運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 取消2005-30991
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ15商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ276審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ277審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ279審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ278審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  使用事実 /  指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  著名商標 /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  通常使用権 /  専用使用権 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  使用義務 /  使用許諾 /  存続期間 /  無効審判 /  更新登録 /  社団法人 /  同一の商品 /  外国 /  継続 /  非類似 /  同業者 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 18年 (行ケ) 10375号 審決取消請求事件
原告エ スエス製薬株式会社
訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同 小出俊實
同 石川義雄
同 幡茂良
同 橋本良樹
同 潮崎宗
被告東 光薬品工業株式会社
訴訟代理人弁護士渡辺正造
同弁理士稲木次之
同 加藤和彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が取消2005−30991号事件について平成18年7月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯被告は,「イブペイン」の片仮名文字を横書きしてなり,指定商品を第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液」とする商標登録第3260011号商標(平成6年4月26日商標登録出願,平成9年2月24日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成17年8月11日,被告を被請求人として,本件商標の通常使用権者であるラクール薬品販売株式会社(販売元,以下「ラクール薬品販売」という。)及び三友薬品株式会社(製造元,以下「三友薬品」という。)(以下,この両者を併せて「本件通常使用権者」という。)が指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって,原告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとして,商標法53条1項の規定に基づき,本件商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求した。特許庁は,同請求を取消2005-30991号事件として審理した結果,平成18年7月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
2審決の理由審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件通常使用権者による商品「解熱・鎮痛剤」についての本件商標に類似する「EVEPAIN」の使用は,その使用によって,他人の業務に係る商品(役務)と混同を生ずるものをしたとは認められないから,本件商標の登録は,商標法53条1項の規定により取り消すことができないとした。
第3原告主張の審決取消事由審決は,商標法53条1項の解釈適用を誤り(取消事由1),本件使用商標と引用商標の類否,出所混同のおそれの判断を誤り(取消事由2),また,審理を十分に尽くさなかった(取消事由3)結果,本件商標の登録は,商標法53条1項の規定により取り消すことができないとしたものであって,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(商標法53条1項の解釈適用の誤り)( )審決は,本件通常使用権者が使用した,「EVEPAIN」との欧文字か 1らなる,本件商標の変形使用に係る商標(以下「本件使用商標」という。)と,別紙1に代表される,「イブ」,「EVE」の文字からなる商標(以下「引用商標」という。)が,外観,称呼,観念において類似するかどうかのみを判断の対象とした上,これらが類似していないとして,他人(原告又は原告と経済上何らかの関係を有する者)の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはなく,登録商標の不正使用もないと判断したものであるが,明らかに,商標法53条1項の解釈を誤っている。
商標法53条1項が規定する不正使用(以下,単に「不正使用」という場合がある。)において,不正使用に係る商標は,登録商標又は登録商標に類似する商標であることは,要件であるが,他人の登録商標に類似するものであることは要件とはされていない。これは,登録商標の変形使用によって他人の業務に係る商品と「混同」が生ずる場合は,外観,称呼,観念等において他人の登録商標に類似するなど,一般的な意味で商標が類似とされる場合のみに限られるものではなく,具体的状況によっては,それ以外の場合にも生じ得るからである。そして,商標法51条1項及び同法53条1項において,登録商標の登録取消しという制裁を課すのは,著名商標の信用に対する不正なただ乗りを阻止する趣旨が含まれているのであって,このような観点から不正使用であるか否かが審理されなければならない。
(2)本件において,商標法53条1項が規定する不正使用の成立要件を充足していることは,以下のとおりである。
ア「登録商標に類似する商標」の使用について,本件商標は,「イブペイン」という片仮名からなるものであり,本件通常使用権者が,本件使用商標である「EVEPAIN」を使用することは,登録商標に類似する商標の使用に該当する。
イ使用権者の行為が,他人の業務に係る商品と「混同」を生ずる行為であるかについて,「混同」には,「広義」と「狭義」の両方の混同を含み,混同及び混同のおそれの認定に当たって,比較すべき他人の登録商標の周知著名性やその商品を取り巻く具体的状況を総合判断して決すべきであるとされている(最高裁平成12年7月11日判決・民集54巻6号1848頁)。そして,不正使用の認定において,他人の登録商標が周知著名であることは,不正使用の要件ではないとされているが,「商標審査基準」においても,他人の周知著名な商標を含んでなる商標に関する出所混同のおそれを防止するための基準が設けられ,商標法4条1項15号に係る基準において,「5.他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は,その外観構成がまとまりよく一体に表示されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め,原則として,商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して,取り扱うものとする。」とされ,同項11号についての基準にも同旨が定められている。
本件において,後記(3)のとおり,原告は,「EVE」,「イブ」との名称の鎮痛・解熱剤(以下「原告商品」という。)を製造販売しており,「EVE」といえば,原告の製造販売する鎮痛・解熱剤であるとして取引者,需要者に広く知られている状況があり,引用商標は周知著名な商標である。そして,別紙1のとおり,原告商品のパッケージ正面において,「EVE」は,その表示面積の半分以上を占めるほど,大きく表示されている点で特徴を有するところ,本件通常使用権者が,「EVEPAIN」,「イブペイン」との名称で販売する鎮痛・解熱剤(以下「被告商品」という。)においても,別紙2のとおり,「EVEPAIN」が,パッケージ正面中央部において,登録商標である本件商標「イブペイン」よりも圧倒的に大きく表示されており,原告の商標表示態様とも共通している。
そうすると,著名商標をそっくり取り込み,これを商品パッケージ正面に,登録商標である本件商標より圧倒的に大きく表示して,著名商標に係る原告商品と同一の鎮痛・解熱剤に使用して販売する行為は,客観的にみて,他人の業務に係る商品と混同を生じさせる行為として評価される。
また,このように引用商標が原告商品に使用される著名商標として厳然として市場に存在する事実があるのに,被告及び本件通常使用権者は,これを十分に認識しながら,登録商標である本件商標を変形し,原告の著名商標をそっくり取り入れ,これを本件商標より大きく表示して同一の商品に使用しているのであり,これは,他人の著名商標の信用に乗じ,これとの関連性を需要者にアピールするため以外の何物でもない。不正使用による商標登録取消制度の趣旨には,他人の周知著名商標に不正に乗じようとする不正行為を防止する意味も含まれるから,上記事実が客観的に認められる以上,これをもって商標法上の不正使用の成立要件としては十分である。
ウ本件においては,通常使用権者による不正使用が問題となっており,不正使用の成立のために「故意・過失」は不要であるが,被告商品は,原告の著名商標が用いられる商品と同じ鎮痛・解熱剤であること,本件商標の登録時期や,本件使用商標が付された商品が薬事法上の医薬品製造承認を受け,製造販売された時期が,原告の「EVE」が既に広く知られた時期であることからも,被告及び本件通常使用権者に故意があることが明らかである。
エ不正使用の要件のうち,商標権者である被告が,本件通常使用権者の不正使用事実を「知らなかった」か,「相当の注意」をしていたかについて,原告は,本件の審判請求をした直後の平成17年8月31日,被告に対し,内容証明郵便により,不正使用を正すべきことを要求したのに対し,被告は,混同のおそれ及び不正使用の事実を全面的に否定し,原告の引用商標の著名性についても争った。しかし,被告のこの主張は,客観的なものではなく,自己の主観に基づくものにすぎないから,被告は,本件通常使用権者による不正使用事実を「知らなかったもの」でも,商標権者として「相当の注意」をしたものでもなく,被告及び本件通常使用権者の行為は,「故意」による不正使用にほかならない。
加えて,被告及び本件通常使用権者による原告の著名商標に対する不正使用行為は本件商標に限られない。被告は,指定商品を本件商標とほぼ同じくする「イブスキット」(登録第4865813号)及び「イブオーレ」(登録第3260010号)の各商標の商標権者であり,これらの商標についても本件通常使用権者である三友薬品に使用許諾しているところ,上記のとおり片仮名で商標登録を受けておきながら,実際の使用態様においては,鎮痛・解熱剤のパッケージにおいて,「イブ」の部分を「EVE」と表示している。このように,被告自らが,「EVE」の使用に固執しており,本件通常使用権者の不正使用について「知らなかった」ものでも,「相当な注意」をしていたものでもなく,むしろ,被告が主導して,不正使用がされているともみられる。
(3)引用商標は著名商標である。
ア原告が,「イブ」,「EVE」の文字からなる引用商標を登録出願したのは昭和55年8月4日であり,設定登録されたのは昭和58年6月30日である。
そして,原告が,引用商標を使用して,鎮痛・解熱剤である原告商品の製造販売を開始したのは,昭和60年12月であり,その販売開始直後の昭和61年1月から,週刊誌,テレビ,業界新聞等で大々的に宣伝広告を行い,テレビでは,ほぼ全チャンネルを通じ,全国規模において宣伝広告を行った。その宣伝広告は,ニューヨークのマンハッタンの摩天楼風景をバックにしたものであり,その宣伝態様が非常に特異であったことから,当時の業界で話題となり,現在でも,多くの同業者の記憶に残っている。
その後,女性が,片手で顔の前に原告商品を掲げる態様の宣伝広告に代わり,現在まで継続して宣伝広告が行われている。
原告商品の宣伝広告費は,事実上の販売の初年である昭和61年には6億7900万円,平成7年までの10年間には合計30億5200万円に上り,平成10年度から平成15年度までの宣伝広告費も5億円以上である。
イ原告商品の販売実績は,被告が本件商標を出願する前年である平成5年度は,販売金額が21億8600万円,市場シェアが全国5位の7.1%であり,平成6年度は,販売金額が前年度より16.7%と大幅に上昇して25億5100万円であって,市場シェアも8.3%に上昇した。平成7年度は,販売金額は前年度より8.7%上昇して27億7200万円であり,市場シェアも9.0%に上昇した。その後も,原告商品の売上げは拡大し,平成17年度には,販売金額は62億1700万円,市場シェアは13.4%,全国3位の著名商品となった。
ウ原告商品は,韓国でも知られるところとなり,昭和61年3月14日付けで,韓国の特許法律事務所から,韓国において,「イブ」,「EVE」について,商標登録出願を勧める旨の案内が日本の事務所にされている。
また,原告の鎮痛・解熱剤,総合感冒薬について,「イブ」,「EVE」が著名であることから,これらの商標と同一又は類似の称呼を生ずるおそれのある商標を用いて鎮痛・解熱剤,総合感冒薬を販売していた同業者は,原告から通告を受けて,原告の上記商標の周知著名性を認め,商標の変更あるいはパッケージの変更等に応じており,その旨の覚書を交わした者は数社に上っている。
エ原告の引用商標「イブ」,「EVE」が,周知著名であることは,特許庁の異議決定,審決においても認められている。
被告は,異議決定,審決において商標の周知著名性が認定された時期が,平成12年及び平成15年である旨主張するが,特に,著名性の取得時期を特定する必要がある場合を除いて,審決等においては,既に確立されている周知著名性を異議,審判の審理において確認するだけであり,審決等の時点において始めて周知著名性が取得されたというものではない。
FAMOUS オ被告は,社団法人日本国際知的財産保護協会発行「/日本有名商標集」(以下「日本有名商標集」TRADEMARKS IN JAPANという。)に,原告の「イブ」,「EVE」が掲載されていないことをもって,引用商標の著名性がない旨主張するが,「日本有名商標集」は,掲載申込みに応募した商標を掲載するものにすぎず,何が周知著名商標であるかは,我が国の市場における実績によって決まるものである。
カ被告は,原告が,本件商標に対し,商標登録無効審判を請求しなかったことを指摘するが,本件において問題となるのは,登録商標でもない本件使用商標「EVEPAIN」を大々的に表示し,原告の著名商標・著名商品にあやかろうとする,現に存在する不正行為である。
( )被告は,本件商標「イブペイン」及び本件使用商標「EVEPAIN」が4周知性を獲得している旨主張するが,失当である。
ア被告は,平成7年1月27日付けで「イブペイン」について医薬品製造承認を受けたと主張するが,この「承認」は,「医薬品」としての製造承認にすぎないから,これをもって,被告が,「イブペイン」を使用することが合理的理由に基づくことの根拠となるものではないし,被告が申請した名称は「イブペイン」であって,「EVEPAIN」ではなく,上記承認は,引用商標の「不正使用」の問題とは何ら関係がない。
被告は,平成7年9月から,「イブペイン」,「EVEPAIN」との名称で被告商品を販売している旨主張するが,本件商標の「イブペイン」が商標登録されたのは平成9年2月24日であり,被告主張によれば,被告は,「イブペイン」の商標登録を受ける1年半も前から,「イブペイン」,「EVEPAIN」の名称を用いて販売を開始したことになり,不自然である。
また,被告及び本件通常使用権者のインターネットにおける記事においては,被告商品の販売について,平成14年9月に,「一般用医薬品『イブペイン』新発売」と記載している。被告は,インターネットの広告において,「EVEPAIN」を大きく表示したパッケージを掲載して販売していたが,本件訴訟の提起後,該当するページを削除した模様である。
イ財団法人日本医薬情報センター編集,株式会社じほう(旧社名・株式会社薬業時報社)発行「一般薬/日本医薬品集」(以下「一般薬/日本医薬品集」という。)は,市場で販売されている医薬品を掲載するものであるところ,被告商品は,その1994-95(平成6年-7年)版及び1996-97(平成8年-9年)版には,掲載されず,1998-99(平成10年-11年)版及び2000-01(平成12年-13年)版には,掲載されたが,2002-03(平成14年-15年)版には,再び掲載されていない。
そうすると,被告商品の販売開始時期も,販売の継続性も極めて疑わしいといわざるを得ない。被告商品は,現在でも大きな薬局や,表通りに面した普通の薬局でみかけることはなく,被告が,どのような販売経路,販売形態をとってきたのかはよくつかめないが,原告商品の著名性にあやかりつつ,最近はインターネットを通じたりして,「見えつ,隠れつ」の状態で販売をしてきたものである。
ウ被告は,被告商品である「イブペインEvepain」及び原告商品の「イブA錠Eve-A」,「イブEve」が,「一般薬/日本医薬品集」に掲載されていることをもって,需要者が両商品を混同していない旨主張するが,同掲載は,単に,市場にある商品について,問題を抱えている商品であるか否かは別として,紹介する目的で編集されるものであって,ここに掲載されていることと,混同が生ずるか否かは,全く無関係である。
2取消事由2(本件使用商標と引用商標の類否,出所混同のおそれの判断の誤り)(1)審決は,引用商標「EVE」,「イブ」が「鎮痛・解熱剤」について著名商標として存在していることを認めつつも,本件通常使用権者が同一商品について使用した本件使用商標「EVEPAIN」は,引用商標に類似するものではなく,商品の出所について混同を生ずるおそれはないと判断したが,誤りである。
(2)審決は,「EVEPAIN」は,「不可分一体に構成され・・・『EVE』と『PAIN』とが軽重の差がなく結合し,分離不能なほどに,一体的な強い結合状態をなしている」(審決謄本15頁下から第2段落)とするが,不可分一体とされる必然性がある場合は,「Evening」のように,結合することにより,一つのまとまった独立の観念が生ずるような場合であり,「EVE」と「PAIN」とが,不可分一体とされるべき必然性は存在しない。
かえって,「EVE」が,原告商品の鎮痛・解熱剤,総合感冒薬に使用されている著名商標であるところからすると,「EVEPAIN」が表示された商品に接した需要者のほとんどは,「鎮痛・解熱剤」か「風邪薬」を想起するものと思われる。
そして,英語の「painkiller」は,「鎮痛剤」を意味し,我が国でも,「ペイン」の語は,医療分野において,苦痛や痛みを取り除くためのクリニック,すなわち,「ペインクリニック」を指すものとして知られ,「日本ペインクリニック学会」を始めとし,様々な病院や医療分野の書物でも使用されているから,「PAIN」の語が「鎮痛・解熱剤」等に関して使用されるときは,一般人に対しても,商品の特性,効能等を直感させる用語として認識される。このような場合において,より強い識別力を発揮する部分は,「EVE」にある。「ペインクリニック」との用語は,自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」においては昭和44年から,集英社発行の「imidas」においては昭和62年から,朝日新聞社発行の「知恵蔵」においては平成2年から掲載されていて,少なくとも,20年以上前から広く使用されてきた。
また,一般的に考えても,日本語をローマ字で表記する場合には,発音に従って定められたローマ字を当てはめていくのが基本であって,その場合,カタカナの「イブ」は,「IBU」と表記するのが普通であり,「EVE」と表記することはない。
( )審決の認定判断は,商標法における不正使用取消審判制度の本来の存在趣3旨を危うくするばかりか,著名商標に対する安易なただ乗りに加担するものである。これは,日本国内ばかりか,近時,諸外国において,日本企業の著名商標が現地語に全部又は一部が翻訳されて使用されている行為を不当行為として主張する根拠を自ら放棄するものというべきであって,その内外に与える危険は計り知れない。
本件は,著名商標ただ乗りと評すべき典型的な事案であって,審決のように,ごく一般的な手法である外観,観念,称呼において非類似との一応の判断に至りさえすれば,出所混同もなく,不正使用も成立しないとすることが是認されるとすれば,著名商標の保護はおろか,商標法51条1項び同法53条1項において不正使用に基づく商標登録取消制度を設けた商標法の趣旨が没却されるし,商標法において商標権者,使用権者に課された基本的義務である登録商標の適正使用義務そのものが根本的に覆ることになる。
3取消事由3(審理不尽の違法)( )商標法53条1項に規定する不正使用といえるかは,登録商標の変更使用1に係る商標が他人の商標と外観,称呼,観念において類似しているか否かだけでなく,その使用が,同項で規定する不正使用の成立要件を充足するか否かを総合的に審理,判断しなければならない。本件においては,登録商標に類似する本件使用商標の使用が,具体的状況に照らし,引用商標や原告商品との関係で,出所混同を生ずるおそれがあるかどうか,本件商標の商標権者である被告が本件使用商標の使用につき相当の注意をしていたかどうか等について審理を尽くす必要があった。ここでいう具体的状況とは,比較すべき他人の商標,商品の周知著名度,使用される商品が同一か否か,需要者が同一か否かといったような取引の実情である。
ところが,審決は,当事者の主張とは別個に,一般的な商標類否判断の際に用いる基準である外観,称呼,観念において,本件使用商標と引用商標とが,類似するといえるかどうかのみを審理したが,この点は,審判における不正使用成立の要件とは関係がなく,上記のような総合的な審理を全くしていないから,審理不尽の違法がある。
( )審決は,本件使用商標における「EVEPAIN」の文字について,登録2商標である本件商標の「当該『イブペイン』の文字よりやや大きく・・・使用している」(審決謄本15頁第1段落)とするが,実際の使用態様は,「EVEPAIN」の文字が,登録商標である「イブペイン」よりも圧倒的に大きく表示され,パッケージ上の表示面積が占める割合も,少なくとも4倍以上であり,これを「やや大きく」と認定することは全く事実をわい曲するものである。また,審決は,「製品パッケージ正面等に併記して使用」(同頁3行目,同21行目も同旨)とするが,「併記」というからには略同格の表示であるべきであるが,本件においては,変形使用に係る本件使用商標を圧倒的に大きく表示する一方,登録商標の方は,むしろ「付記的」ともいえる程度に表示されているのであって,上記の程度にまで圧倒的に大きさが異なる表示を「併記」というのは当たらない。これらの事実について,「以下については,当事者間に争いがない。」(審決謄本14頁下から8行目)と一括摘示するのは誤りである。
また,「商標審査基準」においては,他人の著名商標を含む商標は,「その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものも含め,原則として,その他人の登録商標と類似するものとする」,「原則として,商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して,取り扱うものとする」とされているのに,審決は,それと異なる特別の事情等を述べることなく,この原則を無視した認定判断をしている。
第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(商標法53条1項の解釈適用の誤り)について( )原告(請求人)は,審判において,被告の本件商標である「イブペイン」1及びこれを欧文字に表示した「EVEPAIN」の標章を付して鎮痛・解熱剤を販売する行為が,原告の著名商標「EVE」との類似性,関連性を需要者に与え,需要者に対し,原告商品の関連商品であるか,あるいは原告と何らかの業務上の関連を有する者により提供される商品であるかのごとく誤認,混同を生ずると主張していた。
これに対し,審決は,「本件通常使用権者が商品『解熱・鎮痛剤』について使用しているとするその使用態様は,『イブペイン』の片仮名文字と『EVEPAIN』の欧文字よりなるものであるところ,請求人(注,原告)が同一商品について使用しているとする使用商標は,『EVE』『イブ』よりなるものであるから,本件商標に類似する商標の使用である『EVEPAIN』と『EVE』『イブ』とについて考察するに,使用に係る『EVEPAIN』は,・・・不可分一体のものとして機能するものであるから,請求人(注,原告)使用に係る『EVE』『イブ』とは,外観上明らかに相違し,称呼においても,5音と2音という,音数に明白な差異を有し,紛れるおそれはなく,観念上も比較すべきところのないものである。してみれば,請求人の使用に係る『EVE』『イブ』の商標が商品『解熱・鎮痛剤』について永年盛大に使用された結果,その種商品の需要者間に請求人の業務を表すものとして広く知られるに至っていることを認め得るとしても,請求人の使用に係る『EVE』『イブ』と本件通常使用権者の使用に係る『EVEPAIN』とは,何ら紛れるところがなく,本件通常使用権者の使用する『EVEPAIN』は,その使用によっても,請求人又は請求人と経済上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというを相当とする。」(審決謄本16頁第3段落〜第4段落)とした。
審決の認定判断のように,引用商標「EVE」と,本件使用商標「EVEPAIN」又は本件商標「イブペイン」は,何ら類似していないものであるから,同一商品について使用したとしても,商品の誤認,出所の混同を生ずるおそれはない。審決は,本件通常使用権者の本件使用商標の使用態様,引用商標の類否等を総合的に検討した結果,商品の誤認,出所の混同のおそれがないものと判断したのであり,商標法53条1項の解釈適用に誤りはない。
( )商品の誤認,出所の混同の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程2度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。
ア原告の引用商標が,現在,需要者に広く認識される商標になったとしても,被告が本件商標を出願した平成6年当時には,未だ周知著名にはなっていなかった。原告は,「EVEPAIN」の本件使用商標は,原告の著名商標「EVE」をそっくり取り入れたなどと主張しているが,被告は,著名でない商標を取り入れる必要もなく,本件使用商標である「EVEPAIN」は,被告の登録商標である本件商標の「イブペイン」を欧文字で表現したものにすぎない。
イ他方,被告は,本件商標及び本件使用商標を平成7年から継続して使用し,現在では,それらは,鎮痛・解熱剤について,被告や本件通常使用権者の商標であることが広く知られているものであり,引用商標と混同することはない。
すなわち,被告は,販売名「イブペイン」として,頭痛等の鎮痛・解熱を効能又は効果とする一般医薬品につき,平成7年1月27日に医薬品製造承認を受け,同年9月から,製造販売元として「イブペイン」の片仮名及び「EVEPAIN」の欧文字からなる商標を付して被告商品を発売した。その後,被告商品について,製造元が三友薬品,販売元がラクール薬品販売となったが,現在に至るまで,「EVEPAIN」との本件使用商標は,「イブペイン」との本件商標とともに,被告又は本件通常使用権者によって,使用されているものである。「一般薬/日本医薬品集」の1998-99(平成10年-11年)版には,原告商品である「イブA錠Eve-A」及び「イブEve」のほかに,被告商品である「イブペインEvepain」が掲載され,同2000-01(平成12年-13年)版にも,原告商品である「イブEve」及び「イブA錠Eve-A」のほかに,被告商品である「イブペインEvepain」が掲載されている。原告は,被告及び本件通常使用権者が,被告商品の鎮痛・解熱剤に「EVEPAIN」の商標を平成7年から使用していた事実を知っていたし,需要者も,原告商品と被告商品を混同することはない。このように10年近い間,原告商品と同様の市場において「EVEPAIN」との本件使用商標が使用されている事実のみをもってしても,本件使用商標の使用によって,原告商品と混同を生じさせるものでないことが明らかである。
ウ原告は,「商標審査基準」を挙げて,本件通常使用権者が,「EVEPAIN」の商標を使用して,鎮痛・解熱剤を販売することが,他人の業務に係る商品と混同を生じさせる行為と評価されるべきである旨主張する。
しかし,商標法53条1項は,商標の専用使用権者又は通常使用権者が,指定商品又はこれに類似する商品について,登録商標又はこれに類似する商標の使用であって,商品の誤認,出所の混同を生ずるものとしたときに,登録商標の登録取消審判の請求をすることができる旨を定めたものであるのに対し,原告が挙げる「商標審査基準」の規定は,出願商標の審査の際の基準であり,商標法53条1項の商品の誤認,出所の混同のおそれの判断の推定基準でない。また,その規定も,「混同を生じさせるおそれがあると推認して取り扱うものとする」というものであり,「看倣す」として取り扱うものでなく,飽くまで推認するものとして取り扱うとしているものである。
エ他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標,商品の品質,役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標は,登録を受けることができないものとされ,登録されたとしても,商標法46条の規定によって無効審判を請求することができるところ,原告が本件商標の登録に対し,同規定に基づく無効審判を請求しなかったのは,原告自身,引用商標が著名とまではなっていないこと及び原告商品と誤認混同を生ずるおそれがないことを自認していたからにほかならない。
( )原告は,引用商標が著名商標であると主張するが,以下のとおり失当であ3る。
ア原告の製造販売する商品の一種類である鎮痛・解熱剤に使用するにすぎない商標が,世界的に著名な「SONY」,「GUCCI」,「イブサンローラン」などと同様のものでないことは当然である。平成10年発行及び平成16年発行の各「日本有名商標集」には,原告の「エスエス製薬」との商標が掲載されているが,「イブ」,「EVE」の商標は見当たらない。
イ原告は,「イブ」,「EVE」文字からなる引用商標を使用して,昭和60年12月から原告商品の販売を開始し,昭和61年1月から週刊誌,テレビ,業界新聞等で大々的に宣伝広告を開始した旨主張する。
しかし,原告提出の証拠によれば,原告は,「都薬雑誌」に,昭和61年,平成5年,平成6年,平成7年に広告を掲載しているが,「都薬雑誌」は東京都在住の薬剤師が加入している任意団体である社団法人東京都薬剤師会の会員に配布されているもので,一般の需要者が入手するのが困難なものであり,一般の需要者,取引者には広告,宣伝の効果は及んでいなかった。また,原告は,昭和61年,日刊新聞に原告商品の広告を掲載しているが,これらは,いずれも同年1月6日付けの新聞であり,新しい鎮痛剤を発売したことを示す1回の広告にすぎず,その後の新聞広告は見当らないのであって,1年や2年,広範囲に宣伝したことによって,商標が著名となることはあり得ない。原告は,その後も多額の宣伝広告費を費した旨主張するが,その真否,方法などは明らかでなく,現在に至るまで,引用商標が,一般の需要者,取引者間において著名性を帯びるに至ったことはない。
ウ原告は,原告商品の販売金額を述べるが,原告商品の販売金額が多額に上るといっても,引用商標が,一般の需要者,取引者間に広く知られ,さらに著名性を帯びた状況には至っていない。また,「イブ」,「EVE」が韓国でも知られているとして提出した韓国の特許法律事務所の案内は,韓国において,引用商標が知られている事実を示すものではないし,「イブ」,「EVE」等の商標の周知著名性を認定した異議決定及び審決の認定時期は,平成12年及び平成15年である。
( )原告は,「一般薬/日本医薬品集」を示し,被告商品が周知性を獲得して4いない旨主張するが,「一般薬/日本医薬品集」の1994-95(平成6年-7年)版は,被告商品が発売された日以前の編集によるもので,被告商品が示されていないのは当然であり,1998-99(平成10年-11年)版,2000-01(平成12年-13年)版には,被告商品である「イブペイン」が,原告商品とともに,掲載されている。そして,そこには,「イブニック」,「イブオーレ」,「イブフロフェン」,「イブプロフェンピコノール」など,「イブ」の語を含む商標又は成分名が示されており,これは,「イブペイン」を含む商品が,原告の業務に係る商品と混同を生ずることなく,また,生ずるおそれがなく,併存していることを示すものである。
また,原告は,被告及び本件通常使用権者のインターネットにおける記事において,平成14年9月に被告商品を新発売したと記載している旨指摘するが,被告は,平成7年9月から,被告商品の製造販売を開始したところ,平成14年4月から,被告の関連会社の三友薬品に製造承認を承継させ,同年9月から被告のグループ企業の製品を総合的に販売するラクール薬品販売で販売を開始したため,被告の企業グループのインターネットのホームページにその旨掲載したものにすぎない。また,原告は被告商品の販売実績につき「見えつ,隠れつ」の状況であると述べているが,販売実績が少ないことが,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとする理由にはならない。
2取消事由2(本件使用商標と引用商標の類否,出所混同のおそれの判断の誤り)について( )本件使用商標の「EVEPAIN」は,一体不可分に表示されており,こ1れから「イブペイン」の称呼が自然に生じ,観念は,需要者には造語として認識され,引用商標の「イブ」,「EVE」とは,称呼においても観念においても類似しない。すなわち,「EVEPAIN」の称呼は,「E」イ,「VE」ブ,「PA」ペ,「I」イ,「N」ン,の5音節からなり,「EVE」は,「E」イ,「VE」ブ,の2音節であって,音数が相違し,称呼上類似せず,観念についても,原告の商標は,「アダムとイブ」の「イブ」を直感するのに対し,本件通常使用権者の使用する「EVEPAIN」は,意味不明である。
「EVEPAIN」との欧文字からなる本件使用商標は,平成7年1月27日付けで薬事法上の医薬品製造承認を受けて同年9月に販売を開始した被告商品に付して使用され,その使用を継続しており,現在,鎮痛・解熱剤として需要者に広く知られているものであり,原告商品の誤認,出所の混同を生じたことはない。
引用商標は,平成10年から平成15年にかけてようやく知られてきたものであり,平成7年ころには,著名とはいえないことはもとより,需要者間に広く知れ渡っているものではなく,被告や本件通常使用権者も,引用商標を意識して,「EVEPAIN」の使用を始めたものではない。
( )原告は,「ペイン」の語は,医療分野において,苦痛や痛みを取り除くた2めのクリニック,すなわち,「ペインクリニック」を指すものとして知られている旨主張するが,「ペインクリニック」という用語は,最近,使用され始めたものである。これは,もともと,医療業界で末期癌患者や神経痛の強烈な疼痛を軽減することを目的とする診療部門に使用されているものであって,一般の需要者において,「ペイン」の語が,「ペインクリニック」を意味する言葉であるとか,「PAIN」の語が,鎮痛・解熱剤を直感させる用語であると認識するものではない。
また,「イブ」を欧文字で表現する場合,「IBU」とするか「EVE」とするかは,当事者の自由な選択にゆだねられていることである。
( )原告は,審決が,不正使用取消制度の存在趣旨についての解釈を誤ってい3る旨主張するが,失当というほかない。
3取消事由3(審理不尽の違法)について( )商標法53条1項は,商標の専用使用権者又は通常使用権者が,指定商品1又はこれに類似する商品について,登録商標又はこれに類似する商標の使用であって,商品の誤認,出所の混同を生ずるものとしたときに,登録商標の登録取消審判の請求をすることができる旨を定めたものであるから,その該当性の判断に当たっては,商品,役務の誤認混同のおそれの有無を判断すべきところ,審決は,本件通常使用権者の商標の使用態様及び本件使用商標が,原告の引用商標と類似しておらず,何ら紛れるところがないことから,商品の誤認混同のおそれはないと判断したものである。商標の類否は,商品の誤認混同の有無の重要な要素をなすものであるから,審決の上記判断に何ら審理不尽の違法はない。
( )原告は,「EVEPAIN」の文字が「イブペイン」よりも圧倒的に大き2く表示され,パッケージ上の表示面積の占める割合が4倍以上もあり,両表示は「併記」に当らないなどと主張するが,両表示の差は約2倍以下であって,審決の「やや大きく」との表現は,適切であり,「併記」とは,並べて書くという意味であって両者の大きさは関係はないから,審決に原告主張の誤りはない。
また,原告は,審決が「商標審査基準」を無視する認定判断をした旨主張するが,原告が挙げる,他人の著名な商標を含む商標に関する基準は,商標法4条1項15号に係る推定を定めたものであって,同法53条1項の誤認混同についての基準ではないから,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断1商標法53条1項は,商標権者からその商標権について通常使用権の許諾を受けた通常使用権者が,指定商品又はこれに類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判の請求をすることができるとして,使用権者の不正使用による商標登録取消審判の制度を定めている。
原告(請求人)は,本件商標について商標権者である被告から通常使用権の許諾を受けた本件通常使用権者が,指定商品についての登録商標に類似する商標である本件使用商標の使用であって原告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとして,上記規定に基づき,本件商標の商標登録を取り消すことについて本件審判の請求をしたこれに対し,審決は,「本件通常使用権者の使用する『EVEPAIN』(注,本件使用商標)は,その使用によっても,請求人(注,原告)又は請求人と経済上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというを相当とする。」(審決謄本16頁第4段落)と判断し,原告は,取消事由1ないし3において,審決の判断の誤りを主張するので,これらを一括して検討する。
2本件通常使用権者による本件使用商標の使用について( )本件商標は,「イブペイン」の片仮名文字を横書きしてなり,指定商品を1第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液」として,平成6年4月26日に商標登録出願がされ,平成9年2月24日に設定登録がされたものであり,被告がその商標権者である。
被告は,平成6年4月14日,販売名を「イブペイン」とし,効能又は効果を「頭痛・歯痛・生理痛・咽喉痛・関節痛・筋肉痛・神経痛・腰痛・肩こり痛・抜歯後の疼痛・打撲痛・耳痛・骨折痛・ねんざ痛・外傷痛の鎮痛,悪寒・発熱時の解熱」とする一般用医薬品の医薬品製造承認申請を行い,その後,同製造承認を得た(乙1)。そして,被告は,「イブペインEvepain」との名称の鎮痛・解熱剤(被告商品)を製造販売し,平成14年以降,被告商品は,本件商標の通常使用権者である三友薬品(製造元),ラクール薬品販売(販売元)により,製造販売されている(甲59,60,63,64,乙1)。
(2)本件通常使用権者は,鎮痛・解熱剤である被告商品の製品パッケージ正面等に,別紙2のとおり,「EVEPAIN」との欧文字からなる本件使用商標を付して,本件使用商標を使用している(甲2の1,甲32の1)。
本件使用商標は,「EVEPAIN」という欧文字からなり,「イブペイン」との称呼を生じ,「イブペイン」との片仮名からなる本件商標と類似する商標であると認められる。
3引用商標の周知著名性について( )原告(請求人)が本件審判の基礎として引用するのは,@「イブ」の片仮1名文字と「EVE」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり,指定商品を第1類「化学品,薬剤,医療補助品」として,昭和55年8月4日に登録出願,昭和58年6月30日に設定登録がされ,その後,平成5年8月30日及び平成15年2月12日の二回にわたり商標権存続期間更新登録がされ,指定商品の書換登録がされた結果,「第5類薬剤」を含むものとなった商標登録第1598640号商標,A「イブ」の片仮名文字からなり,指定商品を第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液」とする商標登録第3065022号商標(平成4年12月4日商標登録出願),B「EVE」の欧文字からなり,指定商品を上記「イブ」と同一のものとする商標登録第3065023号商標(同日商標登録出願)等9件の登録商標であり,原告がその商標権者である(甲3ないし11)。そのうち,本件使用商標と対比される引用商標は,別紙1に代表される,「イブ」,「EVE」の文字からなる上記@ないしBの各商標である。
( )原告は,鎮痛・解熱剤である原告商品の製品パッケージ正面等に,別紙12のとおり,「EVE」の欧文字を大きく太字で横書し,その右横上段に「イブ」との小さな片仮名文字を配した引用商標(「イブ」の直下に「痛み・熱36錠」と付記されている。)及びそれに類似する標章を付して,昭和60年12月から販売を開始し,昭和61年1月,新聞,テレビ,業界紙において,原告商品の宣伝広告を行い,その後も,原告商品を継続的に製造販売するとともに,毎年度,テレビ等で宣伝広告を行った。原告商品の上記宣伝広告には,ニューヨークのビル街をバックに,引用商標が付された原告商品の製品パッケージをかざしたり,女性が顔の前に,引用商標が付された原告商品の製品パーケージをかざすというものなどもあり,これらにおいては,製品パーケージに付された引用商標が強く印象付けられるものである(甲45ないし53,68ないし73)。
昭和61年度から平成15年度までの原告商品に係る原告の宣伝広告費は,対応する各年度において,6億7900万円,4億1400万円,2億9700万円,1億4900万円,1億3500万円,1億9500万円,8600万円,3億3000万円,4億2400万円,3億4300万円,2億9800万円,1億0700万円,1億円,7300万円,1億2500万円,1億0100万円,5500万円,5400万円であり,昭和61年度から平成15年度までの宣伝広告費は,合計35億6000万円である(甲15,45ないし53,56,68ないし73,枝番を付したものは各枝番を含む。以下同じ)。
また,鎮痛・解熱剤の分野において,原告商品の市場シェアは,平成5年度,平成6年度,平成7年度において,それぞれ,7.1%,8.3%,9.0%で,いずれの年度も全国5位であり,平成13年度,平成14年度において,それぞれ12.1%,11.5%で,いずれの年度も全国4位であり,平成15年度,平成16年度,平成17年度において,それぞれ,12.7%,13.0%,13.4%で,いずれの年度も,「バファリン」,「ナロン」に次いで,全国3位である。平成17年度において,鎮痛・解熱剤全体の販売金額は,総額462億9670万円であり,そのうち,原告商品の販売金額は,62億1740万円である(甲13,55)。
上記のような宣伝広告活動の規模やその態様,原告商品の市場シェアの比率や販売金額の大きさ,原告商品における引用商標の表示の態様等を総合すれば,引用商標は,原告の製造,販売に係る鎮痛・解熱剤である原告商品を表示するものとして,遅くとも,市場シェアについて証拠上全国5位であることが認められる平成5年ころまでに,すなわち,本件商標の商標登録出願前には,取引者,需要者に広く認識され,周知著名な商標になり,その後も,周知著名性を維持しているものと認められる。
4本件使用商標と引用商標の類否,出所混同のおそれについて( )本件使用商標は,「EVEPAIN」の欧文字からなるものであるところ,1被告商品における使用態様は,別紙2のとおり,「EVEPAIN」を製品パッケージ正面の上段に白抜きのややデザイン化した欧文字により大きく横書きしているものである。
「EVEPAIN」は,その下に付された片仮名文字からも,「イブペイン」との称呼を生ずるものであるが,それ自体,直ちに一体として特定の観念を生ずるものではない。
他方,「PAIN」ないし「pain」は,「痛み」等を意味する比較的平易な英単語であり,「ペイン」についても,「痛み。苦しみ。」(大辞林第三版)と説明され,「ペインクリニック」は,「神経痛・癌末期の痛みなど,治りにくい痛みの軽減を目的とする診療部門。」(大辞林第三版),「末梢神経・神経叢・神経節などに局所麻酔薬あるいは神経破壊薬を注射して,各種の痛みをとることを専門とする診療部門。」(広辞苑第五版)であって,古くは,自由国民社発行の1969年(昭和44年)版「現代用語の基礎知識」に「ペインクリニック」の語が掲載され,その他,集英社発行の1987年(昭和62年)版「imidas」,朝日新聞社発行の1990年(平成2年)版「知恵蔵」に「ペインクリニック」の語が掲載されている(甲39ないし41)。そうすると,「EVEPAIN」のうち,「ペイン」の称呼を生じる「PAIN」の部分は,これに接した取引者,需要者に,「痛み」の観念を生じさせるものと認められ,特に,原告商品の製品パッケージ正面には,前記3( )のとおり,「痛み・熱36錠」と付記されている2ところ,別紙2のとおり,被告商品の製品パッケージ正面にも「痛み・熱に」と記載されているように,被告商品は,鎮痛・解熱剤であって,「痛み」に関連する商品であり,被告商品においては,「痛み」は,商標が付された商品自体の特性に係るものであるから,このことからも,より一層,「EVEPAIN」のうち,「PAIN」の部分は,「痛み」との観念が生じ得るものということができる。
このことに,「EVE」の欧文字と「イブ」の片仮名文字からなる引用商標が,前記3( )のとおり,鎮痛・解熱剤である原告商品を表示するものと2して,周知著名な商標になっていたこと,被告商品も鎮痛・解熱剤であること,被告商品は,別紙2のとおり,製品パーケージにおいて,引用商標と同様,欧文字を大きく表示するという使用態様であること,「EVEPAIN」は欧文字の7文字で構成され,それを「EVE」」と「PAIN」とに分離することが取引上不自然なほど,不可分に結合しているとまで断定することはできず,審決の「不可分一体に構成され・・・『EVE』と『PAIN』とが軽重の差がなく結合し,分離不能なほどに,一体的な強い結合状態をなしている」(審決謄本15頁下から第2段落)との判断はにわかに首肯し難いことを併せ考慮すると,被告商品に付せられた本件使用商標である「EVEPAIN」に接した取引者,需要者は,それらを「EVE」と「PAIN」とからなるものと理解し,「EVE」の部分においては,周知著名な引用商標を想起するとともに,「PAIN」の部分は,「痛み」との観念を生じ,その商品の特性に係る部分であり,周知著名な引用商標に係る原告商品の関連商品の特性を示す部分として認識され,それ自体としては自他識別力を欠くものと認めるのが相当である。
そうすると,本件使用商標は,原告の製造,販売する鎮痛・解熱剤を表示するものとして周知著名である引用商標をその主要な構成部分に含む商標として,当該構成部分が他の部分から分離して認識され得るものであり,引用商標と観念において類似し,外観,称呼の一応の相違をしのぐものと認められる。
そして,本件使用商標を鎮痛・解熱剤である被告商品に使用したときは,本件使用商標と原告の引用商標とが類似することから,これに接した取引者,需要者に対し,その商品が原告又は原告と何らかの緊密な営業上の関係にある者の業務に係る商品であるかのように,その出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきである。
( )被告は,本件商標「イブペイン」及び「EVEPAIN」との欧文字から2なる本件使用商標は,平成7年から使用を継続し,現在では,鎮痛・解熱剤について,被告や本件通常使用権者の商標であると広く知られているものであり,引用商標と混同することはない旨主張する。
確かに,被告は,販売名「イブペイン」として,頭痛等の鎮痛・解熱を効能又は効果とする一般医薬品につき,平成6年4月14日に医薬品製造承認申請を行い,その後,その製造承認申請を得たこと,被告が,製造販売元として,「イブペインEvepain」との名称の鎮痛・解熱剤(被告商品)を発売したこと,「一般薬/日本医薬品集」の1998-99(平成10年-11年)版及び2000-01(平成12年-13年)版には,被告の商品として,「イブペインEvepain」が掲載され,2007-08(平成19-20年)版にも,「三友薬品-ラクール薬品」販売の製品として「イブペインEvepain」が掲載されていることが認められる(甲59,60,63,乙1)。
しかし,被告が「イブペイン」との名称で上記医薬品製造承認申請を行い,同申請が承認されたことは,本件商標及び本件使用商標が広く知られていることを裏付けるものではない。また,「一般薬/日本医薬品集」に掲載の事実は,そこに掲載された名称の薬品が市場で販売されている医薬品として存在することを超えて,直ちに,そこに記載された商品名が商標として広く知られていることを裏付けるものではないし,そこに記載された各商品についての取引者,需要者における出所の混同のおそれの有無に直接関係するものでもない。
そして,「一般薬/日本医薬品集」の1994-95(平成6年-7年)版),1996-97(平成8年-9年)版,2002-03(平成14年-15年)版及び2004-05(平成16年-17年)版には,被告商品は掲載されておらず,また,株式会社インテージ発行「店頭向医薬品市場の販売動向SDIアニュアルレポート」の1995(平成7年)版,2003(平成15年)版及び2005(平成17年)版には,鎮痛・解熱剤について,主要な商品の販売金額,シェアが記載されるとともに,「主要メーカー手持商品一覧」において,その2005版には,27社78種の薬品が掲載されるなど,多数のメーカーの多数の商品が掲載されているが,いずれの版においても,被告商品は掲載されていないこと(甲13,55,57,58,61,62)に照らせば,被告主張のように,本件商標及び本件使用商標が,現在では,鎮痛・解熱剤について,被告や本件通常使用権者の商標であると広く知られているものであるとの事実は,これを認めるに足りず,被告の主張は,前提を欠くものである。
( )また,被告は,「EVEPAIN」は,一体不可分に表示されており,こ3れから「イブペイン」の称呼が自然に生じ,観念は,需要者には造語として認識され,「イブ」,「EVE」とは,称呼においても観念においても類似しない旨主張する。
しかし,「EVEPAIN」は,それ自体,直ちに一体として特定の観念を生じさせるものではなく,それを分離することが取引上不自然なほど,不可分に結合しているとは認められないことは,前記( )のとおりであって, 1被告商品と同じ鎮痛・解熱剤において,引用商標が周知著名であること,被告商品の性質,「PAIN」の部分から生じ得る観念等に照らし,「EVEPAIN」に接した取引者,需要者は,それらを「EVE」と「PAIN」とからなるものと理解し,「EVE」の部分においては,著名な引用商標を想起するとともに,「PAIN」の部分は,その商品の特性に係る部分として認識され,自他識別力を欠くものであるから,被告の主張は,採用することができない。
被告は,原告が,本件商標の登録につき無効審判を請求しなかったのは,原告自身,引用商標が著名とまではなっていないこと及び原告商品と誤認混同を生ずるおそれがないことを自認していたからにほかならないと主張するが,本件使用商標と引用商標の類否や出所混同のおそれの判断は,被告主張の事由によって左右されるものではないから,主張自体失当である。
その他,被告は,引用商標の著名性や著名性を獲得した時期,本件使用商標が出所につき誤認を生じさせることの有無についても争うが,前記3及び4( )の説示に照らし,いずれも採用することができない。
15以上によれば,本件通常使用権者による,本件商標に類似する本件使用商標の使用は,原告又は原告と何らかの緊密な営業上の関係にある者の業務に係る商品であるかのように,その出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきであるから,これと異なる審決の判断は誤りというべきである。そして,本件商標の商標権者である被告は,商標法53条1項ただし書所定の事由,すなわち,本件通常使用権者の上記不正使用の事実を知らず,かつ,相当の注意をしていたことについては,何ら主張・立証しないのであるから,上記判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。原告の取消事由1ないし3の主張は,以上の趣旨をいうものとして理由があり,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明