運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1969-9986
関連ワード 先願主義 /  指定商品 /  称呼(称呼類似) /  遡及効 /  信義則 /  存続期間 /  更新登録 /  正当な理由 /  パリ条約 /  外国 /  継続 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 昭和 56年 (行ケ) 60号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1983/12/22
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五六年一月一六日、昭和四四年審判第九九八六号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告主文同旨の判決。
2 被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。
請求の原因
1 特許庁における手続の経緯 訴外マクドナルド(香港)リミテツド(以下「マクドナルド社」という。)は、
「CASITE」の欧文字を横書きしてなる商標につき、指定商品を第一類「石油添加剤、その他本類に属する商品」として、昭和三九年八月一日商標登録出願したところ、昭和四一年二月二一日、登録第六九九七六六号商標(以下「本件商標」といい、本件商標に係る商標権を「本件商標権」という。)として登録された。
原告は、昭和四三年一一月七日、本件商標権をマクドナルド社から譲り受けて取得し、昭和四四年五月一九日その旨登録された。
被告は、昭和四四年一二月一八日、商標法第53条の2の規定に基づき本件商標の登録権取消の審判を請求し、昭和四四年審判第九九八六号事件として審理され、
その間昭和五一年四月八日本件商標権の存続期間更新の登録がされたが、昭和五六年一月一六日、「登録第六九九七六六号商標は、その登録を取消す。」との審決があり、その謄本は同年二月一二日原告に送達された。
2 審決の理由の要旨(一) マクドナルド社の本件商標登録出願、本件商標の構成及び指定商品、並びに出願、登録、更新登録の各年月日は、前項記載のとおりである。
(二) 請求人(被告)は、本件商標の出願時において「CASITE」の文字からなる商標に関する権利(アメリカ合衆国登録第二六一九六二号ー指定商品、第一五類、油及び錆落し剤ー及び同第五二五一二四号ー指定商品、第一五類、油及びグリースに属する石油添加剤ー)を有していたことが認められる。
(三) マクドナルド社は、昭和三九年の始めから昭和四一年までの間、請求人(被告)の製造に係る「CASITE」の文字からなる商標を付した商品(以下「ケーサイト製品」という。
)をゼオン・インターナシヨナル・コーポレーシヨン(以下「ゼオン社」という。)を通じて買入れ、その製品の一手売捌代理人であつたことが証拠(本件審決取消訴訟における甲第四、第五号証)により認められ、そして、本件商標の登録出願について、被告の承諾を得なかつたことが証拠により認められる。
そして、本件商標は、請求人(被告)がアメリカ合衆国において商標に関する権利を有する前記(二)の各商標と称呼上類似の商標であることが明らかであり、かつ、その指定商品も同一又は類似の商品を含むものであると認められる。
してみれば、本件商標は、パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標と類似の商標であつて、かつ、その指定商品も、同一又は類似の商品を含むものであり、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで、出願前一年以内に代理人であつたものによつて登録出願された商標というほかない。
したがつて、本件商標は、商標法第53条の2の規定により、その登録を取消すべきである。
(四) なお、被請求人(原告)は、本件出願人は、商標法第53条の2にいう代理人に含まれない旨及び本件商標が右規定の施行前の登録出願に係るものであるから、その規定の適用を受けない旨主張するが、右規定にいう代理人は、いわゆる代理店を含むものと解すべきであり、また、代理人等が正当な理由もなく、無断で登録を受けることは、その信頼関係を裏切ることになるなど、公正な慣習に反する行為であるから、既得の権利ないし地位として保護すべき性質のものでなく、右規定による取消の効果が登録時まで遡及するものでないこと、及び規定上も特に経過措置が定められていないことからみて、この点についての被請求人(原告)の主張は採用できない。
3 審決の取消事由(一) 審決は、マクドナルド社がケーサイト製品の一手売捌代理人であつたと認定しているが、この判断は誤りであつて、違法である。
(1) 原告は、昭和三九年八月一日エンジンオイル添加剤等の輸入販売を目的として訴外クラウン商事株式会社(以下「クラウン商事」という。
)を設立し、その代表取締役となつたが、クラウン商事の発足に先立ち、同年七月頃マクドナルド社に対しケーサイト製品の輸入を依頼した。
そこで、マクドナルド社は、同年八月一九日信用状を開設し、同年一二月ゼオン社からケーサイト製品一〇〇ケースを輸入した。右の輸入は、マクドナルド社の名義で行われたが、実際の輸入者はクラウン商事であつて、クラウン商事は発注にあたり約束手形を差入れ、輸入諸掛を負担した。
この取引は、昭和四一年終り頃まで続いたが、マクドナルド社の手数料が高く、
取扱量も年間四〇〇〇ドル程度と少なかつたので、クラウン商事はマクドナルド社との合意により昭和四二年頃から直接ゼオン社からケーサイト製品を輸入するようになつた。
このように、マクドナルド社は、実質上の輸入者であるクラウン商事の依頼を受けて、被告の製品を販売していたゼオン社からケーサイト製品を輸入して取次いでいたにすぎず、輸出者側の代理店でも売捌人でもないから、商標法第53条の2の「代理人若しくは代表者」には該当しない。
(2) 審決は、マクドナルド社がケーサイト製品の一手売捌代理人であつたと認定する証拠として、マクドナルド社の日本における代表者であつた【A】のイー ビー シユインガー ジヤパン株式会社(以下「シユインガー ジヤパン社」という。)の【B】宛の手紙(甲第四号証、以下「マクドナルド書簡」という。)と右【B】の宣誓供述書(甲第五号証)をあげている。
しかしながら、マクドナルド書簡は、【A】が昭和四五年か四六年頃に死亡しているため、書簡作成の事情、その内容の真偽について確かめるすべがなく、かつ同書簡はその内容についての客観的証拠となるべきマクドナルド社のフアイルは当時既に廃棄されたと述べているから、その内容について反対尋問することも、他の証拠によつてその真実性を明らかにすることもできないものである。そして、マクドナルド書簡の日付が昭和四四年一〇月一五日であり、一方、シユインガー ジヤパン社の社員が原告に対し本件商標権の譲受けを申込んだのが同年春か夏頃であること、本件商標の登録取消審判請求がなされたのが同年一二月一八日であることを考えると、マクドナルド書簡は、本件商標権の譲受けに失敗したシユインガー ジヤパン社が、被告に右取消審判請求を起こさせるべく、或は被告の指示により、
【A】に依頼して作成させた書面であると推測され、正常な取引の過程において作成された文書ではなく、その証明力はきわめて弱いものである。また、【B】の宣誓供述書は、マクドナルド書簡の内容の真実性を裏付けるものでなく、同書簡が郵送されてきた事情も示唆するところがない。
しかるに、審決は、マクドナルド社が被告の一手売捌代理人であつたという最も重要な事実について、この証明力の薄弱な証拠のみで認定しており、証拠の評価を誤り、判断を誤つたものである。
(二) 審決は、商標法第53条の2の規定の解釈を誤り、本件商標の登録出願につき同条の適用があると判断したものであつて、違法である。
(1) 商標法第53条ノ二は、昭和四〇年五月二四日商標法改正により加えられ、同年八月二一日施行された規定である。
これに対し、本件商標の登録出願がなされたのは、昭和三九年八月一日であり、
出願当時商標に関する権利を有する者の代理人等の出願に関し、何ら制約がなかつたから、右出願によつて商標登録を受ける権利が成立したものであつて、その後の法律改正によつてその権利について制約を受ける理由はないのであり、商標法第53条の2の規定の適用はないと解すべきである。
(2) 商標法第53条ノ二の規定の取消事由は、同条に掲げる者が当該商標を出願し登録を受けることは信義則に反するという考え方に基づくものであり、商標法第15条第4号の規定によつて登録拒絶理由となつているが、他の理由と異なり、
その商標に関する権利を有する者からその理由に基づいて登録異議の申立があつた場合に限るとされており、特定の当事者間における人的拒絶理由にほかならない。
したがつて、商標法第53条の2に規定する取消事由は、当該商標が権利者からの異議がなく登録となつた後も当事者間では信頼関係保護のために認められるが、当該商標権が第三者、少なくとも善意の第三者に譲渡された場合には、これを取消事由とすることはできないと解すべきである。
クラウン商事は、前記(一)(1)のとおり昭和四二年頃以降直接ゼオン社からケーサイト製品を輸入するようになつたところ、マクドナルド社よりクラウン商事に対し、直接輸入するようになつたのだから本件商標権を買わないかとの申入れがあり、交渉の結果、クラウン商事の代表者である原告個人で買取ることになり、昭和四三年一一月七日本件商標権を譲受け、昭和四四年五月一九日その旨登録された。右譲受けに際し、原告としては、マクドナルド社が被告の代理人であるとは考えてもいなかつたのであり、また本件商標が出願された経緯についても知らず、ただ日本は先願主義であるから先に出願すれば登録が受けられたのだと単純に考えていたのである。
したがつて、原告は本件商標権を譲受けた第三者であり、かつ被告の主張する取消事由の存否を全く知らずに譲受けた者であるから、被告は原告に対し本件商標の登録取消を主張できないものである。
被告の答弁及び主張
1 請求の原因1、2の事実は認める。
2 同3の審決取消事由についての主張は争う。
(一)(1) マクドナルド社は被告のケーサイト製品についてのexclusive distributing agentであり、審決の認定するように、その一手売捌代理人であつた。すなわち、マクドナルド社は、被告の独占的輸出代行窓口であつたゼオン社を通じ転売目的でケーサイト製品の取引をし、被告を代行してケーサイト製品の宣伝広告をし、一方クラウン商事は、一七パーセント以上の高額のマージンを払いながら、ケーサイト製品の輸入をマクドナルド社に全面的に依存していたもので、マクドナルド社を通じない限りケーサイト製品を入手し得なかつた。したがつて、マクドナルド社は、ゼオン社のデイストリビユーター エージエントであると同時にゼオン社を通じて被告のデイストリビユーター エージエントでもあつた。
商標法第53条の2の「代理人若しくは代表者」には、代理店、特約店、委託販売業者、総代理店等広く海外における輸入先である商標所有者の商品を輸入し、販売し、広告するものが含まれるから、マクドナルド社が右に規定する「代理人若しくは代表者」に該当することは明らかである。
(2) マクドナルド書簡は、マクドナルド社の取締役であり、日本における代表者である【A】の自筆による書簡であり、本人が代表者をしているマクドナルド社の業務内容、それも近接した約三年ないし五年前の実績を述べたものであつて、内容の真偽について何ら疑いを残すものでない。マクドナルド書簡を受領した【B】は当時被告の日本における代理店であつたシユインガー ジヤパン社の社長であり、その三年ないし五年前に被告の代理店であつたマクドナルド社との間に種々の通信があることは至極当然である。そして、マクドナルド書簡の成立は、公文書である【B】の宣誓供述書により証明されている。マクドナルド書簡は、シユインガー ジヤパン社が【A】に依頼して作成させたとする原告の主張は何ら根拠のない推測にすぎず、ケーサイト製品の取引量等について具体的な記載がないのはその記載を必要としなかつたからである。そしてマクドナルド社との間に代理店契約が存在したことは、二年間にわたる継続的な発注と応諾、商品提供行為により明らかである。
したがつて、マクドナルド社が被告のケーサイト製品の一手売捌代理人であつたとする審決の認定は正しく、何らの誤りもない。
(二)(1) 本件商標の出願は、商標法第53条の2の規定の施行前であるが、
右規定の施行を定めた昭和四〇年法律第八一号の附則には、その法律によつて改正された後の規定が改正法施行前になされた出願につき登録が改正法施行後なされた場合には適用されない旨を定めた経過規定を設けていない。
したがつて、商標法第53条の2の規定は、昭和四〇年八月二一日以降は、同条所定の要件を備えたすべての場合に適用されるべきであり、その取消の効果は遡及効がないから、既得権利をその後の法律改正によつて制約することにはならない。
(2) 商標法第53条の2は、「登録商標が……によつてされたものであるときは……当該商標登録を取消すことについて審判を請求することができる。」と規定しているのみであつて、商標出願の際の事実のみによつて商標登録取消の審判を認めているのであり、この規定の仕方からも、商標法全体の法意からも第三者保護の趣旨を読み取ることができない。
また、原告は、本件商標権の譲渡人であるマクドナルド社が被告の唯一の日本における取扱店であることを知悉していたものであり、早い者勝に取得した瑕疵ある他人の権利を外国商標権利者の不知を奇貨として自らの取引拡大に利用すべく、被告が半世紀にわたつて使用してきた貴重なCASITE商標を登録手数料等七、八万円の安価で買受けたものである。しかも、マクドナルド社から本件商標権を譲受けたのは昭和四三年であつて商標法第53条の2の規定が適用になつた以後であるから、原告はマクドナルド社が被告の同意を得て本件商標を出願したか否か、十分調査しうるし、そうすべき立場にあつた。したがつて、原告は、本件商標権譲受けにつき原告主張のような善意の第三者とはいえない。
証拠関係(省略)
理 由1 請求の原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第九号証の一ないし四によれば、被告は、一九五一年(昭和二六年)一月二日、ケーサイトコーポレーシヨンより第一五類油及びグリースに属する石油添加剤を指定商品とする「CASITE」の文字からなる商標に関する権利(アメリカ合衆国登録第五二五一二四号)を譲受け、同月九日その旨登録されており、したがつて前掲争いのない本件商標の登録出願・登録当時、アメリカ合衆国における当該商標の権利者であつたことが認められる。
右の事実関係によれば、本件商標は、商標法第53条の2に規定する「パリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標と類似する商標であつて、かつ、当該権利に係る商品と同一又は類似する商品を指定商品とするもの」に該当するというべきである。
2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
成立に争いのない甲第一〇号証ないし第一七号証、第一九号証、証人【C】の証言及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和三九年八月一日工業用油、潤滑油の製造販売及び輸出入等を目的としてクラウン商事を設立し、その代表取締役に就任したが、マクドナルド社に属していた【D】に(クラウン商事の役員であつた【E】のいとこに当る機縁から、)輸入販売するオイル添加剤の選定について相談した結果、ケーサイト製品を輸入することに決まり、同月頃マクドナルド社に対しケーサイト製品を発注することとなつた。
(二) マクドナルド社は、本店所在地を香港とし、東京都内に営業所を設けて、
卸売、小売、輸出入、仲介業等を営んでいたが、クラウン商事から受注するまでケーサイト製品の輸入を取扱つたことはなかつた。
(三) そこで、マクドナルド社では、昭和三九年八月一九日頃ケーサイト製品の取引のため新たに信用状を開設し、被告のアメリカにおける代理店であつたゼオン社に発注してケーサイト製品を輸入し、これをクラウン商事に売渡し、以後昭和四一年末頃までクラウン商事から注文があつたごとに同様の方法でケーサイト製品を輸入してきた。しかし、マクドナルド社では、クラウン商事以外からケーサイト製品の注文を受けたことはなく、他社にケーサイト製品を販売したこともなかつた。
しかもクラウン商事からの受注は年数回程度で、取引量も少量(一九六四年八月から一九六五年七月までの間では計四〇〇〇ドル)であつたことなどから、昭和四二年以降は、クラウン商事がマクドナルド社の同意を得て、直接ゼオン社からケーサイト製品を輸入するようになつた。
ところで、右認定事実に関連し、成立に争いのない甲第四号証(マクドナルド書簡)には、マクドナルド社は、一九六四年の始めから一九六六年の終りまで、ケーサイト製品の一手輸出店(sole export channel)として知られていたゼオン社を通じて買入れたケーサイト製品一式の一手売捌代理人(exclusive distributing agents)であつたことを確認する旨の記載があり、また成立に争いのない甲第五号証(【B】の宣誓供述書)には、マクドナルド書簡は、一九六九年一〇月一五日(マクドナルド書簡発信日)当時の被告の日本における一手売捌代理人であるシュインガー ジヤパン社の代表者である【B】が間違いなく受領したものである旨の記載がある。しかしながら、甲第四号証は、契約ないし取引に関する具体的な資料の確認ないし裏付を欠いた、必ずしも直接その衝に当つたともみられないマクドナルド社の代表者の記憶に基づく抽象的、形式的な文言による記憶の域を出ないし、甲第五号証も、マクドナルド書簡を【B】がシユインガー ジヤパン社を代表して受領したものであること、ゼオン社は、被告の一切の製品につき一九六二年以後被告の一手売捌代理店として輸出業務を営んでいたことを供述するものにとどまり、甲第四号証の右記載の正確性を裏付けるものではない。かえつて、前記認定事実によれば、マクドナルド社は一か年に数回クラウン商事から注文を受けたときに限り、ゼオン社に発注してケーサイト製品を少量輸入していたにすぎず(この認定は、具体的な取引に関する計算書ー甲第一〇号証、請求書ー同第一一号証、注文確認書ー同第一三号証、当該関与者間の手紙ー同第一二号証、第一四ないし第一六号証及び証人【C】の証言並びに原告本人尋問の結果によつて裏付けられている)、マクドナルド社とゼオン社又は被告との間で、マクドナルド社がゼオン社又は被告の代理人としてケーサイト製品を販売する旨の契約は勿論、継続的取引契約すら締結されたことを具体的に得心せしめて右記載部分を裏付けるに足りる証拠は、ほかに全く存しないから、結局、甲第四号証の右記載は具体的な裏付けに欠け、マクドナルド社において代表者よりは直接的にクラウン商事との取引に関与したと認められる証人【C】の証言にも反し措信し難く、これをもつてマクドナルド社が被告のケーサイト製品の一手売捌代理人としての契約上慣行上の地位を有していたものとは到底認めることができない。
さらに被告は、マクドナルド社が被告のためケーサイト製品についての宣伝広告をしていた旨主張するが、前掲甲第一四号証(ゼオン社からマクドナルド社宛の書簡)には、「今後もできるだけ多くの広告物件を送るように致します。しかし、我々に限度以上のことを期待しないようにして下さい。」とあるのみで、右書簡の他の部分には、マクドナルド社との取引量は少なく、本来一〇パーセントのデイスカウントを受ける資格がないこと、アメリカ以外の世界中に約一五〇〇のデイストリビユーターをもつており、マクドナルド社のオーダーを特別扱することはできない旨の記載があり、前記認定事実に照らし、これをもつてマクドナルド社が被告の一手売捌代理人として行為していたことを証するものとは到底できがたいところである。また、被告主張のように、マクドナルド社が転売目的でケーサイト製品を輸入していたことは前記認定事実から明らかであるが、このことはマクドナルド社が最終の消費者でないことを示すにとどまり、更にその手数料が一七パーセント以上であつたからといつて、この一事をもつてマクドナルド社が被告の一手売捌代理人とする根拠とは到底し難い。ほかに以上の認定を左右するに足りる証拠はない。
以上の事実によれば、マクドナルド社は、昭和三九年八月一日本件商標の登録出願当時、アメリカにおけるケーサイト製品の一手輸出店であるゼオン社の顧客でありケーサイト製品の単なる輸入販売業者であつたというにとどまり、それ以上に、
マクドナルド社とゼオン社又は被告との間に、マクドナルド社が被告の代理人としてケーサイト製品を販売する法律上の関係ないしは特約店、輸入総代理店等日本においてケーサイト製品を販売するについての特別の契約上慣行上の関係が存したものと到底認めることはできず、その間に格別の信頼関係が形成されていたものともいえない。
商標法第53条の2は、商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者がその権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合にその取消について審判を請求できる旨の規定であつて、以上認定の事実及び法律関係のもとにおいては、マクドナルド社は本件商標の登録出願当時又はその登録出願の日前一年以内に商標法第53条の2に規定する「被告の代理人若しくは代表者であつた者」と認めることはできない。
しかるに、審決は、マクドナルド社が昭和三九年の始めから昭和四一年までの間、被告のケーサイト製品の一手売捌代理人であり、本件商標は、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで出願前一年以内に代理人であつたものによつて登録出願された商標であると誤つて判断したものであり、
審決における右判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、
その余の点につき判断するまでもなく、審決はこれを違法として取消さなければならない。
3 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 舟本信光
裁判官 竹田稔
裁判官 水野武