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関連審決 審判1969-3850
関連ワード 指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  類似商標 /  外国 /  非類似 / 
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事件 昭和 48年 (行ケ) 61号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1974/11/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四七年一二月二〇日同庁昭和四四年審判第三八五〇号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙第一目録記載の登録第六五〇二四八号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。被告は、別紙第二目録記載の登録第三七五二七九号商標(以下「引用商標」という。)を引用し、昭和四四年五月二六日、特許庁に対し本件商標につき登録無効の審判を請求し、同庁同年審判第三八五〇号事件として審理された。その結果、昭和四七年一二月二〇日、「登録第六五〇二四八号商標の登録は、その指定商品中、被服(溶接マスク、防毒マスク、防じんマスクを除く)、布製身回品については、これを無効とする」旨の審決があり、その謄本は、昭和四八年四月四日職権で三カ月の附加期間を附して原告に送達された。
二 審決理由の要点本件商標、引用商標の各構成、登録出願、登録年月日、指定商品等は、別紙第一、
第二目録記載のとおりである。
本件商標は、上記の構成どおり二本の樹枝を輪を描くようにして、先端を丸めて表現された抽象的な図形ではあるが、月桂樹といえば(1)2本の樹枝を輪にして冠状に描かれ、(2)また月桂樹の葉は長楕円形または皮針形でヘリはやや波形にうねつているのが特徴であり、本件商標の上記図形は、それらを生かして描かれておるものであるから、本件商標は月桂樹または月桂冠の称呼観念を生ずるものであるというのが取引の実際に照らして相当である。
これに対し、引用商標は月桂樹の意味を有する「Laurel」の欧文字として親しまれた文字からなるものであるから、「ローレル」の称呼および「月桂樹」の観念を生ずるものと認められる。
してみれば、両商標は、「月桂樹」の観念を共通にする類似の商標ということができる。しかも、
本件商標の指定商品中、被服(溶接マスク、防毒マスク、防じんマスクを除く)、
布製身回品と引用登録商標の指定商品とは互に牴触することが明らかである。
結局、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反してなされたものとして、同法第46条の規定によつてこれを無効とすべきものである。
三 審決を取消すべき事由 本件審決が本件商標と引用商標とを観念を共通にする類似の商標である旨認定したのは、両者の比較対照を誤つたものである。
(一) 本件商標と引用商標との観念について比較すると、本件商標からは月桂樹(狭義)の観念は生じないし、引用商標からも月桂樹(狭義)の観念は生じない。
月桂樹はバルカン半島南部、イタリヤ半島とコルシカ、サルジニア両島、南フランス、スペインに自生しているくすのき科の常緑樹である。したがつて、狭義の月桂樹はこの樹木自体を指すのである。しかし、月桂樹の枝は、勝利の象徴として古くから用いられ、多くのデザインにも取入れられ、現実には実在の月桂樹のほかに架空の植物または全く別個の植物までをも含めそれらの小枝図形が錯雑混合してそれらもまた月桂樹と観念されている。これを広義の月桂樹ということができる。本件商標を含めた抽象的小枝図形を月桂樹と観念する場合には、広義の月桂樹を意味することはあつても、実在の樹木である狭義の月桂樹を意味することはない。
引用商標はLaurelの文字から成るもので、英和辞典によると月桂樹を意味することが示されているが、その意味は日本人の誰もが知つているというものではない。むしろ、非常に多数の人がLaurelの語を知らず、また、ローレルの称呼を聞いた者でもそれが何を意味するか正確に知つている者は更に限られた範囲にすぎない。このように、外国語とそれに該当する日本語が辞書によれば同義語であつても、その外国語の意味を辞書によりはじめて知ることができる程度の周知度であれば、商標として観念の類似を問題にすること自体無意味であり、両者を同義語として観念を共通にする類似商標ということはできない。してみると、本件商標が月桂樹で引用商標も月桂樹の観念を有するから両商標は月桂樹の観念を共通にする類似商標であるとした審決の判断は、誤りである。
(二) かりに、前記主張が認められず、両商標から月桂樹の観念が生ずるとしても、本件商標からは広義の月桂樹の観念が生ずるにすぎない。
本件商標は月桂樹の小枝をベースにしてデザインし抽象化した冠図形であるから、狭義の月桂樹にあたるということはできず、しいて月桂樹と観念するとすれば、広義の月桂樹にあたるというべきである。これに対して、引用商標からは広狭二義の月桂樹の観念が生じる。そこで、両者を対比した場合、狭義の月桂樹を意味する引用商標と本件商標とが類似しないことは明らかである。また、引用商標が有する広義の月桂樹の観念と本件商標の有する広義の月桂樹の観念とを比較しても、
両商標は類似するとはいえない。なんとなれば、広義の月桂樹の観念は、適用範囲の広い観念であるから、この広義の観念を以つて観念を共通にする類似商標とするならば、商標の類似の範囲が極端に拡張されることになり、本来商品の出所の混同誤認を生じない非類似商標間にまでも観念が共通するの故をもつて類似商標とみる結果となり不当である。
してみると、本件の場合、その商標の広義の観念のみを類似判断の唯一の指標とすべきでなく、商標の表現態様、看者に与える印象等をも勘案して判断しなければならない。
また、見方を変えていえば、商標の類否は、通常は単に商標の外観観念称呼の各要素について比較して判断されるが、決定の基準は、あくまで商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かにある。そのためにはその商品に使用された商標が外観観念称呼によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、その商品の取引の実情を明らかにしうる限りその具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当で、外観観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同を生ずるおそれのあることを推測させる一応の基準にすぎず、この三点の中の一において類似しても、他の二点において相違しその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認められないものについては、非類似商標とみるべきである。このことは、小枝二本を左右対称に冠状を形成してなる広義の月桂樹図形が、被服その他第一七類所属商品について、商標として多数併存して採択されている事実に徴してみても明らかである。
そして、本件商標と引用商標とを比較してみると、両者は、図形商標と文字商標という構成上の著差があり、また、使用上本質的な機能の相違を有するものであるから、それぞれの商標の指定商品について出所の誤認混同を生ずるものではなく、
両者が広義の月桂樹の観念を有するの一事のために類似商標となるものでないことは明らかである。このことは、たとえばクローバーとその図形と四つ葉などのごとく観念を共通にする文字商標と図形商標が多数併存する事実に照らしてみても明らかである。
被告の答弁
一 原告主張の請求原因事実のうち、特許庁における手続の経緯、本件商標および引用商標の各構成、審決理由の要点が原告主張のとおりであることは認めるが、本件審決を違法とする事由は争う。
二(一) 原告は、本件商標は狭義の月桂樹の観念を生じない旨主張するが、本件商標が取引の実際において月桂樹の観念を有することは、原告自ら認めているところである。
そして、このことは、本件商標が抽象的な図形であつても具体的な月桂樹を表現しているものと解されるということであり、結局、狭義の月桂樹の観念を生ずるということにほかならない。原告は、引用商標について、ローレルの意味は日本人の誰もがその意味を知つているというものではないので、ローレルから月桂樹の観念は生じない旨主張する。しかし、義務教育が著しく普及し、教育程度が世界の先進諸国中でも上位にランクされ、英語教育も義務教育段階からなされる我国においては、Laurelはローレルと発音称呼されるものであり、ローレルは月桂樹の意味を有するものであることは広く知られており、原告の主張するごとく、狭い範囲の者しかその意味を知るにすぎないというものではない。すなわち、ローレルが月桂樹、月桂冠であると云うことは(1) ローレルマークが他の図形、文字と結合した形で広く商標として用いられていること、
(2) ローレルマークと他の図形又は文字との結合図形において「ローレル・・・」「月桂冠・・・」「月桂樹・・・」と称呼され観念される場合が多いこと、
(3) 鉄道友の会によりローレル賞の選定をうけた車輛がローレルマークにローレル賞の文字を付したマークをつけて運転されること、
(4) ローレルの葉自体が香辛料として広く用いられていること、
(5) 優勝カツプ、優勝盾、優勝旗等にローレルマークが広く用いられていること、
などの社会的事実より見ても、取引者はもとより一般人においても、ローレル、ローレルマークについての認識は広く行きわたつているものであつて、ローレルといえば一般に月桂樹、月桂冠の意味を理解するものである。
ローレルの意味は、標準的な国語辞典、たとえば、広辞苑第二版二三五七頁、広辞林第五版二〇八五頁においても知ることができるのであつて、この点からもローレルは日本語になつているものというべきものである。
(二) 原告は、月桂樹の観念について広義、狭義の観念があるとし、原告の本件商標からは広義の観念しか生ぜず、被告の引用商標からは広狭二つの観念が生じ、
このような場合は、類似と判断すべきではないと主張する。
しかし、本件商標のごとく抽象化された図形商標の場合には、世人はこれを見て直ちに一定の意義を理解するのであつて、その理解するところのものが、その抽象的図形の観念となる。
そして、本件商標を構成する二本の樹枝を輪を描くようにして先端を丸めて表現された抽象的図形は、社会通念上もまた取引の実情からも、ローレル、月桂樹、月桂冠の観念を生ずるものである。
原告は、小枝二本を左右対象に冠状に形成して成るローレルマーク(原告の所謂広義の月桂樹図形)と他の図形、文字との結合より成る商標が多数存在することをもつて、これらはすべて広義の月桂樹の観念を有するものであると解し、広義の月桂樹の観念を有しているにもかかわらず類似商標とされずに併存していると主張するが、
原告引用の商標が広義の月桂樹の観念を生ずるという原告の前提自体が誤まりである。また、原告は、広義の観念の共通があつても類似商標と扱われていない事例があると主張するが、原告の引用する事例は原告が恣意的に観念を共通にするものであるとして引用したものにすぎず、本件に適切ではない。
証拠(省略)
理 由一 原告主張の請求原因事実のうち、特許庁における手続の経緯、本件商標および引用商標の各構成、審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。そこで、原告の主張する本件審決を取消すべき事由の有無について検討する。
二 取消事由(一)について まず、本件商標からどのような観念が生ずるかについてみる。当事者間に争いない本件商標の構成によれば、本件商標は、長細い各八枚の葉のついた一対の樹枝を左右に交叉させ大きく輪を描くようにして先端を丸めて描いてなる図形である。ところで、月桂樹は、それが抽象的な図形として描かれた場合には、二本の樹枝を輪を描くようにして先端を丸めて表現されるものであることは、社会通念に照らして明らかである。そして、本件商標が月桂樹の小枝をベースにしてデザインし抽象化した図形であることは、原告の自認するところである。してみれば、本件商標を見るときは、具体的な月桂樹を想起するものというべきである。原告は、抽象化された図形は月桂樹自体の図形ではないから、本件商標より生ずる月桂樹の観念は広義の月桂樹の観念である旨主張する。しかし、抽象化された図形よりある実在の物の観念を生ずることがありえない筈はなく、本件商標より生ずる月桂樹の観念は、実在する月桂樹を意味するものといつて差支えない。
そこで、すすんで引用商標が月桂樹の観念を生じ、本件商標と類似するかどうかについて検討する。一般に、商標の類否を定める基準の一つとして当該商標の観念の同一性があげられるが、比較の対象となつた商標の観念が同一の場合に当該両商標が類似するとされる理由は、取引者、需要者がある商標を見または称呼することにより念頭に浮ぶその商標のもつ意味が、他の商標のもつ意味と同一であることによつて、ある商標から同じ意味をもつ他の商標を思い浮べ、そのため全商標の指定商品の出所を誤認混同するに至るからである。そうだとすれば、ここにいう商標の観念とは、商標自体が客観的に有する意味をいうのではなく、商標を見または称呼することによりその商標を付した商品の需要者または取引者が思い浮べるその商標の意味をいうものと解するのが相当である。引用商標が月桂樹を意味することは、
辞書を見れば明らかである。しかし、我国における英語普及の程度および月桂樹の日常生活における使用の程度に照らして考えれば、我国において普通の教育を受けた大多数の者がLaurelなる文字を見またはこれを称呼して、この語が月桂樹を意味するものと直ちに理解できるものとは考えられない。このことは、本件の指定商品の需要者または取引者についても同様であると認められる。なる程成立に争いのない乙第二号証の一から四まで、六および九によれば、Laurelなる文字が他の文字、図形と結合した形で商標として登録されている事実が認められる。しかし、これらの商標が需要者または取引者に周知な商標であるとまでは認めるに足りる証拠はないから、このような登録商標があるからといつて、これらの人々が引用商標が月桂樹を意味するものと直ちに理解できるとはいえない。また、優勝カツプ、優勝旗等、競技における勝利の栄冠を表示するものとして月桂樹のマークが広く用いられていることおよび月桂樹が香辛料として使用されていることは、われわれの日常生活において経験するところである。しかし、これらのマークが表示する月桂樹は、月桂樹または月桂冠と呼ばれるのが通常である。また、香辛料についてみても、それが通常ローレルと表示されあるいは呼ばれると認めるに足りる証拠はない。したがつて、月桂樹がこのように使用されているからといつて、必ずしも世人一般が月桂樹がローレルと呼ばれLaurelとその意味を同一にすると理解しているとはいえない。また、被告の主張するように鉄道友の会が選定した車輛にローレルマークがつけられたとしても、それは限られた分野における使用にすぎないから、この事実をもつてしても、取引者、需要者らにおいてLaurelなる文字を見または称呼することによつて、この語が月桂樹を意味するものと直ちに理解できるとは認められない。また、標準的な国語辞典に載つている外国語がすべて日本語化しているといえないことは勿論であるから、ローレルなる語が標準的な国語辞典に載つているからといつて、ただちにこの語が日本語となつているということもできない。
してみれば、引用商標からは月桂樹の観念を生じないので、本件商標と観念を共通にする類似の商標であるということはできない。
三 以上の次第であるから、これと異なる判断をした本件審決は違法であつて取消を免れない。よつて、原告主張のその余の点について判断するまでもなく、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は正当であるから認容し、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 古関敏正
裁判官 杉本良吉
裁判官 宇野栄一郎