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関連ワード 権利濫用(権利の濫用) /  取引の実情 /  差止 /  商標権の移転 /  信義則 /  質権 /  存続期間 /  継続 / 
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事件 平成 11年 (ネ) 2408号 不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴人 【A】 右訴訟代理人弁護士 馬場恒雄
同 田中史郎
被控訴人 株式会社テクノプラス 右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 松田政行
同 早稲田 祐美子
同 齋藤浩貴
同 谷田哲哉
同 山崎卓也
同 松葉栄治
同 早川篤志
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/02/29
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決を次のとおりに変更する。
一 控訴人は、被控訴人に対し、別紙「商標権目録」(一)ないし(四)記載の各商標権の移転登録手続をせよ。
二 控訴人は、被控訴人に対し、金五五二万一〇五六円及びこれに対する平成八年五月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、
その余を控訴人の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨 原判決を取り消す。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 当審における控訴人の主張の要点 原判決の認定は、誤っており、不当である。
1 争点1(商標権移転登録手続請求)について 原判決は、別紙「商標権目録」(一)ないし(四)記載の各商標権(以下、右各商標権を「本件商標権」と、これらに係る各商標を「本件商標」と総称する。)は、その登録出願に当たり、控訴人において設立後の被控訴人にこれを帰属させる趣旨で商標登録出願することを了解していたと認定している。しかし、この認定は、経験則に反するものであって、失当である。
商標権の権利主体は、その商標登録出願人あるいはその設定登録の名義人である。本件において、本件商標権の商標登録出願人であり設定登録の名義人である控訴人が、権利主体として評価されず、被控訴人が権利主体であるというのであれば、控訴人と被控訴人との間で、控訴人名義で商標登録出願はするが、被控訴人が会社として成立し、法人格を取得するに至ったときには被控訴人名義に移転登録をする旨の何らかの明確な合意があることが必要であり、また、それを前提とする権利関係がなければならないはずである。しかし、控訴人と被控訴人との間には、右のような合意ないし権利関係の根拠となる何らの意思表示も存在せず、右のような合意ないし権利関係についての立証もなされていない。
しかも、本件商標権が控訴人から他に移転され、控訴人がその財産権ないし財産的価値を喪失するというのであれば、そこに何らかの経済的な補償があってしかるべきであるのに、控訴人は、本件商標権喪失に見合うだけの何らの経済的な保証も被控訴人から受けてはいない。
2 争点2(仮払金返還請求) 原判決は、被控訴人は控訴人に対し、未精算の仮払金についての返還請求権や、
控訴人に代わって支払った金員に係る求償権として、合計五五二万一〇五六円の債権を有していると認定している。しかし、この認定は、すべて誤っている。
(一) 交際費及び飲食代金について 本件において、被控訴人が、控訴人の交際費及び飲食代金であるとして請求している「仮払金」は、単に「領収書」の提出ないし支出の「報告」が十分なされておらず、その結果「会計処理ができない」というにすぎないのであって、控訴人個人が負担すべき性質のものではない。控訴人は、「会計処理ができない」金員につき、これが被控訴人の経費であることを示すことができなかったからといって、当該金員について責任を負わなければならない理由は全くない。
(二) 賃料及び更新料について 控訴人は、役員報酬を減額された際、その代わりに、被控訴人との間で、控訴人が大門建設株式会社(以下「大門建設」という。)から賃借していたマンションを、被控訴人が大門建設から賃借して、これを「社宅」として、控訴人に賃貸し、
控訴人は、その賃料の一部を負担する旨合意したのであるから、被控訴人が賃料として大門建設に支払ったという金員は、「社宅」として賃借している被控訴人が負担すべきものであり、控訴人が負担すべき筋合いのものではない。また、被控訴人が更新料として大門建設に支払ったという金員も、同様の理由で、控訴人が負担すべき筋合いのないものである。
原判決は、実体を全く無視し、その結果、「社宅」の賃料及び更新料の支払義務者がだれであるかという点についての判断を誤っているものである。
3 争点3(手形金請求)について 原判決は、被控訴人と控訴人は、両者間の「SIM‐200開発に関わる覚書き」(以下「本件覚書」という。)により、平成七年一一月三〇日以降に被控訴人が支払った型締力二〇〇トンの超高速射出成型機(以下「SIM‐200」という。)の開発費は控訴人が負担する旨の合意をしたと認定した。しかし、この認定は、本件覚書2条1項の文言中の「支払い分」という部分だけを取り出し、全体の文言を考慮しなかったため、法律上の債務の弁済期が平成七年一一月三〇日より前かそれ以後であるかどうかによって控訴人、被控訴人の負担の分担を決めていると誤解したものであり、失当である。
(一) 被控訴人は、その代表取締役であった控訴人と対立し、控訴人を解任し(その後に、形式上は退任とされた。)、被控訴人の行っていたSIM‐200の開発を、それまでの開発費をすべて放棄してまでも断念しようとしたことから、控訴人と被控訴人との間の協議で、控訴人が、被控訴人から離れた後、SIM‐200の開発を引き続き行うことになり、このような経緯の下で、控訴人と被控訴人は、本件覚書によって、「今後は、SIM‐200の開発と販売等については、控訴人ないしその新会社において一切を行うものであり、その費用の負担も同様である。被控訴人は、それ以降一切関与しない。」ということを相互に確認した。したがって、本件覚書の2条1項の趣旨は、控訴人が平成七年一一月三〇日以降、SIM‐200の開発を行うに当たって新規に発生する材料費等の開発費については、被控訴人には全く関係がなく、控訴人ないし新会社において「全て負担する」ということを意味するものである。このことは、同項に、「開発に関わる費用は・・・平成七年一一月三〇日・・・以後発生するもの」と記載されていることからも明らかである。
(二) 本件覚書2条2項の「発注残」とは、平成七年一一月二九日の時点で、その直近に、被控訴人名義でSIM‐200の材料等を発注しているが、未だその納品がなく、あるいは納品はあっても請求書が送られてきていないもののことであって、取引先との関係では、将来、材料等が発注者である被控訴人に納品され、その後、被控訴人に対して請求書が届き、被控訴人が支払義務を負うこととなるはずのものである。しかし、被控訴人がSIM‐200の開発を断念したことから、控訴人ないし控訴人の設立する新会社がSIM‐200の開発を行うこととなり、控訴人は、開発を断念した被控訴人にとっては単なるスクラップにすぎないSIM‐200の試作品の譲渡を受けることとなったことから、右の「発注残」となっている材料等の支払の負担をすることを了解し、特に本件覚書に記載したものである。
(三) 被控訴人は、約束手形においては、債務者の債権者に対する金員の支払が現実に行われ、手形債務及び原因債務が消滅するのは、約束手形が決済されて手形金が支払われたときであるから、被控訴人に請求書を呈示し約束手形を受け取った納品者は、手形金が現実に支払われるまでは未だ納品代金の支払を受けていないと認識するのが通常であるとする。
しかし、被控訴人の主張は、手形が決済されない場合の取引先の観点からの立論に終始するものであって、被控訴人の取引における決済の実態及び通常の取引における決済の実態を全く無視したものである。被控訴人の取引においては、被控訴人の取引先に対する支払は、「一部現金・一部手形」という方式においてなされている。右の支払の方式は、通常の取引における一つの決済の方法であって、決済としては、右の段階で一応完了しており、その後の手形金の支払は、既に完了した決済の単なる事後処理にすぎず、何か問題のない限り、被控訴人と取引先との間の決済関係は、手形が決済手段として取引先に交付された時点で終了するものとして認識され、そのように扱われてきているのである。
また、通常の取引においても、支払に手形が用いられることが了解され、現実に支払の方法として手形が交付された場合には、一応取引の決済は完了したものとしての処理がなされていることは、公知の事実である。それゆえにこそ、決済の方法として交付された手形は、その後、裏書譲渡や手形割引などに自由に使用されているのである。
4 抗弁(権利濫用ないし信義則違反)(一) 控訴人は、被控訴人から退職するに当たり、その理由を、いったん決まった「代表取締役の解任」から「辞任」に変えて処理され、円満に退職した形を取って、本件覚書のような処理も行われたのであるから、仮に、被控訴人に、控訴人に対する未精算金等があるのであれば、その時点で、その金額を確定し、支払方法等について協議、決定すべきはずであるにもかかわらず、被控訴人はこれを一切せず、強引に控訴人を被控訴人から追い出した後に、被控訴人の会計処理上の不手際ないし不利益を、訴訟という形で控訴人に請求してきたものである。
控訴人と控訴人との間では、本件覚書によって、基本的な権利関係が精算され、
あるいは確定されているのであって、控訴人は、本件覚書に記載された以上の義務を負担すべき理由はない。
被控訴人が、控訴人の退任後、被控訴人の会計処理上の問題を盾に、控訴人に対して本件のような請求を起こすこと自体が、信義に反することは明らかである。
(二) 控訴人は、現在被控訴人を支配している日邦産業株式会社(以下「日邦産業」という。)に対し、被控訴人の資金援助等を頼み、業務を提携するに当たり、
平成三年二一月四日、控訴人の保有する被控訴人の株式九万七五九六株を担保(質)として提供していた。右株式(以下「本件株式」という。)は、九万七五九六株であり、その額面は一株五〇〇円であり、仮に額面金額だけで計算しても、四八七九万八○○○円に及ぶものであった。ところが、日邦産業は、控訴人が退任する際、右株式を一株一円の評価で質権を実行し、処分してしまった。
このような、日邦産業、すなわち、被控訴人の行為は、明らかに不当であり、また不正である。被控訴人、すなわち、日邦産業が、本件株式について右のような処分を勝手に行ったことは、被控訴人が、本件各請求をしないということを前提にして初めて正当化されるものというべきである。
被控訴人の本件請求は、権利の濫用であり、信義則に反するものである。
(三) 以上のとおりであるから、仮に、被控訴人の本件請求に何らかの根拠があるとしても、権利濫用ないし信義則違反を理由に、その請求は棄却されるべきである。
二 当審における被控訴人の主張の要点 原判決の認定判断に誤りはなく、控訴人の主張は、いずれも原判決を覆す理由となり得ない。
1 争点1(商標権移転登録請求)について 商標権の権利主体が、その商標登録出願人あるいはその設定登録の名義人であるといえるためには、その者に実質的な権利が存することが前提である。本件においては、控訴人名義の商標登録が存在するだけであり、控訴人に本件商標権の実質的な権利が存するとの裏付けは何ら存しない。むしろ、控訴人に本件商標権の実質的な権利が存しないこと、控訴人・被控訴人間には、控訴人名義による本件商標権出願は、被控訴人に商標権が実質的に帰属することを前提とし、被控訴人の了承によりなされたものであること、本件商標権の実質的な権利者は被控訴人であると共通の認識を有していたことも明らかである。
また、本件商標権の登録が被控訴人名義でなされず、控訴人名義でなされた理由は、商標登録申請当時、被控訴人は、いまだ商標登録の認めれない設立中の会社であったからである。そして、控訴人は、当時、被控訴人の設立について発起人であった以上、控訴人名義による本件商標登録は、まさに、被控訴人設立のための開業準備行為である。
2 争点2(仮払金返還請求)について(一) 交際費及び飲食代金について 原判決の認定に誤りはなく、控訴人が被控訴人に対し仮払金返還義務を負うことは明白である。控訴人は、被控訴人名義を用いて金銭を浪費したのであるから、被控訴人が支払を強いられた仮払金を支払わなければならないのは当然のことであり、仮に右金員が被控訴人の経費として支出されたのであれば、その報告・領収書等を示すべきである。
(二) 賃料及び更新料について 控訴人は、大門建設との間で、控訴人の居住するマンションの賃貸借契約を締結し、その賃料を、被控訴人が控訴人の役員報酬から天引きして支払っていた。しかし、控訴人の役員報酬が減額された際、控訴人からの、今後役員報酬から賃料の天引きをしないで欲しいとの申入れに応じ、平成三年九月一日ころ、被控訴人が控訴人に代わって大門建設から右マンションを賃借し、その経費から賃料を支払うことにするが、経費として計上できない賃料の三五パーセントについては、控訴人が負担するとの合意をした。右合意に従えば、賃借人の名義は被控訴人であっても、被控訴人の会計上仮払と計上されている賃料の三五パーセント部分について控訴人が負担するのは当然である。
更新料の負担についても、控訴人の仮払金として処理し、本件訴訟において控訴人に対して支払を請求するのは当然である。そもそも右合意は、控訴人の賃料負担を軽減させるという目的を達するためにのみなされたものであり、右合意後も、控訴人が、従前から居住していたマンションに引き続き居住し続けるものである以上、賃貸借契約の賃借人名義が被控訴人となったからといって、更新料を被控訴人が支払わなければならないものではない。
3 争点3(手形金請求)について(一) 控訴人は、本件覚書2条1項に「開発に関わる費用は・・・平成七年一一月三〇日・・・以後発生するもの」と記載されていることなどを根拠に、同項の趣旨は、控訴人が平成七年一一月三〇日以降、SIM‐200の開発を行うに当たって新規に発生する材料費等の開発費については、被控訴人には全く関係がなく、控訴人ないし新会社において「全て負担する」ということを意味するものであると主張する。
しかし、2条1項は、「平成七年一一月三〇日支払い分から以後発生するもの」についてSIM‐200の開発費について控訴人が負担すると規定されているのであるから、「以後発生するもの」の文言は、直前の「支払い分」という語にかかってくることは、日本語の文法構造上明らかである。
開発費が約束手形の交付で処理される場合、債務者の債権者に対する金員の支払が現実に行われ、手形債務及び原因債務が消滅するのは、約束手形の必要的記載事項である満期であって振出日ではない。
被控訴人に請求書を呈示し約束手形を受け取った納品者も、手形金が現実に支払われるまでは未だ納品代金の支払を受けていないと認識するのが通常である。
そもそも、手形の振出しによって、原因債権が消滅する場合とは、当事者が手形の振出しにより原因債権が消滅することを明示的に合意した場合に限られ、当事者の意思が不明のときは、原因債権の弁済を確保するために振り出されたものと認めるべきとするのが最高裁判所の見解である(最高裁小法廷判決昭和四五年一〇月二二日判例時報六一三号八五頁)。
したがって、「支払い分」とは、SIM‐200の開発費に関して、平成七年一一月三〇日以前に被控訴人によって振り出され、満期を平成七年一一月三〇日以降とする約束手形については、控訴人の負担となり、これを被控訴人が立替払をすれば、本件覚書2条2項に従って、控訴人は、被控訴人に対して手形金を支払う義務を負うのである。
(二) 本件覚書2条2項の「発注残」は、いまだ約束手形が決済されておらず、手形金が支払われていない状態をも含むものというべきである。控訴人の主張は、右のような通常の事態を意図的に排除するような「発注残」の定義づけであり、不適当であることが明らかである。
(三) 控訴人の主張は、「以後発生するものの」直前にある「支払い分」という文言を意図的に無視し、本件覚書2条1項を曲解するものである。
また、手形を振り出しさえすれば決済が終了し手形金の支払が単なる事後処理にすぎないとする控訴人の主張は、通常の取引における決済の実態を全く無視しているものである。確かに、決済の方法として振り出された手形は、その後、裏書譲渡や手形割引などに自由に使用されている。しかし、手形が不渡となった場合には取引先は手形の裏書人の担保責任を追及されたり、手形の買い戻しを要求されたりするのであり、結局、現実に手形の満期に手形金が支払われなければ決済として完了したとはいえないのである。
(四) 控訴人が主張するような、控訴人が被控訴人の代表取締役を解任され、その後退任したという事情、被控訴人がSIM‐200の開発を、それまでの開発費をすべて放棄してまでも断念しようとしていた事情、控訴人が被控訴人との間で協議し、SIM‐200の開発が控訴人において引き続き行われることなった事情等の経緯が仮に存在するのであれば、被控訴人が試作品七台を控訴人に引き渡しながら、その部品代等の支払のために振り出された合計金六五五三万九〇四三円に及ぶ未済金の本件手形の債務を負担するような合意をするはずがないことは明らかである。
4 抗弁(権利濫用ないし信義則違反)について 本件覚書は、SIM‐200の開発についてのみ被控訴人・控訴人間で規定したものである。本件覚書のどこにも被控訴人・控訴人間のSIM‐200の開発以外の権利義務関係について触れられていないことから明らかである。にもかかわらず、本件覚書の存在でもって、被控訴人・控訴人間のSIM‐200の開発以外の権利義務関係まで合意がなされたとする控訴人の主張には、論理の飛躍があり、全く理解できない。
控訴人は、自ら被控訴人に負っている債務の存在をすべて被控訴人の会計処理の不手際ないし不利益と位置づけているが、被控訴人はすべて証拠に基づいて請求しているのである。請求の根拠自体何ら問題はない。
被控訴人は、控訴人が会社を去る前から、仮払金の存在を明らかにしていた。にもかかわらず、控訴人は弁済をしなかったのである。
控訴人の主張する控訴人に属した被控訴人の株式九万七五九六株は、被控訴人が日邦産業に対して負担する現在及び将来の債務について担保するために控訴人から日邦産業に差し入れられたものであり、日邦産業により質権が実行されたのである。株式担保差入証(乙第一号証)に記載されているように、控訴人は、「その処分代金については」「随意に」「債務の弁済に充当されても異議はありません」と日邦産業との間で合意している以上、たとい担保権の実行価額について、一株一円で処理されたとしても異議をいえないのである。また、仮に、正式な鑑定を経て一株一円以上が相当であるとの鑑定結果が得られたとしても、そのことに対する異議は担保権を実行した日邦産業にすべきであり、担保の差し入れの合意の当事者関係にない被控訴人にするのは筋違いである。
当裁判所の判断
当裁判所は、本件請求は、控訴人が、被控訴人に対して、本件商標権の移転登録手続、仮払金に係る未清算分五五二万一〇五六円及びこれに対する平成八年五月一〇日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」の一ないし三、五のとおりであるから、これを引用する。
一 争点1(商標権移転登録手続請求)について 控訴人は、原判決のいうような、控訴人に本件商標権を被控訴人に帰属させる意思等が存在したとする認定は、経験則に反するものであって、不当である旨主張する。
本件商標権は、いずれも控訴人により商標登録出願され、昭和五三年八月二五日又は同年一〇月三一日に控訴人を商標権者として登録され、同六三年一二月二一日に存続期間更新の登録がされていること、右の登録に係る費用は、すべて被控訴人がその全額を負担したこと、本件商標は、被控訴人が設立されて以来、被控訴人の商品に使用されていることは、当事者間に争いがない。
証拠(甲三五ないし三八、四五ないし五二、八七、原審における原告代表者尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の発起人であり、会社設立後に代表取締役に就任した控訴人は、被控訴人の会社設立前の昭和五〇年九月五日に、控訴人を出願人として本件商標の商標登録出願をなし、被控訴人が設立されると、本件商標を被控訴人の取り扱う商品にのみ使用し、他方、控訴人個人として、これらを使用することはなかったことが認められ、右認定の事実によれば、控訴人は、被控訴人の商品に使用するために、本件商標を取得したものであり、右のとおり、その費用がすべて被控訴人から支出されていることをも考えると、控訴人は、被控訴人の発起人として、いわゆる設立中の会社の計算において、商標権を被控訴人に帰属させる意思で、商標登録出願したものと認めるのが相当である。
控訴人は、控訴人の計算において、本件商標を商標登録出願したとの前提で、縷々主張するが、その前提が誤っていることは、右説示のとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、失当というほかない。
控訴人の争点1についての主張は、採用できない。
二 争点2(仮払金返還請求)について1 交際費及び飲食代金について 控訴人は、本件において、被控訴人が、控訴人の交際費及び飲食代金であるとして請求している「仮払金」は、単に「領収書」の提出ないし支出の「報告」が十分なされておらず、その結果「会計処理ができない」というにすぎないのであって、
控訴人個人が負担すべき性質のものではない旨主張する。
(一) 証拠(甲八七、一一五の1、一一六ないし一一九、一二〇ないし一二二の各1〜3、一二三、一二四、一三〇ないし一五八、一五九及び一六〇の各1、2、一六一ないし一六三、一六四及び一六五の各1、2、一六六ないし一七一、一七二の1、2、一七三の1〜3、一七四の1、2、一七五ないし一七八、一七九及び一八〇の各1、2、一八一ないし二五七)によれば、次の事実が認められる。
(1) 控訴人は、昭和五〇年九月八日設立された被控訴人の創業者で、長らくその代表取締役に就任していたものであり、プラスチック成形の分野において一流の技術者であったものの、会社の経営管理の面で難点があり、公私混同が著しく、出張費、飲食費その他の名目で被控訴人から金員を受領したり、被控訴人名義のクレジットカードを使って自己の飲食代金、ゴルフ代金等を被控訴人に支払わせたりしながら、これらの精算を怠っていたので、被控訴人は、やむを得ず、このような金員を会計上仮払金として処理していた。
(2) 控訴人の右仮払金は、次第に増大し、その総額は、後記未払賃料等の仮払金も含めて、原判決添付の別紙二「仮払金一覧表」の「未清算金残額」欄記載のとおり、平成七年八月三一日現在で合計五五二万一〇五六円となっていた。
(3) 被控訴人の決算作業を補助していた公認会計士は、平成五年一一月ころ、被控訴人の代表者であった控訴人宛てに、控訴人の賃借するマンションの賃料をも含めた多額の仮払金が精算されておらず、仮払金は会社からの借金であって、控訴人の責任において精算しないと残高が累積することになるので善処を求める、などの内容の注意を促す報告書を提出していたものの、さしたる効果はなかった。
(4) 被控訴人は、平成六年には、同年八月三一日現在の未精算の仮払金が五三一万八一一四円であるとの内容を含む確定申告書を、同七年には、同年八月三一日現在のそれが五五二万一〇五六円であるとの内容を含む確定申告書をそれぞれ作成し、
税務署に提出していた。
(二) 右認定の事実の下では、原判決添付の別紙二「仮払金一覧表」の「未清算金残額」欄に記載された金員から、後記未払賃料の仮払金を除いた金員は、被控訴人の経費に当たるものとすることはできず、このことについては、控訴人から、少なくとも被控訴人を退職するまで異議もなかったのであるから、被控訴人が本件において請求している交際費及び飲食代金の「仮払金」は、単に「領収書」ないし「報告」が十分なされていないというものではなく、控訴人がその責任において支払うべき金員であることが明らかである。
2 賃料及び更新料について(一) 控訴人は、役員報酬を減額された際、その代わりに、被控訴人との間で、控訴人が大門建設から賃借していたマンションを、被控訴人が大門建設から賃借して、これを「社宅」とし、控訴人に賃貸し、控訴人は、その賃料の一部を負担する旨合意したのであるから、被控訴人が賃料として大門建設に支払ったという金員は、「社宅」として賃借している被控訴人が負担すべきものであり、控訴人が負担すべき筋合いのものではない旨主張する。
しかし、被控訴人は、大門建設に支払った右マンションの賃料の償還請求をしているのではなく、控訴人も自認する、控訴人と被控訴人との間の賃料一部負担の合意に基づいて、被控訴人が大門建設に支払った賃料のうちの三五パーセントについて、本来の債務者である控訴人に請求しているのであり、控訴人がこの負担を免れ得ないことは自明である。
控訴人は、被控訴人が更新料として大門建設に支払ったという金員も、控訴人が負担すべき筋合いのものではない旨主張する。
確かに、控訴人と被控訴人との間で、被控訴人が直接大門建設から右マンションを賃借することにした後も、控訴人が更新料を負担するものとするとの取り決めが明示的になされたことを明らかにする証拠はない。しかし、証拠(甲一二三、二七三)及び弁論の全趣旨によれば、前記合意以前には、控訴人が大門建設から右マンションを賃借し、更新料をも支払っていたこと、大門建設と被控訴人との間の右マンションについての賃貸借契約は、控訴人の賃料負担を三五パーセントに軽減するために税法の便宜上なされたにすぎないことが認められ、このような事情の下では、控訴人と被控訴人との間で、更新料を被控訴人が負担するという明示の合意が成立したと認められない限り、両者間に、更新料は、控訴人が負担するとの合意が黙示的に成立したものと認めるのが相当である。そして、本件全証拠を検討しても、控訴人と被控訴人との間に、更新料を被控訴人が負担するという明示の合意が成立したことを認めることはできない。
3 よって、控訴人の争点2についての主張は、いずれも失当である。
三 争点3(手形金請求)について1 本件覚書中の「支払い分」の意味について(一) 証拠(甲八七、一二三、二五八、二七三、二七五、原審における原告代表者及び被告各尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 被控訴人は、控訴人によって創業され、世界的にも高い水準の超高速射出成型機及び精密金型を製造販売しているいわゆるベンチャー企業の一つである。被控訴人は、プラスチック成形の分野において一流の技術者であった控訴人の個人的力量に多分に依存し、高い技術水準を誇っていたものの、過大な設備投資、開発費の増大、営業面及び経営管理の面の弱さなどのため、昭和六二年ころ、経営危機に陥った。
(2) 被控訴人の取引先であった日邦産業は、平成二年から、被控訴人に資本参加等の形で資金援助をするようになり、それでもなかなか経営が改善されなかったので、平成五年一一月ころには、日邦産業から被控訴人の取締役として二名の従業員が派遣されることとなった。
(3) 被控訴人は、平成七年までに、控訴人主導で、新製品である超高速射出成型機SIM‐200の開発を進めており、このSIM‐200の開発のために既に莫大な出費をし、平成七年一一月ころの時点で、完成に近づいていたものの、製品化までにさらに相当額の出費が見込まれていた。そこで、経営難の折にこのような莫大な費用を要するSIM‐200の開発を中止しようとする日邦産業及び同社から派遣されていた取締役と、SIM‐200の開発を通しての会社再建をめざす控訴人が、SIM‐200の開発の継続か中止かをめぐって激しく対立し、結局、控訴人が敗北して、同月二七日又は二八日に開かれた取締役会において、代表取締役を解任され、それとともに、被控訴人は、SIM‐200の開発を中止した。控訴人の解任は、その後、辞任に修正された。
(4) 被控訴人を退職した控訴人は、別会社を設立してSIM‐200の開発を継続することにし、この点については、被控訴人も異存がなかったため、控訴人と被控訴人は、同年一一月二九日、本件覚書を作成して、SIM‐200の開発費用等についての合意をした。
その要旨は、次のとおりである。
「株式会社テクノプラス(以下甲という)と【A】(以下乙という)の間においてSIM‐200の開発及び開発費用の支払いについて下記の通り合意した。」1条(開発の継続)「SIM‐200の開発については、甲は行わず乙が引継ぎ乙の設立する新会社において継続するものとする。」2条(開発費の支払い)一項「SIM‐200の開発に関わる費用については、平成7年11月30日支払い分から以後発生するものについては、全て乙が負担するものとする。」同条二項「但し、平成7年11月30日時点での発注残は、甲の名義において履行されている為、これに対する請求は、甲が受ける場合があるが、その時は全て一旦甲において立替支払いを行い、翌10日(10日が休日の場合は翌日)に乙より甲の取引銀行口座 城南信用金庫当座預金 187831へ振り込み支払するものとする。」(5) 被控訴人によるSIM‐200の開発に関する費用の支払は、少なくともその大部分は、毎月末、何か月か後の月末を満期とする約束手形を振り出すことによって行われてきていた。
(6) 被控訴人は、右合意に基づき、平成七年一一月一日から二六日までの間にSIM‐200の開発に関し、納品を受け、請求を受けていたもの合計二一七一万二三五三円について、一一月三〇日以降に現金で立替払したうえで、これを控訴人に求償し、控訴人は、平成八年一月二五日、右全額を被控訴人に支払った。
(二) 右認定の事実の下では、控訴人と被控訴人とは、本件覚書により、SIM‐200の開発に関する費用の分担につき、平成七年一一月三〇日までに被控訴人に請求がなされて同日支払われるべきもの(手形が用いられる場合は同日を振出日とすることになるもの)及びそれ以降請求がなされるものはすべて控訴人の負担とし、それ以外のもの、すなわち、平成七年一一月二九日現在で被控訴人が既に現金で支払うか手形を振り出すかしているものについては被控訴人の負担とする旨、合意したものとみるのが最も合理的な見方というべきである。
もっとも、本件覚書2条1項にいう、「平成7年11月30日支払い分」中の「支払い」の語が、支払が手形を用いて行われる場合、支払のために手形を振り出すことを意味しているのか、満期における手形金の支払を意味しているのかは、その語自体によっては必ずしも明確ではない。
しかし、通常の取引において決済のために振り出されるいわゆる商業手形は、高い信用性を有しているので、代金支払のために手形が振り出され、これが受け取られた場合には、それで一応取引の決済は終了したものとし、後はその事後処理として処理されるのが取引の実情であることは、当裁判所に顕著である。そうであれば、控訴人と被控訴人も、右取引の実情に従った認識と感覚の下に本件覚書を作成したものとみるのが合理的である。
また、2条1項の費用の「発生」と右「支払い分」を矛盾なく理解しようとする場合、右「発生」の語は、これを一般的な用語の意味に従って考えれば、満期に手形交換所で手形金を支払うことを「発生」というのは、著しく不自然であり、また、手形の満期の到来をもって「発生」というのも不自然であることに変りないから、右「支払い分」中の「支払い」の語をもって、満期における手形金の支払のことを意味するとするのは不合理であり、現金で支払うこと、あるいは、これに換えて、支払のために手形を振り出すことを意味するとみるのが合理的である。
なお、2条2項については、「発注残」が、一項の定める一一月三〇日の決済の対象にはならないもので、取引先での関係では被控訴人が支払義務を負うべきもの、すなわち、平成七年一一月二九日以前に被控訴人の名において発注したものの、同月三〇日までに請求自体が来ていないため同日の支払の対象にできないものを意味するものと解すべきことは、「これに対する請求は、甲が受ける場合があるが、」と記載されているとおり、いまだ請求を受けていないものを対象としているところからも明らかであり、そうすると、同項全体としては、平成七年一一月三〇日現在で、発注済みのものに係る費用ではあるものの、納品がまだであることなどのため、未だ請求の来ていないものがあって、これについて、取引先との関係で支払義務を負っている被控訴人がその後請求を受けて支払ったときには、控訴人に求償できる、ということを記したものというべきである。
(三) 被控訴人は、手形を振り出しさえすれば決済が終了し手形金の支払が単なる事後処理にすぎないとする控訴人の主張は、通常の取引における決済の実態を全く無視しているものであるとか、手形が不渡りとなった場合には取引先は手形の裏書人の担保責任を追及されたり、手形の買い戻しを要求されたりするのであり、結局、現実に手形の満期に手形金が支払われなければ決済として完了したとはいえないなどと主張するが、失当である。
まず、忘れてならないのは、本件で問題となるのは、債務弁済のために約束手形が振り出されたこと自体で債務の弁済が完了したことになるか否か、という法的な事項そのものではないということである。本件で問題となるのは、契約の両当事者が、一方当事者によって支払のために第三者に振り出された手形であって満期未到来のものについても、満期が到来して支払がなされているものと同様に扱うべきか否かに関し、現実にどのような認識の下に合意を成立させたのか、という純粋に事実に関する問題、あるいは、右認識が明確なものとして認められないとき、どのような認識の下に同意を成立させたものとして扱うのが合理的かという評価の問題である。右法的事項は、右の認識の問題や評価の問題に影響を及ぼす限りにおいては意味を有し得るが、その限りにおいてしか意味を有し得ないのである。
次に、被控訴人主張のとおり、手形が不渡りとなることがあり得ることは明らかである。しかし、商人間の取引における決済に使われる商業手形は、これが不渡りになった場合には、取引停止処分を受けることによって、その信用を失墜し、以後、事実上、信用取引を継続することができなくなるから、手形を振り出した者は、万難を排して不渡りを避けようとするものであり、したがって、商業手形が不渡りとなるのは極めて例外的な現象であって、それゆえにこそ、商業手形は、裏書譲渡や手形割引により転々と流通するものであることは、当裁判所に顕著である。
これを手形を振り出す側の主観の観点からみれば、事業の継続を断念した場合は別として、振り出した手形の手形金は必ず支払われるものであって、それが支払われないなどということはあり得ない事柄であるから、手形を振り出すこと自体を現実の支払をするのと同様の性質のものと把握せざるを得ないのである。そして、本件覚書の内容の確定において意味を有するのは、手形を振り出した側の認識や感覚のみであり、振出しを受けた側のそれらは何らの意味も持たないことは論ずるまでもないところである。
結局のところ、被控訴人の右主張は、手形の有する法的側面に眼を奪われて、それが取引社会において有する経済的側面とこれに伴って手形を振り出す側に生ずる認識や感覚を無視し、その結果、本件においては意味を持たない法的側面に根拠を置いて結論を導くという誤りを犯すものというべきである。
被控訴人は、被控訴人が、試作品七台を控訴人に引き渡しながら、その部品代等の支払のために振り出された合計金六五五三万九〇四三円に及ぶ未済金の本件手形の債務を負担するような合意をするはずがない旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、日邦産業の意向を受けた被控訴人の取締役が、被控訴人の代表者であり創業者でもあった控訴人のSIM‐200開発継続の方針に反対し、控訴人を解任するまでして開発を中止したという経緯を考えると、当時の被控訴人からみれば、被控訴人が控訴人に引き渡した試作品七台は、仮に客観的には完成間近で価値のあるものであったとしても、過大な開発費用を強いる有害無益なやっかいものであったのであり、また、SIM‐200開発続行の態度を変えない控訴人もできるだけ早く縁を切りたい人物であったのであるから、右試作品を控訴人に引き渡したからといって、それが被控訴人にとって格別の意味を有したとは考えられない。この点に関しては、むしろ、被控訴人の側からすれば、被控訴人の名において発注されたものの費用は、もし控訴人との合意により控訴人の負担とならない限り、いずれすべて自ら負担しなければならない運命にあったのであるから、縁を切りたい控訴人が、やっかいものである右試作品を、しかも、一部にせよ右費用の負担を分担したうえ引き取ってくれることは、少なからぬ利益をもたらすものであったということもできるのである。
被控訴人の右主張も失当である。
四 抗弁(権利濫用ないし信義則違反)について 控訴人は、控訴人と被控訴人との間では、本件覚書によって、基本的な権利関係が精算され、あるいは確定されているのであって、控訴人は、本件覚書に記載された以上の義務を負担すべき理由はないとし、これを前提に、被控訴人が、控訴人の退任後、被控訴人の会計処理上の問題を盾に、控訴人に対して本件のような請求を起こすこと自体が、信義に反する旨主張する。
しかしながら、本件覚書が、控訴人と被控訴人との間の、基本的な権利関係を精算したり確定したりするものでないことは、その記載自体から明らかである。そして、前記認定によれば、被控訴人の仮払金の未清算分の請求が、被控訴人の会計処理上の問題に基づくものでないことも明らかである。控訴人の主張は、失当である。
また、控訴人は、控訴人が日邦産業に担保として提供していた被控訴人の株式九万七五九六株を不当な廉価で処分したもので、不正であるとし、被控訴人、すなわち、日邦産業が、本件株式について右のような処分を勝手に行ったということは、
仮に右が正当化されるとすれば、被控訴人は、本件各請求をしないということである旨主張する。
しかしながら、甲第八七号証によれば、日邦産業は、平成二年、被控訴人を資金援助するに当たって、ベンチャー・キャピタルの有する被控訴人の株式を一株一円で買い取ったことがあることが認められ、このことからすると、控訴人が日邦産業に担保として提供していた被控訴人の株式九万七五九六株を一株一円で処分したからといって、にわかに不当な廉価で処分したとはいえず、その他、本件全証拠によっても、日邦産業が、控訴人から担保として受け取っていた被控訴人の株式九万七五九六株を不当に処分したものと認めることはできない。
控訴人の権利濫用ないし信義則違反の主張は、採用できない。
五 以上によれば、被控訴人の本件請求は、控訴人が被控訴人に対して、本件商標権の移転登録手続、仮払金の未清算分五五二万一〇五六円及びこれに対する平成八年五月一〇日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、被控訴人が第三者に支払った手形金六五五三万九〇四三円と同額の金員とこれに対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求については理由がないから棄却すべきである。そこで、
これと異なる原判決を右のとおりに変更することとし、訴訟費用の負担について、
民事訴訟法61条64条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充