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関連ワード 識別力 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項8号 /  4条1項15号 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  使用許諾 /  マドリッド / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 147号 審決取消請求事件
原告 株式会社神戸風月堂代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同 弁護士 三山峻司
同 小野昌延
同 弁理士 【C】
同 【D】
被告 ザ・リッツ・ホテル・リミテッド代表者 【E】
訴訟代理人弁護士 松尾和子
同 田中 伸一郎
同 弁理士 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/08/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成7年審判第17,318号事件について平成10年3月27日にした審決を取り消す。
前提事実(当事者間に争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、指定役務を商標法施行令に定める商品及び役務の区分第42類「宿泊施設の提供、日本料理を主とする飲食物の提供、婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供」とし、「ホテルゴーフルリッツ」の片仮名文字を横書きしてなる登録第3,010,964 号商標(平成4年8月5日登録出願、平成6年11月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成7年8月17日、商標法4条1項8号、10号及び15号に違反することを理由として、本件商標の登録を無効とすることにつき審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成7年審判第17,318号事件として審理した結果、平成10年3月27日、本件商標の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は、同年4月20日原告に送達された。
2 審決の理由 審決の理由は、別紙審決書の理由の写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、「RITZ」、「リッツ」の表示は、請求人(被告)の経営に係るパリのリッツホテルを指称するものとして、本件商標の登録出願前に、我が国のホテル業界の間はもちろんのこと、一般の需要者の間にも広く認識されていたものであり、本件商標は、その構成中に被告の経営するホテルを表示するためのものとして著名な「リッツ」の文字を有してなるものであるから、これをその指定役務について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、該役務が被告又はこれと何らかの関係を有する者の営業に係る役務であるかのように役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならず、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであり、同法46条1項1号により無効であると判断した。
審決の取消事由
1 審決の認否(1) 審決の理由1(本件商標。審決書2頁2行ないし7行)は認める。
(2) 審決の理由2(請求人(被告)の主張。審決書2頁8行ないし15頁12行)は認める。
(3) 審決の理由3(被請求人(原告)の主張。審決書15頁13行ないし24頁13行)は認める。
(4) 審決の理由4(1)(認定事実。審決書24頁15行ないし26頁15行)中、 @は不知。
Aのうち、「わが国においても、同ホテルは、世界的に一流なホテルの一つとして、「リッツ」と略称されて旅行案内書、雑誌、新聞等において、本件商標と登録出願日前より多数紹介されており、」は争い、その余は不知。
Bは争う。
Cのうち、日本で発行された英和辞典類によれば、「「Ritz」、もしくは「ritz」の語に「The」を付すと、「リッツホテル」となる旨の記載も認められる」(審決書26頁3行ないし5行)は争い、その余は認める。
認定事実のまとめ(審決書26頁11行ないし15行)は争う。
(5) 審決の理由4(2)(被請求人の主張に対する判断、結論。
審決書26頁16行ないし30頁15行)は争う。
2 取消事由 審決は、本件商標中に含まれる「リッツ」が、被告の経営するパリのリッツホテル(以下「被告ホテル」という。)を指称するものとして我が国で著名であると誤って認定したため、商標法4条1項15号該当性についての判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 被告ホテルの我が国における紹介ア 事実認定の誤り 審決がその根拠とする4(1) Aの事実(被告ホテルの我が国での紹介。審決書25頁12行ないし19行)は、そのように認定する根拠を欠くものである。
すなわち、被告が提出した乙第1ないし第224 号証の証拠のうち、被告ホテルのみが「RITZ」、「Ritz」又は「ritz」と略称されていることを示す本件商標出願前に発行された書証は、甲第22、第23、第25、第26、第29、第95、第96、第131 、第206 ないし第209 号証の12件にすぎないところ、これらの書証のみでは、「Ritz」等が被告ホテルの略称として我が国で著名であるとは到底認められない。
イ 他のリッツホテルの存在 (ア) 世界各国には、被告ホテルのほかに、「リッツホテル」又は「ホテルリッツ」と称されるホテルとして、台北に所在するもの、ロンドンに所在するもの、マドリッドに所在するもの、リスボンに所在するもの、バルセロナに所在するものがあり、さらに、「リッツカールトン・ホテル」と称されるホテルが、米国及びモントリオールに存在する。
(イ) 審決は、上記ホテルのうち、台北所在のものを除くものにつき、「それぞれが全く別個に設立され、独自に「RITZ」の表示を採択したというものではなく、
【G】に淵源を有するという点において、利害関係にあるものということができる。」(審決書28頁7行ないし10行)と認定するが、そもそもそのように認定の根拠となった証拠(甲第21、第31及び第197 号証等)の証拠力は低いものである。
(ウ) 仮に、上記ホテルのうち台北所在のものを除くものが【G】に淵源を有し、
利害関係を有するというのであれば、原告経営に係るホテルも、【G】に淵源を有するという点において利害関係を有するものである(甲第101 号証)。
(エ) 以上のように、世界各国には、それぞれ異なる法人の経営に係るリッツホテルが存在し、これらはいずれも「リッツホテル」等と称されるのであるから、「リッツ」の表示は識別力が極めて低い標章であり、我が国の需要者は、「リッツ」から被告ホテルを認識するものではない。
(2) リッツ商品の販売 審決がその根拠とする4(1) Bの事実(インペリアル・エンタープライズを通じてのリッツ商品の販売。審決書25頁20行ないし24行)も、そのように認定する根拠を欠くものである。
すなわち、被告が提出した書証からは、インペリアル・エンタープライズがリッツ商品を実際にどれくらい販売したか明らかではなく、その販売の点を証明する証拠の日付はすべて本件商標の出願後のものにすぎない。
3 英和辞書類の記載 審決がその根拠とする4(1) Cの事実(英和辞典の記載等。審決書25頁25行ないし26頁10行)も、我が国で発行された英和辞典類には、「ritz」の語が「リッツホテル」又は「【G】」を指称する旨の記載がある。しかし、これらは飽くまで「リッツホテル」についての記載であり、被告ホテルを特定しているわけではない。
さらに、「Ritz」等はもともとは創造標章であったかも知れないが、今日では、
英和辞典類に抽象名詞とし登載されているように、創造標章とはいえず、識別力を有しにくいものである。
審決の取消事由に対する被告の認否及び反論
1 認否 原告主張の取消事由は争う。
2 反論(1) 被告ホテルの我が国における紹介についてア 事実認定の誤りについて 被告が提出した乙第1ないし第224 号証の証拠は、「Ritz」等が本件商標の登録出願前に我が国において被告ホテルを指称するものとして広く認識されていたこと示す証拠である。本件商標の登録出願後に発行された証拠であっても、その記述内容において、被告ホテルが平成4年以前から高い著名性を有していたことを内容とするものであり、当然本件商標の登録出願前における著名性認定の根拠となるものである。
乙第225 号証(在日フランス大使館経済商務公使の文書)も、「Ritz」等が我が国において広く認識されていたことを基礎付けるものである。
イ 他のリッツホテルの存在について (ア) ロンドン所在のリッツホテル等が【G】に淵源を有することは、例えば、乙第10号証から明らかである。
(イ) 「Ritz」等を含むホテルの大部分は、【G】の関与の下に設立され、又は「Ritz」等の使用について、被告から許諾を得ているものである。
すなわち、「リッツカールトン」は、被告からの使用許諾により「RITZ」の使用が認められているものであり、マドリッド、ブダペスト、カイロ、リスボンのリッツは、【G】の計画の下でホテルの建設がされたものであり、リスボン所在のものは、【G】の息子【H】が「Ritz」の使用を認めたものである。 (ウ) なお、
【G】及び被告が関与しない「RITZ」も、台北等に現に存在していることは認める。
(エ) 原告は、【G】の息子の夫人である【I】の手紙(甲第101 号証)に基づき、仮にロンドン等に所在のホテルが【G】に淵源を有し、利害関係を有するというのであれば、原告の経営するホテルも、【G】に淵源を有するという点において利害関係を有するものである旨主張するが、この手紙は、原告の経営するホテルを訪れたことのない同夫人が騙されて書いたものである(乙第226 号証)。
(2) リッツ商品の販売 原告は、被告が提出した書証からは、インペリアル・エンタープライズがリッツ商品を実際にどれくらい販売したか明らかではない旨主張するが、このようなリーフレットが作成された事実は、当然にそれが頒布され、商品の販売がされたことを示すものである。
(3) 英和辞典類の記載 原告は、英和辞典類には「ritz」の語が被告ホテルを指称することを示す記載がない旨主張するが、乙第10ないし第18号証には、いずれにおいても、「(The) Ritz 」が高級ホテルを意味することが記載され、さらに、それが【G】に由来すること(乙第10、第11号証)、そして、乙第10号証には、その1番目にパリに所在する被告ホテルが明示されており、正に被告ホテルが「 Ritz 」と称されることが記載されているものであり、原告のこの点の主張は根拠がない。
理 由
本件商標の構成等
審決の理由1(本件商標の構成、指定役務、出願日等。審決書2頁2行ないし7行)は、当事者間に争いがない。
商標法4条1項15号該当性について
1 被告ホテルと「Ritz」、「リッツ」の表示について(1) 陳述書等(乙21、31、62、197 、198)及び各項に掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認めらる。ア 被告は、パリのバンドーム広場に所在する「リッツホテル」(「ホテル・リッツ」又は「リッツ・パリ」ともいう。被告ホテル)を経営している。
被告ホテルは、1898年、卓越したホテル経営者であり、「ホテル王」と称された【G】が関与して開業されたものであり、「Ritz」、「リッツ」の名を冠する最初の重要なホテルである。
被告ホテルは、開業当初から今日に至るまで、豪華さと優雅さを備えた部屋や施設、きめ細かいサービス等により、世界の一流ホテルの1つとして高い評価を得てきており、米国の金融経済誌「インスティチューショナル・インベスター」による世界のホテルランキングにおいて、1989年(平成元年)は3位、1990年(平成2年)は4位にランクされた。
(乙24)イ 被告ホテルの顧客には、世界の王侯貴族、政治家、著名作家、映画俳優、著名デザイナー等が名を連ねており、このことは我が国でも紹介されてきたところである。
また、被告ホテルを舞台とした映画として、「昼下がりの情事」(昭和33年ころ一般公開)、「巴里のアメリカ人」(昭和26年ころ一般公開)、「雨の朝巴里に死す」(昭和30年ころ一般公開)等がある。これらの映画は、当時の日本の映画ブームの中で、多くの人により鑑賞された。
(乙104 、105 、131)ウ 昭和50年代以降の我が国における海外旅行ブームにより、被告ホテルは、多くの旅行ガイド本、雑誌等において紹介され、相当な数の日本人により利用されるようになった。また、被告ホテルに宿泊するパッケージ旅行や被告ホテル内の料理学校の講習等についても、旅行パンフレットや雑誌等で広く紹介された。被告ホテルは、遅くとも1989年(平成元年)から、日本人をセールス・マネージャとして採用しており、1992年(平成4年)における被告ホテルの宿泊客のうち、約11%が日本人客であった。
(乙22、23、25、26、29、30、92ないし96、130 、145 、146 、155 、160 、162 、172 、185 、205 ないし209 )エ さらに、インペリアル・エンタープライズ株式会社は、被告から許諾を受け、
昭和61年から、我が国において、「リッツ・パリス」を付した食器類、パスポートケース等の袋物、小物、スポーツウエア、時計等の販売を行っている。
(乙97ないし105 )オ 我が国における代表的な英和辞典であると認められる研究社新英和大辞典(昭和55年第5版発行。乙第10号証の1ないし4)、小学館ランダムハウス英和大辞典(昭和48年第1版発行。乙第11号証の1ないし4)、コンパクト版小学館英和中辞典(昭和55年初版発行。乙第12号証の1ないし4)、ジーニアス英和辞典(平成4年4月1日第5版発行。乙第13号証の1ないし3)、旺文社英和中辞典(昭和59年重版発行。乙第14号証の1ないし3)には、「ritz」の項に、見せびらかし、誇示の意味があるが、それは、【G】の名の付いているホテルにちなむ旨の説明がされている(ただし、乙第13号証には、リッツホテルにちなむ旨の説明はない。)。また、上記乙第10ないし第12号証の各3には、公共の施設、建造物の名の前にthe を付した場合の説明として、the Ritzがリッツホテルを意味する旨の説明がある。
(乙10ないし12の各1ないし4、13、14の各1ないし3)カ 被告ホテル以外にも、「Ritz」、「リッツ」を付したホテルは、ロンドン等に存在するが、
(ア) ロンドンに所在するリッツホテルは、ザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッドにより、1906年に開業され、経営されていたものである。
上記ザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッドは、【G】が関与して1897年設立されたリッツ・ホテルズ・ディベロップメント・コムパニーがリッツ・ホテル(ロンドン)の経営を目的としてその多くを出資して設立されたものである。
上記ザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッドは、1976年、トラファルガー・ハウス・インベストメンツによって買収されたが、トラファルガー・ハウス・インベストメンツは、1985年、被告と合弁事業契約を結び、「Ritz」の商標を付した商品の販売を開始した。
(イ) マドリッドに所在するリッツ・ホテルは、前記リッツ・ホテルズ・ディベロップメント・コムパニーが大株主であるリッツ・ホテル・マドリッド(会社)により、1907年に開業され、経営されていたものである。
バルセロナに所在するホテル・リッツは、リッツ・ホテル・マドリッドから「Ritz」の使用を許諾されたものである。
(ウ) リスボンに所在するリッツ・ホテルは、1959年ころ、S.A.R.Lホテル・リッツにより開業されたものであるが、それに先立つ1955年、被告は、同社に対し、「Ritz」の商標を使用する権利を付与した。
(エ) 1910年、リッツ・ホテルズ・ディベロップメント・コムパニー、ザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッド及び被告らは、カールトン・インベスティング・コムパニーに対し、ニューヨークを除く北米において「Ritz」の商標を独占的に使用する権利を与えた(ニューヨークが除かれたのは、当時、ニューヨークには、上記リッツ・ホテルズ・ディベロップメント・コムパニーが出資したリッツ・カールトン・レストラン・アンド・ホテル・コムパニーが経営するリッツカールトン・ニューヨークがあったためであると考えられる。)。
1926年、前記カールトン・インベスティング・コムパニーは、ボストンに、ザ・リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・ボストンを設立し、同社に対し、「Ritz」及び「Carlton 」の商標を使用する権利を与えた。
1975年、ザ・リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・ボストンは、シカゴにザ・リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・シカゴを設立し、同社に対し、「Ritz」の商標の使用権を与えた。
1983年ころ、ダブリュ・ビー・ジョンソン・プロパティーズ・インコーポレーテッドは、ザ・リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・ボストン、リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・シカゴ、並びに、ワシントン特別区でリッツ・カールトンとの名称でホテルを経営していたザ・リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・ワシントン及び同じくニューヨークでリッツ・カールトンとの名称でホテルを経営していたザ・リッツ・カールトン・ホテル・コムパニー・オブ・ニューヨークを買収した。
なお、モントリオールのリッツ・カールトン・ホテルは、1912年に、前記ザ・リッツ・ホテルズ・ディベロップメント・コムパニーにより開業されたが、1980年代に、ダブリュ・ビー・ジョンソン・プロパティーズ・インコーポレーテッドによって買収された。
1988年、被告は、ダブリュ・ビー・ジョンソン・プロパティーズ・インコーポレーテッドに対し、リッツ・カールトンのマークの一部として、「Ritz」のホテル等の営業に使用する権利を付与した。
(オ) 1926年、ザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッド、被告、リッツ・ホテルズ・ディ ベロップメント・コムパニー及び【G】夫人( 【J】) ら(【G】は1918年に死亡し、全財産と事業を同夫人が相続していた。)は、知的所有権国際局(ベルン)に商標登録された「Ritz」の商標は、被告名義でされているが、全契約当事者のために登録されていることを相互に確認した。
さらに、1928年、【G】夫人は、被告に対し、フランス及び知的所有権国際局(ベルン)に登録された「Ritz」の商標についての権利を譲渡したことを確認し、
同夫人の名義で上記商標の維持のために必要な措置を執る権限を与えた。
1932年、被告と【G】夫人、リッツ・ホテルズ・ディ ベロップメント・コムパニー、ザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッドらは、リッツ・ホテルズ・ディ ベロップメント・コムパニーに属する「Ritz」の商標を被告に移転する契約を結んだ。
また、被告は、1976年、リッツ・ホテルズ・ディ ベロップメント・コムパニーがトラファルガー・ハウス・インベストメンツに対しザ・リッツ・ホテル(ロンドン)・リミテッドの株式を売り渡し、任意清算をするに当たり、リッツ・ホテルズ・ディ ベロップメント・コムパニーから「Ritz」の商標に関する各権利を買い戻した。これは、被告が、商標管理の便宜上、これらの権利をリッツ・ホテルズ・ディ ベロップメント・コムパニーに信託的に譲渡していたためである。
(カ) 台北に所在するホテル・リッツは、被告らから、「Ritz」の使用を許諾された等の関係にはない。(2) 上記認定の事実によれば、被告ホテルは、1898年に【G】により開設され、最初に「Ritz」、「リッツ」の名称を付された著名なホテルであり、その後「Ritz」、「リッツ」を含む商標の使用を許諾されたホテルが存在するとしても、被告ホテルはいわばこれらホテルの代表的なものとして知られており、「Ritz」、「リッツ」の表示は、被告ホテルを指称するものとして、本件商標の登録出願( 平成4年8月) 前に、我が国におけるホテル業界はもちろんのこと、一般の需要者の間にも広く認識されていたものと認められる。
2 原告の主張について(1) 原告は、1995年9月付けの【I】の手紙(甲第101 号証)に基づき、ロンドン等のリッツホテルのうち台北所在のものを除くものが【G】等に淵源を有するというのであれば、原告の経営するホテルも、【G】に淵源を有する旨主張する。
しかし、原告も、上記【I】の手紙により、原告がその経営するホテルの商標として「リッツ」の使用を許諾されたとまで主張するものではない上、乙第197 号証、第226 号証(原本の存在及び成立は、弁論の全趣旨により認める。)及び弁論の全趣旨によれば、【I】は、【G】の息子【H】の妻であるが、上記甲第101 号証の手紙は、【I】が正確な事情を知らないまま欺かれて署名したものであり、その内容自体も、原告の経営に係るホテルの7周年を祝うという趣旨のものであって、原告に対し、「Ritz」、「リッツ」の使用権を与えたり、その使用を許諾したという趣旨のものではないことが明らかであるから、上記手紙が事実を述べていることを前提として原告の経営するホテルも【G】に淵源を有する旨の原告の主張は理由がない。
(2) 原告は、被告ホテル以外にも「リッツ」と称されるホテルは世界中にたくさんあるから、「Ritz」や「リッツ」の表示は識別力が極めて低い標章であるなどと主張するが、前記認定のとおり、「Ritz」の商標を使用するロンドン等に所在するホテル(台北所在のものを除く。)は、被告と同様に、【G】の関与により設立され、又は被告から「Ritz」の使用を許諾されている関係にあるものであるから、これら被告と関係する「Ritz」、「リッツ」を正当に使用するホテルが他に存在するからといって、「Ritz」、「リッツ」の表示が識別力の低いものになるとか、これらの表示が被告ホテルを指称するものとして広く認識されていないと認めることは到底できない。さらに、上記のホテル以外に「Ritz」、「リッツ」の有する顧客吸引力に只乗りするホテルが多少存在しているとしても、「Ritz」や「リッツ」の商標が識別力の低い標章であると解することもできない。よって、原告の上記主張は採用することができない。
3 認定及び判断 そうすると、本件商標は、その構成中に原告のホテルを表示するためのものとして、著名な「リッツ」の文字を有してなるものであるから、これを宿泊施設の提供等の役務について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、該役務が被告又はこれと何らかの関係を有する者の営業に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであり、これと同旨の審決の認定、判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
結論
よって、原告の本訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年6月22日)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 市川正巳