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関連審決 審判1967-592
関連ワード 指定商品 /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  同一の商品 /  非類似 / 
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事件 昭和 47年 (行ケ) 4号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1972/09/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四六年一〇月二五日、同庁昭和四二年審判第五九二号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めた。
二 被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四〇年四月二日、別紙記載のとおり、子持円輪郭内に籠文字で「寿」の文字を輪郭内に副うように表わし、その右側に若干重画するように同大の子持円輪郭を表わし、その内部に嘴と頭部を左に向け両翼を内円に副つて丸く拡げた鶴を図案化してなる商標(以下「本願商標」という。)につき、商品の区分第一一類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料」(以下「電気機械器具等」という。)を指定商品として商標登録出願をしたところ、昭和四一年一二月八日拒絶査定があつたので、昭和四二年一月一七日これに対する審判を請求し、同年審判第五九二号事件として審理されたが、昭和四六年一〇月二五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年一二月二三日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点 本願商標の構成、指定商品および登録出願日は、前項記載のとおりであるが、登録第七〇四、一八二号の商標(以下「引用登録商標」という。)は、嘴と頭部を左に向け両翼を拡げ、全体を円輪状に表わした鶴を図案化してなり、本願商標の指定商品同一の商品指定商品として、昭和三九年四月九日登録出願、昭和四一年四月一四日登録されたものである。
本願商標と引用登録商標とを比較すると、本願商標の対称的に表示された左右の円輪中、一方は「寿」の文字を図案化したものであり、他方は鶴を図案化したもので、両者は認識の対象が、文字と図形との差異があるばかりでなく、「寿鶴」なる一般的な熟語もないから、両者のいずれからも、それぞれ独立して称呼観念を生じうべく、したがつて、右側の輪郭中に顕著に表示された鶴の図形より、「つる」(鶴)の称呼観念をも生ずるものであるというを、取引の経験則に照らし、相当とする。
他方、引用登録商標は、鶴の図形を顕著に表示してなるものであるから、これからは単に「つる」(鶴)の称呼観念を生ずるものと認められる。
してみれば、両商標は「つる」の称呼および「鶴」の観念を共通にする類似の商標と認められ、また、両商標は、指定商品についても相抵触することは明らかであるから、商標法第4条第1項第11号の規定により、本願商標の登録は拒絶すべきものである。
三 本件審決を取り消すべき事由 本願商標の構成、指定商品および出願年月日ならびに引用登録商標の構成、指定商品、出願および登録の年月日が、いずれも審決認定のとおりであることは認めるが、本件審決は、次のとおり、その判断を遺脱した違法があるとともに、本願商標および引用登録商標が称呼および観念において類似しないにかかわらず、両者は称呼観念上類似すると誤認し、ひいて誤つた結論を導いた違法があるから、取り消されるべきである。すなわち、
1 本件商標登録出願に対して、特許庁が昭和四一年一二月八日にした拒絶査定の理由は、「本願商標は、その構成上『ことぶき』の称呼観念をも生ずるとものと認められるから、引用商標の『KOTOBUKI』(登録第五四一、一五一号)とは類似のものと認める。」というのであつたので、原告は、これを不服として審判を請求したところ、昭和四五年九月一七日、「本願商標は、引用登録商標と類似であり、かつ、引用登録商標の指定商品と同一または類似の商品に使用するものである。」旨の拒絶理由の通知があつたので、原告は、本願商標は鶴寿(つることぶき)の称呼観念を有する旨の主張を含む意見書を提出した。このような場合には、審決において、商標法第56条第1項において準用する特許法第160条の規定に基づき、原査定を取り消すか、あるいは、査定の理由と審判において発見した異なる拒絶の理由とについて、審理のうえ、審決すべきであるにもかかわらず、本件審決においては、右のいずれの点についても判断がされていないのであるから、
本件審決は、この点において、判断の遺脱がある。
2 引用登録商標の図形は、鳥類の鶴の自然的表現にかかる図形ではなく、古来、
一般に、紋章として使用され、「つるのまる」(鶴の丸)と称呼され、特殊な観念を表現する図柄とされていることは、顕著な事実である。したがつて、世人は、引用登録商標を一目した場合、直ちに「鶴の丸」の紋章を想起し、これを「つるのまる」とのみ呼称するのであり、紋章的意味を離れて商品などに用いられるときは、
「つるまる」と呼称することも周知のところで、引用登録商標から「つる」の称呼および「鶴」の観念を生ずることはありえない。
他方、本願商標は、上記「鶴の丸」の紋章を右側に配し、その左側に籠文字で「寿」の文字を表わした同大の子持円輪郭(右側の円輪と重画する部分は欠ける。)を配してなる結合商標であり、古来、慶事に用いられる「鶴は千年、亀は万年」の意味の一つを表現する「鶴寿」の意味を文字と図形を結合して表示したものであり、商取引上「つることぶき」と呼称されていることは周知の事実であるから、本願商標から「つる」の称呼および「鶴」の観念を生ずることはありえない。
右のとおり「つるのまる」(鶴の丸)または「つるまる」(鶴丸)とのみ称呼あるいは観念される引用登録商標と、「つることぶき」の称呼と「鶴寿」の観念を有する本願商標とでは、その称呼および観念の点において互いに著しい差異を有し、
加えて、外観上も顕著な差があるのであるから、両者は、商取引上、出所につき混同を惹き起こすおそれの全くない、非類似の商標というべきものである。
なお、このことは、本願商標と同一の商標および引用登録商標と同一の商標が、
引用登録商標の指定商品指定商品を異にする、同一人の商標登録出願において、
ともに登録されていることに徴しても明らかであり、本件審決が、本願商標について、引用登録商標と類似するとの理由で、登録できないものとしたのは、従前の統一的行政解釈に反するものというべきである。
被告の答弁
被告指定代理人は、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
原告の主張事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決の理由の要点ならびに本願商標の構成および指定商品ならびに引用登録商標の構成、出願および登録の日、指定商品がいずれも原告主張のとおりであることは認めるが、
その余は争う。本件審決の判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。
本件審決は、商標法第56条第1項において準用する特許法第159条第2項の規定により、審判において発見した、査定の理由と異なる新たな拒絶の理由を開示し、これに対して原告から提出された意見書を勘案したうえ、判断を下したものであり、判断遺脱の違法はない。
引用登録商標から「つるのまる」(鶴の丸)または「つるまる」(鶴丸)の称呼観念を生ずることは、必ずしも否定しないが、鶴の両翼を丸く上に拡げて図案化された図形からは、その図形が鶴であること自体に、まず、一般人の注意を強く惹くものというべきであり、引用登録商標から、単に「つる」(鶴)の称呼観念をも生ずるとみるのが、取引の実情に副うものである。
他方、本願商標は、図形と文字という異なつた表現態様から構成されているところ、簡易迅速を旨とする取引場裡にあつては、商標全体の構成上、商品の出所を識別するに最も特徴を有する部分から自然に生ずる称呼および観念をもつて、商品の出所を識別し、取引するものであることは、取引の慣例であるから、本願商標からは、単に「つる」(鶴)の称呼観念を生ずるとするのが自然である。原告の主張する「鶴寿」なる語は、長命やめでたいことを同様に表わす「鶴」および「寿」の文字を重ね合わせた語であるが、両者を結合したため別個の意義を生ずるものではなく、また、そのような語が日常使用され、あるいは、親しまれているものではなく、本願商標から取引上、「つることぶき」(鶴寿)の称呼観念を生ずることは、極めて稀であるとみるのが、取引の通念に照らし、相当である。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決理由の要点、本願商標および引用登録商標の構成および指定商品、ならびに、引用登録商標の出願および登録の年月日が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 原告は、本件審決には、その主張(三の1)の点につき判断遺脱があり、違法である旨主張するが、元来、拒絶査定に対する審判においては、拒絶査定に対する不服の主張の当否を判断するため、続審として、出願事件そのものの再審査を行なうものであり、再審査の結果、拒絶査定における拒絶理由をもつて拒絶するのは相当でないが、別個の拒絶理由をもつて拒絶するのを相当とする場合には、原査定と結論において同一となるから、原査定を取り消すことなく、審判請求は成り立たない旨の審決をすべきものであり(このことは、商標法第56条第1項ならびに特許法第158条および第159条の規定に徴し明らかである。)、したがつて、原告主張の経緯のもとに、本件審決がされたことは、もとより、当然のことであり、この点につき本件審決には何らの判断遺脱の違法もないというべきである。これと異なる見解に立つ原告の主張は、商標法第56条第1項により準用される特許法第159条および第160条の法意を正解したものとはいいがたく、到底採用しえない。
三 原告は、本願商標および引用登録商標からは、いずれも「つる」(鶴)の称呼観念を生ぜず、両者は非類似の商標である旨主張するが、その主張もまた理由がないものといわざるをえない。
(一) 本願商標の構成は、子持円輪郭内に籠文字で「寿」の文字を輪郭内に副うように表わし、その右側に若干重画するように同大の子持円輪郭を表わし、その内部に嘴と頭部を左に向け両翼を内円に副つて丸く拡げた鶴を図案化してなるものであることは当事者間に争いがないが、左右の円輪は同じ大きさであり、これらが若干重なるように表わされていて、内部の文字および図形から生ずる観念も相矛盾するものではないので、左右の円輪の間には、必ずしも、主従・軽重の関係がなく、
一体のものと見ることができないでもないけれども、左右の円輪の内部は、一方が寿の文字で、他方が鶴の図形を表わしたという明らかな差異があるうえ、「寿」と「鶴」は、いずれも、それぞれ、めでたいことを意味し、両者は、結合しなければ無意味となるものではなく、これを切り離しても、それぞれが同様の意味を保つものであることは社会通念上明白な事実であり、加えて、本願商標の指定商品である電気機械器具等の取引者および需要者の間において、本願商標から、常に「鶴寿」なる単一の観念を生ずると認めるに足りる証拠もないので、これらの点を総合すれば、本願商標における左右の円輪は必ずしも一体不可分なものではなく、それぞれ独立して、「つる」、「ことぶき」の称呼および「鶴」、「寿」の観念を生じうるものというを相当とする。もつとも、成立に争いのない甲第一〇号証の一から四によれば、鶴の寿命に由来して「長命」を意味する「鶴寿(かくじゆ)」なる語のあることが明らかであるが、この語が本願商標の指定商品の取引者および需要者間に、ひろく理解され、用いられているとは認め難く、また、成立に争いのない甲第一一号証の一から八によれば、本願商標と同一の構成よりなる商標が、原告の製造、販売にかかる菓子類について、永年使用され、その取引者および需要者の間で、「つることぶき」とのみ呼称されている事実が認められないではないが、右と商品の区分、性質を全く異にする本願商標の指定商品である電気機械器具等の取引分野においても、右と同様に、本願商標から「つることぶき」の称呼のみ生じ、
「つる」の呼称を生じないと断ずることはできないから、これらの事実から、本願商標中、右側の円輪郭内に顕著に表示された鶴の図形より、「つる」(鶴)の称呼観念をも生ずべきことを否定し去ることはできない。
(二) 他方、引用登録商標(その出願および登録の年月日ならびに指定商品は、
いずれも本件審決認定のとおり)の構成およびこれより「鶴の丸」または「鶴丸」の称呼観念をも生ずるものであることは、当事者間に争いがないが、引用登録商標は、その構成上、その図形が鶴であること自体に見る者の注意を強く惹くものと認められるから、引用登録商標からは、紋章に由来するとみられる前記「鶴の丸」又は「鶴丸」のほかに、「つる」(鶴)の称呼観念をも生じうるものとするを相当とする。
(三) 引用登録商標および本願商標からは、いずれも「つる」の称呼および「鶴」の観念をも生ずるものとみるを相当とすること前説示のとおりであるから、
両者は、称呼および観念において類似する商標というべく、また、それぞれの指定商品は同一であることは当事者間に争いのないところであるから、本願商標は、商標法第4条第1項第11号により、登録を受けることができないものといわざるをえない。
なお、原告は、本願商標および引用登録商標と同一の商標が、引用登録商標の指定商品指定商品を異にする、同一人の出願事件において、いずれも登録が認められている事実を挙げて、本件審決が本願商標は、その登録を拒絶すべきものとしたことを非難するが、商品区分を異にする商標について、そのような登録例の存在することは当然ありうることであり、そのことと、本願商標がその指定商品との関連において、登録要件を具備するかどうかとは、全く関係のないことであるから、原告の非難は、当を得ないものである。
(むすび)四 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。
よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟第7条および民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 三宅正雄
裁判官 武居二郎
裁判官 友納治夫