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関連審決 審判1998-30446
関連ワード 独占的使用 /  識別力 /  指定商品 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  品質誤認(4条1項16号) /  権利濫用(権利の濫用) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  国内 /  差止 /  使用許諾 /  存続期間 /  更新登録 /  登録異議申立 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 366号 審決取消請求事件
原告 有限会社黒雲製作所代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 市東譲吉
被告 【B】
訴訟代理人弁理士 【C】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/10/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年審判第30446号事件について平成11年9月8日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、登録第1419427号に係る商標(昭和47年6月22日商標登録出願、同55年5月30日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は別紙のとおりの構成から成り、旧第24類「楽器、その他本類に属する商品」を指定商品とする。
被告は、平成10年5月7日、原告を被請求人として、本件商標の商標登録取消しの審判を請求し、平成10年審判第30446号事件として審理されたが、平成11年9月8日、「商標法51条の規定により、登録第1419427号商標の登録は、取り消す。」との審決があり、その謄本は同年10月25日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 被告(審判請求人)の審判請求の理由 (1)-1 登録商標の不正使用の事実 (1)-1-1 被告は、米国カリフォルニア産のエレキギターの輸入及び販売を業とする者であるところ、原告より平成10年1月6日付の通知書を受け、原告が審判甲第1号証に係る本件商標の商標権者であることを知った。
ところが、被告において調査したところ、原告が現にエレキギターについて使用している商標は、審判甲第1号証に係る本件商標の標章態様のものではなく、審判甲第2号証に係る商品カタログ及び商品自体に示されているような標章態様の「Mマーク mosrite of California」(別紙「原告の使用商標」)であった。
しかも、被告が米国カリフォルニア州ハリウッドから輸入しているエレキギターに使用されている標章は、商品カタログ(審判甲第3号証)及びその商品自体(審判甲第4号証)に示された標章態様から成るもので、これは、審判甲第2号証に示された標章と全く同一のロゴ態様のものである。審判甲第3号証及び審判甲第4号証に示した標章は、審判甲第5号証に示したカリフォルニア州政府長官発行の「商標登録証書(CERTIFICATE OF REGISTRATION OF TRADEMARK)」によって明らかなとおり、米国カリフォルニア州ハリウッド、<以下略>のスガイ・ミュージカル・インストルメント・インコーポレーテッド(以下「スガイ社」という。)が商標権者であり、この会社が製造したエレキギターを、被告である【B】(楽器店名:フィルモア、武蔵野市<以下略>)が独占的に輸入し、日本国内で販売している。
原告は、本件商標の標章態様とは同一のものではなく、「mosrite」に「of California」と付記して、あたかも米国のカリフォルニア産品であるかのごとき表示の自家工場製ギターを販売している。しかも、その付記したロゴも、被告がスガイ社から輸入している「モズライト・ギター」に使用されている標章と全く同一のロゴをコピーして不正使用している。
(1)-1-2 「of California」のロゴは、ベンチャーズモデルと呼ばれる「モズライト・ギター」の歴史と共にある重要な表示で、後記するギター製作者の【D】(【D】)によるものである。そして、「Mマーク mosrite of California」の標章表示は、【D】が1952年にカリフォルニア州ベーカーズフィールドに工房を開設し「モズライト・ギター」の製造を開始した時以来のものである。それを原告は【D】が1992年8月に死去したのを境に、本件商標の標章に「of California」という【D】の書した同一の筆記体表示を付記した態様で使用し始めたのである。
(1)-1-3 審判甲第2号証に示されたカタログには「製造元ジャパンモズライト(有)」と表示、審判甲第6号証に示された保証書には「有限会社日本モズライト 長野県大町市<以下略>」と表示されているから、顧客の中には我が国に米国モズライト社(Mosrite Inc.)の日本法人があると容易に誤信し、全部品をノックダウン式で輸入し、長野県の工場で組み立てていると信じている者もいる。
このように、原告は、本件商標の商標権者であるにもかかわらず、故意に当該登録商標の標章と同一態様のものは使用せず、あえて「mosrite of California」という産地名を付記した類似態様の標章を使用し、その結果、そのエレキギターを被告が輸入し販売しているスガイ社製の「mosrite of California」の表示のある真正な「モズライト・ギター」と顧客をして誤認又は出所の混同を生じている。
(1)-1-4 したがって、原告の登録商標の不正使用による不正競争的行為は、
商標法51条1項に該当する登録の取消事由となる行為である。
(1)-2 「MOSRITE」ギターの由来 (1)-2-1 【D】(【D】)は、1952年カリフォルニア州ベーカーズフィールドで宣教師の【E】(【E】)の後援を得て独自のエレキギターの製作を開始するためモズライト社(Mosrite Inc.)を創立した。
ちなみに、モズライト社の名称とエレキギターの商標を「MOSRITE」と命名したのは、ギター製作者である【D】と前記後援者【E】の2人の名前を合体したのが由来である。そして、【D】が製作したエレキギターには「Mマーク mosrite of California」のロゴ商標が表示されていた。
(1)-2-2 一方、「ザ・ベンチャーズ(THE VENTURES)」は、1959年秋に【F】(【F】)と【G】(【G】)が米国ワシントン州シアトルで結成したエレキギターによるロックンロールのグループで、1960年春にはベースギターの【H】(【H】)とドラムの【I】(【I】)の2人が加わり、4人のグループが結成された。
1962年に「ザ・ベンチャーズ」の【H】は、「モズライト・ギター」に出会い、
使い始めた。1963年には3人全員が「モズライト」を使い始めたことから、「モズライト・ベンチャーズモデル」が誕生し、モズライト社は工場設備を拡張して大量生産に入った(1963年に年間200本、1964年に800本、1965年に1800本、1966年に2100本となった。)。1965年ザ・ベンチャーズは、来日公演し、エレキギターの威力とサウンドの魅力を日本人に与え、同時に彼らが手にしている「モズライト・ギター」への憧れを強固なものにした。
(1)-2-3 1965年6月に我が国では飛鳥貿易株式会社が「モズライト・ギター」の輸入を開始した。
1968年5月には、モズライト社から生産ライセンスを取得したファーストマン楽器製造株式会社(大阪市<以下略>)が生産を開始、最初の日本製「モズライト・ギター」が誕生した(その当時、原告は木部分の下請をしていた)。その後同社は1969年7月に倒産した。
(1)-2-4 米国のモズライト社も1969年7月に1回目の倒産、1970年再建、1973年に2回目の倒産をした。1992年4月にアーカンソー州ブーンビルに【D】の工場が建設された。
(1)-2-5 1992年5月30日被告とユニファイド・サウンド・アソシエーション・インコーポレーテッド(Unified Sound Association Inc.以下「ユニファイド社」という。社長【D】)は、被告に「モズライト・ギター」の40周年記念モデルと同一品質のものの製造を依頼し、【D】側からギター1本の単価、支払方法について要求があり、出荷スケジュールについての話し合いがなされ、相互に了解して口頭による契約を行った。
契約締結後の1992年5月31日に同工場で「モズライト・ギター」を1952年にカリフォルニアで製造開始して40周年経過したことから、40年記念モデルが製造された。
しかし、1992年8月7日に【D】は死亡した。ユニファイド社は、妻の【J】が社長となったが、製造技術及び経営能力のなさから、1994年4月に倒産した。
(1)-2-6 その後、被告は、1996年11月に米国カリフォルニア州で「mosrite of California」の登録商標(審判甲第5号証)を専有していたスガイ社に「モズライト・ギター」の製造を依頼し、これを輸入して販売している。なお、スガイ社と【D】氏との間には取引関係はなかった。
(1)-3 我が国における登録商標「mosrite」について 我が国における「mosrite」商標(第24類)については、次のとおりである。
@ 商標登録第736316号(審判甲第13号証) 商標「MOSRITE」 第24類「楽器、演奏補助品、その他本類に属する商品」 商標権者 米国カリフォルニア州ハリウッド市ベンチャーズ・モスライト・インコーポレーテッド 昭和40年(1965)5月8日出願 昭和42年(1967)3月20日設定登録 昭和52年(1977)3月20日存続期間満了 A 商標登録第1419727号(審判甲第1号証、本件商標、商標及び指定商品は上記第1に記載のとおり。) 昭和47年(1972)6月22日出願、出願人:【K】(東京都大田区) 昭和52年(1977)6月16日出願人名義変更届 出願人:黒沢商事株式会社(東京都豊島区) 昭和52年9月28日出願人名義変更届 出願人:有限会社黒雲製作所(長野県大町市) 昭和53年(1978)12月25日商標登録異議申立て 申立人:【D】 米国カリフォルニア州ベーカースフィールド市 異議申立ての結論:理由なし。
昭和55(1980)5月30日設定登録 平成2年(1990)6月27日更新登録 (1)-4 審判請求の理由のむすび 以上の理由により、本件商標の商標権者である原告は「故意に」、指定商品「楽器(エレキギター)」について、登録商標に類似する商標「Mマーク mosrite of California」を使用して、顧客に対し、商品の品質「米国カリフォルニア産ギターの品質」の誤認を生ずる行為、又は他人の業務に係る商品「カリフォルニア州の生産者(スガイ社)と我が国におけるその独占的輸入販売者(本件被告)のエレキギター」と混同を生ずる行為を現に行っている。したがって、本件商標は、商標法51条1項の規定を充足する商標となっているから、取り消されるべきである。
(2) 原告(審判被請求人)の答弁の理由 (2)-1 本件商標の取得 原告は、1968年(昭和43年)から現在に至るまで、本件商標を付したギター、これらの部品及び附属品を製造、販売している。その間の経緯は下記のとおりである。
(2)-1-1 大阪市所在のファーストマン楽器製造株式会社は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ハリウッド市所在のベンチャーズ・モズライト・インクから本件商標のほかに商標「VENTURES」、商標「VENTURES‐MOSRITE」、及び「MOSRITE」の商標使用の許諾を得て日本でこれら商標を付したギターの製造、販売を開始した。
(2)-1-2 原告は、1968年ファーストマン楽器製造株式会社の下請として、本件商標を付したギターを製造し、これをファーストマン楽器製造株式会社に納め始めた。
ところが、原告が本件商標を付したギターを本格的に製造し始めて間もなくして、ファーストマン楽器製造株式会社が倒産、さらには、本家のベンチャーズ・モズライト・インクも倒産したため、原告は、売掛金の支払を受けることができず、
かつ、大量の在庫を抱えることとなった。
そこで、原告はやむなく、本件商標を付したギターの在庫の販売を続けたところ、これが好評であり注文が相次いだので、さらにこれらのギターの製造、販売を続けた。
(2)-1-3 原告は、本件商標を付したギターの製造、販売を順調に伸ばしていたところ、突然、黒沢商事株式会社から、このままでは原告は本件商標の使用ができなくなる、ついては本件商標(出願中)を買い取られたき旨の通告を受けた。
原告は、本件商標をそれまで大切に育てて来たのに、今後これが使用できなくなっては、その営業に重大な支障をきたすことになるので、やむなく、1977年(昭和52年)9月に黒沢商事株式会社に多額の対価を支払いこれを買い取った。
当時、本件商標に類似する先登録の商標として商標登録第736316号の商標「MOSRITE」及び商標登録第736317号の商標「VENTURES - MOSRITE」が存在していた。この2つの商標は、いずれも、1967年(昭和42年)3月20日登録、アメリカ合衆国カリフォルニア州ハリウッド市<以下略>所在のベンチャーズ・モスライト・インクが所有するものであったが、更新登録されず、商標権は期間満了により消滅した。
(2)-1-4 このように、本件商標は登録障碍事由が解消したため、1980年(昭和55年)5月30日設定登録、その後商標権存続期間更新登録がされ現在に至っている。
そして、審判甲第14号証(1990年(平成2年)2月2日の更新登録願書に添付した商品カタログ)によれば、1988年(昭和63年)、遅くとも1989年(平成1年)初めころまでには、原告は、本件商標のほかに「of California」の表示を、原告の販売するギター及びその商品カタログに使用していた事実が証明される。本件商標は、原告が所有登録するものとして日本における楽器業界及びその消費者間では周知となるに至っている。原告が本件商標を取得したことについては、商標法上全く問題はない。
(2)-2 本件商標の使用 原告は、本件商標の登録前から、その指定商品であるギター及びその部品並びにこれらのパンフレット等に、本件商標を使用している。
原告の製造販売するギター及びそのパンフレット等には、本件商標の表示のほか「of California」と表示がされていることがあるが、本件商標の表示と「of California」の表示とにはかなりの間隔が置かれ、これらは一体のものとしては構成されておらず、かつ、本件商標の字体と「of California」の字体とは全く異なる。のみならず、「of California」のうち「California」は米国の一州の名称を極めてありふれた書体にて表示しているにすぎない。
したがって、本件商標及び「of California」の表示に接する消費者が、本件商標と「of California」とを一体のものとして観念称呼することはあり得ない。原告としては、「California」について商標権を主張する意図は全くない。
また、「California」は、いわゆる原産地として表示したものでもない。本件商標は、日本国において原告が所有登録するものとして周知となっているから、「of California」をみて、これがアメリカ合衆国のCalifornia州で製造販売されたものと誤信する者はいないからである。
原告は、前記(2)-1-4で述べたとおり1988年(昭和63年)までには、遅くとも1989年(平成1年)初めころまでには本件商標のほかに「of California」の表示を原告の製作販売するギター及びその商品パンフレットに使用したが、これは【D】が製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、【D】が1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの原告の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになった。
現在の「モズライト・ギター」の愛好家は、「本物」の「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州において故【D】らにより製作されたこと、故【D】の製作した「本物」の「モズライト・ギター」は数千本しかこの世に存在せず、その中古品は極めて高額(1本百万円前後又はそれ以上)で日本国で取引されていること、原告の製作する「モズライト・ギター」が日本国の長野県で原告らの手によって製作されていることをよく知っており、「of California」の表示をみて、これが「アメリカ合衆国カリフォルニア原産」と誤認する者は皆無である。
(2)-3 本件審判請求について 米国においては、1976年は、ビンテージギター(古い1940年代、1950年代、1960年代のギター)の第1期ブームであり、1976年8月被告は初渡米し、米国のビンテージギターのブームに刺激を受けて帰国、その際「モズライト・ギター」を4本買ってきた。1980年代に入ると、毎月のように渡米して「モズライト・ギター」を買い付けて輸入し、これら「モズライト・ギター」を「フィルモア楽器店」で販売してきた。
ところが、これら中古のビンテージギターは、数に限りがあり、被告の商売が先細りになるのは必至であった。そこで、被告は米国のビンテージギターのショーで知り合った【D】に再び「モズライト・ギター」の製造を求め、これを被告が輸入し、フィルモア楽器店で販売することを考えた。
1992年(平成4年)アメリカ合衆国アーカンソー州ブーンビルに【D】らによってユニファイド社が設立、ここで製造され「Mマーク mosrite」商標が付され「of California」と付記表示された「モズライト・ギター」を被告は、40周年記念モデルとし、限定40本として被告の店で販売した。
1992年8月7日【D】死去、1994年4月ユニファイド社が倒産したことから、被告は、ここから「モズライト・ギター」を輸入することができなくなってしまった。
そこで、被告は、急遽米国カリフォルニア州ハリウッド市所在の【L】が経営する店から、ニセ物の「モズライト・ギター」を輸入、これを本物の「モズライト・ギター」と称して、被告の店で販売している。
なお、【L】が経営するスガイ社は、【D】の存命中である1983年11月1日にアメリカ合衆国カリフォルニア州で【D】らが1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズモデル」といわれる「モズライト・ギター」に付せられていたのと全く同一の商標「Mマーク mosrite of California」(書体は全く同一)を使用したとして、1983年11月16日アメリカ合衆国カリフォルニア州で商標「Mマーク mosrite of California」につき、商標登録(登録第71383号、更新登録失念のため、さらに1998年5月22日登録第103782号)を得た。
被告が【L】らと組んでニセ物の米国カリフォルニア産の「モズライト・ギター」を日本国内で販売するのに障害となるのが、原告が登録所有する本件商標の商標権であり、これが登録取消審判に及んだものである。
現在、原告は、被告に対し本件商標権の侵害差止等請求訴訟を東京地方裁判所(平成10年(ワ)第11740号)に提起し、審理中である。しかし、原告が登録所有する本件商標権は、1980年(昭和55年)5月30日に登録となったが、これ以降も故【D】らが製作した「本物」の中古の「モズライト・ギター」が米国から輸入され、日本国で販売されているが、原告は、これらに対して法的措置は講じてこなかった。
(2)-4 答弁の理由のむすび 原告は前述のとおり、本件商標をその指定商品の一つであるギターその部品及びその宣伝広告に正しく使用しているから、本件審判請求は理由がない。
(3) 審決の判断 (3)-1 商標法51条による取消審判について 商標法51条による取消審判は、商標権者が故意に指定商品(指定役務)についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品(指定役務)に類似する商品(役務)についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用をして一般公衆を害したような場合についての制裁規定である。すなわち、商標権者が上記した商標の使用により商品の品質(役務の質)の誤認又は商品(役務)の出所の混同を生ずるおそれがあるものの使用を故意にしたとき、何人も本審判を請求することにより、商標登録を取り消すことができることとしたものである。この規定の趣旨は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課すものである。
(3)-2 そこで、上記見地に立って、本件商標につき商標法51条に定める商標登録を取り消す事由が存するか否かについて検討する。
当事者の主張の趣旨及び審判甲第7号証(「ザ・ベンチャーズ‐結成から現在まで」1995年(株)河出書房新社発行)、審判甲第8号証(ファーストマン楽器製造(株)1968年発行「mosrite」ギターの商品カタログ)、審判甲第13号証(商標登録第736316号商標公報)、審判乙第1号証(商標登録第736316号商標登録原簿)、
審判甲第40号証(審判乙第4号証、月刊音楽専門誌「PLAYER」1992年8月号掲載の「モズライトギター」40周年記念モデルの広告)、審判甲第45号証(ユニファイド・サウンド・アソシエーション・インクの副社長からの1992年8月18日付文書、同文書添付の覚書)、審判甲第54号証(リュートミュージック・ムック第2号1993年3月10日発行、ファーストマン楽器製造株式会社社長【M】氏へのインタビュー記事)によると、次の事実が認められる。
(3)-2-1 「MOSRITE」ギターについて (@) 【D】(【D】)は、1952年カリフォルニア州ベーカーズフィールドで宣教師の【E】(【E】)の後援を得て独自のエレキギターの製作を開始するためモズライト社(Mosrite Inc.)を創立した(ちなみに、モズライト社の名称とエレキギターの商標を「MOSRITE」と命名したのは、エレキギター製作者【D】と前記後援者【E】の2人の名前を合体したのが由来である。)。
そして、【D】が製作したエレキギターには「Mマーク mosrite of California」のロゴ商標が表示されていた。
「of California」のロゴ(筆記体)は、エレキギター製作者【D】によるもので、「Mマーク mosrite of California」の標章表示は、【D】が1952年にカリフォルニア州ベーカーズフィールドに工房を開設し「モズライト・ギター」の製造を開始した時以来のものである。
(A) ところで、「ザ・ベンチャーズ(THE VENTURES)」は、1959年秋に【F】(【F】)と【G】(【G】)が米国ワシントン州シアトルで結成したエレキギターによるロックンロールのグループで、1960年春にはベースギターの【H】(【H】)とドラムの【I】(【I】)の2人が加わり、4人のグループが結成された。
1962年に「ザ・ベンチャーズ」の【H】は、「モズライト・ギター」に出会い、
使い始めた。1963年には3人全員が「モズライト」を使い始めたことから、「モズライト・ベンチャーズモデル」が誕生し、モズライト社は工場設備を拡張して大量生産に入った(1963年年間200本、1964年800本、1965年1800本、1966年2100本となった。)。1965年ザ・ベンチャーズは、来日公演し、エレキギターの威力とサウンドの魅力を日本人に与え、同時に彼らが手にしている「モズライト・ギター」への憧れを強固なものにした。
(B) そして、遅くとも1965年(昭和40年)には「Mマーク mosrite of California」の標章表示した【D】製作の「モズライト・ギター」は、エレキギターを取り扱う取引者、需要者に周知の標章となっていたものと認められる。
なお、我が国において、ベンチャーズ・モスライト・インク(米国カリフォルニア州ハリウッド市<以下略>)は、商標「MOSRITE」について第24類「楽器、演奏補助品、その他本類に属する商品」を指定して、1965年(昭和40年)5月8日登録出願し、当該商標は、1967年(昭和42年)3月20日商標登録第736316号として設定登録がされ、1977年(昭和52年)3月20日期間満了により消滅、1979年(昭和54年)9月10日その登録が抹消されている。
(C) 1965年6月に我が国では飛鳥貿易株式会社が「モズライト・ギター」の輸入を開始した。
1968年5月には、モズライト社から生産ライセンスを取得したファーストマン楽器製造株式会社が生産を開始、最初の日本製「モズライト・ギター」が誕生した(その当時、原告は木部分の下請をしていた)。その後ファーストマン楽器製造株式会社は1969年7月に倒産した。
(D) 米国のモズライト社も1969年7月に1回目の倒産、1970年再建、1973年に2回目の倒産をした。
1992年4月に米国アーカンソー州ブーンビルに【D】らによってユニファイド社が設立された。
(E) 1992年5月30日被告は、ユニファイド社(社長【D】)に、「モズライト・ギター」の40周年記念モデル(「モズライト・ギター」を1952年にカリフォルニアで製造開始して40周年経過したことによる。)と同一品質のものの製造を依頼する契約を行った。
契約締結後の1992年5月31日に同工場で40年記念モデルを製造した。しかし、1992年8月7日に【D】は死亡した。そして、ユニファイド社は、妻の【J】が社長となったが、製造技術及び経営能力のなさから、1994年4月に倒産した。 (F) なお、現在も故【D】らにより製作されたビンテージギター(数千本ほどが存在する。)は、極めて高額(1本百万前後又はそれ以上)で日本国で取引されている。
(3)-2-2 原告の本件商標取得の経緯 (@) 原告は、1968年ファーストマン楽器製造株式会社の下請として、本件商標を付したギターを製造、ファーストマン楽器製造株式会社に納めた。
ところが、原告が本件商標を付したギターを本格的に製造し始めて間もなくして、ファーストマン楽器製造株式会社が倒産、本家のベンチャーズ・モズライト・インクも倒産したため、原告は、売掛金の支払を受けることができず、かつ、大量の在庫を抱えることとなった。
そこで、原告はやむなく、本件商標を付したギターの在庫の販売を続けたところ、これが好評であり注文が相次いだので、さらにこれらのギターの製造、販売を続けた。
(A) 原告は、本件商標を付したギターの製造、販売を順調に伸ばしていたところ、黒沢商事株式会社から、このままでは原告は本件商標の使用ができなくなる、ついては本件商標(出願中)を買い取られたき旨の通告を受けた。
原告は、今後これが使用できなくなっては、その営業に重大な支障をきたすことになるので、1977年(昭和52年)9月に黒沢商事株式会社より本件商標を買い取った。
当時、本件商標に類似する先登録の商標として商標登録第736316号の商標「MOSRITE」及び商標登録第736317号の商標「VENTURES - MOSRITE」が存在していた。この2つの商標は、いずれも、前記ベンチャーズ・モスライト・インクが所有するものであったが、更新登録されず、商標権は期間満了により消滅した。本件商標は、上記のとおり登録障碍事由が解消したため、1980年(昭和55年)5月30日設定登録、その後商標権存続期間更新登録がされ現在に至っている。
以上のとおりであり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
(3)-2-3 本件商標 本件商標は、別紙に表示するとおり、左に、外周上に小さな突起のある黒塗りの円形内に白抜きで欧文字の「M」を表示した図形を配し、その右に、「mosrite」の欧文字を横書きして成るものである。
(3)-2-4 原告の使用商標 原告の答弁書の記載及び審判甲第14号証(1990年(平成2年)2月2日の更新登録願書に添付した商品カタログ)、審判乙第5号証(1990年(平成2年)原告ら発行の商品パンフレット)、審判乙第6号証(1993年(平成5年)ころ原告ら発行の商品パンフレット)、審判乙第7号証(1995年(平成7年)ころ原告ら発行の商品パンフレット)、審判乙第8号証(原告ら発行の現在の商品パンフレット)によれば、原告は、1988年(昭和63年)遅くとも1989年(平成1年)初めころまでには、本件商標「Mマーク mosrite」の表示のほかに「of California」の表示を付記し、審判乙第5号証ないし審判乙第7号証の商品カタログの下部には「ジャパンモズライト(有)」と記載して、原告の販売するエレキギター及びその商品カタログに使用し、現在も使用している事実が認められる。
そして、「of California」の表示を付記している点について、原告は、【D】が製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、【D】が1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの原告の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになったと述べている。
以上の認定事実については、原告が自認するところである。
(3)-2-5 商品の品質の誤認又は出所の混同 前記(3)-2-1の(@)及び(B)で認定したとおり「Mマーク mosrite of California」の標章表示した【D】製作の「モズライト・ギター」は、エレキギターを取り扱う取引者、需要者に周知の標章となっていたものである。
審判甲第16号証ないし審判甲第20号証、審判甲第27号証ないし審判甲第30号証、審判甲第32号証、審判甲第34号証、審判甲第37号証及び審判甲第38号証、審判甲第47号証(「モズライト・ギター」を購入した者の書簡)、審判甲第24号証(【N】が石橋楽器店に出したEメール)及び審判甲第25号証(石橋楽器店が【N】に対して出したEメールの返事)、審判甲第46号証(石橋楽器店のインターネットによる広告)、審判甲第48号証(インターネットのホームページに掲載された記事、発信者不明)によれば、エレキギターの取引者、需要者は、「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した原告製作のエレキギターについて、「Mマーク mosrite of California」の標章表示した【D】製作の「モズライト・ギター」と同様の品質を有するものと誤認していること、しかも、審判乙第5号証ないし審判乙第7号証の商品カタログの下部には「ジャパンモズライト(有)」と表示され、【D】製作の「モズライト・ギター」に関連する会社であるかのような表示がされていたこと、さらには前記(3)-2-1の(F)で認定したとおり、現在も故【D】らにより製作された「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示が付記されたビンテージギターが我が国で取引されていることをも併せ考慮すると、「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した原告製作のエレキギターは、
【D】が製作したエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ、又は【D】若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと出所について混同を生じていたものといわなければならない。
そして、原告は、前記(3)-2-4で認定したとおり「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記したのは、【D】が製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、【D】が1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの原告の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになったと述べていることから、原告が「of California」(筆記体)の表示した意図は、
【D】が製作したエレキギターに表示されていた「Mマーク mosrite of California」の商標が周知のものであり、「of California」書体について【D】の筆記に倣って表示を行ったことは明らかである。そうすると、原告は、自己が製作したエレキギターに「of California」の表示をすることにより、商品の品質の誤認又は出所の混同が生ずるという結果について認識があったというべきであって、原告の上記行為については「故意」があったものといわざるを得ない。
してみれば、本件商標の商標権者である原告は、本件商標「Mマーク mosrite」の表示に、故意に「of California」(筆記体)の表示を付記した本件商標に類似する商標を、その指定商品「エレキギター」について使用することにより、商品の品質について誤認を生じ、又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたものである。
(3)-3 原告は、「本件商標『Mマーク mosrite』は、我が国において原告が所有登録するものとして周知となっているから、『of California』の表示をみて商品の品質について誤認を生ずることはない」旨主張する。
しかしながら、原告提出の証拠を精査するも、本件商標が原告の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているに足りる証左は見いだすことはできない。かえって、審判甲第7号証によると、【D】が製作した「モズライト・ギター」が前記した「ザ・ベンチャーズ」によりエレキギターの需要者の間に広く認識されるに至った事実が認められる。したがって、原告の主張は採用できない。
また、証人【O】の証言によれば、「of California」の表示は、「カリフォルニア・サウンド」すなわち「カリフォルニアの乾いた音」の意味合いに認識されている旨述べるが、一般に米国風の音楽において「California」の表示について証人の証言のような意味合いがあるとしても、原告は、【D】が製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、【D】が1963年ないし1965年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの原告の多数の顧客からの強い要望があり、付記するようになったと述べていることからすると、エレキギターに「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した本件の場合においては、前記(3)-2-5で認定したとおり【D】の筆記に倣って表示を行ったものであって、これに反する証人【O】の証言は、採用することはできない。
(4) 結び 以上のとおりであって、本件商標の商標権者である原告が故意に本件商標に類似する商標を使用し、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたものであるから、商標法51条1項の規定により、本件商標の登録は、取消しを免れない。
原告主張の審決取消事由
1 「Mマーク mosrite of California」標章に関する誤認 審決は、その理由の要点(3)-2-1の(@)で、「【D】が製作したエレキギターには「Mマーク mosrite of California」のロゴ商標が表示されていた。」と認定したが、誤りである。
(1) まず、審決がロゴ商標と認定した商標は別紙「原告の使用商標」に相当するものであるが、そのうち「Mマーク mosrite」の部分と「of California」は、書体が全く異なり、「Mマーク mosrite」の下部に小さく筆記体で「of Califfornia」と書かれているように、これらは一体のものとして構成されてはおらず、また、この California は、アメリカ合衆国の州名であり、このような極めてありふれた書体から成る州名の部分は、単なる地名であり、地名は識別力を欠くことが多いし、取引において必要な表示として何人もその使用を欲するから特定のものによる独占的使用を認めることは公益上適当でないから、我が国の商標法上、商標たり得ない。
(2) 次に、アメリカ合衆国カリフォルニア州において、「Mマーク mosrite of California」の表示をしたエレキギターを製造販売したのは、1952年に設立されて1973年倒産して消滅した mosrite OF CALIFORNIA INC.(モズライト社)という法人であって、このロゴ表示は、【D】という個人のものではなかった。
(3) また、被告は、本件審判請求において、商標法51条所定の他人として、カリフォルニア州の生産者であるスガイ社及び我が国におけるその独占的輸入販売者である被告(請求人)であると主張していたのに、審決は、この主張に基づかないで上記の認定をし、後記2のように、【D】が製作したエレキギターとの品質誤認及び出所混同を生じさせる旨の判断をしたが、この点は、請求人である被告が主張していた審判請求理由とは異なっており、当事者に対する不意打ちである。
2 品質等の誤認に関する認定の誤り 審決は、その理由の要点(3)-2-5において、「エレキギターの取引者、需要者は、「Mマークmosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した原告製作のエレキギターについて、「Mマーク mosrite of California」の標章表示をした【D】製作の「モズライト・ギター」と同様の品質を有するものと誤認している」と認定するが、証拠に基づかない認定である。
審決はこれに基づき、「「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した原告製作のエレキギターは、【D】が製作したエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ、又は【D】若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと出所について混同を生じていた」と認定、判断しているが、前記の誤った認定を前提にするものであり、
当事者が申し立てない理由にも当たる。
3 原告の故意の認定の誤り 以上の誤った認定を前提にして、審決は、原告の商標法51条所定の故意を認定したが、これも誤りである。原告は、使用の結果、商品の品質の誤認又は他人に業務に係る商品と混同を生じさせることについての認識を欠いている。
4 権利の濫用法理の不適用の誤り 被告による本件審判請求は、権利濫用であって許されないものであって、この審判請求は却下又は棄却されるべきであったのに、審決にはこれについて判断しなかった違法がある。
審決取消事由に対する被告の反論
1 原告の主張1に対して (1) 商品エレキギターに使用する標章「Mマーク mosrite of California」にあっては、【D】がその出所を表示するために、この全体を一貫してギターヘッドの定位置に使用してきた標章であるから、第三者がこの全体をロゴマークと称するのはごく自然である。
(2) 原告は、前記標章のうちの「California」は、米国の州名であるから識別力を欠くというが、「of California」は本件商標「Mマーク mosrite」への付記事項であり、それ自体が識別力を発揮している標章であるなどと審決は認定しているのではない。
(3) “mosrite of California Inc.”という会社(正確には MOSRITE INC.といわれている。)の代表者は【D】であり、カリフォルニア州ベーカーズフィールドの地でハンドクラフトの工房としてエレキギターの組立て製作を開始した個人会社であったから、専ら【D】個人のアイデアと技術で製作されていたことを考慮すれば、モズライトギターは【D】が製作したと称しても、誤りではない。
2 原告の主張2に対して 審決は、「Mマーク mosrite of California」の商標を表示した【D】製作のモズライト・ギターは、エレキギターを取扱う取引者・需要者に周知の商標となっていたからこそ、取引者・需要者は同一の商標が付された原告製作のモズライトギターを、【D】製作のモズライトギターと同様の品質のものと誤認したりすると認定したものであり、また、原告の商品カタログに「ジャパンモズライト有」と表示されているから、【D】製作の「モズライト」に関連する会社であるかのように混同するのである。審決は、これらに合わせ、【D】によって製作されたビンテージギター(中古品)が我が国で取引されている事実を考えて、原告がその登録商標「Mマーク mosrite」の標章表示に「of California」の表示を付記したエレキギターを販売することは、【D】が製作したエレキギターであるかのような商品の品質を生じたり、また【D】若しくは同人と何かの関係のある者が製作したエレキギターであるかのような商品の出所の混同を生じていたと認定したものであり、そこに誤りはない。
3 原告の主張3に対して 審決が認定しているように、原告自身、「【D】が製作した「モズライト・ギター」が米国カリフォルニア州で生まれたので、その出生地の地名をギター本体に飾りとして、【D】が 1963年に製作した「ベンチャーズ・モデル」といわれる「モズライト・ギター」に付記されているのと同一の書体にて添付してほしいとの被請求人の多数の顧客からの要望があった」と告白しているので、「商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせる」認識があったことを証明していることになり、原告には商標法51条1項所定の故意があったものである。
4 原告の主張4に対して 争う。
当裁判所の判断
1 被告がした本件審判請求の理由は、審決の理由の要点(1)-1-1にあるとおり、「Mマーク mosrite of California」の商標権を米国カリフォルニア州において有する米国カリフォルニア州ハリウッドのスガイ・ミュージカル・インストルメント・インコーポレーテッド(スガイ社)が製造するエレキギターを、請求人である被告(楽器店名:フィルモア)が独占的に輸入し、日本国内で販売しているところ、被請求人である原告は、本件商標「Mマーク mosrite」に「of California」を付記して、あたかも米国のカリフォルニア産品であるかのごとき表示の自家工場製ギターを販売しているとの事実主張に基づき、審決の理由の要点(1)-4で要約されているように、原告は、指定商品に含まれる「楽器(エレキギター)」について、
本件商標に類似する商標「Mマーク mosrite of California」を使用して、顧客に対し、商品の品質「米国カリフォルニア産ギターの品質」の誤認を生ずる行為、又は他人の業務に係る商品「カリフォルニア州の生産者(スガイ社)と我が国におけるその独占的輸入販売者(本件被告)のエレキギター」と混同を生ずる行為を現に行っているから、本件商標は商標法51条1項の規定を充足する商標となっているというものである。
まず、被告が、審判請求において、商品の品質「米国カリフォルニア産ギターの品質」の誤認があると主張している理由は必ずしも明らかではない。一般的に、ある品質を有する米国カリフォルニア産ギターというものがあることについての主張、立証はないので、被告が審判請求で主張している実質は、カリフォルニア州の生産者であるスガイ社と我が国におけるその独占的輸入販売者のエレキギターの品質の誤認を生じる行為を原告が行っている点にあると理解するほかはない。
2 これに対し、審決は、審決の理由の要点(3)-2-1(B)の「遅くとも1965年(昭和40年)には「Mマーク mosrite of California」の標章表示した【D】製作の「モズライト・ギター」は、エレキギターを取り扱う取引者、需要者に周知の標章となっていた」こと、及び、(3)-2-1(F)にあるとおり「現在も故【D】らにより製作されたビンテージギター(数千本ほどが存在する。)は、極めて高額(1本百万前後又はそれ以上)で日本国で取引されている」ことの認定事実を主な理由として、「「Mマーク mosrite」の表示に「of California」(筆記体)の表示を付記した原告製作のエレキギターは、【D】が製作したエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ、又は【D】若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと出所について混同を生じていたものといわなければならない。」と判断した。
しかしながら、審決は、スガイ社が製造し被告が独占的に輸入し我が国で販売するエレキギターと誤認混同しているとの被告の審判における主張事実について認定することなく(スガイ社が【D】と何らかの関連のある者であるとの認定もない。)、上記の認定、判断をするに至っており、そこには、請求人である被告が主張した審判請求の理由以外の理由について認定、判断をした瑕疵があるといわざるを得ない。
なお、審決は、審決の理由の要点(3)-2-1の(D)及び(E)において、
「1992年4月に米国アーカンソー州ブーンビルに【D】らによってユニファイド社が設立された。
1992年5月30日被告は、ユニファイド社(社長【D】)に、「モズライト・ギター」の40周年記念モデル(「モズライト・ギター」を1952年にカリフォルニアで製造開始して40周年経過したことによる。)と同一品質のものの製造を依頼する契約を行った。
契約締結後の1992年5月31日に同工場で40年記念モデルを製造した。しかし、1992年8月7日に【D】は死亡した。そして、ユニファイド社は、妻の【J】が社長となったが、製造技術及び経営能力のなさから、1994年4月に倒産した。」 との認定をしているが、これは、スガイ社に関する認定ではないし、「Mマーク mosrite of California」の商標に関する被告への使用許諾についてのものでもない。
3 そして、乙第38号証(カリフォルニア州務長官発行の「商標登録証書(CERTIFICATE OF REGISTRATION OF TRADEMARK)」)によれば、米国カリフォルニア州ハリウッドのスガイ・ミュージカル・インストルメント・インコーポレーテッド(スガイ社)が商標権者として、「Mマーク mosrite of California」を、1983年11月1日から使用しているとして、同月16日同州における商標登録を受けている事実が認められるが、スガイ社が【D】とどのような法的関係を有しているか、本件証拠によっても明らかでない(被告も、審判において、スガイ社と【D】氏との間には取引関係はなかった、と主張している(審決の理由の要点(1)-2-6))。
さらに、被告の審判における主張によれば、「被告は、1996年11月に米国カリフォルニア州で「mosrite of California」の登録商標(審判甲第5号証)を専有していたスガイ社に「モズライト・ギター」の製造を依頼し、これを輸入して販売している。」(審決の理由の要点(1)-2-6)というのであり、これに対し、原告が審判及び本訴訟で主張するところを要約すれば、
「1968年(昭和43年)5月にモズライト社から生産ライセンスを取得したファーストマン楽器製造株式会社が生産を開始し、最初の日本製「モズライト・ギター」が誕生したが、原告はファーストマン楽器製造株式会社の下請として、本件商標を付したギターを製造し、これをファーストマン楽器製造株式会社に納め始めた。
その後間もなくファーストマン楽器製造株式会社が倒産したが、原告は本件商標を付したギターの製造販売を続け、1977年(昭和52年)9月に本件商標権の出願権を買い取り、その後その設定登録を受けた(昭和55年5月30日)。
原告は、遅くとも1988年(昭和63年)又は1989年(平成1年)初めころまでには本件商標のほかに「of California」の表示を原告の製作販売するギター及びその商品パンフレットに使用し始めた。」 というものであり、この主張事実に反する特段の証拠はない(審決も認定している事実である。)。
4 これらのことからすると、「Mマーク mosrite of California」商標についてスガイ社及び被告が同商標の商品に関する出所混同を生じるおそれの対象となる他人性を有するのか明確でないから、被告が審判請求の理由で主張している「他人の業務に係る商品「カリフォルニア州の生産者(スガイ社)と我が国におけるその独占的輸入販売者(本件被告)のエレキギター」」なるものが、「Mマーク mosrite of California」商標との関連において商標法51条1項所定の「他人の商品」と評価し得るかについては疑問があるといわなければならない。原告は、スガイ社が被告から依頼を受けて製造を始めた7、8年以上前から、本件商標に「of California」の表示を付し、その製造販売するエレキギター及びその商品カタログに使用していたとの事実関係を否定することができないのであり、少なくとも、原告には、商標法51条1項所定の「他人」であるスガイ社及び被告(被告が審判で主張した「他人」)の業務に係る商品(エレキギター)との出所の混同が生じることにつき同法条所定の「故意」があったと認めることはできないというべきである。
5 よって、原告の商標の使用が商標法51条1項に該当するものとした審決の判断は誤りであり、同条項により本件商標の登録を取り消すべきものとした審決は、原告主張のその余の点について判断するまでもなく取消しを免れない。
結論
よって、主文のとおり判決する。
(平成12年6月29日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史