラブ」といえば上野衣料社の、「POLO RALPH LAUREN」といえば【E】の、「Santa Barbara Polo&Racquet Club」といえばサンタバーバラポロアンドラケットクラブ社の、「BEVERLY HILLS POLO CLUB」といえばピーエイチシーピーシーマーケティング社の、そして「POLO LEAGUE ポロリーグ」といえば八木商店にかかる商品であるというように、「POLO ポロ」の文字を含んだものであっても、その結合態様の違いにより、もはや出所が異なる商品であることを充分認識するに至っているものであり、本件商標をその指定商品に使用しても、【E】の「POLO」と、その商品の出所について混同をおこすおそれはまったくないものである。」(1頁下から2行〜3頁21行)などと記載した審判請求理由及び証拠補充書を提出したことが認められる。
上記認定の事実によれば、原告は、【E】がラルフ・ローレン標章を使用するより前から、我が国において、【E】以外の者の登録出願した「POLO」、「Polo」、「ポロ」の文字を含む多数の商標が登録され、それぞれが商標として使用されてきていたのであるから、取引の実情において、「POLO」、「Polo」、「ポロ」を含む標章から直ちに【E】が想起されるものではない、と主張していたこと、また、「ポロプレイヤー図形」も、ただポロプレイヤー図形であるだけで【E】を想起させるものではないと主張していたことが、明らかである。
なお、乙第12号証によれば、原告は、同じ審判請求理由及び証拠補充書において、「POLO LEAGUE ポロリーグ」から「POLO ポロ」の文字部分のみが分離されなければならない理由はない、とも主張していたことが認められる(9頁17行、18行など参照)。
(ロ) これに対して、審判体は、職権証拠調べをすることによって、まず、次の諸事実を認定した(別紙審決書の理由の写し参照)。
イ 1974年ころから、【E】の名前が、我が国の服飾業界においても広く知られるようになった。【E】のデザインに係る一群の商品には、「横長四角形中に記載された[Polo」の文字とともに「by RALPH LAUREN」の文字及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形の各標章が使用され、これらは「ポロ」の略称で呼ばれるようになった。」(審決書3頁13行〜16行)(本件刊行物1及び同2により認定) ロ 我が国においては、西武百貨店が、昭和51年、【E】が設立したポロ・ファッションズ社から使用許諾を受け、同52年から【E】のデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の輸入、販売を、同53年から婦人服の輸入、販売をするようになった。
(本件刊行物3〜同5により認定) ハ 昭和55年4月15日株式会社洋品界発行「月刊『アパレルファッション店』別冊などの各種書籍によれば、【E】のデザインに係る紳士服、紳士用品が、
「P0LO」、「ポロ」、「Polo」、「ポロ(アメリカ)」、「ポロ/ラルフ・ローレン(アメリカ)」等の表題のもとに紹介されている。
(本件刊行物6〜同10により認定) ニ 「Polo」(ポロ)標章に関し、「我が国において、遅くとも本件商標の登録出願がされた昭和59年までには既に、引用標章(Polo)が【E】のデザインに係る被服等及び眼鏡製品を表す標章であるとの認識が広く需要者及び取引関係者の間に確立していたものということができる。」旨認定した判決(東京高等裁判所平成3年7月11日判決・知裁集23巻2号604頁、判時1401号116頁参照)がある。
ホ 昭和63年には、既に、我が国において、「Polo」の文字、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形などを使用した偽物ブランド商品が出回っており、
その後も同様の事例が跡を絶たない。
(本件刊行物11〜同14により認定) そして、審判体は、上記諸事実を総合し、「【E】のデザインに係る被服等について使用される標章は、「Polo」の文字とともに「by Ralph Lauren」の文字及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章であると認められるところ、我が国においては、これらの標章を総称して単に「Polo」、「ポロ」と略称していたということができ、「Polo」(ポロ)の標章は、【E】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、本願商標の登録出願前には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その認識の度合いは現在においても継続している」(審決書5頁8行〜18行)と認定した。
(ハ) 次に、審判体は、上記各認定を根拠に、本願商標は、その構成中に、
【E】のデザインに係る紳士服、婦人服等の被服及び眼鏡製品について使用され、
我が国においても取引者・需要者に広く認識されているラルフ・ローレン標章と同一綴り文字よりなる「POLO」の文字を有しており、また、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーがマレットを振り上げている図形をも有しているから、本願商標を付した商品に接する取引者・需要者は、上記図形部分を【E】の使用に係る「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」と理解すると認定した。
(ニ) そして、最後に、審判体は、本願商標の指定商品と「Polo」(ポロ)標章を付した【E】のデザインに係る商品とが関連性を有するとしたうえ、上記認定を前提に、本願商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者・需要者は、「POLO」の文字部分及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形部分に強く印象付けられ、その商品が【E】もしくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように誤信して、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると判断した。
(ホ) 要するに、審判体は、本件刊行物1ないし14についての職権証拠調べをすることによって、ラルフ・ローレン標章が【E】のデザインに係る一群の商品に使用されて周知となっていること、周知となった時期は、本願商標の登録出願前であり、これが現在においても継続していること、ラルフ・ローレン標章まがいの偽物ブランド商品が出回り、これが跡を絶たない状況にあることを認定し、本願商標については、その構成中に「POLO」の文字を含み、また、【E】の使用に係る「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」と理解し得る図形を含んでいると認定し、これらの認定を前提に、これに接する取引者・需要者は、「POLO」の文字部分及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形部分に強く印象付けられ、その商品が【E】もしくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある、と判断したものであることが明らかである。
そうすると、審判体は、原告が、「POLO」、「Polo」、「ポロ」は、単独では【E】によって使用されておらず、【E】による使用を含め、これらの語が他の語と結合して、多くの者に使用されてきているとの取引の実情に照らすと、
「POLO」、「Polo」、「ポロ」から直ちに【E】が想起されるものではないと主張しているのに対応するものとして、本件刊行物1ないし14についての職権証拠調べをして、上述したとおり、ラルフ・ローレン標章(「POLO」ないし「Polo」の文字と「by RALPH LAUREN」の文字とから成る標章、「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」から成る標章及びこれらを組み合せた標章であって、【E】のデザインに係る被服等に使用されるもの)が【E】のデザインに係る一群の商品に使用されて周知となっていることなどを認定したうえ、その認定に基づいて、ラルフ・ローレン標章が単に「Polo」、「ポロ」と略称されてきたと認定し、これを前提に、本願商標がその構成要素の一部として「POLO」を有することを重要な根拠として、その商標法4条1項15号該当性を肯定した、ということになる。
審判体が、原告の上記主張を排斥して上記結論に達するためには、上記各証拠によって行った認定が正しいか、それらの認定からの推論が正しいかの検討、特に、
ラルフ・ローレン標章が「Polo」、「ポロ」と略称されているとの認定が正しいか、それが正しいとして、他の者によって使用される標章が「Polo」、「ポロ」と略称されることはないといえるか、その結果、「POLO」の文字に接した取引者・需要者は【E】を想起するか、等についての検討が、証拠に基づいて行われなければならない。ところが、審判体が職権で証拠調べをして上記認定判断をしながら、そのことを全く原告には伝えなかったため、原告は、これにつき意見を述べ、場合によっては、反証を提出するなどの機会を失うことになったのである。このようなとき、審判体の手続違背が、審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであるとすることは、不可能というべきである。
(3) 被告は、「Polo」(ポロ)標章は、【E】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、我が国の取引者・需要者の間に広く認識され、その認識の度合いは現在においても継続しているものであり、このことは、顕著な事実というべきであるとし、原告においてもこの事実を十分に知っていたものであり、審決は、このような顕著な事実を具体的に記載したにすぎない旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、原告が、取引の実情を具体的に指摘して、
「POLO」、「Polo」、「ポロ」から直ちに【E】又はその関連会社が想起されるものではないと明確に主張していたことからすれば、ラルフ・ローレン標章が【E】のデザインに係る被服等について使用される標章として本願出願前に周知となっていたかどうか自体は争点となっていなかったとしても、他の語とともに用いられる「POLO」、「Polo」、「ポロ」から【E】が想起されるか否かは第一の争点ともいえる争点になっていたことが明らかである。そして、少なくとも本件において、この点を、証明を要しない顕著な事実とすることができないことは、明らかというべきである。それゆえにこそ、審決は、職権証拠調べをして、これに基づき、その事実を認定したものと推察されるのである。
被告の主張は、失当というほかない。
なお、被告は、職権証拠調べの結果が原告に通知されなかったとしても、それは原告にとって不意打ちには当たらず、職権証拠調べの結果を通知しなかったとしても重大な瑕疵には当たらない旨主張しているけれども、職権証拠調べの結果を通知しないままの認定判断が原告にとって不意打ちにならないとはいえないことは、上述したところから明らかである。そもそも、商標法56条によって準用される特許法150条5項は、不意打ちを禁止することのみを目的として設けられているのではなく、より一般的に、審判手続の適正な運用を担保するために設けられたものと解すべきである。結果的に不意打ちに当たらなければ許されるというものではないことを忘れてはならない。
2 以上によれば、審決の取消しを求める原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由があることが明らかである。そこで、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、
主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸