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関連審決 審判1978-9726
関連ワード 指定商品 /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出願変更 /  存続期間 /  外国 / 
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事件 昭和 56年 (行ケ) 243号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1982/03/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五三年審判第九七二六号事件について昭和五六年八月四日にした審決を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、
原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四九年六月一四日、別紙のとおり、「MONT」と「JOLY」の欧文字をハイフンで結合して左横書きしてなる商標(以下、「本願商標」という。)につき、第一七類「被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)」を指定商品として商標登録出願をしたところ、昭和五三年三月二七日拒絶査定を受けたので、同年六月一九日これに対する審判を請求し、特許庁昭和五三年審判第九七二六号事件として審理され、昭和五四年八月一五日、登録第一〇一一七一五号商標と連合する商標登録出願に出願変更したが、昭和五六年八月四日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年八月二六日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点 本願商標の構成、指定商品、商標登録出願の日、出願変更の日は、前項記載のとおりである。
これに対し、登録第五二七九七二号商標(以下、「引用商標」という。)は、
「ジヨリ」の片仮名文字と「JOLI」の欧文字を上下二段に左横書きしてなり、
旧第三六類「被服その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和三三年二月一九日登録出願、昭和三三年九月二七日設定登録、昭和五四年二月五日商標権存続期間更新の登録がされたものである。
本願商標は、前記のとおり「MONT」と「JOLY」の文字をハイフンを介して横書きしてなるもので、その構成からして視覚的にも「MONT」と「JOLY」に分けて観察することができるばかりでなく、前半の「MONT」の文字は、
「山」の意を表わす仏語で「モン」と称呼されるものであり、後半の「JOLY」は、「ジヨリー」の称呼のみが生ずる特定の語義を有しない造語と認められるものであつて、これを常に一体として一連にのみ称呼しなければならない特段の事情があるとも認められない。そうであれば、本願商標は、書された文字に相応して「モンジヨリー」と一連に読まれる場合があるとしても、前半又は後半の文字から生ずる「モン」又は「ジヨリー」のいずれかの称呼のみをもつて取引に資する場合も少なくないと解するのが相当である。
したがつて、本願商標は、「ジヨリー」の称呼も生ずるものといわざるをえない。
そこで、本願商標から生ずる「ジヨリー」の称呼と引用商標から生ずる「ジヨリ」の称呼とを比較すると、両者は共に三音構成にして「ジ」「ヨ」「リ」の各音を共通にし、異なるところは語尾音の「リ」の長音の有無にすぎないもので、その長音も「リ」の音に吸収され、僅かに余韻を感ずる程度に聴取されるものであるから、両者は、語韻語調がきわめて近似し、彼此聴き誤まるおそれがあるというべきである。
そうであれば、本願商標は、引用商標と称呼において類似する商標であり、かつ、本願商標の指定商品中には引用商標の指定商品と同一又は類似の商品を包含しているから、商標法第4条第1項第11号の規定に該当し、登録を受けることができない。
三 本件審決の取消事由 引用商標の構成、指定商品及び出願、設定登録、商標権存続期間更新の登録の各日が審決認定のとおりであることは争わないが、本件審決には、次のとおり、これを違法として取消すべき事由がある。
審決は、「MONT」と「JOLY」の文字をハイフンを介して横書きしてなる本願商標の構成からして、視覚的にも本願商標を「MONT」と「JOLY」に分けて観察することができるばかりでなく、前半の「MONT」の文字は「山」の意を表わす仏語で「モン」と称呼されるものであり、後半の「JOLY」は「ジヨリー」の称呼のみが生ずる特定の語義を有しない造語と認められるものであるから、
これらを常に一体として一連にのみ称呼しなければならない特段の事情があるとも認められないとしたうえ、本願商標を「MONT」と「JOLY」とに分離し、引用商標との類否判断を行なつたものである。
しかしながら、結合商標の前部と後部とを分離するには、社会的相当性を有する合理的な根拠に基づくべきであり、審決が本願商標を「MONT」と「JOLY」に分離したのは、きわめて恣意的なものであり、違法というべきである。
連字符たるハイフンは、二単語あるいは数単語を結びつけ、一連の称呼、一つの観点を有する新たな結合商標を構成するために施こされるものであり、たとえハイフンによつて結びつけられる二つの単語がなんら特定の観点を具備せぬ造語であつても、ハイフンを介して連結された以上、通常、一連に称呼される新たな結合商標を形成する。この場合にあつても、称呼上の語調が不自然であつたり、観念的な結合が弱いとき、あるいはハイフンを介した結合商標が長い称呼を有したり、結合商標の一部が特に指定商品との関係で顕著であるときは、ハイフンで結ばれた結合商標の一部分によつて簡略化されて称呼される場合のあることは、原告も認めるところである。
しかしながら、本願商標「MONT―JOLY」は、ハイフンを介して結合された二つの語からなるものであるが、その前後の文字はいずれも、大小軽重の差なく、同一書体で一連に表わされており、これを称呼する場合、「MO」にアクセントが置かれ、一息に「モンジヨリー」と短かく称呼されるものであつて、迅速簡明を尊ぶ取引界にあつても、僅か四音の本願商標を「モン」と「ジヨリー」のいずれかに分離して称呼するものとは到底考えられない。
本願商標の構成部分「MONT」が「山」を表わす仏語であることは、取引者層に広く知られており、また、「Mont―Blanc」(モンブラン山)、「Mont―Pouri」(モンブリー山)、「Mont―Pele′e)」(ブレー山」、「Mont―Cenis」(モンスニ山)あるいは「Mont―Cervin」(マツターホルン)のように、「Mont―A」と表示されることにより、
「A山」と認識される仏語であることからして、仏語に精通する本願指定商品の取引者層は、本願商標「MONT―JOLY」にあつても、かような「山の名称」であるかのように認識するものであり、「JOLY」が特定の語義を有しない造語であつても、取引者は「MONT」との間に観念的に結びつきを見出しうるものである。
以上のとおり、本願商標は「モンジヨリー」と一連にのみ称呼されるものであるのに、審決が本願商標を「MONT」と「JOLY」とに分離したうえ、「ジヨリー」の称呼も生ずるとしたのは誤りというべきである。
被告の陳述
一 請求の原因一及び二の事実は、いずれも認める。
二 同三の審決取消事由の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。
本願商標は、「MONT」と「JOLY」の文字を約二字分の間隔を置いて左横書きしてなり、その中間にハイフンを配した構成であるから、両文字部分は視覚的にも分離して看取されるばかりでなく、前半の「MONT」の文字は「山」の意を表わす親しまれた仏語であり、後半の「JOLY」の文字は特定の語義を有しない造語であつて、これらの文字を結合することにより特定の観念を生ずるものとも認められないから、これを常に一体のものとして把握しなければならない特別の事情が存するとは認め難い。
また、本願商標は、全体として「山の名称」であるかのように認識されるとしても、わが国では、山の名称である「富士山」を「富士」、「浅間山」を「浅間」と、「山」の文字を省略した称呼をもつて前記の山の意味合いを表わすものとして使用している実情からも、本願商標は、単に「ジヨリー」とのみ称呼される場合も少なくないとみるのが相当である。
したがつて、本願商標は「ジヨリー」の称呼をも生ずるとした審決に、誤りはない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について判断する。
成立について争いのない甲第二号証の二によれば、本願商標は別紙のとおりの構成からなるものであり、これからは「モンジヨリー」の称呼が生ずるものと認められる。
審決(成立について争いのない甲第一号証)は、本願商標は「MONT」と「JOLY」の文字をハイフンを介して横書きしてなるもので、視覚的にもこれを「MONT」と「JOLY」の部分に別けて観察することができるばかりでなく、「MONT」は山の意を表わす仏語であり、「JOLY」は特定の語義を有しない造語と認められるから、これを常に一体として一連にのみ称呼しなければならないという特段の事情があるとも認められないとし、「モンジヨリー」と一連に読まれる場合があるとしても、前半又は後半の文字から生ずる「モン」又は「ジヨリー」のいずれかの称呼のみをもつて取引に資する場合も少なくないと解するのが相当であるとした。
しかしながら、「MONT」は、「山」の意を表わす親しまれた仏語であり、仏語で山の名を表わすときは、「Mont―Blanc」(モンブラン)の例に見られるように、「Mont」と次の語が分離されることなく一連に発音され使用されているのが通常であると認められる(Montと次の語を分離して発音し、使用されている例を示す資料はない。)ところからすれば、本願商標のごとく全体が大小の差なく同一書体で表わされ、「モンジヨリー」と僅か四音で称呼され得てこれを「モン」と「ジヨリー」に分離して称呼しなければならないほど冗長のものでもないという場合においては、たとえ「MONT」と「JOLY」の部分がハイフンでつながれており、視覚的には両部分に別けて観察することができるとしても(この点は「Mont―Blanc」の場合も同様である。)、本願商標は「モンジヨリー」と一連にのみ称呼され、「ジヨリー」とのみ称呼される場合はないものというべきである(本願商標後半部分の「JOLY」が特定の語義を有しない造語であるということは、それが前半部分の「MONT」と結合して、全体が一連に称呼され得ないということと結びつくものではない。)。
この点に関し、被告は、本願商標は、全体として「山の名称」であるかのように認識されるとしても、わが国では、山の名称である「富士山」を「富士」、「浅間山」を「浅間」と、「山」の文字を省略した称呼をもつて前記の山の意味合いを表わすものとして使用している実情からも、本願商標は、単に「ジヨリー」とのみ称呼される場合も少なくないとみるのが相当である旨主張する。
しかしながら、わが国でそうであるからといつて、その例をもつて外国においても、あるいは外国語表記のものにおいても、そうであろうと推論することは妥当でないといわなければならない。ちなみに、前記「Mont―Blanc」の「blanc」は「白い」という意味の男性形形容詞であるから、これを前半部分の「mont」と切離して称呼しても、それはモンブラン(山)を意味することにはならないから、「モンブラン」が「ブラン」とのみ称呼されることはあり得ないものといわなければならない。被告の主張は理由がない。
右のとおりであつて、審決が本願商標から「ジヨリー」の称呼も生ずるとしたのは事実の認定を誤つたものというべきであり、その誤りは、本願商標の登録を拒絶すべきものとする審決の結論に影響を及ぼすものといわなければならない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 高林克巳
裁判官 楠賢二
裁判官 杉山伸顕