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関連ワード 包装 /  指定商品 /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  国内 /  連合商標 /  先使用権 /  継続 /  商号 / 
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事件 昭和 45年 (ワ) 5379号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1971/12/24
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 すつぽん煮を指定商品とする被告の商標登録第四九二〇二五号および同第四九五六三六号に対し、原告が同商品につき別紙(イ)号目録(一)ないし(五)の標章を使用する権利を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求原因
一、被告は、指定商品旧第四五類(旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)第15条の規定による商品類別)すつぽん煮について、つぎの各登録商標(以下、本件登録商標という)を有している。
1 昭和三一年二月三日出願、同年七月二一日公告(昭三一―一二八七六)、同年一〇月二七日登録査定、同年一一月三〇日登録の連合商標登録第四九二〇二五号の商標で、その構成は別紙本件登録商標目録(一)のとおり平仮名にて「すつぽん」漢字にて「大市」と縦書きした文字の組合せから成るもの。
2 昭和三一年二月三日出願、同年一〇月五日公告(昭三一―一八八四二)、同年一二月一九日登録査定、同三二年二月五日登録の連合商標登録第四九五六三六号の商標で、その構成は同目録(二)のとおり筆書にて円周の一部が欠けた円「<11697-005>」を画き、その下に平仮名にて「なべ」漢字にて「大市」と縦書きした記号と文字との組合せから成るもの。
二、ところが、原告が使用している別紙(イ)号目録記載(一)ないし(五)の商標はいずれも被告の有する本件登録商標(一)および(二)と明らかに類似している。
三、原告は昭和四年七月二五日すつぽん料理の販売を主たる目的として合名会社組織で設立された会社であるが、会社組織にされる前は同社本店所在地に現在の代表社員【A】の直系祖先に当る大市こと【B】が宝永年間すつぽん料理店を開業し、
商標および商号として漢字の「大市」を使用して以来、文政、天保、慶応、明治と代々にわたりその営業が引き継がれ、「大市」のすつぽん料理として名声を博してきたもので、商標制度のなかつた江戸時代に既にすつぽん料理の「大市」として著名になつていた。明治、大正に至つては、交通機関の発達により「大市」のすつぽんは京都周辺のみならず多量に東京、大阪方面にも瓶詰で輸送され個別売りが行なわれるに至り、「大市」のすつぽん料理として商号の面は勿論のこと、その瓶詰で販売するすつぽん料理の商品名としてもますます普及し著名となつた。そして昭和四年に従来の個人経営を会社組織に改め、従来の営業一切を包括的に原告会社が承継した。昭和に入ると交通機関の益々の発達が右の販売形式の大量化を促進し、第二次世界大戦にも戦災に遭わなかつたのを幸い原告は益々盛大にすつぽん料理の販売を行い今日に至つた。
以上のような次第で、本件各登録商標の出願があつた昭和三一年二月三日頃には、原告に既にすつぽん料理の大市として国内において屈指の販売店になつており、当時年間売上げ額が金一、二〇〇万円を超える実績をあげ、瓶詰販売方式で国内全域に販売していた。昭和三一年二月三日当時は勿論以後現在に至るまですつぽん料理(すつぽん煮)といえば「大市」、それを販売している店舗といえば「大市」と広く国内のみならず海外にまで知られている。これは原告のすつぽん料理が原告店舗のみならず、古くより瓶詰販売等により国内各方面に出廻つていた実績によるものである。ことにすつぽん料理を入れて販売する瓶、包装箱、包装紙にも商標として「大市」の漢字を顕著に表示してきたから、需要者は直ちに商品名としての「大市」を想起するとともに、店舗名をも想起しうる状態になつている。
四 そして、原告(および営業承継前の原告会社代表社員の先祖の個人営業体)は、別紙(イ)号目録記載の(一)ないし(三)の標章を宝永年間以降慶応、明治、大正を経て現在に至るまで連続して、また同目録(四)および(五)の標章を明治年間以降現在に至るまで連続して、原告の製造販売する商品であるすつぽん料理(煮)に付して使用してきており、右各商標はいずれも昭和三一年二月三日の本件登録商標出願の際には国内特に関西方面において原告の製造販売にかかるすつぽん煮の商標として周知著名となつていた。そして、その後も現在に至るまで引き続きその商標として使用中である。
五、よつて、原告は被告に対しすつぽん煮について原告が被告の有する本件各登録商標に対し商標法32条1項所定のいわゆる先使用権を有することの確認を求める。
請求原因に対する答弁および抗弁
一、請求原因一の事実は認めるが、その余の請求原因事実は争う。
二、原告が商標法32条1項のいわゆる先使用権を取得するためには、本件登録商標出願の当時(昭和三一年二月二日頃)(イ)号目録記載の各標示を商標として使用していたことを要するが、原告は右各標示をすべて商号として使用してきたものであつて、商標として使用してきたものでないから、先使用権を取得し得ない。すなわち、商標法2条1項所定の「商品について使用をする」という商標と認められるための要件を備えていないから商標とはいえない。
三、(イ)号目録記載の標示中に仮に商標と認められるものがあり、かつ原告がそれを使用していたとしても、それは本件登録商標出願当時需要者の間において原告の製造販売にかかる商品を表示するものとして広く認識されていなかつたから、原告は商標法32条1項にいわゆる先使用権を有しない。
証拠関係(省略)
理 由一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。
二、本件登録商標(一)が「すつぽん」という平仮名と「大市」という縦書き漢字から構成されており、同(二)がすつぽん料理(煮)を表現するために通常用いられている「<11697-006>なべ」という記号と文字との結合および「大市」という縦書き漢字から構成されていることは当事者間に争いがなく、右の「すつぽん」も「<11697-003>なべ」もともに指定商品すつぽん料理(煮)をそのまま表示したものに過ぎないから、右両商標の要部がいずれも「大市」という漢字の部分にあることは明らかである。他方、(イ)号目録(一)および(二)の商標は「大市」という縦書き漢字のみから構成され、同(三)の商標は指定商品をそのまま表示した「スツポン」を片仮名で横書きし、その下に「大市」という漢字を縦書きしたものから構成され、同(四)および(五)の各商標は指定商品を表現するために通常用いられている「<11697-007>料理」という記号と文字との結合またはこれと「まる<11697-004>」という文字の併記および「大市」という漢字を縦書きしたものから構成されているから、右各商標の要部がいずれも「大市」という漢字の部分にあることは明らかである。
してみると、本件登録商標の「大市」という漢字部分も、(イ)号各商標の「大市」という漢字部分も、ともに特別な書体ではない普通のありふれた書体の漢字で構成されているから、(イ)号各商標の要部は、外観称呼ともに、本件各登録商標の要部に類似していることは明白であり、したがつて(イ)号目録記載の各商標はいずれも本件各登録商標に類似しているといわねばならない。
三、証人【C】の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証の一、二(明治一七年発行の金券)、同第二号証の一ないし二九(明治年代の営業上り高届出書控)、同第三号証の一、二(明治二二年、同二四年当時のすつぽん料理注文書)、
同第四号証の一ないし六(明治末頃の注文書)および同第五号証の一ないし一〇(同)、成立に争いのない甲第六号証の一ないし五(昭和六年発行の「有都民家譜」)、同第七号証(原告会社の商業登記簿謄本)、同第八号証の一ないし四(昭和八年発行の「京洛美味」)、同第九号証の一ないし四(昭和八年発行の「日本都市大観」)、同第一〇号証の一、二(昭和八年発行の大阪毎日新聞)、同第一一号証の一ないし三(昭和一三年発行の「事業及人物」)、同第一二号証(昭和二六年発行の京都区民新聞)、同第一四号証(昭和二九年発行の日本経済新聞)、同第一五号証の一ないし三(昭和三一年五月二〇日発行の「全国うまいもの旅行」)、同第一六号証の一ないし三(昭和三一年五月二五日発行の「京のあじ」)、同第一七号証の一ないし三(昭和三三年発行の京都府商工部編「京都」)、同第一八証の一、二(昭和三三年全国料理業同盟大会出席者並に宿舎名簿)、同第一九号証の一ないし三(昭和三五年発行の京都府商工部編「京都」)、同第二〇号証の一ないし三(昭和三六年発行の「食通入門」)、同第二一号証の一ないし三(昭和三七年発行の「上方の味」)、同第二三号証の一ないし四(京都年鑑一九六三年版付録観光編)、同第二四号証の一ないし三(昭和三七年発行の京都府商工部編「京都」)、
同第二五号証の一ないし三(昭和三八年発行の「京都のすべて」)、同第二六号証の一ないし三(昭和三八年発行の「京味百選」)、同第二七号証(昭和四〇年発行の朝日新聞)、同第二八号証の一ないし三(昭和四四年発行の「関西と関東」)、
同第三〇号証の一ないし三(昭和四一年発行の「京都味覚地図」)、同第三一号証の一ないし三(昭和四二年発行の「西陣グラフ」)、同第三二号証の一ないし三(昭和四二年発行の「版画随筆」)、同第三四号証の一ないし三(昭和四三年発行の「最新旅行案内京都」)、同第三六号証の一、二(昭和四四年開催京都府開庁百年記念老舗表彰式名簿)、同第三七号証(同表彰状)、同第三八号証(IGS選定証書)、同第三九号証の一ないし三(昭和四五年発行の「なべもの」)、同第四〇号証(昭和四五年発行の日本経済新聞)、同第四一号証の一ないし三(昭和四五年発行の「美しい装い」)および同第四二証の一ないし三(昭和四五年発行の「京都」)、原告主張のものであることについて争いのない検甲第一、二号証(宝永年間から伝わつたと推定される原告代表者の先祖の印章)、同第三、四号証(明治一七年頃同先祖使用の木版)、同第五号証(同先祖明治初期使用の印章)、同第六号証(同先祖明治時代使用の木版)、同第七号証(同先祖明治初期使用の印章)、同第八号証(昭和一〇年頃原告作成の木版)、同第九号証(瓶詰胴ばりレツテル)、
同第一〇号証(昭和三三年一〇月以降使用の瓶詰用瓶)、同第一一号証(昭和三〇年当時使用の右瓶包装用ダンボールケース)、同第一二号証(古文書・原告の前身先祖発祥の地図)、同第一三号証(昭和初期製作の瓶詰胴ばりレツテル)、同第一四号証(昭和三三年製作の瓶詰胴ばりレツテル)、同第一五号証(大正から昭和初期にかけて使用した瓶詰包装紙)、同第一六号証(昭和三三年頃の瓶詰包装紙)、
同第一七号証(昭和八年頃作成の広告宣伝用絵はがき)、同第一八号証の一(昭和八年発行の大阪毎日新聞)、同第一九号証の一、二(昭和一二年頃製作の宣伝広告用マツチレツテル)、同第二〇号証(昭和二二年頃製作のダンボール箱用レツテル)、同第二一号証の一、二(昭和三〇年頃作成のしおり)、同第二二号証の一、
二(昭和三〇年頃大阪高島屋開催の名物店の写真)、同第二三号証の一、二(昭和三五年読売テレビの画像の写真)、同第二四号証の一、二(昭和四六年大阪三越百貨店発行の広告案内書)、同第二五号証(昭和初期より現在までのしおり)、同第二六号証の一ないし七(昭和二五年開催の洛趣展覧会図録)、同第二七号証の一ないし四(昭和三九年発行の京都分割地図)、同第二八証の一ないし三(昭和四三年発行の「京都史跡めぐり」)、同第二九号証の一ないし三(昭和四四年発行の京都商工人名録)、同第三〇号証の一ないし三(昭和四五年発行の月刊「京都」)、同第三一号証の一、二(昭和四五年発行の「京都千年の旅」)、同第三二号証の一ないし六(昭和三八年発行の「京名物百味展創立一五周年記念写真帳」)、同第三三号証の一ないし三(昭和三九年発行の「古都好日」)、同第三四号証の一ないし六(昭和四〇年発行の「借景と坪庭」)、同第三五号証の一ないし五(昭和四五年発行の京名物百味会創立二〇周年の集い思い出集写真帳)、同第三六号証の一(昭和八年発行の大阪毎日新聞)、同第三七号証(昭和二五年発行の京都新聞)および同第三八ないし第四〇号証(昭和三〇年発行の京都新聞)ならびに証人【C】の証言を総合すると、原告会社の代表社員【A】の先祖にあたる【B】が江戸時代中期に原告会社の本店所在地において「大市」という商号ですつぽん料理店を開業し、その後その子孫が代々【B】を襲名してすつぽん料理店「大市」を経営し、江戸時代末期頃には既に京都を中心とした関西方面において有名店になつていたこと、当時から店ですつぽん料理を直接客の食用に供する場合と、これを壺に入れて販売する場合の二種の販売方法を併用していたこと、明治、大正時代に入つては交通機関および情報伝達機関の発達により右「大市」のすつぽん料理は益々広範囲に有名となり、東京、大阪等大都会の食通に瓶詰で輸送販売されるに至つたこと、そしてすつぽん料理店「大市」の益々の発展を期して昭和四年七月二五日それまでの個人企業を会社組織とするため原告会社が設立され、従来の営業一切を原告会社が承継し、
代表社員には従来の個人企業主が就任したこと、本件各登録商標の出願がなされた昭和三一年二月三日頃には原告は既にすつぽん料理の「大市」として国内における屈指の販売店になつており、当時年間売上高が金一、二〇〇万円を超え、全国のすつぽん料理売上高の約三分の一を占めるに至つていたこと、店で直接食用に供する売上げと瓶詰で販売する売上げとはほぼ折半の関係であつたこと、当時既にすつぽん料理(煮)といえば京都の「大市」の名があげられる程すつぽん料理業界および食通の間では原告の名が著名になつていたこと、そして原告はその瓶詰で販売するすつぽん料理(すつぽん煮)について、別紙(イ)号目録記載(一)の標章を遅くとも昭和初期から瓶詰胴ばりレツテルに、同(二)の標章を遅くとも大正時代から瓶詰包装紙に、同(三)の標章を昭和三〇年から瓶詰用瓶に、同(五)の標章を遅くとも昭和二〇年頃から瓶詰包装用ダンボールケースのレツテルに、同(四)の標章を遅くとも昭和一二年頃から宣伝広告用のマツチレツテルに、それぞれ付して商標として使用し、本件各登録商標出願当時右の各標章は、原告の製造販売にかかるすつぽん料理(煮)を表示する商標として少くとも関東から関西にかけての需要者間に広く認識されるに至つていたことおよび原告は右(一)ないし(五)の商標を現在に至るまで継続して使用していることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
被告は、(イ)号目録記載の各標章は商号として使用されてきたことはあるが、
商標としては使用されていなかつた旨主張するが、前記認定のとおり、原告は「大市」を商号として使用するとともに、「大市」を構成の主要部分とした同目録(一)、(二)、(三)および(五)の標章を自己の製造販売するすつぽん料理(煮)の容器ないし包装に、同(四)の標章をその広告宣伝用マツチレツテルに付し、自己の商品であることを表示するために使用していたのであるから、それらを商標として使用していたことは明らかであり、被告の右主張はとうてい採用できない。
四、よつて、原告が、旧第四五類すつぽん煮について、被告の有する本件各登録商標に対し商標法32条1項に基づき別紙(イ)号目録(一)ないし(五)の商標を使用する権利を有することは明らかであるから、原告の被告に対する本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 大江健次郎
裁判官 近藤浩武
裁判官 庵前重和