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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ワ24693商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
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平成17ワ25426損害賠償請求事件 判例 商標
平成16ネ3751商標権侵害差止等請求控訴事件 判例 商標
関連ワード 取引対象 /  包装 /  商標的使用 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  通常使用権 /  国内 /  差止 /  信用回復措置 /  使用許諾 /  存続期間 /  外国 / 
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事件 平成 11年 (ワ) 2823号 損害賠償等請求事件
原告 【A】
原告 株式会社とうかい企画 右代表者代表取締役 【A】 右両名訴訟代理人弁護士 吉田 允
同 後藤昌弘 右輔佐人弁理士 【B】
被告 株式会社宏和商工 右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 山下 淳
同 神山達彦
裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 2000/09/22
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告は、ワイン・日本酒等酒類の容器及びその包装に、別紙イ号標章目録の一ないし四及びロ号標章目録の一ないし一六に記載された標章を付し、あるいは商品またはその包装に右各標章を付して譲渡し、若しくは譲渡のために展示してはならない。
二 被告は、ワイン・日本酒等酒類の広告に別紙イ号標章目録の一ないし四及びロ号標章目録の一ないし一六に記載された標章を付して展示し、または頒布してはならない。
三 被告は原告【A】に対し、金四九五〇万円及びこれに対する平成一一年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は原告株式会社とうかい企画に対し、金四〇五〇万円及びこれに対する平成一一年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告は別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、表題と原告株式会社とうかい企画及び被告の社名を四号活字とし、その他を六号活字として、本判決確定の日から三日間、日本国内において発行する中日新聞、朝日新聞及び読売新聞の各全国版に掲載せよ。
六 三項及び四項につき仮執行宣言
事案の概要
本件は、商標権者である原告【A】(以下「原告【A】」という。)が被告に対し、商標権侵害行為の差止め、商標権侵害による不当利得返還及びこれに対する訴状送達の日から支払済みまでの遅延損害金の支払いを求め、同原告から右商標の使用許諾を受けている原告株式会社とうかい企画(以下「原告会社」という。)が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する訴状送達の日から支払済みまでの遅延損害金の支払い並びに信用回復措置として謝罪広告を求めた事案である。
一 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実) 1 原告会社は婚礼に関する贈答品、記念品等及び酒類の販売等を目的とする株式会社であり、原告【A】は原告会社の代表者である(甲六、乙九の1ないし3)。被告は酒類の輸入販売等を目的とする株式会社である。
2 原告【A】は別紙商標権目録一及び二記載の各商標権(以下「本件商標権」という。)の権利者である。なお、本件商標権についてはいずれも存続期間が更新されている(甲一及び二の各1、2)。
3 原告会社は、原告【A】から許諾を受け、本件商標権と同一ないし類似の標章を付したワイン等の酒類を販売している(甲三の1、2、六ないし八)。
4 被告は、遅くとも平成六年六月初めから、結婚式の引き出物等のいわゆるブライダルギフト商品として、別紙イ号標章目録の一ないし四及びロ号標章目録の一ないし一六に記載された標章(以下「被告標章」という。)を記載したラベルを貼付したワイン、日本酒等の酒類を、一本当たり五〇〇円ないし三〇〇〇円で販売している(甲五、乙一、二)。
二 争点及びこれに対する当事者の主張 1 被告が販売するワイン、日本酒等の酒類(以下「被告商品」という。)に被告標章を記載したラベルを貼付する行為は、本件商標権を侵害するか。
(一) 被告の主張 被告は、被告標章を、被告商品について自他商品の識別を目的として具体的に商品の出所を表示するために用いているわけではないから、被告標章の使用は本件商標権を侵害しない。その理由は以下のとおりである。
1 被告標章の意味について 被告標章はいずれも英語で、「Just Married」は、「結婚しました」という意味の結婚を報告する言葉、「Happy Wedding」は、「結婚おめでとう」という意味の結婚を祝福する言葉である。結婚式や結婚披露宴、結婚披露パーティー等においては、ワイン等の酒類に限らず、そこで用いられる席次表、席札、食事のメニュー、引き出物、婚礼用バッグ等といった様々な品々について、これらの言葉が右の文字通りの意味で記載され、用いられる。そこでは、「Just Married」や「Happy Wedding」という言葉は、各商品の出所を表示する機能など有していないのが通常である。
2 被告商品の需要者等について 被告商品は、結婚披露宴等の慶事を主催しようとする者(以下「主催者」という。)に対して販売されるのであり、その需要者は右主催者に限られる。
そして、前記1の被告標章の意味及び後記3の販売態様に鑑み、主催者に対して被告標章が出所表示機能を営むことはない。
なお、原告らは結婚披露宴の出席者等(以下「列席者」という。)も需要者になり、結婚式場等の中間業者が取引業者となる旨主張するが、仮にそうであったとしても、前記1並びに後記3及び4の点からすれば、これらの者に対しても被告標章が出所表示機能を営むことはない。
3 被告商品の販売態様について 被告は、被告標章を銘柄とするワイン等を販売しているわけではなく、顧客に対し、商品カタログに掲載された二三ないし二四種類の酒類のうちから商品を選択させたうえ、さらに、ラベルカタログに掲載された多数のラベル(被告標章の記載されたラベルを含む)の中から、ボトルに貼付するラベルを選択させ、
右選択にかかるラベルに顧客の名前や列席者の名前及び挙式日を記載したうえで、
顧客の選択した商品に右ラベルを貼付して納品している。
@ 右商品カタログにおいて、各酒類は、「B01/ドイツワイン375ml白」といった、番号、産地国及び酒類の種別等によって特定されているのみであり、被告商品の名称、呼称として被告標章が使用されることは一切ない。
A 前記ラベルカタログに掲載されている被告デザインにかかるラベルは、寄り添って立つ若い男女や、咲き誇る草花または芳醇に実った果実等の結婚や祝祭等をイメージさせるイラストレーションが描かれたもので、そのイラストの周辺部に、被告標章のほか、「Wedding Party」、「Thanks For Coming」等といった結婚に際して列席者に感謝する言葉等が添えられている。また、顧客は独自にデザインするラベルを使用することも可能であり、このようなものを含めると被告商品に貼付するラベルは無数にある。
B 被告は、結婚披露宴等の慶事のための引き出物、贈答品として被告商品を販売しており、最低購入本数を一種類につき二四本としている。
そして、被告商品の申込書には、「挙式日」欄及び「お二人の名前を漢字または英字で」という欄があり、顧客による特別の要求がない限り、顧客の名前等の記載のないラベルを作成することはありえない。 被告はショールームにおいて被告商品をディスプレイしているが、そこでは顧客名及び挙式日を記載したラベルを貼付した被告商品が一本ずつ展示されており、ラベルが同一であるものは二つとない。これは、被告のビジネスの要点が、顧客に対してワイン等に各顧客のオリジナルのラベルを貼付して販売する点にあることを示すものである。そして、ショールームに来店した顧客がその場で被告商品を購入しようとしても、被告は、当該顧客に対し、その顧客独自のラベルを作成・貼付しないままで被告商品を販売することは決してない。
なお、原告らは顧客名等の記載がなく、被告標章のみが記載されたラベルが貼付された被告商品の写真(甲四)を本件訴訟の証拠として提出しているが、これは、原告らが、証拠とする目的で、被告に対して挙式者の名前、挙式日の記載及び「Thank You」という記載までも削除するように求めて特殊な注文をし、入手したものであって、被告がこのような方法で被告商品を販売することは通常ありえない。
4 被告商品のラベルの記載状況について 一般的なワイン等の酒類の販売において、ラベルのデザインが特に著名で銘柄が広く周知されているような場合は別として、酒類の銘柄がボトル正面のラベル(以下「表ラベル」という。)ではなく、裏面の出所表示(以下「裏ラベル」という。)によって初めて認識されることはしばしばある。特に、ワイン等外国からの輸入が多い酒類に関しては、表ラベルには外国語による表示しか存しないことが通常であるため、一般消費者は表ラベルでなく、むしろ裏ラベルの記載を見てその銘柄を認識することが多々あるのである。被告商品の表ラベルには、被告標章その他の文言並びに挙式者の名前及び挙式日等が併せて記載される。しかし、一般の酒類販売店において、このようなラベルが貼付されたワインは販売されていないから、かかるワインの出所を知ろうとする者は、裏ラベルの記載を見ることになる。そして、被告標章は被告商品の裏ラベルには一切使用されておらず、裏ラベルにはかえって「Chteau Bel Air」等の酒類の名称が記載されている。したがって、被告商品の表ラベルに付された被告標章は出所表示機能を営むものではない。
(二) 原告らの主張 1 被告標章の意味について 被告標章が慶祝文言であることは認めるが、酒類販売の分野では、お祝いの言葉が商標として多数登録されており、「招福開運」、「新婚」、「松竹梅」、「おとうさんありがとう」、「ラブリーウェデイング」、「メモリアルウエディング」等の商標が現に登録され、これらの商標を付した酒類が販売されている。このように、慶祝文言や説明的な言葉も酒類の商標として現に機能しているのであるから、被告標章が慶祝文言であることは右標章が出所表示機能を営むことを否定する事情とはならない。
2 被告商品の需要者等について 被告商品の取引対象は、第一次的には主催者であるが、列席者も、引き出物等として提供されたワインについて、被告標章をブランドとして認識し、後日自らが結婚披露宴等を主催する時にこれらのワインを披露宴において使用する可能性があるため、間接的には取引対象となる。したがって、被告商品の需要者は主催者及び列席者である。また、主催者に対して商品を販売するには、結婚式場等に展示、斡旋してもらうことが必要であるため、結婚式場等の中間業者が取引業者となる。
3 被告商品の販売態様について 被告が被告主張のとおりカタログ等を使用してラベルに名入れしたうえで販売している事実は認めるが、被告の商品カタログに掲載されている酒類の写真は、被告標章等を付した表ラベルが貼付された状態で撮影されたものである。また、結婚式場等で開催されるブライダルフェア等においても、被告商品は、被告標章等を付した表ラベルが貼付された状態で、表ラベルを正面にして展示されている。顧客の名前自体には出所表示機能はないから、主催者及び中間業者は、被告標章によってしか被告商品を識別しえないのであり、被告標章は出所表示機能を営んでいる。 さらに、被告は、中間業者に対しては、顧客の名入れがされておらず、
被告標章のみが付されたラベルが貼付された被告商品を使用して宣伝・広告を行っている。
被告は、被告商品の販売につき店舗販売以外にインターネットも使用しているが、そのいずれについても、ラベルのみを並べるといった方法はとっておらず、価格はワイン等の酒類の価格のみが表示されており、ラベルのみの価格は表示されていない。したがって、被告のビジネスがラベルを販売するというものであるということはできない。
また、被告は、顧客独自のラベルを作成貼付しないままで被告商品を販売することはない旨主張するが、顧客が名入れを希望しない場合に、被告が顧客に対して費用のかかる名入れを強要することは考えられないことであり、現に被告は、原告【A】及びその親族が名入れしないラベルを貼付した被告商品を販売するよう要求した際にはこれに応じているのである。
4 被告商品のラベルの記載状況について 被告標章は、表ラベルの一般に商標が付される位置に、他の記載事項と異なる書体を用いて大きく目立つように記載されており、これは商標としての使用形態と同一である。被告は、あるワインの商標は「Chteau Bel Air」であると主張し、被告標章とは別に商標が付されていると主張する。しかし、ワイン等の酒類に付される商標は一つに限らないのであり、裏ラベルと表ラベルに異なった商標が付されることも珍しくない。そして、通達が、商品を販売するに当たって通常顧客の目に触れるように陳列する側を、酒類の容器の「主たる商標を表示する側」と定義していることからしても、表ラベルに記載された被告標章は商標として使用されているというべきである。
2 損害の発生、額及び謝罪広告の必要性 (一) 原告らの主張 1 被告は、被告標章を付した被告商品を、平成六年六月初めから現在までに少なくとも三三万本販売した。被告商品の平均販売価格は一本当たり一五〇〇円であり、右期間の被告の売上総額は四億九五〇〇万円を下らない。また、同様に、平成八年八月一日から現在までの売上本数は二七万本を下らず、売上総額は四億五〇〇万円を下らない。
2 本件商標権侵害に対する使用許諾料は、売上額の一〇パーセントとするのが相当であるから、平成六年六月初めから現在までの商標権侵害行為により原告【A】が受けた損失の額は四九五〇万円となる。
3 原告会社は原告【A】から本件商標権につき完全独占的通常使用権の許諾を受け、日本国内において独占的に本件商標権を使用している。原告会社は、
無権限の被告が本件商標権に酷似した被告標章を付した被告商品を販売することにより、期待利益を奪われた。平成八年八月一日から現在までに被告が右不法行為により受けた利益の額は、販売総額の一〇パーセントである四〇五〇万円を下らず、
商標法38条2項の類推適用により、右金額は原告会社の損害と推定される。
4 原告会社は、被告会社による類似品の販売によって社会的信用を大きく傷つけられた。原告会社の信用を回復するためには、謝罪広告以外に方法がない。
(二) 被告の主張 いずれも否認ないし争う。
争点に対する判断
一 争点1について 1 商標の本質的機能は、商品の出所を明らかにすることにより、取引業者又は需要者に自己の商品と他の商品との品質等の違いを認識させること、すなわち自他商品の識別機能にあると解するのが相当であって、このことは商標法1条及び3条の規定からも明らかである。このような商標の本質及び商標法の規定に照らせば、同法25条本文にいう「登録商標の使用をする権利」とは、自他商品の識別機能を有する態様で表示される商標の使用をする権利を意味するものと解すべきであり、更に、商標権者等の差止請求権について定めた同法36条は、商標が自他商品の識別機能を果たすことを妨げる行為を排除し、商標本来の機能を発揮できるようにすることを目的とするものと解すべきである。したがって、自他商品の識別機能を有しない態様で表示されている標章の使用は、同法25条本文に規定する登録商標の使用権を侵害するものということはできず、また、同法36条による差止請求の対象となるものでもないというべきである。
2 証拠(甲五、六、九、一〇の1ないし3、四二、乙一ないし四、六、七の1、2、一〇ないし一二)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告商品はワイン、日本酒等の酒類であるが、被告はこれらを結婚式等の慶事に際して引き出物等として用いるために販売しており、被告の発行している商品カタログの表題も「Kowa Bridal Gift Collection」となっている(甲五)。
(二) 被告は東京、大阪及び名古屋に店舗を有しているが、その名称は「ショールーム」であり、被告の商品カタログ上にも、「各ショールームでコーワの全商品をご覧いただけます。」と明記されていて、同所は見本を展示する場所であることがわかる記載となっている(甲五、乙一、二)。また、被告は結婚情報を掲載する雑誌が主催するブライダルフェア等において商品見本を展示し、顧客の申込みを受け付けたり、インターネットにおいて申込みを受け付けたりしているが、被告はブライダルフェアの際には「マイラベル倶楽部コーワ」という看板を出しており、インターネットでも同様の名称を使用したうえ、「世界でふたりだけのオリジナルラベルワインを列席者みんなにプレゼント。(中略)サンプルからお好きなデザインを選んでラベルにできます。24本以上、期間は3週間で承ります。」と宣伝しており、詳細については顧客に資料請求させる方式をとっている(甲六、九、四二)。
(三) 被告商品は顧客に商品カタログに基づき申込書を記載させる方法によって販売されており、酒類のボトル一種類につき最低二四本以上でないと注文を受け付けないことと、カタログ上の表示価格にはボトル代とラベル作成料、リボン代が含まれることがカタログに明記されている(甲五、乙一、二)。被告の商品カタログ(甲五)では「ゲストラベル」と「マイラベル」が区別されていて、「ゲストラベル」については「ゲストラベルは、列席者の名前をラベルに入れたギフトアイテム。例えばワインのラベルをこのタイプにすれば、(中略)席札としてご利用いただけます。」という説明が、「マイラベル」については「おふたりの名前を入れられるのがマイラベルシリーズです。(中略)引出物から二次会のプレゼントまで、幅広くご利用いただけます。」という説明がそれぞれされている。そして、右商品カタログは、各産地別にワイン等の酒類を順次紹介する形式をとっているが、
ワインについては「CHTEAU BEL AIR」等のブランド名別に商品が紹介されており、ウイスキーについても「サーウイントンスコッチウイスキー」等のブランド名とともに商品が紹介されている。カタログで紹介されている商品には、ブランド名とは別に、「B29 フランスワイン ブルゴーニュ 375ml 白」という形式で個別に表示がされていて(以下「表示名」という。)、顧客が商品を申し込む際に申込書に記載するのは表示名であり、請求書等でも表示名が使用されていて(甲一〇の2、3、乙三、六、七の1、2)、ショールームにおいても表示名を付した表示板が見本の商品の前に展示されている(乙一二)。右商品カタログには、「ラベルは特に指定のない場合、ゲストラベルリスト、マイラベルリストからお選びください(おふたりでデザインすることもできます)。リボンはお好きな色一色をお選びいただけます。詳しくはゲストラベルリスト、マイラベルリストをご覧ください。」と記載されており、被告商品に貼付されるラベルはゲストラベルリスト及びマイラベルリストに掲載されたいずれかのラベルまたは顧客のデザインしたラベルであることが顧客にわかるようになっている。マイラベルリスト(乙一)及びゲストラベルリスト(乙二)には、それぞれマイラベルラインナップ、ゲストラベルラインナップとして各六〇種類前後のラベルが紹介されているが、その中には「銘柄指定ラベル」というものがあり、これには前記「CHTEAU BEL AIR」等の銘柄がラベルに記入されていて、カタログ上に「ワイン名が入ったラベルです。ラベルごとに利用できるボトルが限られておりますので、よくお確かめのうえご注文ください。」という注意書きがされている。マイラベルリスト及びゲストラベルリストには、いずれもボトルラインナップとしてそれぞれ三〇種類前後の酒類も紹介されているが、このカタログでは酒類について表示名のみが使用されている。被告の使用している申込書には、挙式日の記入欄及び「お二人の名前を漢字又は英字で」という欄のほか、被告の内部処理欄として「サンプル提出日」、
「サンプル確認日」等の欄があり、被告はラベルの貼付及び納品の前にラベルの印刷サンプルを顧客に送付して、顧客の氏名等の印刷内容が正確かどうかにつき、顧客に確認する方式をとっている(甲一〇の3、乙三、六、七の1、2)。
(四) 被告のカタログに掲載された酒類及びショールーム等で展示されている見本には、いずれもラベルが貼付されているが、そのラベルは顧客名及び挙式日等の名入れをした見本ラベルである。右各ラベルの一部には、被告標章が記載されているが、被告標章以外にも「THANK YOU SO MUCH」、「The Wedding Party」といった文言が記載されているラベルや、イラスト以外には氏名及び日時のみを記載するようになっているラベルなど、様々なラベルが存し、顧客は自ら描いたイラストをそのままラベルとすることもできる。ラベルに被告標章が記載されている場合の被告標章の扱いはラベルによって様々であるが、多くのラベルでは、被告標章の文字と氏名及び日付が同様の字体でバランス良く記入されており(マイラベルリストのKM-107、KM-128など)、被告標章自体が背景のデザインと一体化しているものもある(マイラベルリストのKM-114、KM-126、KM-162など)。
(五) 被告のカタログにおいて、被告標章が被告商品を特定、表示する名称として使用されていることはなく、被告商品の裏ラベルにも被告標章は一切使用されていない(乙一一)。
3 以上の事実を前提に、本件につき検討する。
(一) 被告標章のうち、「Just Married」は「結婚しました」という意味の、「Happy Wedding」は「幸せな結婚式」という意味の英語であり、いずれも結婚を報告したり、結婚を慶祝する内容の文言である。このような文言も、本件商標権のように商標として登録することが可能であり、現にこのような慶祝文言等が商標として使用されている例もあるが(甲一八の1ないし3、一九の1、2、二二の1ないし3、二三の1ないし16、二七の1ないし5、二八の1ないし10、三〇の1、2)、その反面、慶祝文言である以上、これらの文言が、単にめでたい雰囲気を高める目的で、結婚式に際して装飾的に使用されることも充分にありうるから、商標的使用か否かは、その使用態様に基づいて個別に判断されるべきである。
(二) 被告商品は結婚式の引き出物として使用される商品であるから、その購入者は主催者である。原告らは列席者も需要者に該当すると主張するが、列席者は主催者から被告商品の贈与を受ける者にすぎないから、需要者に該当するということはできない。そして、主催者が被告から引き出物を購入する場合は、雑誌の広告やインターネット(甲四二)、展示会等をきっかけに被告から直接購入し、結婚式場に持ち込む場合の他、原告会社の場合(甲一四の1、2、一五の1ないし5)と同様に、結婚式場の斡旋により被告に申し込む場合の双方があると認められる(弁論の全趣旨)が、被告商品が顧客の注文に応じたラベルの制作とラベルの貼付という過程を経て顧客別に納品されるものであることからすると、被告が顧客から注文を受ける前に結婚式場に対して一括して被告商品を卸すということは想定しがたいから、結婚式場が被告商品の取引業者に該当するとはいいがたい。 したがって、被告商品の出所表示機能について検討するに当たっては、主催者との関係でこれを判断すべきである。
(三) そして、被告の販売形態が顧客である主催者に商品を自由に選ばせ、
被告標章が記載されていないラベルを含む様々なラベルの中から任意のラベルを選択させてそのラベルに名入れをし(または顧客に描かせたラベルを使用し)、それを選択にかかる商品のボトルに貼付するというものであって、被告の商品カタログ並びにマイラベルリスト及びゲストラベルリストの記載内容が前記2で認定したとおりのものであることに照らせば、主催者は被告商品の出所をカタログに表示された「CHTEAU BELAIR」、「サーウイントンスコッチウイスキー」等の銘柄や、表示名を目印として識別し、これによって取引をしているものであり、ラベル及びそこに記載された被告標章は、被告商品に新郎新婦や列席者の氏名、挙式年月日等を美しく表示し、
列席者に対して主催者側の意思を伝え、特別な良い印象を与えるための背景デザインとして選択され、使用されているにすぎず、被告標章が被告商品を他の商品から識別する機能を果たしていることはないというべきである。
したがって、被告標章は、被告商品について自他商品の識別機能を有する態様で使用されているものでなく、原告【A】の本件商標権を侵害するものではない。
二 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告【A】の被告に対する請求には理由がない。そして、被告の行為が商標権侵害に該当しない以上、これを基礎とする原告会社の被告に対する各請求に理由がないこともまた明らかである。
追加
別紙商標権目録一登録番号第一八九六一四八号商標の構成別紙商標公報一のとおり出願日昭和五九年七月二八日出願番号昭五九-八三七六一公告日昭和六一年二月一二日登録日昭和六一年九月二九日商品の区分第二八類指定商品酒類(薬用酒を除く)二登録番号第一八四二二〇六号商標の構成別紙商標公報二のとおり出願日昭和五八年一一月一日出願番号昭五八-一〇三八八四公告日昭和六〇年七月一九日登録日昭和六一年二月二八日商品の区分第二八類指定商品酒類(薬用酒を除く)別紙イ号標章目録別紙ロ号標章目録別紙謝罪広告目録省略
裁判長裁判官 野田武明
裁判官 橋本都月
裁判官 富岡貴美