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関連審決 無効2003-35287
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ256審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10764審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10061審決取消請求事件 判例 商標
平成17ワ11663不正競争行為差止等請求事件 判例 商標
平成17行ケ10418審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 包装 /  出所表示機能 /  指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  4条1項15号 /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  共有 /  存続期間 /  無効審判 /  社団法人 /  継続的に使用 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 341号 審決取消請求事件
原告 長生堂製薬株式会社
訴訟代理人弁理士 江原省吾,田中秀佳,白石吉之,城村邦彦,熊野剛,山根 広昭,川本真由美
被告 三共株式会社
訴訟代理人弁理士 浅村皓,浅村肇,小池恒明,岩井秀生,宇佐美利二,坂倉 夏子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35287号事件について平成16年6月29日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,被告が,後記本件商標を有する原告に対し,本件商標が商標法4条1項11号及び15号に違反して登録されたものであるとして,同法46条1項に基づいてその登録を無効とすることを求める審判を請求したところ,特許庁が本件商標は同15号に違反して登録されたものであるとしてその登録を無効にするとの審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件商標 商標権者:原告(長生堂製薬株式会社) 本件商標:「メバラチオン」のカタカナ文字と「MEVALATION」の欧文字を上下二段に横書きしてなるもの 指定商品:第5類「薬剤」 登録出願日:平成13年4月3日 出願査定日:平成14年2月6日 設定登録日:平成14年3月29日 登録番号:第4555554号 (2) 本件手続 審判請求日:平成15年7月11日(無効2003-35287号) 審決日:平成16年6月29日 審決の結論:「登録第4555554号の登録を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年7月9日(原告に対し) 2 審決の理由の要旨 (以下,理解の便宜上,審判手続における証拠番号の前には「審判」を付し,「請求人」は「原告」,「被請求人」は「被告」と読み替えるなどした。) (1) 審決は,現在も有効に存続し,いずれも商標権者を被告とする以下の登録商標を引用商標とした。
ア 商標:「メバロチン」のカタカナ文字を横書きしてなるもの(以下「引用商標A」という。なお,アないしエの商標を総称する場合には「引用商標」という。) 指定商品:第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」 登録出願日:昭和61年1月20日 設定登録日:昭和63年5月26日 登録番号:第2049558号 イ 商標:「MEVALOTIN」の欧文字を横書きしてなるもの(以下「引用商標B」という。) 指定商品:第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」 登録出願日:昭和61年1月20日 設定登録日:昭和63年8月29日 登録番号:第2069627号 ウ 商標:別紙1に表示したとおりの構成よりなるもの(以下「引用商標C」という。) 指定商品:第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」(なお,平成14年4月17日に,第5類(第5類の指定商品は薬剤を含む。)等に属する商標登録原簿記載のとおりの商品に書換登録がなされた。) 登録出願日:平成元年10月27日 設定登録日:平成4年8月31日 登録番号:第2448922号 エ 商標:別紙2に表示したとおりの構成よりなるもの(以下「引用商標D」という。) 指定商品:第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」(なお,平成14年4月17日に,第5類(第5類の指定商品は薬剤を含む。)等に属する商標登録原簿記載のとおりの商品に書換登録がなされた。) 登録出願日:平成元年10月27日 設定登録日:平成4年8月31日 登録番号:第2448923号 (2) 審決は,商標法4条1項15号(混同を生じるおそれ)に関する原告の主張について,以下のとおり,判断した。
「ア 引用商標の著名性及び独創性の程度 …被告は,被告の業務に係る商品「高脂血症用薬剤」(動脈硬化用薬剤)について引用商標を付して平成元年に発売して以来,継続して宣伝,広告を行い,その売上実績及び動脈硬化用剤市場における占有率は,当初の平成元年が70億円(市場占有率17.5%)から,平成11年度には1288億円(市場占有率53.9%)に達し,平成2年度から平成11年度までの動脈硬化用剤市場における売上高の第1位を占めていて,同期間の市場占有率は毎年50%を越えていたことが認められる。 以上の事実を総合すると,引用商標は,被告が平成元年から商品「高脂血症用薬剤」を製造,販売して以来,継続して宣伝,広告してきた結果,本件商標の登録出願の時(平成13年11月13日)には,医薬品業界における取引者,需要者間において,被告の取扱に係る上記商品の商標として広く認識され,高い著名性を獲得していたものと判断するのが相当である。 また,引用商標の「メバロチン」及び「MEVALOTIN」の文字は,本来,特段の意味を有しない造語と認められるものである。そして,該文字は,使用商品の医薬の効果効能として生成を阻害する「メバロン酸」(MEVALONIC ACID)と語頭部分の「メバロ」及び「MEVALO」が共通であるとしても,…少なくとも平成2年8月発行から平成12年8月発行までの間には,「メバ」(「MEVA」)を語頭に有する医薬品は,被告が販売する「メバロチン」,「MEVALOTIN」以外に掲載されていないことからすると…,その独創性は,相当高いものと認められる。 イ 本件商標と引用商標の類似性の程度 本件商標と引用商標を比較するに,本件商標は前記のとおり,「メバラチオン」のカタカナ文字と「MEVALATION」の欧文字を書してなるものであり,被告の使用に係る引用商標は,「メバロチン」のカタカナ文字もしくは「MEVALOTIN」の欧文字を使用するものであり,前記のとおり,いずれも特定の意味合いを有しない造語と認められる。 また,本件商標は,その構成文字より「メバラチオン」の称呼を生じるものと認められ,引用商標は,「メバロチン」の称呼をもって取引に資されているものと認められる。 そこで,「メバラチオン」の称呼と「メバロチン」の称呼とを比較すると,両者は,第3音の「ラ」と「ロ」音の差異及び後者が第5音目に「オ」の音を有していない点に差異を有するものであり,いずれも特徴的なアクセントがなく平坦な調子で発音させるものである。 しかして,第3音で相違する「ラ」と「ロ」の音は,子音の「r」を共通にする同行音であり,その母音「a」と「o」も発音方法において近似する音であるから,両称呼は,比較的印象されやすいその前半の「メバラチ」及び「メバロチ」部分において,近似した印象を与えるものといえる。また,「オ」の音は,弱音「ン」の前音となることから,一定程度明確に発音されるが,比較的聴取し難い末尾にあることから,全体の称呼に与える影響は,一定程度減ぜられる。 そうすると,両者をそれぞれ一連に称呼するときは,それぞれの語感,語調において相当程度の共通性を有するものということができる。 さらに,外観についてみると,本件商標は,前記のとおり「メバラチオン」のカタカナ文字と「MEVALATION」の欧文字よりなるものであるところ,カタカナ文字部分は,欧文字部分の振り仮名(表音)の表記であると容易に看取することができるから,本件商標に接する取引者,需要者は,その構成中の「MEVALATION」の欧文字部分もしくは「メバラチオン」のカタカナ文字部分に着目し,当該文字部分を自他商品の識別標識としての取引に当たることが多いと認められる。
これに対して,引用商標は,上述のように「メバロチン」又は「MEVALOTIN」文字からなる商標を「高脂血症用薬剤」に使用し,高い著名性を得ているものである。 そこで,本件商標の「MEVALATION」の欧文字部分と引用商標の「MEVALOTIN」の欧文字とを比較すると,前者は10文字,後者は9文字で構成されていて,両者の構成文字は,前者が「A」の文字が1字多いほかは「M」(判決注:明らかな脱字につき付加),「E」,「V」,「A」,「L」,「T」,「I」,「O」及び「N」の9文字のすべてが同一である。また,その配列において異なるところは,第6文字における「A」と「O」の文字,及び,前者の末尾から2文字の「ON」が後者は「N」の1文字となっている点である。 以上の構成よりすると,両者は,第8文字までで異なるのは第6文字の「A」と「O」の文字であるが,前者の「A」の文字は後者の第4文字に含まれ,後者の「O」の文字は前者の第9文字に含まれている。また,後者が第9文字に有していない「O」の文字は後者の第6文字に含まれているものである。 してみれば,時と処を異にして離隔的に観察した場合,本件商標の「MEVALATION」と引用商標の「MEVALOTIN」は,外観において類似するものとまではいえないとしても,その欧文字との対比において外観上かなり近似していて相似た印象を受けるものといわなければならない。
また,本件商標の「メバラチオン」のカタカナ文字部分と引用商標の「メバロチン」とは,語頭の「メバ」及び「末尾」の「ン」を共通にし,ともに顕著にデザインを施されているというような特徴もないものであるから,少なくとも本件商標と引用商標の類似性を妨げるような差異を有しているものではない。 ウ 出所の混同について 前記アのとおり,被告の使用商品の平成2年以降約10年間における高脂血症用薬剤市場におけるシェアは,毎年50%を越えていて,引用商標は,高脂血症用薬剤の商標として高い著名性を獲得していたものと認められ,独創性も相当高いものと認められる。 また,前記イのとおり,本件商標と引用商標とは,称呼において語調,語感に相当程度の共通性を有するものであり,また,本件商標は,引用商標の欧文字との対比において外観上かなり近似した相似た印象を受けるものと認められる。 加えて,本件商標の指定商品「薬剤」は,引用商標が使用され,著名性を獲得している商品「高脂血症用薬剤」を含むものであるから,両者の需要者,取引者も共通にしているということができる。 これらの事情を総合的に判断すると,本件商標は,これに接した取引者及び需要者に対し,引用商標を連想させて被告の業務に係る商品の出所について誤認を生じさせるか,いわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営みグループに属する関係にあると誤信させ,その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。」 「したがって,本件商標は,商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであるから,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすべきものである。」
当事者の主張
1 原告の主張の要点 本件商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の判断は誤りであるから,審決は取り消されるべきである。
(1) 周知著名性 商標の周知著名性は各商標ごとに定めるべきところ,本件商標の出願及び登録査定当時,引用商標のうち,引用商標Aは需要者,取引者の間で周知であったとしても著名ではなく,引用商標BないしDは周知ですらなかった。
ア 需要者,取引者の範囲 「メバロチン」は,医師の指示を要する医療用医薬品であり,一般消費者に直接販売される一般用医薬品ではないから,本件における需要者,取引者の範囲は,医療用医薬品を取り扱う医師等の医療関係者,医療用医薬品の卸等の取引者,医療用医薬品を服用する患者(高脂血症用剤が処方される患者に限定されるべきではない。)と解すべきである。
イ 引用商標Aの著名性 引用商標Aは著名ではない。ある商品が著名であるというためには,その商品を取り扱ったことが全くない者や,異業種の業界にまで広く知られていなければならず,その商品の本来の営業領域でのみ広く知られているような商標は著名とはいえない。「メバロチン」は,一般用医薬品ではなく,テレビコマーシャルなどの宣伝広告も禁止されているのであるから,広く大衆の間で著名であったとはいえない。
ウ 引用商標BないしDの周知著名性 引用商標BないしDは,需要者,取引者の間において,周知でも著名でもない。
審決は「メバロチン」の販売実績や市場占有率を強調して,引用商標すべてを著名であると判断したが,以下のとおり,本件需要者,取引者は,商標BないしDの外観に接する機会がほとんどなかったのであるから,これらの商標が需要者,取引者に広く知られていたとはいえない。
(ア) 診療記録,処方箋,薬剤情報などは,医師や薬剤師等が業務上作成する書類であるが,これらの書類に医療用医薬品の商品名を記載する場合には,一般に和文表記が用いられる(甲37〜50,90〜93)。被告が指摘するように「メバロチン」の医薬品の宣伝広告,パンフレット,パッケージ,添付文書等において欧文字標章や図形標章が使用されていたとしても,需要者,取引者が関心を持つのは,あくまで和文の販売名である。したがって,わが国の医療用医薬品業界において需要者,取引者が出所を識別する際に依拠するのは正式販売名たる和文表記であって,欧文表記や図形標章ではない。
(イ) 「メバロチン」の使用,流通過程において,需要者,取引者の記憶に残る態様で使用されていたのは,以下のとおり,引用商標Aのみであり,引用商標Bは一見して気が付かない態様で使用されているにすぎず,引用商標C及びDに至っては一切使用されていない。
@ 「メバロチン」の包装用パッケージ(PTPシート,甲15)において,出所識別表示として認識できる態様で使用されているのは引用商標Aのみであり(甲10,15),引用商標Bの記載は,小文字を使った欧文表記(「Mevalotin」)で小さく付記されているにとどまり,一見して気が付かない程度である。しかも,被告は「メバロチン」のPTPシートの外観デザインには顕著な特徴があるというのであるから,薬剤師は,PTPシートの外観や和文表記に基づいて「メバロチン」を識別すると考えられ,欧文表記により識別するとは考えられない。患者も,PTPシートに小さく記載された欧文字に注意を向けるとは考え難い。「メバロチン」の外箱ケースについても,引用商標Bの記載は一見して気が付かない程度であり,引用商標C及びDは全く使用されていない。
A 医師,薬剤師等は,医療用医薬品の選定・発注を行うに当たり,医薬品の添付文書によりその組成,用量用法,副作用等の詳細情報を確認し,「保険薬事典」(薬業時報社等発行)及び「医薬品・医療衛生用品価格表」(薬事日報社発行)等で価格,商品名,製造業者等を確認する。「メバロチン」の添付文書(甲18)に,看者の目を惹く態様で大きく記載されているのは,引用商標Aであり,引用商標Bは付記されているものの小さくて一見して気が付かない態様であり,引用商標C及びDは一切記載されていない。「保険薬事典」(甲16)及び「医薬品・医療衛生用品価格表」(甲17)に記載されているのも引用商標Aのみであり,引用商標BないしDは一切記載されていない。
B 患者に対する処方箋及び薬剤情報(「お薬の説明書」,「お薬手帳」),医薬品に関する一般書籍等(甲42〜45,48〜50,92,93,乙16,17)に記載される医薬品の販売名も和文表記である。したがって,「メバロチン」を処方された患者が引用商標BないしDを目にすることはない。国際商業出版株式会社発行の「国際医薬品情報」(甲19)及び「製薬企業の実態と中期展望」(甲20)においても,「メバロチン」は引用商標Aをもってのみ紹介されており,引用商標BないしDは一切記載されていない。
(ウ) 「メバロチン」の宣伝広告においても,引用商標BないしDは,需要者,取引者の記憶に残るような態様では使用されていない。
そもそも,需要者,取引者は日々大量の宣伝広告に接しているので,その記憶に残るのは,当該需要者,取引者が関心を持っているものや,目立つ態様のものであり,パンフレット上の小さい記載などは視界に入らず,視界に入ってもすぐに忘れてしまうのが通常である。とりわけ,欧文字標章や図形標章は,需要者,取引者の視界に入っても注意を惹くことはほとんどない。以下のとおり,「メバロチン」の宣伝広告活動において,需要者,取引者への積極的な認知が図られたのは引用商標Aのみであり,引用商標BないしDは,広告に使用されたことはあっても,その使用態様は,自他商品を識別する標識として看者の記憶に残るようなものではない。
@ 引用商標Aは,「メバロチン」の宣伝広告(甲21〜27)において,最も大きく表示され,看者の目を惹く態様で使用されている。これに対し,引用商標Bは,雑誌広告の一部(甲21〜24)において,引用商標Aの下に小さく記載されたことがあるが,平成5年から平成12年までの雑誌広告の商標表示部分では一切使用されていない。引用商標C及びDは,宣伝広告の中で使用されているが,引用商標Cは引用商標Aと比して非常に小さく記載されている。引用商標Dは,引用商標Cの外枠を黒線で描いた商標であるが,広告に使用されている商標とは外観全体から受ける印象が大きく異なり,引用商標Dそのものが看者に認知されるような態様で使用されているわけではない。
A 被告作成の販売促進用パンフレット(乙6)には,引用商標BないしDが使用されているが,これは被告の医薬情報担当者(MR)あるいは医薬品専門商社の営業担当者(MS)が,医師や薬剤師に商品についての知識を深めてもらうために使用したものであり,商標を広く知らしめることを目的として使用したものではない。したがって,その宣伝効果はそれほど高いとはいえない。
(2) 引用商標の独創性の程度 審決は,引用商標の独創性は相当高いと判断したが,引用商標AないしDは「メバロチン」の特徴的な効能として,その生成を阻害する「メバロン酸」(MEVALONITIC ACID)の語頭部分「メバロ」(MEVALO)に,薬剤の名称としてありふれた接尾語「チン」(TIN)を組み合わせたにすぎず,その独創性は低い。また,審決は,引用商標の独創性が高い理由として「メバ」(MEVA)を語頭に有する医薬品が引用商標以外に存在しないことを指摘するが,語頭のわずか2音をもって商標全体の独創性が高いとはいえない上,引用商標の出願前に解熱鎮痛消炎剤の「メバポン」が製造販売されていることを看過している(甲30)。
(3) 類似性の程度 審決は,本件商標と引用商標がそれぞれの語感,語調において相当程度の共通性を有し,外観上もかなり近似していて相似た印象を受けると判断したが,誤りである。両商標は類似しておらず,明確に識別できる別異の商標である。
称呼 本件商標の称呼「メバラチオン」と引用商標の称呼「メバロチン」が共通する音を有することは確かである。しかしながら,「メバラチオン」は,接尾語において,弱音「ン」がその前音「オ」に吸収され,第2音「バ」と第3音「ラ」がそれぞれ明確に発音されることから,全体として,「メ」「バ」「ラ」「チ」「オン」と,平坦な調子で5音節のごとく発音される。これに対し,「メバロチン」は,「バロ」の「ロ」が弱く発音され,「ロ」に続く「チン」が弾んだ調子で発音されるため,「メ」「バロ」「チン」と,音調の起伏をもって3音節のごとく発音される。また,明瞭に発音される「ン」の前音が「オ」と「チ」で全く相違することも,両商標の称呼上の非類似性を際立たせている。このように,本件商標と引用商標とは,称呼全体の語調,語感が著しく異なる。
外観 審決は,需要者,取引者は本件商標のカタカナ文字部分もしくは欧文字部分に着目して自他商品の識別標識として取引に当たることが多いとした上で,両商標の外観を対比している。しかしながら,前記のとおり,本件需要者,取引者が専ら販売名として使用し,最も重きを置いて出所を識別するのは正式販売名たる和文表記であって,外観類似性を判断するに当たり欧文表記の外観を重視すべきではない。
そこで,本件商標と引用商標の和文表記を対比すると,引用商標は,中央の「ロ」の字が特徴的で印象に残り,「ロ」を有しない本件商標とは明らかに外観が異なる。また,本件商標は,中央の「ラチ」部分において,似た文字が2文字並んでいる印象を受ける点で引用商標とは異なる。したがって,両商標の和文表記の外観は,一見した場合でも容易に識別しうる。両商標は,語頭に「メバ」,語尾に「ン」を共通に有するが,本件商標の出願時及び登録査定時において,語頭に「メバ」,語尾に「ン」を有し,「薬剤」を指定商品とする商標は,複数設定登録されていたのであるから(甲31,32),この共通点のみでは類似しているといえない。かかる和文表記部分の非類似性は,本件商標と引用商標の外観全体の類似性を妨げる要素として参酌すべきである。
なお,念のため,本件商標と引用商標の欧文表記を対比すると,外観上目立つアルファベット「O」の位置が全く異なる上,中央部たる6文字目の「A」と「O」の差異は,アルファベットの外観上明確である。また,本件商標後段の「TION」部分は,日本人が慣れ親しんだ英単語に頻繁に使用される綴りであり,外観上の特徴として需要者,取引者に明確に記憶されやすい。したがって,欧文表記についても,両商標の外観は異なる。 ウ 観念 本件商標と引用商標とは,共に造語であり何ら固有の観念を有しないことから,観念によって類似性が高められることはない。
(4) 混同を生ずるおそれ混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の関連性の程度,商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきものである。審決は,上記のとおり,引用商標の周知著名性及び独創性,本件商標と引用商標の類似性の程度についての認定判断を誤り,その結果,混同のおそれがあると誤って判断したものである。
ア 両商標に係る商品は,医師の指示を要する医療用医薬品であり,使用医薬品を第一次的に選択する責務を負うのは医師である。医療機関は,使用する薬剤の種類(一般名)を選定した後に,どの製薬会社の商品を使用するかを決定する。その際には,セミナー等の情報に加え,最新の添付文書,価格表などを参照し,製造業者に直接問い合わせを行うなどして慎重な検討が行われ,選定される商品の数は,備蓄の必要があることから,せいぜい1商品か,先発医薬品と後発医薬品の2商品に限られるのが通例である。これらの要指示医薬品については,医師が随時確認できるようリスト等が作成され管理され,医師は,複数の商品が備蓄されている場合には,診察時に薬価差について患者に説明し,投与する商品を最終決定することになる。このように,医療機関ではあらかじめ,十分な検討を経て,薬剤の種類ごとに使用する商品を選定し,医師はそのあらかじめ選定された商品の中から一つの商品を選定して当該患者に処方するのが一般的である。したがって,医療用医薬品の場合は,一般消費者が店頭で瞬時に商品を選択する一般用医薬品と比較して,払われる注意力の程度が全く異なる。
被告は,調剤薬局(医師の交付する院外処方箋に基づいて患者に処方薬を調剤する病院施設外の薬局)の場合には,備蓄品目数が多く混同が生じるおそれがあると主張する。しかしながら,調剤薬局の取扱対象品目は約1万品目以上あり,成分は約5400以上あるのであるから,調剤薬局が同一成分の薬剤ごとに多数の商品を備蓄しているとは限らない。また,調剤薬局が処方箋を応需している医療機関の数は処方箋を受け付けたことのある医療機関の数にすぎず,調剤薬局の半数近くが20か所以上の医療機関の処方箋を応需しているとは考えられない。
患者は,医師や薬剤師ほどの専門知識は有しない。しかしながら,医師や薬剤師は,患者に対して商品の内容について十分な説明をするのが通常であるから,一般用医薬品と比べて高度な注意力が払われることに変わりはない。
イ 前記のとおり,本件商標と引用商標は非類似の商標であり,引用商標Aは周知ではあるものの,その独創性は低いのであるから,高度な専門知識と注意力をもって商品の選定を行う本件需要者,取引者は,本件商標を付した商品を被告の業務に係る商品等と混同するおそれはないというべきである。さらに,混同のおそれがないとする根拠を挙げれば,以下のとおりである。
(ア) 本件商標と引用商標とは,語頭の2音「メバ」「MEVA」を共通にするが,医療用医薬品業界では,同一医薬品でありながら,語頭を共通にする商品は多数存在しており,2音のみならず,3音ないし4音を共通にする商品名も複数存在している(甲34)。このように語頭2音以上を共通にする商品のすべてが,同一業者やその関連会社の商品であると誤認されるとは到底考えられない。語頭に「メバ」「メバロ」を有する商品としては,本件商標に係る商品以外にも,「メバトルテ/MEVATORTE」「メバスロリン/MEVASROLIN」「メバスタン」「メバン/MEVAN」「メバレクト/MEVALECT」「メバリッチ/MEVARICH」「メバロカット/MEVALOCUT」などがあり,これらの商品は,平成5年7月以降,何ら混同を引き起こすことなく流通している(甲35)。
(イ) 本件商標の「メバ」に続く「ラチオン」部分は造語であり,「ラチオン」を接尾語とする薬剤の商標は本件商標しか存在しない(甲36)。「ラチオン」はありふれた接尾語でないから,「メバロチン」の姉妹品と混同されるおそれはない。
(ウ) 被告が指摘する薬剤取り違えのインシデント事例は,医療安全ネットワーク事業の目的のために集められたものであって,医療用医薬品の名称類似の一般的な傾向を示すものではない。厚生労働省の医薬品・医療用具等対策部会の審議等に基づき発表された「医療事故に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」(総務省,甲75),「処方点検や調剤時,病棟への供給時に注意を要する医薬品について」(日本病院薬剤師会等,甲76)が注意を要するとして挙げた医療用医薬品の名称は,商標法上,類似性が高いといわれるものばかりであり,本件商標及び引用商標は含まれていない。
(エ) 「メバロチン」と「メバラチオン」は先発医薬品と後発医薬品の関係にあるが,医師,薬剤師等が後発品を先発品と取り違える可能性も,先発品の姉妹品等であると連想する可能性も,他の商品分野と比して低い。すなわち,後発医薬品の薬価は先発医薬品の7割から2割程度と格安であり,明らかな薬価差が存在するので,医師が診察時に投与する薬剤を決定する場合において,両者を混同する可能性は低い。また,@同一医薬品は原則1社1名称と定められているので,A同一製造業者が別の商標を用いて姉妹品を製造販売した実例はなく,今後もそのような可能性はない。さらに,B先発医薬品メーカーがその後発医薬品を姉妹品等として他社に展開させるような取り組みが,医療用医薬品業界で慣行化しているとの事実はない。
ウ 以上のとおり,本件需要者,取引者が,本件商標を付した商品を被告ないし被告と資本関係等のある会社の業務に係る商品等と混同するおそれは全くない。本件商標は商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるとの審決の判断は誤りである。
2 被告の主張の要点 本件商標が商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるとの審決の判断に誤りはない。
(1) 周知著名性 原告は,引用商標AないしDについて著名性を認めた審決の認定判断は誤りであると主張する。しかしながら,審決は,「メバロチン」の宣伝広告,売上実績,市場占有率等を正しく認定した上で,引用商標が高い著名性を獲得していたと判断したものであり,誤りはない。
ア 需要者,取引者の範囲 原告は,本件需要者,取引者は,医師等の医療関係者及び医療用医薬品の卸等取引者等であるとしながら,引用商標Aの著名性については,専門知識を有しない大衆も含めて判断すべきであると主張する。しかしながら,引用商標の周知著名性の判断の基礎となる需要者,取引者は,高脂血症用剤の需要者,取引者であり,最大限拡張しても医療用医薬品及び一般用医薬品市場における需要者,取引者までであって,一般大衆を含めるべきではない。また,本件需要者,取引者に含めるべき患者は,高脂血症と診断されてその治療を受け,又は当該高脂血症用剤の投与を受けている者と解すべきであり,高脂血症以外の患者を本件の需要者,取引者に含めるべきではない。
イ 引用商標Aの著名性 原告は,引用商標Aが周知であることは認めるものの,著名ではないと主張する。しかしながら,引用商標Aは,本件商標の出願及び登録査定当時,高い著名性を得ていたものである。
「メバロチン」が発売された平成元年当時,高脂血症治療剤は動脈硬化用剤に分類され,市場規模としても動脈硬化用剤市場全体で400億円にすぎなかった。ところが,「メバロチン」は,発売されると同時に国内外で高い評価を受け,発売から2年目の平成2年には売上高が初年度の5倍以上である375億円,市場占有率は約58%に達した。高脂血症用剤の市場規模も「メバロチン」の急成長とともに大きく拡大し,高脂血症用剤の薬効分類名は「動脈硬化用剤」から「高脂血症用剤」へと変更されるに至った。平成3年になると,「メバロチン」は,高脂血症治療剤市場において約70%弱のシェアを占め,同年以降,長年にわたり,高脂血症治療剤はもとより全医療用医薬品の単品売上高における1位を獲得し続け,平成5年には,医療用医薬品の単品売上げとしてはわが国で初めて1000億円を超えた。年商100億円以上が大型新薬の一つの目安とされる医療用医薬品業界の実情からすれば,平成14年3月までの総販売錠数が130億錠(5mg錠換算)を超え,また発売からの売上累計が1兆3000億円を超す「メバロチン」は,驚異的な新薬として,製薬業界はもとより,医療関係者にも広く認知されている。
被告が広告掲載依頼を行った広告代理店の主な4社に対する掲載額の合計は,7億7000万円を超え,広告の掲載雑誌数(種類)は延べ100以上にも達し,掲載回数も延べ1万回以上に及ぶ。また,医療用医薬品については,医薬情報担当者(MR)あるいは医薬品専門商社の営業担当者(MS)が製品の宣伝・営業活動を行うに当たり,病院及び病院内の薬局,開業医,調剤薬局等の医療機関を訪問し,医師,薬剤師等の医療関係者に対し医療・製品情報の提供を行っており,「メバロチン」についてもこのような情報提供を積極的かつ広汎に行った。
さらに,高脂血症用治療剤は生活習慣病を対象とする治療薬であり,患者が長期にわたり反復服用するものであるから,患者にも広く知られている。
以上から明らかなように,引用商標Aは,本件商標の登録出願日(平成13年4月3日)及び登録査定日(平成14年2月6日)当時,医薬品業界において高い著名性を得ていた。
ウ 引用商標BないしDの周知著名性 欧文字からなる引用商標B「MEVALOTIN」,欧文字と図形との結合商標である引用商標C及びDについても,引用商標Aと全く同様に,著名な商標である。
(ア) 原告は,わが国の医療用医薬品業界において,需要者,取引者が最も重きを置いて出所を識別するのは和文表記であると主張する。しかしながら,欧文表記も和文表記とともに,その出所表示機能を果たす商標であることに変わりはなく,とりわけ和文表記と一体的に併記して表示される欧文表記の著名性までもが否定される理由とはなり得ない。
(イ) 原告は,全く同一の称呼として認識される引用商標AとBとについて,前者については周知であると認めながら,後者についてはその周知性を否定しているが,商品である「メバロチン」の流通過程においては,引用商標Bはカタカナ文字標記からなる引用商標Aと一体的に表記されているのであり,欧文表記である引用商標Bのみが看者の視覚にほとんど入らないとする合理的な理由はない。また,商標の周知著名性はその表記された文字の外形の大小のみによって判断されるべきではなく,小さく表記された文字の外形であってもその外形から認識される称呼において周知著名性が認められるのであれば,当然周知著名性が認められるべきである。引用商標Bは,引用商標Aと一体的に表記され,その称呼も全く同一であるから,表記される文字の外形の大小にかかわらず,著名な商標というべきである。
(ウ) 引用商標Dは,幾何的図形の真中に「MEVALOTIN」なる欧文字が横書きされたものからなり(色彩は施されていない。),欧文字構成だけからなる引用商標Bに幾何的図形を背景として付加したものということができる。引用商標Cも,引用商標Dと同様に,幾何的図形の中央に「MEVALOTIN」なる欧文字が配置されているが,その背景たる幾何的図形に色彩が施されている点で引用商標Dと異なっている。引用商標CもDも,図形の中央部分に横書きの欧文字「MEVALOTIN」が配置されている構成を有するものであり,その称呼も引用商標Bと同じく,「メバロチン」であるから,引用商標Bが著名性を有する以上,引用商標C及びDも著名な商標といえる。
(エ) 原告は,「メバロチン」の販売に使用された外箱ケースやPTPシートにおいて,引用商標Bは小さく付記されているにとどまると主張する。しかしながら,「メバロチン錠」の外箱ケース(甲11〜14)の横の部分には,和文表記と一体となって「MEVALOTIN」と欧文表記されており,「メバロチン錠5」と「メバロチン錠10」のPTPシート(甲15)の上面上段の耳部にも欧文表記で「MEVALOTIN」と記載されている。以上の欧文表記の使用態様は,看者の目を惹くに十分であり,一見して気が付かないような態様とはいえない。
(オ) 被告の作成した販売促進用パンフレット(甲10,乙6)には,引用BないしDが,引用商標Aと一体となって記載されている。また,同パンフレットの「Drug Information」欄の「販売名」には,上段に「メバロチン錠」「メバロチン細粒」,下段に和文表記と同じ大きさで「MEVALOTIN TABLETS」「MEVALOTIN FINE GRANULES」と記載されており,引用商標Bは引用商標Aと一体のものとして使用されている。
(カ) 引用商標C及びDは,例えば,日本薬学会発行の「ファルマシア くすりの科学」(発行部数:公称2万5百部/月。甲21,22),ライフサイエンス・メディカ発行の「PROGRESS MEDICINE」(発行部数:公称5000部/月。甲23の1,24,25の1及び2,26の1,27),日本医師会発行の「日本医師会雑誌」(1日号及び15日号,各公称16万5千部。甲25の3及び4,26の2及び3)などの医師,薬剤師等の医療関係者向けの広告宣伝に継続的に使用されている。
(キ) 原告は,「保険薬事典」(甲16)及び「医薬品・医療衛生用品価格表」(甲17)に引用商標BないしDの記載がないと主張するが,書籍の性質やスペース上の制約等から引用商標BないしDの併記がないのはむしろ当然であって,その著名性を否定する根拠になるものではない。また,原告は,処方箋及び患者に配布される薬剤情報の記載には専ら和文表記の販売名が使用されると主張するが,処方箋上に記載される薬剤名はドイツ語等の欧文表記の方が多い。
(2) 引用商標の独創性の程度 原告は,引用商標の名称採択の由来等に基づいて,その独創性は低いと主張する。しかしながら,「メバロチン」「MEVALOTIN」の文字は,本来,特段の意味を有しない造語であり,とりわけ一般名称である「プラバスタチンナトリウム」と,作用機序に関する名称である「メバロン酸」は明確に区別する必要がある。「メバロン酸」はあくまでコレステロールの生成を阻害する作用機序に関連する用語の一つにすぎない(乙7)。すなわち,体内のコレステロールは,主として肝臓において数々の段階を経て合成されるが,その段階の一つにヒドロキシメチルグルタリル(HMG-CoA)からメバロン酸に合成される段階があり,「メバロチン」は,メバロン酸合成過程を助ける酵素であるHMG-CoA還元酵素の働きを止めることによってコレステロールの合成を抑制する。このように,「メバロン酸」の「メバロ」をその引用商標の一部に採択することは当然のことではなく,独創性が低いなどとは到底いえない。
また,「医薬品・医療衛生用品価格表」に掲載されている「メバ」を語頭に有する医薬品は,少なくとも平成2年8月発行から平成12年8月発行までの間は,「メバロチン」以外に存在しない(甲26)。
さらに,前記のとおり,「メバロチン」は,高脂血症用剤市場が「メバロチン」によって新たに誕生したといえるほど稀有で著名な商標であることを考慮すると,引用商標の独創性が高いことは明らかである。
(3) 類似性の程度 ア 称呼 本件商標と引用商標をそれぞれ一連に称呼すると,その語感,語調には相当程度の共通性が認められるとの審決の認定判断に誤りはない。
本件商標と引用商標の相違する音は,第3音目の「ラ」「ロ」の相違と第5音目の「オ」の有無である。このうち「オ」の音の有無は,審決も説示するように,比較的聴取し難い末尾にあり,「ラ」と「ロ」の音は子音を共通にし,母音「オ」は「ア」と近似する。したがって,両商標の称呼上の差異が全体としての称呼類似性に与える影響は小さい。
原告は,本件商標の発音が平坦な調子であるのに対し,引用商標の称呼には音調の起伏があると主張する。しかしながら,両商標の発音は,いずれも特徴的なアクセントがなく平坦な調子で発音されるものであり,全体の語数はわずか1文字しか差がないことにも照らすと,称呼全体の語調,語感が相違するとはいえない。
外観 本件商標と引用商標は,外観上もかなり近似していて相似た印象を受けるとの審決の認定判断に誤りはない。
本件商標は,そのカタカナ文字部分が下段の欧文字部分より若干大きく,欧文字部分のふりがな(表音)の表記であると容易に看取することができるから,本件商標に接する需要者,取引者は,その構成中のカタカナ文字部分もしくは欧文字部分に着目し,当該文字部分を自他商品を識別する標識としての取引に当たることが多いと考えられる。
本件商標と引用商標の欧文字部分を対比すると,前者は10文字,後者は9文字で構成されていて,「M」「E」「V」「A」「L」「T」「I」「N」の8文字が両者において同一である。そうすると,両者の明確な差異部分たる構成文字は中間部分の「A」と「O」,後半部分の「O」の有無のわずか2か所のみということになるが,両商標とも「O」は共通して有しているので,時と処を異にして離隔的に観察した場合,両商標は外観上類似する。
次に,両商標のカタカナ文字構成についてみるに,本件商標の「メバラチオン」のカタカナ文字部分と引用商標の「メバロチン」とは,語頭の「メバ」及び後半部分の「チ」,末尾の「ン」を共通にし,しかも中間に位置する「ラ」と「ロ」は同じラ行に属し,共通部分である「バ」と「チ」に挟まれている。そうすると,ともに顕著なデザインが施されているというような特徴もないのであるから,少なくとも本件商標と引用商標とはその外観において類似するといえる。医師が処方箋を交付した後,薬剤師がその処方箋に基づき調剤し,需要者,取引者である患者に与えるという過程において,商標の外観が果たす役割は極めて大きいということができ,審決が外観上の近似性を混同のおそれの判断要素として斟酌したことは,医薬品業界における取引の実状を正当に反映したものである。
(4) 混同を生ずるおそれ 原告は,混同の生ずるおそれがあるとした審決の判断は誤りであると主張するが,審決の判断に誤りはない。
ア 全国の保険薬局に対する調査によれば,調剤薬局の半数近くは,20か所以上の医療機関の処方箋を応需し,その7割以上は,500品目以上の医薬品を備蓄している(株式会社じほう発行「薬事ハンドブック」2002年〜2004年版,乙19の1〜3)。プラバスタチンナトリウム製剤についても,調剤薬局は,複数の医療機関から処方箋の応需を受けるため,複数の製薬メーカーの商品を揃えている場合が多いと考えられる。
医療機関内の薬剤部において,薬剤師が処方薬を備蓄・保管する場合,薬が外箱ケースに入った段階で商品名を誤認混同することはないとしても,薬を各収納ケース引き出しに入れる段階では既に外箱ケースは廃棄され,PTP包装の状態でアイウエオ順等に整理され,医薬品収納ケース引出し中に収納されるのであるから,薬剤師は,PTP包装の表面上耳部に欧文表記で「MEVALATION」と記載された本件商標に係る商品と,同じくPTP包装の表面上耳部に欧文表記で「MEVALOTIN」と記載された引用商標に係る商品を外観で識別することになる。両商標の外観上の近似性を考慮すれば,その際に誤認混同を生ずるおそれが高いことは明らかである。患者も,薬ケース箱ごとの処方薬を受け取ることはなく,PTP包装の表面上耳部に記されている欧文表記の「MEVALATION」部分を見て,「MEVALOTIN」と誤認するおそれがある。原告の主張は,薬の取り違え事例の頻発する場面を殊更に無視したものである。
イ 厚生労働省のホームページより入手した資料(乙10)には,薬剤取り違えのインシデント事例が掲載されているが,同資料によれば,薬剤名の取り違え事例全61事例のうち,そのすべてが名称の語頭,語尾の少なくとも一方が同一文字からなる場合であり,名称の中間に位置する文字だけが同一の場合は一例も含まれていない。このことは,「メバロチン」と「メバラチオン」の取り違えの起こる蓋然性が高いことを示している。また,大多数の中・小の医療機関においてはいまだに各医師等が個性ある手書により処方箋に医薬品名を記載し,薬剤師等に選択した医薬品名を伝達する仕組みとなっており,薬剤師が処方箋の語頭と語尾だけを見て処方薬を誤認するおそれがある。
ウ 厚生労働省の第4回医薬品・医療用具等対策部会の議事録(乙11の2)には,「後発品にブランド名を付けないでほしいと思います。後発品にもよく似た名称が多いのです。後発品に切り替えることで薬剤取り違えがあったらそれこそ大変です。」との参考人の発言が記載されている。
エ 前記のとおり,医療用医薬品と一般用医薬品を通じ,語頭部分に「メバロ」を冠した販売名は「メバロチン」のみであり,「メバ」を冠した医薬品は過去には2件存在するものの,平成2年以降継続して販売されているのは「メバロチン」のみである。「メバロチン」に関する特許権の存続期間は平成14年10月までであるところ(乙14,15),平成12年から平成15年にかけて,語頭部分に「メバ」を有する商標登録出願が相次いでなされ,後発医薬品のほとんどは平成15年7月から販売が開始されている。他方,後発医薬品の中には,プラバスタチンNa錠「アメル」,プラバスタチンNa錠「KN」のように一般名を使用している例も見られ,またブランド名を使用する場合でも,「タツプラミン錠」「アルセチン錠」「コレリット錠」「プラバチン錠」のように自社名あるいは一般名に由来又は全くの造語ブランドを使用している例もある。必要もないのに語頭にわざわざ「メバ」「メバロ」と付している商標は,明らかに引用商標の著名性にフリーライドすることを狙ったものであり,混同のおそれがないなどとは到底いえない。
オ 原告は,語頭に「メバ」のついた高脂血症用剤は市場で数多く使用されているが,混同は生じていないと主張する。しかしながら,厚生労働省の前記資料には「同種同薬効である。名前が類似しており,間違えやすい。」(乙10の7,70頁)などの記載があるように,医療現場では,薬効が同一で名称が類似する薬剤の場合に取り違えが起きやすいとの認識が共有されている。仮に原告が主張するように,「メバロチン」と「メバラチオン」の混同事例が生じていないのであれば,それは医療現場における適切かつ真剣な取り違え防止策によるのであり,混同のおそれがないからではない。
カ 原告は,本件商標に係る商品を「メバロチン」の姉妹品と誤認するおそれもないと主張する。しかしながら,患者は医師等からもらった治療薬についてその識別コードに基づきインターネットで調べることができるところ,「メバラチオン」5mg錠の識別コードは「231」であり,同10mg錠は「232」である(甲33)のに対し,メバロチン5mg錠の識別コードは「SANKYO231」であり,10mg錠は「SANKYO232」となっており(甲18の1),両者はその識別コードの数字部分において一致している。つまり,原告は,本来,先発医薬品を一致させる必要が全くない識別コードまで一致させているのである。患者がインターネット上の治療薬を調べる際に,識別コード「231」を入力すると,「メバラチオン」と「メバロチン」が上下に並んで画面に表示されるのであるから,引用商標の卓越した著名性も考慮すれば,当該患者は,本件商標に係る商品について,被告と何らかの資本関係がある製薬メーカーあるいは被告から当該製剤の製法ライセンスを受けた製薬メーカーが発売した姉妹シリーズ品と混同するおそれは十分にある。実際のところ,被告は,他社を通じて本件製品を併売しているのであって,先発医薬品メーカーがその後発医薬品を姉妹品等として他社に展開させる取り組みがないなどとはいえない。
キ 以上のとおり,本件商標に接した需要者,取引者は,被告又は被告と密接な関係のある会社,グループ等の業務に係る商品と混同するおそれがあるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由(混同を生ずるおそれの有無)について 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
(1) 引用商標の周知著名性 ア 引用商標の周知著名性に関し,証拠(下記各項に掲記)によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア) 引用商標に係る商品である「メバロチン」は,高脂血症の治療剤として平成元年10月2日に発売が開始された医療用医薬品であり,その一般名は「プラバスタチンナトリウム」である。「メバロチン」は,メバロン酸合成過程を助ける酵素であるHMG-CoA還元酵素の働きを止めることによってコレステロールの合成を抑制する薬剤であるが,その有用性の高さと,高脂血症用剤への需要の増加を背景にして,売上高が著しく伸び,平成3年には,売上高650億円,市場占有率約68%(2位の企業が約6%)となり,薬剤の商品別売上高ランキングが1位となるとともに,平成5年には,国内市場で単品売上高が国内初の1000億円に達した。メバロチンの医薬品市場における稀有性については,「メバロチンがそれだけ有用性の高いすぐれた治療薬なのだろうが後にも先にもこれに匹敵する薬は見当たらない。」(「国際医薬品情報」1991年(平成3年)9月23日号(同号の23頁,甲19)),「メバロチンのような画期的な新薬の発売で一挙に需要を獲得できた極めて希なケースである。」(「国際医薬品情報」1992年(平成4年)10月12日号(同号の28頁,甲19)),「メバロチンは1010億円と超大型品に成長し,市場を独占している。」(「国際医薬品情報」1994年(平成6年)11月14日号(同号の34頁,甲19))などと評されている。平成6年以降も,メバロチンは,1000億円以上の売上高と高い市場占有率を維持し,本件商標の出願時(平成13年4月)及び登録査定時(平成14年2月)においても同様の状況にあった。
(掲記証拠のほか,甲20,乙1,7〜9,弁論の全趣旨) (イ) 被告は,複数の広告代理店を通じて,「日本医師会雑誌」(日本医師会発行),「ファルマシア」(社団法人日本薬学会発行),「PROGRESS MEDICINE」(株式会社ライフサイエンス・メディカ発行)など,医師,薬剤師などの医療関係者及び医薬品業界の関係者向けの数多くの雑誌に,「メバロチン」の宣伝広告を継続的に掲載し,その宣伝広告費は,平成元年に1600万円台であったものが,その後伸びて平成10年には9000万円を超え,発売以来の14年間の合計は7億7400万円に及んでいる。上記「日本医師会雑誌」「ファルマシア」「PROGRESS MEDICINE」における「メバロチン」の宣伝広告欄には,引用商標A及びその左横に引用商標Cが記載され(ただし,「ファルマシア」1989年(平成元年)7月1日発行(甲21)では引用商標Cは左上に記載されている。),引用商標Bが記載されている場合には,引用商標Aのすぐ下にこれよりは小さい字で記載されている。
また,被告は,そのほかにも,販売促進用パンフレットを作成し,被告の医薬情報担当者(MR)や医薬品専門商社の営業担当者(MS)を通じ,医師,薬剤師などの医療関係者に対し,「メバロチン」について継続的に情報を提供した。このようなパンフレットにおいては,引用商標Bが引用商標Aのすぐ下にこれよりは小さい字で記載されており,引用商標Cが引用商標A,Bの左横に記載されているものも多い。
(掲記証拠のほか,甲10,22〜27,乙1,6,弁論の全趣旨) (ウ) 「メバロチン」の外箱ケース(甲10〜14)の横側には,カタカナ文字で「メバロチン」と大きく記載され,そのすぐ下には,カタカナ文字よりは小さく,欧文字で「MEVALOTIN」と記載されている。また,「メバロチン」のPTPシート(甲15)には,片面にカタカナ文字で「メバロチン」と記載され,反対の面には,カタカナ文字とほぼ同じ大きさの欧文字で「Mevalotin」と記載されている。さらに,「メバロチン」の添付文書(甲18)においても,引用商標Bは,引用商標Aの下に,同商標より小さい字ではあるが記載されている。
(エ) 語頭に「メバ」を冠した医薬品は,平成15年7月にメバロチンと有効成分,効能を同じくするいわゆる後発医薬品が発売されるまで10年以上にわたり,出版物等に掲載されていない。「メバロチン」の後発医薬品としては,平成15年7月以降に発売された「メバトルテ」「メバスロリン」「メバスタン」「メバン」「メバレクト」「メバロカット」「タツプラミン」「プラバスタチンNa錠『アメル』」などがある。これらの後発医薬品に関する商標のうち,例えば,「メバロカット」は,商標法4条1項15号に該当するとして審決で無効とされ,その判断は審決取消訴訟においても維持された(当庁平成16年(行ケ)第129号事件,最高裁HP)。他方,「メバン」については無効事由が存在しないとして,無効審判請求は不成立との結論が出されている。なお,「メバスロリン」については,無効審判請求は不成立との結論が出されたが,審決取消訴訟(当庁平成16年(行ケ)第256号事件)が提起され,本件と同じ裁判体によって審理され,弁論終結日は異にしたものの,判決言渡しは本件と同一日時に行われる予定である(同事件における認定判断は,本件と証拠関係が一部共通しないところはあるものの,本件と同旨である。)。
(甲35,84,乙12,弁論の全趣旨) イ 上記認定事実に基づき,引用商標AないしDの周知著名性について検討する。
(ア) 引用商標Aについて 原告は,引用商標Aが一般大衆の間で広く知られるまでには至っていないので著名とはいえないと主張する。しかしながら,引用商標及び本件商標の指定商品には「薬剤」が含まれ,両商標に係る商品はいずれも医療用医薬品としての高脂血症用剤であることに照らすと,引用商標Aの周知著名性を判断する基礎となる本件需要者,取引者の範囲は,これを広く解したとしても,医師,薬剤師,医薬品の取扱業者,医師や薬剤師から高脂血症用剤の投与を受け,又はその可能性のある高脂血症患者にとどまるというべきであり,医薬品業界以外の関係者や一般大衆まで含むということはできない。したがって,本件需要者,取引者の範囲についての原告の主張は採用できない。
前記アで認定した「メバロチン」の発売開始以降の売上高,他の医療用医薬品の売上高との比較,高脂血症用剤市場における市場占有率,同市場の拡大に対する「メバロチン」の寄与度,広告宣伝費,広告宣伝の態様等によれば,「メバロチン」は,高脂血症用剤の市場のみならず,国内の医薬品市場において著名な薬剤であると認めることができ,引用商標Aは,本件商標の出願時及び登録査定時のいずれの時点においても,医師,薬剤師,医薬品取扱業者の間で,高い著名性を有していたものと認められる。また,高脂血症用薬剤は,患者が長期間反復使用するものであり(乙7,8),患者は服用している医薬品の名前を医師から知らされていることも多いと考えられることからすれば,引用商標Aは,高脂血症患者の間においても広く知られていたものと認められる。
(イ) 引用商標BないしDについて 原告は,需要者,取引者が最も重きを置いて出所を識別するのは和文の販売名である上,引用商標BないしDは,需要者,取引者の記憶に残る態様で使用されていないのであるから,これらの商標は本件需要者,取引者の間で周知ではないと主張する。
しかしながら,引用商標Bは,引用商標Aを欧文で表記したものであり,称呼も同一であるから,引用商標Bに接した需要者,取引者は,著名と認められる引用商標Aと一体のものとして容易に認識,記憶できるというべきである。また,前記認定事実によれば,引用商標Bは,「メバロチン」商品の外箱ケース,PTPシート,添付書類等において,引用商標Aと一体となる商標であることが一見して看取できるような態様で使用されていると認めることができる。さらに,引用商標Bは,被告の作成した販売促進用パンフレットにおいて引用商標Aと一体となる商標であることが一見して看取できる態様で使用され,「日本医師会雑誌」「ファルマシア」「PROGRESS MEDICINE」などの雑誌の広告宣伝欄においても,「メバロチン」発売後一定期間ではあるものの,同様の態様で使用されていたと認められる。このような引用商標Aと引用商標Bの関係や,引用商標Bの使用態様に照らすと,同商標は,引用商標Aと同様に,本件需要者,取引者の間で著名であったと認めるのが相当である。
次に,引用商標C及びDは,いずれも幾何的図形の真中に引用商標Bと同一の欧文字が横書きされたものであり,その称呼は引用商標A及びBと同一であるから,引用商標C及びDに接した需要者,取引者は,著名と認められる引用商標A及びBと一体のものとして容易に認識,記憶できるというべきである。そして,引用商標Cは,前記認定のとおり,引用商標A及びBほど頻繁ではないにしても,被告作成の販売促進用パンフレットや「日本医師会雑誌」「ファルマシア」「PROGRESS MEDICINE」などの雑誌中の宣伝広告欄において,引用商標A,Bと一体をなす商標であることが一見して看取できるような態様で使用されている。したがって,引用商標Cは,引用商標A及びBと同様に,本件需要者,取引者の間で著名であったと認めることができ,引用商標Dについても,引用商標Cとは図形に色彩が施されているかどうかの差異しかないのであるから,引用商標AないしCと一体のものとして著名であると認めることができる。
これに対して,原告は,需要者,取引者が最も重きを置いて出所を識別するのは和文表記であって,欧文表記や図形標章ではないと主張する。しかしながら,一般に,医師や薬剤師が業務上作成する診療記録,処方箋,薬剤情報には和文表記が用いられることが多く,本件需要者,取引者が馴染みやすいのは和文表記であるとしても,前記判示のとおりの引用商標Aとの一体性,呼称の共通性,実際の使用態様等に照らせば,医師や薬剤師が業務上作成する書類が通常和文表記であることや,需要者,取引者にとって和文表記が馴染みやすいことは,引用商標BないしDが著名であると認める妨げとはならないというべきである。
また,原告は,「メバロチン」の使用,流通,宣伝広告において,引用商標BないしDが使用されたことはあっても,看者の記憶に残るような態様ではないと主張する。しかしながら,「メバロチン」商品の外箱ケース,PTPシート,添付書類,販売促進用パンフレット,雑誌における広告欄等における引用商標Bの記載は,引用商標Aの記載と比べれば小さいが,その文字の大きさや位置は看者の注意を惹くに十分であり,原告が主張するような一見して気が付かない態様であるとは到底認めることができない。また,引用商標Cについても,確かに使用頻度は引用商標A及びBに比較して少ないが,その記載の大きさや位置は,看者の注意を惹くに十分であり,一見して気が付かない態様であるとは認め難い。
(ウ) 以上によれば,引用商標は,いずれも,本件需要者,取引者の間で著名であったと認めることができる。
(3) 引用商標の独創性の程度 引用商標の独創性の程度に関し,原告は,「メバロチン」の顕著な効果効能として,その生成が阻害される「メバロン酸」の語頭部分に,薬剤の名称としてありふれた接尾語「チン」を組み合わせたにすぎず,また引用商標の出願前には語頭に「メバ」のついた医薬品が製造販売されているのであるから,引用商標の独創性は高いとはいえないと主張する。
前記認定のとおり,「メバロチン」は,メバロン酸合成過程を助ける酵素であるHMG-CoA還元酵素の働きを止めることによってコレステロールの合成を抑制する薬剤であり,「メバロチン」との名称は,その薬理作用に関係する「メバロン酸」の「メバロ」と,薬剤の一般名である「プラバスタチンナトリウム」の「チン」を組み合わせた造語であると認められる。これによれば,「メバロチン」という名称は,薬剤の一般名や薬理作用と離れた造語であるということはできないが,一般名を「プラバスタチンナトリウム」とする薬剤の商品名の語頭に,薬理作用に関する物質である「メバロン酸」の一部である「メバロ」を採用することについては,独創性があるというべきである。加えて,前記認定のとおり,「メバ」を語頭部に冠する薬剤は,「メバロチン」以外には「メバポン」などごくわずかしか存在せず,平成12年に後発医薬品が発売されるまで10年以上にわたり出版物等に掲載されていないことにも照らすと,引用商標の独創性は相当高いとした審決の認定判断は是認することができる。
(4) 本件商標と引用商標の類似性の程度 次に,本件商標と引用商標の類似性の程度について検討する。なお,両商標は,いずれも特定の意味を有しない造語であるから,観念の対比は意味をなさないので,以下,称呼及び外観の対比を行う。
称呼の類否 前記のとおり,本件商標は,指定商品を第5類「薬剤」とし,「メバラチオン」のカタカナ文字と「MEVALATION」の欧文字を上下二段に横書きしてなるものであり,そこからいずれも「メバラチオン」との呼称が生ずる。他方,引用商標は,その指定商品に「薬剤」を含み,「メバロチン」のカタカナ文字及び「MEVALOTIN」の欧文字を使用するものであり,そこからいずれも「メバロチン」との呼称が生ずる。
「メバラチオン」の称呼と「メバロチン」の称呼を対比検討すると,両称呼は,語頭における「メバ」の2音,第4音における「チ」の音,末尾音における「ン」の音を共通にする。他方,本件商標と引用商標の称呼は,前者が6音構成であるのに対し,後者は5音構成であること,本件商標の第3音が「ラ」の音であるのに対し,引用商標は「ロ」の音であること,本件商標の第5音が「オ」の音を有するのに対し,引用商標は「オ」の音を有しない点において相違する。
上記のとおり,両商標の称呼を対比すると,本件商標の称呼を構成する6音のうち4音,引用商標の称呼を構成する5音のうち4音において共通し,とりわけ,語頭にあって連続する「メバ」の2音は,一般的に語頭の音の方が聴者に比較的強い印象,記憶を残しやすいことや,語頭に「メバ」の音が付く医薬品は平成12年より前にはほとんど存在しなかったことなどに照らし,聴者の印象,記憶に残る音であるというべきである。
他方,両商標の称呼上の相違点についてみると,本件商標の第3音の「ラ」の音と引用商標の第3音の「ロ」の音は,子音が「r」である点で共通し,かつ,その母音「a」と「o」も発音方法において近似する音であるから,両称呼は,比較的印象に残りやすい前半の「メバラチ」及び「メバロチ」部分において,近似した印象を与えるということができる。また,「オ」の音の有無についても,同音が比較的聴取し難い末尾にあることや,その前後の音である「チ」「ン」は両商標に共通していることなどに照らすと,全体の呼称に与える影響は小さいというべきである。
原告は,本件商標は「メ」「バ」「ラ」「チ」「オン」と平坦な調子で5音節のごとく発音されるのに対し,引用商標は「メ」「バロ」「チン」と音調の起伏をもって3音節のごとく発音されると主張する。しかしながら,本件商標の「バラ」については「バ」「ラ」が明確に発音されるのに対し,引用商標の「バロ」については「バ」に比べて「ロ」が弱く発音されるとする合理的な理由はなく,ともに造語である本件商標と引用商標はいずれも特徴的なアクセントはなく,通常は平坦な調子で発音されるものと認められる。
以上によれば,本件商標の「メバラチオン」と引用商標の「メバロチン」を一連のものとして呼称した場合,共通する音が聴者の記憶,印象に残りやすいのに対し,相違する音が呼称全体に及ぼす影響は小さいことから,両呼称の全体の語感,語調は相当程度の類似性を有するということができる。
外観の類否 次に,両商標の外観の類否について検討する。
まず,本件商標の欧文字部分「MEVALATION」と引用商標の欧文字部分「MEVALOTIN」を対比すると,本件商標(10文字構成)と引用商標(9文字構成)は,「M」「E」「V」「A」「L」「T」「I」「O」「N」の9文字において共通し,引用商標において「A」が1文字多いのみである。他方,その配列を対比すると,両商標は「MEVAL」「TI」「N」において共通し,本件商標は6文字目が「A」であるのに対し,引用商標は「O」であること,本件商標は「I」と「N」の間に「O」があることにおいて相違する。以上の構成に照らすと,両商標を離隔的に観察した場合,本件商標の欧文字部分は,外観において相似ているとの印象を与えるというべきである。
これに対し,原告は,@外観上目立つアルファベット「O」の位置が全く異なる,A中央部たる6文字目の「A」と「O」の差異は,アルファベットの外観上明確である,B本件商標の「TION」部分は,日本人が慣れ親しんだ英単語に頻繁に使用される綴りであり,外観上の特徴として需要者,取引者に明確に記憶されやすいなどと主張する。しかしながら,全体の中で「O」の位置が特に外観上目立つとは認められず,6文字目の「A」と「O」の差異も文字数や配列における共通点と比較すればわずかな差異であるというべきであり,造語である本件商標において「TION」部分が需要者,取引者の記憶に残るとは認められない。
次に,本件商標のカタカナ文字部分「メバラチオン」と引用商標のカタカナ文字部分「メバロチン」を対比すると,両商標は,語頭の「メバ」,中間部分の「チ」,末尾の「ン」において共通にし,本件商標では「メバ」と「チ」の間の文字が「ラ」であるのに対し引用商標では「ロ」であること,本件商標は「チ」と「ン」の間に「オ」があることにおいて相違する。両商標のカタカナ文字はともに顕著なデザインが施されているというような特徴もないのであるから,少なくとも本件商標と引用商標の類似性を妨げるような差異があるとは認められない。
これに対し,原告は,両商標のカタカナ文字は,@中央の「ロ」の字が特徴的であり,「ロ」を有しない本件商標とは明らかに外観が異なる,A本件商標の中央部には似た文字である「ラ」「チ」が並んでいる点で印象が強いなどと主張する。しかしながら,「ロ」の文字が特に全体の中で特徴的であるとは認められず,また「ラ」「チ」が外観において多少似ているとしても,本件商標の中央部に「ラチ」が配置されることにより両商標の外観上の相違が印象付けられるとは到底認め難い。
ウ 以上によれば,両商標の欧文字部分は相似ているということができ,カタカナ部分の外観についても相当程度の共通点が存在し,その差異は両商標の類似性を減ずるものではないということができる。
(5) 商品間の関連性,需要者,取引者の共通性 上記認定のとおり,本件商標に係る商品である「メバラチオン」は,引用商標に係る商品である「メバロチン」の後発医薬品であり,その有効成分,効能・効果を同一にする高脂血症用剤である(甲18,33)。したがって,両薬剤は,その性質,用途及び目的が同一で,極めて強い関連性を有することは明らかであり,これを取り扱う医療機関や薬局も共通し,これらの薬剤を投与される患者層も共通すると認めることができる。
(6) 混同の生ずるおそれ ア 以上のとおりの引用商標の高度な著名性及び独創性,引用商標と本件商標との類似性の程度,両商標に係る商品の性質,用途,目的における関連性の強さ,需要者,取引者の共通性の程度等を考慮すれば,原告が本件商標を高脂血症用薬剤に使用した場合,その需要者,取引者において,これを被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するか,又は被告あるいは被告と上記のような関係のある会社が新たに販売を開始した「メバロチン」のシリーズ商品の一つ又はそれに何らかの改良を施した新商品であると混同するおそれがあるというべきである。 イ これに対し,原告は,商標法4条1項15号にいう混同の生ずるおそれの有無は,取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準とすべきところ,本件商標及び引用商標に係る商品のような医療用医薬品を選定する場合には,高度な専門知識を有する医師が注意して行うのであるから,混同が生じるおそれはないと主張する。
確かに,医療用医薬品の場合には,高度な専門知識を有する医師や薬剤師によって商品が選定される点で,一般用医薬品とは異なるが,新薬が次々と発売される中で,日常的に数多くの患者に接して様々な薬剤を処方・使用している医療の現場においては,医療関係者といえども名称の似た薬剤を誤って処方することがあり,かかる薬剤取り違え事例が存在することは厚生労働省医療安全対策ネットワーク事業のインシデント事例の集計結果(甲59〜70,乙10)からも明らかである。原告は,こうしたインシデント事例は,医療安全ネットワーク事業の目的のために集められたものであって,医療用医薬品の名称類似の一般的な傾向を示すものではないと主張するが,厚生労働省の医薬品・医療用具等対策部会においては,医薬品の名称類似による医療事故の発生を防ぐための方策が審議されており(甲71〜74),同審議に基づき発表された「医療事故に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」(総務省,甲75)や「処方点検や調剤時,病棟への供給時に注意を要する医薬品について」(日本病院薬剤師会等,甲76)においても,名称の類似した医薬品による医療事故の危険性が指摘されている。したがって,医療用医薬品は専門家である医師が注意を払って選定するものであることをもって,医薬品の出所混同のおそれがないとはいえない。
「メバラチオン」と「メバロチン」のように,その有効成分,薬効を同一にする先発の医療用医薬品と後発の医療用医薬品が併存する場合には,医療機関では先発医薬品と後発医薬品を同時に取り扱うことも少なくないと考えられる。医療機関内の薬剤部において,薬剤師が処方薬を備蓄・保管する場合には,外箱ケースは廃棄し,PTP包装の状態でアイウエオ順等に整理され,医薬品収納ケース引出しの中などに収納することになるが(弁論の全趣旨),引用商標の著名性や本件商標と引用商標の類似性の程度等を考慮すれば,薬剤師が「メバラチオン」を被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係を有する会社の業務に係る商品等と混同するおそれはあるというべきである。
さらに,平成14年に株式会社じほうが行った調査によると,調剤薬局の4割以上は20施設以上の医療機関の処方箋を応需し,その7割以上は500品目以上の医薬品を備蓄しているとの結果が出ており(乙19の1〜3),「メバロチン」と「メバラチオン」をともに備蓄して処方している調剤薬局も少なくないと推認される。引用商標の著名性,本件商標と引用商標の類似性等に照らすと,調剤薬局の薬剤師が「メバラチオン」を処方する際に,上記と同様の混同が生ずるおそれはあるというべきである。
原告は,医療用医薬品業界では,同一医薬品でありながら,語頭を共通にする商品は多数存在しており,また,薬剤を指定商品に含み,語頭に「メバ」「メバロ」とつくプラバスタチンナトリウム製剤も現実に流通しているが,混同のおそれは生じていないと主張する。しかしながら,混同のおそれの有無は個々の商標ごとに前記1(冒頭部分)掲記の諸事情を考慮して判断されるべきものであり,具体的な混同事例がないことは,薬剤取り違えを防止するための医療現場の取組みに負うところも大きいのであるから,そのことをもって混同のおそれがないと推認することはできない。
原告は,先発医薬品と後発医薬品の薬価差や,同一製造業者が別の商標を用いて同一医薬品の姉妹品を製造販売した実例はないこと,先発医薬品メーカーが他社と提携して後発医薬品を姉妹品等として展開させる慣行はないことなどを指摘して,混同のおそれはないとも主張する。しかしながら,医師や薬剤師が医薬品の出所を識別する際には商標によって行うのが通常であるから,薬価差があるから混同のおそれがないとはいえない。また,引用商標の著名性や,本件商標と引用商標の類似性の程度,さらには「メバラチオン」と「メバロチン」は識別コードの数字部分が同一であること(乙17)などに照らすと,原告が本件商標を高脂血症用薬剤に使用した場合,需要者,取引者が,これを「メバロチン」の姉妹品又は新たなシリーズ商品の一つであると混同するおそれがあるというべきである。 なお,付言するに,原告は,医療用医薬品の投与を受ける患者は,医師や薬剤師から医薬品の内容について十分な説明を受けることが多いのであるから,高度な注意力が払って本件商標に係る商品の出所を識別すると主張する。しかしながら,患者が医薬品に払う注意力は医師や薬剤師と格段の差があることは当然であり,前記判示の引用商標の著名性の程度,両商標の類似性の程度にも照らすと,患者が本件商標に係る商品を医師から処方されたときにこれを被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品等と混同するおそれは大きいというべきである。
2 したがって,原告が本件商標を薬剤,特に高脂血症用薬剤に使用した場合には,その需要者,取引者において,被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品等と混同するおそれがあるということができる。
本件商標が商標法4条1項15号に該当し,無効であるとの審決の判断には誤りはない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文