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関連審決 審判1978-10561
関連ワード 指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  専用使用権 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  存続期間 /  更新登録 /  類似商標 /  非類似 /  多角経営 / 
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事件 昭和 57年 (行ケ) 187号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1984/03/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、同庁昭和五三年審判第一〇五六一号事件について昭和五七年七月一日にした審決のうち原告の申立てを認めなかつた部分を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
原告の請求の原因及び主張
一 特許庁における手続の経緯 被告は、登録第一三一四八四七号商標(別紙に示すとおり「ミラクルコーケン」の片仮名文字を左横書きしてなり、第一類化学品、薬剤、医療補助品を指定商品として、昭和四八年六月二七日登録出願、昭和五二年一二月二日に登録されたもの。
以下この商標を「本件商標」という。)の商標権者であり、原告は、登録第四二八三九六号商標(別紙に示すとおり「MIRACLE」の欧文字を横書きしてなり、
旧第一類化学品、薬剤及び医療補助品を指定商品として、昭和二六年六月一九日登録出願、昭和二八年七月二一日登録、昭和四九年一月二五日に商標権存続期間の更新の登録がなされたもの。以下この商標を「引用A商標」という。)及び登録第八五四一〇〇号商標(別紙に示すとおり「ミラクル」の片仮名文字を左横書きしてなり、第一類化学品、薬剤、医療補助品ーただし、のり及び接着剤を除くーを指定商品として、昭和三九年一〇月六日登録出願、昭和四五年四月二二日登録、昭和五五年六月二七日に商標権存続期間の更新の登録がなされたもの。以下この商標を「引用B商標」という。)並びに登録第八六三六六八号商標(別紙に示すとおり「MIRACLE LAURELー「MIRACLE」と「LAUREL」の文字の間は一字程度の間隔をおいて書いてあるーの欧文字と、「ミラクル ローレル」ー「ミラクル」と「ローレル」の文字の間は一字程度の間隔をおいて書いてあるーの片仮名文字を二段に併記してなり、第一類化学剤を指定商品として、昭和四三年三月一一日登録出願、昭和四五年七月四日登録、昭和五五年一二月二三日に商標権存続期間の更新の登録がなされたもの。以下この商標を「引用C商標」という。)の専用使用権者であるーなお、引用A、B、C商標は互いに連合する商標であるーところ、原告は、昭和五三年七月一日、本件商標は引用A、B、C商標と観念及び称呼において類似する類似商標であり、且つ、指定商品も引用各商標と同一又は類似であることを理由として本件商標登録を無効とすることについて審判を請求し、右事件は特許庁昭和五三年審判第一〇五六一号事件として審理されたが、特許庁は昭和五七年七月一日「登録第一三一四八四七号商標の指定商品中化学品についての登録を無効とする。」との審決をし、指定商品薬剤、医療補助品についてはこれを無効としなかつた。なお、右審決謄本は昭和五七年八月一二日原告に送達された。
二 審決理由の要旨 本件商標、引用各商標の構成、その指定商品並びに出願、登録、更新登録の年月日、その権利者等は、前項記載のとおりである。
そこで、まず本件商標と引用A商標、引用B商標の類否についてみるに、その構成は前記のとおりであるから、外観上、明らかに区別し得る差異を有するものである。また、観念の点についても、本件商標が何ら特定した意味を有しない造語よりなるので、両者は互いに紛れるおそれはない。称呼の点についても本件商標は「ミラクルコーケン」の片仮名文字を同書同大に一連に書き表わしてなる造語と認められるから、これよりは、一連の「ミラクルコーケン」の称呼のみを生ずるのに対し、引用A商標、引用B商標からは、共にそれぞれの文字に相応し、「ミラクル」の称呼が生ずること明らかである。そこで、両者を比較すると、共に「ミラクル」の音を共通にしているとはいえ、前者は七音構成、後者は四音構成で、その構成にかなりの差異があり、両者をそれぞれに一連に称呼するときは、聴感において異なるものであり、称呼上聴別し得るものである。してみれば、本件商標と引用A、B商標とは、非類似の商標である。
次に、本件商標と引用C商標の類否についてみるに、両者は外観上、明らかに区別し得る差異を有するものである。また、観念の点についても、本件商標が何ら特定した意味を有しない造語よりなるので、両者は互いに紛れるおそれはない。称呼の点についても、本件商標は「ミラクルコーケン」の称呼が、引用C商標からは、
「ミラクルローレル」の称呼又はその構成より単に「ミラクル」及び「ローレル」の称呼をも生ずる。そこで、本件商標と「ミラクルローレル」とを比較すると、両者は前半の「ミラクル」の音を共通にしているとはいえ、後半の「コーケン」「ローレル」の音を異にしているので、全体として称呼した場合、この差は非常に大きく相紛れるおそれのない非類似称呼というべきである。また、本件商標と「ミラクル」、「ローレル」とを比較すると、構成音においては著しく相違するものであるから、相紛れるおそれはない。してみれば、本件商標と引用C商標とは、非類似の商標である。
ところで、証拠によれば、請求人(原告)は、商品「工業薬品」、「界面活性剤」、「化学剤」について、昭和二六年当時から引用A、B商標を使用していて、
右商標は前記商品について著名であると認められる。
そうすると、著名な商標「ミラクル」を有してなる本件商標は、その登録出願時において請求人の業務に係る商品すなわち、「工業薬品、界面活性剤、化学剤」を包含してなる指定商品「化学品」については、出所の混同を生ずるおそれがあつたものと認めざるを得ない。
なお、本件商標の指定商品中「化学品」以外の商品「薬剤、医療補助品」については、引用A、B商標が著名であると認定することはできず、また「工業薬品、界面活性剤、化学剤」と「薬剤、医療補助品」とは、生産者、需要者、用途及び販売場所等すべての面において異にするので、商品の出所の混同が生じるおそれがあつたものであつたということはできない。
したがつて、本件商標の登録は、その指定商品中「化学品」についてのみ商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきである。
三 審決を取消すべき事由(一) 審決には、本件商標と引用A、B各商標とは観念の点においても、称呼の点においても異なり、非類似の商標であると認定判断した違法がある。
本件商標は「ミラクルコーケン」の片仮名文字を、同大、同間隔をもつて横書きしてなるものである。したがつて、本件商標から「ミラクルコーケン」の称呼を生ずることもあるが、審決が認定するように「ミラクルコーケン」の称呼のみ生ずるということはできない。
すなわち、本件商標の「ミラクル」は英単語の「MIRACLE」の称呼であつて、「奇跡」を意味するものであることは、わが国の語学教育の現状からみて、何人も充分知悉し得るところであり、反面、「コーケン」は何の意味のない造語であることは明らかであるから、「ミラクル」と「コーケン」とは結合しなければならない必然性はなく、したがつて、また分離することに特別の障害がないのである。
「ミラクル」と「コーケン」が分離できることは、現に被告が本件商標権の使用権を付与している訴外日本自然科学株式会社がその商品の容器の正面に「ミラクル」と「コーケン」を二段に表示し、また、その商品の使用法の説明書において「ミラクル」「コーケン」と改行して使用していることからも明らかである。
右のとおりであるから、本件商標からは「ミラクルコーケン」の称呼をも生じるが、その前半部分の「ミラクル」に着目して「ミラクル」とも称呼され、また、
「ミラクル」から「奇跡」の観念が生ずるものであることはいうまでもない。
一方、引用商標からは、「ミラクル」の称呼、「奇跡」の観念を生ずることはいうまでもない。
そうすると、本件商標と引用A、B各商標とは類似するものといわなければならない。したがつて、審決には商標法第4条第1項第11号の適用を誤つた違法がある。
(二) 審決は、本件商標はその指定商品中、「化学品」についてのみ商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであり、その余の指定商品については商品の出所の混同が生じるおそれがあつたものであつたということはできないから、同項第一五号の規定に違反したものといえないと認定判断した違法がある。
「薬剤、医療補助品」の中にも、「化学品」の商品と全く近接した商品もあるのであつて、一概に生産者、需要者、用途、販売場所等すべての面において異にすると断定することはできない。したがつて、これらの薬剤等の商品に、本件商標を使用するときには、商品の出所の混同を生じるおそれがあるのである。
また、多角経営化した現在にあつては、原告の「ミラクル」が、「化学品」について著名であるから、第三者が本件商標を見て、原告が「薬剤、医療補助品」の製造販売をしたと思い、被告の商品と原告の商品とを混同するおそれは充分あるのである。
更に、原告の商標が「化学品」について著名であるのに、「薬剤、医療補助品」については、著名でないからといつて、「ミラクル」の商標を含んだ「ミラクルコーケン」の使用を許すことは、被告が原告の商標に化体せられた信用に只乗りすることを許すことになり、ひいては原告の著名な商標の価値を稀釈化することになる。第一五号は右のような行為をも排除しようとするものである。
被告の答弁及び主張
一 原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実を認め、三の主張を争う。
二 本件商標は、片仮名八文字を結合した文字商標として登録せられており、したがつて、商標の一体性の原則により、これを一体不可分の関係において考察するを相当とするものである。結合しなければならない必然性の有無が問題ではなく、右一体不可分の原則に反し、分離して考察せねばならない現実の取引社会における特別の事情が存在しないのである。
しかも、「ミラクルコーケン」と称呼するに何らの困難もなく、極めて自然に一連に称呼でき、分離せねばならない必然性が存在しないものというべきである。
原告は、日本自然科学株式会社が本件商標を「ミラクル」と「コーケン」の二段に分けて使用していると主張するが、これは昭和五一年頃一回限りの使用に止まり、その後は、一連に「ミラクルコーケン」と表記して販売している。
三 第一類の指定商品「化学品」と「薬剤」とは、その属する産業の分野を異にするのが通例であり、これらが現実の取引社会において、混同されることはなく、且つ、類似商品審査基準によれば、第一類の中で「化学品」と「薬剤」とは商品を異にする。したがつて、生産者、需要者、用途及び販売場所等において、例外的には共通したものがあるとしても、全体として綜合的に判断すれば、特許庁が制定した右基準は正しいものといわざるを得ない。
したがつて、審決は適法である。
証拠(省略)
理 由 原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実は当事者間に争いがない。
そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。
原告は、本件商標のうち、「ミラクル」の部分の称呼は英単語の「MIRACLE」の称呼と同一であり、この語は「奇跡」を意味するものであることは、わが国の語学教育の現状からみて、何人も充分知悉し得るところであり、反面、「コーケン」は何の意味もない造語であるから、「ミラクル」と「コーケン」とは結合しなければならない必然性はなく、本件商標からは「ミラクルコーケン」の称呼をも生じるが、その前半部分の「ミラクル」に着目して「ミラクル」とも称呼され、また、「ミラクル」から「奇跡」の観念が生じ、一方、引用A、B商標からは、「ミラクル」の称呼、「奇跡」の観念を生ずるから、本件商標と引用A、B商標とは類似する旨主張する。
しかしながら、本件商標は、審決のいうように、七音で構成され、称呼上も短かく、特にこれが「ミラクル」と「コーケン」に分離して称呼されるような必然性はなく、取引界においては一連に称呼して取引されるものと認めるのが相当である。
原告は、「ミラクル」と「コーケン」が分離できることは、被告が本件商標権の使用権を付与している訴外日本自然科学株式会社が、その商品の容器の正面に「ミラクル」と「コーケン」を二段に表示し、また、その商品の使用法の説明書において「ミラクル」と「コーケン」を別行にして使用していることからも明らかであると主張する。
成立について争いのない甲第三号証の一、二によれば日本自然科学株式会社が本件商標を原告主張のように表示していた事実を認めることができるが、本件商標が一連に称呼されると認められるのは、本件商標の構成そのものからであり、使用権者がそれを一行に表示しているか、二行に分けて表示しているかによつて異なるものではないから、原告の主張は理由がない。
次に、観念の点についていえば、本件商標は、称呼において一連に称呼されると同じく、「奇跡」という意味をもつ「ミラクル」と、何の意味もない「コーケン」とに分けて観念されるのではなく、全体として特定した意味をもたない造語であると感知され、本件商標から「ミラクル」の観念が生ずるものとすべきものではない。
右のとおりであるから、本件商標と引用A、B各商標とは、外観観念称呼のいずれの点においても異なる非類似の商標であるとした審決の判断に誤りはなく、
また、本件商標と引用C商標とは類似しないとした審決の判断は、これをそのまま是認することができる。
原告は、本件商標の指定商品中「化学品」についてのみその登録を無効とし、その余の指定商品「薬剤、医療補助品」については、出所の混同を生じるおそれがあつたものということはできないとして、登録を無効としなかつた審決は、登録を無効としなかつた点において違法であると主張し、その理由として、「薬剤、医療補助品」の中にも「化学品」に属する商品と近接した商品もあり、一概に生産者、需要者、用途、販売場所等がすべて異なると断定できず、そのような近接した商品に本件商標を使用するときは、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるし、また、経営が多角化した現在においては、原告が使用するA、B両商標が「化学品」について著名であるから、第三者が本件商標を見て、原告が「薬剤、医療補助品」の製造販売をしたと思い、被告の商品と原告の商品を混同するおそれがあるのであり、更に、「薬剤、医療補助品」について、被告に本件商標の使用を許すことは、「化学品」について著名な原告の使用商標に化体された信用に只乗りすることを許すことになり、ひいては原告の著名な商標の価値を稀釈化することになるところ、商標法第4条第1項第15号はそのような行為をも排除しようとするものであるとする。
しかしながら、本件商標と引用A、B両商標とがともに類似しないことは前認定のとおりであり、商標が類似しないということは、特段の事情のないかぎり、それらの商標が附された指定商品が互いに混同されるおそれがないということであるところ、審決は本件商標と引用A、B商標とは類似しないとしながら、引用A、B両商標が本件商標の登録出願時において、原告の業務に係る指定商品「化学品」について単に「著名」であつたということのみを理由とし、他に特段に商品の混同を生ずるおそれがあることの特別の理由を示すことなく、本件商標中の指定商品「化学品」については原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものとして、その登録を無効としたものであつて、その点では違法である。原告の主張する審決の違法事由は、本件商標をその指定商品中「化学品」について、商標法第4条第1項第15号の規定に違反するものとして登録を無効とした審決の前記理由を正しいものとする前提での主張であつて、右審決理由の採り得ないものであることは前説明のとおりであるから、原告の主張も結局において理由がなく、他に本件商標登録をその指定商品中「薬剤、医療補助品」について無効にすべき事由は原告の主張、立証しないところである。
右のとおりであり、本件商標登録を指定商品「薬剤、医療補助品」につき無効としなかつた審決に違法の点はないから、これを違法としその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用は、敗訴の当事者である原告に負担させることとして主文のとおり判決する。
裁判官 高林克已
裁判官 杉山伸顕
裁判官 八田秀夫