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事件 昭和 54年 (ワ) 168号
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裁判所 京都地方裁判所
判決言渡日 1982/04/23
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告(一) 被告らは原告に対し、餅つき機につき、「つきたて」なる商標を使用してはならない。
(二) 被告らは「つきたて」なる表示の餅つき機の包装容器・広告・定価表・取引書類一切を廃棄せよ。
(三) 被告らは原告に対し、一金三、〇〇〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(五) 第三項につき、仮執行宣言。
二 被告ら 主文同旨。
原告の請求原因
一 原告は、左記商標権を所有するものである。
指定商品 九類、食料又は食料加工機械器具 出願日 昭和四六年四月一七日 願書番号 昭和四六年商標登録願第三九二三四号 出願公告日 昭和四八年一月一三日 出願公告番号 昭和四八年商標公告番号第二〇三七号 登録日 昭和五三年六月二一日 登録番号 第一三三五一〇一号二 原告会社の前身は、訴外大前器工株式会社(以下単に大前器工という)で、その主宰者は、原告会社代表取締役【A】である。
三(一) 大前器工当時、その代表者【A】が開発した電気餅つき機を昭和四六年二月から製造し「つきたて」なる商標名で販売を始め、右商標「つきたて」につき、昭和四六年四月一七日商標登録の出願手続をなし、餅つき機「つきたて」の宣伝普及に努めた結果、業界は云うに及ばず一般需要者にも大前器工の「つきたて」餅つき機として広く認識周知せられるに至つた。
(二)1 原告の主張する商標「つきたて」の周知性について 原告が本件「つきたて」餅つき機につきなした広告宣伝は、昭和四六年中に業界紙に二五回広告掲載し、また家庭用電気餅つき機を発売した昭和四六年四月から同年一二月三一日までの間全国の金物問屋、小売店、農機具店、農協、百貨店、大手スーパー等での実演宣伝販売を大々的に行い、特に一般世人に対するPRは、金物販売店及び百貨店・スーパーは台所用品・電機用販売部に於いて実演宣伝を行い、
直接一般客に販売しており、一般世人に広く浸透認識され周知商標となるに至つたのである。
2 その具体的内容は、つぎのとおりである。
(1) 一般世人に「つきたて」を直接宣伝販売を行つた有名百貨店及び大手スーパーイ 百貨店関係高島屋デパート 京都、大阪、堺、東京日本橋、大宮、立川、横浜の各支店 計七ケ店。
三越デパート 東京日本橋、大阪の各店 計二ケ店。
京王百貨店東京、新宿丸栄百貨店 名古屋松坂屋デパート東京、名古屋銀座松屋デパート大黒屋百貨店 小樽店今井百貨店 札幌店川徳デパート 盛岡店名鉄デパート 名古屋店飯田百貨店 秩父店ウスイデパート 郡山店阪急百貨店 大阪山形屋百貨店 宮崎東武百貨店 東京池袋ロ 大手スーパー関係ダイエースーパー 赤羽店(【B】担当)他東京全店(マネキン)ニチイスーパー 大和高田、向日町、布施、藤井寺、千林、奈良泉佐野、堺、府中、岸和田、桂、
花園、新大宮西新町。 計十四ケ店サカエスーパー 吹田、八尾、住吉、あびこ、ひようたん山。 計五ケ店いずみやスーパー 住ノ堂、もず、松原、大久保、伏見、枚方、淡路。 計七ケ店西友ストアー 大津、山科、伏見、3条、長岡京、彦根、守山。 計七ケ店 以上の如く、デパート・スーパー及び金物、電機器具、農機具の各店を全国的に隅なく宣伝普及に努め、原告会社の社員の他、マネキン、学生アルバイトを指導し、延人員七八七名の専属宣伝員の他、現地採用のマネキン、アルバイト(代金は代理店に支払済)を含めると、一、一〇〇人を超す大動員であり、昭和四六年四月以来同年末にかけ、原告は莫大な金を投じて宣伝普及に努めた結果、一般世人は原告の本件家庭用電気餅つき機「つきたて」を広く認識し周知されるに至つたのである。
(2) 原告の本件餅つき機「つきたて」につき、その他新聞雑誌等に広告した昭和四六年当時のものは次の通りである。
昭和四六年度つきたて広告掲載一覧表番号 月 日一 五月二五日 リビングタイムス二 六月 一日 家庭日用品新聞三 〃 二五日 リビングタイムス四 七月 日 家庭日用品新聞五 〃 二〇日 リビングタイムス六 八月 五日 リビングタイムス七 〃 二五日 リビングタイムス八 八月 日 家庭日用品新聞九 〃 二五日 みどりの新聞一〇 八月一三日 消費経済新聞一一 〃 サンケイ新聞一二 九月 日 家庭日用品新聞一三 〃 中央金物一四 九月一六日 近畿案内広告一五 一〇月一五日 リビングタイムス一六 〃 二五日 日報社一七 〃 家庭日用品新聞一八 〃 二五日 東興社アサヒクラブ一九 一一月 いずみや新聞二〇 一一月 タイキニユース二一 〃 二六日 東興社アサヒクラブ二二 一二月一三日 リビングタイムス二三 〃 六日 農機しんぽう二四 一月一三日 リビングタイムス二五 〃 主婦の友(三) 原告の製品である家庭用電気餅つき機「つきたて」は、原告の商品「つきたて」についての宣伝普及に努めた結果業界はもとより一般世人にも広く周知され好評を博し、昭和四七年秋、訴外フエザー商事株式会社からテレビ通販に出すことになり、その台数は一万台の引合で原告の「つきたて」電気餅つき機の販売会社である訴外大器株式会社よりは、同会社の【C】課長、原告会社よりはその担当者【B】が前記会社と交渉、殆ど商取引契約が成立直前に至つていた。
(四) ところが、被告会社の家庭用電気餅つき機「つきたて」が市場に出廻つている事実によつて遂に前示取引は中止の憂目を見るに至つたのである。
すなわち、昭和四七年一一月頃から、被告北部産業株式会社(旧商号ホクセイアルミニユーム株式会社)は、その巨大な資本力によつて餅つき機を大量に製造し、
「つきたて」商標を用い、関連会社である被告ホクセイ日軽家庭用品株式会社をして大々的に売出すに至つたため、大前器工は致命的打撃を受け、整理せざるを得ない事態に立至り、遂に四八年一一月解散し、四八年一一月八日原告会社を設立して大前器工の事業を継承し、昭和五三年三月一一日前記「つきたて」の商標出願権の譲渡をうけ、昭和五三年六月二一日原告を商標権者とする登録第一三三五一〇一号の商標権(以下単に本件商標権という。)を取得するに至つたものである。
また、原告は、本件商標権とその登録前に於ける大前器工の有していた周知標章の承継者でもある。
(五) 原告の本件商標「つきたて」を被告らが知つたのは、昭和四六年九月中旬頃からである。
即ち、昭和四六年九月一五、一六日京都市勧業会館で開催された京都金物・荒物日用雑貨卸見本市に、原告の前身大前器工は、本件家庭用電気餅つき機を出品(十二番)、被告北部産業株式会社はアルミ製品を出品(一七七ー一八〇番)し、同見本市で大前器工は、その出品した家庭用卓上電気餅つき機「つきたて」が優秀品として表彰を受けたことは、同見本市出品者である被告北部産業株式会社は熟知するところである。
さらに、大前器工の餅つき機の商標「つきたて」の登録出願が出願公告の決定を受け、昭和四八年一月一三日公告されるや右被告会社はその社員、当時東京支店勤務の【D】を申立人とし、同年二月二三日登録異議の申立をなさしめた。
そして、これについては、右異議申立は認められない旨の決定があつた。
(六) その後家庭用電気餅つき機は、多くの業者に依つて製造販売され出したが、そのいづれもは独自の標章を用いて営業している。
大平工業 つばめ松下電機 もちもち静岡製作所 ラビツター丸一製作所 プラネツト竹久農機工業 コトブキ号飯野製作所 ハツカリ日立製作所 力餅文明精機 「和」仔鹿併用富士製作所 ハイザー新興和産業 ふるさと、つきみ号共立農機 もちろん水田工業 力国光社 オパールミニオパールみのる産業 スチームツツキー新井製作所 日向丸山工業 鏡餅タイガー魔法瓶 力じまん小泉産業 ひかり東芝 もちつ子なにわ工業 ぺつたんこ大新株式会社 ダイシン川口機械産業 ニユートツプ大洋施設工業 ポンダー田中機械工業 RARB深沢農機 MHー3日本アルミ TMSー35 以上の如く、家庭用電気餅つき機を取扱うメーカーは、いづれも前記の如き商標で営業をなしているのに、被告らのみ原告の商標「つきたて」を使用することは、
本件商標の登録前に於いても許されない。
なお、被告らは、電気餅つき機は新興和産業に製造せしめたと主張するが、右新興和産業は、「ふるさと」「つきみ」をその商標名としているのである。
(七) 被告らは、その取扱つた餅つき機は、訴外新興和産業から納入せしめたものだというが、取扱う商品が、自らの製造にかかる商品であると、他の第三者に依つて製造せしめたるとに関係なく、商品の出所でなく商標の使用が問題なのである。
(八) 商標権侵害行為とは、指定商品についての登録商標に類似する商標の使用または指定商品に類似する商品についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であることはいうまでもない。
商標の登録出願については、政令で定める商品の区分内に於いてしなければならないと定められている商品類別の表示は極めて抽象的例示的である。
旧商標法(昭和三五年三月三一日迄)当時の商品類別は七〇類に分類されていたが、昭和三五年四月一日から施行の現行商標法下にあつては、その類別わずかに三四に圧縮されたが、逆に新商品(本件餅つき機の如く)が続出するという不可避の現実は、却つて商品の類似判定をしてますます混迷ならしむるに至ること必定である。かかる点に現行商標法は、その6条2項で、前項の商品の区分は商品の類似の範囲を定めるものではないとの新設規定が設けられたのである。要するに、商標の出願に当つては、政令で一応定められた類別商品を指定するが、必ずしも確定的基準のそれではない。だから或る商品について、その商品の類否に関し問題となるときは、当該商品の販売部門の同一性或は用途ないし効能の同一性等から綜合的に考慮し、社会通念上具体的に之を認識し判定すべきであることを定めたのが、商標法第6条2項の規定に意義と存在理由がある。
原告が、本件卓上電気餅つき機を第九類食料又は食料加工機械器具を指定商品としたのは、特許庁審査第一部商標課編新商品区分に基く類似商品審査基準「食料又は食料加工機械器」としてであり、本件商標権の努力の及ぶべき商品の範囲は、原告商品はもとより、被告らの取扱う電気餅つき機も本件商標権の効力の及ぶべき類似商品と認むべきである。
即ち、本件餅つき機は家庭用電気餅つき機として取引社会に於ける家庭用品類の販売部門を同うして販売され、かつ、また家庭用餅つき機として需要に応じてその用途に供され、然かも広く普及し来つたことの需要用途、効能の同一性から云つても被告らの取扱つた電気餅つき機は、原告所有の本件商標権の効力の及ぶ類似商品であること極めて明白である。
四 被告らが、その製造販売に係る餅つき機につき、「つきたて」なる商標を使用するため、原告の「つきたて」餅つき機の各代理店ないし取引先より善処方の要望等に基き、原告は昭和五三年一一月一日取引先宛に本件商標権擁護についての要望状を発し、併せて被告らに対し本件商標使用禁止の警告を発し、右警告はいづれも翌二日各被告等に送達された。
五(一) 然るに、被告らは、原告の右通告を全く無視し、依然として本件商標の不正使用を継続するので、原告は本件商標権擁護上商標法第36条差止請求権に基き、その使用の禁止と被告らが昭和五三年六月以降、本件商標を使用して餅つき機を製造販売したことによる原告の損害金(その数量は六五、〇〇〇個、小売価格は一ケ平均二七、〇〇〇円被告らは少くとも一ケにつき四、二〇〇円の利益を得ているので、金二億六、〇〇〇万円余の巨利を得ている。そこで原告は商標法第38条(損害額推定)に基き、右推定損害金弐億六、〇〇〇万円の内金としてなお、昭和四七年以降の原告の本件餅つき機の製造台数は左記のとおりである。)金三、〇〇〇万円を請求するものである。
原告会社の「つきたて」餅つき機の生産年度別台数と価格の推移年度 台数 小売価格昭和四七年 三〇、〇〇〇台 一八、五〇〇円〃 四八年 三〇、〇〇〇台 一九、八〇〇円〃 四九年 三〇、〇〇〇台 二五、〇〇〇円〃 五〇年 三〇、〇〇〇台 二七、〇〇〇円〃 五一年 三〇、〇〇〇台 二八、〇〇〇円〃 五二年 三〇、〇〇〇台 二八、〇〇〇円〃 五三年 三〇、〇〇〇台 二八、〇〇〇円 計 二一万台(二) 本件商標「つきたて」は、昭和四六年四月大前器工の家庭用電気餅つき機の出所を表示すべき標章のそれとして命名し爾来使用しその宣伝普及に努めた結果、商標登録の有無に拘らず原告商品としての出所表示の機能を果して来たものである。従つて、被告らの所為は、原告商品の出所を表示するその商標と混同誤認させるものであり、不正競争防止法第1条第1項第1号にも該当する不法行為である。
よつて、右と同様の差止と損害金の支払を求める。
請求原因に対する被告らの答弁
一 請求原因第一項は認める。
なお、本件商標の指定商品は、第九類のうち、「食料又は飲料加工機械器具」である。また第九類に所属する商品は産業用機械器具である。被告北部産業が以前販売した餅つき機は家庭用であつて、家庭用機械器具は第一一類の商品であり第九類の商品ではない。
二 請求原因第二項は不知。
三 請求原因第三項について(一) 同(一)の事実について1 『大前器工当時、その代表者【A】が開発した電気餅つき機を昭和四六年二月から製造し、「つきたて」なる商標名で販売を始めた』との点は不知。
かりに大前器工の販売した餅つき機が家庭用であつたとすれば「つきたて」なる標章は本件商標とは関係ない。
2 『右商標「つきたて」につき昭和四六年四月一七日商標登録の出願手続をなし』との部分は否認する。
(1) 大前器工株式会社が昭和四六年四月一七日に「つきたて」なる商標登録の出願手続をしていたことを被告らは知らなかつたが、その後判明したところによれば大前器工の登録出願は第九類(産業機械器具)の商品を指定商品とするものであり、家庭用の電気餅つき機(第一一類)については登録出願は行われていない。
(2)イ 家庭用電気餅つき機を販売する業者の中には、これに使用する商標を第一一類で登録している会社も数多くある。
例えば、
松下電器 もちもち 東芝 もちつ子 タイガー魔法瓶 力じまん 象印マホー瓶 力もち 静岡製機 ラビツター 冨士製作所 ハイザー 新興和産業 故郷もちつき器等は、
いずれも第一一類で商標登録をしている。
ロ 第九類と第一一類と双方で登録している業者もある。
例えば、
「ハイザー」 冨士製作所 「ラビツター」 静岡製機等である。
販売商品が第一一類の商品であつても、将来使用するかも知れないことを慮つて念のため第九類の登録をも得ておくということは業界では普通に行われていることである。従つて、第一一類の外第九類の登録もとつてあるからといつて家庭用電気餅つき機は第九類の商品ということにはならないのである。
ハ 第九類の登録はあるが、第一一類では登録していない業者もある。
例えば、
大平工業 つばめ 共立農機 もちろん 三洋電機 つきつき等である。
然し、だからといつて、家庭用電気餅つき機は第九類商品となる訳ではなく、家庭用電気餅つき機はあくまで第一一類である。第九類でしか登録していない業者は第一一類商標権者との間に何等かの商標使用に関する合意があるか、又は第一一類商標権者から抗議を受けるか、または無断使用をしているのかの何れかである。
ニ 新興和産業が「故郷」につき第一一類の登録をしていないのは、三洋電機が先願で「ふる里」という商標につき第一一類で出願公告を得ていたためと思われる。
従つて、新興和産業が家庭用電気餅つき機につき「故郷」を使用するについては三洋電機との間に何等かの折衝があるものと思われる。
新興和産業が「故郷」につき第九類の登録しか得ていないとしても、その故に「故郷」が第九類の商品だということにはならないのである。
(3) また、家庭用電気餅つき機については、「つきたて」ないし「つきたて」なる標章について商標登録はできない(商標法第3条第1項、第六号)。
けだし、「つきたて」なる用語は、商品の品質・効能を表すのみの、家庭でつきたてのものが得られることを表現するに止り、自他商品の識別標識としての機能はないからである。
右の点については特許庁の商標登録出願審査の左記の例によつても明らかである 記イ 訴外タイガー魔法瓶工業株式会社は、昭和四五年一二月一六日、標章・「つきたて」、指定商品・民生用電気器具、商品区分・第一一類の商標登録出願を行つた。
これに対し、昭和四七年七月二三日特許庁により要旨前記理由で拒絶された。昭和四八年二月二三日同一理由で拒絶査定。
ロ 被告北部産業株式会社(旧商号ホクセイアルミニユウム株式会社)は、昭和四七年六月一九日、標章「つきたて」、指定商品・電気餅つき機、商品区分・第一一類の商標登録出願を行つた。
これに対し、昭和四九年八月一五日、特許庁により、右と同旨の理由で拒絶され、昭和五〇年一〇月二〇日拒絶査定された。
ハ 訴外丸山工業株式会社は、昭和五〇年六月一八日標章・「ツキタテ」「つきたて」、指定商品電気機械器具、電気通信器具、電気材料、商品区分・第一一類の商標登録出願を行つた。
これに対し、昭和五二年八月二二日、特許庁は右と同旨の理由で拒絶し、さらに昭和五三年三月二五日、右と同一理由で拒絶査定した。
3 『餅つき機「つきたて」の宣伝普及に努めた結果、業界はいうに及ばず一般需要者にも大前器工の「つきたて」餅つき機として広く認識周知せられるに至つた。』との部分も争う。
家庭用電気餅つき機については当時多数の製造業者、販売業者が市場で競合していたし、流通経路も多岐にわたつていたから短期間に「つきたて」が周知されたとは考えられない。又家庭用に関する限り、「つきたて」なる標章は単に商品の品質効能を示すものに過ぎず、商標として登録できないものであるから、認識周知の有無は商標法上の意味をもたない。
(二) 同(二)の事実は争う。
(三) 同(三)の事実は争う。
(四) 同(四)の事実は争う。ただし、被告北部産業が昭和四七年一一月頃から「つきたて」なる標章を付して家庭用電気餅つき機の販売を始めたことは認める。
しかし、この餅つき機は右被告が自から製造したものではなく静岡県三島市所在の訴外新興和産業株式会社から完成品を買入れて「つきたて」の標章で販売したものに過ぎない。訴外新興和産業は自社の製造した同種の餅つき機を自社でも販売しているし、また、同種の電気餅つき機の製造会社は右訴外会社の外にも何社も存在している。
電気餅つき機自体は極めて一般的な商品である。
販売主体も、昭和五二年九月三〇日までは右被告が右訴外会社より完成品を仕入れて自ら販売をしていたものであり、また、昭和五二年一〇月一日以後は被告ホクセイ日軽家庭用品株式会社が直接前記訴外会社より完成品を仕入れて販売しているものであつて右期日以後は被告北部産業株式会社は餅つき機とは全く関係がない。
また、電気餅つき機については十数社の商品が市場で競合しており、かつ、流通経路も多岐にわたつているし、販売地域も区々である。
このような実情からみて被告北部産業の電気餅つき機の販売によつて大前器工が致命的打撃を受けたとか整理せざるを得ない事態に立到るなどということは考えられない。
また、昭和五三年六月二一日に原告が本件商標権を取得したことは認めるが(ただし、その当時被告が原告の商標権取得を知つていたということではない。)、この商標権は第九類(産業用機械器具)の商品を指定商品とするものであつて、被告の販売した家庭用餅つき機(第一一類)には関係がない。
(五) 同(五)の事実は争う。
(六) 同(六)の事実は不知。
(七) 同(七)・(八)の主張は争う。
四 請求原因第四項について 『被告らがその製造販売する餅つき機につき「つきたて」なる商標を使用するため』との部分は否認する。
家庭用餅つき機については「つきたて」は本件商標の使用ではないのみならず、
被告北部産業は昭和五二年一〇月一日以後は家庭用電気餅つき機の販売には関係がない。
原告の代理店や取引先から善処の要望があつたかどうかは知らない。
原告主張の警告書が原告主張の日時に被告らに送達されたことは認める。
五 請求原因第五項について(一) 同(一)の主張について 被告らは本件商標権を使用したことはない。従つて不正使用の継続などということはあり得ない。
被告らが家庭用電気餅つき機に「つきたて」なる標章を使用したのは、本件商標権の使用ではない。本件商標権は産業用機械器具を指定商品とするものであつて、家庭用には及ばない。
従つて原告には差止請求権も損害賠償請求権もない。
被告北部産業は昭和五二年一〇月一日以後は家庭電気餅つき機の販売とは関係がない。従つてこの点でも原告の請求は理由がない。
昭和五二年一〇月一日以後は、被告ホクセイ日軽家庭用品(株)が直接訴外新興和産業株式会社より完成品の電気餅つき機を購入してこれを販売しているのであるが昭和五三年六月二一日以降の販売数量は極めて微々たるものである。(一、〇〇〇個に充たない)。
原告の主張する販売数量や利益額はいずれも否認する。原告の主張は事情とかけ離れた過大な数字である。一個の小売価格と一個当りの利益額も争う。
(二) 同(二)の主張は争う。
1 不正競争防止法第1条第1項第1号並びに第1条の2による損害賠償請求権が発生するには、左記の要件を充足することが必要である。
記(1) 原告の使用した「つきたて」なる標章が商品識別の表示たる機能を有すること。
(2) その標章が周知表示であること。
(3) 混同が生じていること。
(4) 原告の営業上の利益が害されていること。
(5) 原告の損害と被告の行為との間に因果関係が存在すること。
しかし、本件においては右何れの要件をも欠くものであり、原告の請求は失当である。
2 原告が使用した「つきたて」なる標章は、商品の同一性または営業主体の異同を識別する機能を有することが必要である。
平仮名の四文字を横に並べただけではかかる商品識別の機能は有しない。このことは、一般の普通名詞が商品識別の機能を有しないのと同様である。
勿論、不正競争防止法違反が成立するためにはその侵害されたとする標章が商標として登録されていることは必要ではないが、少くとも商品識別の機能を有することが必要であることは当然である。このことは、混同が要件とされていることからみても明かである。
「つきたて」でも、文字の形状や色彩の特異性から特定商品を表示する機能を持つことはあり得るであろうが本件ではそのような主張立証もない。単に平仮名を横書しただけでは商品識別機能を有しない。
それでは単に餅がつき上つたばかりであるという一般的な状態を示す用語に過ぎず商品識別の機能を有しないことは、既に提出した特許庁の判定書、及び、第一一類商標出願に対する拒絶理由において、再三、再四明示されているところである。
従つて、この点において既に、原告の「つきたて」標章について不正競争防止法違反の問題が発生する余地はないのである。
3 原告の「つきたて」標章は周知たることを要するが、被告らは周知性を否認する。
4 原告の餅つき機と被告らの餅つき機との間には、混同が発生していなかつた。
(1) 商品の混同は消費者の商品選択の場において発生するのであるが、消費者の商品選択に製造メーカーのブランドや商品の機能、外観美の良否等によつて決定されるのであつて単なる「つきたて」なる標章によつて選択されるのではない。多くの広告資料を一見すればこのことは明かである。
(2) 家電商品は、特定のメーカーは自社の発売する全商品につき統一標章、統一イメージを使用し、各種商品が全体として特定メーカーの商品であることを表示し宣伝するようになつており、電気餅つき機という特定商品だけが独自の標章によつて選択されるということは極めて少ない。
(3) 原告の商品にも大前の餅つき機であることと、「つきたて」とが一体不可分的に表示されており、むしろ「つきたて」の文字よりも大前の方に重点が置かれている。
このことは、被告らの商品についても同様である。消費者はむしろ「大前の」「ホクセイの」部分に決定的な重点を置いて選択するのであつて、原告の餅つき機と被告らの餅つき機とが混同されることはない。
(4) このような観点から、メーカー名のみが表示され個々の商品には特別な標章をつけない場合も多くなつてきている。
(5) 餅つき機は単なるつくだけではなく、むす、こねる等の多機能を具えた物が圧倒的に多い。
この機能もまた消費者の選択の重要な基準である。原告の餅つき機はつくだけの機能しかなく、常にせいろを必要とする不便なものであるから、消費者の選択の場では決定的に不利である。
(6) 次に、混同の点で極めて重要なのは、商品流通ルートの問題である。
原告は元々農機具の製造販売業者であり、餅つき機についてもその販売ルートは農協を中心とする農業用機械器具を販売するルートが主体である。
他方、被告は、アルミニウム製品を中心とする家庭用品一般を製造または販売する会社であつてその販売ルートは家庭用品の販売業者である。
従つて、原告の商品と被告の商品とはその販売ルートを異にするから、両商品の間に混同の生ずることはない。
商品の一部については金物店を通しておりこの金物店ということで一部両商品が同時販売ということは考えられる。
然し、これは極めて微々たる量で無視しても良いものであり、かつ、金物店そのものはそれぞれ別個の金物店であるから商品そのものが小売店で競合することはない。
以上のとおり、原告、被告両商品の間で混同の生ずることはなかつたのである。
5 不正競争防止法違反の成立要件として、原告の営業上の利益が害されていることが必要であるが、被告はこの点に関する原告の主張を否認する。
仮に原告に営業上の販売量の低下があつたとしても、それは被告が餅つき機を販売したこととは因果関係がない。
原告の販売量が予想より低かつたとすれば、それは次の理由によるものである。
(1) 大手家電メーカー(被告は家電メーカーではない)の巧妙、かつ、大規模な宣伝、性能や機能の向上、新機種の開発、低価格による大量販売等に原告が対抗することができず、販売競争に敗れたことによるものである。
(2) 電気餅つき機は、元々は農村用のものとして作られたが、これが昭和四五・六年頃から次第に都市部に普及し、多くの需要を持つようになつたのである。
農村向のものは機能もつくだけで、しかも容量は三升位で大型機種が中心である。
これに対し都市向の商品は、つく、むす、こねる等の多機能を具備しており、かつ、単なる餅つき機としてだけでなく小麦粉をこねる等一般調理器具としての特格を持つている。又容量も一升位が普通であつて、農村向より小型である。
昭和四五・六年頃までは農村部の需要が多かつたが昭和四五・六年頃からは都会向の需要が開拓され、松下電気、タイガー、東芝等の大手メーカーが参入してきた。
原告の製造販売したのは、つくだけの機種で農村向のものであり、かつ、容量も比較的大きい物が多く、その販売ルートが農協関係であることを考えると、その製品は農村を対象とした商品である。
原告はその後都市向の製品の開発に遅れたために、昭和四五・六年以後の都市需要に対応できなかつたのである。
その他、既に混同の項で述べたように消費者の商品選択の基準は標章ではないのであつて、原告は大手家電メーカーの販売力、宣伝力、新製品開発力に敗れたのである。
原告の商品の販売不振は、かりに存在したとすれば右の事情によるものであつて、被告が餅つき機を販売したことによるものではない。
(3) 一方、被告らの販売した数量は誠に微々たるものであり、全国の販売総量に比較すれば誠に取るに足らぬ量であつて、これによつて原告の販売が影響を受けたとは到底考えられない。
このように、原告の販売量と被告の行為との間には因果関係がない。
6 結局、不正競争防止法違反の主張についても原告の請求は理由がない。
(三) 被告北部産業株式会社は、昭和五二年一〇月一日以降家庭用餅つき機の購入販売はしていない。
また、右同日以降被告ホクセイ日軽家庭用品株式会社は訴外新興和株式会社から家庭用餅つき機を購入販売しているが、昭和五三年六月一日から昭和五四年八日三一日までの間に右会社が販売した数量・単価・経費・利益額は、別紙販売実積表記載のとおりであり、右期間の純利益は、マイナス金三二二万三、六五九円である。
さらに、右会社の昭和五四年八月三一日現在における電気餅つき機の在庫数量は、四〇二台である。なお、右会社は右商品の売行不振のため、右商品の販売は右在庫品をもつて打切る所存である。
証拠(省略)
理 由一 本件商標権 請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件商標権の効力 本件原告の商標は、「つきたて」の平がな文字を縦書きしたもので、第九類(産業機械器具、動力器具、風水力機械器具、事務用機械器具、その他の機械器具で他の類に属しないもの、これらの部品および附属品、機械要素(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第二八号証。)。)「食料または飲料加工機械器具」を指定商品として昭和四六年四月一七日出願、昭和五三年六月二一日登録されたものであることは、前認定のとおりである。
そして、前記乙第二八号証によれば、本件餅つき機は、「食料または飲料加工機械器具」に該当し、事業場において専ら業務用として飲食料を加工するため使用される機械器具をいうものと認められる。したがつて、右概念に含まれる商品は、構造規模・性能・用法・流通経路等が業務用に適した商品でなければならない。
ところで、本件原告主張の被告らの販売にかかる商品は、成立に争いのない甲第二八号証によれば、三種類のものがあるが最大容量のもの(2Aデラツクス)で、
加工能力四・二キログラムないし五・六キログラム、電源・一〇〇ボルト、消費電力・三二〇ワツトないし三五〇ワツト、外形寸法・幅奥行いずれも四四〇ミリメートル、高さ・三六〇ミリメートル、重量・一五・五キログラムであることが認められ、加工能力が僅少で、形状は小型であるから持運び可能な家庭用電気餅つき機といえよう。さらに、証人【E】の証言によれば、被告らの本件商品の販売は、家庭電気ルートおよび金物ルートにのせていたことが認められ、これに反する証拠はない。
右の各事実を総合すれば、被告らの商品である電気餅つき機は、原告の商標の指定商品と概念される電気餅つき機と構造・規模・用法・流通経路を異にする非類似の商品といわざるをえない。したがつて、被告らの本件商品には、原告の本件商標権の効力は及ばない。
なお、原告は、被告らの販売にかかる電気餅つき機は原告の商標権の対象となる指定商品と類似しているので、商標法第6条第2項により商品の区分が本件のように第九類と第一一類と異つても類似性の判断に影響ない、と主張する。
しかし、前認定のとおり、原告の商標権の対象となる商標権は業務用に適したものでなければならない(成立に争いのない甲第二九号証によれば特許庁は、右業務用餅つき機(第九類)の一例として全幅七三〇ミリメートル、全長・九〇〇ミリメートル、全高・一、七九〇ミリメートル、動力・三相二〇〇ボルトで、一・五キロワツトのものを認定している。当裁判所も右認定を相当と認める。)のに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一二号証によれば、原告の商品である電気餅つき機は、全幅・二六〇ミリメートル、容量・一升五合と全幅・三〇〇ミリメートル、容量・三升との二種で、いずれもいわゆる家庭用であつて、右商標権の対象となる指定商品とは異つていること明らかである。
したがつて、そもそも原告の右商品は本件商標権の対象とならないものであるから(商標法第25条第50条第51条参照。)、被告の商品との類似性を問題にする原告の主張自体失当というべきであろう。
したがつて、原告の商標権侵害に基く請求はその余の点を判断するまでもなく、
理由がない。
三 不正競争防止法に基く請求について(一) 成立に争いのない甲第九号証、証人【F】、同【B】の各証言および弁論の全趣旨によれば原告会社の前身である大前器工株式会社が昭和四六年ころから「つきたて」なる名称の電気餅つき機を製造販売しはじめ、これを右会社の事業を昭和四八年一一月八日承継した原告が引き継ぎ製造販売したことを認めることができ、これに反する証拠はない。
(二) ところで、不正競争防止法第1条および第1条の2にいう他人の「商標」と同一または類似のものというのは、商標と同様の個別化機能を有するものをいうと解する。したがつてその表示は、いわゆる特別顕著性を有することが必要で、一般的名称や製品の一般的状態を表現するに止るものは、永年使用により特別顕著性を具有するに至つたものを除き、右の法の禁止する範囲に入らない。
ところが原告の主張する「つきたて」なる表示(商標)は前掲甲第九号証によれば、「つきたて」と平がなを横書きしたものであるが、右文字は、餅がつきあがつた直後の一般的状態を表現するに止り、これをもつて営業主体である原告ないしは商品を個別化する機能を有するとは、とうていいえないであろう。
したがつて、原告の商品に標章された「つきたて」なる表示は、電気餅つき機の効能を表現・連想させるに止り、商品の個別的識別機能すなわち、特別顕著性を有しない。
また、前認定のとおり、原告の前身である訴外大前器工株式会社は、原告主張の「つきたて」なる表示の電気餅つき機を昭和四六年ころから売り出しているが、他方被告北部産業株式会社(旧商号ホクセイアルミニユーム株式会社)も昭和四八年ころから「つきたて」なる表示の電気餅つき機を販売していたこと証人【E】の証言および同後述により真正に成立したものと認める乙第三〇号証によりこれを認めることができるのであつて、右昭和四六年から発売をもつて、右大前器工株式会社を承継した原告の「つきたて」なる表示の永年使用による個別化を具有するに至つたともいえない。
以上のとおり、原告の不正競争防止法に基く請求もその余の点を判断するまでもなく、理由がない。
四 結論 以上のとおり、原告の請求はすべて理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 戸田初雄