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関連審決 不服2003-5821
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  著名商標 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  補正 /  手続の補正 /  ドメイン /  無効審判 /  外国 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10756号 審決取消請求事件
X 原告
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人岩本和雄
同 高野義三
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/05/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2003-5821号事件について 平成17年9月13日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成13年1月11日,「MIZUHO.NET」の文字を標準文字により書してなる商標につき,指定役務を第35類及び第38類に属する別紙1の【第35類】及び【第38類】記載のとおりのものとして商標登録出願をし(以下,この出願を「本件出願」といい,その商標を「本願商標」という。),その後の平成14年3月27日,指定役務を第35類ないし第42類に属する別紙2の【第35類】ないし【第42類】記載のとおりのものに補正し,さらに,同年9月24日,指定役務を第35類ないし第42類に属する別紙3の【第35類】ないし【第42類】記載のとおりのものに補正したが,平成15年2月21日(同年3月7日発送)に拒絶査定を受けたので,同年4月7日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2003-5821号事件として審理した結果,平成17年9月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月1日,その謄本を原告に送達した。
2審決の理由審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願商標をその指定役務中の「第36類」に属する別紙3【第36類】記載の役務「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れに関する情報の提供,資金の貸付け及び手形の割引に関する情報の提供,内国為替取引に関する情報の提供,債務の保証及び手形の引受けに関する情報の提供,有価証券の貸付けに関する情報の提供,金銭債権の取得及び譲渡に関する情報の提供,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かりに関する情報の提供,両替に関する情報の提供,金融先物取引の受託に関する情報の提供,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受けに関する情報の提供,債券の募集の受託に関する情報の提供,外国為替取引に関する情報の提供,信用状に関する業務に関する情報の提供,割賦購入のあっせんに関する情報の提供,前払式証票の発行に関する情報の提供,ガス料金又は電気料金の徴収の代行に関する情報の提供,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引に関する情報の提供,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理に関する情報の提供,有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理に関する情報の提供,外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理に関する情報の提供,有価証券の引受けに関する情報の提供,有価証券の売出しに関する情報の提供,有価証券の募集又は売出しの取扱いに関する情報の提供,株式市況に関する情報の提供,商品市場における先物取引の受託に関する情報の提供,生命保険契約の締結の媒介に関する情報の提供,生命保険の引受けに関する情報の提供,損害保険契約の締結の代理に関する情報の提供,損害保険に係る損害の査定に関する情報の提供,損害保険の引受けに関する情報の提供,保険料率の算出に関する情報の提供,建物の管理に関する情報の提供,建物の貸借の代理又は媒介に関する情報の提供,建物の貸与に関する情報の提供,建物の売買に関する情報の提供,建物の売買の代理又は媒介に関する情報の提供,建物又は土地の鑑定評価に関する情報の提供,土地の管理に関する情報の提供,土地の貸借の代理又は媒介に関する情報の提供,土地の貸与に関する情報の提供,土地の売買に関する情報の提供,土地の売買の代理又は媒介に関する情報の提供,建物又は土地の情報の提供,骨董品の評価に関する情報の提供,美術品の評価に関する情報の提供,宝玉の評価に関する情報の提供,企業の信用に関する調査に関する情報の提供,税務相談に関する情報の提供,税務代理に関する情報の提供,慈善のための募金に関する情報の提供,中古自動車の評価に関する情報の提供,紙幣・硬貨計算機の貸与に関する情報の提供」(以下「本件指定役務」という。)について使用した場合,取引者・需要者は,本願商標の「MIZUHO」の文字部分より,周知著名な「MIZUHO」の文字よりなる商標(以下「引用商標」という。)を想起し,その役務が,第一勧業銀行,富士銀行,日本興業銀行の3行を子会社とする銀行持株会社の株式会社みずほホールディングスのグループ会社(以下「みずほフィナンシャルグループ」という。)あるいは同グループと経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し,その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるから,本願商標は,本件指定役務のうちの「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れに関する情報の提供,資金の貸付け及び手形の割引に関する情報の提供,内国為替取引に関する情報の提供,債務の保証及び手形の引受けに関する情報の提供,有価証券の貸付けに関する情報の提供,金銭債権の取得及び譲渡に関する情報の提供,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かりに関する情報の提供,両替に関する情報の提供,金融先物取引の受託に関する情報の提供,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受けに関する情報の提供,債券の募集の受託に関する情報の提供,外国為替取引に関する情報の提供」(以下「本件銀行証券関連役務」という。)において,商標法4条1項15号に該当するから,本件出願は拒絶されるべきものであるとした。
第3原告主張の審決取消事由審決は,原告が,本訴提起後,分割出願により本件出願から本件指定役務を削除したのに,これを無視し,本件指定役務に係る出願に関する商標法4条1項15号該当性についての判断をし(取消事由1),また,周知著名な引用商標との間で,出所の混同のおそれがあると誤認し(取消事由2),その結果,本願商標が商標法4条1項15号に該当するとの誤った結論を導いたものであるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(本件指定役務が削除されていることの無視)原告は,本訴提起後の平成17年11月21日に商標法10条1項の規定に基づく分割出願をし,本件出願から「第36類」に属する本件指定役務を分離し,同日,この分割出願に伴って,本件出願から,本件指定役務を削除したから,本件出願には本件指定役務は存在しないはずであり,本件指定役務を理由とする拒絶理由は解消した。
したがって,本願商標を,本件指定役務について使用した場合,取引者・需要者が,みずほフィナンシャルグループあるいは同グループと経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し,混同を生ずるおそれがあるとした審決の判断は,前提において誤っている。
2取消事由2(引用商標との間における出所の混同のおそれの誤認)( ) 本願商標が,「MIZUHO」と「NET」の文字を「.」(ピリオド)1で区切った構成から明らかなとおり,インターネットで使用される国際ドメイン名の一部を表したものであって,その前半部の「MIZUHO」はドメインの使用者の組織名を表し,その構成中後半部の「.NET」の文字部分は,組織種別としてネットワーク事業者を示すコード「.net」を表したものであること,引用商標が,みずほフィナンシャルグループの取扱いに係る役務「銀行業務」及び「証券業務」に使用されて,遅くとも本件出願時に,取引者・需要者間において広く認識されており,かつ,その状態が現在においても継続していることは,争わない。
審決は,本願商標をその指定役務中の本件指定役務について使用した場合,取引者・需要者は,本願商標の「MIZUHO」の文字部分より,周知著名な引用商標を想起し,その役務が,みずほフィナンシャルグループあるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し,その役務の出所について混同を生ずるおそれがある旨判断したが,誤りである。
原告は,登録第4246220号商標「みずほねっと」(指定役務第35類「広告,商品の販売に関する情報の提供」,第38類「電子計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」)の商標権者であるところ,その後,みずほフィナンシャルグループは,登録第4457746号商標「MIZUHO」(指定役務第38類「移動体電話による通信,テレックスによる通信,電子計算機端末による通信,電報による通信,電話による通信,ファクシミリによる通信,無線呼出し」)について設定登録を受けた。このことから,特許庁は,登録商標「みずほねっと」と登録商標「MIZUHO」とが取引の実情等に照らし,役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがないと判断したものと認められる。
ところで,本願商標は,登録商標「みずほねっと」に類似しているから,上記判断は,本件にも当てはまるはずであり,引用商標「MIZUHO」との関係でも,役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
この点について,審決は,「請求人は,過去の判断例(「みずほねっと」登録第4246220号商標と「MIZUHO」登録第4457746号商標)を挙げて述べるところがあるが,商標の類否の判断は,個別具体的になされるべきものであり,また,当該事例は,本件とは指定役務及び商標の構成態様が相違し,事案を異にするものであるから,請求人の主張は採用することができない。」(審決謄本5頁第4段落)とするが,失当であり,過去の判断例を踏まえた判断をすべきである。
( ) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合2に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,呼称等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的取引状況に基づいて判断すべきであるところ(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),本件において,具体的取引状況をみると,本願商標「MIZUHO.NET」は,ドメイン名であり,電子メールサービス,ウェブサイトを用いた情報提供役務に使用されるのであるから,引用商標との間で,役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
( ) 審決は,本件指定役務中,本件銀行証券関連役務について,引用商標であ3るみずほホールディングスの「銀行業務」,「証券業務」等の役務と類似し,役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとしているのであるから,「銀行業務」,「証券業務」等と類似するとはいえない「中古自動車の評価に関する情報の提供」などについては,役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがなく,したがって,本件指定役務のすべてについて商標法4条1項15号に該当すると判断したのは誤りである。
( ) したがって,本願商標「MIZUHO.NET」は,引用商標との関係で,4第36類に属する指定役務においても出所の混同を生ずるおそれはないものであって,商標法4条1項15号に該当しない。
第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(本件指定役務が削除されていることの無視)について原告は,分割出願に伴って,本件出願から本件指定役務を削除したから,本件指定役務を理由とする拒絶理由は解消した旨主張する。
しかし,最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決(判時1907号129頁,判タ1189号181頁)は,商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合にも分割出願をすることができるが,同時に提出した元の商標登録出願についての手続補正書は商標法68条の40第1項の規定に基づく手続補正とならず,その補正の効果が,商標登録出願の時に遡って生ずるものと解することはできないと判示した。
これを本件についてみると,原告は,本件出願について拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している平成17年11月21日に分割出願をし,同日,本件出願の指定役務中,第36類に属する本件指定役務をすべて削除する手続補正をしたが,上記最高裁判決に照らせば,その補正の効果は,本件商標登録出願の時に遡って生ずるものではないこととなる。
したがって,原告が本件訴訟中にした出願の分割及び手続補正によって,本件出願の本件指定役務に何らの変更もないものであって,審決の拒絶理由は解消されていない。
2取消事由2(引用商標との間における出所の混同のおそれの誤認)について( ) 本願商標は,「MIZUHO」と「NET」の文字を「.」(ピリオド)1で区切った構成から明らかなとおり,インターネットで使用される国際ドメイン名の一部を表したものであって,その前半部の「MIZUHO」はドメインの使用者の組織名を表し,その構成中後半部の「.NET」の文字部分は,組織種別としてネットワーク事業者を示すコード「.net」を表したものであって,ネットワーク事業者を表すものと容易に理解させるものであり,上記「.net」を大文字で表したものと理解されるので,この構成における「.NET」の部分のみでは自他役務の出所識別力を有しないか,又は極めて弱い部分といえる。一方,「MIZUHO」は,「みずみずしい稲の穂」を意味する「瑞穂」を観念させ得るものであり,本願商標は,その前半部の「MIZUHO」の文字部分のみでも自他役務の出所識別標識として機能し得るものであって,本願商標は,「MIZUHO」の文字を含むものであるからこそ,全体として商標として機能し得るものということができる。
また,本願商標は,「MIZUHO」の文字と「NET」の文字との間に「.」(ピリオド)が介在することから,「MIZUHO」と「NET」とで構成上分離して看取され得ることは,外観上からも明らかである。
したがって,本願商標は,その構成中「MIZUHO」の文字部分に着目され得るものとなっており,引用商標との類似性は高いものとなっている。
次に,本件指定役務中には,本件銀行証券関連役務等が含まれており,これらの指定役務は,周知著名となっている引用商標の使用に係る「銀行業務」又は「証券業務」に関連した役務と同一又は極めて関係のある役務ということができ,両者の役務における取引者・需要者は共通しているものである。
したがって,本願商標をその指定役務中,「銀行業務」又は「証券業務」に関係した本件銀行証券関連役務について使用した場合,取引者・需要者は,本願商標の「MIZUHO」の文字部分より,周知著名な引用商標を想起し,その役務が,みずほフィナンシャルグループあるいは同グループと経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し,その役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
( ) 原告は,登録商標「みずほねっと」に対し,後願の登録商標「MIZUH2O」が設定登録されているから,特許庁は,登録商標「みずほねっと」と登録商標「MIZUHO」とが取引の実情等に照らし,出所において誤認混同を生ずるおそれがないと判断したものと認められ,この判断は本件にも当てはまる旨主張する。
しかし,上記のとおり,本願商標が商標法4条1項15号に該当するか否かの判断に際しては,本願商標と他人の周知著名商標との類似の程度,引用する商標の周知著名の程度,指定役務との関係,あるいは取引の実情等を具体的事案に即して総合的に考慮し,本願商標が出所の混同を生ずるおそれがあるか否かを判断すべきものである。このように,本願商標が引用商標との関係で他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるか否かの判断においては,本件における判断基準時(登録出願時及び審決時)における事情をつぶさに把握して判断すべきものであるから,平成9年5月26日に登録出願され,平成11年3月5日に設定登録された原告所有に係る登録第4246220号商標「みずほねっと」と,平成13年1月11日に登録出願された本願商標とを同列に判断しなければならない格別の事情はない。
( ) 原告は,本願商標「MIZUHO.NET」は,ドメイン名であり,電子3メールサービス,ウェブサイトを用いた情報提供役務に使用されるのであるから,引用商標との間で,出所の混同を生ずるおそれはないと主張する。
確かに,「ドメイン名」は,インターネット上のコンピュータ(サーバ)を特定するための,いわば住所にも匹敵する名前であるのに対し,商標は,商品又は役務に使用して自他商品・自他役務を識別する標識としての出所表示機能を本質的な機能とするものである点で異なるものということができる。
しかし,商標法は,本願商標のようなドメイン名の形式を有する商標も登録出願することを認めているところ,このような商標は,例えば,法人の商号を商標として採択・使用するような「商号商標」と同様に,自他商品・自他役務の識別標識として使用され,機能することがあり得るものであり,本願商標が自他役務の識別標識として使用された場合,引用商標との間で,出所の混同を生ずるおそれがあることを否定することはできない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件指定役務が削除されていることの無視)について証拠(甲3の1〜3)によれば,原告は,本訴を提起した後の平成17年11月21日,本願商標の指定役務中,「第36類」に属する本件指定役務について,商標法10条1項の規定に基づき分割出願をするとともに,同日,同項の規定による分割出願に伴う手続補正として,本件出願から本件指定役務を削除したことが認められる。
ところで,拒絶審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,商標法10条1項の規定に基づいて分割出願がされ,元の商標登録出願について願書から指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正によって,新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずるが,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはなく,審決が結果的に指定商品等に関する判断を誤ったことにはならないものと解される(被告の引用する前記最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決参照)。
そうすると,本件については,本訴が当庁に係属中,本件出願から本件指定役務を削除する補正がされたのであるから,その補正によって本件指定役務が削除される効果が生ずるが,その補正の効果は,本件出願時にさかのぼるものではない。
したがって,平成17年11月21日付け分割出願によって本件出願の拒絶理由が解消したとする原告の主張は,誤りであり,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(引用商標との間における出所の混同のおそれの誤認)について( ) 本願商標が,「MIZUHO.NET」の文字を横書きにしてなり,指定1役務として第36類に属する本件指定役務を含む商標であること,本願商標が,「MIZUHO」と「NET」の文字を「.」(ピリオド)で区切った構成で,インターネットで使用される国際ドメイン名の一部を表したものであって,その構成中,前半部の「MIZUHO」は,ドメインの使用者の組織名を表し,後半部の「.NET」の文字部分は,組織種別としてネットワーク事業者を示すコード「.net」を大文字で表したものであること,引用商標が,みずほフィナンシャルグループの取扱いに係る役務「銀行業務」及び「証券業務」に使用されて,遅くとも本件出願時に,取引者・需要者間において広く認識されており,かつ,その状態が現在においても継続していることは,当事者間に争いがない。
( ) 本願商標は,上記のとおりのものであって,「NET」の文字部分が2「.」(ピリオド)で区切られており,しかも,組織種別を表すコードであると把握,理解されるのが通常であるので,自他役務識別機能を有するのは「MIZUHO」の文字部分であるというべきところ,この文字部分は,周知著名な引用商標である「MIZUHO」と同一であるから,本願商標と引用商標とを対比すると,「MIZUHO」の文字部分において外観,称呼が一致し,かつ,全体的な観念においても共通するものである。したがって,本願商標の文字に接した取引者・需要者は,みずほフィナンシャルグループによるネットワーク事業であるとの意味に理解する可能性が高いものというべきである。
証拠(乙1の1〜12)からもうかがわれるとおり,本件出願時の前後を通じ,みずほフィナンシャルグループが,引用商標を使用して,「銀行業務」又は「証券業務」に関連した役務を提供していることは公知の事実であるところ,本願商標を本件指定役務に使用した場合,みずほフィナンシャルグループ,あるいは,その同グループの「銀行業務」又は「証券業務」に関連した役務と同一,あるいは,極めて密接な関係を有する役務となり,取引者・需要者が共通することは当然である。
そうすると,上記の場合に,株式会社みずほホールディングス及びそのグループ会社,あるいは,同会社と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の取扱いに係る役務であるかのように誤解されて,役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきであり,本願商標は,本件指定役務のうちの本件銀行証券関連役務において,商標法4条1項15号に該当するといわなければならない。
( ) 原告は,登録商標「みずほねっと」に対し,後願の登録商標「MIZUH3O」が設定登録されているから,特許庁は,登録商標「みずほねっと」と登録商標「MIZUHO」とが取引の実情等に照らし,役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがないと判断したものと認められ,この判断は本件にも当てはまる旨主張する。
しかし,原告主張の事例は,本件とは事案を異にしており,また,同事例における特許庁での扱いを一般原則とすべき根拠を認めることもできないのであり,原告の上記主張は失当というほかない。
( ) 原告は,本願商標「MIZUHO.NET」は,ドメイン名であり,電子4メールサービス,ウェブサイトを用いた情報提供役務に使用されるのであるから,引用商標との間で,役務の出所について混同を生ずるおそれはない旨主張する。
しかし,本件において問題となるのは本件指定役務であって,電子メールサービス,ウェブサイトを用いた情報提供役務ではない。原告の上記主張は,そもそも前提を欠いており,失当というほかない。
なお,原告は,本願商標がドメイン名であることをいうが,「MIZUHO.NET」という標章につき,一定の役務を指定役務とする商標として登録出願しているのであるから,自他役務の識別標識として使用することを予定していることが明らかというべきである。
( ) 原告は,本件指定役務のうち,「銀行業務」,「証券業務」等と類似する5とはいえない「中古自動車の評価に関する情報の提供」などについては,役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがないから,本件指定役務のすべてについて商標法4条1項15号に該当すると判断するのは誤りである旨主張する。
しかし,商標法15条は,「審査官は,商標登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定しているのであり,同法16条の「審査官は,政令で定める期間内に商標登録出願について拒絶の理由を発見しないときは,商標登録をすべき旨の査定をしなければならない。」との規定とあいまって,商標法は,一つの商標登録出願について,拒絶査定か登録査定かのいずれかの行政処分をすべきことを定めているのであり,指定役務ごとにこれらの行政処分をすることは予定していない。このことは,商標法が,商標登録無効の審判について,「商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において,商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」(46条1項柱書)と明文で規定し,設定登録査定という行政処分をした後には,各指定商品又は指定役務ごとに,商標登録の無効審判の申立てをすることができることを明記しているのに対し,同法15条及び16条においては,これと対照的に,「商標登録出願について」拒絶査定か登録査定かのいずれかの行政処分をすべきことを明記していることからも明らかというべきである。
商標法が,上記のような制度とした理由の一つは,特許庁の審査官が大量の商標登録出願の審査について迅速な処理をすべき要請があることによるものであるが,他方,出願人においては,拒絶理由の通知(同法15条の2,3),手続の補正(同法16条の2)又は出願の分割(同法10条)により適切な対応をすることが可能なのであって,出願人が不当に不利益を被る結果となることのないように手続的な手当てもされているものである。
以上のとおりであって,一つの商標登録出願に係る指定役務の一部に拒絶すべき理由があれば,当該商標登録出願は全体として拒絶査定を受けるべきものと解すべきであるから,本件において,前示のとおり,本件指定役務のうちの本件銀行証券関連役務において商標法4条1項15号所定の拒絶理由がある以上,その余の本件指定役務について役務の出所の誤認混同を生ずるおそれがあるか否かについて検討するまでもなく,上記のとおり本件出願には拒絶すべき理由があるといわなければならない。
( ) したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
63以上のとおり,本件拒絶査定不服審判請求が成り立たないとした審決の結論に誤りはないというべきであり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明