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関連審決 審判1998-31186
関連ワード 指定商品 /  不使用 /  権利濫用(権利の濫用) /  信義則 /  社団法人 /  不使用取消審判 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 171号 審決取消請求事件
原告 株式会社明電舎代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 光石忠敬
同 光石俊郎
同弁理士 【B】
被告 ルーセントテクノロジーズ インコーポ レーテッド 代表者 【C】
訴訟代理人弁理士 【D】
同 【E】
同 【F】
同 【G】
同 【H】
同 【I】
同 【J】
同 【K】
同 【L】
同 【M】
同 【N】
同 【O】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/12/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第31186号事件について平成12年4月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、「パートナー」の片仮名文字を横書きして成り、指定商品を商品の区分(平成3年9月25日政令第299号による改正前の商標法施行令第1条所定の商品の区分。以下同じ)第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料」とする商標登録第2707050号の商標(平成2年4月2日登録出願、平成6年8月23日出願公告、平成7年5月31日設定登録。以下「本件商標」という)の商標権者である。
被告は、平成10年11月13日、原告を被請求人として、商標法50条に基づき本件商標の登録の取消しの審判を請求し、特許庁は、これを平成10年審判第31186号事件として審理した結果、「登録第2707050号商標の登録は取り消す。」との審決をし、平成12年4月26日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。
要するに、「電気機械器具」といえるものであっても、電気の作用が単に補助的な役割をなすにすぎないものは第11類の「電気機械器具」には含まれず、それら機械の用途、使用目的に従い、他の区分に属するとし、他の区分である第9類は、
主として事業場で生産加工及びその管理に使用される機械器具を用途別にまとめた類であり、このうち「産業機械器具」は、産業分野に属する各種機械器具を用途別、産業別に集めたものであるとし、以上の解釈を前提に、本件商品1及び同2は、荷役機械を人的分野に応用したにすぎない搬送機器ないし電動式昇降機であるとして、「その主たる用途が病院等介護施設内において、或いは、被介護者の戸外生活を容易ならしめるべく業務用または介護用に用いられる機器であり、かつ、たとえ、それら機器の構造が電気の作用を利用するものであっても、その作用は補助的な役割を果たしているにすぎない」(審決書7頁18行〜21行)と認定し、この認定を前提に、本件商品1及び同2は、第9類の「荷役機械器具」に属する商品であって第11類に属する商品ではない、とするものである。
なお、審決にいう資料1ないし4は、それぞれ本訴の甲第6号証ないし第9号証に対応している。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は、甲第6号証、第8号証に係る明電天井走行式リフトシステム(以下「本件商品1」という。)及び甲第7号証、第9号証に係る明電段差解消機(以下「本件商品2」という。)について、病院等の施設においてのみならず、家庭でも使用されるものであるにかかわらず、これを看過して、施設においてのみ使用されるものであると誤認し(取消事由1)、また、本件商品1及び同2において、電気の作用が機械器具の機能にとって本質的な役割を果たしているのに、補助的な役割しか果たしていないと誤認し(取消事由2)、さらに、第9類に属する「荷役機械器具」は、「エスカレーター及びエレベーター」のみを例外として、専ら荷役に使用される機械器具しか含まないのに、専ら人間を移動させるものも含むと誤って解釈し(取消事由3)、その結果、本件商品1及び同2は、第9類所定の「荷役機械器具」に属する商品であって、第11類の「電気機械器具 電気通信機械器具 電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」には該当しないとの誤った結論を導いたものであり、そのうえ、審決の基礎となる本件商標の登録取消審判請求自体が権利の濫用に当たる違法なものであったのであるから(取消事由4)、取り消されなければならない。
1 取消事由1(本件商品1及び同2が一般家庭でも使用されるものであることの看過) 審決は、本件商品1及び同2は、病院等の施設において設置又は使用される搬送機器ないし電動式昇降機であると認定した。しかし、これは、本件商品1及び同2には、一般家庭で使用されるものも存在することを看過するものである。
本件商品1は、全体のほぼ半分が家庭で使用されており、また、本件商品2は、
そのほとんどが家庭で使用されている。いずれにしても、病院等の施設用としてのみならず、家庭用のものとしても使用されてきたものである。このことは、甲第6号証(審決の資料1。明電天井走行式リフトシステム・施設用「パートナー」カタログ)の4枚目左の「LIFT」の説明に、「ご家庭や病院・施設など、5000台の納入実績が、多彩なシステム提案能力を備えてます」との記載があり、4枚目右には、主として家庭用のポータブルパートナーが図示されていること、甲第7号証(審決の資料2。明電段差解消機アクセス「パートナー」カタログ)には、家庭の縁側における使用例が図示されていること、甲第10号証に、「KP-0001A在宅用」3000部、「KP-0002A自立・介護用」4000部とそれぞれ明記され、甲第11号証に、「KP-0004Aポータブル」2000部と明記されていることからも明らかである。
第11類の「電気機械器具」に属する「民生用電気機械器具」は、主として家庭において使用される電気機械器具を意味するから(甲第19号証の商品区分解説48頁参照)、上述の状況の下では、本件商品1及び同2は、いずれも、主として家庭において使用される電気機械器具として、「民生用電気機械器具」に該当するものというべきである。ところが、審決は、本件商品1及び同2が施設で使用されることのみに着目して、一般家庭でも使用されることを看過したため、主として家庭において使用されるものであることを前提とした判断をしておらず、これが審決の結論に影響を及ぼすことは、明らかである(甲第19号証の商品区分解説47頁参照)。
2 取消事由2(電気の役割の誤認) 審決は、本件商品1及び同2において、電気の作用が補助的な役割を果たしているにすぎないと、何ら理由を示すことなく認定した。
しかしながら、本件商品1及び同2において、電気の作用は、機械器具の機能にとって本質的な役割を果たしている。
本件商品1及び同2は、専ら介護のため使用されるものであり、日常的に介護を必要とする被介護者に不安感や身体的負担を与えないようにリフトの昇降時に電動機の速度制御を行うなど複雑かつ安定的な電気的制御を行っている。上記各商品は、リモコンスイッチ、ペンダントスイッチによって(可搬式電動リフトポータブルの場合は、ペンダントスイッチによって)、複雑かつ安定的な電気的制御を行っており、体の自由が利かない人でも安全に操作することができるものである。
審決の上記誤認がその結論に影響を及ぼすことは明らかである。
3 取消事由3(「荷役機械器具」の解釈の誤り) 審決は、専ら人間を移動させるものも第9類の「荷役機械器具」に含まれ得ると解釈し、これを前提に判断したが、審決が前提としたこの解釈は誤っている。
第9類の「荷役機械器具」は、エスカレーター及びエレベーターのみを例外として、専ら荷役に使用される機械器具をいうものである(甲第19号証の商品区分解説33頁参照)。本件商品1及び同2は、専ら人間を移動させるものであり、このことから、安全最優先の機構、構造を有し、体の自由が利かない人でも容易に操作することができるなど、荷役に使用されるものにはない性質を有している。このようなものが、専ら荷役に使用されるものとして、「荷役機械器具」に該当することなど、およそあり得ないことである。
審決の上記誤認が、その結論に影響を及ぼすことは明らかである。
4 取消事由4(権利の濫用) 審決の基礎となる本件商標の登録取消審判請求自体が権利の濫用に当たる違法なものであったから、結果として審決も違法となり、取り消されるべきである。
被告は、平成2年8月29日、指定商品を第11類「電話交換機、電話機、フィーチャーカートリッジ及びその他のボタン電話用機械器具、電話接続用コードケーブル及びその他の器具、その他本類に属する商品」として、「PARTNER」のローマ字を横書きにして成る商標につき商標登録出願をした(以下「別件出願」という。)ものの、平成7年2月28日付けで、本件商標を引用した拒絶理由通知を受け、次いで、平成9年6月24日に拒絶査定を受け、拒絶査定不服の審判を請求して今日に至っている。
被告は、上記過程において、拒絶理由通知を受けた後の平成7年7月24日、拒絶理由を解消すべく本件商標の商標権者すなわち原告と譲渡交渉中である、旨の上申書を提出し、さらに、平成9年10月9日付けで提出した審判請求書においても、同様の趣旨の上申をした。しかし、原告が、被告との間で本件商標につき譲渡交渉をしたことは全くない。それどころか、原告が、その旨の申し出を被告から受けたこと自体、一切ないのである。
被告は、当時まだ満たされていなかった、「継続して3年以上」という不使用取消審判請求の要件(本件商標の登録日は平成7年5月31日である。)を満たすため、虚偽の事実を上申して時間を稼いで別件出願による順位を確保しつつ、上記要件の満たされるのを待ち、平成10年11月13日に至って本件の審判を請求したものである。
被告の上記行為は、著しく信義則に反し権利を濫用するものであり、同行為に基づく審判請求とこれに基づく審決は、ともに違法であって、取り消されるべきである。
5 別商標についての被告主張に対する反論 本件商品1及び同2は、新商品であり、いまだ商標法施行規則の別表に掲載されていないから、出願人等において、同商品がどの類に該当するのか知ることができない状態にある。原告は、特許庁分類審査官の助言に従い、また、将来、天井走行式リフトシステムに関する新商品を製造販売するときに備えて、本件商標とは別に、「パートナー」のカタカナ文字を横書きして成る商標について、商品及び役務の区分を現行第7類とし、指定商品を「介護用の天井走行式・据置式電動リフト」として商標登録出願をし、これについても設定登録を受けたのである。
したがって、原告が上記設定登録を受けていることを理由に、同一商品について同一人に二つの商標権の存在を容認するもので許されないとする被告の主張は、失当である。
被告の反論の要点
審決の認定判断は、正当であって、審決が取り消されるべき理由はない。
1 取消事由1(本件商品1及び同2が一般家庭でも使用されるものであることの看過)について(1) 原告は、甲第6号証ないし第9号証等を挙げて、本件商品1及び同2が、主として家庭において使用される電気機械器具であると主張しているものの、積極的に、本件商品1及び同2が「民生用電気機械器具」の範疇に属するとの主張はしていない。
(2) 本件商品1及び同2は、いずれも、「民生用電気機械器具」には属さない。
平成3年10月31日通商産業省令第70号による改正前の商標法施行規則の別表には、第11類に属するものとして「民生用電気機械器具」が挙げられているものの、その例示として挙げられているのが、「電気アイロン 電気ストーブ 電気火ばち 電気ふとん 電気毛布 電気こたつ 電気足温器 電気こんろ 電気レンジ 電気トースター 電気コーヒー沸かし 頭髪乾燥器 巻き毛器 電気投入式湯沸かし器 布地乾燥器 扇風機 電気洗たく機 電気冷蔵庫 ルームクーラー 電気がま 電気ミキサー 電気マッサージ器 電気かみそり 電気バリカン 電気掃除器 電鈴」であることからすると、「民生用電気機械器具」とは、一般家庭の日常生活において広く用いられている電気機械器具を指すものと考えられる。
これに対し、本件商品1は、施設用・家庭用を問わず、被介護者の移動、歩行等を機械的に移動搬送すべく屋内天井部に設置したレール軌道及び吊り下げ器具よりなる搬送機器であり、本件商品2は、施設用・家庭用を問わず、車椅子や電動車の屋外移動の際に敷地面との高低差を解消するため、あらかじめ所定位置に据えて使用する平板状の電動式昇降機であり、これらの機器の使用目的が介護用であることからすると、これらの機器は「介護用の天井走行式・据置式電動リフト」と容易に認識され得るものである。本件商品1及び同2が、一般家庭の日常生活において広く用いられている電気機械器具でないことは明らかである。
2 取消事由2(電気の役割の誤認)について 本件商品1及び同2には、昇降や走行のための仕組みとして、電動リモコン式のもののみならず手動式のものもあることからすると、電気の作用が、これらの機器の性能にとって本質的な役割を果たしているとはいい得ない。
3 取消事由3(「荷役機械器具」の解釈の誤り)について 本件商品1及び同2は、上記1(2)で述べたとおりのものであって、その基本的な機構、構造が従来から物流搬送用又は貨物輸送ないしは工事用に用いられる荷役用の機械器具と同じであり、荷役用機械を人的分野に応用したにすぎないものということができる。今日のあらゆる機械器具は安全性を重視した構造になっていることを考えると、人的分野に係るものであるか否かに大きな意味を与えることはできないというべきである。
4 取消事由4(権利の濫用)について 被告が、別件出願における拒絶理由を解消すべく、実際には原告と譲渡交渉を行っていないのに、上申書に譲渡交渉を行っている旨記載したことは事実であり、被告の勇み足であった。
しかし、本件は、別件出願に係る審査、審判手続とは別個のものであり、しかも、不使用取消審判は、自己の商標登録出願が存在するか否かにかかわらず「何人」も請求できるから、別件商標登録出願に係る審査、審判手続において、被告に上記行為があったとしても、そのことは、本件の審理に何ら影響を与えるものではない。また、被告の上記行為がなかったとしても、現在の審判や訴訟の実情等を考慮すると、本件における「継続して3年以上」の要件は、別件商標登録出願に係る最終的な処分が確定するまでに充足されるに至ることが確実であったと考えられる。
5 原告による別の商標の登録取得について 原告は、本件商標とは別に、「パートナー」のカタカナ文字を横書きして成る商標について、商品及び役務の区分を現行第7類とし、指定商品を「介護用の天井走行式・据置式電動リフト」として、平成10年9月11日に設定登録を受けている。本件において原告の請求が認められるとすると、同一商品について同一人による二つの商標権の存在を容認することになり、第三者の商標選択の余地を不当に狭める結果をもたらすことになる。このような結果をもたらすことは許されない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商品1及び同2が一般家庭でも使用されるものであることの看過)について(1) 平成3年5月2日法律第65号による改正前の商標法6条1項は、「商標登録出願は、政令で定める商品の区分内において、商標の使用をする1又は2以上の商品を指定して、商標ごとにしなければならない。」と規定し、上記規定にいう政令である同年9月25日政令第299号による改正前の商標法施行令(昭和35年政令第19号)1条は、「商標法第6条第1項の政令で定める商品の区分は、別表のとおりとする。」と規定し、その別表は、第9類に属するものとして、「産業機械器具 動力機械器具(電動機を除く。) 風水力機械器具 事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)その他の機械器具で他の類に属しないもの これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く。)機械要素」を掲げている。そして、同年10月31日通商産業省令第70号による改正前の商標法施行規則3条は、「商標法施行令(昭和35年政令第19号)1条の規定による商品の区分に属すべき商品は、別表のとおりとする。」と定め、その別表によると、商品の区分第9類の「産業機械器具」は、更に「金属加工機械器具」「鉱山機械器具」「土木機械器具」「荷役機械器具」「農業用機械器具」「漁業用機械器具」「化学機械器具」「繊維機械器具」「食料または飲料加工機械器具」「製材、木工または合板機械器具」「パルプ、製紙または紙工機械器具」「印刷または製本機械器具」「工業用炉」「ミシン」「その他の産業用機械器具」に分類され、「荷役機械器具」に属する商品として、「クレーン」「コンベヤー」「巻き上げ機」「索道」「エレベーター」「エスカレーター」「その他の荷役機械器具」が例示列挙されている。
また、上記規定の仕方によれば、第9類の「その他の機械器具で他の類に属しないもの」とは、第9類の「産業機械器具」「動力機械器具(電動機を除く。)」「風水力機械器具」「事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)」にも、第9類以外の類の機械器具のいずれにも属さない機械器具のすべてを包含しているものと解すべきである(甲第19号証(昭和55年4月7日特許庁商標課編集・社団法人発明協会発行の「商品区分解説」(改訂版))38頁参照)。
(2) 上記商標法施行令の別表は、商品の区分の第11類に属するものとして、「電気機械器具 電気通信機械器具 電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。) 電気材料」を掲げており、前記商標法施行規則の別表によると、商品の区分第11類の「電気機械器具」は、更に「回転電気機械」「配電用または制御用機械器具」「電球類および照明器具」「電池」「電気磁気測定器」「電線」「ケーブル」「民生用電気機械器具」に分類され、「民生用電気機械器具」に属する商品として、「電気アイロン」「電気ストーブ」「電気火ばち」「電気ふとん」「電気毛布」「電気こたつ」「電気足温器」「電気こんろ」「電気レンジ」「電気トースター」「電気コーヒー沸かし」「頭髪乾燥器」「巻き毛器」「電気投入式湯沸かし器」「布地乾燥器」「扇風機」「電気洗たく機」「電気冷蔵庫」「ルームクーラー」「電気がま」「電気ミキサー」「電気マッサージ器」「電気かみそり」「電気バリカン」「電気掃除器」「電鈴」が例示列挙されている。
第11類の「民生用電気機械器具」とは、「民生用」という語句からして産業用、業務用と区別される概念であることが明らかであり、例示列挙されている電気機械器具の内容からすると、主として家庭において使用される電気機械器具を意味するものというべきである(前記「商品区分解説」48頁参照)。
(3) 甲第7号証、甲第9号証(いずれも明電段差解消機アクセス「パートナー」カタログ。前者は1998年(平成10年)に作成したもの、後者は1995年(平成7年)に作成したものである。)及び弁論の全趣旨によれば、本件商品2は、被介護者が車椅子で屋内から屋外へ、あるいは、屋外から屋内へ移動する際に、屋内の床面と屋外の地面との高低差を解消して安全に屋内外の出入りを可能にする目的で、あらかじめ屋内と屋外の境となる位置に据えて使用する電動式昇降機であり、
甲第7号証には、「車椅子での行動範囲が広くなります」、「電源は家庭用コンセントが使えます」との記載があり、また、車椅子に乗った人物が、家庭の縁側と敷地の地面の境に設置された本件商品2を使用して、屋内から屋外へ移動している図が示されていることが認められる。
上記認定の事実によれば、本件商品2は、主として家庭において使用される電気機械器具であることが明らかであり、第11類の「民生用電気機械器具」に該当する可能性がある。
しかしながら、上記のとおりの「民生用電気機械器具」として例示列挙されているものをみると、いずれも、一般家庭の日常生活において使用されているもののみであって、本件商品2のような介護用の電気機械器具が「民生用電気機械器具」に含まれるかどうかは、微妙な問題となるところである。
ところが、審決は、第2の2で述べたとおり、本件商品2が主として家庭において使用される電気機械器具であることを看過し、その結果、同商品が第11類の「民生用電気機械器具」に含まれ得るか否かの検討を、これを前提としては、行っていない。
2 取消事由2(電気の役割の誤認)について(1) 商品の区分の第11類の「電気機械器具」とは、電気の作用がその機械器具の機能にとって補助的とはいえない役割を果たしているものであり、電気の作用が単に補助的な役割を果たすにすぎないものは除かれると解し得る(前記「商品区分解説」47頁参照)。
(2) 甲第7号証、甲第9号証によれば、本件商品2に係るカタログには、本件商品2について、「荷重によるスピード変化がなく、乗り心地も快適です。」、「非常用スローダウン装置を付けていますので、停電しても降りることができます。」、
「希望の高さで自動停止できる「高さ設定機構」を採用しています。」、「日常操作は簡単なワンタッチ式」との記載があり、また、レバー操作の図及びリモートスイッチの図が記載されていることが認められる。
上記認定の事実によれば、本件商品2は、単に電気を動力源としているだけでなく、安定かつ安全な操作のため、昇降時に電動機の速度制御を行っていることが認められ、したがって、本件商品2において、電気の作用は、介護用の電気機械器具として重要な役割を果たしているものであり、補助的な役割を果たしているにすぎないとはいえないというべきである。
(3) 被告は、本件商品2には、電動リモコン式のもののみならず手動式のものもあることからすると、電気の作用が、これらの機器の性能にとって本質的な役割を果たしているとはいい得ない旨主張する。しかし、甲第7号証、甲第9号証によれば、「非常用スローダウン装置を付けていますので、停電しても降りることができます。」との記載があることが認められるものの、これをもって、本件商品2に手動式のものもあるとすることはできず、その他本件全証拠によっても、本件商品2に手動で昇降するものも存することを認めさせる証拠はないから、被告の主張は、
失当である。
(4) そうすると、少なくとも本件商品2について、何ら理由を示すことなく、電気の作用が補助的な役割を果たしているにすぎないとした審決の認定は誤りというべきである。
3 取消事由3(「荷役機械器具」の解釈の誤り)について(1) 通常の用語例に従えば、「荷役」の語は、「船荷のあげおろしをすること。また、それをする人。」(広辞苑)あるいは「貨物を積んだり降ろしたりすること。
また、そうするひと。」(大辞林)といった意味を有するものであり、ここに「荷」とは、物を対象とする語として用いられており、その対象として「人」を含まない概念であることは、当裁判所に顕著である。
(2) 前記商標法施行規則の別表によると、商品の区分第9類の「荷役機械器具」に属する商品として、「クレーン」「コンベヤー」「巻き上げ機」「索道」「エレベーター」「エスカレーター」「その他の荷役機械器具」が例示列挙されており、
「エレベーター」「エスカレーター」を除いて、社会通念上、産業上用いられることを目的とし、専ら物の搬送を対象とするものとして取り扱われている商品であると認められる。「エレベーター」、「エスカレーター」は、人及び物のいずれの搬送にも用いられる商品であるものの、専らあるいは多くは産業用に使用される商品であり、搬送する対象が何であるかにかかわらず大量に搬送するという機能に重点があるものであり、しかも、「クレーン」「コンベヤー」「巻き上げ機」と同様に大型の機械器具であるために、第9類の別表の「荷役機械器具」中に挙げられているものということができる。
(3) 前記認定のとおり、本件商品2は、主として家庭において使用される電気機械器具であり、被介護者の介護という特殊な用途、目的のためにのみ使用され、その特殊な用途、目的のため、特別に安定しかつ特別に安全な操作が要求されているものであるから、「荷役」用という概念に当てはまらないことは明らかである。そして、「荷役機械器具」に属する商品として例示列挙されている商品とは、用途、目的において明白に相違しているものである。
被告は、本件商品2についても、その基本的な機構、構造が従来から物流搬送用又は貨物輸送ないしは工事用に用いられる荷役用の機械器具と同じであり、荷役用機械を人的分野に応用したにすぎないと主張する。
しかしながら、たとい、本件商品2の基本的な機構、構造に、物流搬送用又は貨物輸送ないしは工事用に用いられる荷役用の機械器具と同様のものであるいう側面があり、同商品が荷役用機械を人的分野に応用したものであるといい得るとしても、上述したところに照らせば、そのことをもって、同商品を「荷役用機械器具」とすることができないことは、明らかというべきである。
本件商品2のような特殊の用途、目的を持った商品について、第9類の「荷役機械器具」に含まれ得るとした審決の解釈は誤りというべきである。
4 以上検討したところによれば、審決は、少なくとも、本件商品2が主として家庭において使用される電気機械器具であることを看過した点、本件商品2について電気の作用が補助的な役割を果たしているにすぎないとした点、本件商品2のような特殊の用途、目的を持った商品について、第9類の「荷役機械器具」に含まれ得ると解釈した点で、いずれも誤っているものであり、これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。審決の結論が正しいことが担保されるためには、少なくとも、改めて、正しい前提に立って、すなわち、本件商品2が主として家庭において使用される電気機械器具であること、本件商品2において、電気の作用は、補助的な役割を果たしているにすぎないとはいえないこと、本件商品2が第9類の「荷役機械器具」に含まれ得るとはいえないことを前提として、さらには、
本件商品2が被介護者のためにのみ使用されるという特殊な用途、目的を有するものであることを念頭に置きつつ、検討する必要がある。
5 以上のとおりであるから、審決の取消しを求める本訴請求に理由があることは、その余について判断するまでもなく明らかである。そこで、これを認容することとし、訴訟費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸