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関連審決 審判1999-35333
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11行ケ166審決取消請求事件 判例 商標
平成20行ケ10139審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  離隔的観察 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 147号 審決取消請求事件
原告 株式会社テラタニ代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
被告 日本テレコム株式会社代表者代表取締役 【C】
訴訟代理人弁理士 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/09/21
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35333号事件について平成12年3月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙(1)に示す構成より成り、指定商品を第11類「電気機械器具、
電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く) 電気材料」とする登録第2688770号商標(平成4年3月4日出願、平成6年7月29日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成11年6月30日、本件商標は商標法4条1項11号、15号の双方又はいずれか一方に該当するとして、その登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成11年審判第35333号事件として審理した結果、平成12年3月13日、「登録第2688770号の登録を無効とする。」との審決をし、同年4月5日、その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本件商標は、別紙(2)に示す構成より成り、指定商品を第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く) 電気材料」とする登録第2487966号商標(平成元年7月11日出願、平成4年12月25日設定登録。以下「引用A商標」という。)と、その外観において類似し、かつ、
指定商品も同一又は類似するから、商標法4条1項11号に該当し、その登録は無効である、とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本件商標と引用A商標との対比において、両商標を構成するリング及びその構成配置の差異を十分に検討せず、商標構成上の重要な相違を看過して、
一致点、相違点の認定を誤り、これを前提に、両商標が外観上互いに類似し、本件商標は商標法4条1項11号に該当すると判断したものであり、上記誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法として取り消されるべきである。
1 リングの差異について 本件商標及び引用A商標が、ともに大小二つのリングを組み合わせて成るものであり、大きい方のリング(以下「大リング」という。)は、両者とも肉太部分と肉細部分を有する楕円形状であって、その肉細部分付近に小さい方のリング(以下「小リング」という。)の一端が重なるように配置して成る点において構成の軌を一にするものであることは、事実である。
しかし、本件商標における小リングは、大リングに比べ、径が歴然と異なる小径の真円状リングであるのに対し、引用A商標では、大リングより、やや小さい程度の相似形の楕円状リングであるから、両者にはこの点で明らかな相違がある。
図形としての「リング状」とは、極めて単純で、商標の構成要素としてはもちろん、図案としても親しまれ、一般に広く、頻繁に用いられている図形であるから、本件商標及び引用A商標は、その具体的なリング形状の外観において、明確に識別され得るものであり、しかも、両商標は、二つのリングのみで構成されるものであるから、看者は、両商標に接するとき、二つのリングの各具体的形状及び大小等の対比を自然と無意識に行って、その特徴及び差異を認識できるものである。したがって、いずれも二つのリングという極めて単純な構成要素の組合せから成る商標二つを対比する場合、それぞれの構成要素である各リングの具体的形状における相違及び二つのリング同士の異同・対比における相違は、看者の視覚的印象に明確に残り、全体的観察に影響を及ぼすものであり、到底、無視し得るものではない。
2 構成配置の差異について 本件商標は、大きな楕円状リングの長径と真円状リングの径(肉太部、肉細部及び中心を通る)を略T字状に一端を重ねて配置し、上方位置にある楕円状の大リングは、長径が右上がりにやや傾斜し、傾斜した上部右方が肉太部となった構成である。すなわち、明らかに小さな真円状のリングの上部に楕円状の大リングが傾斜して乗った配置で、しかも傾斜した楕円状の大リングの傾斜した上部が膨らみが大きく肉太部であるため、全体として動きの感じられない頭でっかちの不安定な印象を与えるものである。
他方、引用A商標は、相似形の大小二つの楕円状のリングが各長径を約45度の右上がりの一直線上に一端を重ね、楕円状の大リングは左方下部に、楕円状の小リングを右方上部に配置し、かつ各楕円状の大小リングは、膨らみの大きい肉厚部を傾斜した左方下部に向けた構成である。すなわち、二つの相似形の楕円状の大小リングが整然と右上がりの一直線上に配置され、全体が右上方へ行くにしたがって細くテーパー状となって右上方へ突き進むような動的印象を与え、しかも各楕円状リングの下方が肉厚部となって安定した印象を同時に与えるものである。
3 全体としての差異について このように、両商標は、図形として一般に親しまれ、広く、頻繁に用いられているリングを二つ組み合わせたのみの単純な構成で成り立っているのであり、このような構成における各構成要素の差異及びその構成配置の差異は、看者によって明確に認識され、それが全体的な外観上の差、そして、図形全体から受ける視覚的印象の差となって顕著に現れるものであるから、両商標は、時と所を異にして離隔的観察をしても、外観において明確に識別され得るものである。
4 被告の主張について 被告は、本件商標と引用A商標は、その基本的な構成要素とする大小二つのリング部の両端を重ねた図形及び数字「8」のイメージを共通にする点において構成の軌を一にする旨主張する。
しかし、数字「8」の上下のリングは、同一の大きさであるのが通常であり、多少の大小差を認めるとしても、顕著な差となるものでない。また、上下のリングは、接する状態で関係し、互いに交叉するものでなく、かつ大リングは下位置となるものである。したがって、二つのリングの大きさにさほど顕著な差がなく、
大リングを下位置とし、整然と配置した引用A商標では、「8」らしきイメージが生ずる可能性はあるとしても、大小のリングの大きさが顕著に異なり、しかも、大リングが上位置で不安定な状態で小リングと交叉している本件商標からは、数字「8」のイメージを生ずる余地はない。
被告は、図形商標は、文字商標と異なり、見て認識して理解するために、方向を特定する必要がなく、その外観を上下左右いずれの方向からも看取し、形状を理解することが可能であり、かつ、図形が時と所を異にする離隔観察において、互いの共通点を意識し印象を強くする旨主張する。
しかし、商標は、指定商品に関連して使用されるのであり、商品自体又は包装資材に、あるいはパンフレット等に表示されるのであって、それらの表示対象物には当然上下、左右、表裏があり、加えて、単独で商標のみ表示されているのは極めてまれで、他の文字や意匠等の表示とともに使用されるのである。したがって、
看者は通常これらの他の表示要素とともに商標を認識するのであって、無意識のうちに商標の上下、左右等をも理解し認識するものである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は、いずれも正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 リングの差異について 本件商標と引用A商標は、斜めに配置した大リングの形状が基本的な要素であって、大小二つのリング部の両端を重ねた一体のものであるので、両者の対比に当たって小リングの差異 にこだわる必要はない。また、本件商標と引用A商標を構成する小リングは、いずれも端部が肉太部分と肉細部分に描かれている点を共通にしている。なお、本件商標の小リングについて、原告は真円状と主張するけれども、肉太部分と肉細部分よりなる以上、真円状とはいえない。小リングの配置方向等において本件商標と引用A商標との間に差異が認められるとしても、それが両者の全体の外観上の印象の差異に結び付くことはない。
2 構成配置の差異について 本件商標と引用A商標は、いずれもリングの片方が大きく顕著なため、リングの一端が重なっているとしても、ともに、全体として数字の「8」をイメージさせるものである。そのため、本件商標と引用A商標は、その基本的な構成要素とする大小二つのリング部の両端を重ねた図形及び数字「8」のイメージを共通にする点において構成の軌を一にするものである。
図形商標は、文字商標と異なり、見て認識して理解するために、方向を特定する必要がなく、その外観を上下左右いずれの方向からも看取し、形状を理解することが可能であり、かつ、異なる二つの図形について時と所を異にする離隔的観察がなされる場合には、看者はそれらの図形において、互いの共通点を意識し印象を強くするのである。そうすると、本件商標と引用A商標は、上下左右いずれの方向に描かれても、それに関係なく、看者に対し、共通点の印象を強く脳裏に残させ、
細部の相違点を確知させない程度に類似するというべきである。
当裁判所の判断
1 本件商標と引用A商標との類否について (1) 本件商標及び引用A商標がそれぞれ別紙(1)及び同(2)に示す構成より成ることについては、当事者間に争いがない。
別紙(1)によれば、本件商標は、肉太部分と肉細部分を有する楕円形状の大リングと、肉太部分と肉細部分を有する、大リングの長径の約半分程度の直径のほぼ円形の小リングとが、後者が前者のほぼ中央下部に相互に一部重なるように配置されているものであることが認められる。
別紙(2)によれば、引用A商標は、肉太部分と肉細部分を有する楕円形状の大リングと、これと相似形で、その長径の約3分の2程度の長径の楕円形状の小リングとが、前者の肉細部分が後者の肉厚部分に相互に一部重なるように配置されているものであることが認められる。
そうすると、本件商標と引用A商標とは、大リングと小リングとが相互に一端において重なるように配置されている点、大リングが、肉太部分と肉細部分を有する楕円形状をしている点で一致し、小リングについて、本件商標では、大リングの長径の約半分程度の直径のほぼ円形のものとなっているのに対し、引用A商標では、大リングの長径の約3分の2程度の長径を有する楕円形状のものとなっている点、リングの配置について、本件商標では、小リングが大リングのほぼ中央下部に相互に一部重なるように配置されているのに対し、引用A商標では、大リングの肉細部分が小リングの肉厚部分に相互に一部重なるように配置されている点で相違しているということができる。
(2) 本件商標及び引用A商標は、いずれも、特定の観念称呼を生じないものであることが、その形態からして明らかである。このように特定の観念称呼を生じない商標同士の間に商標法4条1項11号にいう類似に該当する関係があるか否かの判断は、それぞれの商標の構成全体の有する外観上の印象が互いに相紛らわしいか否かによってするほかない。
(3) 取引者・需要者が、図柄によって構成される商標について、必ずしも、図柄の細部まで正確に観察し、記憶し、想起してこれによって商品の出所を識別するとは限らず、商標全体の主たる印象によって商品の出所を識別する場合が少なくない。これは、我々の日常の経験に照らして明らかである。また、商標の使用は、種々の態様において行われ、大きさ、向き、その上に商標を示すもの(紙か板か布か金属かなど)等において多様であり得ることも、当裁判所に顕著である。
これらのことを前提にして考えると、本件商標と引用A商標について、時と所を違えて離隔的観察をした場合、外観上、最も看者に強い印象を与えるのは、
大リングと小リングが相互に一部重なるように配置されている点であるというべきである。この点が一見したとき最初に認識し得る基本的な特徴であるからである。
外観上、次に看者に強い印象を与えるのは、大リングが楕円形で、楕円の長径の一端におけるリングの肉厚が最大とされている点であるというべきである。この点が商標全体における最も大きな部分を占め、前記の基本的な特徴に次ぐ主要な特徴といい得るものであるからである。したがって、時と所を違えて離隔的観察をした場合、看者は、一般に、本件商標と引用A商標の上記一致点について強い印象を受け、これを記憶し、想起するものと認めることができる。
相違点についてみると、小リングの具体的形状、大リングに対する大きさの比率の違い、大小リングの配置も、無論、看者に印象を与えないということはないものの、本件商標における小リングの形状、大小リングの配置等は、商標の類否判断の観点からは、いずれも、引用A商標と比べて些細な変形、変種としかみることができない。したがって、本件商標と引用A商標とは、商標の構成全体の有する外観上の印象が相紛らわしいものといわざるを得ない。
本件全証拠を検討しても、上記判断を左右する資料を見いだすことはできない。
したがって、「両者の外観上の印象は極めて近似し、時と処を異にして接するときには、互いに混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。」とした審決の認定判断には、少なくとも結論において何ら誤りはない。
2 原告の主張する差異について (1) リングの差異について 原告は、本件商標における小リングは、大リングに比べ、径が歴然と異なる小径の真円状リングであるのに対し、引用A商標では、大リングより、やや小さい程度の相似形の楕円状リングであるから、両者に明らかな相違がある旨主張する。
しかし、原告主張の相違が、引用A商標における対応部分の些細な変形、
変種の域を出るものでないことは、前述のとおりである。原告の主張は、採用できない。
また、原告は、図形としての「リング状」とは、極めて単純で、商標の構成要素としてはもちろん、図案としても親しまれ、一般に広く、頻繁に用いられている図形であるから、本件商標及び引用A商標は、その具体的なリング形状の外観において、明確に識別され得るものであり、しかも、両商標は、二つのリングのみで構成されるものであるから、両商標に接するとき、二つのリングの各具体的形状及び大小等の対比を自然と無意識に行って、その特徴及び差異を認識できる旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、取引者・需要者は、図柄によって構成される商標について、必ずしも、図柄の細部まで正確に観察し、記憶し、想起してこれによって商品の出所を識別するとは限らないのであり、両商標に接した取引者・需要者の中には、原告主張のとおり、二つのリングの各具体的形状及び大小等の対比を自然と無意識に行って、その特徴及び差異を認識できる者もいることを否定できないものの、必ずしもこれに限られるわけではなく、離隔的観察をした場合に最も印象的といい得る、大リングと小リングが一部重なるように配されている点、大リングが楕円形で、楕円の長径の一端におけるリングの肉厚が最大とされている点に注目する者も少なくないのである。そして、このような者にとって、本件商標と引用A商標とが相紛らわしいことは明らかである。
原告の上記主張は採用できず、同主張を前提とする主張もまた採用の限りでない。
(2) 構成配置の差異について 原告は、本件商標は、全体として動きの感じられない頭でっかちの不安定な印象を与えるとし、他方、引用A商標は、動的印象と安定した印象を与えるなどと主張する。
しかしながら、取引において、商標に接する取引者・需要者が、外観を、
常に一定の方向から観察するとは限らず、上下左右随意の方向から観察することもあり得ることは、我々の日常の経験が教えるところである。また、商標の使用は種々の態様で行われることは、前述のとおりである。そして、前述のとおり、取引者・需要者は、必ずしも商標の図柄の細部までにわたって正確に観察し、記憶し、
想起するものとは限らないのであり、不正確な一瞬の観察によって商品の出所を識別することもあり得るのである。
原告の主張は、注意深い看者が、外観を特定の方向から子細に観察することを前提とするものであり、これを通常の看者に敷衍することはできないから、前提において誤っており、失当というほかない。
原告のその余の主張も、上記認定判断に照らし、採用の限りでない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。
よって、本件請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充