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関連審決 審判1998-20443
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  著名商標 /  結合商標 /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  使用許諾 /  外国 /  継続 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 112号 審決取消請求事件
原告 株式会社ダンエンタープライズ代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
被告 特許庁長官【C】
指定代理人 【D】、【E】、【F】
被告補助参加人 ザ ポロ/ローレンカンパニー リミテッド パートナ ーシップ 代表者 【G】
訴訟代理人弁理士 【H】、【I】、【J】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/11/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は参加によって生じたものも含め原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年審判第20443号事件について平成12年2月21日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成4年6月1日、「ROYAL POLO SPORTS CLUB」の欧文字を横書きして成る商標(本願商標)について、指定商品を第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」として商標登録出願をしたが(平成4年商標登録願第119742号)、平成10年11月30日拒絶査定があったので、同年12月21日審判を請求し、平成10年審判第20443号事件として審理されたが、
平成12年2月21日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年3月8日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 原査定の理由 原査定は、「本願商標は、アメリカ合衆国ニューヨーク州在の『ザ ポロ ローレン カンパニー』が商品『被服、ネクタイ』に使用して本件出願時には既に著名となっている商標『POLO』の文字を有して成るものであるから、このような商標を本願商標の指定商品に使用するときには、これがあたかも上記会社あるいはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生じさせるおそれがあるものと認める。したがって、この本願商標は、
商標法4条1項15号に該当する。」旨認定して、本件出願を拒絶した。
(2) 審決の判断 (2)-1 株式会社講談社(昭和53年7月20日)発行「男の一流品大図鑑」、
サンケイマーケティング(昭和58年9月28日)発行「舶来ブランド事典『 '84ザ・ブランド』」の記載によれば、以下の事実が認められる。
アメリカ合衆国在住のデザイナーである【K】は、1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され、翌1968年にポロ・ファッションズ社(以下「ポロ社」という。)を設立、ネクタイ、シャツ、セーター、靴、かばんなどのデザインを始め、紳士物全般に拡大し、1971年には婦人服の分野にも進出した。1970年と1973年に服飾業界で最も名誉とされる「コティ賞」を受賞し、1974年に、映画「華麗なるギャッツビー」の主演俳優【L】の衣装デザインを担当したことからアメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。このころから、その名前は我が国の服飾業界においても広く知られるようになり、そのデザインに係る一群の商品には、横長四角形中に記載された「Polo」の文字と共に「by RALPH LAUREN」の文字及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形の各標章が使用され、これらは「ポロ」の略称で呼ばれるようになった。
(2)-2 株式会社洋品界(昭和55年4月15日)発行「月刊『アパレルファッション店』別冊、1980年版『海外ファッション・ブランド総覧』」、株式会社アパレルファッション(昭和57年1月10日)発行「月刊アパレルファッション2月号別冊 海外ファッション・ブランド総覧」の「ポロ/POLO」の項、及び昭和63年10月29日付日経流通新聞の記事によれば、我が国においては、西武百貨店が昭和51年にポロ社から使用許諾を受け、同52年から【K】のデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、同53年から婦人服の輸入、販売をしたことが認められる。
(2)-3 また、【K】のデザインに係る紳士服、紳士用品については、前出「男の一流品大図鑑」、「舶来ブランド事典『 '84ザ・ブランド』」を始め、株式会社講談社(昭和55年1月20日)発行「男の一流品大図鑑 '81」、同社(昭和55年11月15日)発行「世界の一流品大図鑑 '80年版」、同社(昭和56年6月20日)発行「世界の一流品大図鑑 '81年版」、株式会社チャネラー(昭和53年9月20日)発行「別冊チャネラー ファッション・ブランド年鑑 '80年版」、株式会社講談社(昭和60年5月25日)発行「FASHION SHOPPING BIBLE '85 流行ブランド図鑑」などの書籍において、「POLO」、「ポロ」、「Polo」、「ポロ(アメリカ)」、「ポロ/ラルフ・ローレン(アメリカ)」等の表題の下に紹介されていることが認められる。
(2)-4 「Polo」標章に関し、判決においても、「我が国において、遅くとも本件商標の登録出願がされた昭和59年までには既に、引用標章(Polo)が【K】のデザインに係る被服等及び眼鏡製品を表す標章であるとの認識が広く需要者及び取引関係者の間に確立していたものということができる。」旨認定している(東京高等裁判所平成2年(行ケ)第183号平成3年7月11日判決言渡)。
(2)-5 さらに、【K】のデザインに係る被服等について使用される標章を模倣した、偽物ブランド商品が市場に出回っている事実も少なくない。例えば、1989年5月19日付朝日新聞には、「昨年二月ごろから、米国の『ザ・ローレン・カンパニー』社の・・・『Polo』の商標と、乗馬の人がポロ競技をしているマークをつけたポロシャツを・・・売っていた疑い。」なる記事が掲載された。また、
1992年9月23日付読売新聞(東京版、朝刊)、1993年10月13日付読売新聞(大阪版、朝刊)、1999年9月9日付日本経済新聞等にも同様の記事が掲載され、昭和63年には既に、我が国において「Polo」の文字、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形などを使用した偽物ブランド商品が出回っていた事実が認められ、その後も同様な事例が跡を絶たないことをうかがわせる。
(2)-6 上記(2)-1ないし5で認定した事実を総合すれば、【K】のデザインに係る被服等について使用される標章は、「Polo」の文字と共に、「by Ralph Lauren」の文字及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章であると認められるところ、我が国においては、これらの標章を総称して単に「Polo」、「ポロ」と略称していたということができ、「Polo」(ポロ)の標章は、【K】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、本件出願前には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その認識の度合いは現在においても継続しているというのが相当である。
(2)-7 本願商標は、前記に示したとおりの構成より成るものであるところ、構成文字全体をもって親しまれた団体名称を表したものとは認め難いし、一連不可分にのみ認識されるべき格別の理由も見いだし難く、その構成中に、前記(2)-6で認定した【K】のデザインに係る紳士服、婦人服等の被服及び眼鏡製品について使用され、我が国においても取引者、需要者に広く認識されている標章と同一綴り文字より成る「POLO」の文字を有して成るものであることは明らかである。
してみると、本願商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、前記の事情からすれば、「POLO」の文字部分に強く印象付けられ、前記のように広く認識されている標章を連想、想起し、該商品がラルフ・ローレン、若しくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。
(2)-8 原告(請求人)は、本願商標は、その構成より「POLO」の文字部分のみを分離しなければならない理由はなく、また、「POLO」の語は、ポロ競技及びポロ競技において着用するポロシャツを表示する普通名称であるから、アパレル関連商品については自他商品の識別機能を有しないか、極めて弱いものであり、
かつ、取引者、需要者は、ラルフ・ローレンのポロと他の「POLO」の文字を含む商標と区別しているから、本願商標をその指定商品について使用しても、「ザ ポロ ローレン カンパニー」若しくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないから、本願商標は登録されるべきである旨主張する。
しかしながら、「Polo」(ポロ)の標章が、本件出願前には既に、【K】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたことは前記のとおりであり、その偽物商品が市場に多数出回っている事実があること、ポロ競技が我が国においてはさほど馴染みのあるスポーツではないことなどを総合すれば、ファッション関連の商品に「Polo」、「POLO」、「ポロ」などの文字を使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、スポーツ競技の名称あるいは商品「ポロシャツ」を表したと理解するというより、【K】のデザインに係る商品を表したと認識するというのが相当であるから、本願商標をその指定商品について使用した場合、該商品が、【K】のデザインに係る商品、ないしはその関連会社の取扱いに係る商品との間に、出所の混同を生じさせるおそれがないと断ずることはできず、このことは、過去において「POLO/ポロ」の文字を含む商標が多数併存して登録されている事実が存在するとしても、これにより前記認定が左右されるものではない。
(2)-9 したがって、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとして拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
原告主張の審決取消事由
審決は、審決の理由の要点(2)-7において、取引の実情を勘案することなく、本願商標の構成中に「POLO」の文字が含まれていることをもって、直ちに本願商標とラルフ・ローレンに係る「POLO」標章とは商品の出所について混同を生じるおそれがあると誤って判断したものであるから、違法であり取り消されるべきである。なお、審決の理由の要点中(2)-1ないし5は認め、(2)-6についてはあえて争わない。
1 「Polo(ポロ)」がポロ競技を意味することは、辞書等において説明されており、本件出願時において、馬に乗ってプレーするスポーツであるポロ競技を意味することは我が国においても広く知られていた。また、ポロ競技に際してプレイヤーが着用する衿つき半袖シャツは古くから「POLO SHIRT/ポロシャツ」と称されており、現在では遊び着的な衿つきシャツを広く指称する普通名称となっている。そして、商品「POLO SHIRT/ポロシャツ」は、本件出願当時、我が国の取引の実際において、「POLO」「ポロ」と略称されている。
このように、「POLO」「ポロ」の語は、「ポロ競技」を意味する既存の英単語であり、また我が国において商品「被服」について自他商品の識別機能を果たし得ない普通名称であるから、商品「被服」について使用される商標の一部に「POLO」の文字が含まれていることをもって、取引者、需要者が直ちにラルフ・ローレンに係る「POLO」標章を想起すると結論づけることはできない。
2 商品「ポロシャツ」はラルフ・ローレンの本国である米国でも、「POLO」と略称されているし、フランス国においても同様である。したがって、「POLO」の語は、米国、フランス国においても商品「被服」について自他商品の識別機能を果たし得ない普通名称であり、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者が海外の流行に直接触れる機会が多いことからすると、日本においても、「POLO」の語は普通名称とみるべきである。
先使用主義法制を採用する米国において「POLO」を含む商標が「被服」「時計」「眼鏡」等を指定商品として、複数の第三者によって多数登録されている。このことも、本願商標の登録の可否に関して考慮すべき取引の実情の一つである。
3 ラルフ・ローレンは、「POLO」の文字を「Polo by RALPH LAUREN」あるいは「POLO RALPH LAUREN」として、「RALPH LAUREN」と関連づけて長年商品「被服等」に使用することにより「POLO」の文字とラルフ・ローレンとの関連性を強くアピールしている。したがって、「POLO RALPH LAUREN」の語の存在を抜きにして「POLO」の語そのものに強い自他商品識別力を認めることはできない。
4 本願商標がラルフ・ローレンに係る「POLO」標章と商品の出所について混同を生じるか否かについては、上記の事情を勘案して、遅くとも査定時(審決時)までに、本願商標中の「POLO」の文字部分が、取引の実際において、独立して自他商品の識別機能を発揮する部分として認識される外観上、観念上あるいは称呼上の要素があるか否かによって決定されなければならない。各要素については、以下のとおりである。
(1) 外観上の要素 本願商標は、「ROYAL」「POLO」「SPORTS」「CLUB」の各語を同一の書体で表し、
等間隔で左横書きに配した構成のものである。各語は日本人にとってなじみの深い簡潔な英単語である。したがって、本願商標の外観構成上、取引の実際において「POLO」の文字部分が独立して自他商品の識別機能を発揮する部分として分離抽出される要素はない。
(2) 観念上の要素 ポロ競技は、欧米の富裕層が楽しむスポーツ競技で高級イメージがある。そして、本願商標は、「王の」あるいは「王者の」を意味する「ROYAL」の語と、「ポロ競技」を意味する「POLO」の語と、「スポーツクラブ」を意味する「SPORTS CLUB」の語を結合した商標である。また、欧米には各地にポロ競技のクラブが多数存在しており、ポロ競技はいわゆる貴族趣味のスポーツであることから、これらの語は観念的に密接な関連性を有している。各語は日本人にとってもなじみ深い簡潔な英単語であるから、観念上、本願商標中の「POLO」の文字部分が独立して自他商品の識別機能を果たすと認識すべき要素はない。
(3) 称呼上の要素 前述のとおり、本願商標は、外観構成上一体的に表示されていること、本願商標を構成する各語はいずれも日本人にとってもなじみの深い簡潔な英単語であり、この四者が一体となったからといって、全体の称呼が冗長になるものではない。このことと、本願商標を構成する各語は観念的にも密接な関連性を有していること、
「POLO」の語はポロシャツの略称としてファッション関連商品の取引者、需要者に広く知られていることなどからすると、本願商標中の「POLO」の文字部分に相当する「ポロ」の称呼が独立して自他商品の識別機能を果たすと認識しなければならない要素はない。
したがって、本願商標からは「ロイヤルポロスポーツクラブ」の一連の称呼のみが生じるから、「ポロ」の称呼を生じるラルフ・ローレンに係る「POLO」標章とは商品の出所について混同を生じるおそれはない。
審決取消事由に対する被告の反論
1 「Polo」の標章は、被服などのファッション関連の商品分野において、
【K】のデザインに係る被服等について使用される標章を総称するものとして、その取引者、需要者の間に広く認識されているものであり、我が国において、「Polo」を始め、「by Ralph Lauren」及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章を真似た偽物を、「【K】のデザインに係る商品」などと触れ込んで販売している事実があること、及び、我が国においてポロ競技が馴染みの薄いスポーツであることなどを総合して勘案すれば、被服などのファッション関連の商品に「Polo」、「POLO」、「ポロ」などの文字を使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、スポーツ競技の名称を表したと理解するというより、【K】のデザインに係る商品であると認識するというべきである。
すなわち、ラルフ・ローレンの「Polo」標章は、我が国の被服等の商品分野においては、その取引者、需要者に広く認識されており、その結果、「Polo」を始め、「by Ralph Lauren」及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章を真似た偽物商品が多数販売されている実情よりすれば、極めて強い自他商品の識別機能を有するものというべきである。
2 我が国におけるポロ競技の知名度についてみれば、一般世人が購読する「スポーツ用語」(株式会社教育社、1992年11月25日発行)、「ニュースポーツ百科」(株式会社大修館書店、1995年9月20日発行)及び高等学校などの教材に使用される「NEW COLOR SPORTS 1995」(一橋出版株式会社、1995年4月1日発行)には、「ポロ競技」についての掲載はなく、また、
1998年1月17日付読売新聞(東京、夕刊6頁)には、「『ポロ』の国内初の競技場が、福岡県粕屋町に建設されることになった」ことに関する記事において、
ポロ競技は「日本では競技人口約30人の超マイナースポーツ。」なる記載がある。このようなことからすると、「ポロ競技」は、我が国においては、その愛好者は極めて少なく、馴染みの薄いスポーツである。
3 原告主張のように、商品「ポロシャツ」が取引の実際において、「POLO/ポロ」と略称されている事実があるとしても、これを示す刊行物の多くが、ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性が確立された以降の平成7年から11年に発行されたものであるところから、ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性に引きずられたものとみられないこともない。ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性が確立された昭和50年代後半(ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性が確立された時期)より前に発行された、同文書院(1979年7月5日増補第10刷)発行「田中千代 服飾事典」、文化出版局(昭和54年4月13日第2刷)発行「服飾辞典」、株式会社洋品界(昭和53年1月10日重版)発行「現代衣料事典」、文化服装学院出版局(昭和44年5月20日3版)発行「服装大百科事典下巻・上巻」には、「ポロ」(polo)の語が「ポロシャツ」の略称であることについての記載は見当たらないし、それ以後に発行された、株式会社誠文堂新光社(昭和63年6月10日)発行「ファッション用語ハンドブック」、株式会社朝倉書店(1997年7月1日初版第1刷)発行「被服学辞典」、文化出版局(1999年3月31日第1刷)発行「ファッション辞典」などの服飾辞典類にも、「ポロ」の語が「ポロシャツ」の略称であるとの記載がないものも存在する。
4 原告主張のように、米国において「POLO」を含む商標が第三者により登録されている事実があるとしても、米国の商標法による商標の保護制度と日本の商標法による商標の保護制度とは、米国と日本との間に国情の相違があるように、同一のものと解釈しなければならない事情は存しないばかりでなく、前記したように、我が国においては、「Polo」標章を含めた外国著名商標の偽造品の製造販売が跡を絶たない実情にあることよりすれば、著名商標の保護は一層重要度を増している。
5 ポロ競技は、我が国において、一般に馴染みの薄い競技であり、このことは、本件出願から審決に至るまで、一貫して変わらず、我が国において近時際立って親しまれているスポーツであるといった事情の変化が生じたという事実はないこと、また、「ポロ」が「ポロシャツ」の略語として使用される場合があるとしても、ラルフ・ローレンの「Polo」標章の著名性(自他商品の識別力があることを前提としての著名性)に何ら影響するものではないことなどを考え合わせると、ラルフ・ローレンの著名な「Polo」標章と同一の綴り文字より成る「POLO」の文字を有して成る本願商標は、その登録出願時はもちろんのこと、審決時においても、これをその指定商品について使用した場合、該商品が【K】のデザインに係る商品、ないしその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。
本願商標は、構成全体として我が国において親しまれた団体名称を観念させるものではなく、また、その構成中に、ラルフ・ローレンの著名な「Polo」標章と同一綴り文字の「POLO」を有しているものであるから、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「POLO」の文字部分に強く印象付けられるものであるとしたものである。
以上のとおり、「POLO」の語がポロ競技を意味する英単語であり、ポロシャツの略称を表すものであるから、本願商標は、その構成中の「POLO」の文字部分のみが独立して自他商品の識別機能を発揮する部分として分離抽出される要素はなく、ラルフ・ローレンに係る「Polo」とは商品の出所について混同を生ずるおそれはないとすることはできない。
当裁判所の判断
1 本願商標は、指定商品として広く被服を含むものであり、平成4年6月1日に登録出願されたものであるが、審決の理由の要点中の(2)-1ないし5の事実は原告も認めているところである。これら審決認定事実によれば、審決の理由の要点の(2)-6において、「【K】のデザインに係る被服等について使用される標章は、
「Polo」の文字と共に、「by Ralph Lauren」の文字及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」などの各標章であると認められるところ、
我が国においては、これらの標章を総称して単に「Polo」、「ポロ」と略称していたということができ、「Polo」(ポロ)の標章は、【K】のデザインに係る被服及び眼鏡製品について使用される標章として、本件出願前には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められ、その認識の度合いは現在においても継続しているというのが相当である。」とした審決の判断は優に支持することができる。
2 そして、本願商標は、「ROYAL POLO SPORTS CLUB」の欧文字から成るものであるが、「POLO」の文字以外の部分の欧文字は、いずれも我が国においてなじみの深い意味を有し、その読みも一般化し普通名詞となっている英単語であり、それのみで際立って自他商品識別力を有するものではなく、
また、原告の使用の態様において自他商品識別力を有するものであるとの主張立証もない(例えば、甲第11号証(本訴訴訟代理人作成の平成11年9月8日付け商標調査報告書)によれば、「ROYAL POLO SPORTS CLUB」の欧文字と月桂冠の中に二人のポロプレイヤーが描かれた図形との結合商標が、米国カリフォルニア州の会社により、指定商品をスポーツ用衣類とし登録番号1,825,203として米国の連邦登録を受けていることが認められるが、これと本願商標との関連についての主張立証はない。)。
以上の観点に従って外観観念及び称呼の三要素を総合判断すると、本願商標は、これに接する取引者、需要者にとって、その指定商品の分野で、【K】のデザインに係る商品について使用される標章として我が国の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていた「Polo」(ポロ)の標章と同一綴りから成る「POLO」の文字部分に強く印象付けられ、広く認識されている「Polo」(ポロ)の標章を連想、想起するものであり、本願商標を付した商品がラルフ・ローレン、若しくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
3 原告は、「ROYAL」は「王の」あるいは「王者の」を意味し、欧米には各地にポロ競技のクラブが多数存在しており、ポロ競技はいわゆる貴族趣味のスポーツであることから、これらの語は観念的に密接な関連性を有していると主張するが、日本においては、「ポロ競技」が「王」あるいは「王者の」という語と観念上結び付くような伝統や実態があるとは認められないし、密接な関連性を有するものとして一般的に認識されているということもできないから、本願商標中の「ROYAL」の文字部分に特別な顕著性を認めることはできない。
原告はまた、ポロ競技に際してプレイヤーが着用する衿つき半袖シャツは古くから「POLO SHIRT/ポロシャツ」と称されており、現在では遊び着的な衿つきシャツを広く指称する普通名称となっていて、商品「POLO SHIRT/ポロシャツ」は、本件出願当時、我が国の取引の実際において、「POLO」「ポロ」と略称されていると主張し、甲第5ないし第7号証、第23号証、第24号証の1ないし4、第27号証などを提出している。なるほどこれらの書証によれば、
衿つきの半袖シャツのある種のものは古くから「POLO SHIRT/ポロシャツ」と称されていることが認められるが、これは本願商標の指定商品のうちの一部について普通名称として用いられているにすぎないし、「ポロシャツ」が「ポロ」と略称されることはむしろ少ないことが認められる(乙第5ないし第11号証参照)ほか、「Polo」(ポロ)の標章は、【K】のデザインに係る被服等のファッション関連の商品について使用される標章として、本件出願前既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたとの事実に照らせば、前記2に説示したところにより、本願商標がその指定商品に関し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとの点を覆し得るものではない。
なお、甲第14ないし第19号証によれば、「POLO」の文字を含む商標が被服を含む商品を指定商品として出願あるいは登録された事実のあることが認められるが、それらの登録の可否は、それぞれの登録出願時期あるいは商標中の他の文字等との関連において個別に判断されるべきものであり、これらをもって、上記判断を左右することはできない。
4 原告主張のその余の点を勘案してみても、前記2の判断を動かすものではなく、「本願商標が商標法4条1項15号に該当するとして拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない」とした審決の判断に誤りはない。
結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成12年9月19日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史