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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ネ3057商標権侵害差止等請求控訴事件 平成20ネ420同附帯控訴事件 判例 商標
平成20ワ19774商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成12ワ366商標権侵害による損害賠償請求事件 判例 商標
平成2ワ3599 判例 商標
平成9ワ10409 判例 商標
関連ワード 商標性 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  普通に用いられる方法 /  ありふれた氏 /  ありふれた標章 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  不使用 /  使用料相当額 /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  禁止権 /  差止 /  更新登録 /  継続 /  ハウスマーク /  商号 / 
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事件 平成 6年 (ワ) 6280号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1995/02/22
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、金一億〇四八六万八〇〇〇円及びこれに対する平成六年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が被告に対して、被告が、業として製造、販売している商品であるCD(シンガーソングライターである【A】の楽曲を収録したコンパクト・ディスク。以下「本件CD」という。)について、別紙目録記載の「UNDER TEH SUN」という標章(以下「被告標章」という。)を付する行為が、原告の後記の登録商標に類似する商標の使用であり、原告の商標権を侵害する(商標法37条1号、以下同法の条文の引用は単に条文のみで表示する。)と主張して、被告が平成五年九月一五日ころから平成六年二月末日までの間に被告標章を付して製造販売した本件CD四〇万枚について、通常受けるべき使用料相当額の一億〇四八六万八〇〇〇円の損害賠償と不法行為後の民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。
一 前提となる事実1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商録を「本件登録商標」という。)を有している(争いがない。)。
登録番号 二一五七八六三出願 昭和六二年五月二九日出願公告 昭和六三年一二月二日登録 平成元年七月三一日商品の区分 第二四類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表による。)指定商品 おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く。)、レコード、これらの部品及び付属品登録商標 別紙添付の商標公報(商標出願公告昭六三ー九七二八四)記載のとおり2 被告は、業として製造、販売している商品である本件CDに、被告標章を付している(争いがない。)。
3 被告標章は、本件登録商標と同一の文字構成であり(甲二)、かつ、本件商標権の指定商品の「レコード」は、蓄音機用音盤、録音テープ、その他の物に音を固定したものであると認められるから(商標法施行規則3条別表九類一四号参照)、
本件CDはこれに該当する。
二 争点 被告の商品である本件CDについて、原告の登録商標と同一の文字構成である被告標章を、アルバムのタイトルとして表記する行為が、商標の使用に当たり、原告の本件商標権を侵害するといえるか。
1 被告の主張 (一) 本件CDには、個々の音楽著作物が特定の数だけ集められ、特定の順序で配列され、収録されている(以下「本件アルバム」という。)が、本件アルバムは、日本で最も有名なシンガーソングライターの一人である【A】が、個々の曲の大部分を自ら作詞、作曲した上で、専ら自己の自由な感性、発想等に基づいてアルバムのコンセプト、イメージ等を構成ないし設定して、自ら本件アルバムのプロデューサーとして、アルバムに最終的に収録される曲を取捨選択し、その配列を決定することにより製作されたものである。よって、本件アルバムは、アルバムプロデューサーとしての【A】の知的創作活動の結果として完成されたものであり、編集著作物に該当する。
アルバムについては、それ自体が独立の編集著作物であることに基づき、個々の曲の題名とは別個の題号(以下「アルバムタイトル」ともいう。)が、アルバム自体を表示するものとして付される。このアルバムタイトルは、あくまで音楽の編集著作物であるアルバムを表示するものとして、アルバムに付されるものであり、商品である媒体(CD、レコード、カセットテープ、ミニ・ディスク等)に付されるのではない。それ故、ある特定のアルバムは、たとえそれがどのような媒体に収録されようとも、媒体ごとにその題号が変更されることはない。また、レコード業界の実例を見ても、例えば、アルバムレコードの価格の変更、レコードのCD化、CDの価格の変更、あるいは、そのアルバムを発売するレコード会社が変わる場合や、一旦廃盤とされた後にリバイバル発売される場合でも、内容たるアルバムが同一である限り、その題号が変更されていない例を多数指摘することができる。これは、アルバムタイトルが、アーティスト等がその創作したアルバムの内容やイメージを凝縮して表現するものとして創作され、アルバムに対して固定的に付するものであり、内容たるアルバムと不可分一体のものとして、編集著作物たるアルバムの同一性保持権の対象に含まれ、著作権法上も題号の保持が要請されていることからも当然のことである(著作権法20条1項)。これを消費者の立場から見ると、アルバムタイトルは、自分が聴きたいと思うアルバムを識別するために最も重要な標識であり、万一、レコード会社の変更やリバイバルの度にその題号が変更されるならば、消費者の多大な混乱を招くことになるのである。そして、消費者がある特定のアルバムタイトルを耳にした時に観念するのは、その媒体であるCDでもカセットテープでもなく、正にその内容たる編集著作物としてのアルバム自体である。
なお、アルバムの中には、例外的ながら、特殊のものが存在し、例えば一部の「シリーズもの」というべき連作のアルバムの場合は、レコード会社等の一定の編集方針に基づき、それぞれ異なる内容の曲によって構成されるアルバムが同一のタイトルの下に反復、連続して製作、販売されることがある。この場合は、アルバムタイトルとその内容たる編集著作物との結びつきがやや弱いことから、そのアルバムタイトルは、アルバムの題号としての性格のみならず、商品としてのCDに付された商標としての性格を併有していると考える余地がある。しかし、右のような「シリーズもの」はあくまで例外であり、現在、製作、販売されているアルバムの大部分の割合を占めているのは、一回性・単発のアルバム(以下「一回的アルバム」という。)である。ここでいう一回的アルバムとは、複数の特定の曲を特定の順序で配列したアルバムであり、これに対しては特定の題号が付され、同一の題号である限り、その内容たる曲やその配列が変更されることは通常あり得ない。
このように、編集著作物であるアルバムとアルバムタイトルの結びつきは極めて強固で動かしがたいものであり、かつ、本件アルバムは、一回的アルバムであるから、そのアルバムタイトルは、編集著作物である本件アルバムを表示するものであって、媒体である本件CDの出所(その発売主体であるレコード会社)を表示するものでないことは、全く疑う余地がない。
なお、被告の商品たる本件CDを表示するものとして付されている商標は、別紙商標目録記載の商標(以下「フォーライフ商標」という。)である。
また、後記のとおり、原告は、「アルバム」の語の意味について、音楽情報が収録された商品のうち、帳面状の形態をした商品のみを固有にアルバムと称し、カセットテープ等はアルバムとは呼ばないのが一般の用法であると反論するが、音楽の世界でいう「アルバム」とは、一連の音楽情報としての特定の複数の音楽著作物の集合体を指すものであり、それが収録された媒体の種類如何に関わるものではなく、たとえカセットテープに収録されていても「アルバム」であることに変わりがない。「帳面状の形態をした商品」がアルバムであるというならば、シングル曲を収録したレコードやCDも、アルバムであることになってしまうが、そのような用法はない。
(二) 以上のとおり、本件アルバムは編集著作物に該当し、そのアルバムタイトルがこの編集著作物たる本件アルバムに対してのみ付された題号であることから、
被告が本件CDに被告標章をアルバムタイトルとして使用する行為は、次のいずれの理由によっても、原告の本件商標権を侵害する行為には当たらない。
(1) 本件CDにアルバムタイトルとして記載された被告標章は、その表示の客観的態様及び機能に照らし、媒体に収録された内容である無体物としての編集著作物たる本件アルバムの題号として、本件アルバムについて使用された標章と認めるべきであり、商品である有体物の媒体CD(CD盤及びジャケット)について付した標章ではない。したがって、被告が被告標章を本件CDに使用する行為は、「商品に標章を付する」行為(2条3項1号)に該当せず、「商品について使用」する標章(2条1項1号)に該当しないから、商標法上の「商標」(2条1項柱書)に該当しない。
(2) また、商標上の「商標」とは、商品に物理的に付された標章のすべてを含むものではなく、自他商品識別機能及び出所表示機能を有する標章を意味すると解すべきである。被告標章は、編集著作物たる本件アルバムの題号であり、無体物たる編集著作物を表示するものであって、商品たる媒体CDを表示するものではないから、商品たる本件CDとの関係では、何ら自他商品識別機能及び出所表示機能を有しない。したがって、本件CDに使用されている被告標章は、商標法上の「商標」ではない。
(3) 仮に、被告標章が形式的に商標法上の「商標」に該当するとしても、次の理由により、被告が被告標章を本件CDに付する行為は、37条に該当せず、原告の商標権を侵害しない。
すなわち、25条本文は、商標権者が指定商品について登録商標の使用権を専有することを規定しているから、36条及び37条にいう商標権の侵害とは、いずれも右の商標権者が専有する登録商標の使用権の侵害を意味するものと解される。他方、3条は、商標の登録要件を厳格に規定し、自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商標に限って登録を認めることにしており、逆に言えば、登録商標とは、
このような厳格な要件に適合するものとして登録を受けている商標であるから、登録商標である以上、自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商標であることは当然のこととなる。とすれば、25条本文に規定する「登録商標を使用する権利」とは、自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商標を使用する権利を意味することとなるから、かかる機能を有しない商標の使用は、「登録商標を使用する権利」には含まれないと解するのが相当である。
したがって、自他商品識別機能及び出所表示機能を有しない商標の使用は、25条に規定する「登録商標を使用する権利」を侵害するものではないから、36条及び37条にいう商標権の侵害には該当しない。
よって、被告標章が編集著作物の題号であって商品たる本件CDを表示するものでなく、自他商品識別機能及び出所表示機能を有するものでない以上、被告が被告標章を本件CDに付する行為は、37条に該当することはない。
(三)(1)単行本の題号は、書籍の内容たる著作物を表示するものであって、自他商品識別機能等の商標の本質的機能を欠くことを基本的理由として、その実質的な商標性を否定されている、本件アルバムは、前記のとおり一回的アルバムであり、一回的アルバムのタイトルは、商品たる媒体に付されるものではなく、その内容である編集著作物に固定的に付されるものであり、これは、書籍でいえば、同じく一回性の著作物である単行本に固定的に付された題号に相当するから、本件アルバムに付された本件タイトルについても、同様に、その実質的な商標性は否定されるべきである。
(2) 特許庁における商標登録の審査においては、録音されたテープ、レコード、CD等は、書籍と同じ性質のものであることから、出願に係る商標が特定のテープ、レコード、CD等に収録された著作物の題号と認められるものは、3条1項3号に該当するものとして登録を拒絶され、また、審査時点で直ちに特定のテープ、レコード、CD等の題号とは認められないものは、一旦は登録されるものの、
それがテープ、レコード、CD等の題号として使用される場合には、更新登録出願の審査又は不使用による取消審判において、登録商標の使用とは認められないとするのが、確定した取扱いである(なお、単行本である書籍の題号について商標登録の申請がなされた場合は、3条1項3号又は4条1項16号に該当することを理由として、常に拒絶査定を行うのが、特許庁の確定した審査実務である。)。
このように、特許庁の商標登録の審査実務においても、有体物たる媒体(商品)の識別機能と無体物たる著作物の識別機能が明確に区分されていることが明らかである。このことから分かるように、レコードを指定商品とする商標とは、あくまで、商品たるレコードを製作、販売する者(出所)の同一性を表示して、他の者の製作、販売にかかるレコードから当該レコードを区別するものである。したがって、レコードを製作、販売する者の同一性を表示するために使用される標章とは、
通常、製作販売者のハウスマーク商号等であって、レコードの題号でないことは明らかであり、原告の本件商標も、正にかかる意味においてその登録が認められたものである。
(3) アルバムタイトルの現実の創作、決定状況を見ると、アルバムタイトルは、作詞家、作曲家又はアーティストが、その著作にかかる著作物の内容ないしイメージを短い単語で凝縮し表現するものとして専ら自由な発想に基づいて創作、決定し、アルバムに付するものであり、このようなアルバムタイトルの創作、決定行為は、それ自体として極めて創作性の強い行為であり、内容たる著作物自体の創作活動と不可分の性質を有するため、著作物自体の創作活動と同様に、可能な限り、
その創作、決定の自由が保障されなければならない。
ところが、万一、音楽著作物の題号について、商標権侵害が認められるとするならば、一旦商標登録された題号については、他の著作者は商標権者の許諾を受けない限り使用できないことになってしまう。その結果、著作者は、その創作した著作物に題号を付する際に、その著作物が媒体に収録されて商品化されることが予定されている限り(ほとんどの著作物は何らかの形での商品化を予定されている。)、
同一の題号が媒体について商標登録されているかどうかを調査することを余儀なくされることとなる。しかし、このように著作者に対し登録商標の調査を強いることは、著作者の創作活動の自由を厳しく制約し文化の発展を著しく阻害することが明らかであり、現在の著作活動の実態に照らしても甚だ非現実的であって、到底容認できない。
被告標章は、音楽著作物の題号としては、ごくありふれたものであり、被告が調査した範囲でも、既に別個の一五の音楽著作物(アルバムとシングルの双方を含む。)に対して同一のタイトルが付され、長年使用されている。にもかかわらず、
原告は、このようなごくありふれた音楽著作物のタイトルと同一の標章が商標登録されたことのみによって、以後、何人もこのタイトルを商標権者の許諾なくして新たな音楽著作物に付することはできないとして、商標権者による音楽タイトルの独占を公然と主張するものであり、その主張は著しく不条理である。
(四) 原告は、後記のとおり、CD商品は、ジャケットの装丁に商品性が強く、
かつ、装丁とタイトルの融合が強く、標章としてのタイトルそのものに商品性、識別性が強い旨主張し、本件タイトルが商品識別機能を有する商標である旨主張している。
しかし、その主張は、原告の本件商標権の指定商品「レコード」に対応する商品としてのCDの意義について、有体物としてだけでなく、そこに収録されている音楽情報をもこれに含ませた上で、本件タイトルの表示を介して需要者が認識する精神的な労作である編集著作物の同一性についての識別機能を論ずるものであって、
有体物であるCDを製造販売する責任主体についての識別機能をいう商標本来の領域とは全く異なる問題を論ずるもので、失当である。有体物たる媒体(商品)の識別機能とは、あくまで商品を出版(製造)、販売する責任主体についての識別機能であり、これこそ有体物たる商品に付された標章の自他商品識別機能及び出所表示機能等について規定する商標法上の領域の問題である。これに対して、無体物たる著作物についての識別機能とは、本来その著作者及び著作物の同一性についての識別機能であり、これは著作権法の領域に属する問題であり(著作権法19条参照)、商標法の領域に属する問題ではない。
したがって、指定商品「レコード」及びこれに対応する商品としての「CD」とは、商標による識別対象として、そこに収録された著作物の具体的内容を含むものではなく、専ら「媒体としての有体物(レコード盤、CD盤、ジャケット等)」を意味するものと理解しなければならない。
2 原告の主張(一) 本件CDのジャケット及びCD盤に付された被告標章は、「商標」に他ならない。
本件CDの商品としての性質を分析すると、@物理的な円盤であるCD盤及びジャケット、ACD盤に収録された音楽情報の二つの側面がある。
消費者は、CD盤に収録された情報(ソフト)を入手せんがためにCD商品を購入するのが一般であるが、だからといって、CD盤という円盤及びジャケットのもつハードとしての側面やタイトルの持つ識別機能を捨象することはできない。CD商品のジャケットやタイトルは、収録された音楽情報を視覚的イメージに変えて瞬時に訴え、他の商品との識別をもたらす機能を有しており、商品としてのCDにおいて極めて重要な要素を形成している。
一般消費者がCD商品を購入する際に収録された音楽をすべて聴取することは、
極めて稀であり、むしろ、タイトルやジャケットの装丁が商品購入に大きなファクターを占めていることは、経験則上明らかである。
被告は、消費者がある特定のアルバムタイトルを耳にした時に観念するのは、媒体であるCDでもカセットテープでもなく、正にその内容たる編集著作物としてのアルバム自体であると主張する。
しかし、消費者がある特定のアルバムタイトルを耳にした時、まずレコードやCDのジャケットをイメージし、それに続いて収録された音楽情報の一部ないし全体を想起し、要するに「アルバム」という商品を認識するのであり、アルバムタイトルで観念するのは媒体である商品であり、特にレコードやCDのジャケットである。この場合、アルバムタイトルは、商品である媒体との結合が極めて強く、視覚的にも認識の上でも識別機能の中心となり、ジャケットと一体になって識別機能を営んでいる。その際に内容表示の機能を営むのは、収録曲の目次であり、アルバムタイトルは、専ら商品識別機能を営んでいる。
(二) 被告は、本件CDの内容として収録されている一連の音楽情報を「本件アルバム」と称しているが、その「アルバム」という言葉自体が、物理的な商品の存在を前提とし、ないしは物理的な商品それ自体であることを意味しているといわざるを得ない。すなわち、音楽情報が収録された商品のうち、帳面状の形態をした商品のみ(LP、CDなど)を固有にアルバムと称し、カセットテープ等はアルバムとは呼ばないのが一般の用法であって、これはソフトの内容ではなく、物理的な商品の形態に着目しているのである。
本件CDは、まさにアルバムであって、音楽情報を収録したCD盤をジャケットで包んだ帳面状の商品である。
このようなCD商品の有する特性や「アルバム」という商品形態に鑑みると、被告標章は、一連の音楽情報に付されたタイトルであるという性格は薄弱であり、商品たる本件CDに付された商標というべきである。すなわち、一曲ごとの曲名は、
音楽情報を表示する題名として別個に存在し、複数曲の総体に付する題号は、「アルバム」という商品の呼称に他ならない。
(三) 被告は、編集著作物たる音楽情報を、商品たるCDから分離して考察しているが、CDにおける商標問題を論ずるに当たって、音楽情報を媒体から分離することはできない。
CDは、音楽情報と媒体たるCD盤とが一体となっており、この両方があって初めて商品となり得るのであり、音楽情報を含まないCD盤はCD商品ではなく、CD盤のない音楽情報はCD商品ではない。
このことは、CD商品の製造、流通、使用の各過程を吟味すれば更に明らかになる。すなわち、製造工程においては、音楽情報は、CD盤の樹脂上に信号の形状として成型され、CD盤と音楽情報が不可分一体となっており、無体物というよりも、むしろ、CD盤の凹凸という有体物として具現化しており、流通過程や使用過程でも、音楽情報とCD盤とが常に一体として取り扱われている。このように、CD商品における音楽情報は、CD盤と一体であるから、音楽情報に関する標章もCD商品に関する商標となりうるのである。
(四) 被告は、被告標章の商標性の有無について、書籍の単行本の題号に関する議論を持ち出すが、一般の書籍単行本の題号は、収録されている記述的著作物に付された題号がそのまま単行本の題号とされているものが多く、その場合、題号の性質から、記述的著作物の内容を端的にあるいは象徴的に示すものとして、内容表示機能が予定されることになる。また書籍単行本の題号は、その標章としての観点からも標準的な印刷字体を用いたものが多く、視覚的な印象に工夫を加えたものが少ないのであり、識別機能を有していないものが多い。しかし、あらゆる単行本の題号が、右のようになるとは限らず、商標性の有無については、個別の検討、判断を要するものであり、書籍単行本の題号であっても、当該単行本の商品としての特性、選択された題号の記述的意味、標章としての特徴などの総合判断により、商標性を有する余地がある。
音楽著作物が固定されたCD商品を考えると、そのタイトルは、書籍と異なり、
商標性を持つタイトルの生ずる余地がはるかに広がっている。すなわち、音楽著作物は、書籍に固定される多くの記述的著作物に比べ、はるかに抽象的であり、そのタイトルは、内容を直接に表示する機能が薄まり、著作物の商品化とあいまって、
タイトル自体に自他商品識別機能出所表示機能を持ちやすくなる。
また、CDやレコードは、書籍の装丁よりもはるかにそのジャケットの装丁に商品性が強く、かつ、装丁とタイトルとの融合が強く、標章としてのタイトルそのものに商品性、識別性が強い。特に多数曲が固定されるアルバムは、書籍と比べても、収録曲に相互に関連性の薄いものが多く、たとえ収録曲のうちのある一曲のタイトルがアルバムタイトルに利用された場合でも、アルバムタイトルは、同タイトルの曲が収録されていることを想像させるにとどまり、アルバムの内容を直接的に表示する機能はなく、ジャケットの装丁と融合して、アルバムという商品についての自他商品識別機能出所表示機能を持つことになる。
(五) 被告は、アルバム・タイトルの創作、決定の自由が保障されなければならないとして、本件登録商標の保護を否定する主張をするが、タイトルに登録商標と類似した標章を使用する以上、常に商標法違反の問題となりうるのであり、右の自由が商標権者保護の要請より優位にある訳ではない。仮に、被告の主張を認めるならば、タイトルと称して、商標権を侵害するケースを無制限に許容することになる。例えば、登録された他のレコード会社の商標を、タイトルと称してレコードに付して使用することを許すことになることは明らかに不当である。
争点に対する判断
一 商標法は、2条1項において、「商標」とは、「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの給合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)」であって、「業として商品を生産し、証明し、譲渡する者がその商品について使用するもの」(一号。なお、役務について使用する商標については、内容が重複するため、
以下省略する。)をいうと規定し、この規定を前提として、3条1項において、
「その商品・・・の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(一号)、「その商品・・・について慣用されている商標」(二号)、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができない商標」(六号)を除いて商標登録を受けることができる旨規定している。右によれば、商標法は、立法の仕方として、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができ」るか否かにかかわらず、業として商品を生産し、証明し、譲渡する者がその商品について使用する標章をすべて形式的に商標法上の「商標」として定義しているものと解される。
しかし、形式的な意味での「商標」を除いて、本来的な意味での商標について考えてみると、その本質は、「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができ」るようにして、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別するための標識として機能することにあるというべきである。このことは、1条が「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定しており、3条1項が、前記の一号、二号及び六号の商標並びに「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(三号)、「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(四号)及び「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」(五号)を除いて商標登録を受けることができる旨、また二項において「前項第三号から第五号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」旨規定し、右の出所表示機能、自他商品識別機能を有する商標についてのみ商標登録を受けることができることを認めた上で、25条で「商標権者は、指定商品・・・について、登録商標の使用をする権利を専有する」と規定し、もって、形式的な意味での商標でなく、出所表示機能、自他商品識別機能を有する商標のみをその本質を備えた本来的な意味での商標と認めて、これを権利として保護していると認められることから明らかである。
以上によると、36条が右25条の登録商標の使用権を侵害する行為、すなわち指定商品について登録商標を使用する行為の差止めを規定し、37条指定商品についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品に類似する商品についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用について、商標権を侵害するものとみなす旨規定しているのは、商標権者以外の第三者が、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品又はこれに類似する商品に使用することにより、その商品の出所を表示して自他商品を識別する標識としての機能を果たし、もって、商品の出所の混同を生ずるおそれが生じ、商標権者の登録商標の本質的機能の発揮が妨げられるという結果を生じることによるものであるというべきである。また、26条1項2号は、登録要件を定める3条1項1号及び三号の規定に沿って、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、
数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」について商標権の効力が及ばない旨を規定しているが、右規定は、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を使用しても、その商標が商品に表示されている態様からみて、その商標が、商品の普通名称や産地、品質等を表示するものにすぎず、商標の本質的な機能である出所表示機能、自他商品識別機能を果たしていないと認められる商標について、商標権の禁止権の効力が及ばない旨を定めたものであると解すべきである。
したがって、以上の36条37条及び26条の法意に照せば、第三者が登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれに類似する商品について使用している場合でも、それが、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されていると認められる場合には、登録商標の本質的機能は何ら妨げられていないのであるから、商標権を侵害するものとは認めることはできない。すなわち、26条1項2号の「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当しない商標についても、出所表示機能、自他商品識別機能を有しない態様で使用されていると認められる商標については、右に述べた理由により、商標権の禁止権の効力を及ぼすのは相当ではない。
二 被告標章が出所表示機能、自他商品識別機能を有しない態様で本件CDに使用されているかどうかについて判断する。
1 後掲括弧内の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件CDは、シンガーソングライターである【A】が、自ら作詞、作曲した曲や共同で作詞、作曲した曲を自ら歌唱し、これに伴奏を加えた楽曲全一一曲を収録したものであり、本件アルバムは、その曲の選択と配列の順序についても、同人が一定のコンセプトないしイメージに従って決定し、編集したものである。(検甲一、二)(二) 一般に、歌手やシンガーソングライター等が歌唱、演奏する曲をレコードやCDの媒体物に録音して、発売する形態として、その収録されている曲の曲数に着目した場合、「シングル」と「アルバム」とに二分することができる。
「シングル」は、ある特定の単数の曲を録音し発売することを意図して、その一曲を収録するものであるが、レコード盤に収録する場合には、レコード盤には表面(A面)と裏面(B面)の二つの収録可能な面があるため、裏のB面にも付随的な曲を収録して発売するのが通常である。そして、シングル盤の主となる収録曲の題名は、一般に、収録されるレコード盤のA面やCD盤の表面上に、収録曲として表記されるほか、これを収納するジャケットの表面にも、その曲を歌唱、演奏する歌手等の名前と共に、比較的大きく表記されて発売されることが多い。また、これらの商品の製造、発売元の表示としては、その商標やその商号が比較的小さく表記されることが多い。
一方、「アルバム」は、複数の曲が一定の数だけ集められ、特定の順序で配列されて収録されたものであるが、これは、アルバム製作者が、一定のコンセプト、イメージ等に基づいて、複数の曲の中から、収録する一定数の曲を選択し、その配列の順序を決定した上で製作するものであって、編集著作物となりうるものである。
そして、この特定して選択、配列された複数曲の集合体に関して、その個々の曲の題名とは別個の題号が付けられるのであるが、このアルバムタイトルは、アルバム製作者が、その収録曲の内容やコンセプト、イメージ等を凝縮して表現するものとして決定することが多く、収録曲の題名とは全く異なる題号が付けられたり、その収録曲のうちの一曲の題名が付れられることもある。
このように、アルバムタイトルは、特定の複数曲の集合体に関して付けられるものであるが、このアルバムタイトルは、一般に、その特定の複数曲が収録されるレコード盤の両面やCD盤の表面上に表記されるほか、これを収納するジャケットの表面に、その曲を歌唱、演奏する歌手等の名前と共に、比較的大きく表記されて発売されることが多い。また、これらの商品の製造、発売元の表示としては、その商標やその商号が比較的小さく表記されることが多い。
このアルバムタイトルは、それらの音楽がどのような媒体(CD盤、レコード盤、カセットテープ、ミニ・ディスク等)に収録されようとも、媒体ごとにその題名が変更されることは全くなく、また、その媒体たる商品を発売するレコード会社が変わった例や、一旦廃盤とされた後にリバイバル発売された例においても、収録曲の集合体が同一である限り、そのアルバムタイトルが変更されないで使用される実例が多数存在している。(乙七ないし二〇)。
右によれば、アルバムタイトルは、収録する媒体如何やその媒体たる商品の製造、発売元に関わりなく、専らレコード盤やCD盤に収録されている特定の複数曲の集合体に対する題号として、固定されて付けられたものであるということができる(なお、アルバムの中には、レコード会社等の一定の編集方針に基づき、内容たる曲がそれぞれ異なるアルバムが同一のタイトルの下に反復、継続して製作、販売されるシリーズものが例外として存在し、これらについては、以上とは別個の考慮が必要とされるが、本件アルバムがこれに当たらないことは明らかである。)。
(三) 本件CDにおいて、被告標章を構成する「UNDER THE SUN」との文字や、その片仮名表記である「アンダー・ザ・サン」との文字及び本件CDを製造、販売している被告を表記する文字等の商標が使用されている態様は、次のとおりである。(検甲一、二)。
(1) 本件CDのCD盤の表面の上部には、被告標章を構成する「UNDER THE SUN」の文字が比較的大きくかつ太い書体で横書きで表記されており、
その下に、シンガーソングライターである「【A】」の名前が同様の大きさで横書きで併記されている。右CD盤表面の左側には、比較的小さな文字で横書きで、収録曲の題名が一番から一一番まで表記されており、その一〇曲目に「UNDER THE SUN」の曲名が記載されている。また、右CD盤の表面の右側には、フォーライフ商標が比較的小さく記載されている。
(2) 本件CDのジャケットは、そのジャケット内部に収めた歌詞集の表面が、
透明なプラスチックケースを介してすべて見えて、ジャケット自体の表面を印刷することに代える形態になっているところ、その歌詞集の表面の右上部に、被告標章を構成する「UNDER THE SUN」の文字が比較的大きく太い書体で横書きで表記されており、その下に、「【A】」の名前が、これよりも大きな書体で併記されている。その表面の中央から左側にかけて、被告標章を構成する「UNDER THE SUN」という文字が意匠的に工夫した大きな文字で表示されている。また、その表面の左上部にフォーライフ商標が比較的小さく記載されている(別紙本件CD表面写参照)。
また、ジャケットの裏面の左下部には、収録曲の題名が一番から一一番まで横書きで比較的小さな文字で表記されており、その一〇曲目に、「UNDER THE SUN」の曲名が記載されている。
ジャケットの左右の各背面部には、「アンダー・ザ・サン●【A】」との文字及び図形が記載されている。また左右の各背面部の下部には、比較的小さく「FOR LIFE」の文字が横書きされている。
(3) 本件CDは、その表面の左側に収録曲を説明する帯が掛けられた上で、パッケージされて発売されているが、右帯の表面には、縦書きで大きく「アンダー・ザ・サン/【A】」と記載されており、その紙面の下部にフォーライフ商標が比較的小さく記載されている。また、その紙面の裏面(ジャケットの裏面)の上部には、比較的大きく「アンダー・ザ・サン」との文字が横書きされ、この下に収録曲の題名が一番から一一番まで横書きで比較的小さな文字で表記されており、その一〇曲目に「UNDER THE SUN」の曲目が記載されている。また、この最下部には、比較的小さく「発売元:フォーライフレコード」と横書きされている。
2 以上によれば、被告標章並びにフォーライフ商標及び被告の社名の具体的な表記の態様をみると、被告標章は、前記認定のアルバムタイトルの一般的な表記の態様と何ら異なることはなく、また、フォーライフ商標及び被告の社名も、前記認定のアルバムにおける製造、発売元の一般的な表記の態様と何ら異なることはないのであり、したがって、本件CDに表示されている被告標章は、専ら本件CDに収録されている全一一曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムに対して付けられた題号(アルバムタイトル)であると認められ、本件CDの需要者としても、
被告標章を、専ら本件CDの内容である複数の収録曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムについて付けられた題号(アルバムタイトル)であると認識し、有体物である本件CDを製造、販売している主体である被告を表示するのは、
アルバムタイトルとは別に本件CDに付されているフォーライフ商標や被告の社名であると認識することは明らかである。よって、本件CDに使用されている被告標章は、編集著作物である本件アルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎず、有体物である本件CDの出所たる製造、発売元を表示するものではなく、自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されているものと認められる。なお、原告は、
CD商品のタイトルは、収録された音楽情報を視覚的イメージに変えて瞬時に訴え、他の商品との識別をもたらす機能を有している旨主張するが、アルバムタイトルである被告標章が、本件CDに収録されている音楽情報を表示する機能を有しているとしても、本件CDの製造、発売元を表示する機能を有していないものであることは、右に認定したところから明らかであり、さらに、アルバムタイトルについては、その媒体たる商品を発売するレコード会社が変わった場合でも、収録曲の集合体が同一である限りそのタイトルが変更されずに使用される実例が多数存在しているとの前記認定事実等からも確認されるところである。また、原告の右以外の前記各主張も、以上に述べたところにより、いずれも採用することはできない。
三 よって、被告が本件CDに被告標章を使用した行為は、原告の本件商標権を侵害するものとは認められないから、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
裁判官 設樂隆一
裁判官 橋本英史
裁判官 長谷川恭弘