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関連審決 審判1961-706
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  無効審判 /  外国 /  継続 /  非類似 / 
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事件 昭和 42年 (行ケ) 55号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1970/05/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四十二年三月八日、同庁昭和三六年審判第七〇六号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和三十六年十一月八日、別紙第一記載の被告の登録商標(以下「本件登録商標」という)について、登録無効審判を請求し、同年審判第七〇六号事件として審理されたが、昭和四十二年三月八日、「本件請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は同年四月五日原告に送達された。
二 審決の理由の要旨 本件登録商標と別紙第二記載の登録第四二六、八五九号商標(以下「引用商標」という)とが、外観及び称呼の点で非類似のものであることはいうまでもないが、
これを観念の点で対比してみると、本件登録商標を「チキン」と「ラーメン」とに分離してみた場合、「チキン」の部分は英語の「CHICKEN」(チキン)に通ずることもあるものというべく、わが国における英語の常識からいえば、「CHICKEN」は鶏の「ひよこ」の意味のほか、鶏肉を材料とする料理を意味するものと理解され、また、「にわとり」の意味もあるものとされているが、「チキンカツレツ」「チキンライス」「チキンシチユー」「チキンプロス」等の用例にみられるように、「チキン」が食品または調理名と結合して使用される場合には、食用としての鶏肉(かしわ)の意味となり、全体として「鶏肉または鶏骨スープその他をもつて調理加工した食品または料理」の意味となるものであることが明らかである。
したがつて、本件登録商標「チキンラーメン」も、「チキン」が「ラーメン」なる食品名と結合して用いられている場合として、「鶏肉または鶏骨スープその他をもつて調味加工したラーメン」を意味するものと解するのが自然であり、右「チキン」の文字部分から、
生きた動物としての鶏を直観する「とり印」または「にわとり印」の観念を生ずることはないとみるのを相当とすべく、また、本件登録商標を「チキンラーメン」と一連一体にみた場合に、これから「とり印」または「にわとり印」の観念はとうてい生じないものであり、したがつて、本件登録商標は、生きた動物としての鶏を直感させる引用商標とは観念の点でも相違するものというべきである。次に、指定商品の点についてみるに、旧第四十七類の商品は、農産食料品の原材料および素材または半加工品の範囲にあるものであり、したがつて、同類に属する麺類は、その分類上、原料を加工して成る加工品のうち、なお素材または半加工品の範囲にあるものであつて、これを最終的用途に供するためには、さらに調味加工を施す必要があるものであるのに対し、旧第四十五類に属する商品は、最終的用途に供する完成食品であり、したがつて、本件登録商標の指定商品である旧第四十五類「乾燥即席味付ラーメン」は、旧第四十七類の麺類に属する中華そばめんにさらに特殊な味付加工および保存と即席に使用できる加工を施して、最終的用途に供し得る状態に完成された、完成加工食品として、引用商標の指定商品である旧第四十七類小麦粉その他本類に属する商品とは性質を異にし、非類似の商品であるといわなければならない。以上のとおり、本件登録商標と引用商標とは、外観称呼及び観念のいずれの点からみても非類似の商標であり、かつ、その指定商品も相違するものであるから、本件登録商標は旧商標法(大正十年法律第九十九号)第2条第1項第9号の規定に違反して登録されたものとはいいがたく、したがつて、同法第十6条第1項第1号の規定によりこれを無効とすべきものではない。
三 本件審決を取り消すべき事由 本件登録商標と引用商標とが外観及び称呼の点で非類似であることは争わないが、本件審決が、右両商標は観念及び指定商品においても非類似であるとしたことは、事実の認定及び判断を誤つた違法がある。
(一) 観念について 本件登録商標「チキンラーメン」の文字のうち、「ラーメン」の部分は、指定商品である乾燥即席味付ラーメンのラーメン(商品名)を示すものであるから、自他商品識別機能を有する部分は「チキン」の文字部分であり、右「チキン」が英語の「chicken」を想起させるものであることは、わが国における英語の普及程度からみて当然であり、「chicken」が「にわとり」または「鶏肉」を意味することは、広く一般に知られているところである。これに対し、引用商標が鶏を表示し、「にわとり」印の観念を生じさせるものであることは、その構成に照らし明らかなところである。したがつて、右両商標は、ともに「にわとり」の観念を生じさせる点において、彼此混同の蓋然性が十分であり、類似の商標というべきものである。被告は、本件登録商標は「チキンラーメン」と一連一体にのみ把握すべきであり、これを「チキン」と「ラーメン」とに分離して考えるべきものではない旨主張するが、「チキンラーメン」は指定商品普通名称ではないから、常に一連一体に把握すべき必然性に乏しく、「チキン」が鶏肉に限定され、「チキンラーメン」をもつて鶏肉入りラーメンと解すべき根拠もないものといわなければならない。実際、取引者、需要者においても、本件登録商標を付された乾燥即席味付ラーメンをもつて鶏肉入りラーメンとは理解していないのであり、もしそのように解すべきものとすれば、本件登録商標は、単なる品質表示語にすぎないものとして、商標登録の要件を欠いていたものといわざるをえない。
(二) 指定商品について 本件登録商標の指定商品は、旧第四十五類「乾燥即席味付ラーメン」とされ、引用商標の指定商品は、旧第四十七類「小麦粉その他本類に属する商品(但し麦類及びその類似品を除く)」とされているが、旧商標法施行規則(大正十年農商務省令第三十六号)第十5条の規定による商品類別によると、第四十七類に属するものは、殻菜類、種子、果物、殻粉、澱粉及びその製品とされていて、これに麺類が例示されており、したがつて、引用商標の指定商品中には麺類が含まれているものであるところ、本件登録商標の指定商品たる乾燥即席味付ラーメンが、被告主張のような新規の加工食品であつても、麺類の範疇に入るものであることはいうまでもないから、これが引用商標の指定商品中麺類と類似の商品であることは疑いを容れないところである。また、前掲商品類別による旧第四十五類に属するものは、他類に属せざる食料品及び加味品とされているが、乾燥即席味付ラーメンは、他類である旧第四十七類の麺類の範疇に入るものである以上、旧第四十五類に属する商品ではないのであり、したがつて、本件登録商標の指定商品が旧第四十五類乾燥即席味付ラーメンとされていても、それは旧第四十七類の所属商品として、引用商標の指定商品と同一類に属する類似商品であるといわなければならない。
以上のとおり、本件登録商標と引用商標とは、その観念において類似し、指定商品も牴触するものであるにかかわらず、これらの点の認定を誤り、本件登録商標は旧商標法第2条第1項第9号の規定に違反して登録されたものではないとした本件審決は、違法として取り消されるべきものである。
被告の答弁
被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり陳述した。
原告主張の請求原因事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯、本件登録商標及び引用商標の各構成及び指定商品並びに本件審決理由の要旨が、いずれも原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。本件審決の認定は正当であり、これに原告主張のような違法の点はない。すなわち、
(一) 本件登録商標は、もともと被告が昭和三十三年八月頃新規に創製した乾燥即席味付ラーメンの名称として選定して名づけた造語を、そのまま商標として使用したものであり、一面において右新製品そのものの名称として使用されるとともに、他面において被告の製品であることを識別する標識としての機能を兼ね備えているものである。すなわち、被告は、創製以来、右新製品に「チキンラーメン」なる名称を継続して大量に使用し、大規模に宣伝したことにより、これが取引者、需要者間に広く認識され、右新製品に対する固有名称的なものとしての「チキンラーメン」なる観念が生じ、これを商標として使用するときは、被告の製品として一連一体に把握される、「チキンラーメン」なる称呼観念を生じさせるものとして、
使用による特別顕著性を有することを認められて登録されたものである。したがつて、本件登録商標から生ずる観念としては、被告製品としての「チキンラーメン」そのものであり、他に「チキン」印のラーメンのような観念が生ずるものではない。仮りに、原告の主張するように、本件登録商標を「チキン」と「ラーメン」とに分離してみても、「チキン」から直ちに「にわとり」の観念を生ずるとみることは、一般需要者の認識に反するといわなければならない。すなわち、英語の「chicken」(チキン)には、鶏の雛の意味もあるが、日常生活で日本語として使用されているのは、チキンライス、チキンカツレツ、チキンシチユウ等の用例に見られるように、鶏肉の意味で使用されており、一般に、生きた「にわとり」または「とり」を表わす意味で「チキン」を使用する慣行はない。そして、英語が日常語として用いられている場合には、一般普遍的な意味に解すべきものであるから、雄雌二羽の鶏の図形と「とり印」の文字との結合からなる引用商標と本件登録商標「チキンラーメン」とは、観念上これを類似とすべき根拠はないものといわなければならない。
(二) 本件登録商標の指定商品である乾燥即席味付ラーメンは、従来のこの種食品と全く異なり、麺自体に味を吸着浸透させ、組成する澱粉類は高熱の油処理によつてアルフア化したまま保存され、そのまま食しうるとともに、単に熱湯を注ぐのみで、直ちに内含する味が放出され、何らの味付も必要とせず、完全に調理された麺としての効果を挙げうる完成加工食品であつて、前例をみないものであり、これに対し、旧第四十七類に属する商品は、農産食料品の原材料及び素材ないし半加工品の範囲内のものをいうのであるから、本件登録商標の指定商品である乾燥即席味付ラーメンは、旧第四十七類の麺とは異なるものというべく、最終用途に供する完成加工食品として、旧第四十五類の加工食品に属すべきものであり、したがつて、
本件登録商標と引用商標とはその指定商品においても牴触しないものといわなければならない。
証拠関係(省略)
理 由一 (争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件登録商標及び引用商標の各構成及び指定商品並びに本件審決理由の要旨が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(審決を取り消すべき事由の有無について)二 原告は、まず、本件審決が本件登録商標と引用商標とを観念非類似の商標であるとした点において、事実の認定及び判断を誤つた違法がある旨主張するが、原告の右主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち、本件登録商標のうち、「ラーメン」の文字部分は、その指定商品が乾燥即席味付ラーメンであるところから、中華麺であるラーメンを表示するものであることが明らかであり、他の「チキン」の文字部分は、「チキンライス」「チキンカツレツ」「チキンシチユウ」等の用例にみられるように、英語の「chicken」(チキン)を意味するものと解するのが相当であり、したがつて、本件登録商標は、右「チキン」と「ラーメン」とを結合して成る文字商標であるというべきである。
被告は、この点について、本件登録商標は「チキンラーメン」と一連一体にのみ把握すべきものであるとして、もともと「チキンラーメン」なる語は、被告の新製品である乾燥即席味付ラーメンの固有名称的なものとして新造採択され、大量に宣伝使用した結果、これを商標として使用するときは、被告の製品としてのチキンラーメンそのものを観念せしめるものとなり、したがつて、一連一体にのみ把握されるべき必然性がある旨主張するが、そのような事実を的確に認定するに足る証拠資料は、本件にあらわれたかぎりにおいては存在しないといわざるをえない。
しかして、「チキン」の語(英語「chicken」)が、わが国においては、
前記用例に見られるように、一般に食品名と結合されて、もつぱら、比較的庶民的な鶏肉を素材とする料理を表示するものとして、日常語化して使用されてきていることは、当裁判所に顕著な事実であり、したがつて、取引の実際において、右のような「チキン」が、食品名の一種である「ラーメン」と結合して成る本件登録商標「チキンラーメン」が取引者及び需要者に直感せしめるところも、その指定商品「乾燥即席味付ラーメン」との関連において、右の範囲を出ることなく、加工食品としての乾燥即席味付ラーメンにつき、調味ないしは加工材料に鶏肉を用いたものとの観念を生ぜしめるに止まる、と認めるのが相当である。
もつとも、一般に、英和辞書において、「chicken」の語は、鶏肉及びひな鳥のほか鶏をも意味するものと説明されていることも、当裁判所に顕著な事実であるが、本件登録商標のように外来語から成る商標の観念を定めるについては、その外国語としての本来の意義、すなわち、文字としての正確な意義だけを唯一の根拠とすべきものではなく、これが、わが国において、商標として用いられた場合、
指定商品との関連において、わが国の取引界の実情からみて(本件の場合、本件登録商標が比較的大衆的な食品に用いられるものであることを考慮しなければならない)、取引者、需要者によつてどのように認識されるかによつて決すべきものであるから、わが国における日常語化された外来語としての「チキン」の意味するところが前認定のとおりである以上、英語「chicken」に、その本来の字義として鶏(にわとり)の意味があることは、何ら前認定の妨げとなるべきものではない。
一方、引用商標は、雄雌二羽の鶏の図形と「とり印」の文字との結合から成る構成に徴し、生きたにわとりを直感させるものであり、「にわとり」の観念を生じさせるものであることが明らかである。したがつて、前記認定のように、加工食品として、鶏肉を調味材料として用いたラーメンとの観念を生じさせるに止まる本件登録商標は、引用商標とはその観念において異なるものといわざるをえない。
本件登録商標と引用商標とが、観念において相違すること右のとおりである以上、その外観及び称呼が異なるものであることは原告の認めて争わないところであるから、さらに両商標の指定商品の異同について判断するまでもなく、
両商標は非類似の商標というべく、したがつて、本件審決がこの点の認定判断を誤つたとする原告の主張は、理由がないものといわざるをえない。
(むすび)三 以上のとおりであるから、その主張のような違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第八十9条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙第一本件登録商標昭和三十五年十二月二十二日登録出願昭和三十六年九月二十日登録(登録番号第五八〇、五〇〇号)構成片仮名で「チキンラーメン」の文字を毛筆をもつて普通に用いられる書体で左横書きして成る。
指定商品旧第四十五類乾燥即席味付ラーメン<11605-001>別紙第二引用商標昭和二十七年四月二十四日登録出願昭和二十八年六月二十四日登録(登録番号第四二六、八五九号)構成雌雄ひとつがいの鶏の図形を描き、その下方に「とり印」の文字を左横書きして成る。
指定商品旧第四十七類小麦粉その他本類に属する商品(但し麦類及びその類似品を除く)<11605-002>
裁判官 三宅正雄
裁判官 石沢健
裁判官 滝川叡一