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関連審決 不服2002-1460
関連ワード 識別力 /  包装 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  周知性 /  取引の実情 /  国内 /  補正 /  使用許諾 /  社団法人 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10821号 審決取消請求事件
原告 株式会社サカタのタネ
訴訟代理人弁理士松田治躬
同 松田雅章
同 近藤史代
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人津金純子
同 中村謙三
同大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が不服2002-1460号事件について平成17年10月14日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年12月6日,「アンデス」の片仮名文字を標準文字で横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を第31類「メロンの種子,メロンの苗,メロン」として,商標登録出願(商願2000-137808号,以下「本願」という。)したが,平成13年12月26日付けの拒絶査定(以下「原査定」という。)を受けたので,平成14年1月28日,これに対する不服の審判を請求し,本願の指定商品を「メロン」に減縮する補正をした。特許庁は,上記請求を不服2002-1460号事件(以下「本件審判」という。)として審理した上,平成17年10月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年10月31日,その謄本を原告に送達した。
2 本件審決の理由別紙審決書写しのとおりである。要するに,「アンデス」の文字からなる本願商標は,これをその指定商品である「メロン」に使用しても,単にメロンの一品種名を表示する語として認識されるにすぎず,自他商品の識別標識とはなり得ないものであって,単に商品の品質を表示するにすぎないから,商標法(以下,単に「法」という。)3条1項3号により商標登録を受けることができない,とするものである(なお,本願の出願日が平成12年12月6日であることは,当事者間に争いがなく,また,本願は,その願書が郵便により提出されたものであるが,その差し出しの日時が明らかでなく,特許庁への到達日が平成12年12月6日であることが認められる(乙1)から,本件審決において,「平成12年12月4日に登録出願」(審決書1頁下から15行〜下から14行)とあるのは,「平成12年12月6日に登録出願」の誤記と認めるのが相当である。)。
原告主張の取消事由の要点
本件審決は,本願商標が法3条1項3号に該当すると誤って判断したものであり(取消事由1),また,本願商標が法3条1項1号に該当するとした原査定とは異なり,法3条1項3号に該当すると判断したにもかかわらず,拒絶理由を通知することなくされたものであって,本件審判の手続は違法であるから(取消事由2),取り消されるべきである。
1 取消事由1(法3条1項3号該当性判断の誤り)本件審決は,「『アンデス』の文字からなる本願商標は,これをその指定商品である『メロン』に使用しても,単にメロンの一品種名を表示する語として認識されるにすぎず,自他商品の識別標識とはなり得ない」(審決書4頁8行〜11行),「甲第1号証ないし甲第16号証(判決注:本訴の甲6〜33,40〜43,45,46,50〜58)……は,『アンデス』の文字がメロンの一品種名であることを説明するにすぎないものであって,請求人(判決注:原告)の商標として自他商品識別機能を果たし得るものであることを何等証明するものではない」(審決書4頁17行〜20行),「本願商標は,これをその指定商品に使用するときは,単に商品の品質を表示するにすぎない」(審決書4頁22行〜23行)と認定・判断したが,誤りである。
(1) 法3条は,自他商品識別機能を商標が本来的に備えるべき特性(絶対的登録要件)として規定するものであるのに対し,法4条は,商標を拒絶すべき公益的な理由及び相対的な理由を規定するものであるから,品種名が本来的に自他識別機能を発揮し得ない一般的な表示であれば,法3条に明文で規定されるべきものである。ところが,法3条にはそのような規定がない一方,法4条1項14号が種苗法による登録品種の品種名を商標登録することができない旨規定し,種苗法による登録品種について特に登録性が否定されている。これは,種苗法による新品種の育成保護という政策的な配慮や育成者権を有する者との相対的な利益関係の調節を目的とするものであって,品種名であるというだけで直ちに自他商品識別機能を欠くというものではないことを意味するものである。
一方,社団法人日本種苗協会の野菜品種名登録(以下,単に「野菜品種名登録」という。)は,種苗業界の自主的な品種名登録であって,種苗法による登録品種とは異なり,野菜種子の異品種同名称等による販売業者及び需要農家の誤認混同を防止することを目的とするものである(甲15)から,商品の出所の誤認混同を防止し,公益の保護を図ろうとする法の目的と相容れないものではない。むしろ,野菜品種名登録に係る品種名については,商品たる種苗の誤認混同を防止し,適正な商取引を維持するために,法による保護が積極的になされるべき場合があるというべきである。なお,種苗業界では,品種あるいは普通名称と理解される名称に係る商標であっても,登録されたものが多数あり(甲56〜58,64,65,69〜74,78〜81,83〜115),自他商品識別機能を有すると認められた品種名が多数存在する。また,本願商標の指定商品である果実のメロンを取り扱う業界においては,品種名と商標の取り扱いや認識が曖昧であり,登録商標を品種名と同様に理解したり,品種名であるにもかかわらず,一定の出所表示機能を果たす標章と理解したりしている。
本願商標が使用されるメロン,すなわち「アンデスメロン」は,原告が昭和52年に開発した新品種の品種名であって,野菜品種名登録を受けており(甲15),種苗法による品種登録は受けていない。すなわち,本願商標は,種苗法による登録品種の品種名ではなく,野菜品種名登録の品種名に係るものであるから,本願商標の商標登録の可否を判断するに際しては,自他商品識別機能の有無を,取引の実情に鑑み,詳細に検討することが必要であるというべきである。
しかるに,本件審決は,本願商標が個別具体的に自他商品の識別機能を有するか否かを検討することなくなされたものであって,審理不尽の違法がある。
(2) 本願商標が使用されるメロン,すなわち「アンデスメロン」は,片親であるネット系アールスメロン(マスクメロン)と他の別種の片親とを交配させた一代交配種で,採種された種を播いても同品種の「メロン」を収穫することはできないところ(甲50,51),種苗を生産するための交配方法は原告のみが知るノウハウであり,他社が種苗を供給することは不可能であるから,「アンデスメロン」は,原告から供給される種苗を購入した生産農家等が播種育成することにより得られた収穫物として市場に供給されるものであり,原告からの種苗の供給なしに市場に供給されることはあり得ない(甲16〜32)。「アンデス」との名称は,原告の生産販売に係るもの以外には,メロンの種苗について使用される例はなく,原告のメロンの品種名として,種苗業界内では認識されている(甲42,45)。また,原告から供給される「アンデスメロン」の種苗を購入した生産農家等が,どの時期に播種・収穫し,どの程度の量を市場に供給するは,原告の与り知らないところではあるが,「アンデスメロン」と称される商品「メロン」の絶対収穫量は,唯一原告のみが左右し得るものであって,原告から供給される種苗を購入した生産農家等は,原告より黙示の使用許諾を受けた者と認めて差し支えないから,「アンデス」との名称は,収穫物であるメロンについても,一定の出所から生じたことを識別させるものである。したがって,本願商標は,自他商品識別機能を発揮し得るものである。
本件審決は,書籍,新聞等において,本願商標が,品種としてあるいは一般的な商品名として普通に使用されている事実を掲げるが,それは,本願商標が,普通名称化あるいは一般化したものだからではなく,市場で名声を馳せ,周知著名であって,他に呼び名が存在せず,これを使用しなければ商品が特定できないためであるから,本願商標は,極めて甚大な識別力,周知性を兼ね備えあるいは獲得したものであるというべきである。
なお,市場では,他の品種のメロンを「アンデス」と偽って出荷される例があり(甲41),本願商標の登録が認められないと,このような偽物を排除することが困難となり,原告のみならず,消費者の利益にも反することになるし,そもそも偽物の問題が生ずるということは,本願商標が,周知著名性を有することの証左でもある。
以上のとおり,本願商標は,指定商品「メロン」に関し,自他商品識別標識としての機能を十分備え,現実にこれを発揮しているのであるから,品種名であるという理由でその自他商品の識別標識たる機能を否定されるものではなく,法3条1項3号に該当するものではない。
2 取消事由2(本件審判の手続の違法性)原査定は本願商標が法3条1項1号に該当するとしたが,本件審決は,原査定とは異なり,本願商標が法3条1項3号に該当すると判断した。しかるに,本件審判の手続においては,法3条1項3号に基づく拒絶理由の通知がなされないまま,本件審決がされた。
3条1項1号が商品の普通名称に関するものであるのに対し,法3条1項3号は商品の一般的な記述的表示に関するものであって,両者は要件を異にするから,法3条1項1号に基づく拒絶理由と法3条1項3号に基づく拒絶理由とでは,原告の意見陳述も異なるものとなり得る。すなわち,本願商標につき法3条1項1号に基づく拒絶理由を受けた原告は,指定商品に関する業界内の意識を問題として,法3条1項1号該当性を争ったにとどまる。もし,本件審判の手続において,本願商標が法3条1項3号に該当するとの拒絶理由に接していれば,原告は,業界内の意識を問題とすることなく,一般に,本願商標が自他商品識別機能を発揮し得るもので,かつ,一私人たる原告の独占に適応するものであることを主張立証しようとし,更に法3条2項に定められた使用による顕著性の獲得を主張立証することを検討することもできた。本件審判の手続において,原査定(甲34)及び証拠調べ通知書(甲47)により通知された職権証拠調べの結果について,原告に意見を申し立てる機会が与えられていたとしても,それは法3条1項1号該当性についてのものでしかなく,法3条1項3号該当性についての意見を申し立てる機会が与えられたということはできない。
このように,本件審判の手続には,法55条の2で準用する法15条の2に違反するという重大な瑕疵があるから,本件審決は取り消されるべきである。
被告の反論の要点
本件審決の認定・判断は正当であって,原告主張の誤りはなく,また,本件審判の手続に違法はないから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(法3条1項3号該当性判断の誤り)について(1) 法3条1項3号には,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期……を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」が規定されているところ,商品が野菜や果実等の種苗又はその収穫物である場合,その品種名は,商取引に際し当該商品を表示するため,又はその商品の特性を表示記述するために,必要適切な表示として,これを表示することを,何人も欲するものであるから,特定人による,その独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであると解される(同趣旨の判例として,最高裁(昭和53年(行ツ)第129号)昭和54年4月10日判決)。
しかるところ,書籍や新聞記事あるいはインターネットにおいて,「アンデス」又は「アンデスメロン」は,メロンの一品種名として掲げられているところであり(乙10〜37),本願商標を構成する「アンデス」の文字は,「メロン」の一品種名を表すものとして,取引者,需要者間に,広く知られており,メロンの一品種名と認識されるにすぎず,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものといわざるを得ない。また,アンデスメロンの栽培農家や小売事業者等アンデスメロンを取り扱う事業者は,昭和51年の野菜品種名登録(甲15)の後,永年にわたり,品種名として「アンデス」又は「アンデスメロン」の表示を使用し,今後も当該表示を使用しなければならないものと推測されるところであるから,本願商標を原告が独占することは不適当といわざるを得ない。
したがって,本願商標は法3条1項3号に該当するというべきであり,本件審決の判断に誤りはない。
なお,原告は,審理不尽を主張するが,本願商標は,原告がメロンの新品種として「アンデスメロン」を育成した当初はともかく,本件審決時においては,取引者,需要者を含め一般にメロンの一品種名として広く知られていたものと十分窺えることは上記のとおりであり,審理不尽はない。
(2) 「アンデスメロン」について,種苗の販売を原告が独占し,原告以外の他の種苗関係事業者が「アンデス」ないし「アンデスメロン」の表示を使用していないとしても,本願商標の「アンデス」の文字が,品種名として取引者,需要者を含め一般に広く知られており,メロンの品質を表す表示と認識されることは,上記(1)のとおりである。また,原告は,本願商標を指定商品「メロン」について自ら使用しているわけではなく,原告から供給される「アンデスメロン」の種苗を購入した生産農家等が,どの時期に播種・収穫し,どの程度の量を市場に供給するかは,原告の与り知らないところである旨述べているとおり,原告は,本願商標について自己の商標としての管理をしていない。したがって,本願商標が原告の商標として周知性を有しているということはできない。
なお,原告は,アンデスメロンの偽物の存在を指摘するが,それは,種苗又はその収穫物の販売行為が不正競争に該当するか否かという問題であって,商標登録により保護を求めるべき問題ではない。
また,原告の挙げる登録例は,その指定商品との関係において,それぞれの取引の実情等に則し,その時点で個別具体的に判断され登録されたものである。これと同様に,本願商標の判断も,その指定商品との関係等取引の実情を考慮して個別具体的に判断されるべきものであるから,原告の挙げた登録例等に左右されるものではない。
2 取消事由2(本件審判の手続の違法性)について本件審決は,原査定と適用条項の号が異なるものの,メロンの一品種名を表した商標であるとして,自他商品の識別標識としての機能を果たさない商標と判断したことに何ら変わりはなく,この点において,原査定と実質的に相違するものではない。
しかも,原告は,原査定に対しても,本件審判の手続においても,本願商標が品種名であるとしても自他商品識別標識として機能し得ている旨の意見を述べており,拒絶の理由及び証拠調べの結果について,意見を述べる機会が与えられていたものである。
したがって,本件審判の手続は,法55条の2第1項で準用する法15条の2に違背するものとはいえない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(法3条1項3号該当性判断の誤り)について(1)ア 法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであるとともに,商品の品質その他の特性については,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないことによるものと解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。
イ これを本件についてみるに,証拠(乙10〜34,甲8〜10,15,31,33,52,53)によれば,本願商標に係る「アンデス」との語,あるいはこれを含む「アンデスメロン」との語は,メロンの品種ないし品目の一つを表すものとして,各種事典類,新聞記事情報などの刊行物やインターネットホームページに掲載されていることが認められ,これらの事実及び弁論の全趣旨によれば,本件審決当時,「アンデス」との語は,メロンの品種名として,取引者,需要者を含め,一般に広く知られているものと認めるのが相当である。
このように,「アンデス」との語は,メロンの品種名として,取引者,需要者を含め,一般に広く知られているものであるから,本願商標を指定商品である「メロン」に使用する場合は,当該商品の品質(当該品種に応じた品質)を表示するものとして認識されるものであり,後記(2)で説示するとおり,本願商標が自他商品識別機能を有するものとも認められないから,これを特定人に独占使用させることは公益上適当でないものと認めるのが相当である。
ウ 原告は,本件審決は本願商標が自他商品の識別機能を有するか否かを検討することなくなされたものであるから,審理不尽の違法がある旨主張するが,本件審決が,本願商標が自他商品の識別機能を有するか否かを検討した上,これを否定したものであることは,その説示に照らし明らかである。原告の上記主張は,本件審決を正解せずにこれを論難するものであって,採用することができない。
(2)ア 原告は,原告の生産販売に係るもの以外には,「アンデス」との表示を用いて種苗を取り扱う例はないから,本願商標が自他商品識別機能を有する旨主張する。
しかし,弁論の全趣旨によれば,原告は,本願商標を指定商品である「メロン」について,自ら使用しているものではないことが認められるところ,メロンの「種苗」を原告が独占しているとしても,「アンデス」との語が,当該種苗の収穫物である「メロン」の品種名として,取引者,需要者を含め,一般に広く知られていることは前記(1)のとおりであるから,「種苗」の独占をもって,直ちに本願商標が,その指定商品である「メロン」について,自他商品識別機能を有するものと認めることはできない。
イ 原告は,原告から供給される種苗を購入した生産農家等が本願商標についての黙示の使用許諾を受けた者に該当する旨主張する。
しかし,本件記録を検討しても,原告が供給する「アンデスメロン」の種苗を購入した生産農家等による「アンデス」ないし「アンデスメロン」との表示の使用について,使用許諾を前提とした具体的な取引行為が行われている事実,その他原告が収穫物であるメロンについて当該表示を自己の商標として管理していることを基礎付ける事実を認めるに足る証拠は見当たらない。
ウ 原告は,他の品種のメロンを「アンデス」と偽って出荷される例があり,本願商標の登録が認められないと,このような偽物を排除することが困難となり,原告のみならず,消費者の利益にも反することになるし,そもそも偽物の問題が生ずるということは,本願商標が,周知著名性を有することの証左でもある旨主張する。
甲41(日経レストラン2001年1月号40頁〜43頁)には,「主力のアンデスは5月上旬の時期に出荷できるのはMかLAがせいぜいですが,肉質が緩く,味は1ランクも2ランクも落ちるローラン種はこの時期,一回り大きい2Lクラスが穫れる。それを逆手に取って,県内の一部の任意組合の農家がローランをアンデスと偽って紛れ込ませて出荷した。今年の春メロンの場合,出荷量の3分の1に上ります。外見では簡単には分かりませんが,ローランは3,4日で実が緩むから,消費者から『食べられない』という苦情が多数寄せられ,その結果,県全体でメロンの販売高が13%前後も落ち込んだ。」(43頁左欄10行〜20行)との記載があり,これによれば,他の品種のメロンが「アンデス」と偽って出荷された例があったことが窺われる。しかし,上記の例は,商品の出所を偽ったものというよりは,商品の品質,内容を偽った行為というべきであって,本願商標が自他商品識別機能を有することに乗じたものとは認められない。
また,このような行為は,不正競争防止法における不正競争行為となり得るものであって,その排除に本願商標の登録が不可欠というものではない。
エ 原告は,商標として登録された例や,業界の一般的な事情を云々するが,いずれも本願商標が自他商品識別機能を有するか否かとは直接かかわりのない事情にすぎないものというべきである。
オ 上記アないしエのほか,本件記録を検討しても,本願商標が指定商品である「メロン」について自他商品識別機能を有することを認めるに足る証拠は見当たらない。
(3) 以上によれば,「アンデス」の片仮名文字を標準文字で横書きしてなる本願商標は,これをその指定商品である「メロン」に使用しても,単にメロンの一品種名を表示する語として認識されるにすぎず,自他商品の識別標識とはなり得ないものであって,単に商品の品質を表示するにすぎないものというべきであるから,本願商標が法3条1項3号に該当するとした本件審決の認定・判断に誤りがあるとはいえず,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件審判の手続の違法性)について原告は,本件審決は,本願商標が原査定の挙げた法3条1項1号ではなく,法3条1項3号に該当すると判断したにもかかわらず,法3条1項3号に基づく拒絶理由の通知がなされないまま,本件審決がされたので,本件審判の手続には,法55条の2で準用する法15条の2に違反するという重大な瑕疵がある旨主張する。
そこで検討するに,法3条は,商標登録の要件を定めたものであって,同条1項は,自己の業務に係る商品又は役務についての識別力あるいは出所表示機能を欠く商標を列挙するものであるところ,その規定の体裁及び内容等からみて,同項1号から5号までの規定は,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を例示的に列挙するものであり,同項6号の規定は,同項1号から5号までにおいて例示的に列挙されたもの以外に,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を総括的,概括的に規定しているものと認められる。
本件において,原査定(甲34)で援用された拒絶理由通知書(甲3)は,本願商標が法3条1項1号に該当するものとし,本件審決は,本願商標が法3条1項3号に該当するものとしているところ,法3条1項の該当性の判断に関しては,本願商標に係る「アンデス」の文字がメロンの一品種を示すものであることを前提として,原査定においては,これを「指定商品に使用しても,その商品の普通名称であると認識されると判断するのが相当であり,自他商品の識別標識としての機能を有するものとはいえない」(甲34の2頁14行〜16行)とし,本件審決においては,これを「指定商品である『メロン』に使用しても,単にメロンの一品種名を表示する語として認識されるにすぎず,自他商品の識別標識とはなり得ない」(審決書4頁9行〜11行)ものであり,「本願商標は・・・単に商品の品質を表示するにすぎない」(審決書4頁22行〜23行)とするものである。すなわち,原査定と本件審決とは,いずれも本願商標からメロンの一品種との認識が生じることを前提として,これを指定商品に使用しても自他商品の識別標識としての機能を有するものではなく,法3条1項所定の商標登録の要件を欠く商標に該当するという共通の結論に至るものであるから,両者は,その判断の内容において実質的に相違するものではなく,本件審決が,実質的に新たな拒絶理由を示したものということはできない。そうすると,本件審決には,「拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。」とする,法55条の2第1項で準用する法15条の2に違反するところはなく,原告の主張は採用することができない。
なお,原告が,上記拒絶理由通知書(甲3)に対する意見書(甲4)において,「拒絶理由通知が指摘した特徴を有する『メロン』は,出願人である『株式会社サカタのタネ』……が昭和52年に交配開発した新品種の『アンデス』を指摘するものであり,この『アンデス』の名称は,昭和53年に業界の自主登録がなされ,現在に至るもなお,出願人のみの使用する商標として,他の業者の使用する『メロン』(ネットメロン)と確実に区別されている商標である。」(1頁下から3行〜2頁3行),「出願人において『種苗法による登録』も行ったことはなく,且つ,南米にこれと符合する山脈,及び,都市が存するとしても,商品『メロン』及びこの関連商品について,拒絶理由通知で普通名称と錯覚するほどの著名性を有するものであり,該商品に関して,日本国内においては,十分に自他商品識別力が存することを確信するものである。」(4頁5行〜9行)と主張し,また,証拠調べ通知書(甲47)に対する意見書(甲48)において,「このような記載は,甲第1号証の3(判決注:本訴の甲8)の書籍『メロンの作り方』23頁の第2表『主要ハウスメロン・露地メロンの分類』においても,『分類』の下に『それに属する≪品種≫』として,多くの名称が並んでおり,この中に『品種名』として本願商標の『アンデス』も記載されている。この表を,前記同様『甲第3号証・甲第4号証・甲第8号証(判決注:本訴の甲15,16〜29,33)』により,業者名と一致させて見ると,甲第15号証(判決注:本訴の甲54)下段の如く数件の不明を除き,殆ど業者名が特定でき,その業者固有の商標として出所表示機能を完全に有していることが確認できるところであり,『品種』と呼ばれることにより,出所表示機能を喪失しているものではない。」(7頁下から4行〜8頁5行),「原審の平成13年12月26日発せられた拒絶査定は,『同協会(社団法人日本種苗協会)の会員である種苗の販売業者及び需要農家においては,この自主的登録によって野菜種子の名称の誤認混同が生じる可能性が低く保たれている』と認定し,未だ,出所表示機能が存していることを認めている。」(8頁下から5行〜末行)と主張していることに照らせば,原告は,本願商標に係る「アンデス」の文字がメロンの一品種を示すものであることを前提として認めた上,本願商標が自他商品の識別標識としての機能を具備するとは認められないとの結論が誤りであって,「アンデス」の文字が特別顕著性を有する旨反論しているのであり,本願商標が単に商品の品質を表示するにすぎないから,法3条1項3号に該当するとの本件審決が示す拒絶すべき理由に対しても,実質的に反論しているものと認められる。そうすると,仮に,本件審決の認定判断が原査定と相違するものと解しても,この点が原告にとって不意打ちとなるものではなく,実質的な不利益は生じていないというべきであって,原告主張の点は,本件審決を取り消すべき違法には当たらないというべきである。
原告は,法3条1項1号が商品の普通名称に関するものであるのに対し,法3条1項3号は商品の一般的な記述的表示に関するものであって,両者は要件を異にするから,法3条1項1号に基づく拒絶理由と法3条1項3号に基づく拒絶理由とでは,原告の意見陳述も異なるものとなり得る旨主張するが,上記説示したところに照らし,採用することができない。
よって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。