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関連審決 無効2003-35303
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成17行ケ10324審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 先願主義 /  指定商品 /  指定役務 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  公序良俗(4条1項7号) /  4条1項10号 /  4条1項11号 /  4条1項15号 /  4条1項19号 /  不正目的(不正の目的) /  称呼(称呼類似) /  国内 /  差止 /  分割移転 /  信義則 /  商標権の分割 /  存続期間 /  無効審判 /  更新登録 /  登録異議申立 /  外国 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10337号 審決取消請求事件
原告 ジェロビタールコスメティックス エス エー
訴訟代理人弁護士 松尾和子,田中伸一郎,高石秀樹,弁理士 東谷幸浩
被告 株式会社ジーエイチスリールーマニア
訴訟代理人弁理士 菊池新一,菊池徹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35303号事件について平成16年6月30日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,商標登録に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事件であり,原告は無効審判の請求人,被告は商標権者である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,別紙商標目録1(4)のとおり,「gerovital」及び「plant」の欧文字並びに「ジェロビタール プラント」の片仮名文字とを上下三段に横書きしてなり,指定商品を商標法施行令別表第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」とする商標登録第4214319号(平成9年5月2日出願,平成10年11月27日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2) 原告は,平成15年7月22日,本件商標登録について無効審判の請求をしたところ(無効2003-35303号事件として係属),特許庁は,平成16年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年7月12日にその謄本を原告に送達した。
(3) 本件当事者間においては,関連事件として,本件の原告が,本件の被告に対し,被告の有する別紙商標目録1(1)ないし(3)記載の各商標登録について無効審判を請求したところ,本件と同様に請求不成立の審決を受けたため,その審決の取消しを求めた訴訟(平成17年(行ケ)第10323号,第10324号及び第10336号事件として当庁に係属)があり,これらの事件も同一裁判体によって同時に進行され,本件と同一期日に弁論を終結し,同一期日に判決の言渡しをするものである。
2 審決の理由の要旨 審決の理由の要旨は,以下のとおりであり,要するに,本件商標は,商標法4条1項7号,10号,15号及び19号に該当するものでないから,本件商標の商標登録は,商標法46条1項1号の規定により無効とすることはできない,というものである。
以下,本件において「ジェロビタール商標」という場合,請求人の引用各商標(判決注:引用各商標は,「Gerovital H3」,「Gerovital」及び別紙目録2(1),(2)記載の商標である。),及びこれらと同一又は類似と判断される商標であって,請求人以外の者が使用している,あるいは使用していた商標を含む広義の商標の意味で使用する。
(判決注:以下において,審判甲号証の番号は本訴甲A号証の番号と同一であり,審判乙号証の番号は本訴乙号証の番号と同一である。) (1) ジェロビタール商標の周知性又は著名性について ア 引用各商標について 請求人及び被請求人が提出した各証拠方法及び両当事者の主張の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 請求人は,ルーマニア国法人であり,その前身はブカレストの商事会社「ミラージュ エス エー(Miraj SA)」(以下「ミラージュ社」という。)であったこと(審判甲17)。
(イ) ミラージュ社は,クルージューナポカの商事会社「ファーマク エス エー(Farmec SA)」(以下「ファーマク社」という。)とともに,1992年2月21日に,「Gerovital H3/Prof. Dr. Ana Aslan」からなる商標及び引用C商標について,該商標のルーマニア国の国家機関からの権利承継人である「イメコ エス エー ブカレスト(IMECO S. A. BUCUREST)」との契約により,分割譲渡を受けたこと(審判甲15の1及び2,審判甲19並びに審判乙26ないし28)。
(ウ) このとき,ミラージュ社に分割譲渡された商品は「クレンジングミルク,トニックローション,油肌用デイクリーム(Day Cream),乾燥肌用デイクリーム,ナイトクリーム,マッサージクリーム,乾燥防止アイクリーム(Eye Cream),美顔用パック,ハンドクリーム,毛管ローション,ボディミルク,硫黄及びタールシャンプー,抗蜂巣炎クリーム,ヘアーバルサム」とされ,ファーマク社に譲渡された商品は「油性クリーム,ハーフ油性クリーム及びボディエマルジョン(乳液)」とされていること(審判甲15の1及び2)。
(エ) 請求人は,2002年10月3日に,ジーオーティーメイク株式会社と独占的代理店契約を結び(審判甲14の1),その後,この契約内容を,2003年6月25日付で修正するとともに,契約の相手方をジーオーティーメイク社の営業を承継した日本ジェロヴィタール・コスメティクス株式会社に変更したこと(審判甲14の2)。
(オ) 日本ジェロヴィタール・コスメティクス株式会社は,引用各商標を使用して,デイクリーム,ローションなどの化粧品を販売していること(審判甲11及び12)。
(カ) 引用各商標が付された,請求人の前身であるミラージュ社の商品が,被請求人により日本国内で1992(平成4)年頃に取り扱われたと推認できること(審判乙8及び32)。
(キ) 「GEROVITAL H3」(ジェロビタールH3)は,ルーマニアのアナ・アスラン(Ana Aslan,1897年1月1日生まれ91才で死亡)博士により開発,命名された老化予防・治療に効果があるとされる医薬品であり,同国においては1957年に認可され,社会主義体制下にあった同国は,この医薬品による老化予防・治療を同国を訪問する外国人に行い,アナ・アスラン博士の指導の下に「GEROVITAL H3」を使用した化粧品の開発も行われ,遅くとも1972年には工業生産されていたこと(審判甲41及び42)。
イ 被請求人と本件商標及びジェロビタール商標との関係 乙各号証及び答弁の趣旨によれば,被請求人の,本件商標及びジェロビタール商標との関わりについて以下の事実が認められる。
(ア) 被請求人は,ジェロビタールH3を受領するルーマニアツアー(ルーマニアにおけるジェロビタールH3による治療の現状視察と同国内旅行と推認される)に関して,1978年12月5日にルーマニアの旅行会社と契約をしていること(審判乙4及び5)。
(イ) 被請求人により,「GEROVITAL-H3」の文字よりなり,指定商品を第4類「化粧品,その他本類に属する商品」とする商標登録出願が,昭和54(1979)年3月26日になされ,これが登録第1669925号商標として昭和59年3月22日に登録されたこと(審判甲2。以下,この登録商標を「被請求人先行登録商標」という。)。
(ウ) 被請求人に対する化粧品輸入販売業の許可が,厚生大臣により昭和60年4月15日になされ,これが現在(東京都知事認可)まで継続していること(審判乙6)。
(エ) 上記の輸入化粧品が「ジェロビタールH3フェイスクリーム」,「ジェロビタールH3ヘアーローション」等であり,輸入相手方がルーマニアのファーマク社であること(審判乙7)。
(オ) 被請求人は,1992(平成4)年1月頃にミラージュ社と「頭髪用化粧品類,パック類」について取引をしていたこと(審判乙8及び32)。
(カ) 1985年11月及び1986年に,被請求人は,「ジェロビタールH3フェイスクリーム」,「ジェロビタールH3ヘアーローション」に関して,ルーマニア国立輸出入公団「CHIMICA」との間で日本における代理人契約を締結したこと(審判乙11及び12)。
(キ) 被請求人は,ジェロビタール商標についてのルーマニアにおける商標権者2社の一方であるファーマク社とジェロビタール商標を使用した商品について,2003年6月27日現在,取引を継続しており,この取引に関してファーマク社はジェロビタール商標について,被請求人が日本で商標権を取得していることを知っていること(審判乙17)。
ウ 引用各商標ないしジェロビタール商標の周知性又は著名性について (ア) 以上によれば,引用各商標については,被請求人により取り扱われたもの(審判乙8及び32)を除けば,請求人の商品として取り扱われたのは,2002(平成14)年10月3日のジーオーティーメイク株式会社との契約以降であると認められることから,引用各商標が,本件商標登録出願の日である平成9年5月2日以前に広く認識され,又は著名となっていたとすることはできない。
(イ) また,ジェロビタール商標が本件商標の登録出願前に,アナ・アスラン博士あるいはルーマニア政府の取扱いにかかるものとして,我が国で紹介されていたといえるのは審判甲41及び42並びに審判乙2及び3に示される出版物における記述のみであり,これらをもってしては,ジェロビタール商標が,本件商標の登録出願前に,我が国でアナ・アスラン博士あるいはルーマニア政府の取扱いにかかるものとして,広く認識され,又は著名になっていたとするには十分ではない。
(2) 不正の目的について 請求人は,被請求人の本件商標の取得行為には不正の目的がある旨主張しているので,以下この点について検討する。
ア 請求人は,「本件商標権者は,ルーマニアの財産ともいうべき薬品及び化粧品の名称と同一の商標を,ルーマニア政府当局,請求人及びアナ・アスラン博士らの何らの承諾を得ることなく,我が国において無断で勝手に商標登録した。」と主張している。
そこで検討するに,審判乙1ないし5を総合すれば,被請求人は,ルーマニア政府ないし同国の観光会社と,日本からの観光客を招く事業において関係をもっていたことが確認でき,また,ルーマニア大使館・政府による感謝状・表彰状を受けていること(審判乙14及び15)及び,被請求人の代表者がルーマニア要人の日本への入国に際して保証人となっていることをみれば,被請求人は,ルーマニア国と全く無関係の者とはいえず,被請求人が,本件商標を登録出願し,商標登録を受けた一連の行為において,ルーマニア国との国際信義を損なう行為があったということはできない。
また,ジェロビタール商標は,現在,ルーマニア政府の権利に係る商標ではなく,同国のミラージュ社とファーマク社の両商標権者の権利として分割されていること前述のとおりであり,被請求人は,その一方の権利者であるファーマク社と取引をしてきていること前記(1)イで認定したとおりである。
そうとすれば,当該政府機関等の証明書(審判甲35ないし38)があるとしても,この各号証のみによっては,被請求人が,本件商標を登録出願し,商標登録を受けた一連の行為において不正の目的があったとすることはできず,上記の請求人の主張は,採用することができない。
イ ルーマニアにおける商標権者2社の一方であるファーマク社は,本件商標を被請求人が取得していることを知っており(審判乙17),同社がそのことに対して異議を唱えている事実は認められない。
そうとすれば,被請求人による本件商標の登録出願及び登録取得行為については,ファーマク社との関係においても不正の目的があったとすることはできない。
ウ 請求人は,「被請求人は,商標権者の地位を濫用して,請求人が日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社を我が国における正規の独占的代理人として指定し,引用各商標を使用して営業活動を展開することを妨害している。このような被告の行為は,正当な権利行使の枠を逸脱するものというべきである。」,「請求人の我が国における独占的代理人である日本ジェロヴィタール・コスメティクス株式会社は,上述の営業妨害に会い,これによって,請求人の商品の国内参入は阻まれており,明らかに,『不正の目的』をもって使用するものである。」,「被請求人は,請求人の真正なジェロビタール化粧品を輸入する日本ジェロビタール・コスメティクス株式会社の輸入・販売を当該商標権を利用して妨害しており,明らかに,自己のみが,ファーマク社の不真正なジェロビタール化粧品を輸入するために商標権を取得・行使しており,そもそも本件商標を不正の目的によって取得していることに疑いない。」旨主張している。
たしかに,被請求人は,請求人及びその前身であるミラージュ社が,ルーマニアにおけるジェロビタール商標についての一方の権利者であ(った)ることを知悉しており,かつミラージュ社とも商取引をしていたこと(審判乙8及び32)からすれば,請求人が主張するないしは審判甲39に示される被請求人の行為の相手先が,請求人ないしはその取引相手である日本ジェロビタール・コスメティクス株式会社を指していうのであれば,そのような行為については,上記の事情及びミラージュ社との取引の経緯に照らせば信義則に反する行為といえなくもない。
しかしながら,本件商標の登録出願の日は,請求人がジーオーティーメイク株式会社と独占的代理店契約を結んだ2002(平成14)年10月3日(審判甲14の1)より5年以上前の,平成9年5月2日であり,この時点で,被請求人が,請求人による本件商品をもってする日本進出を予想していたとは認められず,それゆえ,被請求人が,請求人の日本進出を予想し,それを妨害する目的で本件商標を登録出願したとまではいうことができない。そして,これに反する証拠はない。
したがって,上記の請求人の主張は採用することはできない。
エ 請求人は,審判甲34及び46外を提出し,被請求人先行登録商標の権利化の経緯からすれば本件商標の登録出願の行為には不正の目的があった旨主張している。
しかしながら,本件商標の登録出願及び登録取得行為に不正の目的が認定し得ないこと前記のとおりであり,被請求人先行登録商標の取得行為に不正の目的があったとも認め得る証拠はない(・・・)。仮にそうではないとしても,被請求人の本件商標の取得に至る前記(1)イの一連の行為及びファーマク社による審判乙17等にみられる対応に照らせば,商標権者による本件商標の登録出願及び登録取得行為に不正の目的があったとすることはできない。
オ 以上によれば,被請求人による本件商標の登録出願及び登録を得た行為に不正の目的があったとまでは認定し得ない。
(3) 請求人が主張する無効理由について ア 商標法4条1項10号及び15号該当性について 本件商標は,その構成中に「gerovital」,「ジェロビタール」の文字部分を有し,この文字部分は,引用各商標の「Gerovital」,「GEROVITAL」の文字部分と綴りが一致し,称呼が一致するものである。
しかしながら,前記(1)で認定したとおり,本件商標が登録出願された当時,引用各商標ないしジェロビタール商標は,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたとはいえないから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当しない。
また,前記(1)で認定したとおり,本件商標が登録出願された当時,我が国においてジェロビタール商標が著名であったということもできないから,本件商標は,その構成中に「gerovital」,「ジェロビタール」の文字部分を有していても,これをその指定商品に使用した場合,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとすべき理由があるとはいえず,商標法4条1項15号にも該当しない。
イ 商標法4条1項7号該当性について 前記(2)で認定のとおり,本件商標は,不正の目的をもって使用をするものでなく,また,本件商標の商標登録の前後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとの事実は認められない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。
ウ 商標法4条1項19号該当性について 引用各商標は,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえず,また,前記(2)で認定したとおり,本件商標は,不正の目的をもって使用をするものとはいえないから,商標法4条1項19号に該当しない。
エ 本件商標の登録に関して請求人の承諾を得ていないことについて 請求人は,「ジェロビタール商標の商標権は,ルーマニアにおいて現在,請求人とファーマク社の2社に正当に承継されており,被請求人は,本件請求人の承諾を何ら得ることなく,本件商標を,化粧品すべてに商標登録し,請求人の真正なジェロビタール化粧品の我が国への輸入を妨害している。 被請求人の本件商標の取得は,不正の目的を有し,正当商品の流通を阻害し,国際信義に反するものであることは明らかである。」旨主張している。
しかしながら,前記(1)イで認定したように,被請求人には,社会主義国時代のルーマニア政府及びファーマク社との関係において,ジェロビタール商標について同人主張の事情があったことが認められ,かつ,請求人の日本への進出との関係では,それより5年以上以前の本件登録出願の行為に,請求人との関係で不正の目的があったといい得ないこと前記(2)で認定したとおりである。
そうであれば,周知・著名性が獲得されていない引用各商標と類似する本件商標の日本での登録を,請求人が許諾していないとの理由のみをもってしては,先願登録主義を旨とする我が国商標法の制定の全趣旨に照らし,請求人の主張を採用するに由なしとせざるを得ない。そして,このことは,審判乙31に係る商標登録出願人とファーマク社との関係においても,この商標登録出願に不正の目的が認められない限り,同様である。
オ ジェロビタール商標使用商品と「ノボカイン」について 請求人は,「ファーマク社が分割譲渡された上記の化粧品は,すべて,『ノボカイン』という化学物質を含むものに限定されており,これは,我が国では,薬事法上,化粧品について使用の認可がなされていないから,ファーマク社を通した化粧品は我が国には輸入できない。」,「被請求人が同意を得たという,ファーマク社の商標権は,分割契約上,『ノボカインを含む,油性クリーム・ハーフ油性クリーム・ボディエマルジョン(乳液)』に限定されており,被請求人が,『化粧品』すべてについて,本件商標の商標権を取得する根拠は全く存しない。」と主張している。
しかしながら,商標登録出願ないし登録商標の指定商品の範囲は,日本の商標法に基づいて出願人(商標権者)が指定するものであり,ルーマニアにおける商標権の分割譲渡契約の内容により本件商標の指定商品の範囲が限定されるとはいえないものである。
また,たとえ,被請求人の取扱いにかかる輸入商品が,我が国の法令に照らして輸入が禁止されることがあったとしても,そのことにより本件商標に無効理由が存在するとの根拠は認められない。
したがって,上記の請求人の主張は採用することはできない。
(4) 審決の結論 以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項7号,10号,15号及び19号に該当するものでないから,本件商標の商標登録は,商標法46条1項1号の規定により無効とすることはできない。
当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由 (1) 取消事由1(商標法4条1項10号についての判断の誤り) 「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として,日本においても,本件商標の商標登録出願当時既に需要者に広く認識されていたから,審決が「本件商標が登録出願された当時,引用各商標ないしジェロビタール商標は,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたとはいえないから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当しない。」と判断したことは,誤りである。
「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであり,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,日本においても,本件商標の商標登録出願の20年以上も前から既に需要者に広く認識されていたところ,化粧品等を指定商品とし,「gerovital」の欧文字と「ジェロビタール」の片仮名文字を含む本件商標は,上記商標と同一の商標又はこれに類似する商標である。
(2) 取消事由2(商標法4条1項15号についての判断の誤り) 本件商標は,これをその指定商品に使用すると,アナ・アスラン博士の発明した商品又はアナ・アスラン博士に関係のある商品であるかのように混同を生じさせるおそれがあるから,審決が「本件商標が登録出願された当時,我が国においてジェロビタール商標が著名であったということもできないから,本件商標は,・・・これをその指定商品に使用した場合,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとすべき理由があるとはいえず,商標法4条1項15号にも該当しない。」と判断したことは,誤りである。
上記(1)のとおり,「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであり,これを開発したアナ・アスラン博士の氏名並びに「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,日本においても,本件商標の商標登録出願の20年以上も前から既に需要者に広く認識されていたから,本件商標をその指定商品に使用すると,アナ・アスラン博士の発明した商品又はアナ・アスラン博士に関係のある商品であるかのように混同を生じさせるおそれがある。
(3) 取消事由3(商標法4条1項7号についての判断の誤り) 本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるから,審決が,「本件商標は,不正の目的をもって使用をするものでなく,また,本件商標の商標登録の前後においても公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとの事実は認められない。」としたことは,誤りである。
ア 被告は,昭和54年3月26日,別紙商標目録1(1)記載の商標について指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第4類「化粧品,その他本類に属する商品」とする商標登録出願をして,昭和59年3月22日,その設定登録(商標登録第1669925号,審決の「被請求人先行登録商標」と同一であり,以下「被告先行登録商標」という。)を受けたが,その商標登録出願について,「GEROVITAL H3」の医薬品及び化粧品を管理しているルーマニアの医薬品,化粧品,顔料及び塗料中央局(Centrala Industriala Medicamente, Cosmetice Coloranti Si Lacuri,以下「CIMCCL」という。)がした商標登録異議の申立てに対し,CHIMICAに連絡することなく,「Gerovital H3」からなる商標の周知性を否定してCIMCCLの申立てを争うとともに,CHIMICAが被告の商標登録出願に同意していないにもかかわらず,これに同意していたと主張して,商標登録出願とは関わりのない「秘密保管のための合意書」(甲A46に添付のもの)を証拠として提出した。被告は,このように,CIMCCLの意思に反し,かつ,CHIMICAの同意がないのにこれを得たと称して偽りの合意書を提出して,被告先行登録商標の商標登録を受け,これにより,ルーマニアとの取引を不当に独り占めし,被告以外の第三者に対して販売されないようにしたのであり,現に,被告先行登録商標に係る商標権及び本件商標権に基づき,ルーマニアから「GEROVITAL H3」を付した化粧品(以下「ジェロビタール化粧品」という。)を輸入し,あるいはこれを使用する行為を,限度を超えてまで執拗に阻止しているから,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていることは明らかである。
イ 上記(1)のとおり,「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであり,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,日本においても,本件商標の商標登録出願の20年以上も前から既に需要者に広く認識されていた。
被告は,被告先行登録商標の商標登録出願をし,CIMCCLがした商標登録異議の申立てに対抗までして,商標登録を受けた上,本件商標の商標登録を受けたが,さらに,@「ジエロビタール H3」の片仮名文字と「GEROVITAL H 3」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第29類の「茶,コーヒー,ココア,清涼飲料,果実飲料,氷」とする第1713041号,指定商品を同別表第32類の「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品」とする第1950211号,指定商品を同別表第28類の「酒類」とする第2089004号及び指定商品を商標法施行令別表第39類の「鉄道等による輸送,車両による輸送・・・」とする第4639378号の商標登録を,A別紙商標目録1(2)のとおり,「ジェロビタール」の片仮名文字と「GEROVITAL」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第4類の「せっけん類(薬剤に属するものを除く。)歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く。)香料類」とする第1950727号の商標登録を,B別紙商標目録1(3)のとおり,「アナ アスラン」の片仮名文字と「Ana Aslan」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる指定商品を商標法施行令別表第3類の「家庭用帯電防止剤・・・化粧品,香料類・・・」とする第4658466号の商標登録をそれぞれ受けているところ,これらの一連の行為をみると,被告は,「GEROVITAL H3」の著名性や周知性を熟知していたからこそ,ルーマニアとの取引を妨害されないよう無断で商標登録を取得したものであり,被告が専ら自己の利益を追求しようとしているのは明らかであって,被告の行為は,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるから,本件商標は公序良俗を害するものである。
(4) 取消事由4(商標法4条1項19号についての判断の誤り) 上記(1)ないし(3)に述べたところによれば,「GEROVITAL H 3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであり,また,被告が不正の目的をもって本件商標の使用をするものであることは明らかであるから,審決が,「引用各商標は,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえず,また,・・・本件商標は,不正の目的をもって使用をするものとはいえないから,商標法4条1項19号に該当しない。」と判断したことは,誤りである。
2 被告の反論 (1) 取消事由1(商標法4条1項10号についての判断の誤り)に対して 「GEROVITAL H3」が,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであるとしても,日本において,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願当時未だ需要者の間に広く知られていなかった。
(2) 取消事由2(商標法4条1項15号についての判断の誤り)に対して 上記(1)のとおり,「GEROVITAL H3」が,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであるとしても,日本において,アナ・アスラン博士の氏名並びに「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願当時未だ需要者の間に広く知られていなかったから,本件商標をその指定商品に使用しても,アナ・アスラン博士の発明した商品又はアナ・アスラン博士に関係のある商品であるかのように混同を生じさせるおそれはない。
(3) 取消事由3(商標法4条1項7号についての判断の誤り)に対して ア 被告は,CIMCCLが被告先行登録商標についてした商標登録異議の申立てに対し,CHIMICAに口頭で連絡したところ,CHIMICAから,被告側で処理してほしいとの指示を受けたので,CHIMICAとの間の契約を履行するためには,商標登録を受ける必要があった関係上,周知性を否定して争ったにすぎないものであり,自己のために不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的があったというわけではない。しかも,当時,CHIMICAの許可がなければ化粧品を輸入することができず,ルーマニア側が被告による輸入の可否を決定することができたから,CIMCCLとしても,被告に問題があると判断すれば,CHIMICAに対し,被告との契約を解除するよう指示すれば足りたのであり,そうであれば,被告がルーマニアに不利益となるような商標登録を受けることは,自己の立場を危うくすることを意味するから,被告がそのような行動をとることはあり得ないところである。
ファーマク社は,ルーマニアにおいて,別紙商標目録2(1)記載の商標の商標登録を受けているところ,被告は,ファーマク社からジェロビタール化粧品を輸入しこれを販売しているのであって,外国の権利者の国内参入を阻止しようとする意思はなく,また,商標権の侵害行為を阻止しようとするのは権利者として当然のことであるから,被告が不当な目的で本件商標の使用をしているものではない。
イ 上記(1)のとおり,「GEROVITAL H3」が,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なものであるとしても,日本において,アナ・アスラン博士の氏名並びに「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願当時未だ需要者の間に広く知られていなかった。また,被告は,被告先行登録商標及び本件商標のほかに,原告が上記1(3)イで主張する商標登録を受けているが,これにおいても,不正な目的があったわけではなく,また,被告の行為が,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるものでもないから,本件商標が公序良俗を害するとはいえない。
(4) 取消事由4(商標法4条1項19号についての判断の誤り)に対して 上記(1)ないし(3)に述べたところによれば,被告が不正の目的をもって本件商標の使用をしているということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項10号についての判断の誤り)について (1) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 「GEROVITAL H 3」について アナ・アスラン博士(1897年(明治30年)1月1日生,1988年(昭和63年)5月19日死亡)は,ルーマニアの国立アカデミー会員,医学博士・理学博士であったところ,1946年(昭和21年)から1956年(昭和31年)にかけて,老化予防,治療に効果のある医薬品を開発し,これにラテン語で「老いる」を意味する「gero」,「生命(力)」を意味する「vital」とビタミン類似の種々の効果を暗示する「H3」を合成した「GEROVITAL H 3」と名付けた。
また,アナ・アスラン博士は,「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品を開発し,1960年代後半ころから,マクロース社(MACUL ROSU)が製造を開始した。
なお,マクロース社は,1972年(昭和47年)に名称を「ミラージュ エス エー(Miraj SA)」(ミラージュ社)に変更し,さらに,その後,現在の原告の名称である「ジェロビタール コスメティックス エス エー(Gerovital cosmetics SA)」に変更した。
(甲A17,41,42,52,66,127,148) イ 「GEROVITAL H3」等の我が国における周知著名性について (ア) アナ・アスラン博士が開発した「GEROVITAL H3」は,1957年(昭和32年)にルーマニア厚生省から認可を受け,その後,アメリカ,ドイツ,フランス等の50を超える国々で認可を受けた。また,「GEROVITAL H3」を使用した基礎化粧品は,マクロース社が製造し,国内で販売していたが,1968年(昭和43年)ころからは,オランダ,ユーゴスラビア,イギリス,スイス,イタリア及びリベリア等に輸出するようになった。
(甲A41,42,52,71ないし77,151ないし167) (イ) 日本において,本件商標の指定商品の取引者及び需要者が接するものと認められる一般に発売されている新聞,雑誌等には,「GEROVITAL H3」に関して,次のような記事が掲載されている。
a 新聞 @ 昭和54年4月10日発行の「朝日新聞」(甲A59,乙45の92頁)に,「新商法「長寿ツアー」」,「費用96万円安いもの?」との見出しの下に,被告が催したルーマニアにおけるジェロビタールH3治療の参加者との対談記事が掲載されている。
A 昭和54年8月13日発行の「日本経済新聞」(甲A58,乙45の91頁)に,「不老長寿を売る」,「金持ち老人夢を求めて」との見出しの下に,被告の考え出した「ジェロビタール(老いの活力)」を使った長寿ツアーが2週間の滞在で費用が96万円であること,これまでに20人の日本人がやってきたことなどを記載した記事が掲載されている。
B 昭和54年8月15日発行の「報知新聞」(甲A60の4,乙45の95頁)に,「長寿ツアー 高齢化の先取り 秘薬を求めて・・・ ルーマニアへ」,「信じる者は救われる?車イスもいらなくなる?」,「その名ジェロビタールH3」,「効能なんとなんと,神経痛から胃かいようまで」との見出しの下に,被告が1月から3回企画した長寿ツアーに100人の志願者が集まったことなどが記載された記事が掲載されている。
C 昭和54年9月2日,15日,30日,10月14日,11月25日及び12月9日発行の「日中友好新聞」(甲A60の1ないし3,乙45の96ないし98頁)に,「長寿薬ジェロビタールと漢方 ルーマニア訪問記」との表題のコラムが6回にわたり掲載されている。
D 昭和54年10月5日発行の「夕刊フジ」(乙45の94頁)に,「ルーマニアへ若返り<cアー」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がサラリーマン向けの正月プランを企画していることなどを記載した記事が掲載されている。
E 昭和55年2月21日発行の「毎日新聞」(乙45の108頁)に,「ルーマニア自慢の薬≠投与」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,ルーマニアに療養コースがあり,日本からのツアーに加わると約100万円かかること,日本からのツアーはいくつかの旅行者が扱っているが,医学的な問題については,被告が教えてくれることなどを記載した記事が掲載されている。
F 昭和55年3月7日発行の「読売新聞」(甲A60の4,乙45の95頁)に,「豪華施設に泊まり老化に万能秘薬」との見出しの下に,ジェロビタール治療の概要を紹介する記事が掲載されている。
G 昭和63年6月22日発行の「日本経済新聞」(甲A225,乙45の111頁)に,「美しさと若さ求めて女性版101<cアー」との見出しの下に,被告がルーマニアのブカレストへの治療ツアーを年4回企画していることなどを記載した記事が掲載されている。
b 週刊誌 @ 読売新聞社の昭和51年10月30日発行の「週刊読売」(甲A82)に,「ルーマニアが元祖の「不老長寿薬」に300万円投ずる政財界人の期待ぶり」,「毛主席も治療を受けていた」,「効果≠フ医学的証明は困難」,「へんに秘薬扱いしないこと」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が老化防止の薬であるGH3を発見したこと,ジャパンライフメディカルセンターが同年12月からの実行を計画している「GH3ツアー」が300万円であることなどを記載した記事が掲載されている。
A 新潮社の昭和52年4月14日発行の「週刊新潮」(甲A81)に,「『老化防止薬GH3』の効果-ルーマニアで二十七年前に生まれて-」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が同月1日に来日したこと,同博士が老化防止薬「ジェロビタール(GH3)を発見したこと,「日本では専門学者が「外国の文献はあっても,独自のデータはまったくない」という状況にある。」ことなどを記載した記事が掲載されている。
B 光文社の昭和52年4月28日発行の「女性自身」(甲A88)に,「これが謎の若がえり新薬「GH3」です!」,「アナアスラン博士(ルーマニア,80歳)が来日,発表。はたして本当にきくのだろうか?」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が不老長寿の薬であるGH3を発見したこと,「マニラ滞在3週間の若返りツアー≠ネどが企画され,・・・芸能人,財界人,政治家など,参加希望者が殺到。ただし費用は300万円。」などを記載した記事が掲載されている。
C 新潮社の昭和52年7月7日発行の「週刊新潮」(甲A87)に,「マニラ『不老長寿の旅』-例のGH3を求めた二十三人-」との見出しの下に,GH 3を開発したアナ・アスラン博士が4月に来日したこと,「日本では学者が,「臨床例もないので,許可どころか,評価もできない」段階にある。」こと,マニラでのGH3による老化防止の治療が総額300万円であることなどを記載した記事が掲載されている。
D 朝日新聞社の昭和52年9月30日発行の「週刊朝日」(甲A83)に,「300万円若返りの秘薬(ジェロビタールH3)<cアーモテモテの幻惑商法」との見出しの下に,アナ・アスラン博士が老化防止の薬であるGH3を発見したこと,ジャパンライフメディカルセンターが「二十一日間老化防止と若返りの旅」を募集していることなどを記載した記事が掲載されている。
E 東洋経済新報社の昭和53年7月22日及び昭和54年1月13日発行の「週刊東洋経済」(甲A57の1及び56,乙45の39頁及び47頁)に,「ルーマニアの長寿薬(1)『ジェロビタールH3,アスラビタール』について」,「ルーマニアの長寿薬(3)「長寿旅行」はいかが?」との表題のコラム,同年12月8日及び同月15日発行の「週刊東洋経済」(甲A57の2及び3,乙45の41頁及び43頁)に,「ルーマニア訪問記(T)」,「ルーマニア訪問記(U)」との表題のコラム,昭和55年1月12日及び同月19日発行の「週刊東洋経済」(甲A57の4及び5,乙45の45頁及び49頁)に,「ジェロビタールと漢方(1)」,「ジェロビタールと漢方(2)」との表題のコラムが掲載されている F 昭和54年2月15日発行の「週刊アサヒ芸能」(甲A90,乙45の51頁)に,「五十数ヵ国では認可されているという妙薬?」,「ウソかマコトか96万円で買えるという不老長寿薬の中身」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告が3月からの募集を計画しているツアーが96万円であることなどを記載した記事が掲載されている。
G 講談社の昭和54年7月5日発行の「週刊現代」(甲A84,乙45の59頁)に,「世界中で話題のルーマニア「長寿医療(ジェロビタール治療)」を受けた日本人のその後」,「七十代が五十代に若返り」,「不眠症,肩こり,肥満も克服」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告が催したルーマニアでの治療ツアーの参加者がGH3治療によって効果を上げたことなどを記載した記事が掲載されている。
H 毎日新聞社の昭和54年10月7日発行の「サンデー毎日」(甲A85,乙45の63頁)に,「やや!不老長寿治療」,「「毛沢東」も治療を受けた?」,「命の洗濯≠ェ何よりの薬!」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がルーマニア政府とタイアップし,観光を兼ねたツアーとして治療を売り出し,3月からは日本交通公社が加わって「長寿と若がえりの旅」を商品化したことなどを記載した記事が掲載されている。
I 光文社の昭和56年3月12日発行の「女性自身」(甲A89,乙45の71頁)に,「10歳若返るという驚異の医学ツアー」との見出しの下に,GH3治療の創始者であるアナ・アスラン博士との対談を記載した記事が掲載されている。
J 昭和57年2月4日発行の「週刊アサヒ芸能」(乙45の53頁)に,「GH3治療ならびにルーマニア医療ツアーについて」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,日本からのGH 3治療のツアーは,過去4年間に17回組まれて,200人以上の人が参加していることなどを記載した記事が掲載されている。
K 読売新聞社の昭和57年2月21日発行の「週刊読売」(甲A86,乙45の73頁)に,「驚異の延命薬「ジェロビタール」を求めて欧米,日本から信奉者が訪れていた」,「記憶力低下,ストレス解消に」,「あの方も若者みたいな兆候が」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,国立クリニックホテル・フローラの宿泊者はすべて治療客で,ジェロビタールの卓効をきいて世界各地からやってきていることなどを記載した記事が掲載されている。
L 新潮社の昭和63年7月7日発行の「週刊新潮」(甲A216)に,「美容と若返り≠うたい文句にした女性の海外治療ツアーが人気を集めている。」,「美容・老化防止薬『ジェロビタール』の輸入代理店『レッツ・ジェロビタール』が年四回企画しているもの。」とのコラムが掲載されている。
M 読売新聞社の平成元年6月11日発行の「週刊読売」(甲A217)に,「中国の「101」がなんだ! ルーマニアの「ジェロビタールH3」を知っているか!?」との見出しの下に,頭髪剤を紹介するコラムが掲載されている。
N 毎日新聞社の平成元年9月10日発行の「サンデー毎日」(甲A224)に,「ルーマニアに新しい伝説 現代医学が不老長寿=vとの見出しの記事とそれに続く同月24日,10月1日,11月19日,12月10日及び17日発行の「サンデー毎日」(甲A219ないし223)に,「不老長寿の旅3 不老長寿の秘密」,「不老長寿の旅4 VIP極秘病棟」,「不老長寿の旅11 再び治療に専念して」,「不老長寿の旅14 体験者たちの実感」,「不老長寿の旅15 予防医学のルーマニア」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発見したこと,日本人がルーマニアに不老長寿を求めて旅立つようになってから11年目で,延べ約1800人になったことなどを記載した連載記事が掲載されている。
c 月刊誌その他の雑誌等 @ 日本化学会の昭和54年3月1日発行の「化学と工業」(甲A55)に,「老化予防薬としての塩酸プロカイン製剤-ジェロビタールH3について-」との題名のアナ・アスラン博士の論文が掲載されている。
A 「Mr.DANDY ミスター・ダンディ」昭和54年3月号(甲A91,乙45の15頁)に,「ルーマニアの秘薬 GH3とは何か」との見出しの下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,被告がルーマニアでの治療を100万円で募集していることなどを記載した記事が掲載されている。
B 昭和54年11月1日,昭和55年1月1日発行の「月刊せんば」(乙45の20頁,30頁)に,「ルーマニアGH3(ジェロビタール)治療を探る」との表題の下に,ジェロビタール治療の概要を紹介する記事が掲載されている。
C 昭和55年1月1日発行の「月刊海外旅行情報」(乙45の33頁)に,「にわかに話題を集めるルーマニアへの「長寿と若返りの旅」」との表題の下に,被告が企画するジェロビタールH3治療ツアーを紹介する記事が掲載されている。
D 中央マーケティング研究所の昭和55年1月1日発行の「健康産業情報」(乙45の35頁)に,「GH3治療のツアー サンコーパックが代理業務を開始」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,Yがジェロビタール治療の日本における普及と集客を目的として被告を設立し,その募集により,前年3月25日に12名,4月27日に13名が出発したことなどを記載した記事が掲載されている。
E 「わたしの健康」昭和55年10月号(乙45の2頁,9頁)に,「★ルーマニア治療ツアー同行取材」,「現代の不老長寿薬ジェロビタールH3に奇跡を見た!!」との表題の下に,ジェロビタールH3治療のツアーの同行記が掲載され,また,「老化をストップする薬ジェロビタールH3の秘密」,「ルーマニアの若返り治療≠サの驚くべき効果を探る」との表題の下に,GH3治療の創始者であるアナ・アスラン博士との対談,ジェロビタールH3治療の実例や参加者の体験談が掲載されている。
F 日本医事新報社の昭和55年12月27日発行の「日本醫事新報」(甲A54)に,「「老年病」,「老化予防医学」研究を探る14日間の旅」の広告の中に,「ルーマニアにおけるGH3(ジエロビタール)治療,・・・をつぶさに見聞しようとする試みです。」との記載がある。
G 昭和58年1月1日発行の「健康時代」(乙45の23頁)に,「不老長寿の薬がほんとうにあった!?」との表題の下に,アナ・アスラン博士がGH3を発明したこと,高齢化時代の海外旅行として注目されているのが「ジェロビタールH3療法」を兼ねたルーマニアへの長寿,健康の旅で,一切の経費が96万円であることなどを記載した記事が掲載されている。
H 小学館の平成元年5月18日発行の「DIMEダイム」(甲A218)に,「ちょっと髪の毛が気になる恒くんの情報 臭くないから安心なんだ,アレよりも ルーマニアの101<Wェロビタール」との見出しの下に,養毛剤を紹介する記事が掲載されている。
(2) アナ・アスラン博士は,昭和52年及び翌53年に来日し,また,被告によるジェロビタールH3治療を目的とするパックツアーは,昭和54年3月から開始されたものであるが,上記(1)の事実によると,「GEROVITAL H3」に係る記事は,昭和51年10月30日発行の「週刊読売」にはじめて掲載され,昭和52年から昭和55年までの間に,上記のアナ・アスラン博士の来日やジェロビタールH3治療を目的とするパックツアーを取り上げて,断続的に掲載されたものの,その後はほとんど掲載されなくなり,平成2年以降はこれを掲載した新聞,雑誌等がない。そして,新聞,雑誌等に掲載されたものをみても,そのほとんどが長寿薬,不老長寿,費用が96万円の治療ツアーなど専ら興味本位の内容で構成されていて,これらが強く読者の注意を惹いてしまい,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品としての「GEROVITAL H3」それ自体やこれを開発したアナ・アスラン博士について格別の印象を与えるようなものではない。これらの事情にかんがみると,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」が,本件商標の登録出願日(平成9年5月2日)及び登録査定日(甲A7により,平成10年8月19日であると認められる。)の当時において,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品を表すものとして,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められないし,アナ・アスラン博士の氏名が,本件商標の登録出願日及び登録査定日の当時において,「GEROVITAL H3」の開発者として,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められない。
(3) 上記(2)に判示したところによれば,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願日及び登録査定日の当時,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当しない。
したがって,商標法4条1項10号についての審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号についての判断の誤り)について 上記1(2)に判示したところによれば,アナ・アスラン博士の氏名並びに「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願日及び登録査定日の当時,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないのであって,そうであれば,本件商標をその指定商品に使用したとしても,アナ・アスラン博士の発明した商品又はアナ・アスラン博士に関係のある商品と混同を生ずるおそれがあるとは認め難いから,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。
したがって,商標法4条1項15号についての審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(商標法4条1項7号についての判断の誤り)について (1) 商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨規定する。ところで,同号は商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
これを本件についてみるのに,本件商標それ自体には公序良俗違反がないので,以下,本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるかどうかについて,判断する。
(2) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 「GEROVITAL H3」とその商標 (ア) ルーマニアの国家機関である食品産業省供給販売局(Directia Gnerala De Aprovisionare Si Defacere)は,1966年(昭和41年),ルーマニアにおいて,別紙商標目録2(1)記載の商標につき,商品を「GEROVITAL H3を基礎としたヘアローションその他の化粧品」とする商標登録を受けた。上記登録商標は,その後,CIMCCLに移転され,さらにイメコ エス エー ブカレスト(IMECO S. A. BUCUREST)に移転された後,1992年(平成4年)2月21日,ミラージュ社とファーマク社とに分割して移転された。この分割移転により,ミラージュ社が取得したのは,商品を「ノボカイン又はノボカインの加水分解物を含むクレンジングミルク,トニックローション,油肌用デイクリーム(Day Cream),乾燥肌用デイクリーム,ナイトクリーム,マッサージクリーム,乾燥防止アイクリーム(Eye Cream),美顔用パック,ハンドクリーム,毛管ローション,ボディミルク,硫黄及びタールシャンプー,抗蜂巣炎クリーム,ヘアーバルサム」とするものであり,ファーマク社が取得したのは,商品を「ノボカインを含む油性クリーム,ハーフ油性クリーム及びボディエマルジョン(乳液)」とするものである。また,上記商標については,1972年(昭和47年)6月13日にCIMCCLが商品を「頭髪用ローション及び化粧品」として世界知的財産所有機関に登録し,その後,イメコ社を経て,1992年(平成4年)8月17日,分割譲渡によりミラージュ社が商品を「頭髪用ローション,美容クリーム及び体用乳液」とし,ファーマク社が商品を「塩酸プロカインベースの化粧品」とする登録をしている。
なお,CIMCCLは,昭和35年5月27日,日本において,「Gerovital H3」,「Prof. Dr. Ana Aslan」からなる商標について,指定商品を「プロカイン酸その他の化学品の滋養強壮剤」等とする商標登録出願をして,昭和37年9月11日にその設定登録(商標登録第596564号)を受け,昭和47年5月22日に更新登録の出願をしたが,その後は更新登録の請求をせず,昭和57年9月11日にその存続期間が終了した。
(甲A15の1及び2,18,19,31,33,49,乙18,19の1,2,25,27ないし30) (イ) ミラージュ社は,「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標に関し,カナダ(「Gerovital H3」と図形 (商標の具体的な構成は明らかでない。)の商標につき,1994年(平成6年)10月19日に出願。),大韓民国(別紙商標目録2(2)記載の商標につき,オイリー肌用クレンジングミルクほかを指定商品として,1995年(平成7年)11月23日に登録。),アメリカ(別紙商標目録2(2)記載の商標につき,クレンジングミルク等を指定商品として,1997年(平成9年)1月14日に登録。),レバノン(別紙商標目録2(3)記載の商標につき,石鹸等を指定商品として,1993年(平成5年)5月13日に出願。),オーストラリア(別紙商標目録2(1)記載の商標につき,化粧品等を指定商品として,1982年(昭和57年)6月15日に登録。),スウェーデン(別紙商標目録2(3)記載の商標につき,国際分類3類化粧品を指定商品として,1996年(平成8年)8月16日に登録。),南アフリカ(「GEROVITAL H-3」につき,油肌用クレンジングミルク等を指定商品として,1994年(平成6年)8月30日に出願。),エクアドル(「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」につき,国際分類3類化粧品を指定商品として,1995年(平成7年)1月20日に登録。),フィンランド(別紙商標目録2(3)記載の商標につき国際分類3類を指定商品として,1994年(平成6年)5月20日に登録。)等の国々において,商標登録を受けている。
ファーマク社は,同様に,ヨルダン(別紙商標目録2(2)記載の商標につき,化粧品を指定商品として,2000年(平成12年)7月23日に出願。),デンマーク(「Gerovital H 3 Prof. Dr. Ana Aslan」につき,フェイスクリーム等を指定商品として,1996年(平成8年)9月6日に登録。),レバノン(「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」(「Gerovital」は2本の平行線の間に記載され,文字の上には署名として「Prof. Dr. A. Aslan」と記載され,下段には「H3」と記載されている。)につき,国際分類3類化粧品を指定商品として,1999年(平成11年)6月1日に出願。),アラブ首長国連邦(「Gerovital H3 Prof. Dr. A. Aslan」につき,2001年(平成13年)8月5日に登録。)等の国々において,商標登録を受けている。
そして,ミラージュ社及びファーマク社の両社は,コロンビア(「Gerovital」との商標),ギリシャ(「Gerovital H3 Prof. Dr. Aslan」との商標)において,商標登録を受けている。
(甲A21ないし27,29,30,乙20) イ 被告について (ア) アナ・アスラン博士は,昭和52年に講演のために来日し,翌53年にも東京で開催された国際老年学会出席のために来日した。Yは,その際,報道カメラマンとして,アナ・アスラン博士に密着取材し,同博士と面識を持った。
Yは,昭和53年,ルーマニア観光省の招待を受けてルーマニアを訪れた。Yは,その際に視察したジェロビタールH3治療に興味を持ち,ジェロビタールH 3治療を目的とするパックツアーを企画し,ルーマニア観光省等と交渉して,同年12月5日,ルーマニアの0.N.Tカルパチ社(CARPATI NATIONAL TRAVEL OFIICE)との間で,ジェロビタールH3治療を目的とするパックツアーに関する契約を締結した。Yは,昭和54年2月16日に被告を設立した。被告の商号は,「Gerovital」の頭文字「G」と「H3」を片仮名で表記したものに「ルーマニア」を加えた「ジーエイチスリールーマニア」とされ,これは,ルーマニア観光省の関係者が命名したものであった。被告は,同年3月からパックツアーを開始した。
Yは,また,昭和53年にルーマニアを訪れた際に,アナ・アスラン博士から日本におけるジェロビタール化粧品の販売を打診され,CHIMICA(当時の名称は「ICE CHIMINPORTEXPORT S.R.」)と交渉した。被告は,昭和55年5月23日,CHIMICAとの間で,CHIMICAが被告に対し輸入承認及び登録のために必要なドライ・デイ・クリーム等の成分処方及び分析方法に関する書類を引き渡すこと,被告は,厳重に秘密を保ち,日本での製品の承認を取得するために必要な試験を実施する目的及び販売の目的のみに使用することなどを内容とする秘密保持契約を締結した。
(甲A41,乙1,3ないし5,33,50の1ないし3,51) (イ) 被告は,昭和54年3月26日,被告先行登録商標について商標登録出願をし,昭和57年6月22日に出願公告がされた。CIMCCLは,同年8月21日,商標登録異議の申立てをして,CIMCCLが商標登録第596564号の商標権者であることを援用した上,「本願の商標がその指定商品に使用されるときは,あたかも世界的に著名な異議申立人製造にかかる細胞活性剤「GEROVITAL H3」を含有する商品であるかのごとく商品の品質について混同を生ずるとともに,又,あたかも異議申立人の製造販売にかかる商品であるかのごとく出所についても混同を生ずるおそれがある」と主張したので,これに対し,被告は,「本願商標の登録出願時においてもなお著名であることを立証したものとは認められない。」と反論するとともに,事情として,「数年前ルーマニアの国立貿易機関であるICE CHIMIMPORTEXPORT,S.R. OF ROMANIAと化粧品(Gerovital Cosmetics)の輸入販売に関する代理店契約を結び,かつ,出願人が直接日本国内で,この化粧品についてGEROVITAL-H3の商標を用いて商標登録出願を受けるに必要なすべての参考資料の送付を受けることについて同意書を取替した事実があり(・・・),又出願人においても本件出願の事実を先方に通知し,相互了解の下に行動している」と主張して,「秘密保管のための合意書」及びジェロビタール化粧品の成分分析書(甲A46に添付のもの)を提出した。
特許庁は,昭和58年10月7日,「異議申立人が「GEROVITAL H3」の文字よりなる商標を細胞活性剤に使用し本願出願前より取引者,需要者の間に広く認識されているものとは,異議申立人提出の証拠によっては認め難く,また,その事実も見い出すことができないから,出願人が本願商標をその指定商品について使用しても商品の出所について混同を生じさせるおそれはない。また,何等商品の品質について誤認を生じさせるおそれもない。」として,登録異議申立てを理由がないものと決定した上,商標登録出願について商標登録をすべき旨の査定をしたので,被告は,昭和59年3月22日,被告先行登録商標について設定登録を受けた。
被告は,本件商標について,平成9年5月2日に商標登録出願をし,平成10年8月19日に商標登録をすべき旨の査定を受けたので,同年11月27日にその設定登録を受けた。
(甲A7,34,46) (ウ) 被告は,昭和60年4月15日に化粧品の輸入販売業の許可を受け,さらに,平成元年7月10日に医薬部外品の輸入販売業の許可を受けて,ジェロビタール化粧品を輸入し,販売してきた。被告が輸入したジェロビタール化粧品は,当初,ミラージュ社のフェイスクリーム及びヘアーローションであり,昭和61年10月にミラージュ社のフェイスマスクを追加したが,平成4年4月にフェイスクリームをミラージュ社のものからファーマク社のものに変更し,さらに,平成9年ころにはヘアーローション及びフェイスマスクもミラージュ社のものからファーマク社のものに変更して,以後,ファーマク社のものに統一した。被告は,CHIMICAを通じてジェロビタール化粧品を輸入していたが(なお,被告は,CHIMICAから,日本における唯一の代理店と認められていた。),平成4年からはミラージュ社及びファーマク社から直接輸入するようになった。
(甲4,5,甲A93の1ないし5,乙6の1ないし6,7,8,9の1ないし5,10ないし12,17,32,33) (エ) 被告は,本件商標の商標登録を受けたほかに, a 「ジエロビタール H3」の片仮名文字と「GEROVITAL H 3」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる商標について,@昭和54年5月25日に指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第29類の「茶,コーヒー,ココア,清涼飲料,果実飲料,氷」とする商標登録出願をして,昭和59年9月26日にその設定登録(商標登録第1713041号)を受け(なお,CIMCCLは,昭和57年2月4日,商標登録異議の申立てをし,上記(イ)と同趣旨の主張をしたが,特許庁は,昭和59年3月22日,登録異議申立てが理由がないものと決定した。),A昭和54年5月25日に指定商品を同別表第32類の「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品(他の類に属するものを除く)」とする商標登録出願をして,昭和62年4月30日にその設定登録(商標登録第1950211号)を受け(なお,CIMCCLは,昭和57年10月1日,商標登録異議の申立てをし,上記(イ)と同趣旨の主張をしたが,特許庁は,昭和62年1月20日,登録異議申立てが理由がないものと決定した。),B昭和54年5月25日に指定商品を同別表第28類の「酒類」とする商標登録出願をして,昭和63年10月26日にその設定登録(商標登録第2089004号)を受け(なお,CIMCCLは,昭和57年10月1日,商標登録異議の申立てをし,上記(イ)と同趣旨の主張をしたが,特許庁は,昭和63年5月26日,登録異議申立てが理由がないものと決定した。),C平成14年2月4日に指定商品を商標法施行令別表第39類の「鉄道等による輸送,車両による輸送・・・」とする商標登録出願をして,平成15年1月24日にその設定登録(商標登録第4639378号)を受け, b 別紙商標目録1(2)のとおり,「ジェロビタール」の片仮名文字と「GEROVITAL」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる商標について,昭和56年10月8日に指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第4類の「せっけん類(薬剤に属するものを除く)歯みがき,化粧品(薬剤に属するものを除く)香料類」とする商標登録出願をして,昭和62年4月30日にその設定登録(商標登録第1950727号)を受け, c 「GH3」の欧文字を横書きしてなる商標について,平成12年11月21日に指定商品を同別表第29類の「食肉・・・」とする商標登録出願をして,平成14年10月25日にその設定登録(商標登録第4616366号)を受け, d 別紙商標目録1(3)のとおり,「アナ アスラン」の片仮名文字と「Ana Aslan」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる商標について,平成14年4月12日に指定商品を同別表第3類の「家庭用帯電防止剤・・・化粧品,香料類・・・」とする商標登録出願をして,平成15年4月4日にその設定登録(商標登録第4658466号)を受けている。
(甲A1ないし5,7ないし10,128ないし130) ウ 原告ほかについて (ア) 原告は,平成14年10月3日,ジャパンジーオーティーメイク株式会社との間で,同月から3年間,原告がルーマニアの工場で製造した化粧品をジャパンジーオーティーメイク株式会社に供給し,同社が日本において独占的に販売すること,同社が上記化粧品について原告の「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標を使用することができること,などを内容とする独占的代理店契約を締結し,さらに,平成15年6月25日,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社との間で,上記独占的代理店契約の当事者を原告と日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社に変更すること,原告が「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標について指定商品を化粧品とする商標登録を受けることができるよう,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社が支援することなどを内容とする上記独占的代理店契約の修正契約を締結した。
なお,被告は,平成15年4月16日,ジャパンジーオーティーメイク株式会社を相手方として,被告先行登録商標に係る商標権及び商標登録第1950211号の商標権に基づく「Gerovital H3」商標等の使用の差止めを求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てた(同庁同年(ヨ)第22040号事件として係属)。
(甲2,甲A14の1及び2,96の1,110の1ないし7) (イ) Z(ジャパンジーオーティーメイク株式会社及び日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社の監査役)は,平成14年10月28日,別紙商標目録2(2)記載の商標につき,指定商品を家庭用帯電防止剤等とする商標登録出願をした。
日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社は,その後,上記出願により生じた権利をZから承継して,平成15年5月14日にその旨を届け出たところ,同年7月23日付けで,上記商標が被告先行登録商標並びに商標登録第1950727号及び商標登録第4658466号の商標等と同一又は類似であって,その商標に係る指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)について使用されるものであるから,商標法4条1項11号に該当するとの拒絶理由通知を受けた。
(乙31) (ウ) 日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社は,平成15年2月ころから,美容室等を通じて,別紙商標目録2(2)記載の商標を付したデイクリーム,ローションなどの化粧品を販売していたところ,同年6月26日に「ジェロビタールH3」ブランドの化粧品の記者発表会を行い,本格的にその販売を開始した。
被告は,同年6月24日,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社ほかに対し,化粧品に「ジェロビタールH3」の商標を使用する行為は被告先行登録商標に係る商標権及び商標登録第1950727号の商標権を侵害するとの趣旨の通告書を送付した。そこで,日本ジェロヴィタール・コスメティックス株式会社は,同年7月11日,被告を相手方として,被告先行登録商標に係る商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確認と損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第15971号事件として係属)。
被告は,その後,上記化粧品に関する記事を掲載した出版社や上記化粧品の卸業者,小売業者らに対し,被告先行登録商標に係る商標権及び商標登録第1950727号の商標権の侵害にならないよう通告する旨の通告書を送付している。
なお,原告は,平成15年7月22日,本件商標登録のほか,被告先行登録商標の商標登録,商標登録第1950727号及び商標登録第4658466号の各商標登録について無効審判の請求をした。
(甲2,A11,12,96の1及び2,97ないし100,101の3,104ないし109,111ないし123,124ないし126の各1,133ないし138) (3) 上記(2)の事実に基づき検討する。
ア Yは,昭和53年に,ルーマニア観光省の招待を受けて,ルーマニアを訪れた際に,アナ・アスラン博士から日本におけるジェロビタール化粧品の販売を打診されて,ルーマニアの国家機関であるCHIMICAと交渉し,Yの設立した被告が,その後まもなく,CHIMICAから成分処方及び分析方法の開示を受けてジェロビタール化粧品の輸入販売業等の許可を申請するとともに,昭和54年に被告先行登録商標について商標登録出願したものであり,被告の商号である「株式会社ジーエイチスリールーマニア」は,ルーマニア観光省の関係者が命名したものであること,CHIMICAは,ジェロビタール化粧品の成分処方及び分析方法に関する書類を被告に引き渡すなどして,被告によるジェロビタール化粧品の輸入販売の実現に協力していたこと,被告は,CIMCCLがした商標登録異議の申立ての審査において,CHIMICAとジェロビタール化粧品の輸入販売に関する代理店契約を締結した旨主張し,秘密保持契約に係る書面等を提出しているから,CHIMICAは,CIMCCLを通じて,被告が被告先行登録商標について商標登録出願をしていることを知っていたと考えられるところ,CHIMICAは,被告を日本における唯一の代理店と認めて,これに対しジェロビタール化粧品を輸出してきたこと,などの事情にかんがみると,被告による被告先行登録商標の商標登録出願は,CHIMICAひいてはルーマニアの意向に沿うものであったと認められる。なお,甲A45によれば,CHIMICAを承継したロームファルマ キム エス エー(Romfarmachim SA,以下「ロームファルマ」という。)は,2003年(平成15年)10月30日,原告の照会に対し,Yが,ロームファルマ側から,日本において個人名義又はYの会社名義で「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標につき登録を受けることの合意や権限を受けていないこと,Yが,ロームファルマ側から,日本市場において「Gerovital H3 Prof. Dr. Ana Aslan」商標の下で商品を排他的に販売する合意を受けていないこと,などを回答しているが,上記の照会と回答は,簡単な質問とこれに対する結論のみを示す回答などから構成される書面で,これを裏付ける従来の経緯についての説明や資料の添付のないものであり,被告は,CHIMICAを通じてジェロビタール化粧品を輸入するに当たり,CHIMICAから,日本における唯一の代理店と認められていたのであるから,ロームファルマの上記回答内容はこれと齟齬するものであるなど,上記認定の従来の経緯に照らすならば,甲A45に上記認定を覆すに足りる証拠価値を付与することは到底できないといわざるを得ない。
また,「GEROVITAL H3」の医薬品及び化粧品を管理しているルーマニアのCIMCCLが被告の被告先行登録商標の商標登録出願に対し商標登録異議の申立てをしているが,CIMCCLは,自らが商標登録第596564号の商標権者であることを援用していながら,更新登録の出願をせず,昭和57年8月21日にした商標登録異議の申立ての直後である同年9月11日にその存続期間を終了させてしまっていること,被告がCHIMICAからジェロビタール化粧品を輸入することにつき,CIMCCLが直接又はCHIMICAを通じて異議を述べたり,これを阻止しようとしたりした形跡がないことに照らすと,CIMCCLが組織体としていかなる意思決定をし,かつこれを維持していたかについては,少なからず疑問があり,CIMCCLが商標登録異議の申立てをしたことのみをもって,被告による被告先行登録商標の商標登録出願がルーマニアの意向に沿うとの上記認定を覆すには足りないといわなければならない。
イ そして,被告は,ルーマニアにおいて別紙商標目録2(1)記載の商標につき商標登録を受けているミラージュ社及びファーマク社のジェロビタール化粧品を輸入し,これを販売してきたのであるが,被告が,本件商標について商標登録を受けたことを奇貨として,ミラージュ社又はファーマク社に対し,代理店契約の締結を求めたり,輸入契約の内容を被告に有利に変更するよう求めたりした形跡はない。
ウ 以上によれば,被告は,第三者が不正な目的で被告先行登録商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,被告先行登録商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものであり,本件商標についても,同様の目的で,商標登録出願をし,その登録を受けたものであると認めるのが相当である。そうすると,本件商標の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠き,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものであるとは認められない。そして,他に本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めるに足りる証拠はない。
(4) 原告の主張について ア 原告は,被告が,CIMCCLが被告先行登録商標についてした商標登録異議の申立ての審査において,CHIMICAに連絡せず,かつ,CHIMICAの同意がないのにこれを得たと称して偽りの合意書を提出して,商標登録を受けたのであり,これにより,ルーマニアとの取引を不当に独り占めし,被告以外の第三者に対して販売されないようにしたのであって,現に,本件商標権等に基づき,ルーマニアからジェロビタール化粧品を輸入し,あるいはこれを使用する行為を限度を超えてまで執拗に阻止しているから,被告が不当な目的で本件商標を使用していることは明らかであると主張する。
しかし,被告は,CHIMICAと交渉した結果,被告先行登録商標について商標登録出願をしているのであるから,CHIMICAと同じルーマニアの国家機関であるCIMCCLが商標登録異議の申立てをしたときに,このことをCHIMICAに連絡しないということはいささか考え難い。確かに,「秘密保管のための合意書」(甲A46に添付のもの)は,CHIMICAが被告の商標登録出願に同意したことを証するものではないが,上記(3)アのとおり,被告による本件商標の商標登録出願は,CHIMICAひいてはルーマニアの意向に沿うものであったと認められるのであり,上記書面があることは,このことを推認させる事実でもあるから,被告が上記書面を提出したとしても,格別に非難されるべきものではない。
また,上記(3)ウのとおり,被告は,第三者が不正な目的で被告先行登録商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,ルーマニア側の意向を受けて,被告先行登録商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものであり,本件商標についても,同様の目的で,商標登録出願をし,その登録を受けたものである。そして,被告は,被告先行登録商標に係る商標権等に基づき,ジャパンジーオーティーメイク株式会社を相手方として,「Gerovital H3」商標等の使用の差止めを求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立て,さらに,ジェロビタール化粧品に関する記事を掲載した出版社や上記化粧品の卸業者,小売業者らに対し通告書を送付するなどしているが,被告は本件商標権に基づく権利行使をしていないし,上記判示に照らすならば,被告によるこれらの行為が社会通念上著しく妥当性を欠き,権利の行使として許される範囲を逸脱しているとは認められない。そうであれば,被告が不当な目的で本件商標の使用をしていると認めることはできない。
イ また,原告は,「GEROVITAL H3」は,老化予防,治療薬及びその効果のある化粧品の商標として世界的に著名なもので,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,日本においても,本件商標の登録出願当時既に需要者に広く認識され,被告は,「GEROVITAL H3」の著名性や周知性を熟知して,ルーマニアとの取引を妨害されないよう商標登録を受けたものであって,専ら自己の利益を追求しようとしたのであり,被告の行為は,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとるから,本件商標は公序良俗を害すると主張する。
しかし,上記1(2)のとおり,「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」は,本件商標の登録出願日及び登録査定日の当時において,我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたとは認められず,また,現在においても,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っているとは認められないところ,被告は,我が国の取引者及び需要者が「GEROVITAL H3」及びその略称である「GEROVITAL」,「ジェロビタール」の表示に格別の関心を持っていない時期に,上記(3)ウのとおり,第三者が不正な目的で本件商標あるいはこれと類似する商標について商標登録を受けてしまうことにより,ルーマニアからのジェロビタール化粧品の輸入や日本における販売に支障を来すことがないよう,本件商標につき商標登録出願をし,その登録を受けたものであり,専ら自己の利益を追求しようとして,その登録出願をしたというものではない。そうであれば,被告の行為が,国際秩序を害し,国際的商業道徳にもとる,ということはできない。
(5) したがって,本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとはいえないから,商標法4条1項7号についての審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(商標法4条1項19号についての判断の誤り)について 上記1ないし3に判示したところに照らすならば,被告が不正の目的をもって本件商標の使用をするものであるとは認めることができない。
したがって,商標法4条1項19号についての審決の判断に誤りはない。
結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久