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関連審決 審判1977-6647
関連ワード 指定商品 /  類似性(類否判断) /  不使用 /  除斥期間 /  称呼(称呼類似) /  出所の混同 /  類似範囲 /  混同防止 /  無効審判 /  更新登録 /  継続 /  非類似 /  商号 / 
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事件 昭和 54年 (行ケ) 31号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1979/08/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
この判決に対する上告期間につき、附加期間を九〇日とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
原告は、「特許庁が昭和五二年審判第六六四七号事件について昭和五三年一一月一日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。
当事者の主張
(原告) 請求原因 一 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙第一に記載のとおりの構成から成る登録第一二五四七四四号商標(昭和四九年四月三〇日登録出願、昭和五二年三月七日設定の登録、指定商品第二九類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、昭和五二年五月一九日、本件商標に対しその指定商品中「茶、コーヒー、ココア、コーヒーシロツプ」について登録を無効とする審判を請求し(昭和五二年審判第六六四七号事件)、昭和五三年一一月一日、本件商標の登録はその指定商品中「茶、コーヒー、ココア、コーヒーシロツプ」について無効とする旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は同月一三日に原告に送達された。なお、出訴期間につき附加期間を三か月と定められた。
二 本件審決の理由の要点 本件商標の構成、指定商品、出願及び登録の日は前記のとおりである。
他方、登録第九五五八七五号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙第二に記載のとおりの構成から成り、昭和四四年五月一〇日登録出願、昭和四七年三月二八日設定の登録を経由したもので、第二九類「茶、コーヒー、ココア」を指定商品としている。
ところで、本件商標からは「デアリイクイーン」の称呼を生じ、引用商標からは「デーリイクイーン」の称呼を生ずるところ、両称呼に存する「デア」の「ア」と「デ」の長音との差異は、称呼の全体に与える影響において微差に止まり、両者を一連に称呼するときは語調、語韻が近似して相紛らわしいのであるから、両商標は称呼上類似の商標というべきものである。
そして、本件商標の指定商品中「茶、コーヒー、ココア、コーヒーシロツプ」は引用商標の指定商品「茶、コーヒー、ココア」と同一または類似の商品である。
よつて、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号第46条第1項第1号の規定により、その指定商品中「茶、コーヒー、ココア、コーヒーシロツプ」について無効とすべきものである。
三 本件審決の取消事由 1 原告は、登録第五四七二九六号商標(以下「A商標」という。)の商標権者である。
A商標は、別紙第三に記載のとおり、「DAIRY QUEEN」の欧文字を横書きにして成り、昭和三四年一月一四日登録出願、昭和三五年一月三〇日に指定商品旧第四〇類「氷及び清涼飲料類」として設定の登録を経由したものであり、引用商標は、本件審決認定のとおりの構成、登録出願及び設定の登録の各日、指定商品のものである。
A商標と引用商標を対比すると、両者はその構成において「DAIRY QUEEN」の欧文字を共通にするから、明らかに類似の商標である。
そして、両商標の指定商品をみると、
(一)A商標の指定商品旧第四〇類の「清涼飲料類」には現行第二九類の「清涼飲料」中に含まれる「コーヒーシロツプ」が含まれているものと解せられるから、
引用商標の指定商品中の「コーヒー」はA商標の指定商品たる「清涼飲料類」に類似の商品である。
(二)なおまた、引用商標の指定商品「茶、コーヒー、ココア」は食料品店等でA商標の指定商品「氷及び清涼飲料類」と同時に販売されることが多く、殊に、引用商標の指定商品「コーヒー」に含まれる「壜入りあるいは缶入りコーヒー」「壜入りあるいは缶入りミルクコーヒー」は、A商標の指定商品に含まれる「壜入りあるいは缶入りサイダー」「壜入りあるいは缶入りジユース」「壜入りあるいは缶入りコーラ飲料」と共に、同一の自動販売機あるいは同一の店頭で頻繁に販売されるものであるから、引用商標の指定商品中の「コーヒー」はA商標の指定商品たる「清涼飲料類」に類似の商品である。
したがつて、引用商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に該当する商標として本来登録されるべきものではないのであるが、除斥期間の経過による法的安定の要請のために、無効審判の請求をすることができないに過ぎないものである。殊に、その指定商品中の「コーヒー」については、原告のA商標の存在下において無効となるべき蓋然性の高かつたものである。
2 ところで、商標法第4条第1項第11号の規定を適用するに当つては、当該商標と先出願に係る他人の登録商標の置かれた背景を顧みて、個々のケースに応じて具体的かつ弾力的に規定の解釈適用をすべきものである。
すなわち、先出願に係る他人の登録商標が周知著名な場合には、その登録商標の範囲を一般の場合よりも拡張して解釈するのが正当である。逆に、本件のごとく、
先出願に係る他人の登録商標が二重登録のごとき瑕疵を有する場合には、その登録商標の範囲を限定して解釈するのが正当である。
けだし、瑕疵ある登録であつても、当該瑕疵が二重登録のように私益的理由に係る場合は、無効審判請求についての除斥期間の経過後はその登録を無効にすることができないので、その瑕疵ある二重登録に係る商標より先願の商標権者が、自己の登録商標の発展としての商標につき登録出願をしても、瑕疵ある二重登録に係る後願の登録商標によつてその出願が拒絶されたり、登録後無効とされるならば、先願の登録商標の権利者の権益は不当に害されることになるからである。
したがつて、こうした場合、衡平の原則により、瑕疵ある二重登録に係る商標により商標登録を妨げられるこのような当事者に対する、商標法第4条第1項第11号の規定の適用は差控えるべきものであり、仮にこれを適用するにしても、その登録商標の範囲は最少限に限定されるべきものである。
このように解釈することは、商取引の実際にも即し正当である。何故なら、商取引の実際においては、時の経過に従い、取引者または需要者に対する商標の吸引力を維持するため登録商標を機宜改変して使用することが通例であるところ、商標法においては、第47条除斥期間の規定により二重登録の併存を認める一方、第25条で専有する商標を使用する権利の範囲を登録商標に限定し、第19条第2項第2号において更新登録の出願についての使用を登録商標に限定し、第50条において不使用による商標登録の取消の審判請求にあたつての使用を登録商標に限定しており、これに加え、同法第4条第1項第11号の適用において二重登録の後願の登録商標の範囲を通常の登録商標の範囲と同等に解釈するとすれば、先に述べた社会に対する商標の吸引力維持の要請に応じ改変して登録出願された商標については、
それが先願先登録の商標に明らかに由来しているにもかかわらず、瑕疵ある二重登録に係る後願商標により商標登録を妨げられることになり、かかる瑕疵ある二重登録が継続する限り、登録を受けることができず、不当であるからである。
3 したがつて、本件においては、少なくとも「コーヒー」についての引用商標を基礎とした本件商標に対する商標法第4条第1項第11号の規定の適用は不当であり、仮に適用されるにしても、少なくとも「コーヒー」に関する引用商標の類似範囲は最少限に限定し、引用商標は、本来欧文字横書きと片仮名文字横書きの二段の結合、すなわち登録商標の態様に限定するか、仮にそうでないとしても、文字通り片仮名文字「デーリィクイーン」の範囲内に限定して解釈されるべきものである。
なお、原告は昭和五三年七月一八日特許庁受付の書面をもつて、本件商標の指定商品中「茶、ココア」についての一部放棄による登録の抹消を申請し、同年一〇月二〇日この一部抹消登録を経由しているから、右のように解するとしても、被告に実質的な不利益をもたらすことはない。
したがつて、引用商標と本件商標とは非類似の商標とされるべきものであるにもかかわらず、本件審決はこれを類似の商標と判断して、本件商標の登録をその指定商品中「茶、コーヒー、ココア、コーヒーシロツプ」について無効としたのであるから違法である。
(被告) 請求原因の認否と主張 一 請求原因一、二の事実は認める。
二 請求原因三について その内、引用商標の構成、登録出願及び設定の登録の各日、指定商品が審決認定のとおりであること及び「コーヒーシロツプ」が「コーヒー」と類似の商品であることは認めるが、その余の主張は争う。
商標法第4条第1項第11号の規定は、商標の二重登録を防止するため、個々の商標について独自に適用されるべきものであるから、被告所有の引用商標が、登録無効審判請求の除斥期間が経過したものであつて、仮にA商標と類似関係にあるとしても、かかる事情は本件事案と全く関係のない事項である。
したがつて、本件商標と引用商標との類否判断に当り、右のような事情を考慮しなかつた本件審決の認定判断は正当であり、違法の点はない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実によれば、本件商標は、別紙第一のとおり「デアリイ クイーン」の片仮名文字を横書きした構成から成るものであるから「デアリイクイーン」の称呼を生ずるものである。そして、引用商標は、別紙第二のとおり「DAIRY QUEENデーリイクイーン」と横書きした欧文字と片仮名文字を二段にした構成から成るものであるから、少なくとも「デーリイクイーン」の称呼を生ずるものというべきである。
しかも、引用商標は、右のとおりの欧文字と片仮名文字とから成るところ、欧文字を用いることの普及しているわが国において、その指定商品の取引者、需要者の中には、その「DAIRY QUEEN」の文字に着目する者も必ずしも少なくないことは明らかである。一方、成立に争いのない甲第四号証の二及び本件訴状と同添付(追完)の訴訟代理委任状とによれば、「DAIRY QUEEN」の文字(原告会社の商号の一部)は、「デアリイクイーン」と表示ないし称呼されることが認められるから、引用商標からは、「デアリイクイーン」の称呼をも生ずることが明らかである。
そうすると、引用商標が「デアリイクイーン」と称呼されるときは、本件商標の称呼と同一となるし、さらに、引用商標が「デーリイクイーン」と称呼されるときも、本件商標から生ずる「デアリイクイーン」の称呼と引用商標から生ずる「デーリイクイーン」の称呼とは、「デア」と「デー」の箇所において「ア」と「デ」の長音に差異が存するものの、商標全体としては比較的長い右両者の称呼にあつては、これらの音は「デ」の音に吸収されて左程明確に聴取されないものであるから、右の差異が全体の称呼に与える影響は微差に過ぎず、両者は一連に称呼するとき、その称呼が極めて近似して相紛らわしいものというべきである。したがつて、
本件商標と引用商標とはその称呼において同一または類似する類似の商標というべきものである。
そして、前記争いのない事実によれば、本件商標の指定商品は第二九類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」であり、引用商標の指定商品は第二九類「茶、コーヒー、ココア」であるから、両者は「茶、コーヒー、ココア」において同一であり、「コーヒーシロツプ」(これが「清涼飲料」に属することは、商標法施行規則第3条の規定及びその別表により明らかである。)が「コーヒー」と類似の商品であることは当事者間に争いがない(なお、成立に争いのない甲第二号証の二によれば、原告は、本件商標について、その指定商品中「茶、ココア」について放棄し、本件審決がされる以前の日である昭和五三年一〇月二〇日その旨の登録を経由していることが認められるが、これが本件に影響を及ぼさないことについては、商標法第46条第2項の規定により明らかである。)。
そして、引用商標が、本件商標の登録出願の日(昭和四九年四月三〇日)前の商標登録出願に係る他人の登録商標であることは当事者間に争いのないところであるから、本件商標は、その指定商品中「茶、コーヒー、ココア、コーヒーシロツプ」については商標法第4条第1項第11号の規定に該当し、同法第46条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
原告は、商標法第4条第1項第11号の規定を適用するに当つては、当該商標と先出願に係る他人の登録商標の置かれた背景を顧みて、個々のケースに応じた具体的かつ弾力的な解釈適用がされるべきであるとし、究極において、本件商標と引用商標とは非類似の商標と判断されるべきであると主張するけれども、右第一一号の規定は、商品の出所の混同防止のためのものであるから、その類否の判断は当該出願に係る商標と特定の他人の登録商標との対比においてのみ決定されるべきものであり、たとえ、右他人の登録商標が、第三の登録商標との関係において登録を無効とされるべき瑕疵を有していたとしても、そのことによつて右類否の判断を異にするにいたるべきものではないから、原告の右主張は採用できない。なお、商標法第47条の規定は、一定の登録無効審判の請求につき除斥期間を定めたものであるが、これは、無効原因が公益上の理由に基づくものを除き、その余の所定の登録無効審判請求につき、瑕疵ある登録商標の権利行使によつて生ずる弊害とその登録を無効とすることによつてもたらされる弊害とを較量し、後者の弊害がより大であるとの政策的判断に立つて、既存の法律関係を尊重し、権利の安定を図ろうとしたものであり、除斥期間の経過後においては、右の法意にしたがい、当該瑕疵は治癒したものと解すべきであるから、その後において、なお右登録商標が瑕疵を有することを前提として、右第一一号の規定の適用を差控えるべきであるとか、類似の範囲を特別に限定すべきであるとするのは当らない。
三 以上の次第であるから、本件審決に原告主張のような違法はなく、これが取消を求める原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を、附加期間については同法第158条第2項の規定を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 清野寛甫