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事件 昭和 61年 (ワ) 6408号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1988/04/27
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告らは、原告に対し、各自四九三万六九二〇円及び内金四三三万六九二〇円に対する昭和六〇年四月一日以降、内金六〇万円に対する昭和六一年六月六日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その三を原告、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告らは、原告に対し、各自二〇一八万円及び内金一八六八万円に対する昭和六〇年四月一日以降、内金一五〇万円に対する訴状送達の日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求の原因〔商標権に基づく請求〕1 原告は、次の(一)、(二)の商標権(以下その登録商標をそれぞれ「本件登録商標(一)」「本件登録商標(二)」といい、その権利を総称して「本件商標権」という。)を有する。
(一)登録番号 第一三三二九七九号出 願 日 昭和四八年三月一四日登 録 日 昭和五三年五月一日登録商標 別紙商標目録(一)記載のとおり商品の区分 第二一類指定商品 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝石及びその模造品、造花、化粧用具(二)登録番号 第一四四六七七三号出 願 日 昭和五一年一一月九日登 録 日 昭和五五年一二月二五日登録商標 別紙商標目録(二)記載のとおり商品の区分 第二一類指定商品 かばん類、その他本類に属する商品2 被告拓産商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、昭和五八年一二月ころから昭和六〇年三月までの間に、別紙標章目録(一)、(二)の標章(以下それぞれ「本件標章(一)」「本件標章(二)」という。)を付したかばん類(以下「被告かばん類」という。)を販売した。被告Aは、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであり、被告Bは、被告会社の常務取締役としてその営業部門を統括するものであつて、右被告両名は、その業務の執行として被告かばん類を販売した。
3 被告かばん類に付された本件標章(一)、(二)は、それぞれ本件登録商標(一)、(二)と同一である。
4 被告らは、故意により、共同して被告かばん類を販売し、本件商標権を侵害したものであるから、原告に対し、これによつて原告が被つた次の損害を連帯して賠償すべき義務がある。
(一) 被告らが侵害行為により得た利益の額は、原告が受けた損害の額と推定されるところ、被告らは、前記期間内に、仕入総額一六六八万四六〇一円相当の被告かばん類を仕入額の二倍以上の価格で販売し、少なくとも一六六八万円以上の粗利益を得た。仮に、粗利益の額について右推定が働かないとしても、本件登録商標(一)、(二)の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額は、売上額の一〇パーセントであるから、前記仕入総額を二倍した売上額の一〇パーセントに当たる三三三万六九二〇円である。原告は、予備的に、右使用科相当額を損害の額としてその賠償を請求する。
(二) 原告は、一八五四年に、世界で最初の旅行かばん店としてパリに設立され、以来、極めて堅牢なフアツシヨン性に富む高級なかばん類、袋物類を販売している。原告は、本件登録商標(一)、(二)と同一である本件標章(一)、(二)をその商品に付して販売しているが、ライセンス契約による日本での製造等はしておらず、フランスで製造した商品を原告の日本における子会社が輸入し、これを子会社の直営店一店と特約店一五店で販売しており、これによつて、原告の商品の品質の保持管理並びに本件登録商標(一)、(二)の信用維持に努めている。このようにして、本件登録商標(一)、(二)は、原告の長年にわたる企業努力により世界的に著名な商標となり、日本国内においても、取引者又は需要者間に広く認識され、強力な顧客吸引力を取得した商標となつている。ところが、原告の商品は、需要者に人気があるうえ、デザインに変更がなく値崩れがないため、その偽物が横行している。原告は、これに対し、従来より多大の費用を投じてその対策を講じ、民事刑事の手続きを取つているが、偽物が跡をたたない状況にある。また、原告は、
品位を大切にして商品イメージを高めるための広告はしても、通常の販売促進のための広告はせず、しかも、安売り、バーゲンセールをしない点で、需要者に人気がある。したがつて、被告らがしたように、素材(ビニール皮)、色、デザイン等細部に至るまで原告の商品を酷似的に模倣している商品を安売りされると、原告の信用は、毀損され、原告が無形の損害を被ることは明らかである。ところで、被告らは、昭和五九年五月から、被告かばん類の販売に関して警察の取調べを受け、公判請求をされているにもかかわらず、昭和六〇年三月に再度の警察による差押えを受けるまで販売を続けるという悪質極まりない行為により、原告の信用を著しく毀損してきた。以上の被告らの信用毀損行為により原告が被つた損害は、少なくとも二〇〇万円を下らない。
(三) 原告は、本件紛争解決のため、弁護士に訴訟委任を行い、その報酬として一五〇万円の支払いを約した。
5 よつて、原告は、被告らに対し、本件商標権侵害行為により被つた損害として、前記4(一)ないし(三)の損害の合計二〇一八万円及び内金である前記4(一)及び(二)の損害の合計一八六八万円に対する不法行為の後の日である昭和六〇年四月一日以降、内金である前記4(三)の損害一五〇万円に対する不法行為の後の日である訴状送達の日以降各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
〔不正競争防止法1条ノ二の規定に基づく請求〕1 原告は、かばん類、袋物等の製造販売を業とするフランス法人である。
2 原告は、その商品に本件標章(一)、(二)を付しているが、その商品は、一般に「ルイ・ヴイトン」と呼ばれ、世界の超一流ブランド商品として世界的に極めて著名であつて、わが国においても、本件標章(一)、(二)は、昭和五二年当初には、広く認識された商標となつている。
3 被告会社は、昭和五八年一二月ころから昭和六〇年三月までの間に、原告の周知商品表示である本件標章(一)、(二)を被告かばん類に付してこれを販売して、原告の商品との混同を生ぜしめ、原告の営業上の利益を害した。被告Aは、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであり、被告Bは、被告会社の常務取締役としてその営業部門を統括するものであつて、右被告両名は、その業務の執行として被告かばん類を販売した。
4 被告らは、故意により、共同して前記行為をしたものであるから、原告に対し、これによつて原告が被つた損害を連帯して賠償すべき義務があるところ、原告が被つた損害は、〔商標権に基づく請求〕の請求の原因4(一)ないし(三)のとおりである。
5 よつて、原告は、被告らに対し、商標権に基づく請求と選択的に、不正競争防止法1条ノ二の規定に基づき、〔商標権に基づく請求〕の請求の原因5記載の損害及び遅延損害金の支払いを求める。
〔商法266条ノ三の規定に基づく請求〕1 〔商標権に基づく請求〕の請求の原因1ないし4及び〔不正競争防止法1条ノ二の規定に基づく請求〕の請求の原因1ないし4のとおりである。
2 以上によれば、被告A及び被告Bは、被告会社の取締役としてその職務を行うにつき悪質又は重大な過失があつたものであつて、これにより第三者である原告に対して与えた損害について、被告会社と連帯して賠償すべき責任があるから、原告は、右被告両名に対し、商標権に基づく請求及び不正競争防止法1条ノ二の規定に基づく請求と選択的に、商法266条ノ三の規定に基づき、〔商標権に基づく請求〕の請求の原因5記載の損害金及び遅延損害金の支払いを求める。
〔民法715条の規定に基づく請求〕1 〔商標権に基づく請求〕の請求の原因1ないし4及び〔不正競争防止法1条ノ二の規定に基づく請求〕の請求の原因1ないし4のとおりである。
2 以上によれば、被告会社は、その被用者である被告A及び同Bがその事業の執行につき原告に加えた損害を賠償すべき責任があるから、原告は、被告会社に対し、商標権に基づく請求及び不正競争防止法1条ノ二の規定に基づく請求と選択的に、民法715条の規定に基づき、〔商標権に基づく請求〕の請求の原因5記載の損害金及び遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する答弁1 〔商標権に基づく請求〕について(一) 請求の原因1の事実は知らない。
(二) 同2のうち、被告A及び同Bが被告かばん類を販売したとの事実は否認し、その余の事実は認める。
(三) 同3の事実は否認する。
(四) 同4本文の主張は争う。同4(一)のうち、被告会社が原告主張のとおり被告かばん類を販売したことは認め、原告主張の利益をあげたこと及びその余の被告らが被告かばん類を販売したことは否認する。同4(二)及び(三)の事実は否認する。原告は、その被つた損害として、被告らが得た利益の額を超える額を主張する以上、その全額である二〇一八万円について、具体的損害を主張立証すべきである。
2 〔不正競争防止法1条ノ二の規定に基づく請求〕について(一) 請求の原因1の事実は認める。
(二) 同2の事実は知らない。
(三) 同3第一文のうち、被告会社が原告主張の期間被告かばん類を販売したことは認めるが、原告の商品との混同を生ぜしめ、原告の営業上の利益を害したとの事実は否認する。同第二文のうち、被告A及び同Bが被告かばん類を販売したとの事実は否認し、その余の事実は認める。
(四) 同4のうち、被告らに原告主張の義務があるとの主張は争う。〔商標権に基づく請求〕の請求の原因4(一)ないし(三)についての答弁は、前記1(四)のとおりである。
3 〔商法266条ノ三の規定に基づく請求〕について請求の原因1についての答弁は、前記1(一)ないし(四)及び2(一)ないし(四)のとおりである。
4 〔民法715条の規定に基づく請求〕について請求の原因1についての答弁は、前記1(一)ないし(四)及び2(一)ないし(四)のとおりである。
証拠関係(省略)
理 由一 商標権に基づく請求について1 成立に争いのない甲第一号証ないし第四号証によれば、〔商標権に基づく請求〕の請求の原因1の事実が認められる。
2 被告会社が、昭和五八年一二月ころから同六〇年三月までの間に、仕入総額一六六八万四六〇一円相当の本件標章(一)、(二)を付した被告かばん類を販売したことは、当事者間に争いがない。また、被告Aが被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであり、被告Bが被告会社の常務取締役としてその営業部門を統括するものであることは、当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第五号証によれば、被告Aは、被告会社の代表取締役として、被告かばん類を仕入れ、被告Bらを指揮して被告かばん類を販売し、被告Bは、被告会社の常務取締役として、被告かばん類の販売の業務に従事していたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 前掲甲第二号証及び第四号証によれば、本件標章(一)は、本件登録商標(一)と、本件標章(二)は、本件登録商標(二)とそれぞれほぼ同一であることが認められ、また、被告かばん類が本件商標権の指定商品であるかばん類に属することは明らかである。
4 以上の事実及び前掲甲第五号証によれば、被告らは、故意により、共同して本件標章(一)、(二)を付した被告かばん類を販売し、本件商標権を侵害したものと認められる。そうすると、被告らは、原告に対し、右侵害行為により原告が被つた損害を連帯して賠償すべき義務があるものというべきである。そこで、右損害の額について審案するに、前掲甲第五号証によれば、被告会社は、被告かばん類を仕入額一六六八万四六〇一円の二倍の値段で販売し、一六六八万円余の粗利益をあげたのであるが、右販売は北海道各地の展示即売会等において行つたものであつて、
展示会場を借りたり、宣伝広告をしたりするための費用等が販売経費として掛かつたことが認められ、右認定の事実によると、被告かばん類の販売による純利益の額は、右粗利益の額から右販売経費の額を控除したものであつて、右粗利益の額を当然に下回るものといわざるをえないところ、被告会社が被告かばん類を販売したことによる純利益の額を認めるに足りる証拠はない。ところで、商標法38条1項所定の「利益の額」は、商品の売上額から仕入額を差し引いた粗利益の額ではなく、
商品の売上額から仕入額、宣伝広告費用、人件費、店舗又は展示会場等の賃料等の売上げに要したすべての費用を差し引いた額をいうものと解すべきであるから、本件においては、商標法38条1項所定の「利益の額」の立証はない、といわざるをえない。しかしながら、商標法38条2項の規定によれば、原告は、被告らに対し、本件登録商標(一)、(二)の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるところ、証人前原一雅の証言によれば、本件登録商標(一)、(二)はわが国において広く認識されている著名な商標であること、このような著名な商標の使用料は普通売上額の一〇パーセントであることが認められ(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右認定の事実によると、本件登録商標(一)、(二)の使用に対し通常受けるべき金銭の額は、売上額の一〇パーセントであると認めるのが相当である。そして、被告会社が被告かばん類を仕入額一六六八万四六〇一円の二倍の金額で販売したことは、前示のとおりであるから、被告会社の被告かばん類の売上額は、右仕入額一六六八万四六〇一円の二倍である三三三六万九二〇二円、その一〇パーセントは、三三三万六九二〇円であり、したがつて、原告は、被告らに対し、
右額の賠償を請求することができるものというべきである。
次に、前掲甲第五号証及び証人【C】の証言によれば、原告は、その商品について、他国の第三者とライセンス契約を締結して第三者に生産させるということをせず、フランス国内での自社生産のみに限定するという方針をとつて、その商品の高級な品質の維持に努め、また、安売りやバーゲンセールも一切しないし、その販売店も室内の装飾に統一性をもたせ、原告の販売方針についての教育を受けた販売スタツフを配置し、その高級品のイメージの維持に努めているのに対し、被告らは、
原告の商品とそつくりのいわゆる偽物商品である被告かばん類に本件標章(一)、
(二)を付してこれを原告の商品のように装つて、新聞等のちらしで安売りの宣伝広告をしたうえ、北海道各地で開催した展示即売会において大量に廉売したものであり、これにより、原告は、高級品を販売することで定評のある原告の業務上の信用を著しく害されたものであることが認められ、右事実を総合して、被告らの本件商標権侵害行為により害された原告らの業務上の信用を金銭に評価すれば、少なくとも一〇〇万円を下らないものと認めるのが相当である。
また、原告が、被告らの本件商標権侵害行為により被つた損害の賠償を求めるため、原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を依頼したことは、本件記録上明らかであるところ、本件訴訟の事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情に照らせば、弁護士費用については、六〇万円をもつて被告らの本件不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。
以上によれば、原告が被告らの本件商標権侵害行為により被つた損害は、前記損害の合計額四九三万六九二〇円となる。
二 その余の請求について 原告は、本件商標権に基づく請求のほかに、不正競争防止法1条ノ二、商法266条ノ三及び民法715条の規定に基づき、請求の趣旨記載の判決を選択的に請求しているものであるが、その損害額については、いずれも本件商標権に基づく請求の損害額の主張と同一の主張をしているところであつて、いずれの請求についても、前記4に認定したところ以上の損害額を認めるに足りる証拠はない。
三 結語 叙上のとおりであるから、原告の本訴請求は、前記損害金四九三万六九二〇円及び内金四三三万六九二〇円に対する本件不法行為の後の日である昭和六〇年四月一日以降、内金六〇万円に対する本件不法行為の後の日であつて、訴状送達の日であることが本件記録上明らかな昭和六一年六月六日以降各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法89条92条本文及び93条1項本文の規定を、仮執行宣言について同法196条1項の規定をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 清永利亮
裁判官 設楽隆一
裁判官 富岡英次