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事件 昭和 51年 (ネ) 2317号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1979/11/14
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人(附帯被控訴人)ら1 原判決中、控訴人有限会社龍村織寶本社(以下単に「控訴人有限会社」という。)及び控訴人株式会社龍村美術織物(以下単に「控訴人株式会社」という。)の各敗訴部分を取消す。
2 被控訴人は、
控訴人有限会社に対する関係において、原判決添付物件目録(一)記載のパンフレツト中に「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、同物件目録(三)記載の商品説明書中に「龍村」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、同物件目録(四)記載の商品説明書中に「龍村裂(きれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、
控訴人株式会社に対する関係において、同物件目録(一)記載のパンフレツト中に「たつむら」、「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、同物件目録(二)記載の商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、同物件目録(三)記載の商品説明書中に「龍村」の文字を、同物件目録(四)記載の商品説明書中に「龍村裂(きれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字を、
それぞれ附して展示頒布してはならない。
3 被控訴人は、
控訴人有限会社に対する関係において、同物件目録(一)記載のパンフレツト中の「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を、同物件目録(三)記載の商品説明書中の「龍村」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を、同物件目録(四)記載の商品説明書中の「龍村裂(きれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を、
控訴人株式会社に対する関係において、同物件目録(一)記載のパンフレツト中の「たつむら」「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」(但し、
同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を、同物件目録(二)記載の商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を、同物件目録(三)記載の商品説明書中の「龍村」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分を、同物件目録(四)記載の商品説明書中の「龍村裂(きれ)」(但し、同目録中の朱線で囲んだ部分)の文字部分をそれぞれ廃棄せよ。
4 本件附帯控訴を棄却する。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求めた。
二 被控訴人(附帯控訴人)1 本件控訴を棄却する。
2 (附帯控訴として、)原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す。控訴人らの請求を棄却する。
との判決を求めた。
請求の原因
一 控訴人有限会社は、織物の製造販売等を営業目的とする会社で、昭和二九年三月五日設立され、もとその商号を有限会社龍村本社と称していたが、これを昭和四六年一二月二〇日株式会社龍村織寶本社に、昭和五三年一月五日有限会社織寶苑(これに吸収合併された。)に、同月二五日現商号に順次変更登記するに至つたものであり、控訴人株式会社は、昭和三〇年一二月三日設立された帯、壁掛をはじめとする織物諸商品の製造販売等を営業目的とする会社であり、被控訴人は、昭和四五年四月二〇日設立された織物諸商品の販売等を営業目的とする会社である。なお、控訴人株式会社と被控訴人とは競争関係にあるものである。
二 原判決添付商標権目録記載の各商標権(以下「本件各商標権」といい、そのうちの符号(A)に属する(1)から(8)までの各商標権を総称するときは、「本件(A)各商標権」といい、さらに、そのなかの各個の商標権をいうときは、「本件(A)(1)商標権」、「本件(A)(2)商標権」のようにいい、また、以上の商標については、「本件各商標」、「本件(A)(1)商標」、「本件(A)(2)商標」のようにいい、その余の符号の商標権及びその商標についても同様方法により呼称する。但し、符号(B)に属する商標権は(1)、(3)、(4)とし、(B)(2)欄は削る。)中1 本件(A)各商標権、本件(B)各商標権は、亡【A】(以下「訴外人」という。)において商標登録出願をして設定の登録を受けたものであるところ、昭和三二年四月一八日の移転登録をもつて訴外人から控訴人株式会社に、次いで昭和四一年八月三日の移転登録をもつて控訴人株式会社から控訴人有限会社に順次譲渡されたものであり、
2 本件(C)商標権、本件(E)商標権は、控訴人有限会社において商標登録出願をして設定の登録を受けたものであり、
3 本件(D)各商標権は、控訴人株式会社において商標登録出願をして設定の登録を受けたものであるところ、昭和四一年八月三日の移転登録をもつて控訴人株式会社から控訴人有限会社に譲渡されたものである。
本件(A)各商標権、本件(B)各商標権、本件(C)商標権及び本件(D)各商標権については、その都度存続期間更新の登録がされてきているものであつて、
控訴人有限会社は、本件各商標の商標権者である。
三 被控訴人は、債権者控訴人有限会社、債務者被控訴人間の東京地方裁判所昭和四六年(ヨ)第二五二三号商標権侵害禁止仮処分申請事件につき、同年九月一三日発布された同裁判所の商標使用差止等仮処分決定が送達され、かつ、その執行として、その占有する原判決添付物件目録(一)記載のパンフレツト、同物件目録(三)、(四)各記載の商品説明書につき占有を解かれて同裁判所執行官の保管に移されるに至つた翌一四日まで、その販売する1 (1)帯、(2)ネクタイ、(3)襖張用裂地、壁張用裂地、椅子張用裂地、
座蒲団、クツシヨン用裂地(以下「襖張用裂地等」ともいう。)、(4)ふくさ、
(5)手提袋、ハンドバツグ、数寄屋袋、懐紙入、札入、銭入、名刺入、袋様の爪入(以下「手提袋等」ともいう。)、(6)カーテン、電話カバー、テーブルセンター、壁掛、どん帳(以下「カーテン等」ともいう。)、(7)衣裳盆、乱箱、宝石入、マツチ立、小箱様爪入(以下「衣裳盆等」ともいう。)を広告宣伝するため、同物件目録(一)記載のパンフレツト(以下「本件(一)パンフレツト」という。)を作成のうえ、店頭に備えつけて顧客に展示頒布し、
2 札入を広告説明するため、同物件目録(二)記載の商品説明書(以下「本件(二)商品説明書」という。)を作成のうえ、当該商品とともに包装紙内に入れて顧客に展示頒布し、
3 銭入を広告説明するため、同物件目録(三)記載の商品説明書(以下「本件(三)商品説明書」という。)を作成のうえ、前同様の方法で顧客に展示頒布し、
4 ふくさを広告説明するため、同物件目録(四)記載の商品説明書(以下「本件(四)商品説明書」という。)を作成のうえ、前同様の方法で顧客に展示頒布していたところ、
(一) 本件(一)パンフレツト中には、(1)「たつむら」、(2)「【A】」、(3)「龍村製」、(4)「龍村」、(5)「龍村特製」の記載が、
(二) 本件(二)商品説明書中には、「龍村裂」の記載が、
(三) 本件(三)商品説明書中には、(1)「(龍村製)」、(2)「龍村」の記載が、
(四) 本件(四)商品説明書中には、「龍村裂」の記載がある。
四 本件(一)パンフレツト中における前記「たつむら」、「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載文字は、一連の文章中に組込まれてはいるものの、被控訴人がその販売する前項1掲記の(1)ないし(7)の各商品の品質、
図柄、製作過程、製作の由来等を説明して自己の商品を他人の商品と区別するために使用しているものであるから、被控訴人の前項1掲記の所為は、被控訴人の商品に関する広告に文字標章を附して展示、頒布する行為として、商標の使用行為に該当するところ、右各文字(商標)の使用は、
1 前記帯、ネクタイの広告に関しては、本件(A)(1)商標権、本件(B)(1)商標権、本件(C)商標権、本件(D)(2)商標権の侵害に、
2 前記襖張用裂地等の広告に関しては、本件(A)(3)、(4)、(5)、
(6)、(7)商標権の侵害に、
3 前記ふくさの広告に関しては、本件(A)(1)商標権、本件(B)(1)商標権、本件(D)(2)商標権の侵害に、
4 前記手提袋等の広告に関しては、本件(A)(8)商標権、本件(B)(4)商標権、本件(D)(1)商標権の侵害に、
5 前記カーテン等の広告に関しては、本件(A)(2)商標権、本件(B)(3)商標権の侵害に、
6 前記衣裳盆等の広告に関しては、本件(E)商標権の侵害になる。
すなわち、本件(A)各商標権は、その指定商品を異にするだけで、いずれも「龍村平蔵製」の商標(本件(A)各商標)からなるものであるところ、本件(A)各商標は、一見して明らかなように、氏名、そのなかでも特に世上稀な「龍村」の氏を中心にして構成されているものであつて、自他商品識別の機能を発揮する部分、すなわち、その要部は、「【A】」又は「龍村」にあり、また、本件(B)各商標権は、その指定商品を異にするだけで、いずれも「龍村製」の商標(本件(B)各商標)からなるものであり、本件(D)各商標権も、その指定商品を異にするだけで、いずれも「龍村裂」の商標(本件(D)各商標)からなるものであつて、本件(B)各商標、本件(D)各商標の要部が、いずれも「龍村」にあることは、さきに述べたところから明らかであろう。
他方、本件(一)パンフレツト中の文字商標である「【A】」、「龍村製」、
「龍村特製」の要部が、いずれも「龍村」にあることも、さきに述べたところから明らかであろう。
そうすると、本件(一)パンフレツト中の文字商標である。
1 「たつむら」は、本件(A)各商標、本件(B)各商標、本件(D)各商標の要部である「龍村」と称呼観念を同じくし、本件(C)商標、本件(E)商標と外観称呼観念を同じくするものであるから、本件(A)各商標、本件(B)各商標、本件(D)各商標とは類似し、本件(C)商標、本件(E)商標とは同一であり、
2 「【A】」は、本件(A)各商標の要部である「【A】」又は「龍村」と外観称呼観念において同一又は類似であるほか、その要部である「龍村」が本件(A)各商標の要部である「【A】」又は「龍村」と外観称呼観念において類似又は同一であり、本件(B)各商標、本件(D)各商標の要部である「龍村」と外観称呼観念を同じくし、本件(C)商標、本件(E)商標と称呼観念を同じくするものであるから、本件各商標とは類似し、
3 「龍村製」は、本件(B)各商標と外観称呼観念を同じくするほか、その要部である「龍村」が本件(A)各商標、本件(D)各商標の要部である「龍村」と外観称呼観念を同じくし、本件(C)商標、本件(E)商標と称呼観念を同じくするものであるから、本件(A)各商標、本件(C)商標、本件(D)各商標、本件(E)商標とは類似し、本件(B)各商標とは同一であり、
4 「龍村」は、本件(A)各商標、本件(B)各商標、本件(D)各商標の要部である「龍村」と外観称呼観念を同じくし、本件(C)商標、本件(E)商標と称呼観念を同じくするから、本件各商標とは類似し、
5 「龍村特製」は、その要部である「龍村」が本件(A)各商標、本件(B)各商標、本件(D)各商標の要部である「龍村」とは外観称呼観念を同じくし、
本件(C)商標、本件(E)商標と称呼観念を同じくするから、本件各商標とは類似するところ、
(一) 前記帯は、本件(A)(1)商標権、本件(B)(1)商標権の指定商品である旧第三六類商品のうちの被服、本件(C)商標権の指定商品である現第一七類帯に含まれる商品であり、本件(D)(2)商標権の指定商品である旧第三六類裂製の衣服、帯芯類、手巾類、ネクタイ、襟巻類とは類似の商品であり、なかんずく、そのうちのネクタイとは、両者がいずれも衣服の観念に含まれるうえ、装飾品的要素の強いものであり、しかも、織物業地として著名な京都西陣地方においては通常同一業者により製作されている商品であることに鑑みても、類似の商品であるということができ、
(二) 前記ネクタイは、本件(A)(1)商標権、本件(B)(1)商標権の指定商品である旧第三六類商品のうちの被服に含まれる商品であり、本件(D)(2)商標権の指定商品である旧第三六類商品のうちの裂製のネクタイに含まれるか、これと類似する商品であり、本件(C)商標権の指定商品である現第一七類帯とは、前記のように、類似の商品であり、
(三) 前記襖張用裂地等は、いずれも織物を裁断加工して製作されるものであるから、その素材が絹、木綿、毛、麻、その他のいずれであるかにより、本件(A)(3)商標権の指定商品である旧第三〇類商品絹織物、本件(A)(4)商標権の指定商品である旧第三一類商品木綿織物、本件(A)(5)商標権の指定商品である旧第三二類商品毛織物、本件(A)(6)商標権の指定商品である旧第三三類商品麻織物、本件(A)(7)商標権の指定商品である旧第三四類商品旧第三〇類ないし第三三類に属しない織物のいずれかに含まれる商品であるのはもちろん、右各指定商品としての織物が、その素材を異にするとはいえ、一様に織物であつて、通常同一業者により生産販売されることも少なくないのみならず、その用途にも共通点が多いことに鑑みると、右各商標権のうちの指定商品を同じくしない商標権の指定商品とも類似する商品であるということができ、
(四) 前記ふくさは、本件(A)(1)商標権、本件(B)(1)商標権の指定商品である旧第三六類商品のうちの手巾に含まれる商品であり、本件(D)(2)商標権の指定商品である旧第三六類商品裂製の手巾類に含まれるか、これと類似する商品であり、
(五) 前記手提袋等は、本件(A)(8)商標権、本件(B)(4)商標権、本件(D)(1)商標権の指定商品である旧第四九類商品のうちの袋物に含まれる商品であるか、もしそうでないとしても、右袋物とは、両者がいずれもかばん類、袋物として一般に用途、生産者、販売者を同じくする実情に鑑み、類似の商品であるということができ、
(六) 前記カーテン等は、本件(A)(2)商標権、本件(B)(3)商標権の指定商品である旧第三七類商品のうちの他類に属しない室内装置品に含まれる商品であり、
(七) 前記衣裳盆等は、本件(E)商標権の指定商品である第二〇類商品のうちの屋内装置品に含まれる商品であり、これらによれば、はじめに述べたような関係での商標権侵害が成立していることが明らかであろう。
五 本件(二)商品説明書中における「龍村裂(ぎれ)」の記載文字は、被控訴人がその販売する商品札入を、他人の商品と区別するために、使用しているものであるから、被控訴人の第三項2掲記の所為は、被控訴人の商品に関する広告に文字標章を附して展示頒布する行為として、商標の使用行為に該当するところ、右文字(商標)の使用が、本件(A)(8)商標権、本件(B)(4)商標権、本件(D)(1)商標権の侵害になることについては、前項において手提袋等に関し述べたところから明らかであろう。
六 本件(三)商品説明書中における「(龍村製)」、「龍村」の記載文字は、被控訴人がその販売する商品銭入を、他人の商品と区別するために使用しているのであるから、被控訴人の第三項3掲記の所為は、被控訴人の商品に関する広告に文字標章を附して展示頒布する行為として、商標の使用行為に該当するところ、右各文字(商標)の使用が、本件(A)(8)商標権、本件(B)(4)商標権、本件(D)(1)商標権の侵害になることについては、前項において述べたところと同じである。
七 本件(四)商品説明書中における「龍村裂(ぎれ)」の記載文字は、被控訴人がその販売する商品ふくさを、他人の商品と区別するために使用しているものであるから、被控訴人の第三項4掲記の所為は、被控訴人の商品に関する広告に文字標章を附して展示頒布する行為として、商標の使用行為に該当するところ、右文字(商標)の使用が、本件(A)(1)商標権、本件(B)(1)商標権、本件(D)(2)商標権の侵害になることについては、第四項においてふくさに関し述べたところと同じである。
八 訴外人は、明治二七年ころ京都西陣において製織業を始め、独特の高級織物諸製品を考案して製作し、明治末期ころにはすでに織物業界において著名な業者に数えられるに至つていたが、大正八年東京の日本橋倶楽部、大阪の中之島中央公会堂において自己の創作になる織物帯につき展覧会を開催したところ、これが好評を博して新聞により全国に報道されるところとなり、織物業者ないし織物美術家としての名声が全国に広まり、大正一〇年には当時の知識人、著名人の肝入りで、かねてより研究のうえ複製を試みていた正倉院御物裂をはじめとする古代裂、名物裂の頒布会が結成され、優れた作品が世に送られ、また、大正一二年ころ以降は、当時としては破格の名誉に属する宮内省からの注文が続き、訴外人の名声は全国的にゆるぎないものとなつた。ところで、訴外人は、創業のときからその製造販売する織物製品等に本件(A)各商標、本件(B)各商標と同じ「龍村平蔵製」、「龍村製」の商標を附し、その後、前記のように本件(A)各商標、本件(B)各商標の登録出願をしてからは、もちろんこれを使用していたので、本件(A)各商標、本件(B)各商標は、訴外人の前記のような名声に支えられ、各種織物製品の商標として全国的に著名となつた。
控訴人株式会社は、前記のとおり昭和三〇年一二月三日設立されるとともに、訴外人から本件(A)各商標権、本件(B)各商標権につき通常使用権の許諾を受け、次いで、前記のとおり昭和三二年四月一八日の移転登録をもつて右各商標権を譲り受けてからは、その商標権者として、さらに前記のとおり昭和四一年八月三日の移転登録をもつて右各商標権を控訴人有限会社に譲渡してからは、同年九月一日付をもつて同有限会社から通常使用権の許諾を受けたうえ、その商標である本件(A)各商標、本件(B)各商標を自己の製造販売する織物諸製品に附するとともに、その間、前記のとおり自ら商標登録出願をして昭和三四年一月三一日及び昭和三五年九月一六日に設定の登録を受け、昭和四一年八月三日の移転登録をもつて控訴人有限会社に一括譲渡した本件(D)各商標権については、商標権者本人ないし同年九月一日付をもつて控訴人有限会社から使用許諾を受けた通常使用権者としてその商標である本件(D)各商標を使用しているのみならず、これと同じ商標をすでに会社設立当初から使用しており、また、前記のとおり控訴人有限会社においていずれも商標登録出願をして昭和四二年三月二九日に設定登録を受けた本件(C)商標権及び昭和四六年一一月一三日に設定登録を受けた本件(E)商標権についても、右各設定登録の日控訴人有限会社から通常使用権の許諾を受けてその商標である本件(C)商標、本件(E)商標を使用し今日に至つているところ、本件(A)各商標である「龍村平蔵製」の商標、本件(B)各商標である「龍村製」の商標は、訴外人が使用していた当時からの著名性に支えられ、また、本件(D)各商標である「龍村裂」の商標は、右「龍村平蔵製」ないし「龍村製」の商標と要部である「龍村」を共通にすることにより、いずれも控訴人株式会社が前記のようにその設立と同時に使用し始めると、たちまち控訴人株式会社の製造販売する織物製各種製品を示す商標として全国的に著名となつたのはいうまでもないことであるが、控訴人株式会社においても、右著名商標にふさわしい最高級の織物製各種製品を製作して販売し、訴外人時代からの取引先である全国有名百貨店からの注文はもとより、宮内庁からの注文も引続き受けるほか、諸官庁、各地の有名ホテル、その他の著名建造物に飾られる室内装飾用織物製品多数の注文を受けて製作納入し、また、
有名百貨店に裂地の特設売場を設け、あるいは、作品の展覧会を毎年春秋二回開催して宣伝にも努め、これにより京都西陣を代表する最高級絹織物業者としての名声を博し、営業ますます隆盛をきわめて来ていたため、本件(C)商標、本件(E)商標である「たつむら」の商標も、控訴人株式会社による使用開始とともに、たちまち控訴人株式会社の製造販売する織物製各種製品を示す商標として全国的に著名となつたし、また、控訴人株式会社の通称である「龍村」も控訴人株式会社の前記商品を示す表示となつて全国的に著名になつた。
なお、商標「龍村裂」は、訴外人の時代から同人の復元あるいは製作した裂地を総称し、龍村製の裂地を表す意味で、龍村裂と称していたのであり、控訴人株式会社設立後も引続き同会社の製造販売する裂地並びにそれを素材とするふくさ、テーブルセンター等の小物類の商標として、パンフレツトやカタログ類に記して使用してきたものであるが、たまたま商標登録の時期が遅れただけであり、また、商標「たつむら」は、帯の商標として、控訴人株式会社設立後間もない頃から、帯地の端に織込んで使用している。
九 控訴人株式会社と同じく織物製品の製造販売を営業目的とし、同社と競争関係にある被控訴人において、その製造販売する商品を広告するため、本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書中に「たつむら」、
「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」、「龍村裂(ぎれ)」、「(龍村製)」、「龍村裂(きれ)」の文字商標を附してこれらを展示頒布していることは第三項において述べたとおりであるが、被控訴人使用の右商標が控訴人株式会社の製造販売する織物製各種製品を示すものとして周知となつている前記「龍村平蔵製」、「龍村製」、「たつむら」、「龍村裂」の商標ないし「龍村」の商品表示のいずれとも同一又は類似であることは、すでに述べたところから明らかであり、そうすると、右商標使用により被控訴人の商品が控訴人株式会社のそれと混同され、
ひいては、これにより控訴人株式会社が営業上の損失を被るに至るであろうことは、明らかである。
一〇 以上のように、被控訴人において、本件(一)パンフレツト中に「たつむら」、「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」と記載してこれを展示頒布していること、本件(二)商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」と記載してこれを展示頒布していること、本件(三)商品説明書中に「(龍村製)」、「龍村」と記載してこれを展示頒布していること、本件(四)商品説明書中に「龍村裂(きれ)」と記載してこれを展示頒布していることが、控訴人有限会社の有する本件各商標権のうちの少なくとも一つの侵害に当るものであり、かつ、控訴人株式会社の本件各商標と同じ著名商標ないし「龍村」の著名商品表示のうちの少なくとも一つの不正使用による不正競争行為に当るものである以上、被控訴人による前記各文字を附したパンフレツト、商品説明書の展示頒布は許されないものであるから、控訴人有限会社は、本件各商標権に基づき、また、控訴人株式会社は、不正競争防止法第1条第1項第1号の規定に基づき、それぞれ、被控訴人に対し、前記各文字を附しての本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書の展示頒布の差止を求めるとともに、前記のように執行官の保管に移されている本件(一)パンフレツト、本件(三)、(四)商品説明書を含む被控訴人所有の本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書中の前記各文字部分は、本件各商標権の侵害行為並びに前記不正競争行為に供されるものであつて、商標権侵害の予防並びに不正競争行為の差止を実効あらしめるためには廃棄されるべきものであるから、右各文字部分の廃棄を求める。
答弁及び主張
一 答弁 請求原因第一項の事実は認める。
同第二項の事実中、本件各商標権につき、控訴人ら主張のとおり、訴外人、控訴人有限会社、控訴人株式会社がそれぞれ商標登録出願をして各商標権設定登録を受けたこと、各商標権移転登録があることは認めるが、控訴人有限会社が本件(A)各商標権、本件(B)各商標権を譲り受けたとの点は否認し、また、控訴人有限会社が本件(D)各商標権を控訴人株式会社から譲り受けたとの点及び本件(A)各商標権、本件(B)各商標権、本件(C)商標権、本件(D)各商標権につきその都度存続期間更新の登録がされてきているとの点は知らない。
もつとも、被控訴人は、本件(A)各商標権、本件(B)各商標権につき、訴外人が譲渡による移転登録をしたことを一旦認めたが、右自白は、真実に反し、錯誤に基づくものであつたから、昭和四九年一〇月二日の第一審口頭弁論期日においてこれを撤回した。右移転登録は、控訴人有限会社において訴外人の印鑑等を盗用し無断でされた無効のものである。
請求原因第三項の事実中、被控訴人が本件(一)パンフレツト、本件(三)、
(四)商品説明書を作成したこと、右パンフレツト、商品説明書が被控訴人ら主張のような仮処分決定の執行としてその主張の日執行官の保管に移されたこと、本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書中に控訴人ら主張の記載文字があることは認めるが、その余は否認する。
請求原因第四項から第七項までの事実は否認する。
同第八項の事実中、訴外人が織物美術作家として著名であつたとの点は認めるが、その余は否認する。
請求原因第九項の事実は否認する。
同第一〇項は争う。
二 主張(一) 被控訴人は、かねてより龍村商工株式会社(以下「龍村商工」という。)の製造する織物製品を販売し、最近は【B】(龍村商工を創立してその代表取締役に就任するとともに、被控訴人の元代表取締役で、現在は相談役に就任している。)がデザイン製作する絹織物製品の販売を行なつている会社であるが、右【B】は、龍村製「正倉院裂」等の古代美術織物を複製するなど美術織物作家として夙に著名であつた訴外人の三男として出生し、【C】(訴外人の四男であり、控訴人両会社の代表取締役を兼ねている。)とともに、訴外人の営んでいた織物業を手伝いながら、訴外人の考案になる優れた工芸織物製作技術を習得し、これを踏襲して織物製品を製作しているものであつたところから、被控訴人は、自己の販売している【B】製作の織物製品が訴外人の創案した織物美術工芸を踏襲しているものとして、その由来を宣伝説明するため、本件(一)パンフレツト、本件(三)、
(四)商品説明書を作成したものであつて、控訴人ら指摘の本件(一)パンフレツト中の「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」、「龍村」の記載、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(きれ)」の記載は、このような【B】が製作し、被控訴人が販売する織物製品の由来を説明するための文章中に用いられている言葉であつて、被控訴人の製品を指し、これを他人の製品と区別するための標章、換言すれば、商標ないし商品表示として使用しているものではないし、また、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載も、前記「龍村」の記載と同様、被控訴人において販売する商品の製造元であつた龍村商工ないし現にその製造元である【B】をあらわすために使用されているにすぎないものであつて、これまた、被控訴人の商品を他人の商品と区別するための商標ないし商品表示として使用しているものではないから、それらにたまたま本件各商標と同一又は類似の点が見出されることがあつたとしても、控訴人有限会社主張のように商標権侵害のそしりを受けるいわれはない。
また、控訴人ら指摘の前記記載文字が被控訴人の販売する商品を表示する機能を有していないうえ、これらの記載がある本件(一)パンフレツト、本件(三)、
(四)商品説明書中には、被控訴人の商号が大きな文字で明記されているのであるから、被控訴人においてその販売する商品を広告するため、右パンフレツト、商品説明書を展示頒布したからといつて、これにより被控訴人の製品と控訴人株式会社の商品とが誤認混同されることはいうに及ばず、誤認混同されるおそれすらないことも明らかであり、したがつて、控訴人株式会社に対する被控訴人の不正競争行為も成立する余地がないものである。
(二) 前記【B】及び【C】は、前記のように家業である訴外人の事業を手伝つていたが、昭和二四年ころ米国ドツジ財政使節の勧告により実施されることになつた政府のインフレ収束のための財政緊縮政策に伴い、右事業の経営が危殆に瀕すると、その経営の立直し策をめぐつて互いに衝突し、爾来夭折した長男を除く五名の兄弟姉妹が【B】側二名、【C】側三名に分かれて相争うようになり、その結果、
【C】が代表取締役の地位にある控訴人らにおいて、前記のように【B】の製作する製品を販売している被控訴人をも【B】の事業の一環とみなして、【B】を攻撃する意図のもとに、被控訴人に対し、本訴請求原因にみられるような無理な主張を掲げて本訴を提起するに至つたものであり、控訴人らの本訴請求は権利濫用のそしりを免れず、到底許されないものである。
被控訴人の主張に対する反論等
(一) 被控訴人の自白の撤回には異議がある。控訴人有限会社が訴外人の印鑑を盗用のうえ無断で商標権移転登録を行つたとの点は否認する。
(二) 本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書は、被控訴人の販売する商品を広告するためのものであるから、その中に前記のように「たつむら」、「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」、「龍村裂(ぎれ)」、「(龍村製)」等の記載がされるならば、これを見る者をして、それが被控訴人の現に販売している商品を指し、しかも、被控訴人の販売している商品が世上本件各商標により著名になつている控訴人株式会社の製造販売する商品である旨誤認混同させるに十分であり、被控訴人もこのような効果を期待して右記載をしていることは明らかであるから、被控訴人による右記載のある本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書の展示ないし頒布行為が、控訴人有限会社の有する本件各商標権の侵害行為に該当するとともに、控訴人株式会社に対する不正競争行為にも該当することはいうまでもない。
(三) 被控訴人の権利濫用の主張は争う。
証拠関係(省略)
理 由一 本件(A)各商標権及び本件(B)各商標権については、訴外人において商標権設定登録を受けた後、訴外人から控訴人株式会社へ、控訴人株式会社から控訴人有限会社へ、それぞれ移転登録が経由されていること、本件(D)各商標権については、控訴人株式会社において商標権設定登録を受けた後、控訴人株式会社から控訴人有限会社へ移転登録が経由されていることは当事者間に争いがない。
右のように各移転登録が経由されていること及び弁論の全趣旨によれば、本件(A)各商標権、本件(B)各商標権、本件(D)各商標権について、控訴人有限会社が商標権者であることを推認することができる。
もつとも、本件(A)各商標権及び本件(B)各商標権については、被控訴人は、訴外人から控訴人株式会社への移転登録は、控訴人有限会社において、訴外人の印鑑等を盗用のうえ無断で行つたものであつて、右移転登録に見合う権利の移転は存在しないと主張するが、原審証人【B】の証言により真正な成立の認められる乙第一四号証中に右商標権の移転について後記【B】が疑問を抱いている旨の記載が見られるものの、印鑑盗用までの事実を認めしめるものではなく、他に右移転登録手続に関して訴外人の印鑑が盗用されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
被控訴人の自白の撤回の主張は採用することができない。
また、本件(C)商標権及び本件(E)商標権については、控訴人有限会社において商標権設定登録を受けたことは当事者間に争いがない。
しかして、成立に争いのない甲第一号証の一ないし八の各1、2、第二号証の一、三、四の各1、2、第三号証の一、二、第四号証の一、二の各1、2、第三九号証の一、二、第五〇号証、第五一号証、第五二号証、第七三号証ないし第七八号証によれば、本件各商標権について、原判決添付商標権目録記載のとおり、それぞれ設定の登録がされたうえ、その都度、存続期間更新の登録ないし登録手続がされている(但し、本件(D)(1)商標権、本件(E)商標権は存続期間内のため、
更新登録はない。)ことが認められる。
右のとおりである以上、本件各商標権について控訴人有限会社が商標権者であるというべきである。
二 成立に争いのない甲第九号証、第一〇号証ないし第一二号証の各一によれば、
本件(一)パンフレツトは、横長長方形のパンフレツトであつて、裏には営業品目として帯、ネクタイ、襖張用裂地等、ふくさ、手提袋等、カーテン等、衣裳盆等が掲記されたうえ、それらの写真も印刷され、表には右掲記の商品の素材としての裂地が、正倉院宝物中の正倉院裂の魅力にひかれた訴外人の懸命の努力により、これに倣つて完成されたものであるとともに、さらに、これに創意工夫を加えたものである旨の横書説明文及びこのような裂地の文様写真が印刷されているほか、被控訴人の商号、住所、その所在地を示す地図並びに「たつむら」の記載が横書に印刷されているものであること、本件(二)商品説明書は、「龍村裂「金剛間道」」と題し、標題の裂地が能衣裳金襴の縞柄の面白さに想を得て織出されたものである旨の説明文が縦書に印刷されているものであること、本件(三)商品説明書は、「紅牙瑞錦(龍村製)」と題し、標題の織物が正倉院宝物中の紅牙撥鏤尺という美しい象牙の物指にある彫刻を模して織出されたものである旨の説明文及びその末尾に被控訴人の商号、住所等が縦書に印刷されているものであること、本件(四)商品説明書は、「天平繍華文錦」と題し、標題の織物が正倉院宝物中の裂地に刺繍されている「緋地羅唐草文刺繍」、「深縹地羅唐草文刺繍」と呼ばれている刺繍文に想を得て、縦糸の錦の織物として織出されたものである旨の説明文及びその末尾に被控訴人の商号、住所等が縦書に印刷されているものであることが認められる(原判決添付物件目録(一)ないし(四)参照)。そして、本件(一)パンフレツト、本件(二)、(三)、(四)商品説明書中に控訴人ら主張の「【A】」「龍村製」等の各記載文字があることについては、当事者間に争いがない。
しかして、撮影者、撮影年月日の点を除いて成立に争いのない甲第一〇号証ないし第一二号証の各二、原審における証人【B】の証言及び被控訴人代表者【D】尋問の結果によれば、本件(一)パンフレツトは、被控訴人肩書の営業所店頭に備えつけられ、顧客をして自由に閲覧させ、あるいは持ち去るにまかせているもの、本件(二)商品説明書は、被控訴人が右営業所において販売している商品札入に添えられているもの、本件(三)商品説明書は、被控訴人が前同様に販売している商品銭入に添えられているもの、本件(四)商品説明書は、被控訴人が前同様に販売している商品ふくさに添えられているものであることが認められる。
右によれば、本件(一)パンフレツトは、被控訴人の販売している商品帯、ネクタイ、襖張用裂地等、ふくさ、手提袋等、カーテン等、衣裳盆等を、これらの素材である裂地につき説明することにより、広告するものとして、顧客に展示頒布され、本件(二)商品説明書は、被控訴人の販売している商品札入を、その素材である裂地につき説明することにより、広告するものとして、顧客に展示頒布され、本件(三)商品説明書は、被控訴人の販売している商品銭入を、その素材である裂地につき説明することにより、広告するものとして、顧客に展示頒布され、本件(四)商品説明書は、被控訴人の販売している商品ふくさを、その素材である裂地につき説明することにより、広告するものとして、顧客に展示頒布されていたものということができる。
なお、本件(一)パンフレツト、本件(三)、(四)商品説明書については、債権者控訴人有限会社、債務者被控訴人間の東京地方裁判所昭和四六年(ヨ)第二五二三号商標権侵害仮処分申請事件について同裁判所が発布した商標権使用差止等の仮処分決定の執行として、昭和四六年九月一四日、被控訴人の占有が解かれて同裁判所執行官の保管に移されるに至つたことは、当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第一三号証によれば、本件(二)商品説明書についても、前記仮処分決定により被控訴人の占有が解かれ執行官の保管に移されるべきものであることが認められる。
そして、本件(一)パンフレツト、本件(三)、(四)商品説明書が被控訴人により作成されたものであることは、当事者間に争いがなく、前記【D】尋問の結果によれば、本件(二)商品説明書は後記龍村商工株式会社により作成されたものであることが認められる。
三 前記甲第九号証及び弁論の全趣旨によれば、本件(一)パンフレツト中の「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の各記載は、右パンフレツトをその通常の用法に従い六つ折にした場合、内側に隠れる一面に横書に印刷されている説明文の中に記述的用語として使われているものであつて、使用活字も説明文中の他の用語の活字と同大、同種類のもの(後記の「たつむら」の文字に比べてはるかに小さい。)であり、他の用語の記載部分と密接に結合し、一体として一つの説明文を形づくつていることが認められる。右によれば、右説明文全体が被控訴人の販売する商品を広告宣伝する役割を果しているものと読みとることができるとしても、「【A】」の記載自体は、正倉院裂の魅力にひかれてこれを模写複製した訴外人を指すにすぎず、「龍村製」の記載自体は、その訴外人と訴外人が模写複製した正倉院裂との関連を記述するにすぎず、「龍村」の記載自体は、被控訴人会社を指すものと解する余地がある程度のことであり、「龍村特製」の記載自体も、せいぜい被控訴人の商品の素材として用いられている裂地を示唆するにすぎないものであつて、いずれも、本件(一)パンフツトが広告する被控訴人の商品そのものを指すものと読みとることはできない。そうであれば、本件(一)パンフレツト中の「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載は、いずれもそれ自体で被控訴人の商品そのものを表彰し、これを他人の商品と区別するものとはいい難いから、商標権侵害を構成するものではない。
これに対して、前記甲第九号証によれば、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載は、六つ折にした場合、外部に出るやや縦長長方形の面の中央に大きな文字で、それだけが横書に印刷されているものであることが認められるところ、本件(一)パンフレツトは、被控訴人の販売する各種商品を広告宣伝するためのパンフレツトであるから、右「たつむら」の記載は、前記のようなその使用位置、態様等に照らし、標章であつて、被控訴人の販売する各種商品を表彰するとともに、これにより他人の商品と区別する作用をも果しているということができる。そうであれば、被控訴人は、右「たつむら」の記載を商標としてその販売する帯ないし衣裳盆等の商品に関する広告に附して展示頒布しているものということができる。しかして、右「たつむら」の記載は、本件(C)商標権の「たつむら」、本件(E)商標権の「たつむら」と同一であり、また、本件(一)パンフレツトが広告する帯は本件(C)商標の指定商品である第一七類帯と同一であり、衣裳盆等は本件(E)商標の指定商品である第二〇類商品のうちの屋内装置品又は家具に含まれ又は類似することは明らかであるから、被控訴人が本件(一)パンフレツト中に右「たつむら」の記載をしてこれを展示頒布していることは、少なくとも本件(C)商標権、
本件(E)商標権の侵害に該当するというべきである。
前記甲第一〇号証の一によれば、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載は、同商品説明書の冒頭に標題として、「金剛間道」の記載のすぐ上に、これとほぼ同じ活字(説明文の活字より大きい。)で印刷されているものであることが認められるところ、右「龍村裂(ぎれ)」の記載は、説明文の記載とは明らかに区別でき、「金剛間道」の記載とも、必ずしも密接不可分のものということはできないから、それ自体で独立した意味をもつものとの評価が可能である。しかして、
本件(二)商品説明書が被控訴人の商品札入に添えて展示頒布されている以上、右「龍村裂(ぎれ)」の記載は、独立の標章として、被控訴人の商品札入れそのものを表彰するとともに、これにより他人の商品と区別する作用を果しているものと認めるのが相当である。しかして、右「龍村裂(ぎれ)」の記載は、本件(D)(1)商標の「龍村裂」とは、一部に振仮名がある点で相違するだけで、他は同一であるから、類似であり、また、本件(二)商品説明書が広告する商品札入が本件(D)(1)商標の指定商品である旧第四九類商品のうちの袋物に含まれることは明らかである。被控訴人が本件商品説明書中に右のとおり「龍村裂(ぎれ)」と記載してこれを展示頒布していることは少なくとも本件(D)(1)商標権の侵害に該当する。このことは、本件(二)商品説明書が龍村商工株式会社により作成されたことによつて左右されるものではない。
前記甲第一一号証の一によれば、本件(三)商品説明書中の「龍村」の記載は、
説明文中に記述的用語として使われているものであつて、使用活字も説明文中の他の用語の活字と同大、同種類の小さなものであり、他の用語の記載部分と密接に結合し、一体として一つの説明文を形づくつていることが認められる。右によれば、
右説明文全体が被控訴人の販売する商品を広告宣伝する役割を果しているものと読みとることができるとしても、右「龍村」の記載自体は、その前後の文言が「織出したのは龍村の創製であり」とあること及び末尾に被控訴人の商号、住所等が併記されていることから、せいぜい「紅牙瑞錦」と題する模様の裂地を織出したという被控訴人を指すにすぎず、本件(三)商品説明書が広告する被控訴人の商品そのものを指すものと読みとることはできない。そうであれば、右「龍村」の記載は、それ自体で被控訴人の商品そのものを表彰し、これを他人の商品と区別するものとはいいえないから、商標権侵害を構成するものではない。
これに対して、前記甲第一一号証の一によれば、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の記載は、同商品説明書の冒頭にある「紅牙瑞錦」の標題のすぐ下に、これより小さい活字ではあるが独立して縦書に印刷されているものであることが認められるところ、右「(龍村製)」の記載は、説明文の記載とは明らかに区別できるうえ、右「紅牙瑞錦」の記載とも密接不可分のものということはできないから、それ自体で独立した意味をもつものとの評価が可能である。しかして、本件(三)商品説明書が被控訴人の商品銭入に添えて展示頒布されている以上、右「(龍村製)」の記載は、独立の標章であつて、被控訴人の商品銭入を表彰するとともに、これにより他人の商品と区別する作用をも果しているということができる。この「(龍村製)」の記載は、本件(B)(4)商標の「龍村製」とは、括弧がある点で相違するだけで、他は同一であるから類似であり、また、本件(三)商品説明書が広告する銭入が本件(B)(4)商標の指定商品である旧第四九類商品のうちの袋物に含まれることは明らかであるから、被控訴人が本件(三)商品説明書中に「(龍村製)」と記載してこれを展示頒布していることは、少なくとも本件(B)(4)商標権の侵害に該当する。
前記甲第一二号証の一によれば、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(きれ)」の記載は、説明文中に記述的用語として使われているものであつて、使用活字も説明文中の他の用語の活字と同大、同種類の小さなものであり、説明文の他の用語と密接に結合し、一体として一つの説明文を形づくつていることが認められる。右によれば、右説明文全体が被控訴人の販売する商品を広告宣伝する役割を果しているものと読みとることができるとしても、右「龍村裂(きれ)」の記載自体は、せいぜい被控訴人の商品の素材として用いられている裂地を示唆説明するにすぎず、本件(四)商品説明書が広告する被控訴人の商品そのものを指すものと読みとることはできない。そうであれば、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(きれ)」の記載は、それ自体で被控訴人の商品そのものを表彰し、これを他人の商品と区別するものとはいいえないから、商標権侵害を構成するものではない。
四 成立に争いのない甲第五号証、第六号証、第一五号証、第一七号証、第一九号証、第二八号証の一ないし七、第二九号証ないし第三一号証、第三三号証、第三六号証、第三八号証、第四五号証、第四六号証、乙第一二号証の一、二、第一三号証、第二四号証、原審証人【E】の証言により真正に成立したものと認める甲第一四号証、原審証人【B】の証言及び弁論の全趣旨により各真正に成立したものと認める乙第一四号証(一部)、第二〇号証、第二三号証(【C】署名部分の成立は争いがない。)、原審証人【E】、同【B】(一部)、当審証人【A】(旧名○)(一部)の各証言、原審及び当審における控訴人ら代表者【C】各尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
訴外【A】(明治九年一一月一四日生)は、明治二七年ころ、京都において、織物販売業を始め、織元から自己の気に入つた織物を仕入れて販売していたが、そのうち、販売だけではあき足りなくなり、同市内の西陣に工場を構え、種々研究のうえ創作した九重糯子、纐纈織、高浪織などの織物製品を自ら製作して販売するようにもなつたところ、これらが世間に高く評価され、明治末期にはすでに有力な織物業者に数えられるに至つた。そして、訴外人は、その後も古今東西の著名な織物に興味を示してこれを研究複製するとともに、その成果を応用した帯等を製作することに努力し、大正八年には東京と大阪において第一回【A】織物美術展会を開催し、自己の苦心の作品である織物十数点を展示して世に問うたところ、それが織物をもつて立体的凹凸や螺鈿等の趣致をあらわし、あるいは、古代の様式に則つた図案を考案して模様を織出していたところから、美術織物として好評を博し、新聞にも取りあげられて全国に紹介されるに至り、大正一〇年ころには、東京美術学校長など美術会の著名人の発起になる織宝会から古代裂、名物裂の再現複製の依頼を受け、訴外人の復元になる優れた作品が同会により世間に頒布され、その名声がいよいよ確固たるものとなり、大正一二年ころからは、当時としては破格の名誉に属する宮内省からの製品注文もたびたび受けるようになり、特に昭和四年ころには、
【F】の御成婚に際し皇室から同宮に贈られる壁掛の製作依頼をも受けて納め、その名は日本全国に著名となつていたが、その間、自己の作品には、製作者を明らかにする趣旨で「龍村平蔵製」、「龍村平蔵模」、「龍村製」の文字を織り込んでいたので、右表示も、訴外人の手になる高級織物製品を指すものとして日本全国に著名になつていた。
ところで、訴外人の二男【G】は、昭和四年東京帝国大学文学部美学美術史科を卒業して直ちに美術研究のため欧州各国を旅行し、翌昭和五年九月帰国したが、訴外人は【F】家に贈られる壁掛の製作に着手して以来、織物美術に関する研究については熱意を示していたものの、織物製品の製造販売業についてはとかく興味を失うに至つたため、【G】は、家業を継ぐ形で以来訴外人に代わり織物製品の製造販売業に従事し、昭和九年には龍村織物美術研究所(以下「研究所」という。)を設け、訴外人とともに織物の研究に従事するとともに、営業面においても自ら中心となつて織物製品の製造販売を行つてきた。ところが、戦時統制経済の時代にはいり、従来研究所において製作してきたような織物製品は、奢侈品として製造販売ができないことになつたが、幸い研究所において保持している高度な伝統技術が評価され、京都府知事などの努力により、【G】名義で技術保存に必要な限度で製造が許可され、研究所において原料絹の割当配給を受けながら細々と製作を続けて第二次大戦の終戦を迎えた。ところで、研究所は、戦後繊維製品に対する統制が行われている経済下にもかかわらず、政府から進駐軍向け製品の大量注文を受けてその製作に追われ、営業とみに好況を呈し、これに伴い、復興金融公庫から融資を受けて京都市内にある工場等の生産設備を拡張するとともに、従業員もふやして生産を拡大して行き、かなりの利益をあげるに至つた。一方、研究所は、前記のように融資を受けるに際し、従来の個人営業を法人組織に改組することを要求されていたので、昭和二三年研究所の支配下にあつた工場、その敷地、その他の生産設備等の資産のうち織物研究のために利用しているものを除く一切を【G】において現物出資することにして龍村織物株式会社(以下「龍村織物」という。)が設立され、以来龍村織物において研究所の営業を承継し、訴外人及び研究所の時代を通じ一貫して使用されてきた本件(A)各商標である「龍村平蔵製」、本件(B)各商標である「龍村製」(これらの商標は、はじめ未登録であつた。)を引続き使用して織物諸製品の製造販売をすることになつた。
ところで、訴外人の三男【B】は、昭和八年東京大学経済学部を卒業し、紡績会社に勤務していたが、【G】が兵役に就かなければならなくなつたのを契機に、昭和一五年末に右会社を辞めて、家業の研究所の仕事に就くようになり、特に昭和一六年以降終戦のときまでの間は応召不在となつた【G】に代つて研究所の生産活動に従事し、また、四男【C】(控訴人ら代表者)は、早稲田大学理工学部機械科を卒業し、会社勤めをしていてそのうち兵役に就いたが、昭和一八年一時除隊したときに研究所の仕事に従事したことから、戦後復員すると家業に戻り、五男【H】は、昭和二三年に京都大学文学部を卒業したものであるが、終戦後間もなく家業を手伝うようになり、こうして戦後は、【G】を中心にして【B】、【C】、【H】らの兄弟が相寄り研究所の事業を続けていたところ、龍村織物の発足に伴い、
【G】において発行株式四〇〇、〇〇〇株のうち三六八、四〇〇株を引受けて代表取締役に就任し、【B】において一、〇〇〇株を引受けて取締役に就任し、【C】も取締役に就任し、龍村織物は順調な営業を続けていた。しかし、間もなく戦後の異常なインフレーシヨン鎮圧のためとられることになつた財政緊縮政策(いわゆるドツジライン)の影響を受け、政府からの受注が一時に杜絶するとともに、そのころ繊維製品に対する統制が一挙に撤廃されるに至つて、営業活動がたちまち沈滞に向い、早くも昭和二四年ころには三億円を超す負債を抱えて経営が行き詰り、金融機関からは、人員整理による営業規模の縮小を迫られるに至つた。こうした事態に直面し、【B】は、金融機関からの指示もあつて、【G】が中心になり研究所において行なつている美術面に関する研究活動は、直接生産に結びついていないとして、経営建直しのためには、まず研究所の人員を大巾に削減し、今後は少人数で技術の保存、研究を行なうことにしなければならない旨主張するとともに、【C】も非生産的な立場にある人物として会社から排除すべきことを主張し、龍村織物の経営建直しの方法をめぐつて、【G】及び【C】らと激しく衝突し、同人らの離反に会うに至つた。そこで、【B】は、独り残つて龍村織物の経営建直しをはかつたが、成功せず、間もなくこれを見捨て、昭和二五年一二月二九日東京に織物製品の製造販売を目的とする龍村商工株式会社を設立した。昭和二六年四月一日ころ、
【I】(【A】の妻の弟)の仲介により、【B】と【G】との間に、手織により製作する高級な帯を中心とする美術織物の製造販売を【G】において行ない、機械により製作する主として広幅の織物の製造販売を【B】において行なう旨の諒解が成立したが、全面的な和解には至らなかつた。【B】は、龍村商工株式会社により製品の製造販売を続け、その後昭和四五年四月二〇日、龍村商工株式会社の販売部門を担当するものとして被控訴人会社を設立したうえ、これに製品を供給し、昭和四六年龍村商工株式会社が事実上倒産すると、【B】個人で製品の製作に当つたうえ、これを被控訴人に供給して今日に至つている。
他方、【G】、【C】及びこれに同調した【H】らは、【B】と衝突して以来、
訴外人を擁し、研究所によつて営業を続けていたが、龍村織物を事実上承継する形で、昭和二九年三月五日控訴人有限会社を設立し、【C】がその代表取締役に就任して織物諸製品の製造販売を始め、その利益をもつて龍村織物の負債の返済にかかつたが、【C】は、会社の資産と営業活動の分離を目指して、昭和三〇年一二月三日京都に本店を置く控訴人株式会社を設立し、控訴人有限会社の営業部門を承継するとともに、訴外人及び【G】を技術顧問として迎え、研究及び技術者の養成に当らせ、自らは代表取締役に就任したうえ、控訴人有限会社が京都市内に保有する生産設備をそのまま使用して製品の製造に当るとともに、販売する製品には引続き訴外人から通常使用権の許諾を受けた本件(A)各商標、本件(B)各商標を附し、
これらの営業活動によりあがる利益のうちから龍村織物の負債を返済して行つたところ、その後、営業は順調に発展し、各種織物の製造販売へと取扱商品も増大し、
東京にも支店を設けるようになり、製品の優秀さから京都の龍村として各種の書籍にも紹介されるまでに有名になつたが、その間前記のとおり昭和三二年四月一八日には一旦訴外人から本件(A)各商標権、本件(B)各商標権を譲り受け使用していたが、昭和四一年八月三日、これを、その間自ら取得した本件(D)各商標権とともに控訴人有限会社に譲渡したうえ、通常使用権の許諾を受け、あるいは、その後控訴人有限会社において取得した本件(C)商標権、本件(E)商標権についても通常使用権の許諾を受けた。なお、訴外人は、昭和三七年四月一一日死亡した。
以上の事実が認められるのであつて、右事実によれば、本件(A)各商標である「龍村平蔵製」及び本件(B)各商標である「龍村製」は、西陣織の産地としても著名な京都にあつて、織物美術家として夙に令名をはせていた訴外人がその製作販売する帯、壁掛をはじめとする高級な美術織物に附していたため、かねて訴外人の商品たることを示す商標として日本全国に著名であつたところ、訴外人経営の事業がその後内部的に漸次研究所に承継されて行くに従い、訴外人の商品であることを示す商標から研究所の商品であることを示す著名商標へと転化して行つたが、親族相寄り京都を本拠として運営される研究所の営業活動が歴史を重ね、その間製品の優秀さに支えられて、隆昌に向うに従い、研究所の商品であることを示す商標から、訴外人の一族が京都を本拠として製造販売している織物商品であることを示す商標に変質するに至つたので、右「龍村平蔵製」の商標及び「龍村製」の商標は、
研究所の事業がその実体には変更がないまま龍村織物に改組されると、龍村織物の商品たることを示す商標として著名となり、龍村織物が事実上倒産し、【C】、訴外人らにおいてこれを事実上承継する形で京都を本拠として運営される控訴人有限会社を設立して織物製品の販売を始めると、控訴人有限会社の商品たることを示す商標として著名となり、さらに、控訴人有限会社の営業活動を承継する控訴人株式会社が設立されてその営業が開始されると、ほどなく控訴人株式会社の商品たることを示す商標として全国に著名になつたものと認めることができる。乙第一四号証、原審証人【B】、当審証人【A】(旧名○)の各証言、原審及び当審における控訴人ら代表者【C】各尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できない。
本件(D)各商標である「龍村裂」及び本件(C)商標、本件(E)商標である「たつむら」が控訴人株式会社の商品たることを示す商標として著名かどうかについて検討するに、成立に争いのない甲第五五号証、第六二号証、第六六号証、第六七号証、当審における控訴人ら代表者【C】尋問の結果によれば、商標「龍村裂」が控訴人株式会社の製造販売する裂地、それを素材とするネクタイ、テーブルセンター、ハンドバツク等の商標として、パンフレツト、カタログ類に使用されてきたこと、商標「たつむら」が控訴人株式会社の製造販売する帯の商標として、帯地の下端部分に「たつむら」と織込んで使用されてきたことが認められるが、上来認定の訴外人、控訴人両会社、その他の長期にわたる営業諸活動等の変遷の経過のほか、商標権設定登録の日は、本件(C)商標が昭和四二年三月二九日、本件(D)(1)商標が昭和三五年九月一六日、本件(D)(2)商標が昭和三四年一月三一日、本件(E)商標が昭和四六年一一月一三日であつて、右の全経過からすれば比較的最近のことであること、その使用される商品の範囲も概して限られたものであると認めうるにとどまることに徴すれば、たとえ、本件(D)各商標「龍村裂」の「龍村」部分及び本件(C)商標、本件(E)商標の「たつむら」が前認定の著名商標「龍村平蔵製」、「龍村製」の「龍村」部分と同一もしくは類似であるとしても、未だ本件(D)各商標「龍村裂」及び本件(C)商標、本件(E)商標の「たつむら」がひとり控訴人株式会社の商品たることを示す商標として著名になつているとは認めえない。原審証人【J】の証言中、右認定に反する部分は措信し難く、
弁論の全趣旨により真正な成立を認めうる甲第四四号証(西陣織工業組合理事長【K】作成の証明書)によつても、右各商標が控訴人株式会社のみの著名商標であるとは、にわかに断定できず、他にこれを認めるに足りる資料はない。
次に「龍村」が控訴人株式会社の商品たることを示す著名な表示といえるかどうかを検討する。控訴人株式会社が京都の龍村として著名であるとしても、さりとて「龍村」といえば、これがひとり控訴人株式会社の商品たることを表示し、しかも、それが著名であると認めるに足りる証拠はない。かえつて、前記甲第五号証、
乙第一二号証の一、第一三号証、成立に争いのない甲第三七号証、原審証人【B】の証言によれば、「龍村」の文字を含む商号の織物商品を扱う会社は、控訴人有限会社龍村織寶本社及び被控訴人株式会社龍村織寶をはじめ、龍村商工株式会社(主宰者は【B】)、龍村装飾株式会社(主宰者は【L】)、株式会社龍村商店(主宰者は【I】)など多数存在したことが認められるのであつて、さきに認定した「龍村平蔵製」及び「龍村製」の商標が著名になつた歴史的な経緯を併せ考えると、京都の龍村として著名ということは、京都を本拠とする初代【A】並びに同人を頂点とする織物商品を扱う一族ないし関連のものが京都の龍村として著名という意味合いが含まれており、単に「龍村」というだけでは、必ずしも控訴人株式会社を指すとは限らないことが窺われる。そうであれば、「龍村」をもつて控訴人株式会社の著名な商品表示と認めることはできない。成立に争いのない甲第一五号証、五三号証、六二号証には、「龍村」といえば、控訴人株式会社の帯等を示すかのごとき記載があるが、にわかに採用できないし、他に以上の認定を左右するに足りる資料はない。
五 本件(一)パンフレツト中の「【A】」、「龍村製」、「龍村」、「龍村特製」の記載文字、本件(三)商品説明書中の「龍村」の記載文字、本件(四)商品説明書中の「龍村裂(きれ)」の記載文字が、商標に該当しないことについては、
さきに認定したとおりであるところ、これらの各記載文字が商標に該当しない以上、被控訴人の商品たることを示す表示にも該当しないといえるから、これらの記載文字をとらえて不正競争防止法第1条第1項第1号の規定の適用を論ずる余地はない。
そこで、被控訴人において、その販売する帯をはじめとする各種織物製品を広告宣伝するため、本件(一)パンフレツト中における「たつむら」を使用し、その販売する札入を広告説明するため、本件(二)商品説明書中における「龍村裂(ぎれ)」を使用し、その販売する銭入を広告説明するため、本件(三)商品説明書中における「(龍村製)」を使用していることが、控訴人株式会社の織物製品を示す著名商標である「龍村平蔵製」、「龍村製」と同一又は類似のものを使用し、彼我商品の混同を生じさせる行為に該当するか否かについて検討する。
まず、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の記載文字は、控訴人株式会社の前認定の著名商標「龍村製」と類似であることは明らかであるから、被控訴人においてこのような記載のある本件(三)商品説明書をその販売する銭入に添えて展示頒布している以上、被控訴人の商品銭入が控訴人株式会社の商品であるかのごとく誤認混同されるおそれのあることはいうまでもないことであるし、これにより控訴人株式会社が営業上の不利益を被るおそれのあることも明らかである。本件(三)商品説明書の末尾に被控訴人の商号、住所等が明記されてはいるが、被控訴人の商号は控訴人株式会社の商号と同様「龍村」の文字を含むものであるから、このような被控訴人の商号、住所等の記載があるからといつて、それが被控訴人の商品と控訴人株式会社の商品との誤認混同を防ぎうるものということはできない。
次に、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載は、控訴人株式会社の著名商標「龍村平蔵製」、「龍村製」のうちの「龍村」部分のみをとれば、相互に類似であるということができるとしても、控訴人株式会社の右著名商標は、前記のとおり訴外人が自らの作品に署名を織込んだことに始まるものであり、これにこれらが使用され確立されて来た前認定の全経過を併せ考えると、省略のない全体で表現している構成、内容をもつた商標としてのみ意義があると認めるのが相当である。
したがつて右著名商標と「たつむら」なる商標は、本件においては全体としては互いに区別が可能であり、ひいては、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載により、被控訴人の商品と控訴人株式会社の商品とが混同し、これにより控訴人株式会社において営業上の不利益を被るおそれがあるものとは考えられないし、他に右認定を左右するに足りる証拠もない。
なお、原判決がその理由中において、「もつとも、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の記載は、単に商品を表示するに止まらず、出所を表示する機能をも果しうると考えられるので、この点において被告が京都の「龍村」として著名な原告株式会社と誤認混同されるおそれがないとはいい難いが、これは、本訴において問題とされていないことに属する。」とした点について、控訴人らは判断遺脱であると論難するので、一言するに、控訴人株式会社の不正競争防止法に基づく本訴請求は、同法第1条第1項第1号に規定する広く認識せられたる他人の商品表示の使用により他人の商品と混同を生ぜしめる不正競争行為の差止請求であるところ、被控訴人と控訴人株式会社の営業表示にかかる誤認混同のおそれの有無は、そのこと自体が本訴請求において直接争点となるものではなく、別個の問題というべきものであるとの趣旨と解されるから、判断遺脱の違法というには当たらない。しかも、
「龍村」をもつて、ひとり控訴人株式会社の商号の略称ないし営業表示とにわかに断じえないことは、もしこれを肯定するとすれば、たとえば、控訴人有限会社の商号もまた「龍村」の文字を含むがゆえに、本件のような事情のもとにおいては、これから同じ略称等が生ずることを肯認せざるをえないことになり、「龍村」のみでは両者の区別表示としての機能を果しえないものとなることからも明らかである。
また、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の記載文字は、控訴人株式会社の前記著名商標と「龍村」部分において一致するが、右著名商標は前記のとおり、省略のない全体で表現している構成、内容をもつた商標としてのみ意義があるものであることにかんがみると、右著名商標と「龍村裂(ぎれ)」なる商標は、本件においては全体としては互に区別が可能であり、これにより彼我商品の誤認混同を生じ、控訴人株式会社において営業上の不利益を被るおそれがあるとはいえない。
六 被控訴人は、控訴人らの本訴請求は権利の濫用に該当し許されない旨主張するので、検討するに、さきに認定したところによれば、控訴人らの本訴請求が、昭和二四年当時巨額の負債を抱えて経営が行き詰つた龍村織物の建直しをめぐつて生じた【B】と【G】、【C】らの対立以来、長年にわたつて続いている兄弟間の疎隔に関係のあることが窺われるが、さりとて、このことから直ちに控訴人らの本訴請求をもつて権利の濫用に当たるということはできず、他に本訴請求が権利の濫用として許されないものであることを肯認するに足りる事情を見出すことはできない。
七 以上のとおりであるから、被控訴人が本件(一)パンフレツト中に「たつむら」と、本件(二)商品説明書中に「龍村裂(ぎれ)」と各記載してこれらを展示頒布していることは、控訴人有限会社の有する前記商標権の侵害に該当し、また被控訴人が本件(三)商品説明書中に「(龍村製)」と記載してこれを展示頒布していることは、控訴人有限会社の有する前記商標権の侵害に該当するとともに、控訴人株式会社に対する不正競争防止法第1条第1項第1号所定の不正競争行為にも該当するから、被控訴人の右各行為は許されず、さらに、本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の文字部分、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の文字部分は、右商標権侵害の関係において侵害行為を組成したものとして、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の文字部分は、右商標権侵害の関係において侵害行為を組成するとともに、右不正競争防止法違反の関係において侵害行為の停止を実効あらしめるために、いずれも廃棄されなければならない。
したがつて、商標権に基づく控訴人有限会社の請求は、本件(一)パンフレツトに「たつむら」の文字を、本件(二)商品説明書に「龍村裂(ぎれ)」の文字を、
本件(三)商品説明書に「(龍村製)」の文字を、それぞれ附して展示頒布する行為の差止を求める部分並びに本件(一)パンフレツト中の「たつむら」の文字部分、本件(二)商品説明書中の「龍村裂(ぎれ)」の文字部分、本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の文字部分の廃棄を求める部分は理由があるので認容すべく、その余の部分は理由がないので棄却すべきであり、不正競争防止法に基づく控訴人株式会社の請求は、本件(三)商品説明書に「(龍村製)」の文字を附して展示頒布する行為の差止を求める部分並びに本件(三)商品説明書中の「(龍村製)」の文字部分の廃棄を求める部分は理由があるので認容すべく、その余の部分は理由がないので棄却すべきであり、以上と同趣旨の原判決は相当であるので、本件控訴及び附帯控訴は、いずれもこれを棄却すべきものである。
よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第95条第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 杉山伸顕
裁判官 清野寛甫