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関連審決 審判1998-17464
関連ワード 商品商標 /  役務商標 /  包装 /  出所表示機能 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  識別機能 /  指定役務 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 105号 審決取消請求事件
原告 エスプリインターナショナル 代表者 【A】
訴訟代理人弁護士 宮川 美津子
同 平野正弥
同 弁理士 稲葉良幸
同 内田 佐江子
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第17464号事件について平成11年11月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年1月9日、「ESPRIT」の欧文字を横書きして成り、
指定役務を商標法施行令別表による第35類「化粧品・香水類・石けん類・トイレ用品・めがねフレーム・サングラス・日覆い・宝玉・時計・紙類・紙製品・印刷物・刊行物・書籍・ノートブック・スケジュール帳・住所録・筆記製図用具及びその製品・文房具・キャリングケース・かばん・旅行かばん・かさ・ハンドバッグ・がま口・ベルト・財布・家具・額縁・家庭用小物及び容器・ガラス器・皿・カップ・マグカップ・椀・鉢・石けん入れ・灰皿・くし・スポンジ・歯ブラシを含むブラシ類(絵筆を除く)・ヘアブラシ・メーキャップ用ブラシ・陶磁器製家庭用品・テーブルクロス・ベッドカバー・敷布及び枕カバーを含む寝具類・タオル・ふきん・布製家庭用品・履物及びかぶり物を含む男性用及び女性用及び子供用被服・ゲーム・おもちゃに関連する小売り」とする商標(以下「本願商標」という。)につき、商標登録出願(商願平9-709号)をしたが、平成10年7月31日に拒絶査定を受けたので、同年11月2日、これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成10年審判第17464号事件として審理した上、
平成11年11月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本は同年12月1日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、商標法上の「役務」は「他人のために提供する労務又は便益であって、独立して取引の対象となるもの」と解すべきところ、商品の小売から成る本願商標の指定役務はこのような同法上の役務ということはできないから、本件出願は同法6条1項要件を具備しないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の理由中、審決書6頁末行〜7頁8行目、7頁末行〜8頁6行目、8頁14行目以降を争い、その余は認める。
審決は、商品の小売が商標法上の役務ではないとの誤った判断をした(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由 (1) 小売業におけ役務の独立性について 商品の小売は、商標法2条1項1号にいう「業として商品を譲渡する」行為に該当すると解されてきたが、むしろ、同項2号にいう「業として役務を提供し、又は証明する」行為に該当すると解すべきである。すなわち、同項1号並びに同条3項1号及び2号は、商品の生産者が生産し、その品質を証明し、譲渡する商品自体又は商品を直接的に包装する包装容器等に付する商標を想定したものと解すべきであり、第三者が生産し、第三者がその品質を証明し、第三者によって譲渡された商品を、需要者のために選択し、購買の機会を与える小売行為に使用される商標は含まないというべきである。
例えば、百貨店においては、多数の第三者の商標を付した商品が販売されているが、たとえ百貨店の包装紙で包装されようとも、その商品の出所を推し量るのは商品に付された商標である。他方、同じ商品を購入する場合でも、需要者は特定の百貨店での購入を選択することがしばしばある。これは、当該百貨店の小売業としての信用が需要者に評価された結果であり、したがって、百貨店の商標には小売業としての信用が化体しているのであり、この業務上の信用は、商品とは切り離して保護されるべきものである。
そして、このような小売業は、独立した役務として経済行為の対象となっている。需要者は、数ある小売店の中から、価格、店舗イメージ、立地、店員のサービス(サイズ選び、試着、アドバイス等)といった欲求にこたえてくれる小売店を選別しており、現代における小売業は、このような様々な需要者の欲求にこたえるべく付随サービスや工夫を提供するものへと変革を遂げている。また、これらのサービス活動は商品価格に上乗せされ、需要者はそれを承知でその対価を支払っているということができる。
(2) 国際協調の軽視について 標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する1957年6月15日のニース協定(以下「ニース協定」という。)第7版は、1997年1月1日発効の国際分類第35類の注釈においては、「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること」を同類に含まれる「サービス」として特に掲げているところであり、その前後において、米国、カナダ、スペイン、ベネルクス、スイス、ポーランド、フィンランド、スウェーデン、ロシア、韓国、台湾、香港、中国、シンガポール、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、イスラエル等多くの国が小売サービスについて商標登録を事実上認めているほか、1999年12月17日に欧州商標庁において小売サービスを商標登録の対象として認めるべきであるとする審決が出され、英国商標庁も小売サービスについての商標登録を認める意向であることを公表しており、小売サービスについて商標登録を認めることが世界的なすう勢になりつつある。
各国における取扱いはニース協定にも他国の動きにも拘束されるものではないが、現行商標法の解釈及び実務運用で小売役務の登録を認める余地があり、他方、これを否定する積極的根拠もないというべきである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 小売業における役務の独立性について 商標法においては、従前より商品の小売は商品の譲渡としてとらえられてきたのであり、このことはサービスマーク登録制度の導入後も変わらない。そして、
ここでいう「譲渡」は、原告のいう「商品の生産者が生産し、その品質を証明し、
譲渡する商品自体又は商品を直接的に包装する包装容器等に付する商標」の場合に限定されるものではなく、「第三者が生産し、第三者がその品質を証明し、第三者によって譲渡された商品を、需要者のために選択し、購買の機会を与える小売行為に使用される商標」の場合も当然含まれ、両者を区別すべき理由はない。なぜなら、生産者が当該商品を直接小売することもあるし、商品の生産者が小売した商品が更に小売されることもあり、いずれの場合も商品の譲渡ととらえられるからである。
また、原告は、小売業は独立した役務として経済行為の対象となっている旨主張するが、商標法にいう「役務」とは、他人のためにする労務又は便益であって、付随的ではなく独立して市場において取引の対象となり得るものと解される。
百貨店や小売店の目的は、あくまでも商品の販売にあるのであって、原告のいう付随サービスは、商品の販売を促進するための手段の一つにすぎず、独立した対価を得ているものでもない。そうすると、百貨店や小売店の行う行為は、それ自体独立して経済取引の対象となるものではなく、単に商品の販売に付随したサービスというべきものである。
2 国際協調の軽視について ニース協定の国際分類第7版(1997年1月1日発効)第35類の注釈における「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること」の文言は、世界知的所有権機関(WIPO)のニース協定専門家委員会及び同準備作業部会における議論を踏まえ、妥協の産物として上記第7版に加えられたものである。すなわち、ニース協定準備作業部会第8会期(1987年)において、「小売店サービス」を国際分類第42類に追加すべきであるとの米国からの提案は否決され、同第10会期(1989年)においても、「小売店サービス」を国際分類第35類に追加すべきであるとの提案は否決され、これらの結果はニース協定専門家委員会第16会期(1990年)に報告され、「小売店サービス」を国際分類第42類及び第35類に追加することは見送られた。その後、ニース協定準備作業部会第13会期(1993年)においても再度「小売店サービス」について検討されたが、国際分類第42類に追加すべきとの提案は拒否された。そして、同第14会期(1994年)及びニース協定専門家委員会第17会期(1995年)の議論を経て、国際分類第35類の注釈に前記の文言が加えられたが、これによって国際分類に「小売店サービス」が認められたわけではない。すなわち、同類の注釈には、「この類には、特に、次のサービスを含まない。」として、「主たる業務が商品の販売である企業、すなわち、いわゆる商業に従事する企業の活動」が従来より挙げられており、これは改正されていない。したがって、ニース協定第7版の注釈で新たに加えられたサービスは、小売店の委託を受けて商品の品揃えや陳列等を行うものにとどまり、自ら商品の販売を行うものはこれに含まれないというべきである。
仮に、国際分類第35類の注釈に上記文言が加えられたことによって、「小売店サービス」を同分類に取り込み得るとしても、ニース協定は、国際分類の効果は各国の法制に何ら影響を及ぼすものではない旨を明らかにしており(ニース協定2条(1))、したがって、各国の取扱いがこれに拘束されるものではない。
なお、原告は、小売サービスについて商標登録を認めることが世界的なすう勢である旨主張するが、「小売店サービス」を商標登録のできるサービスとして認めることについては、我が国のみならず、オーストリア、デンマーク、ドイツ、ロシア、フランス、ノルウェー、オランダ、イギリス、アルジェリア、中国、ギリシア、アイルランド、ラトビア、スロバキア、スロベニア等の諸国が反対しているのであり、これを認めるのが国際的な傾向であるということはできない。
また、原告は、現行商標法の解釈及び実務運用で小売役務の登録を認める余地があり、これを否定する積極的根拠もない旨主張するが、現行商標法は、サービスマーク登録制度の導入に当たり、商品の小売の取扱いについて国際的動向を含め入念な検討を経た上で改正されたものであって、商品の小売を商品の譲渡とする取扱いを変えておらず、この解釈に変更の余地はない。商品の小売を商標法上の役務として認めるか否かは、従来の商標保護の権利体系を大きく変更する問題を内包する立法政策の問題である。仮に、現行商標法の下で商品の小売を商標法上の役務であるとした場合、役務商標権が商品商標権に及ぶのかどうかに関して権利の範囲が明らかでなく、多岐にわたる商品を一括して第35類の「小売」とした場合に、他の類に属する商品との類似関係をどのように判断、審査すべきかなど錯綜した問題を生ずる。
当裁判所の判断
1 小売業における役務の独立性について 一般に、役務とは他人のためにする労務又は便益をいうと解されるところ、
商標は、商品又は役務に使用され、自他の商品又は役務の識別機能を有し、出所表示機能品質保証機能を果たし得るものでなければならないのであるから、商標法にいう「役務」とは、他人のためにする労務又は便益であって、付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るものをいうと解するのが相当である。したがって、商品の譲渡に伴って付随的に行われるサービスは、それ自体に着目すれば他人のためにする労務又は便益に当たるとしても、市場において独立した取引の対象となり得るものでない限り、商標法にいう「役務」には該当しないと解すべきである。
このような観点から、本願商標の指定役務とされる商品の小売の独立性を見るに、一般に、小売業においては、店舗設計や商品展示がそれ自体顧客に対する便益の提供という側面を有しており、また、店員による接客サービスも、それ自体としては顧客に対する労務又は便益の提供に当たるということができる。そして、原告は、これらの点に着目して、小売は独立した役務として経済行為の対象となっている旨主張するが、小売はあくまでも商品の販売を目的とするものであって、原告の主張する付随サービスは、商品の販売を促進するための手段の一つにすぎないというべきであり、現に、商品の小売において、商品本体の価格とは別にサービスの対価が明示され、独立した取引としての対価の支払が行われているものではない。
この点につき、原告は、これらのサービス活動は商品価格に上乗せされている旨主張するが、仮に、そのような上乗せが事実上されているとしても、商品本体の価格とは別に対価が支払われることのないものである以上、サービス自体が独立して取引の対象となっているものとはいえない。
また、原告は、商品の小売は、商標法2条1項1号にいう「業として商品を譲渡する」行為ではなく、同項2号にいう「業として役務を提供し、又は証明する」行為に該当すると解すべき旨主張する。しかし、同項1号は商品の「譲渡」について何らの限定も加えておらず、そうすると、文理上、生産者から消費者への直接的な移転、又は、生産者から流通業者への移転、流通業者間の移転及び流通業者から最終消費者への移転のすべてが譲渡に包含されるものと解するのが自然であり、また、商品の小売を、原告の主張するように「第三者が生産し、第三者がその品質を証明し、第三者によって譲渡された商品を、需要者のために選択し、購買の機会を与える」行為と解するとしても、これを上記のような商品の移転(流通)過程から除外して扱うべき合理的な理由を見いだすことができないばかりか、商品の小売に該当するかどうかについて混乱が生ずることも避けられない。
したがって、原告の上記主張は採用することができず、小売において提供される原告主張のような付随サービスは、独立して市場において取引の対象となり得るものではないというべきである。
2 国際協調の軽視について 原告は、ニース協定第7版(1997年1月1日発効)において、第35類の注釈として「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること」が同類に含まれる「サービス」として特に掲げられていること、多くの国が小売サービスの商標登録を事実上認めており、そのような取扱いが世界的なすう勢であることを主張する。
商標法6条は、「商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない。」(1項)、「前項の指定は、政令で定める商品及び役務の区分に従ってしなければならない。」(2項)と規定し、これを受けた商標法施行令1条は、同別表による「商品及び役務の区分」の各区分に属する商品及び役務はニース協定1条に規定する国際分類に即して通商産業省令で定める旨規定している。
しかし、乙第8号証によれば、ニース協定は、同じ第35類の注釈として、
「この類には、特に、次のサービスを含まない。」との項に「主たる業務が商品の販売である企業、すなわち、いわゆる商業に従事する企業の活動」を掲げていることが認められ、これによる限り、商品の小売はこの「商品の販売」に当たると解されるところであって、原告の主張に係る上記注釈の記載が、「小売店サービス」がニース協定の国際分類にいう「サービス」に含まれることを意味するものとはいえない。また、原告も自認するとおり、そもそもニース協定の国際分類は、同盟国の取扱いを拘束するものではなく(ニース協定2条(1))、各国の運用をいう点も、そのこと自体、商品の小売が我が国商標法上の役務に当たるかどうかの解釈に直接影響を及ぼすようなものではない。なお、原告は、小売サービスについて商標登録を認めるのが世界的なすう勢であるとも主張するが、乙第2〜第8号証並びに弁論の全趣旨によれば、「小売店サービス」の商標登録の可否については、1987年以来、世界知的所有権機関(WIPO)のニース協定専門家委員会及び同準備作業部会において繰り返し議論されてきたが、米国等全面的に賛成する諸国、ニュージーランド等条件付で賛成する諸国がある一方で、我が国のほか被告主張のような相当数の諸国が反対していたこと、こうした状況の下で、1995年に、いわば妥協の産物として、上記のとおり、ニース協定の第35類の注釈として、「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること」との文言が加えられたが、「この類には、特に、次のサービスを含まない。」との項に「主たる業務が商品の販売である企業、すなわち、いわゆる商業に従事する企業の活動」を掲げている従来の文言はそのまま存置され、
1997年1月1日に発効した経緯のあることが認められるから、原告主張のように小売サービスについて商標登録を事実上認めている諸国があり、また、同旨をいう欧州商標庁の審決等があるからといって、それが世界的なすう勢であるということもできない。
したがって、原告の上記主張は、立法論としては格別、我が国の現行商標法の解釈論として、商品の小売から成る本願商標の指定役務の役務該当性を否定した審決の判断を誤りとする根拠とはならないものというべきである。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利